【R18小説】1話_洗入操作-変容する常識と操られた心 莉奈編
これから毎週金曜日の連載小説になります。
初回は全体公開や、無料フォロワーにも部分的に公開しますが、2話以降はCi-enでは有料フォロワー限定公開で進めていきます!
過去分も見れるようにしておりますので、特定の月限定でも読んでいただけると嬉しいです!
タグは「#洗入操作」となります。
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今後のえっちぃシーンについては喫茶店プラン以上の方に公開します。
喫茶店プラン以上に入っていただくと、この「#洗入操作」シリーズと、前作にあたる
宇宙人から【平等】を強○されたいじめられっ子の俺は。(約20万文字)
も読むことができます。
小説概要
タイトル
洗入操作-変容する常識と操られた心 莉奈編
こんな方におすすめ!
強気な女が新興宗教団体に潜入してナノマシンで心をいじられて行きます。
洗脳・催○・常識改変が好きな方には気に入っていただけるとではないかと思っています!
だんだんとえっちぃシーンもふえていきますので、楽しんでいただけるとうれしいです。
物語の序章(ここから本編)
「はい、やめなさい」
任務に向かう電車の中で男性の腕を捕まえる。今週4件目の痴○行為だ。
「あっ、ごめんなさい、ち、違うんです!俺からじゃなくて!この女から!!」
私に腕を掴まれた男性は慌てて弁解をする。歳は30代前半で、一見真面目そうなサラリーマンだ。おそらく日頃のストレスのはけ口としての行為だろうが最低な行為には違いない。
「痴○行為を許すことはしません、次の駅で一緒に降りてもらいます」
周りの乗客が好奇の視線を向けてくる。
男の腕をしっかりとつかむ。男は少しだけ振りほどこうと抵抗しているみたいだけど、こんな電車内で注目を浴びて、力づくで振りほどいて逃げようとするほどの度胸も無いようだった。
(ま、力づくでも負けないけど)
「ち、違うんだ!その女が自分から押し付けてきてっ!!」
「そんなわけないでしょ。ほら、次の駅で降りて駅員さんのところに行くわよ」
「いてててて!」
男の物言いにイラっとしてひねり上げたところだった。。
「あなた……何してるのよ」
痴○の被害にあっていた女性ににらみつけられる。
モデルと言われても違和感が無いほど、とてもきれいな女性だった。
「何してるって……私はあなたを助けようと……」
「余計なお世話よ。あなた何様のつもり?」
「……」
女性は男性の腕を強引に引っ張って男性との間に立つ。
「この人の言う通り。私は自分からこの人に言い寄ってたのよ」
周りの乗客もひそひそと「痴話げんかかな」とか「不倫かな?」「いや、でもあの子学生じゃないのか?」「え?じゃあ教師との禁断の……?」などと言っている。そんな周りの様子を知ってか知らずか、女性はさらに続ける。
「全く第三者が勝手に首を突っ込まないで。学生が正義の味方気取りもいいけど、まずはちゃんとお勉強しなさい」
「でも……」
女性は私が助けたことに怒り心頭といった様子で、私の言葉を聞こうともしない。
「あなたも、男性に性的に扱われるようになりなさい?」
女性は私にそう言い放つと止まった電車に合わせて男性を引っ張って車両を降りて行った。
あっけにとられてしまったが、私も合わせて私も電車を降りる。
降りた二人はそのまま違う車両に乗り込んだようで駅のホームに姿は見えなかった。
「はぁ……またか……」
初めは面食らったやり取りだったが、4件目の痴○にして4件目の同じやり取りだった。
流石にこうも連続で同じような対応をされると多少は慣れても来る。
(あんなの何がいいんだか……)
男性に体を触られるなんて想像するだけでぞっとする。
男性に触るのは攻撃する瞬間だけでいい。
ため息をつきながらポケットからスマホを取り出して、アイコンをタップして通話を開始する。
呼び出し音が2回鳴ったところで、電話の相手は眠そうな声で電話に出る。
『ふぁい……おはよう』
「おはようじゃないですよ。もう9時も回ってますって」
『莉奈は朝から元気だなぁ』
「華菜所長はもう少しシャキッとしてください。最近いつもそんなじゃないですか」
電話の主は私が所属する組織の所長、雫石華菜さん。この街の治安維持のために、秘密裏に活動する組織で、私もそのメンバー。
『それで、そろそろ着きそうなの?』
電話の相手は寝起きの声を隠そうともせずに私に聞いてくる。まぁ、これも慣れっこと言えば慣れっこではある。物心ついたころからお世話になっている相手なので、いまさら気遣いも何もないが、それでも任務の時くらいはこちらも気が緩んでしまうのでピシッとしてほしい。
「はい、そちらは大丈夫です。ちゃんと時間通りに到着できます」
駅の改札をでて、目的地に移動しながら通話を続ける。
「それより今日もです」
『何がだ?』
「痴○ですよ、痴○。痴○だけならまだしも助けたのに逆ギレですよ?全くどういうことなんですか?」
『んー、まぁそう言う事もあるんじゃないか?ほら、女性が自分から男性に言い寄ったってこともあるんじゃないのか?』
「そんな事あるわけないじゃないですか!ただでさえイライラしてるのに馬鹿な事言わないでください!華菜所長が男ならぶん殴ってるところです」
『そうか……?いや、うん。まぁ、普通はそうだな。お前の男嫌いもいい加減なおらないもんかねー』
「別に嫌いってわけじゃないけどね。あ、そうだ!この一件が終わったら『痴○撲滅課』とか作ってくれませんか?私第一号で入るんで!」
『まぁまぁ、落ち着いて』
「こんなの落ち着いてられませんよ!」
怒りながら目的地のビルが見えてくる。会話しながらも当たりの様子をうかがうことは忘れない。
少しずつ声のトーンも落としながら、会話を続ける。
「そろそろつきます。バックアップのほうは大丈夫ですか?」
『あぁ、真琴はとっくにビルの反対側にスタンバってる。今データを送る』
「了解です」
私はスマホの通話を繋いだまま、改めてビルの形状を確認する。逃げ道はそこまで多くない。不安な点があるとすれば、あの「いかにも隠れやすそうな木陰」に敵の仲間が潜んでいそうというくらいだ。
チェックをしていると端末が震える。地図に真琴の場所がマーキングされていた。
一応リアルタイムでも更新できる機能もあるが、以前この機能をつかって相手に場所を特定されてしまったことがあったので、現在は都度更新されるこの仕様になっている。
(ま、この感じだと大丈夫でしょ)
ビルの反対側をしっかりと真琴がマーキングし、2人で挟み撃ちする算段だった。
(お、あいつらかな?)
駅のほうから3人組が歩いてくる。閑静な住宅街にそぐわず辺りをきょろきょろしながら歩いてくる。やけに気が経っているようにも見える。まず間違いないだろうと視線を合わせず気配だけで探っていると案の定建物の中に入っていった。
「華菜所長、来ました」
「了解。時間もぴったりだな。じゃ、いつも通り頼む」
『はーい。あ、そうだ華菜所長、あの……私ってそんなに女性らしくないですかね?』
自分の顔を触りながら聞く。
間違いなく変な人ではあったけど、美人に言われると多少なりとも気になりはする。
周りからはそう見えているのか少し不安になる。いや、別に気にしてないけど。
『ん?いや、そんな事ないと思うぞ。スタイルもいいし、もし私が男ならぜひともお付き合いを申し込みたいところだ』
「そうですか……よかったです」
『それに、そのおっきな胸でもっと男に媚びてもいいんじゃないか?私たち女性は男の……』
なんかわけの分からないセクハラじみた会話が続きそうだったので通話を切る。
難易度の低い任務とはいえ、そろそろ作戦も始めないとまずい。
気合を入れるために、いつものように肩口まで伸びた髪を後ろで縛る。これで準備はOK。
「さてと、お仕事しますか」
スマホで今回の相棒に『突入開始』とメッセージを送る。
「こんにちは?」
「え?」
3人組の1人に話しかけると、当然3人は驚いたようにこちらに顔を向けてくる。男は棚から小型のアタッシュケースを取り出そうとしているところだった。
「俺たちですか?」
眼鏡をかけた男性が私を見て話しかけてくる。残りの2人の男性も驚いた顔で私を見ていた。
「うん、そう。こんなところで何をしてるのかなーって」
「いや、特に……、なんでもねーよ」
「そう?そのケースは何?」
私は一歩、3人組に近寄る。すると1人が私の行く手を阻むように前に出る。
「なんでもねーよ。それに制服女子がこんなところに何の用だよ」
「こんなところに制服女子が一人で入ってくるなんて、もしかして俺たちに犯されたくて追いかけてきたとか?」
「うっわ!逆ナンとかってまだあんの?」
低能そうなのは顔と服装だけにしてほしい。
「はぁ……何言ってんの?」
「よく見たらかわいい顔してんじゃん。胸もでけぇし、俺たちと遊ぼうぜ」
手をワキワキさせながら、男性の一人が近寄ってくる。
「まったく……あんたたちみたいなのは毎回毎回知能がサルみたいなやつばかりなのかしら」
「はぁ?」
私はため息をついて、そのまま連中のもとに歩みを進める。
「ほら、どうでもいいからそのかばんごと渡しなさい」
「あ?」
明らかに態度が変わる。3人の男は格闘技をやっているようには見えなかったが、若いころから喧嘩ばかりしていたのか、筋肉が引き締まっているのが見て取れた。
「あ?じゃないわよ。頭だけじゃなくて耳まで悪いの?」
「てめぇ、調子乗ってるとどうなるかわかってんのか?」
「わかるわけないでしょ。いいからそのかばんをよこしなさい。渡さないなら力尽くで奪い取るけど」
間合いを詰める。
真ん中の男が手で合図のようなものを出し、後ろの2人が私を囲むように動く。中央の指示を出した男はスタンガンらしきものを私にちらつかせている。
「てめぇ……何もんだよ!」
「どうでもいいで……しょっ!」
「ぐっ!」
油断していた左後ろの男への間合いを詰め前蹴りを放つ。そのまま悶絶しそうになる男の胸ぐらをつかみ、思い切り掌底を顎に叩き込む。
「ぐはっ!」
「はい、1人目」
「ふざっけんなぁ」
右後ろの男が怒りに任せ、私にスタンガンで殴りかかってくる。私は振り下ろされるスタンガンより先に相手の手首を右手で受け止めると、そのまま相手の右手をつかみ思い切り捻り上げる。
「ぐあああああ!!!」
男は苦痛に悶えながらスタンガンを取りこぼし地面に膝をつく。私はそのスタンガンを拾いあげ、倒した男の首筋に突き付ける。
「はい、2人目」
「ま……待て!」
「待つわけないでしょ」
ばちぃという音が2回鳴り響き、スタンガンから放たれた電流が男を気絶させる。
「てめぇ……なんのつもりだよ!俺たちにこんな事してどうなるか分かってるってのか!?」
「はぁ、どうにもならないわよ。単にあなたたちが警察に捕まっておしまい」
「……ふざけんな!!」
3人目も懲りずに向かってくる。これだけわかりやすく実力の差をみせてもまだ向かってこれるのはある意味すごいが、まだかばんを片手に無様に背を向けて逃げたほうが賢明だと思う。
(ま、私が言うのもなんなんだけどさ)
私は突き出される拳を受け流し、そのまま相手のほほにビンタをする。次の一撃もよけながら、さらにビンタをもう1発。
「なめてんのか!!そんなの効かねぇぞ!!」
「ま、そうでしょうね」
私は男に相対しながら周囲に目を送る。たぶんあの辺り……。
「いい加減にしろや!!」
さらに距離を詰める男の腕をつかみ、そのまま一気に腕をひねる。同時に男の顔に肘をたたき込むと男はそのまま地面に転がる。
「ぐああぁっ!」
「はい、3人目」
一気に3人を制圧し、伸びをして油断した風を装う。すると背中のほうからガタンという音が聞こえた。
その刹那、一気にサイドステップをし、一気に音がしたほうへと駆け寄る。
バァンという音が鳴り響き、辺りに火薬のにおいが充満する前に、私の掌底が男の顎を捉える。男はそのまま意識を失い、その場に崩れ落ちた。
「まったく……。今回の組織はすぐに物騒なもの使うから嫌なのよね」
手際よく男たちの両手を縛り、床に散らばったスタンガンや拳銃、そしてバッグを回収する。
「莉奈先輩!大丈夫ですか!?」
建物の外でこいつらが逃げないように見張っていた真琴が、駆け足で私に駆け寄ってくる。
「うん、この通り平気よ」
縛り上げた男たちを真琴に見せる。
「よかったです……。莉奈先輩にもしものことがあったら……」
「ま、今回は楽勝でしょ。でも、ほら、真琴は建物の外の見張りよね?」
私は男たちの持っていた拳銃を1つ手に取り眺める。
「それ、どうするんですか?」
「こうするの!」
バァンと1発の銃弾を窓に、正確には窓の先に居た人物に向けて放つ。
銃弾は窓ガラスを破り、そのまま正確に男の肩口を射抜く。
「へっ……えっ!?仲間!?」
「そ。気づかなかった?もう少ししたら撃たれてたんじゃない?私たち」
「あ、あの、すみません!」
「いいから。きっとまだ意識あるから縛って連れてきて」
「はいっ!」
真琴は走って男のところへ向かっていく。拳銃くらい私一人なら躱せるし、お互い防弾装備はしているとはいえ、無駄な痛さを味わうべきではない。
「はぁ……」
スマホをいじりながら、バッグの中身を確認する。連絡通り、大量のクレジットカードと、透明なアンプルが大量に詰められていた。
「華菜所長、終わりましたよ」
『ご苦労様。さすがだな、莉奈』
「まぁ、このくらいの規模なら」
『真琴はどうだった?』
真琴が男を引きずってくるのを見ながら私はため息をつく。
「まぁ、まだ経験浅いですし、これくらいじゃないですか?」
『ま、うちのエースである莉奈からしたら、そうかもしれないな』
「うちのエースは鈴蘭(りりか)さんです」
ぴしゃりと言い切る。少しの間お互いの通話に無言が流れた。
『……まぁ、とりあえず回収したスタンガンとかは証拠品として公安課のほうに提出しておいてくれ』
「はい」
私はスマホをしまいながら返事をする。ここにいる男たちは全員確保できたし、あとは私たちの仕事ではない。きっと所長ももう課のほうに連絡をしているのだろう。
「お疲れ様、真琴」
「私は何もしてないです……。それに気づかずに済みませんでした」
「大丈夫よ。私もはじめの頃は鈴蘭さんに叱られてたんだから」
「え?そうなんですか?」
そうフォローすると表情がぱあっと明るくなる。
真琴は私より1つ年下だが、この課では一番後輩だ。まだ入ったばかりでではあるが、こうしててきぱきと仕事もしてくれるし、私とは違って一般の生活というのも知っている。
「それにしても、そのイヤリング?かわいいわね」
「え?あ、はい!最近買ったお気に入りなんです。ありがとうございます!」
「その服も、よく似合ってるじゃない」
「はい!このジャケットお気に入りなんです!」
真琴は嬉しそうにくるくると回る。真琴は任務の時はこうして女の子らしい服装をすることが多い。
一般にまぎれるための組織の方針ではあるけど、私はよくわからず毎回制服で任務に参加する。これはこれで相手の油断を誘えるし不満はないんだけど、こうしていかにも「女子」といった服装の真琴と一緒にいると、やっぱりもう少しおしゃれに気を使ったほうがいい気もしてくる。
「ふふっ、今日の莉奈先輩はパターン3ですね?」
「何よそれ」
「制服のパターンですよー。私今日のパターンが一番好きです」
ニコニコと笑いながら真琴が答える。
「パターン……って、まさかあなた全部覚えてるの?」
「はい!莉奈先輩とももう長いですから!」
「そうね。なんだかんだそろそろ半年になるわね」
「はい!明日で172日と19時間です!」
もともとは華菜所長が用意してくれた私の任務用の制服だが、何種類あると思っているんだ。
組織の頭脳派の人たちはこういったことを当たり前にしてくる。鈴蘭さんもそうだった。
まぁ肉体派の私とは脳の出来も違うんだろう。
「はい、これでよし!こいつらの引き渡しお願いね」
「はい!お疲れさまでした!」
真琴は深くお辞儀をしたのを確認すると私もこの場所を離れようと背中を向ける。
「あ!莉奈先輩!」
「何?」
「あの……」
真琴は何か言いたそうにモジモジとしている。
「どうしたの?」
「あ、あの……その……」
真琴は顔を赤くしながら、私の目を見る。
「今度!ごはん!一緒にいきませんか!!」
「ごはん?」
真琴はスマホの画面を私に突き付けてくる。そこにはオシャレなレストランが表示されていた。
「ここ、ホテルの中のレストランで……その……、あ、私が先輩と出会ってから半年記念ですし!」
思わず吹き出してしまう。決死の覚悟といった様相で何を言われるのかと思ったら、そんなかわいらしいお願いだった。
「莉奈先輩?」
「いいわよ、今度ね」
「え?いいんですか!?」
真琴は目を輝かせながら私を見る。私はそんな真琴の頭を撫でた。
「もちろん。楽しみにしてるわ」
「はい!」
私は真琴に見送られ、その場を後にした。
真琴はいい子だ。明るく元気で……今日の任務も一生懸命に取り組んでいる。そんな後輩を持って嬉しくないわけがない。
でも、あの子がもう半年、1年経って、危険な任務に後輩でなくパートナーとして連れていくのは少し怖い。
無能なわけではないし、私より秀でた部分は当然あるのは理解しているけど、いかんせん今までの私のパートナーが優秀過ぎた。
水無月 鈴蘭(りりか)さん。
私が大好きな先輩。私がこの組織に入ったきっかけの先輩。一から十まで教えてくれて、今では冗談交じりではある者の組織のエースとまで言われるようになるまで私を鍛えてくれた先輩。
『莉奈は戦闘は強いんだけど、やっぱ搦め手とか作戦立案とか弱いんだよなぁ』
『鈴蘭さんの前だと誰でもそうなりますって。今日だってほとんど一人で解決してたじゃないですか』
『そんなことないぞ?莉奈がバックアップに回ってくれたから私は安心して前に行くことができたんだしな』
『えへへ、お世辞でもうれしいです』
『でもなぁ?もうちょっと作戦とか計画とか立てられるようになると私ももっと』
『いーんです!作戦とかそういう難しいのは鈴蘭さんに任せます!その代わり戦闘は私に任せてください!』
『ははっ、頼りにしてるよ』
そう言いながら乱雑に私の髪をぐしぐしと撫でる。私は作戦終わりの鈴蘭さんとの時間が大好きだった。
長髪の赤い髪をなびかせて、先陣を切っていく鈴蘭さんの背中。私の憧れで目標の人。
私の両親が無差別通り魔に襲われて、私ももう少しで殺されるところだった時も、鈴蘭さんは颯爽と現れて私を救った。
『もう大丈夫』
そう言って、私を抱きしめてくれた時の感触は今でも忘れない。
それからというもの、組織に拾われ、鈴蘭さんに鍛えられ、こうして学校生活を送ることもできている。全部、本当に全部鈴蘭さんのおかげだ。
――――そんな鈴蘭さんと1カ月前から連絡がつかなくなった。
(ここにも……。こんな大量に貼って……)
私は目に留まった家の壁に貼ってある一枚のポスターを勢い任せにはがしてそのまま道に捨てる。そこには『あなたも光の楽園教団へ』と書かれていた。
「鈴蘭さん……」
連絡がつかなくなる前の鈴蘭さんの任務が『光の楽園教団』への潜入捜査だったらしい。
『光の楽園教団』は最近急速にこの地域で信者を増やしている新興宗教団体だ。主な活動内容は「光の力で世界中の人を幸せに」というスローガンの元、布教活動と信者獲得に精を出している。
あまりいいうわさも聞かないが、元々こういったものに対していいうわさが立つことはあまりない。
それに最近世間をにぎわせている暴力集団や犯罪組織の裏バイト対応のほうが忙しくて、なかなか対応をしていなかった。
しかしどこかもう少し上の立場の人からの調査依頼が舞い込んだという事、そしてあまり人員を割けないという事で鈴蘭さん単独での任務になったと聞いた。
ただ、この話も真琴から聞いたものだ。
私自身鈴蘭さんと任務にあたることが多く、情報収集や根回しと言ったことは全部鈴蘭さんがやっていたからこういった情報には疎い。
『最近鈴蘭さんと連絡付かないなー。ご飯誘ったんだけど、何か長期間の任務でもあるのかな?』などとのんきな事を思っていた。
実際、長期間の潜入捜査の任務も過去経験したことはあったし、そういった場合連絡がつかなくなることもある。
だから本当の事はわからない。わからないからこそ、鈴蘭さんの口から直接聞きたかった。
「らしくないわねー」
私は近くのコンビニで買ったアイスのふたを取り、歩きながらほおばる。特にケガもしてなかったしこの後学校に行くこともできたけど、今はそんな気分じゃない。
ビルの窓ガラスに映った自分の姿を見る。
鈴蘭さんに近づこうと少しずつ伸ばし始めた髪も肩口まで伸びて少しだけ大人びてきた気もする。少しでも近づきたくて、でも同じ髪色にするのは恐れ多くて少しだけ赤色のメッシュもはっきり見える。
胸も、最近は戦闘の時に邪魔になってくる程度には、華菜所長が言うようにだいぶ大きくなってきた。太ももが太いのは格闘技もやることだしまぁご愛嬌。
でも、まぁ、確かに女性の色気が無いといわれればその通りな気もする。
(鈴蘭さんと何が違うんだろ?)
鈴蘭さんは大人の女性という感じがした。それに色気も、戦闘中でも気品があった。
(ポーズ……とか?)
何となく想像の中の女性らしいポーズをとってみるが、いまいちピンとこない。鈴蘭さんがモデルなら私は幼稚園のお遊戯会レベルだった。
「はー……」
ため息をつきながら、再びアイスのスプーンを口に入れると、ポーズをとっているよりこっちのほうが全然しっくり来てしまう自分が少し悲しい。
(今日はアクセサリーとか買いに行こうかな?)
別に電車の中の女の事を真に受けたわけでは無いが、それでも私が身に着けているアクセサリーと言えばヘアバンドとリストバンド。体育会系の部活にも入っているし、戦闘の時も便利だからから間違っては無いのだけれど、ネックレスの一つでもつけたら少しは女性っぽくなるかもしれない。
「よし!」
私はアイスを一気に食べきると、大きく伸びをする。そしてスマホで流行っているアクセサリーを検索する。
――――ヴーンヴーン
鞄にしまった組織用のスマホが震える。
(なんだろ?)
今日はもう予定はないはずだし、さっきの男たちが何かした?でもあれだけ縛っていたし何か出来るとも思えない。
発信者を確認すると華菜所長からだった。
「はい、もしもし。何かありましたか?」
『莉奈、明日から重要な予定って何かあるか?』
「もう、しっかりしてくださいよ。華菜所長が私たちの予定立ててるんですよね?」
『違う違う、プライベート含めてだよ』
「んー……特にないですけど」
『よし、なら莉奈でいいか』
「なんですか?全然話が見えないんですけど」
『悪い悪い。ちょっと代わるな?』
華菜所長の声の後ろから、かすかに誰か女性の声が聞こえる。もしかして――――。
「あ!もしもし莉奈?」
「え!?り、鈴蘭さん!?」
慌ててスマホを耳に強く押し当てる。電話越しに聞こえる声が間違いなく鈴蘭さんの声だった。
(な、なんで!?潜入捜査してたんじゃないの!?)
頭の中でパニックが起きるが、私はなるべく平静を装いながら声をかける。
「そ、その……お久しぶりです!」
「久しぶり。元気してた?」
「は、はい!」
半年ぶり鈴蘭さんと話したいことはいっぱいあったけど、言葉に詰まってしまう。
でも、まずはずっと気になっていることを聞くことにした。
「あの……鈴蘭さんこそ潜入捜査だったんじゃないんですか?」
『ん?あぁ、やっぱり噂になってるんだ?』
鈴蘭さんは少し間をおいてから話し始める。
『莉奈はどこまで知ってる?』
「えっと……。いや、私も人づてに聞いただけなんですけど、『光の楽園教団』に潜入捜査をしたとかしないとか……」
真琴経由の情報という事もあり、少し歯切れが悪くなる。
『なるほどなるほど。情報の出所は真琴かな?』
「なんでわかるんですか!?」
『あはは、まぁそりゃ莉奈の事なら何でもわかるさ』
電話越しでも鈴蘭さんが苦笑いをしているのが分かる。いつもの調子の鈴蘭さんだった。
(よかった。変なこととか何もなかったんだ)
ほっと胸をなでおろす。でも、鈴蘭さんのほうから連絡が無かったという事は、潜入捜査自体もただの噂だったという事だろうか。
『莉奈?』
「あ!す、すみません!」
『あはは、なに謝ってるんだ?莉奈が『光の楽園教団』の事をしっているなら都合がいい』
「都合……ですか?」
『あぁ、そうだ。莉奈に頼みたいことがあるんだ』
「もしかして……」
『そ。もともと私が行く予定だったんだけど、今華菜所長から新しい任務の依頼をされてさ』
鈴蘭さんの声は少し弾んでいるようだった。
(そっか……もう私、鈴蘭さんのパートナーじゃなんだ)
ついそんな事を考えて黙ってしまう。
『違う違う、勘違いしないでくれ』
「え?」
『そんなに難易度も高くないし、真琴を鍛えるにもちょうどいい任務かと思ってな』
「ちがいます!変な気の使い方しないで下さい」
時々鈴蘭さんは私の心を読んだような事を言う。図星を疲れたようで心臓が高鳴る。
(なんでわかるんだろ)
『その潜入任務が終わったらちょっと難易度の高い任務になりそうだからそっちは一緒に行こう』
「え、は、はい!ぜひ!」
『よかった。莉奈なら安心して背中を任せることが出来るしな』
私は嬉しさと恥ずかしさで顔を赤くしながらついスマホを顔に近づけてしまう。
「……はい」
『よし!決まりだな!詳細は華菜所長からきいてくれ』
鈴蘭さんが嬉しそうに笑う声が聞こえる。
鈴蘭さんが無事だった。正直こういった組織に身を置いていることもあり、いくら鈴蘭さんとはいえ、万が一、億が一ということがないこともないだけにずっと不安だった。
でも何もなかった。それに鈴蘭さんとまた一緒に任務が出来る。それだけでさっきまでの暗かった気持ちが晴れていく。
「はい!あ、あの、今度ご飯に連れて行ってください!」
『あぁ、もちろん。じゃ、私は準備があるからこれで。所長に代わる』
「はい!あの、気を付けて……」
『莉奈もな!』
そうして鈴蘭さんの声が離れていった。
『――――と、言うわけだ。任務が終わったばかりだって言うのに済まなかったな』
「いえ、お気になさらず。それで詳細ですが……」
私は華菜所長から潜入先の『光の楽園教団』についての簡単に説明を受けた。
『ということで、明日の午前10時に星降峠駅前のコーヒーショップで待ち合わせをしているから、そこから先は『光徒』の説明を受けて『光の楽園教団』の実態を調べてもらいたい』
「わかりました」
『大したことない民間の集団だけど、これだけ急速に成長してきた組織だ。もしかしたら初めのうちは警戒して正体を見せないかもしれないから、一週間程度は潜入してもらえると……』
「わかってますって。それで、暴力行為はアリですか?」
『……とりあえず、必要最低限のものは許可するがあまりやりすぎないように』
「了解です」
【ガリバーを解き放て】
2人の声が重なる。私の組織で任務を依頼され、依頼されたことを正式に受理する言葉だ。
「でも潜入任務ですか」
『まぁまぁ、いつまでも武闘派莉奈でいるわけにもいかないだろ。こういった任務にも慣れておかないと』
「それはそうなんですけど……。はぁ……」
私は大きくため息をつく。任務モードから解放されてついつい言葉が乱れてしまう。
「もうそこに鈴蘭さん居ないんですよね?」
『あぁ、すぐに出ていったよ』
「まったく、相変わらずなんだから」
『まぁ、鈴蘭らしいな。ま、お前もいつも戦ってばかりじゃ危ないからな。真琴とのチームワーク強化にもいいだろ』
「はーい」
そういって通話を切った。
(鈴蘭さん……、よかった特に問題とかがあったわけじゃなかったんだ)
「んー……」
私は大きく伸びをする。強く耳に当てすぎたせいか、スマホが熱い。
(でもそれなら連絡くらいくれてもいいのに)
そう思いながら個人のスマホを取り出す。そこには真琴からのメッセージを告げる通知アイコンが表示されていた。
メッセージボックスを開くと真琴からのメッセージばかりで私からの返信はほとんどなし。
(ま、私も同じか)
思わず苦笑してしまう。
真琴からのメッセージを開き、それも真琴の独特な大量のコメント付きの次の食事の場所の提案を吟味して、返信しながらショッピングモールへ向かった。
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