【小説サンプル】死にたがりの魔女と上位魔族・第1話ノーカット
『死にたがりの魔女と上位魔族』の第1話をノーカットで掲載しています。
あらすじ
大陸をさまよっていた魔女が上位魔族に気に入られ、執着される話。
全体を通したプレイ内容
人外(魔族)攻め・監禁・無理矢理・肉体開発・躾け・羞恥プレイ・子宮責め・快楽責め
・本編ではヒロインが攻め以外から性的な肉体開発を受けるシーンがあります。
・快楽責めによる躾けシーンはありますが、魔族側はヒロインに痛いことはしません。
【第一話 死にたがりの魔女と上位魔族】
瞬きをする間もなく、肌に触れる空気が変わった。
踏み締める感触は硬い石の床から、毛足のある絨毯へ。寒空の下、壁の裂け目より容赦なく吹き付けていた風がぴたりと止んだ。
ユキが今立つ場所はシープペコラの教会でない。焼け焦げた死体も、割れたステンドグラスも。あそこにあったものはどこにも見当たらない。
目の前に立つ、褐色の肌をした紅い瞳の魔族を除いて……。
——ここはどこだ。
転移魔術を使われたのはユキにも理解できた。
しかし術に入るための予備動作がなく、発動も速すぎて移動した方角や距離が全く把握できなかった。
ユキの認識では空間と空間を繋ぐには膨大な魔力が必要で、なおかつ転移には微細な魔力操作が求められる。転移魔術は単独で発動できないというのが人間の常識だ。それを魔族は、いとも簡単にやってのけた。
しかも術者自身だけでなく、他者をこうもあっさりと呪文もなしに同行させられるとは。魔族は保有する魔力量だけでなく、魔術の技量も人間を遥かに上回っているらしい。
ユキは魔族を詳しく知らない。
生まれ育った東方大陸に魔族はいなかった。魔族については、強い魔力を有する人型の長命な種族が、はるか北の大陸には存在していると伝え聞いていた程度である。
ユキが実際に魔族をこの目で見たのは、西方大陸に渡ってからだ。
個体の持つ魔力は人間とは比べ物にならないほど膨大で、敵に回していい種族じゃないと、当時物陰から一度見ただけで理解した。聖教会はこんな連中に喧嘩を売ったのだから、愚かとしか言いようがない。
その魔族が今、ユキの前にいる。
己のテリトリーにユキを連れ込み、優雅な微笑みをたたえているのだ。
どんな手を使っても勝てる気がしない。
どうにもならない状況で、なかば諦めを抱きつつユキは左右に視線を走らせた。
自分たちがいるのは重厚な焦茶色を基調にした、落ち着いた造りの広い部屋だ。ソファとローテーブル、書物机に、ちらりと後ろをうかがえば天幕付きのベッドがあった。どれもが深みのある艶を放つ木製で統一されている。
部屋の壁には淡い光を放つ球体が等間隔で浮遊する。人間の社会では見たことがない光源だ。
まさかとは思ったが、嫌な予感しかしない。
ユキは頭ひとつ高い位置にある魔族の顔を見上げ、慎重に口を開いた。
「……ここは?」
魔族——サファルは警戒心を露わにするユキに悠然と答える。
「北の、私の屋敷です」
——北。そのひと言に顔が青くなる。
この魔族は本当に、一瞬で北方大陸まで移動したというのか。
カーテンが束ねられた大窓を横目に見た。窓の外ではよく晴れた月夜に、高くそびえる塔が幾重にも並んでいた。窓の一面だけでは建造物の全体像が把握しきれない。
ここは屋敷というよりも、ユキからすれば城に近い規模がある。「私の屋敷」ということは、目の前の魔族はこの城の主人なのか。
部屋には窓が二つ。扉もある。出口を見つけたところで、部屋から逃げられる気がしない。
「……目的は? なぜわたしをここに」
生殺与奪の権限を握る魔族に問う。
魔族は微かに首を傾げた。銀色のさらりとした男の髪が揺れる。
「なぜでしょう? 特別深くは考えていませんでした」
返ってきたのは非常に厄介な答えだった。
ただの気まぐれか、それとも暇つぶしか。明確な目的がないとなれば、これから受ける扱いに予測ができない。
全てが魔族の気分次第。先の不透明さを、ユキは何より嫌がった。
「そう怯えなくとも。いい子にしていれば、悪いようにはしません」
サファルはユキの腰まである長い髪を手ですくい、口付ける。
「……信用しろと?」
唸るように言い放ち、魔族との距離を取る。
髪を引けば、サファルはあっさりと手を広げて解放した。
「人間の従順な駒が欲しいなら、さっさと始末して他を当たるべきでは? 少なくとも、わたしはあなたの期待に答えられそうにない」
死は覚悟している。そうはっきり告げたユキへとサファルは静かに距離を詰めた。指でユキの顎を持ちあげ、上を向かせる。
「あなたが期待通りか否か。それを判断するのはあなたでなく、私です」
ユキは抵抗しない。しかしサファルを見つめる藍色の瞳には反抗心を隠しきれていなかった。
近づくほどに魔族との力の差を痛感する。勝ち目がないどころの話ではない。サファルからしてみればユキは赤子も同然だろう。
「聡明な子ですね。私も無駄な足掻きは好みません」
「…………」
「名前をお伺いしてもよろしいですか」
「………………好きに呼べばいい」
おやおやと。困ったようにサファルが苦笑する。
「名付けによる支配は、できれば避けたいのですが……」
サファルの手がユキの頭部へとまわり、髪の流れにそってすくように撫でてきた。
ユキは不動を選択し、唇を噛み締めた。
抵抗は無駄だ。この男が側にいる状態では逃げ出せない。ならば受け入れて耐えるしかない。
いずれ飽きれば殺されるだろう。
かつては東方大陸の戦場で生きたユキの身体には無数の傷痕があった。お世辞でも美しいとは言えない身だ。これを見れば魔族もすぐに興醒めする。
自死はしないと心に決めているが、終わり方にこれといったこだわりはない。
実験、玩具、陵○……、好きにすればいい。
諦めた様子のユキにサファルは目を細める。そして紳士的とも言える所作でローブの袖口に隠れるユキの手を取った。
指先に口付け、手の甲をつぅ……と舐められる。
「……っ」
予想外のサファルの行動に小さく肩が跳ねた。
顔を顰めそうになるのを、下唇を噛むことで堪えてユキは平静を装う。
強がりを、サファルはふっと笑った。そして長旅で荒れたユキの手のひらに魔族は大きな手を合わせ、見せつけるようにゆっくりと指を組んだ。
握られた手に熱がこもる。それだけでない。触れ合った箇所にじんと痺れを感じ咄嗟に離れようと手を引くも、支配者は拒絶を許さなかった。
もう片方の手をユキの背中に回し、サファルは華奢な身体を自らの元へ抱き寄せた。
「……どうして」
手のひらの痺れに当惑する。肌に感じるこれは、サファルの魔力だ。
ユキの手の節々にできていたアカギレが消えていく。治療を受けていると理解できても、意図がわからず戸惑った。
「働き者の手は好ましいですが、今後のあなたには不要ですので、治してしまいましょうね」
「なっ……」
だったら元より美しい手をした好みの人間で遊べばいいものを。
この手は綺麗とは言い難いが、実用性には優れていた。長年武器を持ち、要所の皮が固くなった手をわざわざ戻すなど、まるでこれまでの自分の生き方を否定されているかのようではないか。
憤りのぶつけ先に困り言葉を失うユキに構わず、サファルは好き勝手に事を進めた。
ローブの留め具を外される。ぱさりと床に落ちる黒いローブを目で追って、俯いたユキの耳元にサファルは自らの口を寄せた。
「顔を上げてください」
囁きが耳を通して思考を揺さぶる。頭の中に霞がかかり、警戒心が和らいだ。
自分がここで何をしているのか。それすら曖昧になって混乱しかけるも、頭に触れる手の感触にはっとする。
そうだった。頭を、上げないと……。
ゆっくりと見上げたすぐそこに、顔を覗く紅いふたつの瞳がある。瞬きを忘れて宝石のような瞳を凝視する。
頭のどこかで微かな違和感を抱くが、それもこの美しさの前では無に等しい。
身体の力が抜けてよろめくユキを、サファルは難なく抱き止め、軽々と片腕で支えた。
ユキは自身の状態が異常だと自覚していた。しかし眼前にいるサファルが満足そうに微笑んでいるから、これで正しいのだと、すぐさま思考が上書きされる。
「どうやらとても相性が良さそうですね。人間の器でここまでとは。あなたほどの者は、魔族でもそういません」
「……あい、しょう……?」
「はい。互いの魔力の相性です」
頷かれても、いまいちピンとこない。
きょとんと首を傾げたユキはふっと笑うような微かな吐息を聞いた。
「口を開けて」
疑問もなく言葉に従う。
小さく開かれた口に、サファルが口付ける。軽くユキの唇を啄み、咥内で舌を絡め、唾液を送る。
うっとりとされるままになったユキは、喉の奥に溜まった唾液をこくりと嚥下した。
「……ふっ……、んっ」
鼻から息が抜ける。サファルはますます口付けを深めた。
上顎を舌で舐められ、脳が蕩けるようなむず痒さを覚えた。飲み込んだ唾液が喉を通り、胃に落ちる。
身体の内側が熱を発している。この熱は、自分に由来するエネルギーじゃない。
「んっ、んんっ……!」
理性が溶けるのに比例して、本能的な恐怖が駆け巡った。
おかしい。何かがおかしい——。
どくどくと脈打つ心臓の鼓動が加速する。
脳裏に警鐘が響き、ユキは我に返って自身の置かれた状況を思い出す。
「……ぁっ…………、いやっ……」
心地よい流れに逆らい、水底に押し込められ隠れた自我を引っ張り出す。口付けを逃れて顔を背けたのは、もはや意地だった。
「……はぁ……はぁ。……なに、を……」
正気に返ったユキは横目で驚きに目を見開くサファルを見た。男はすぐに表情を戻し、穏やかに笑う。
「これはこれは」
くっくっ……と。喉の奥で笑われてユキの頬がカッと熱くなる。手の甲できつく口を拭った。
精神干渉だ。しかも、魔術と呼べるほど魔力操作が行われなかったにも関わらず、思考を奪われかけた。
確かにサファルとユキの魔力の相性は良いのかも知れない。性質が同じだからこそ、摩擦が起きずにすんなりとより大きな力に流されてしまう。
しかしそれはユキにとって、想定してなかった最悪の事態だった。
体内に入ったサファルの魔力に力が抜けていく。たとえ少量であってもユキの力では到底対抗できない。
魔族の有する魔力の純度は、人間の魔力とは比べ物にならないほど濃厚だった。
内側を他人に支配される。慣れない感覚によろめき、立っていることがままならなくなったユキを、男は支えて当然のようにベッドへと導いた。
「あなたならすぐに慣れて、自由に動けるようになりますよ」
ベッドの縁に腰掛けたユキにサファルが囁く。
荒い呼吸を繰り返し、軽い眩暈に耐えながら、ユキは首を横に振った。
慣れるまでこの魔力に浸るなど、狂気の沙汰でしかない。
身を屈めたサファルが何をしているのか、確認する余裕もない。やがて足の締め付けが緩み、ブーツがするりと抜けた。
朦朧として抵抗できないのをいいことに、見せつけるように服を脱がされる。シャツのボタンを上から順に丁寧に外し、肩にかかった布が落ちた。
「や、め……」
何とか阻止しようとするも全身に力が入らず、男の行動を妨げるには至らない。
シャツの袖が腕から手首へと外れる。胸を押さえる下着の編み込みも解かれた。
脱がせる工程は至極丁寧なのに、サファルは奪った衣服をユキの目の前で燃やし、跡形もなく消してしまう。まるでお前に服など必要ないと言わんばかりの暴挙だ。
絶句していると肩を軽く押され、逆らえずに背中からベッドへと倒れた。
パンツとショーツも同時に脱がして生まれたままの姿になったユキを、サファルは軽く横抱きにしてベッドの中央へと寝かせる。
部屋の壁際にあった光の玉がベッドの近くに集まってきた。明かりの下に裸体を晒し、ユキはうろたえ身を横向けにして羞恥から逃れようとするも、それを肩に乗った大きな手が拒む。
サファルの顔から笑みが消えた。
「いっ、やっ……」
肉体に刻まれた傷跡を見れば遊びもそれまでだ。少し前までそう思っていた自分がいかに楽観的だったかユキは思い知らされる。
羞恥が勝り、堂々と開き直れない。こんなにも自分は弱かったのか。
サファルはユキをじっと見下ろす。
見られている。視線が居た堪れなかった。
興醒めを期待していたが、男にその気配が全く感じられないのもユキが惑う原因となった。
真顔のサファルに全身を余すとこなく観察される。侮蔑や落胆を見せない男が、次にどんな行動に出るか予測できない。
身構えるユキの脇腹にサファルの指が這った。
「随分と深い傷ですが、誰がこれを?」
触れられた部分を思い出す。
そこには……何があった?
そうだ。脇腹は刺し傷が残ってる。
……けど、それを付けたのが誰かなんて——。
「……知らないっ」
サファルが目を細めた。
身体に流された魔力にどくりと心臓が呼応する。肉体の内側を走る痺れに身震いした。
「……そんなの、覚えてない。……たぶん、……わたしが、しくじっただけ……」
本当だ。身体にできた傷など、いちいち記憶していても意味がない。
脇腹にある刺し傷にサファルが顔を近づけた。柔らかい舌で舐められ、じんじんとそこが熱くなる。
「な、にして……?」
魔力を通されているのだとわかっても、目的が知れない。
未知の恐怖に声を震わすユキに、支配者となる男は淡々と告げる。
「まずは全身の傷跡を消し去ります。この先あなたの身体に印をつけるのは、私だけでいい」
ぞっとした。そんなこと、してほしくない!
「いっ、や!」
なけなしの力でもがこうとするユキの手を取り、サファルは手のひらに口付ける。マメやアカギレの影響で指の関節を動かすときにあった、ガサガサとした感触が瞬く間に消える。先ほどされた片方の手と同様に。
ユキの焦りが強くなる。
深窓の令嬢ならいざ知らず、薄い皮の手は脆弱過ぎて不便でしかない。長年かけて生きるために出来上がった利便性を、この男の嗜好だけで簡単に消されるなんて。
抵抗は無駄。わかっているが、諦め切れない。
力の入らない身体でなおも逃げようとするユキに、サファルが覆い被さった。
治しかけだったもう片方の手もサファルが捕らえる。手の甲を舐められて背中がしなった。
次は耳たぶを吸われ、耳の入り口を柔らかい舌が押し入ろうとする。くちゅくちゅと水音がダイレクトに伝わり、肩に力が入った。
身を固くしたユキの胸元へ、サファルは手をかざす。
濃密な魔力がじわりと胸部より体内に浸透してきた。
「————っ!」
体内、という表現では生ぬるい。
身体の中のさらに内側。魂の器とも呼ばれる魔力の貯蔵部と、その魔力を全身に送る魔力回路を侵食されかけ、全身が総毛立つ。
既にぼろぼろな状態のユキの魔力回路が、外から加えられた魔力によって焼き切れる。——寸前で、サファルが魔力の流入を止めた。
「……やはり人間は脆い」
「かっ……ぁ、はっ、はぁっ……」
肉体の最奥を引きちぎられる痛みが引いていく。
あと少し遅ければ、サファルの魔力によって潰されていた。
「無理をさせましたね。今後は、契約なしにここに触れるのは止めておきます」
傷付いた魔力回路では、魔族の有する強力な魔力は受け入れられない。それほどまでに、人間と魔族では種族としての魔力の質が違いすぎるのだ。
今後なんてあってたまるか。なんならこのまま殺してしまえばよかったものを。
苦痛に喘ぎながらも恨みがましく睨むと、申し訳なさそうに苦笑された。そんな顔は望んでいない。
呼吸を邪魔しない程度に唇に軽いキスが落ちてきて、頬に手が添えられる。
「来たる日のために、じっくり馴染ませていきましょう」
それはユキにとって絶望的な宣告だった。
右の耳たぶがおかしな形なのは、過去にピアスを耳ごと引きちぎられたから。左手首の裂傷は、顔面に放たれた攻撃をいなしきれず、咄嗟に庇ったから。
たぶんそうだった。
傷を負わせたのは当時の葬るべき敵で、顔や名前まで把握していない。
「……っ、ぅ……」
深く刻まれた傷跡にサファルの魔力が通されるたび緊張が走る。
依然として身体の自由は効かないが、時間の経過とともに意識は鮮明な状態を維持できるようになってきた。単にサファルが精神の支配を望んでいないゆえだと、ユキもとっくに気付いている。だからといって、どうにもならなかった。
「魔力の浸透がとてもスムーズな、濁りのない良い身体です」
「んぅっ……っ」
耳元で囁かれ、びくりと全身が跳ねた。
過度な反応は相手を煽るだけだ。ユキは唇を噛んで異常をやり過ごした。
痺れて動けない肉体が緩やかに熱を持ち始める。部屋の空気は冷たく、汗ばんだユキは寒さに身をよじった。
ユキの華奢な身体をサファルがうつ伏せに返す。背中を目にして、男の動きが止まった。
自分で見る機会がないその部位に、かつての仲間が浴場で痛ましそうに顔を歪めていたのを記憶している。いろいろと、残ってしまっているのだろう。
ユキの想像通り、肩口には獣の噛み跡。背中には無数のミミズ腫れが痛々しく刻まれていた。
身体中の傷跡に、サファルは躊躇いなく舌を這わせる。
「んっ、……っんぅ」
舐められた部分がぞくぞくと痺れた。
「これはどちらで?」
度々の質問に、ユキは常に沈黙を選んだ。
ユキにとって過去をほじくられることは、未来を奪われるよりも苦痛だった。苦々しいかつての出来事など誰にも言いたくないし、安易に思い出したくもない。
そのまま動かずにいると、サファルの吐いた息が背中に掛かる。とろみのある液体を背中に流された感覚がして、思わずシーツを握りしめた。
実際に流れたのは、サファルの魔力だ。
「これまで大変な苦労をされたようですが、それにしては……」
背中に手を軽く置かれ、まるで検分するかのように男は呟く。
「最近の人間は魔力を得るために薬を使う者が多い。薬は一時的に使用者の魔力を増やしますが、使用する魔術は綻びが多くなり崩れやすい。外から取り入れる魔力は、その身に合わなければ己の魔力を濁らせてしまいます」
知っている。だから東方大陸では、誰もが魔力の譲渡に慎重だ。
一生を添い遂げる夫婦か、それと同等に仲を深めた者にしか、魔力を渡すことはしない。
「あなたのように、ここまで澄み切った肉体は珍しい。これなら私の魔力もすぐに馴染むでしょう」
「——っ、よ、けいなっ…………んっ……」
余計な真似を。そんなことは必要ない。
「人間の脆さは承知しています。心配なさらずとも、無理はさせません」
まったくもっていらない気遣いだ。優しさがありがた迷惑の領域に振り切れている。
そんなことをするぐらいなら、その桁違いな魔力でさっさと潰してくれた方が百倍マシだ。全力で訴えたいのに、力の入らない身体は寝返りを打つこともままならない。
焦るユキのうなじに軽い口付けがもたらされた。
身を起こしたサファルは動かぬ身体に苦労する獲物の頭を慈悲深く撫でた。
「焦らずとも、そのうち自由に動けるようになりますよ」
くるりとユキの身が返される。眼前に現れた余裕のある男に、出かかった拒絶の言葉を飲み込んだ。
代わりに大きく目を見開き、サファルの顔を凝視する。ユキが首を横に振れば、困り顔で苦笑された。
サファルの施しは丁寧すぎた。
ユキの顔にかかった髪を払う手つきも、肌を滑る唇も。全てが優しく、労わりに満ちている。
痛みの伴わない支配が、ユキにとっては辛かった。
与えられた魔力に身体がむずむずして落ち着かない。
サファルに胸の膨らみを緩く揉まれる。乳首に指が掠めた。
返す反応がなくじっとしていたら、乳首を指で摘まれ不快感に眉が寄る。微かな痛みはそこまでで、サファルはすぐに胸をいじるのをやめた。
なるほどと頷く男の余裕が癪で、ユキは悔しそうにして微かに顔を背けた。
サファルが足元へと移動するのを、自由が利かず頭を上げられないユキはベッドの沈みで理解した。
足首を掴まれ、持ち上げる。ユキの視線を釘付けにして、サファルはつうっ……とふくらはぎの裂傷跡に舌を這わせた。
治療なら手でも十分できるだろうに。あえて口を使い、ユキの羞恥を煽ってくる。
「あぅっ……、くっ」
声を抑えようと我慢するが、吐息と共に漏れ出てしまう。
触れられているのは足だというのに、なぜか下腹部が熱を持ち始めた。
脚を割り開き、そこに陣取ったサファルが股の間に指を軽く沈めた。
くちゅり……、ちゅく……。
膣口の表層よりもたらされる粘着質な音にユキが戸惑う。
「やっ……。な、んで……」
身体が持ち始めた熱は他人の魔力の浸透によってもたらされる、いわば拒絶反応だ。間違っても快楽と結びつくはずがない。
結びついて、いいはずがないのだ。
言うことを聞かない身体に不安が増幅する。
愕然とするユキに、蹂躙者はさらなる衝撃を与えた。
股の間に身を屈めたサファルがクリトリスに舌を這わせたのだ。
「んあっ、やめっ……、くっ、んぅ」
信じられない。支配者として悠然と構える男が起こす行動とはとても思えなかった。
「いやっ! そんなっ、んっ……!」
指で皮を剥かれ、ぷっくりと顔を出した芽を柔らかい舌の先端で転がされる。
「んうっ、ん——っ」
ユキが重たい手を持ち上げる。自らの口を塞いだのは意地だった。
多少の無理をしてでも、自分自身のよがる声など聞きたくなかった。
舌で刺激されたクリトリスを口内でちゅう……と吸われ、動けないはずの腰がびくびくと揺れた。
「…………っ」
親指の付け根を強く噛んで、痛みで刺激を紛らわす。
そんなユキを見て、サファルはクリトリスから顔を上げた。
「それはいけませんね」
「…………?」
何がいけないというのか。口から手を離し微かに首を傾げる。
ユキにならうように、サファルも困り顔で微笑みながら首を横に傾けた。
「後ほど、教えて差し上げます」
言って再び、男はクリトリスを口で食む。
「あんっ、……んっ、うぅ……」
主張する肉芽を舌で丁寧に刺激され、あるいは押しつぶすように舐められた。サファル自身の性処理を目的とせず、ただ獲物の肉欲を高めるだけの行為にユキは理解が及ばず、焦りながらもひたすら耐えた。
「あっ、んんっ! ……やあっ」
刺激によって濡れた膣に、サファルの指が難なく侵入を果たす。
ぬかるんだ膣道に違和感はあるも痛みはない。奥で軽く曲がった指が膣壁を押しながら抜けてゆく。
何度も何度も、角度を変えて繰り返されるそれはまるで触診のようだ。
入り口に近い腹側の部分を中から押されて、ユキは顔を顰めた。そこはユキにとって数少ない性交の経験において、唯一快感を拾える場所だった。
微かな反応に目敏く気づいた男が、重点的にそこを攻める。指を二本に増やされ圧迫感が増した。
いつの間にか、サファルは身を起こしていた。
ベッドに腰掛け、ユキの表情を観察しながら、ユキの性的な感度を確かめていく。
「んっ……、……っ」
三本の指が膣道を押し広げて侵入した際、引き攣るような痛みがあった。
不快そうに睨むユキに、サファルは愉悦の笑みを浮かべた。
「処女ではないが、性行為に慣れるほどの経験はない、といったところでしょうか」
「……興醒めしたなら殺せばいい」
処女性を尊ぶならユキは完全に傷モノだし、男を悦ばせるような経験や手練手管は持っていない。
「とんでもない」
否定しながらサファルは膣奥の壁をゆるく引っ掻く。
「とても教えがいがある。先がとても楽しみです」
「なっ、んぅー……っ、ん、やぁっ」
三本の指が膣内でばらばらに動く。それに気を取られていると、サファルが親指でクリトリスをいじり始めた。
「あっ、あっ! んっ……、うぅ……っ!」
ぷっくりとした肉芽を軽く引っ掛かれる。もう片方の手がクリトリスを両サイドから摘み、強○的に立ち上がった頂を指の腹で転がしてきた。
強烈な刺激に膣を締め付けてしまい、ナカを蹂躙する三本の指を嫌でも意識させられた。
「今はこちらが一番敏感なようですが、少しずつ、気持ちいいと感じられる場所を増やしていきましょう」
「い、やっ、……ぁんっ」
ユキにとっては絶望的な言葉を言い放ち、サファルは再びクリトリスへと顔を近づけた。
窄めた口で吸い上げ、突出した肉芽を舌で扱く。
「ん、くぅ……っ、うっ、んんぅっ」
悔しそうに唇を噛み締めるユキに、男は楽しそうに目で笑った。
「んっ、ん、——っ!」
軽い絶頂にユキの腰がびくびくと揺れる。しかしサファルは動きを止めない。
ユキが落ち着くのを待たず、ついには膣を埋める三本の指が抜き差しされた。
「んっ、あっ、あぁっ。……やめ……っ、とめてっ」
終わるはずだった、その先へ。膣がきゅうきゅうとサファルの指を締め付ける。何度絶頂へ上り詰めても終わらない。
クリトリスの刺激と膣の快感を連動させようとする、その責めはどこまでも執拗だった。
「——くっ……、ん……っ、んっ」
訴えは聞き入れられない。ユキは否定を口にするのを止めて、手の甲をきつく噛むことで快楽に耐えた。
頼みの綱は自身がもたらす痛みだけ。快楽に流されたら最後、どうなってしまうかわからない。
「んぅっ! ……はっ、あっ……ぁ」
ナカを弄っていた指が抜ける。同時に軽い吸い上げを最後にクリトリスも解放された。
「あっ……、はっ、はぁ、……んっ」
サファルが余韻に打ち震えるユキの手を取る。ユキ自身が付けた噛み跡を支配者は指でさすった。
ユキの手をじんわりとした熱が包み、痛みが引いていく。
笑みを消した男の視線に身震いし、ユキは無意識に身を起こそうとした。
肉体の自由が戻りつつあると気づいたのはその時だ。
サファルの魔力は依然として体内に留まるものの、身体が慣れ始めている。
それが良いことなのか判断がつかないながらも、動かせるようになった手はサファルから逃れた。少しでも距離を空けようと、ユキはベッドをずり上がろうとする。
そんなユキに構わず、サファルは自身のボトムスを寛げた。
覆いかぶさるサファルの、顔から腰へと視線を落としたユキはみるみる顔色を青くした。
寛げたボトムスから取り出された、そそり立つペニス。人間のものよりも長く、明らかに太いそれを目の当たりにし、さっと熱が引いていく。
「…………どうして」
硬さを持ったペニスに、困惑を隠しきれない。男がこんな貧相な肉体に興奮しているなど、到底認められなかった。
ペニスに釘付けとなったユキの頬に、サファルが優しく手をかざす。ユキの視線がゆっくりと男の顔に戻された。
「そんな姿を見せられたら、こうなりますよ。悶えるあなたはとてもいやらしく、素敵です」
顔を引き攣らせ、必死に首を横に振る。
「……むり……、そんな……」
そんなもの、入るはずがない。
「無理なことはありません。確かにあなたのここはとても狭いですが、じっくり慣らして、ちゃんと受け入れられるように変えていきますので、安心なさい」
不穏な言葉に拒絶を示す余裕もない。
怯えるユキにサファルが口付けた。啄むように浅い口付けが、徐々に深いものに変わっていく。
「ふっ、ぁ……」
途中にこぼれた吐息すらサファルに飲み込まれた。魔力が口腔を通して体内を駆け巡る。
再び力が抜けて持ち上げられなくなった頭の下に、柔らかい枕が差し込まれた。
サファルの舌がユキの舌に絡まる。飲み込みきれない唾液が口の端から顎を伝った。
「ふぅんっ……、はぁ……っ」
次第に頭がぼうっとして、恐怖が薄まっていく。
口付けが気持ちいい。他人の体温に心地よさを覚えるのと同時に、ユキは下腹部の甘い疼きを自覚した。
眼前にあるサファルの紅い瞳は、ユキを捕らえて離さない。口付けの合間にサファルが見せる微笑みに、さらなる快楽を期待してしまう。
この男は、望み通りに与えてくれるのか。
散々クリトリスの刺激で絶頂へと追いやられ、今もなお余韻が燻る下腹部が新たな快楽を求め出す。
脚が開いたのは無意識だった。
サファルのペニスがぬかるんだ秘裂をなぞった。熱を帯びた肉が緩やかにクリトリスをさする。
「んっ……、ふぅっ、んぁあっ」
ナカからじわりと蜜が溢れた。
さらなる快楽を期待するように、ゆるゆると腰が動いた。ユキの身体の力が抜けるのを見計らい、ペニスの先端が膣口に押し入る。
「……ひっ、……っ! ぁ……いっ、やあっ!」
めりめりと膣道をこじ開けられる。快楽だけでは済まされない衝撃に、ユキは我に返った。
なけなしの力を振り絞り逃げようとするユキを落ち着けようと、サファルは額にそっと口付けを落とし、髪を撫でた。
どのみちユキの身体は言うことを聞かない。ベッドと支配者に挟まれた状態で、どこに逃げるというのか。
サファルがじわじわと侵入する膣は、大きく広がり引き攣るような感覚はあるも、想定した痛みが全くない。ナカが裂けることはなく、熱はゆっくりと奥へと進んでいく。
ユキの額から口へと、サファルは唇を移動させた。口内に舌が差し入れられ、喉の奥に流し込まれた唾液を嚥下する。
じわりとサファルの魔力が体内に広がった。
「……ぅんっ……、んあっ」
溶けていく。
身体の中に、自分でないものが、たくさん。
「……そう。ゆっくり、馴染んでいく感覚を味わいなさい。内側から……変わっていくのが、わかるはずです」
「あんっ……」
また少し、膣道が開かれペニスが奥に進んだ。
口腔からの魔力付与に合わせて、下腹部にも手が当てられた。
サファルは慎重にユキの腹部へ魔力を通し、己を受け入れやすい肉体へと作り替えていく。
おかしいと。ユキが気づいた頃にはもう遅い。
自身の身体であるにも関わらず、支配者の魔力に主導権をいとも簡単に奪い去られる。
「やっ、いや……、……やめてっ、…………っ、変えないで……」
「はい。もう少し、頑張りましょうか」
懇願はあっさりと流された。
痛みが欲しい。ペニスに膣奥を拡げられるたびにそう願わずにはいられなかった。
いっそのことただの肉人形として、こちらを気にせず容赦なく穿ってくれた方が楽なのに。
ただサファルの享楽のための、消耗品として。ユキの肉体が壊れたら終わり。そんな扱いだったら、こんなに焦ることもなかった。
サファルは慎重にユキの身体を開発していく。無理のひとつもさせてくれない。
「……ぅうっ、くぅんっ、んんうっ」
膣奥の行き止まりにペニスが到達した。
腹の奥を内側から押し上げられているのに、痛みがない。中を広げる強烈な圧迫感があるだけだった。
膣壁が勝手に肉棒を締め付けて、熱さと大きさをユキに教えてくる。
じんわりと腹の底から燻ってくる快楽に気付かぬよう、どうにか意識を逸らした。
早く——、早く満足して終わってほしい。
ユキの願いを知ってか知らずか。サファルは口付けを止めて上体を持ち上げた。男の顔が遠ざかる。
「んっ、あっ……」
愛おしげに腹部を撫でられると、嫌でもナカに埋まる肉棒を意識してしまう。
ユキの腹の奥が不自然に痺れた。皮膚の上から腹を押す男の手が、微かな光を発していた。
サファルは浮かべていた笑みを消し、真剣な表情で腹部を見下ろす。
ユキにぞっと悪寒が走った。どう考えても、喜ばしいことが起こるとは思えなかった。
腹部の表層にあった痺れが、腹の内部へと落ちてゆく。正確には、サファルがペニスで埋め尽くす、膣奥の先へ——。
「……な……に?」
熱を帯びた痺れは徐々に治まり、尾を引くような違和感だけが残った。
「痛みや苦しみは?」
「…………ない、けど……」
何かがおかしい。
肉体の内側の異変を上手く言葉にできず、ユキは困惑した。
「ならば問題ありません。続けましょう。初めてでこうもあっさりと浸透できるとは、あなたは本当に、優秀な子ですね」
ユキの腰を両手で掴んだサファルがゆっくりとペニスを引いた。膣口に亀頭が引っかかったところで、再びナカへと侵入してくる。
緩やかに進む肉棒の熱は、膣の最奥に到達して止まった。
「んっ……、んう」
ゆっくりとした抽送が何度も続き慣れてくると、次第に律動は膣奥に集中しだす。
抜き挿しの幅は狭まり、ぐ、ぐぅっ——と。ペニスが子宮口に加える力は徐々に強くなっていった。
「ぐっ、……うぅ、んっ」
最奥の肉壁への執拗な押し上げは、内臓全体が上へとずれる錯覚をもたらした。
ユキの腹の上を、サファルが指でつぅっとなぞる。肉棒の先端があろう位置だ。するとその部分が、突如として熱を持ち始めた。
「え……あっ、……な、に……?」
膣と、そしてナカに埋まるペニスを覆うように、下腹部がじんわりとした温もりに包まれる。
ペニスは突き上げる動きを変え、ぐぅ……と亀頭が子宮口を押した。すると膣奥の壁が壁でなくなり、熱がさらに奥へと進む。
異様な感覚を受けて、目に見えない胎内の状態を、ユキの脳は勝手に想像した。
おかしい。だってその先にあるのは、男を受け入れる器官じゃない。
膣の奥、本来なら固く閉じているはずの入口がこじ開けられる感覚に、恐怖が込み上げた。
恐る恐るサファルを見上げれば、紅い瞳と目が合った。微かに細められた目にユキは男の目的を確信し、焦った。
「いやっ! ……やめてっ。そこはっ」
なけなしの力を振り絞って暴れてもサファルはユキを離さない。
ペニスの突き上げと押し付けを繰り返し、ゆっくりと秘された場所を暴いていく。
「やだぁっ、……あっ、ぐっ、ぅ……」
やがて刺激を受けて緩み始めた子宮口は、サファルのペニスを自ら迎え始めた。
接近に合わせて窄まった中心が口を開き、サファルが離れるその瞬間まで吸い付くようにペニスの先端にまとわりつこうとする。
心を置き去りにして、奥へ奥へと誘う。自らの内側で起こる動きにユキは打ちのめされる。
「あっ、うぅ……。どうして……? ちがうのに……、んぅ——っ!」
引くべき場所で引かず、サファルがぐぅ——とペニスを押し入れる。侵入する亀頭に沿ってゆっくりと子宮口が広がり、征服者を子宮へと招き入れた。
「う……そっ、……そん、なっ……」
「入りましたね」
腹の奥へ当たる他者の熱に愕然とする。
痛みはない。最奥をこじ開けられる強い圧迫感があるだけだ。
「あ、うぅ……んっ」
心なしか膨れ上がった腹をサファルがさすり、ユキの意識をそこへと誘導する。
「短時間でここまで順応するとは、私も驚きです。痛みはないようですが……、苦しいですか?」
「うぅっ……、もっ、ぬい、てっ」
ゆるゆると子宮の肉壁を突き上げられる。
痛みや苦しみ以前に、ユキの理解が追いつかない。
一体この身体はどうなってしまったというのか。
「あぅっ、んぁっ……、それっ、やぁ!」
指でクリトリスをいじられると、否応にも膣を締め付けてしまう。
征服された熱に悶え、逃げようとのたうつがサファルは緩い抽送を止めようとしない。
「拒む余裕があるなら、大丈夫そうですね」
子宮の壁にぐりぐりと熱が押しつけられた。
「うぅ——っ!」
痛覚はないが快感もない。ただ腹の奥がじんじんと痺れた。
サファルの魔力を、胎内に感じているのだ。
「いや……、いやっ! もっ……、やだあっ」
「まだここでは思うような快感は得られませんか。いずれは奥の刺激が欲しくてたまらなくなります」
ありえない。
ユキは子宮を押し広げる感覚よりも、クリトリスにもたらされる刺激に追い詰められていた。
どちらにせよ、感じていることに変わりはない。
「あっ、あっ、……やぁ……、んっ、うぅ……」
こんな自分を、認めたくなかった。
与えられる快感から逃れるため、必死に気を紛らわせる痛みを探した。
両手で口を覆い、声を抑えながら、上に重ねた手で下の手の甲に爪を立てる。
「ふっ、ん……、……んぅっ」
責め苦は終わらない。サファルはどうにか堪えようとするユキを冷然と見下ろし、無駄な抵抗だと言わんばかりに絶頂へと導いてゆく。
クリトリスをキュッと摘まれ、投げ出した足が大きく跳ねた。同時に子宮を強く深く突き上げられる。背中が弓形にしなった。
「あっん……、あぁ、はっ、ああっ、……も、やめてっ!」
「イキなさい」
「——っ、んぅ————っ」
声を上げまいと咄嗟に手の甲に噛み付いた。
びくびくと腰が揺れる。
膣壁が痙攣し、締め付けにサファルも果てた。
熱い精液が子宮を満たす。
「……はぁ、はぁ、……んっ、やぁ……」
ペニスが埋まる子宮に痺れが走る。じんじんと、微弱な電流が流れているようだ。
サファルの魔力に内側が侵食されている。理解できてもなすすべがない。
子宮に溜まる精液により膨らんだ腹をサファルが愛おしそうに撫でた。
子宮口にみっちりと埋まるペニスが栓となり、精液はこぼれず胎内に留まり続ける。
身体の中心で、熱がとぐろを巻いていた。
「あっ、……うぅ……っ」
サファルがユキの手を取る。歯型に血が滲む皮膚を舐められ、治癒の魔力が手を覆った。
今しがた爪でつけた傷も念入りに。治った後もしつこく舌が這う。
「んっ、んぅ……ぁっ」
ねっとりとした舌の感触に、膣壁が連動するようにうねった。絶頂の余韻が収まるより先に、サファルはユキの手を放した。
「あっ、うぅっ——!」
腰を掴まれる。互いの身体の密着が離れ、子宮が内側から下へと引っ張られた。
狭い子宮の入り口より、サファルがごぽりとペニスを外す。そのままずるずると肉壁を刺激しながら膣を通り、ペニスはユキのナカから引き抜かれた。
全身の痺れが頭にまで達し、思考が整わない。荒い呼吸を繰り返しながら、ユキは虚にサファルを見上げていた。
ベッドを降りた男を目で追う。衣服のボタンを外し、纏うものを脱ぎだしたサファルに身が震えた。
恐怖だけでない。じんじんと熱を帯びる腹部に戸惑いながらも、男の素肌から目が離せない。
サファルの体格は、引き締まった無駄のない肉付きをしていた。魔族も人間と骨格は変わらないようだ。
褐色の肌に紅い瞳をした魔族は、裸体を食い入るように見つめるユキに微笑みかけ、再びベッドへと戻った。
まだ終わらない。察したユキは静かに瞳から涙をこぼした。
サファルはそれを優しくぬぐい、ユキの背中とシーツの間に手を差し入れる。
力の入らない身体はベッドに座るのも難しく、ユキはサファルの胸に身を預ける形となった。
「はぁ……、ぁ……、やっ」
サファルはユキを軽々と持ち上げ、ベッドに座る自らの脚の上に乗せる。安定するように抱き寄せると、小さな身体はあからさまに怯えた。
あやすように大きな手が背中をさする。ユキの中に未だに燻るサファルの魔力は、元々の持ち主と肌を密着させることで暴れるのを止めた。痺れが消えて、徐々に安心感が強まっていく。
おずおずと、ユキが頭上にあるサファルの顔をうかがうと、紅い瞳と目が合った。
気まずくなり直ぐに視線を逸らす。
忘れかけていた緊張を思い出し、身体がこわばった。同時に先ほどの行為を思い出し、下腹部に力がこもる。
「……んぅっ」
腹の奥に注がれた精液が、重力に従い膣道を下る。やがて膣口から溢れる感覚にユキは身を震わせた。
「ああ、気になりますか?」
サファルがユキの膣口を指でなぞる。浅い部分を抜き差しされるたびに、ちゅくちゅくと水音が嫌でも耳に入った。
「やめっ、んんっ」
液体が太腿を伝うのが不快で眉を寄せる。まるで粗相をしているみたいで、仕方なく膣口に力を込めようとするがサファルの指がそれを阻む。
「不快なら掻き出しましょうか」
「やっ……」
犯した張本人に世話をされるなど、どんな仕打ちだ。だったら自分でどうにかした方が遥かにマシだと、ユキは拒絶を示して首を振った。
「……そうですか」
困り顔で微笑んだサファルは、ユキの両脇に手を入れて痩身を持ち上げる。
そしてゆっくりと、未だに硬さを保ったペニスの上へとユキを落とした。
「なっ……、うぁ、あっ!」
膣口に当てがわれた肉棒が、自重で体内に沈んでいく。
「ならば栓をしてしまいましょう」
精液と愛液でぬかるんだ膣は難なく征服者を迎え入れ、収縮を繰り返し奥へと導いてゆく。
「あ……、また、……なか、に」
膣壁が押し広がるのをダイレクトに感じてぞくぞくする。
いくら上体を捻って逃れようとしたところで、サファルはユキから手を離そうとしない。
「んんっ、あっ、やだ! ……——っ」
膣奥の壁にペニスの先端が到達する。俯けばユキのナカに収まり切っていないサファルの肉棒が見えてしまい、言葉が消えた。
あれが全て入ったとき、わたしの子宮に……。
歓喜か、期待か。本人の意思に関係なく、腹の奥がきゅんと疼いた。
「ちがう……、そんなの、やめてっ」
両脇から手を離し、サファルはユキの背中へと腕を回す。緩い拘束の中で、ユキは膣に広がる甘い快楽に身悶えた。腰が勝手に動き、ペニスが子宮口に押し付けられる。
ユキ自身の体重も合わさり、図らずしてぐりぐりと窄んだ奥の入り口に刺激を及ぼす。
「そう……、ゆっくりと、広がっていくのがわかりますか?」
「あっ、あぁ……、いや、いやぁ……」
身体が沈むにつれて、目線が下に落ちてゆく。
どうにかサファルの両肩にしがみつくも、焼け石に水だった。先程までペニスを受け入れるために口を開いていた子宮口は、再びの訪問者を拒まずに通す。
その身のどこに力を入れても、そこを閉じることは叶わなかった。
亀頭の最も太い部分が子宮に侵入を果たすと、後は早い。
「まって、いやっ。————あぁっ」
ずちゅりと子宮にペニスが埋まる。先ほどよりも抵抗が少なかったのは、おそらく気のせいではない。
子宮の内側の壁に直接熱を感じ、ユキの呼吸が浅くなった。
びく、びくっ……と。腰が跳ねるたびに貫かれた子宮口が揺さぶられ、振動は子宮にも及んだ。
ユキは男の腹部に手をついて、どうにかペニスを抜き去ろうと力を込めた。
そんなユキを跨らせたまま、サファルは上半身を後ろに倒してベッドへと肘をつく。
「あっ、んっ……、いゃっ」
下からの緩い突き上げに、ユキの背中が丸くなった。それでもどうにかペニスを引き抜こうと膝に力を入れるが、亀頭が楔になって、窄まった子宮口につかえてしまう。
腰を上げようとするたびに内側が刺激され、無意識に膣を締め付けた。
圧迫感と痺れと熱が腹の中で混ざる。それらを徐々に快感だと身体がみなしはじめ、ユキはうろたえた。
「ゃだっ、あっ、あぁーっ、……んっ、やぁ……っ」
奥に嵌った楔は外せない。
湧き上がる多幸感を認めたくない一心で、強く首を横に振った。
ひとり淫蕩なダンスを踊っていたユキの脚は、疲労と快楽によって徐々に力が入らなくなっていった。
自重で子宮深くの肉壁にペニスが強く押しつけられ、感じた圧迫感に全身が総毛立つ。引き抜きたくても、足を立てて身体を持ち上げる余裕がない。
「はっ、あ……。うぅ……」
やがて身を起こすのもままならなくなり、ユキの意識は朦朧としてきた。
ふらふらの身体は手首を掴んで少し引くだけで、簡単にサファルの胸へと倒れた。
「んっ、うぅ……っ」
ペニスが膣や子宮を刺激する位置を変える。呼吸によって腹がへこむたび、子宮を占領する熱を鮮明に思い知らされた。
「……はぁ、はっ、あっあぁ……っ」
ありえない。これに苦痛を感じていないどころか、下腹部を満たす熱さを受け入れ始めた自分に困惑する。
この身体はどうしてしまったのか。
上体を起こしたサファルがユキの顔にかかった髪を優しい手つきで避けた。
「うっ……あぁ」
ベッドの上でユキと向かい合って座った男は、ユキの顎に手を添えて上を向かせた。
目を潤ませるユキにサファルが口付ける。自然とユキの口が開き、自ら支配者を迎え入れた。
下からと上から。容赦なく注がれるサファルの魔力に頭が痺れ、無意識に下腹部に力が入った。
「んっ……、ふっ、うぅ、あ、あっ、あんっ」
口付けの最中も腰が揺れる。動きに合わせてサファルが突き上げるものだからたまらない。
「あぁ……、うんっ、ぁあ——……っ!」
悶える様子を赤い瞳に間近で見られていることに気づき、ふと正気に戻る。
流されずに残った理性が頭の中でがんがんと警鐘を鳴らし、猛烈な羞恥に襲われた。
「やっ……っ、んぅっ、——んっ」
口付けから逃れようと顔を背け、僅かに残った正気を保つために再び自分の手の甲に噛み付く。
「その癖は直しましょうか」
「んぅっ」
耳元で囁かれ、肩がびくりと跳ねた。
「——んあっ! うぅ——っ!」
サファルがユキの腰を持ち上げる。子宮口より亀頭が抜けかけたところで手を放した。
「うんぅ——っ!」
加わった衝撃に手の甲の皮膚を噛み切り、口の中に血の味が広がる。
サファルは手を止めなかった。何度も身体を縦に揺さぶられ、その度に子宮の最奥をペニスが叩きつける。
「うんっ、んっ、やあっ!」
突き上げが止まったかと思えば、腰に回った手によってより互いが密着し、ぐりぐりと子宮の奥を刺激された。そこにもう片方の手がクリトリスを弄り出したからたまらない。
「——っ、ん————っ!」
強○的に絶頂へと導かれたのと同時に、サファルも達した。再び熱い飛沫が子宮を満たす。
熱を帯びた腹が痺れ、魔力が全身を駆け巡る。
一連のサイクルでもたらされる、流れるような身体の書き換えに、回数を重ねるごとに順応していた。
「……いや……、もぅ……」
現実を受け止めきれず俯くユキの手を、サファルが捕らえる。男はユキが自らの歯で傷つけた、血の流れる手の甲を丁寧に舐め上げた。
「その程度の痛みでは、快楽からは逃げられません。無駄な抵抗はお止めなさい」
サファルが顔を上げた時にはもう、傷は完全に消えていた。
「……ぁ、……んぁっ、はぁ……」
血のついた唇にも舌を這わせる。薄く口を開けるユキは、もはや抵抗する気力が残っていなかった。
◇ ◇ ◇
「……うっ、あぁ…………」
ずるり……と。ペニスが膣を抜ける感覚にユキは背中をしならせて小さく鳴いた。
サファルはユキをベッドへ寝かせて頬に唇を寄せる。振り払う気力がないのか、ユキはぼんやりと視線を向けてくるだけだった。
過ぎた快楽に混乱するが、発狂はしない。多少ひどく追い詰めたところで意識を失うこともない。
体中に残っていた傷から察するに、戦場か、それに準ずる命懸けの環境に身を置いた経験があるのだろう。自分を軽視し死にたがるのはいただけないが、脆そうに思えて、ユキの精神はしなやかで簡単には折れない。
窓の外では空が明るくなり始めていた。
「疲れたでしょう。眠りますか……?」
サファルが囁けば、ユキはいやいやと首を振って意識を保とうとする。
素直な肉体に反して精神はなかなかに頑固で反抗的だ。そこがまた面白く、サファルの興味を煽っているのだと、おそらく彼女は自覚していない。
苦笑してサファルはユキを撫でるのをやめた。
「お休みなさい」
手で目元を覆い、軽く誘導するだけでユキの意識はあっさりと落ちた。
とっくに限界は超えていたのだろう。ユキはサファルの支配を嫌がるが、魔族そのものへの嫌悪感は最初から見受けられなかった。
これは聖教会の勢力域に住む人間ではあり得ない価値観だ。
西方大陸の真っ只中で拾った猫は、一体どこから迷い込んだのか。俄然として興味が湧いた。
本人の口から身の上を聞ければいいのだが……、彼女が懐くにはまだまだ時間がかかりそうだ。
ユキを愛でていたサファルだったが、ふいに手を止めた。
「サファル様」
音もなく部屋に現れたグラダロトは主人の前で跪き、首を垂れる。
姿を見せたのはグラダロトひとりだが、部屋の外には複数の気配があった。
「全員、帰還が完了しました」
「ご苦労様です。報告は後ほど聞きましょう」
「はっ」
手早く去ろうとしたグラダロトをサファルがとめる。
「仕事の前に、この子に着るものを用意してあげてください」
サファルの言葉に応じ、グラダロトとは別の気配がすぐさま動いた。
「あと、……そうですね。鳥籠の準備もお願いします」
「承知いたしました」
胸に手を当て、深々と頭を下げたグラダロトは来た時と同様に音もなく消えた。部屋の外にあった気配も散っていく。
サファルはユキへと向き直り、そっと指で唇をなぞる。
まずはどうにかして自傷癖をやめさせなければ。たとえユキ自身であったとしても、この身に傷を付ける行為を許すつもりはない。
どうやって教え込むかと思案したサファルは、ほんのりと色づくユキの頬を見て口の端を上げた。
遠征に赴いていた分の、仕事が溜まっている。
ちょうどいいからこの娘も一緒に連れて行くとしよう。
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