市街地 2024/04/04 08:19

【小説サンプル】ドッペル・シティの誘惑

※DL siteで販売中の作品のサンプルです。
※本編を省略して掲載しています。

あらすじ

仮想空間「ドッペル・シティ」での暮らしがもう一つの日常として世界的に普及した近未来。
ドッペル・シティ内で犯罪組織に攫われたヒロインはひとりでに動く筆に肉体を責められ、快楽漬けにされかける。
どうにか現実世界へと帰れたものの、仮想空間で強烈な快感を味わった記憶は現実世界にも影響を及ぼして——。

犯罪組織によって淫らな肉体に変えられたヒロインが、口は悪いが面倒見の良いかつての上司に助けられる話。

全体を通したプレイ内容

拘束・筆責め・媚薬・発情・焦らし・連続絶頂・和姦・正常位・潮吹き・絶倫 etc.

※ヒロイン、ヒーローに名前のないネームレス小説です。
※文体はヒロイン視点の一人称です。




『ドッペル・シティの誘惑』


リアルを超越した世界で、もうひとつの日常を楽しめる仮想空間——ドッペル・シティの世界的な流行により、社会は大きな転換期を迎えた。

そこからさらに十年。今や現実とドッペル・シティという、二つの世界を行き来する生活が人々の常識となった。

人類の栄華には必ず影が付きまとう。最近では新たな社会問題として、仮想空間から現実へと戻れなくなる精神失踪者の増加が連日ニュースで取り沙汰されていた。

私の勤め先——ドッペル・シティ内にある中央病院の特殊病棟には、そういった問題と密接に関わる患者が多い。
ここはドッペル・シティで行方不明になり、捜査によって発見された人たちを一時的に保護する役目を担う場所だった。

仮想空間での行方不明者たちのほとんどは、何かしらの犯罪に巻き込まれている。発見された人々の大半は、犯罪組織によって仮想空間に依存するように洗脳を施され、現実世界に戻ることを極度に嫌がる傾向があった。

そんな彼ら、彼女らを無理矢理リアルに戻そうとすると、脳と精神に大きな傷を残すことになる。
そこでまずは保護した人々はドッペル・シティ内の病院に入院させて、現実世界に戻るためのあらゆる方面でのケアに当たるのだ。

この病院ででの私の肩書きは看護スタッフ。
主な仕事は、現実世界に帰りたくない患者たちの、恨み辛みがたんまりと溜まった愚痴を聞くことである。


「リアルに戻ったって、僕は邪魔者でしかないんだから……別にこっちで楽しみながら人生終えても誰も困らないよ」

「なぁ、ここから出してくれよ。やっとわかったんだ……俺の居場所は、あそこにあったんだって。……早く戻らないと……俺の居場所が消されちまう……」

「ねぇ、本当に私をわかってくれる人に、ようやく出会えたのよ? どうしてあなたたちは、彼と私を引き離すの?」


患者たちの言葉は、絶対に否定してはいけない。
かといって過度な理解を示してもいけない。

にこにこと微笑みながら、ひたすらに彼らの不安や不満に耳を傾け、適切なタイミングで相槌を打つ。

患者の精神を落ち着かせる役目は、現段階において、最先端のAIを搭載したNPCよりも人間のほうが優れている……という建前で私はここに配属されている。

傾聴の技術を取得しており、なおかつ患者の負の感情に長時間さらされ続けても揺るがない、強い精神力を持つ——私に適任の職場だと、運営会社の上層部に言われた言葉が今でも時々脳裏に蘇る。三年前の、苦々しい記憶だ。

毎日毎日、NPCのスタッフに混ざって患者たちの心に耳を傾ける。この仕事に就いている生きた人間は、私だけ。

確かにこの職業は、人の心に寄り添うやりがいのある仕事かもしれない。
しかし私の場合、扱いはNPCと同じで昇進もなければ勤続年数による昇給も望めない。

ここは何世代か前に現実世界の企業で問題になった「追い出し部屋」と似たようなところだ。
ドッペル・シティの上層部は、私が自分から職を辞すことを望んでいた。
仮想空間への精神依存患者を収容するこの病院は、私にとっての左遷先だった。



「ねえ、……ちょっと外の空気を吸いに行きたいんだけど?」

「すみません。建物の外に出ることは規則によって禁じられているんです」

ここにいる患者たちは、現実世界に戻ってもしばらくは入院を余儀なくされる。長らく仮想空間にいたことにより、体の筋力が衰えてしまっているからだ。

重度のバーチャル依存者ともなれば歩行はおろか、食べ物の咀嚼すらもが困難になっているケースも珍しくない。

これから待ち受ける現実世界での入院生活に慣れさせる目的もあって、仮想空間の病院もあえて閉塞的な造りになっていた。

「外が見たいなら、窓を開けてみてはいかがですか。共用部分の大窓から吹く風は気持ちいいですよ」

「……窓じゃ駄目だよ。風は通っても、人の出入りはできないようになってるじゃん」

当然だ。物体が通り抜けられる仕様の窓だと、患者の脱走が日常化してしまう。
この少年もまた、病院を抜け出したくて私に声をかけたのだろう。

「じゃあさ、少しでいいから窓から身を乗り出したり、外に手を伸ばしたりできない? ずっと閉じ込められてばっかりで、気が滅入ってんだよ」

「ここは病院施設の三○階ですよ。施設のあるエリア一帯は重力の感覚が現実世界と同じ設定で固定されています。落下の危険があるため、窓から物質を通すことはできません」

暗に脱走は不可能だと述べると、簡素な入院着姿の少年は不満そうに唇を尖らせた。

「仮想空間での死は、現実世界での肉体の死に直結します。危険な行為は許可できません」

「いいよ別に……死んだって。……どうせリアルに戻ったって、俺なんか生きる価値もないし」

「…………」

「そこの窓から落ちて死ぬことよりも、俺はリアルに帰ることの方が怖い。どうせ親も兄弟も……みんな俺のことを出来損ないの粗大ゴミだって、怒ってくるだろうから……」

「……過去に、そのような体験を……?」

「なくてもわかるよ。家族はみんな、俺以外は優秀で、順調に人生を進めてる。立ち止まったらり、つまづいたりしてるのは、俺だけだもん」

今にも泣き出しそうな顔で心境を吐露した少年が、自嘲気味に笑った。

「……あーあ。俺も三年前のあのテロで死にたかったな。巻き込まれて、一瞬で消えることができた人たちが羨ましいよ」

腹の底から込み上げた衝動を、どうにか堪えた。強く拳を握りしめて、手のひらに爪を食い込ませて理性を総動員する。

彼は人生に投げやりになっているだけ。これは本心じゃない。
そう言い聞かせて、とにかく冷静であるよう努めた。

患者に否定の言葉は御法度だ。
ここで問題を起こしてしまったら、私はもう、ドッペル・シティに関係した仕事に就けなくなってしまう。


——今のあなたは脳が極度に疲労しています。だから少し休みましょう。ゆっくり休んだ後で、もう一度私とお話をしませんか?


少年にかけるセリフを瞬時に考え、彼と目線を合わせるために身を屈めた。——しかし私の言葉が彼へと届くことはなく。


——————っ‼︎


声は、施設内に響いたサイレンによってかき消された。





けたたましい警告音が鼓膜を揺らす。まるで、三年前のあの日のように——。

何もない場所からそこかしこに警告灯が出現し、赤色のランプがくるくると回り出す。
サイレンの音と連動するように、肌にチクチクとした異常を知らせる触覚的刺激が伝わってきた。

非常事態だ。
スタッフへの連絡を飛ばして警戒レベルが引き上げられるなんて、普通ならありえない。
ドッペル・シティを構成するシステムの中枢に、何者かが介入した可能性が非常に高かった。

とにかく、病院の収容患者を逃さないと。

「……っ、今すぐ、避難を——っ!?」

近くに立つ少年を避難用通路へ誘導しようとしたその時——、病院の廊下が砂のような形状になって、さらさらと崩れていった。
私たちの立っている足元の床も、粒子となって消えてなくなる。

「うわっ、わあああぁ!」

宙に投げ出され、突然襲いかかった浮遊感に悲鳴をあげた少年を、必死で掴み抱き寄せた。

十秒もしないうちに落下は終わる。
真っ黒になった空間に、再び光の粒子が集結し、シーンと呼ばれる周囲の環境を形成していく。
出現したのは私の勤める病院ではなく、既視感のある列車の車内だった。

左右に配置された二人掛けの座席が、列を成してずらりと並ぶ。座席に挟まれた中央の細い通路に、私と少年はいつの間にか座り込んでいた。

新幹線……? いや、これは……。

「……リニアモーターカー……?」

コォー……と、高めの音と床から伝わってくる振動からして、車体が動いているのが感覚的にわかった。

ただちに運営から支給されている腕時計で座標を確認する。
立体映像として浮かび上がった数字はとてつもない速さで変化して、とても読み取れない。誰かが私たちの居場所の判別を妨害していることは、容易に想像できた。

「緊急事態発生! 至急応答願います! ……だめね」

司令塔へも繋がらない。

「おいっ! どうなってんだ!」

隣の車両のドアが開き、患者たちが私たちの元へ駆けてきた。

「ここは何処なんだ!? これも治療の一環なのかよ」

「あんた以外の看護スタッフは、場面の切り替えと一緒に粉になって消えてしまった。本当に、何がどうなってるんだ」

NPCは転送されなかった。つまり、これをした者の狙いは、生きた人間……仮想空間に依存した、病院の患者たちということか。

「……不測の事態が起きています。現在の状況に、ドッペル・シティの運営は関与していません」

ざわめきが途端に静まる。私の言葉に、一番近くにいる少年が信じられないとばかりに目を丸くした。

「おそらく……、あなたたちを現実世界に戻したくない、何者かの犯行と思われます」

仮想空間への依存者は、犯罪組織にとって利用価値が非常に高い。
駒としても使えるし、近年裏社会で行われている、脳と精神を完全に分離させる研究の被験体としても、彼らは高値で取引されていた。

「リニアを用いた移動の『演出』も、ドッペル・シティ側の保護下から離されることの理解を、強○的に植え付ける為でしょう」

今の時間を用いて、犯罪者たちはドッペル・シティの中枢から患者たちの精神データを切り離しているはずだ。
このリニアモーターカーが停止した時、私を含めた車内の人間は完全に、犯罪者の手中に収まってしまう。

「そんな……いや、嫌だああぁ!!」

少年が頭を抱えて蹲る。

「……もう、あそこは嫌だ……っ。あんなとこに戻されるぐらいなら、……リアルに帰りたいよ……」

あそことは、おそらくかつて少年が捕まっていた、犯罪組織のアジトだろう。
ドッペル・シティの一般利用者を拉致して、仮想空間に依存させるための、非合法施設——。

体をガクガクと震わせて泣き叫ぶ少年の感情が伝播していき、車内の患者たちはみるみる顔を青くした。

嫌だ。助けてくれ。あんな場所に戻るなんて絶対にごめんだ。今度こそ殺される。
ここにいる患者たちは犯罪組織から救出された人ばかりだ。皆が一度は、収容所での生活を経験しているからか。伝わってくる恐怖にはただならぬ気迫があった。

「なぁ、あんたは俺たちを助けるための、ドッペル・シティの運営スタッフなんだろ? だったらどうにかしてくれよ」

確かに、ドッペル・シティのシステムにアクセスできるのは、ここには私しかいない。
だけど……、どうにかと言われても、打てる手立ては限られていた。

「……帰りたい。……家族に、会いたい……」

嗚咽に混ざって漏れ聞こえた少年の本音に、私は覚悟を決めた。

「ひとつだけ、ここから逃げる方法があります」

「本当か!?」

「はい。……ただし、私があなた方の逃走先は——現実世界になります」

一般利用者をドッペル・シティから強○的にログアウトさせて肉体に戻す権限を、私はスタッフとして有している。
しかしこれは、原則として規約違反を犯した者にしか行使してはならないことになっていた。

ドッペル・シティへの依存が重症化した患者を本人の意思なく肉体に戻す行為は、患者の脳に膨大なストレスを与えてしまうからだ。
現実世界での日常生活が困難になるほどの精神異常を引き起こしたり、最悪の場合は死に至る。
そのため依存患者の強○ログアウトは運営規約によって禁じられていた。

「皆さんが『同意』していただけるなら、私はすぐにでも、あなた方を現実世界へと戻せるのですが……」

ここに居るのは皆、仮想空間に依存してリアルに戻りたくないと訴えてきた人たちだ。
同意なんて、簡単に得られるはずが……。

「わかった。同意する。それでいいから、俺をここから逃してっ」

説得に時間がかかると思われたが、杞憂だった。
患者たちは口々に、犯罪者の元に戻るぐらいなら現実世界に帰ったほうがマシだと訴えてきたのだ。

「……承知しました。では、希望者の方にはお一人ずつ帰還処置を施します」

最初は目の前にいる少年から。彼の精神を肉体のアドレスとの紐付けを補強し、スタッフ権限で強○ログアウトの処理を行う。
少年が肉体に転送されたら、後ろに並ぶ人に同じことを——。

そうしているうちに、やがて車内には私ひとりだけが残された。





    ※省略





車内の光景にすっかり慣れきって、現状に飽きを感じ始めたタイミングで——まるで私の油断を待っていたかのように状況が動いた。

ひっきりなしに聞こえていた列車の駆動音が徐々に消え去っていく。
座席に座っている感覚だけを残して、周囲が暗転した。

咄嗟に立ちあがろうとするも、手足が座席に固定されていて動かせなかった。
無音の状態っでも、列車の移動を演出している振動はいつまでも体に響いた。

しばらくして、またリニアモーターカーの内部で聞こえる独特の音が戻ってきた。
身構える私の視界が、一気に明るくなる。
眩しさに閉じた目を徐々に開けていくと、列車の車内が視界に映った。

列車の内装は、先ほどとは明らかに違っていた。
列になって配置されていた座席が消えて、車内にはがらんとした空間が広がる。

縦長の車両に私はひとり、中央に設置された唯一の座席に座らされていた。
手首は左右の肘掛けにバンドのようなもので固定されてしまっている。
足は床ではなく、椅子に付属されたフットレストに着地していて、足首部分は手首と同じく固定されて動かせない。

「なっ…………!?」

ひやりとした体に直接当たる外気を認識した刹那、身に纏っていた衣服が消えた。
制服にはスタッフとしてのセキュリティプロテクトが施されていたのだけど……敵がそれを取り払ったのだ。

見える場所に人がいなくても、どこかで誰かが監視しているのはわかっている。
これは私に屈辱を与えて心を折る目的で用意された舞台だ。

「卑怯者が……っ」

こんな下劣なことをする奴に屈してたまるかと、きつく正面を睨む。
反応はなく、気丈に振る舞う私を嘲笑うように、座席が動き出した。

足の部分が持ち上がり、連動して背もたれが後ろに倒れる。
フットレストが左右に分かれ、固定された足が大きく開かれた。

仰向けの状態で膝を曲げて、体の大事な部分を天井に晒す格好になる。
縦に二つ、並行して走る真っ白な照明が、私の裸体をありありと照らしていた。

「……っ、このっ……!」

怒りに任せて暴れるが、ギチギチに絞められた手足の拘束は緩まない。
それどころか、新たなバンドが出現して膝の上部までが座席のシートに固定されてしまった。

「どうせどこかから見ているんでしょう。姿を現したらどうなの」

私だってかつては犯罪者を取り締まる立場にいた身だ。
この程度の屈辱で、弱みを見せるわけにはいかない。

挑むように天井を見つめるも、依然として相手からの言語を伴う意思表示はなされない。
その代わりとでもいうのか、頭上にパッと、筆が現れた。

習字で使う太筆のような、竹の軸に先細りした白い穂が付いたそれは、一定の座標に留まらずにふらふらとひとりでに宙をさまよう。

規則性のない動きだ。
どこか別の場所からで何者かが操作しているのだろう。

筆が勢いよく顔に近づいてきて、頬に当たる寸前でぴたりと止まった。
そこからゆっくりと向きを変えて、白い毛先が鼻先をかすめる。

微かに震える筆が頬を撫でようとしたので顔を背けて逃げた。
すると筆は私の顔から離れ、左右に小刻みに揺れながら胸の間を通って腹部に移った。

筆のぎこちない動き方に、まるでマウスを用いて細かな文字を書いているみたいな印象を受けた。
どう見てもこれを動かしている者は、操作に慣れていない。

全裸で拘束されて、なおかつ犯罪者の練習台にされていると思うと無性に怒りが沸き起こった。
遊ばれている自分自身が腹立たしくて仕方がない。

「……っ、下手くそが!」

脇腹に触れるか触れないかという位置で右往左往していた筆に、苛立ちに任せて吐き捨てる。
すると筆がぴたりと停止した。
初めて私の声に、この状況を作っている何者かが反応を示したのだ。

しばらくそのままだった筆はやがて天井近くまで上昇して、穂の部分の色を変えた。
真っ白だった毛は毒々しい赤紫一色に変貌し、宙を泳いで再び私の元へ降りてくる。

「な、に……?」

明らかに先ほどまでとは挙動が違う。
ブレがない、滑るような移動の仕方に嫌な予感がして身がすくんだ。

ちょうど臍の上で、筆は穂を下に向けた状態で止まった。そこから狙いを定めてゆっくりと毛先が下腹部に触れた。

「……んっ……」

柔らかい筆が肌を通った後に冷んやりと濡れた感触が尾を引いて残る。
何をされているのかと頭を持ち上げて自分の腹部を見た。筆はさらさらと迷いなく、臍の下辺りに何かの模様を描いていた。

柔らかい毛先が肌を滑る。
くすぐったさに胴を左右に振って逃げようとするが、私と連動して筆も位置を変えて振り払うことができない。
そうこうしているうちに、私の下腹部にはハートに羽が生えたみたいな、複雑な紋様が完成した。

「なっ……、なんなのよ、これはっ」

出来栄えを遠くから眺めるかのように筆が離れた。
乾ききっていない塗料が付着した腹部は、外気で熱を奪われ寒気を覚えた。

まずい。一刻も早く紋様を取り除かなければ、大変なことになる気がして、焦って身を捩った。

わかっているのに……、むしろ私がそれをわかっているからこそ、手足の拘束は外れないのだろう。

なおも必死になって少ない可動域で手足を暴れさせる私の目の前で、信じられないことが起こった。

下腹部に付けられたハート型の紋様がだんだんと薄くなり、体内に沈んでいったのだ。
ついには完全に赤紫の塗料は消えてしまった。

「いや……っ、いや!」

得体の知れないものを私の体——ドッペル・シティに形成された、私のデータに書き加えられた。
この身は実際の肉体でないとはいえ、強い嫌悪感に見舞われる。

ドッペル・シティは仮想空間であり、ここに実体はない。
しかしここに存在する人間たちは脳への電気刺激を通して、五感を現実世界と同様の感覚で疑似体験できている。ドッペル・シティに存在するこの身は、現実の肉体にも少なからず影響を及ぼす。

「もう一つのリアル」をコンセプトに創られたドッペル・シティでは、原則として利用者の五感は現実世界と同じ基準に設定され、運営が設ける特殊なシーン以外では変更することができない。

——だけどそれも、犯罪組織ともなれば、話が変わる。

「……っ? な、に……? ……あつい」

緊張からくるものではない、不自然な体の発熱。
急に運動後に似た息切れを起こし、荒い息を繰り返していると、腹部がカッと熱くなった。

「んぅ——っ、うそっ……やっ、こんなの……」

あれはただの塗料ではない。
体に影響を及ぼす薬液だったのだとようやく気付いたもののもう遅い。

しかも腹部は皮膚の表面ではなく、薬が染み込んでいった内側が熱を帯びていた。
痺れを伴う熱さが下腹部の臓器——子宮から発せられているのだ。

「……くそっ、悪趣味な連中が……、ふざけんじゃないわよ!」

ここまで来れば鈍い私でも奴らの目的はわかる。
犯罪者は私を辱めるだけに留まらず、体の発情を強○的に促し、快楽に依存させようとしているのだ。

子宮が切なげに疼く。
どうにもならないもどかしさに耐えかねて、腰が揺れた。

「くっ……うぅ……っ」

膣が、刺激を求めて勝手に収縮を繰り返す。
そこで気持ちよくなりたい。
何でもいいから挿れて、無茶苦茶にかき回して欲しいと望まずにはいられない。

何でもいいの……そう、あの筆でも……。

「——っ、このっ、……はぁ、……ちがうっ……違う、からっ!」

脳裏を過った願望は、勢いよく頭を振って打ち消した。
快楽に屈するわけにはいかない。

元とはいえ、私だってバーチャルポリスの一員だったのだ。
卑劣な奴らにいいようにされては私を鍛えてくれた「あの人」に顔向けできなくなる。

絶対に、負けちゃいけない。

色欲に耐えて筆を睨み付けた。
膠着状態のまま時間が過ぎていく。
どれだけ経っても体の疼きは治らず、喘ぎ混じりの息遣いが絶えない。

しばらくして痺れを切らしたのは敵のほうだった。
筆がスゥっと降りてきて、毛先で右胸の頂にツンと赤紫の塗料を落とす。

「ひっ、やめなさい!」

またあの熱と痺れが、今度は胸にもたらされると思うとゾッとした。
元凶を払い退けようにも手首が固定されていてはどうにもならない。

焦る私を嘲笑うように、目の前でひとりでに動く筆はくるくると小さな円を描き、乳輪に毒々しい色を塗り込んでいく。




    ※省略




手足を不自由にしながらも腰を振って暴れる私に満足したのか、愛液が絡んだ筆はクリトリスをひと撫でしてから宙に浮いた。

「はっ、あっ、……あっ、あぁ……んぁっ、あ……っ」

強烈な疼きが私の下腹部でとぐろを巻いている。
手が自由に動かせたなら、恥も忘れて自分の指で慰めていただろう。

苦しくて、切なくて、どうしようもなかった。

「……助けて……お願い……もう、むり……なのっ」

すがる相手が犯罪者だとか、もうそんなことを気にしてはいられない。
もう楽にして欲しい。
体に燻る色欲を発散したくて、自分を見ている誰かに泣きながら訴えた。

上空で直立状態になって停止する筆の上に、光の輪が現れた。
発光体の輪の中に、ゆっくりと筆が通される。すると輪を通ったところから、筆が形を変えた。

直線の竹だった軸はさらに太い、黒光りした緩やかな曲線を描く木製の軸に。
穂はもっさりと毛量を増やし、極太の筆に——。

当然のように、穂は赤紫の液体によってぬらついてぺちゃり、ペちゃり……と、筆に含みきれなかった赤紫の薬液が毛先からこぼれ、私の胸に落ちて肌に吸収されていった。

それを見せられて、急に理性が戻る。

「ひっ……! い、いやっ……いやぁ!」

ポツポツと、血痕のように薬液を垂らしながら、極太の筆が脚の間へと近付いていく。
ここまでくればもう、アレで何をされるのか予想が付いた。

もっさりとした柔らかな毛に、たっぷりと赤紫の薬を含んだ極太筆が、秘裂を往復する。

「あっ、い……、いや、やめてっ。……そんなこと、されたら……」

じんじんと秘所に痺れが増す感覚に怯え、太腿がガクガクと震えた。

あんなものを、直接ナカに挿れられたら——狂ってしまう。

「やめて……、いや……っ、おねがいっ、もう……許してっ」

恐怖に引きつった泣き顔で、プライドを捨てて懇願するも、相手は私に容赦しなかった。

性感を高める薬液をたっぷり纏った極太筆が、膣に狙いを定めて突き立てられる。

ぬぅ……ぐちょおぉ……。

「んぅ————っ!」

柔らかい穂が、太い軸が、膣道の奥へと進む。体がビクビクと痙攣して、私は呆気なく絶頂した。

しかしこちらが達したところで極太筆が止まるはずもなく。
膣奥に到達した穂がナカを掻き混ぜ、子宮口にあの薬液を塗りつけられた。

「あっ、ああっ、あんっ、……っあぁっ! やうぅっ、んぅあっ、あっ!!」

体の痙攣が止まらない。
膣壁はぎゅうぎゅうに極太筆を締め付けているのに、圧迫などものともせずに膣奥を攻め立ててくる。

ただでさえ皮膚の上からの吸収でも、途轍もない発情効果がある薬だ。
直接胎内に塗り込められては、抗えるはずがない。

「あへ……ぇ、ぁ……やらぁ……んぅ、……っ、ぅ……っ、……りぃ……だぁ……っ」

ピンク色のもやがかかる私の思考に、一人の男性の影がかすめる。
しかしそれも、すぐに色の付いた霧に掻き消されてしまった。

余計なことを考えるのは許さないと言わんばかりに、極太筆が子宮口を押し上げる。
じゅわりと穂から滲んだ薬液が子宮に浸透して、腹の奥から脳天へと強烈な快感が駆け抜けた。





    ※省略





    *



……————ビクンッ!


体が跳ねる。瞬間的に息を大きく吸い込んだ。

プシュー……と、空気の抜ける音がして頭の締め付けがなくなる。
カプセル型のポッドが自動で開き、開放感にほっと胸を撫で下ろした。

側頭部にある解除ボタンを手探りで押して、乱雑に頭部を覆うヘルメットを取り去る。

季節は春になったばかりだといういのに、とにかく暑かった。




    ※省略




玄関から聞こえた電子音に顔をあげる。

いつの間にか日は落ちて、真っ暗になっていた部屋に照明が付いた。
床に座り込む私の前に長身の男が立つ。

「……おい、大丈夫か?」

逆光で顔は見えなくても、私がこの声を聞き間違えるはずがない。

「りーだぁ……」

来てくれた。約束通りに、見捨てないでくれた。

「偉いな。ちゃんと『待て』ができたじゃねえか」

髪をぐしゃぐしゃにして撫でられる。ぞんざいな扱いに懐かしさを感じ、思わず表情が綻んだ。

「時間がねえ。すぐにここを移動するぞ」

リーダーが自分のジャケットを脱ぎ、私の肩にかけた。
ほのかに残る彼の体温と、彼の匂いに安心して体の力が抜けていく。

「おい……ったく、……へばってる場合じゃねえぞ」

面倒臭いと言わんばかりの悪態に、すみませんと返したつもりだったけど、口から言葉は出なかった。
瞼が急に重くなり、私の意識はそこで途絶えた。





    ※省略




私よりも早く夕食を食べ終え、すぐ戻るとだけ言い残してリーダーはまたホテルの部屋を出て行った。
ドッペル・シティへのダイブも、彼はここじゃない違う拠点から行なっているみたい。

「…………あれ?」

そういえば——と。部屋を見渡して、今更ながらに気付く。
ここにはドッペル・シティへのダイブ用ポッドが設置されていない。

昨今ではどんなに格安の宿泊施設でも、部屋には宿泊人数分のポッドが設置されているのが常識だ。

これはたまたまこの部屋にはなかったとするより、あえてリーダーが外させたと考えるべきだ。——私が、ひとりで勝手にドッペル・シティにダイブしないように——。

「…………っ」

しまった——と。後悔した時にはもう遅い。

ほんの少し、ドッペル・シティについて考える。
たったそれだけのことが私にとってのトリガーとなってしまった。

顔がみるみる熱くなって、あの時の記憶が蘇る。
せっかく、忘れられていたというのに……。

淫らなことを意識してはいけない。
目を逸らそうと思うほどに、淫猥な感覚を思い出して秘所が疼いた。

「……もうっ、……なんでよっ……」

アイツらにおかしくされたのは現実の肉体じゃない。
だけど私の脳は快楽が足りないと訴えて、勝手にこの身を淫乱なものに作り替えてしまう。

ふらふらとベッドに腰掛けた。
太腿を擦り合わせる自分の我慢のきかなさに涙があふれた。

現実世界にまで症状を持って帰ってしまって、これじゃあ、リーダーに助けてもらった意味がない。

駄目だって……自分じゃ満足できないってわかっていながらも、衝動を抑えられずにスウェットのウエストからパンツの中に手を潜らせる。夢中で快楽を追いかけた。

途中で部屋のドアが開く音は聞こえていた。
リーダーの帰還は把握できた。
……それなのに、自慰を止めることができなかった。





    ※省略




クチュッ、クチッ……、クチャ、クチュリッ……。

彼がナカを指で抜き挿しするたびに、愛液がいやらしく音を奏でた。
膣の腹側、浅い部分をざりざりと指の腹で撫でられる。
執拗な責めにたまらず背中が反り返った。

「ひぁっ、あっ、ああぁっ……なっ、やだぁあっ!」

膣をいじりながら、彼は親指でクリトリスをグニグニと押し潰す。
快楽が強すぎて反射的に脚を閉じようとしたが、リーダーに阻まれてできなかった。

開かれた脚の間に座る彼の体を挟んだ膝が、ビクビクと震える。
余裕をなくして悶える私を、彼はククッと笑った。

「やだ、じゃねえ。気持ちいい……だろ?」

「……ぁっ、や……んっ、ぃ……いい……いいっ、……気持ち、いぃっ、です……っ」

「良い子だ。脳への電気刺激なんかじゃない、肉体に直接与えられる快楽を、しっかり頭に叩き込め。コレが体感できるのは、リアルだけだ」

「あっ、んぅっ……はっ、ぃいっ……っ!」

身を屈めたリーダーが、膣を責める指はそのままに、自らの舌でクリトリスを舐め上げた。

「んぅ——っ!」

ぢゅぱっ、と音を立てて敏感な肉芽を吸い上げられる。
窄めた口に吸い付かれた状態で、クリトリスの裏筋を舌先が何度も往復してくる。

あまりの快感に足が宙を蹴り上げた。
そんなとこ、あなたが舐めちゃいけない。お願い放してと、言いたいはずが言葉にならない。

私の恥ずかしいところに、リーダーの口が……頭を持ち上げて現実に起こっていることを視覚でも再確認する。

羞恥に顔が熱くなった。顔だけでなく、下腹部も悦びに熱が灯り疼きが強まる。

「りゃあっ……らめ……ぇっ、ああっ、しょれっ……あっ」

「——んん?」

「いああぁっ!」

鼻から抜けた低い声が伝わってクリトリスを襲う。
低周波のような重い振動にただでさえ強すぎる快楽がさらに上乗せされ、私は絶頂に追い上げられた。

「————っ!」

ぷしゅっと、潮を吹いてリーダーの顔と手を濡らす。

「やっ、あっ、あ……っ、ごめ……にゃしゃ……っ、ああぁっ」

リーダーは愛液を溢れさせて収縮する膣道の奥を一度押し上げ、軽く先を曲げて蜜をかき出すようにしながら指を抜いた。
身を起こした彼は見せつけるように、その指を舐める。

「…………っ、リーダーっ、ダメです!」

真っ赤になって慌てる私に、リーダーは野生味のある笑みを向けた。

「馬鹿、この程度でうろたえんな。お前は俺を神聖視しすぎなんだよ」

「ひんっ……」

達して感度が上がった膣を、間を置かずに指でクチュクチュとかき混ぜられる。





    ※省略




子宮が歓喜に打ち震え、腹の底から快楽が全身を駆け巡る。
体の全ての感覚を快感に変えられたかのようだ。

彼が穿つ膣道だけでなく、背中に擦れるシーツの感触も、何もかもが性的な気持ち良さに変換される。

「はぁっ……はひ、いっ……イクっ、……んあっ! い……てっ」

「ああ、イキっぱなしだな。俺のをギチギチに咥え込んでるくせに、……健気にうねって性液を搾り取ろうとしてくる」

「ひゃぅんっ、あっ……いぃ……、いあぁっ!」

「存分にイキ狂え。そうやって俺の抱き方を体で覚えろ」

命令の言葉を脳が理解する前に、激しいピストンが始まった。
腰が引かれ、膣口にカリが引っかかったところで、勢いよく最奥へ——。抽送の最中にペニスは肉壁の感じるポイントを摩りあげる。

神経が焼き切れるような快楽に呑まれ、目の前が真っ白に染まった。

「あっ……ひ、ぃっ……あゃ、やあぁっ、あっ、ああっ!」

膣道が熱い。
ペニスの熱に理性が溶かされ、膣を抉る刺激に身も心も陥落していく。ドッペル・シティで植え付けられた快感が思い出せなくなるほどに、彼の荒々しいピストンが気持ち良い。

ガツガツと奥を責められるごとに思考がドロドロに蕩けていく。
亀頭に子宮口を解される感覚がたまらなかった。
私が意識せずとも膣壁はうねり、きゅっと締まってペニスに奉仕する。

彼の半身が膨れ上がるのを察し、子宮が熱い飛沫を期待して疼きを強めた。

「ああぅっ、あっ……りぃ……だ……っ」

ぞくぞくと背中に電気が走る。夢中で両足を彼の腰に絡ませ、腕を首に回して必死になって抱きつく。

「りーダーのっ……ぁっ、ほし……、欲しいのっ、……んぁ、ナカ……っだして……っ」

「——っ、言われなくても、ちゃあんと子宮に注いでやる」

「あぁん、っあ……あ、——っ、んぅ——っ!」

ぐにぐにと亀頭が子宮口を抉り、集中的に責められる。
ぐぅっと腰が押し付けられ、これ以上ないほどにペニスが膣奥に侵入したところで、精液が吐き出された。

「あっ……あちゅ……っ、あぁ……んっ」

子宮の壁に熱が叩きつけられ、胎の奥まで彼が支配する。これが欲しかったのだと子宮が歓喜して、とてつもない多幸感が全身を包んだ。





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