市街地 2024/04/06 09:16

【小説サンプル】村娘に捧ぐ悪魔の狂愛・第1話

あらすじ

国境近くの村に住むクレアは、魔女に間違われて村人たちに殺されかけたところを悪魔アドラスに助けられる。
アドラスはクレアを魔界へと連れ帰り、命を救った代価にクレアの身体を求めた。
助けられたことに恩を感じながらも悪魔の要求を拒絶するクレアに、アドラスはゲームを持ちかける。
「お前が自らねだるまで、処女を奪うことはしない。神に忠誠を誓っているというなら、俺の誘惑に耐えてみろ」
悪魔の提案を自らに課された試練とみなし、クレアはゲームを了承する。

——こうして肉体を淫らに開発されていく、淫蕩な日々が始まった。

全体を通したプレイ内容

快楽責め・無理矢理・焦らしプレイ・連続絶頂・歪んだ愛

【!ご注意!】

※本作は物語の展開に以下の嗜好が含まれます。

・無理矢理系の性描写。
・凶悪なマッチポンプ
・触手責め
・処女喪失までの焦らしが長め(1話と2話は本番なしの18禁)
・ヒロインの悪堕ち
・正義が不在



【第1話 契約の代価】


その男は意識をなくしたクレアから衣服をはぎ取った。

肌触りの悪い、粗末な代物だ。染料の色はとっくにあせてしまい、負荷がかかる部分は今にも穴が開きそうなほど生地がすり減っている。

村人から貰ったお下がりのワンピースを、クレアはとても大切にしていた。

あの村の秘密を知らずに、村人たちのかりそめの優しさを信じ続けた——あわれな娘だ。

人間の愚かさを男は嗤った。

少し容姿を変えただけで、娘の訴えに聞く耳も持たず、魔女と決めつけ焼き殺そうとする。村の連中にとって、彼女がその程度の価値しかないというなら、こちらでいただいても問題ないだろう?

クレア自身が「助けて」とすがったのなら、なおのこと。

年若い娘の胸元から臍へ、白い肌に男の指が這う。

毎日のように山に入り薬草を採っていたクレアの身体には、いたるところに擦り傷があった。

山には大型の肉食獣や魔物が潜んでいるというのに、それらに遭遇することなく今日まで無事に生きてこられた。必然によって生じた幸運を、当のクレアは知る由もなかった。

オグに殴られて変色した頬を、男がそっと両手で包む。

男はクレアの目元に滲んだ涙を親指で拭い、台座に寝かせて自身の着ている衣類を脱ぎ捨てた。

乳白色の石でできた広い浴場でクレアを清めていく。

配下に任せず、男は自らの手で愛する女から地上の汚れを取り去った。

クレアの指に自らの指を絡ませて遊び、彼女の細い指を口に含んだ。ちゅぅっと吸って、舐めしゃぶるが、クレアは反応を示さない。

手応えのなさをつまらなく感じ、早々に飽きて手を放す。男は娘のしなやかな腰のラインをなぞった。官能的な触れ方にこそばゆさを感じてか、微かにクレアが身をよじる。

「……ぅ……ん」

吐息とともに零れた声に気をよくして、クレアの首筋に唇を寄せた。

白い肌にぽつぽつと花びらが浮かぶ。それらを満足そうに指でなぞり、男はクレアを抱いて自室へと運んだ。

己にクレアの背中を預けさせ、二人密着した状態でベッドに座る。今にも鼻歌が聞こえてきそうなほど、男は上機嫌だった。

力の入っていない四肢を好きなだけ愛でる。内腿や鼠蹊部といった、際どい部分は特に入念に。

胸の膨らみを揉んだ時、クレアは痛みに眉を寄せた。ここはまだ性感帯として育っていないらしい。

男は触診するように娘の身体のあちこちに手を這わせるが、一番重要な部分は放置されていた。

これは優しさでもなんでもない。秘所を暴くのは、彼女の意識がある時にすると決めているからだ。

焦る必要はない。時間はたっぷりとある。

——ようやく手に入れた。

クレアの横顔を覗き見て、悪魔・アドラスは恍惚と微笑んだ。




◇  ◇  ◇




お願いやめて! わたしは魔女じゃない!

足元から迫る炎に汗が吹き出す。上がってくる熱気で息ができない。

たすけて、助けて——っ!

丸太に縛られて身動きの取れないなかで、ひたすらに天界の神に祈った。

死の恐怖に錯乱する。無実を訴える声が悲鳴に変わろうと、村人たちは誰ひとりクレアを助けようとはしなかった。

苦痛に叫ぶクレアを眺め、オグをはじめとした村の男たちは皆、狂気的な笑みを浮かべていた。

絶望に打ちひしがれたその時、誰かに抱きしめられた気がしたが、クレアの意識はそこで途切れた。



「……お願い……誰か、助けて……っ」

自身の声にはっとして、クレアは目を覚ました。

焦る気持ちのままに身を起こす。周囲を見渡すが、そこは見覚えのない場所だった。

どうやら薄い布が垂れる天幕付きのベッドで眠っていたらしい。

光沢のある肌触りの良い純白の寝具。ベッドを覆うレースの向こうに透けた広い部屋。僻地の村で育ったクレアにとって、全てが未知の代物だった。

戸惑いながらも視線を落とす。そこでクレアは着ている衣服が自分の物でないことに気づいた。

袖口がヒラヒラと広がった、しっとりとした肌触りの白いワンピースだ。胸元には柔らかいレースの装飾がされている。知識がないクレアでも、一目見て高級な素材で作られた服だと想像できた。

——これは……? どうして、わたしはここに……?



ここに来る前の記憶を思い出そうとして、クレアの全身が総毛立つ。

最後に覚えているのは、村人たちに燃やされかけた、あの情景だ。炎から立ち込める灼熱。優しかった村の人たちの、残酷な笑み——。

たまらず身がすくむ。クレアは震える自分を抱きしめた。

俯いて顔に落ちた髪が視界に入り、はっと息を呑む。クレアの髪色は、いつもの赤茶色だった。

そのことにほんの少しだけ安堵し、幾分か冷静さを取り戻す。

——わたしは魔女と誤解されて……そう、必死になって、助けを願ったの。

炎が近づくさなかに「助かりたいか」——と、どこからか聞こえた問いかけにすがった。そうしてクレアは今、記憶にない場所にいる。

あれから村人たちはどうなったのだろう。——リーナは……?

次々と疑問が湧き上がるも、ひとつとして答えには辿り着けない。

クレアには自分が助かったという実感すらなく、ここが死後の世界だと告げられてもすんなり受け入れられるぐらいに、目に見える物全てが現実離れしすぎていた。

「お目覚めかな?」

悶々と思考を巡らせていたところに声がかかり、クレアは小さな悲鳴をあげた。

驚き顔を上げると、いつからそこにいたのか。天幕の布を手で避けて、ベッドの横に男が立っていた。

短い漆黒の髪を後ろに撫でた、美しい男だった。琥珀のような神秘的な瞳。堀の深い目鼻立ちに、薄い唇。そして耳の上、側頭部に生えた二本の艶のある黒い角——。外見からして、明らかに人間ではない。

佇まいからも気品を感じるその男の、芸術的ともいえる容姿にクレアはぽうっと見惚れてしまう。

瞬きも忘れて凝視してくる少女に、男の口の端が微かに上がる。

「……天使様」

思わずといった感じでクレアが呟く。

次の瞬間、男はクッと喉の奥から出かけた笑いを噛み殺した。

「そうか、そうきたか」

男が愉快そうに肩を震わせる。破顔しても彼が美しいことに変わりはないが、気品はなりを潜めて一気に人間味が増した。

「まさかアレと間違えられる日が来るとは……」

上戸に入ったのか、呆然とするクレアの前で男はくつくつと笑い続ける。その合間に聞こえた独り言に、クレアは首を傾げた。

彼の声を……どこかで聞いた気がする……。

既視感が記憶と結びつくのは早かった。

「……リーナと、会っていたのは……」

そうだ。まどろみのなかで、夢かと思っていたけれど、リーナと話していたのは……きっと彼だ。それに——。

「あなたが、わたしを助けてくれたのですね。じゃあ……ここは天界……?」

こんなに豪華で素晴らしい場所が、地上にあるはずがない。

炎にくべられたクレアに「助かりたいか」と問うたのは、この声の主である彼だ。

リーナは教会で聖女になるべく教育を受けていた。天界との繋がりはクレアよりもはるかに強い。

——村の人たちに殺されかけたわたしのために、リーナが天界の神様に助けを乞うてくれたのね。きっとそうに違いないわ。

自ら導いた答えに感極まるクレアに、男は笑うのをやめて目を細めた。

「色々と勘違いしているようだから、ひとつずつ訂正してやらねばなるまいな。まずひとつ——お前が今いる世界は、天界などではない」

「……え?」

「ここは魔界だ」

断言に理解が追いつかず、クレアはきょとんと固まった。

そんなクレアの反応が面白かったのか、男は笑みを深くする。

蔑むような目つきで見下ろされ、背筋に悪寒が走った。

「俺はアドラス。魔界を統括する悪魔の一柱——と言えば人間にも理解できるか?」

男——アドラスは、悪魔という言葉にさっと青ざめたクレアを楽しげに見下ろす。

「…………そんなの……ありえないわ……」

「はっ、一体それは何を根拠にした否定だ」

「だって、わたしたちの生きる地上は、天界の神様に護っていただいているのよ」

人々に神の加護がある限り、悪魔たちは地上に手を出せない。

天界の恩恵は信仰によってもたらされる。

亡き父の影響で信仰心の厚いクレアは、自らが悪魔の誘惑に耳を傾けたとは到底信じられなかった。

「その神とやらの守護ではなく、俺にすがったのはお前だろう?」

「嘘よっ」

「嘘ではない。村の男どもに焼き殺されそうになった時、お前はなんと願った? ——死にたくない、助けて——と、そう言ったのはお前だ」

「……ちっ、違うの、あれはっ」

炎が迫るなか、確かにクレアは助かりたいと望んだ。しかしそれは天界の神に救いを求めたのであって、間違っても悪魔にすがったのではない。

必死に訴えるクレアであったが、それに悪魔が「はいそうですか」と納得するわけがない。

「なんにせよお前の願いを俺が叶えたという事実は変わらない。すでに契約は成された。今度はお前が俺に対価を払う番だ」

アドラスが寝台に身を乗り上げる。クレアの口から「ひっ」と悲鳴が零れた。

「待って、わたしはそんなつもりじゃ……っ」

「ではどういうつもりだったというのだ。助けてと叫び、熱い熱いと喚きながら、焼かれ死ぬのがお前の本望だったとでも言いたいのか?」

「ちがう……違うの……」

うわごとのように否定の言葉を繰り返すしかできない非力な獲物を、悪魔が押し倒した。

「いや……っ、な、に……するのっ」

「お前は身ひとつで俺に助けられた。その身体以外で、払える代価があると思うか?」

アドラスの長い指が頬の輪郭をなぞる。表情を引き攣らせながらもクレアは気丈に悪魔を睨んだ。

「わたしは——、わたしのこの身と心は、天界の神様のものよ」

そうだ。こんなもの契約でもなんでもない。悪魔に騙されてなるものか。

「救いもしない神に心を捧げて何になる。村人に殺されかけたお前を助けたのは、天界の神ではなく魔界の悪魔だ」

だめ、真に受けてはいけない。

魔界の住人は天界の神々と敵対関係にある。

神の加護の下に生きる地上の生き物にとっても、魔界の悪しき存在は敵なのだ。

「……あの囁きがあなたのものだと知っていたら……、わたしは助けを求めなかったわ」

至近距離で見つめられながら、クレアは挑むように言い切った。

警戒心を剥き出しにして睨むクレアとは反対に、アドラスは余裕綽々な態度を崩さない。

「見上げた信仰心だ。やはりリーナよりも……お前が聖女になるべきだったんじゃないのか」

——リーナ。その名前にクレアは息を呑み、反射的にアドラスの肩を掴んだ。

「リーナっ、彼女は無事なの!?」

「自分を身代わりにして生き残ろうとした女の心配か。無知とは誠に罪深く、哀れなことだな」

アドラスがクレアの手を掴み返し、そっと指先に口づける。そのまま見せつけるように人差し指に舌が這う。

生暖かく柔らかい感触がした直後に、唾液に濡れた部分がすっと冷え、強烈な不快感に襲われた。

「いやっ、離して!」

振り解こうとするも、握られた手はぴくりとも動かない。

「純粋無垢で世の中を知らないお前に教えてあげよう。リーナはお前が思っているほどに洗練潔白な女ではない。あれは私欲のためなら神を裏切り、悪魔と契約を交わすことも躊躇わない」

「……嘘よ、リーナがそんな」

「昨夜、俺はあの女の呼び出しに応じて地上に降り立った。あの女と契約を結ぶためにな」

クレアの脳裏に昨夜の話し声が再生される。あれは、夢じゃなかったの?

「そして俺は、リーナの『魔女として死にたくない』という願いを叶えてやった。——いくら騙されやすいお前でも、そろそろ事の全容が見えてきたのではないか?」

翌朝に感じた違和感。リーナと同じ銀色になった、クレアの髪。

朝早くから家に押し寄せてきた村人たちは、憎悪に満ちた表情でクレアを睨んだ。彼らはクレアの顔を見て、魔女だと口走った。

そして住み慣れた家から引き摺り出される時、奥の部屋ではクレアと同じ顔の女性が、こちらを見て笑っていた——。

悪魔が嗤う。

「クレア……お前とリーナの容姿を一時的に入れ替えたのは俺だ。ああ安心しろ。今はもう、お前はちゃんと元の愛らしい顔に戻っている」

「…………っ」

言葉を失い愕然とするほかなかった。

悪魔は簡単に嘘をつく。言葉を鵜呑みにしてはいけない。

……でも、わたしを焼き殺そうとした村の人たちのあの怒りは、ほかに説明がつけられない。みんなは本当に、わたしを魔女だと思い込んでいたの……?

村人たちはいつもクレアに優しかった。親を早くに亡くし、ひとりになった彼女を、度々気にかけてくれた。

そんな村人たちの豹変には理由があったのだ。

洞窟に連行される最中、オグは魔女に名前を呼ばれた者は呪われると言っていた。真偽は定かでないが、彼らにとって魔女というのはそれだけ恐ろしい存在だったのだ。

容姿を変えられたクレアに、自分の正体を証明する術はなかった。そして全ては悪魔と、リーナの思惑通り。

寒くもないのに身体が震えだす。

知らぬうちにクレアから流れた涙を、アドラスがそっと指で拭った。

「かわいそうに……」

哀れみのこもった声音に揺らぎかけるも、寸前で踏みとどまる。この男——アドラスは悪魔だ。騙されてはいけない。

「……リーナは、どこにいるの? 彼女に会わせて」

問いただすなら悪魔ではなく、まずはリーナだ。真偽を確かめるためにも、リーナの口から本当のことを聞かなければならない。

クレアは覆い被さる男の肩を押し、拒絶を示す。しかしか弱いクレアの細腕では、アドラスを退けることはできない。

獲物の無駄な抵抗を楽しそうに見下ろしながら、捕食者は現実を突きつける。

「リーナなら死んだよ。魔女を庇った裏切り者のクレアとして、村の男どもになぶり殺された」

さも当然とばかりに伝えられた内容を理解しきれず、クレアはパニックに陥った。

リーナが死んだ——?

彼女は悪魔と契約して、助かったのではなかったの?

村の人たちが殺した? クレアとして? どうして……あんなに優しい人たちが、——わたしを殺すなんて、そんな……。

……魔女を庇う行為は、殺されるほどの罪だったの……?

リーナはわたしを騙していたの? リーナが悪魔と契約したのが本当なら、わたしはとんでもない人を、匿っていた……?

「……うそ……っ、そんなはず、ないっ。村の人たちは……そんな酷いこと、絶対にしないわ」

「その酷いことをしないはずの連中に焼き殺されそうになったのはどこのどいつだ?」

「……っ、で、でも……リーナは、聖女になれるほどの女性よ。悪魔と契約なんて、するはずがない」

「お前があの女の何を知っている。アレが自分の過去を、包み隠さず打ち明けたとでも思っているのか? ……まあ、お前が俺の話を信じなくとも構わないさ。どのみちすることは同じだ」

アドラスが薄い服地の上からクレアの胸に触れた。

「い、いやっ」

性的な知識に疎いクレアでも、肉体を他人に触れられることに抵抗があった。彼女の崇める天界の神々は、地上の生き物の繁殖を目的としない性行為を禁忌としている。

卑猥な手つきに危機感を覚え、どうにかアドラスの下から抜け出そうともがく。しかし腰骨部分に馬乗りになった男から抜け出すのは容易ではなかった。

「そう怯えるな。痛いことはしない。身を任せれば、天国に連れて行ってやる」

天国などと、悪魔らしからぬ発言にそんなはずがないと小刻みに首を横に振った。

脇から腰のラインを服越しに男の手が這う。悪魔に弄ばれる恐怖は計り知れず、クレアの緊張は頂点に達した。

「……うっ……うぅ……」

涙が溢れ出す。胸元で指を組んだのは、もはや無意識だった。

——神様……どうか……。

今にもその身を蹂躙しようとする男には目もくれず、クレアは一心不乱に敬愛する神に祈った。身を固くして強く目を閉じた彼女には、アドラスの白けた表情は窺えない。

「……かみさま……っ……」

「救いを求める相手を間違えるな。この場でお前の生殺与奪の権利を握っているのはこの俺だ」

そんなことはわかっている。でも、この男に何をされようが、クレアの心は神の物だ。

「……興醒めだな」

アドラスはつまらなそうにクレアを睨み、舌打ちしそうになるのを堪えた。

死にたくないと悪魔を利用しておきながら、いざ助かればすぐに手のひらを返す。それがどれほど道理から外れたことなのか、この娘は世のことわりを全くわかっていない。

さてどうするか。まずは契約違反の賠償の重みを教えてやるべきか……。

思考を巡らせた末、妙案が浮かんだアドラスは笑みを讃えた。

一旦クレアから身を離し、ベッドの縁に腰掛け足を組む。膝に肘を置いて頬杖をつきながら、彼女が祈りに飽きるのを気長に待つ。人間の集中力がそう長く続かないと、悪魔はよくよく理解していた。

しばらくして、身構えていても何の変化も起きないことに疑問を抱いたクレアは、神への祈りよりも周囲の状況が気になり、恐る恐る目を開く。

「————っ」

視線を彷徨わせた末にアドラスと目が合う。拘束もされていないのに、ベッドの上でひとり仰向けに寝ている自分が急に恥ずかしくなった。クレアは急いで起き上がり、後ずさるようにしてアドラスから距離を取る。

「対価を払わないとは、お前は強欲でがめつい奴だな」

「だって、あなたは悪魔で……」

「悪魔ならば約束は守る必要がないと? 都合のいいように利用するだけ利用して、あとは知らぬ存ぜぬ……か。——契約に縛られた悪魔よりも、よっぽど人間のほうが狡猾だな」

「違う……違うの」

「おまけに、助けてやったというのに礼のひとつもない」

否定の言葉を言い切る前に、アドラスがグサグサと心を抉ってくる。

卑怯の代名詞とも呼べる悪魔という存在に「狡猾」と言われたのは、思いのほかショックが大きかった。

「……助けてくれて、ありがとう」

死にたくなかったのも、炎に焼かれる危機的状況からアドラスに助けられたのも事実だ。

幾分か冷静さを取り戻した今ならはっきりとわかる。あの時誰でもいいから助けて欲しいと願ったのは、紛れもないクレアの本心だった。

「まあいい。それでお前は、よほど俺に抱かれたくないようだが……その身以外、契約の対価に何を差し出せる?」

うっと言葉に詰まり、クレアは胸元を強く握りしめた。

純潔は守らなければならない。しかし大した財産も持たないクレアに、差し出せるものなどあるのだろうか……。

悩む彼女の脳裏に、ふと美しい銀髪の女性の顔が浮かんだ。

「リーナは、あなたに何を支払ったの?」

「十年分の寿命と、死後の魂の所有権だ」

あっさりと返された答えに、クレアは質問したことを後悔した。

悪魔との魂を使用した契約は天界の禁忌に触れる。神への最大の冒涜とされ、死後の浄化も許されず天界へと還れなくなる。

それは肉体を差し出す以上にしてはならない禁忌中の禁忌だ。リーナが悪魔と交わした取引の真偽は確かめようがないが、参考にできそうにない。

しばらくクレアを悩ませたのち、頃合いを見計らってアドラスは口を開いた。

「——いいだろう。お前のその天界への忠誠心に敬意を示し、俺からもひとつ提案しよう。これに乗るかはお前次第だ」

突然の申し出に、クレアは大きな目を見開いてアドラスを凝視した。

真っ直ぐな視線を受け止め、悪魔の琥珀色の瞳が微かに細められる。

「ゲームをしようか」

「……ゲーム?」

「こういうのはどうだ? お前から求めてこない限りは、俺はお前の処女を奪わない」

「本当に?」

希望を見出したクレアの声が上ずる。

アドラスはゆっくりと思わせぶりに首肯した。

「ああ。だが、お前の望みを聞くだけではゲームにならないのはわかるな? こちらは様々な手を尽くして、お前に『抱いてほしい』と言わせてみせよう。お前が天界の連中に忠誠を誓うというなら、俺の誘惑を断り続ければいい。簡単だろう?」

そうか、これは彼が与える試練なのかと、クレアは解釈する。自分から悪魔を求めるなど考えられない。

アドラスが諦めるまで彼を拒めたら、ゲームはクレアの勝ちとなる。

「これは無知で哀れなお前への、俺からの譲歩だ。ゲームを拒否するなら、その時はもう俺の好きにさせてもらう」

選択肢が増えたように見せかけて、選べる道はひとつしかなかった。

「……わかったわ。あなたのゲームを受けましょう」

「よかろう。承諾するならこっちへ来い」

差し出された手に、迷いながらもクレアは自らの手を重ねた。

「きゃっ」

アドラスに手を引かれ、バランスを崩したところを彼に支えられる。膝立ちとなったクレアの頭部に男の手が回った。

「これまでの生活の影響か、やはり傷んでいるな。せっかく美しい髪をしているんだ。後で手入れしてやる」

ぱさついた髪に指を通される。上から目線のぞんざいな口調に反した優しい手つきにクレアは目を泳がせて戸惑った。

「だめよっ、そんな贅沢、していただく理由がないわ」

早くに親を失ったクレアは、村人たちの助けを借りてどうにかこれまで生きてきた。

村人たちは皆優しい。それでもクレアには、自分は世話になっている立場なのだから、村人たちよりも質素に暮らさなければならないという負い目が常にあった。

傷んでいるからといって、髪の手入れなどもってのほかだ。

罪悪感に駆られるクレアをアドラスはふんと鼻で笑う。

「俺がやりたいことをして何が悪い。クレア、お前が俺の行動で制限できるのは、純潔を奪わない、そのひとつだけだろう? 嫌ならゲームは放棄したとみなし、こちらも好きにさせてもらうが」

「……っ! そ、れは……」

「嫌なら大人しくしてろ」

そう言われては従うしかない。

クレアは手ぐしで髪を梳かれ、居心地悪そうに身を固くする。

抵抗がなくなったのをいいことに、アドラスは好きに動いた。細い首から顎へと指を這わせ、クイと彼女の顔を上向かせる。怯えながらも真っ直ぐに見つめてくるその瞳に目を細め、薄く笑んだ悪魔はクレアの顔に己の顔を近づけた。

アドラスにピンクの唇をぺろりと舐められる。驚きに硬直したクレアを浮遊感が襲った。

柔らかな感触に背中を包まれ、仰向けに倒されたクレアははっと息を吸い込み慌てた。

「や、約束が違うわっ」

上に乗り上げる男を必死に押し除けようとするがびくともしない。

「安心しろ。破瓜に至ることはしない。こんなもの、ただの戯れだろう?」

身を屈めたアドラスがクレアの頬をべろりと舐める。

「ひゃっ……」

「禁忌には触れないさ。この程度の遊びは、村の連中も普段からしているぞ?」

「んっ……ゃ……」

耳元で囁かれてくすぐったさに肩が上がった。

「耳が弱いか?」

「知らないっ……こんなの……ぁんっ」

ふぅ……と吹きかけられた息にクレアの身体が小さく跳ねる。

ひとつひとつの悪戯に過剰な反応を見せる無垢な娘をクッと喉の奥で笑い、アドラスはあえて大きなリップ音を鳴らしてクレアの耳に口付けた。

「きゃうっ!」

「愛している……と、こうして身体を密着させながら愛を囁き合い、それから、村の奴らはどうしていた? ……んん? お前は知っているだろう?」

問いかけに顔が熱くなる。

山の中での村人の密かな逢瀬をクレアは目撃したことがあった。薬草を採りに山に入った帰りの出来事だ。ともに別の伴侶を持つ村の男と女が、木の影に隠れて情熱的にキスを交わしていた。

現場に出くわしたクレアは意味がわからないながらも、どうしようもなく恥ずかしい気分に陥ってしまった。

幸い二人はお互いに夢中でクレアには気づかなかったので、そっとその場を立ち去ったのだった。

あの時の光景を思い出しクレアが口をきつく閉じたのを、アドラスは見逃さなかった。

「そう、……ここで愛情を確かめ合うのだったな」

囁きとともに口元を舐められる。

嫌だ! あなたとわたしの間に愛なんてない——! 反論しようにも、口を開けない。身を固くしてひたすらにアドラスが飽きるその時を願うばかりだ。

きつく目を閉じて神に祈る。

不意に脚に風を感じ、ふるりと身体を震わせた。次いで聞こえた悲鳴のような高音に、驚いて首を持ち上げる。

ビリリィ——っ!

アドラスが、クレアの身に纏うワンピースをこともなげに引き裂いていた。

「なっ!? なにしてっ」

「どうした? 俺が与えた物を俺がどう扱おうが、お前にとやかく言われる筋合いはないだろ」

「そんな……」

着心地の良い衣服は瞬く間に布切れに変わり、クレアは生まれたままの姿になった。

羞恥を忘れて愕然とするクレアにアドラスが乗り掛かり、彼女の首元に顔を埋める。

「……んぅ……っ」

ねっとりと首筋に舌が這う。柔らかく生暖かい感触がした箇所に、今度はチリリと痛みが襲った。

白い肌に浮かび上がる所有印に戸惑っていると、アドラスは顔を離さないまま大きな手でクレアの胸に触れてきた。

「やっ……まって!」

「何を待つ? 約束通り、俺はお前の純潔を奪ってはいない。それにこんなもの、ただのスキンシップだ。前戯にもなりやしない」

「でも、こんな……」

「これも嫌だというなら、ゲームは放棄するということになるが……。拒絶は契約破棄とみなし、すぐにでもお前のここを、俺のペニスで犯してやろうか?」

ここ……と、秘められた場所に指を突き立てられてクレアは慌てた。

「だめ! それはっ、それだけは……っ」

「ならば大人しく愛撫を受け入れろ。心配しなくても、『欲しい』とねだらない限りお前は処女のままだ」

「…………ぁっ」

乳首を指で摘まれる。僅かな痛みの後にじんと熱がともり、くるくると指で乳輪をなぞられてくすぐったさに身をよじった。

反対側の胸に男が口を近づけ、れろれろと見せつけるように舌先で胸の頂を舐めしゃぶる。

「あっ……なに、を……っ!?」

気まぐれに乳首を甘噛みされて、クレアはひっと息を呑んだ。

「いや……っ、わたし、は……美味しく、ないわ……」

悪魔に身体を捕食される場面を想像してしまい、恐怖に震えた。

「そんなことはないさ。このぷっくりと突き出た乳首は、とても美味そうだ」

「…………っ!」

「そう怯えなくとも食いやしない。腹に収めてしまうと楽しみは一度きりになってしまうだろ? それに乙女の血肉よりも美味いものはこの世に山ほど存在する。そのうちお前にも食わせてやる」

「じゃ……じゃあ、どうして、そんなところを舐めたりなんか……んんっ」

赤子が母乳を求めるように乳首に吸い付かれ、肩がびくりと跳ねた。口で胸の先端の粒を食んだまま、アドラスはクレアへと上目遣いに視線をよこす。

クレアは羞恥と居た堪れなさにうろたえることしかできない。逃げ出したい。だけど彼を拒んだら契約違反とみなされて、純潔を奪われてしまう。

神々を慕う心からどうにか逃げずに踏みとどまっているが、本当は怖くて仕方がなかった。

動けない乙女に、悪魔は慈悲を与えない。

ちゅっ、ちゅぅ……と音を立てて胸のあちこちに赤い痕を散らす。

アドラスの意図がわからずとも、その行為には苦痛が伴わないことをクレアは次第に理解した。小さな安心が芽生えると、緊張にこわばっていた身体から徐々に力が抜けていく。

すると今度はアドラスが弄る胸の感覚に注意が向いた。やわやわと胸を揉んでくる、彼の手の温度。胸の膨らみをゆっくりと舐め、乳首をしゃぶる、舌の柔らかさ……。

くすぐったくて、落ち着かない。それになぜか触れられていないのに、下腹部のあたりがむずむずしてくる。

「いい子だ。淫乱の素質は十分にある」

「そんなこと、ない……っ」

「嘘をつくな。こんなに乳首をぷっくり立たせていては、説得力のかけらもないぞ。本当はもっと触って欲しいのだろう?」

「きゃあっ!」

左右の乳首を同時に摘まれ、鋭い痛みに肩がすくんだ。だが……クレアが感じたのは痛みだけではなかった。チリリと熱を帯びた甘い痺れを確かに自覚して、きゅっと腹に力が入る。内腿を擦り合わせたのは無意識だった。

「……ああ、下も可愛がって欲しいのか? だがそこは最後のお楽しみだ。まずはほかを楽しませてもらおうか」

「きゃっ、うぅ……っ」

舌で乳首を強く押された矢先に、今度はチュッチュと吸い上げてくる。乳首がジンジンしてきたら、今度は口に含んだ乳房をジュパッと音を立てて離すのを繰り返された。振動で膨らみがたわむ。アドラスの唾液で濡れた胸は卑猥さが際立って見ていられない。

「恥ずかしいか?」

ちりりと、胸元に痛みを感じ、恐々と顔を持ち上げてみると、肌に浮かぶ赤い花弁が増えていた。

「……んっ、これは……純潔を奪う、準備ではないの……?」

だとしたら約束が違う。未知の行為に心が挫けそうになりながらも、クレアは気丈にアドラスを睨んだ。

来年春が来れば、クレアは成人する。村での伝統の儀式を終えて、晴れて大人の仲間入りをするはずだった。

儀式についての心構えは、村の女たちから少しずつ教わっていた。

——神様に選ばれた男に純潔を捧げることで、あなたは大人になるの。これは神聖な儀式であると同時に、血の穢れが伴う、危険な儀式でもあるわ。……安心なさい。男たちに任せていれば、何の心配もないわ。

成人の儀は天界の教えにまつわる神聖なものだ。儀式をせずに純潔を悪魔に奪われるなど、決してあってはならない。

訝しがる無知な乙女を悪魔が嗤う。

「準備か、……そうとも言えるな」

男は顔を引き攣らせたクレアの手を掴み、ボトムスの生地越しに自らの股間に触れさせた。

「ひぃっ……いやっ!」

「だがこれは、目的を遂行するために特別必要というわけではない」

布越しでもわかる局部の体温と異様な膨らみに、クレアの手が震えた。

「早い話、俺のここにあるものを、お前の大切な場所にぶち込めば終わりなんだ。クレア、お前が重要視しているのはそれだろう? となるとこんなものは、ただのお遊びでしかない。違うか?」

掴まえた手を持ち上げて、アドラスはクレアの手のひらに口付ける。

「俺はただゲームを楽しんでいるだけだ。これを準備とするかはお前の捉え方次第だぞ」

「どういう……こと?」

小指の第一関節にアドラスの歯が当たる。甘噛みして、ぺろりと舐められた。

「気持ちいいか?」

当然、クレアはぶんぶんと強く首を横に振った。否定は予想済みだったらしく、悪魔は面白そうに肩を揺らす。

「いずれは俺の愛撫によって、どこからでも快楽を拾えるようになるさ」

「嘘よ……ありえない」

「信じないならそれでいい。どう思おうが、やることは変わらん」

指の股にねっとりと舌が這う、まるで芋虫が歩いているかのように気持ち悪い。これを快楽だと思うなんて、到底信じられない。

——悪魔の言うことに怖気付いてはいけないわ。これは試練なのだから……。受け入れ、耐え忍んで、いずれわたしは地上へ戻るの。

手を振り払いたい衝動を懸命に堪え、涙目になって挑むようにアドラスを睨みつけた。

琥珀色の目が僅かに細められる。その表情が何だか寂しそうに見えたのは、きっと錯覚だ。

アドラスの手から力が抜ける。逃げるようにクレアは自らの手を胸元まで避難させた。

「ここはまだまだ開発が必要か。ひとまず耳と胸と……、他はどこが敏感なのだろうな」

「きゃあ……ぁっ」

次は何をされるのかと身構えた矢先、左足を持ち上げられた。左右に開かれた足の間にアドラスは膝をつき、クレアのふくらはぎを指でつぅ……となぞる。

「いや……下ろしてっ」

その位置からだと、クレアの恥ずかしい部分が丸見えだ。ふくらはぎのくすぐったさ以上に、秘所が無防備に曝け出されたことが不安でたまらなかった。

脚の内側の、肌が薄い箇所を触れるか触れないかの際どいタッチでまさぐられる。微かに感じる男の手の感覚に身体がこわばる。

「スラリと伸びた美しい脚だが、もう少し肉が付いていたほうが俺の好みではあるな」

「……っ、知らない!」

こんなタイミングで褒められても、嬉しくもなんともない。

カッと頬が熱くなり、咄嗟に持ち上げられた足をバタつかせたが、その程度でアドラスが解放してくれるはずがない。

可愛い反抗には、思わず見惚れるほど美しい笑みで返されてしまった。

「まあ、肉付きが悪いのは仕方ないか。それでもお前は……あんな環境にいながらも、よくここまで美しく育ったものだ」

しばし状況を忘れてアドラスに魅入ってしまったクレアだったが、放心したままどうにか首を横に振る。

「……嘘よ」

こんなのはどうせ悪魔の戯言だ。この身が美しいなんて誰にも言われたことがない。

「嘘なものか。お前はとても美しいよ。肉体だけではなく、顔も、声も、——魂もな。お前という存在の価値を隠し続けた、村の連中の罪深さをお前が知らないのは、愚かを通り越してむしろ清々しいよ。よくぞ今日まで純粋でいてくれた」

歌うようにすらすらと述べられた、これを賛辞と捉えて良いものか。人から褒められ慣れていないクレアは、反応に困った。

——駄目。悪魔の言葉を簡単に信用してはいけない。

騙されるものかと口を噤む。強い意志がみなぎるその顔をふっと笑い、アドラスはクレアの両足を持ち上げた。

「……なっ……っ!」

柔軟性に富んだ身体は易々と折れ曲がり、まんぐり返しの体勢になったところで手近にあったクッションを腰の下に差し入れられた。

「大人しくしていろ。ゲームを忘れたわけでもあるまい」

「いや! こんな格好、やめてっ!」

「嫌だというならゲームは放棄する、ということで構わないな?」

「…………っ!」

頷ける、はずがなかった。

大人しくなったクレアの秘所に、アドラスが顔を近づける。長い指が、ねっとりと秘裂を撫でた。

「ああ、ちゃんと濡れているな」

膣より分泌された愛液をすくい取り、クレアの太腿に塗りつけて湿り具合を教えてやる。

それが意味することへの知識がない、無垢な娘は恥ずかしがりながらも当惑した。

「これはお前の身体が、雄を誘っている証だ」

「……嘘、……そ、んなこと、ない!」

「お前が心で誰を慕っていようが、肉体は正直だからな。快楽を与えられると、ココはこうして蜜を垂らし、雄を受け入れる準備を始めるんだ。知らなかったか?」

顔から火が吹き出しそうだった。

知らなかったかと問われれば、そうとしか言いようがない。村の者は誰も、クレアにそんな卑猥な知識は教えてくれなかった。

だから悪魔が与えてくる知識に真偽がつけられず、ただうろたえる。神の敵の言葉は全て偽りだと突っぱねるには、クレアの性根は優しすぎた。

「……っ、ぅ……もっ、ぃや……っ」

ついにクレアは泣き出してしまう。悪魔が怖いからではなく、考えることが多すぎて、完全にキャパオーバーになってしまったのだ。——しかし、悪魔は容赦がなかった。

至近距離でふぅっと、秘所に吐息を吹きかけられる。無意識に大切な場所にきゅっと力が入った。すると今度は、柔らかくて温かい、湿り気を帯びた感触が膣口を襲った。

「————なっ!?」

アソコを、アドラスが舐めている。

涙に濡れた瞳を大きく見開く。目に映る光景は、到底信じられないものだった。

「いやっ、やめて! ……きたないっ」

「どこがだ? お前に汚れたところなどありはしない」

くちゅ……っ、くちゃぁ……くちっ——。

わざと水音を響かせて、羞恥を煽られる。

こんなのはおかしい。制止を強く訴えるべきだと頭の中で警鐘が鳴り響く。しかし同時に、異常な行為を平然とやってのけるアドラスに対し、自分の感覚がおかしいのかと心の片隅に疑問が浮かんだ。

戸惑いがクレアの倫理観にヒビを入れる。それを悪魔が見逃すはずもなく——。

「舐めても舐めても蜜が溢れてくる。快楽を感じている証拠だ」

「……そんなこと、絶対にないわっ」

「口ではどうとでも言える。人間は嘘つきだからな」

「んっ……ゃ、違うっ、……本当に、わたしは……っ」

否定など無駄だと知らしめるように、アドラスは舌を膣に食い込ませた。

「ふぅんっ……んんっ、な……っ? ……それ、いやぁっ」

男の舌の温度を直に感じる、膣の浅い部分におかしな疼きが生じていた。落ち着かない感覚はじわじわと膣道の奥まで伝播して、やがて子宮へ、そして全身に得体の知れないもどかしさをクレアにもたらした。

気持ち悪い、とはまた違う。経験のないぞくぞく感にとにかく身体が休まらない。

「……ぅ、んっ、……ふぅ……ぅっ」

肉体の中心から目を背け、豪華な内装の部屋を眺めて気を紛らわす。そうして一秒でも早くアドラスが飽きてくれるのを待とうとしたクレアだったが、直後——秘所に感じた強烈な刺激に腰を跳ね上げた。

「——ひっ! あっ、ああぁっ、……なっ!? やあぁっ」

アドラスは膣を舐め啜りながら、指でクリトリスをいじり始めた。

膣口から溢れる愛液を指に絡め、滑りを帯びたその指で肉芽の上をなぞりながら往復する。

そうしているうちに、慎ましく潜んでいた芽が僅かに顔を覗かせた。神経が集中するその部分を、指先で軽く引っ掻かれると、クレアは身体をびくんと痙攣させた。

無垢でありながら敏感な身体だ。性の快楽を覚えさせたら、どんな乱れ方をするのだろうか。

堕としがいがあると、アドラスは内心ほくそ笑む。そして何も言わずにクリトリスを包む皮を指でぱくりと左右に割り、ぷっくりと突き出たピンク色の肉芽に唇を寄せた。

舌先で裏筋を丁寧に舐めてやると、たまらずクレアが暴れだした。

「やだっ、もうやめて……っ、ああぁっ、あっ、……こんな……っ、お、かしぃっ……!」

なりふり構ってはいられなかった。クレアは腰を振って愛撫から逃れようとするが、すかさずアドラスに腰を抑え込まれてしまう。赤ん坊がおしめを替える時のように、足をさらに上半身のほうへと畳まれる。上を向いた秘所からアドラスは一向に顔を離してくれない。

クリトリスからもたらされる快楽は、性体験のないクレアには強すぎるものだった。強烈な刺激に心がついていかず、悪魔と交わした「約束」を忘れて身をよじる。

そうしているうちに、ふと視線をクレアの顔に移したアドラスと目が合った。

「ひんっ……んんぅっ!」

たった一瞬。琥珀色の瞳に自分が映ったと認識した途端、これは受け入れるべき試練なのだと思い出す。

「ふ……んっ、ん……んぅ、ぅっ、うぅんっ」

暴れるのをやめたクレアを褒めるように、悪魔は優しい手つきで太腿を撫でた。

「ん……ぅ、う、くっ……ぅう……っ、んっ……」

抵抗はいけない。ならばせめて自分の口から漏れるおかしな声だけでもどうにかしようと、クレアは必死になって唇を閉じた。

ツンと育った肉芽を窄めた口でしごかれ、足先にぎゅうっと力がこもる。腹の底から得体の知れない予兆が迫り来るのを察して、膝や腰、手先が小刻みに震えだした。

「……ぃっ、んん……っ、んぅうっ、やぁ——!」

快楽に追い立てられた果てに、とうとうクレアは絶頂を迎えた。不可思議な感覚の大きな波を全身で感じながらも、愉悦に浸るより先に何が起こったのかがわからず戸惑う。ビクビクと痙攣するナカにどことなく虚しさを覚えつつ、クレアは息を荒くしてアドラスを窺った。

「……何を、したの……っんぁあ」

ぺろりとクリトリスをひと舐めして、アドラスは秘所から顔を離す。

「俺は何も。ただここをいじってやっただけだ。気持ちよかっただろう?」

「そんなこと……ないわ」

「快楽に逆らえず絶頂に達しておいてよく言えたものだ」

「今のが、快楽ですって?」

あんな訳のわからない、自分が自分でなくなるおかしな感覚が——? それこそ、ありえない。

「そうだ。お前もすぐに性の快楽を覚えて俺を求めるようになるだろう。愛撫だけでは物足りず、ここに俺のペニスを欲しがる日も遠くない」

アドラスはクレアの足をベッドに下ろし、彼女の下腹部を押し揉む。

子宮が軽く圧迫されて、なぜか膣がうねった。

「ない……そんな日は絶対に来ないわ!」

腹部の熱が疼きとなる前に、強く首を振って色欲を脳裏から追い出す。悪魔の思い通りになんてなるものか。

クレアの瞳からは、未だに希望の光が消えていない。誘惑に耐え続け、ゲームに勝てばアドラスは自身を解放してくれるのだと、クレアは本気で信じていた。

そんなある意味おめでたい獲物に含みのある視線をよこして、アドラスは自らの衣服に手をかけた。ひとつずつ、着ているものを脱ぎ捨てていく。

露わになった男の裸体に、クレアは思わず見惚れた。日焼けを知らない、傷ひとつない白い肌。程よく筋肉がついた、引き締まった肉体。そして——……。

「…………っ!」

目線を下げた末に男の象徴——そそり立つペニスを直視した瞬間、我に返って急いで両手で顔を覆う。

異性の裸体は初めてというわけではない。幼いころに、亡き父の裸は何度も見ていた。村の女たちにも、女性と男性の身体の違いについては教わった。

大人になるため儀式として、クレアの女性器に「ソレ」を受け入れる日が来ることも——。

でも、嘘……。あんなに……大きいなんて……。

アドラスのペニスは、記憶の片隅に残る父のそれとは全く別物だった。

太くて、長くて。先端が膨らんでいて……、とても硬そう……。

勃起したペニスを初めて見たクレアは顔を真っ赤にしながら涙目になった。そしてうろたえながらも好奇心に負けて、指の間からチラリとそれを見てしまう。

……あんなモノが、わたしのナカに……この悪魔は、入れようとしていたの……?

「むり……無理よっ。そんなの、大きすぎるわ……っ」

とても人間が受け入れられる代物じゃない。

口に出したクレアはすぐに、ゲームに負けた時を想像してしまった自分を恥じた。

「無理なものか。お前はいずれ、俺のペニスを自分から欲しがるようになる。これで膣奥をガツガツと彫られて悦び、子宮に俺の精子をねだる時が——必ずな」

そんなの絶対に、ありえない。あんなのを挿れられたら、死んでしまう——。

恐怖に顔を引き攣らせるクレアに追い打ちをかけるように、アドラスは信じられないことをやってのける。クレアの脚を左右に大きく開き、秘裂に肉棒を擦りつけてきたのだ。

「い……いやっ」

ダイレクトに感じる生々しい熱にクレアは慄く。怯えながらも、先程まで散々いじられたクリトリスの上をペニスが行き来する感覚に、確かな快感を覚えて泣きそうになった。

クチッ、クチュ……。ペニスに愛液が絡んでは粘着質な音が響く。怖い……怖いのに、押し付けられる肉棒の熱に膣口がぱくぱくと開閉し、下腹部にきゅうっと切なさが込み上げた。そんな身体の変化についていけず、ただ首を横に振るしかできない。

「……ふぅ……んっ……」

胸元で指を組み、クレアはひたすらに辱めが終わるその時を待った。拒絶の言葉を漏らさぬよう、唇を噛み締める。

ゲームのルールを守ってさえいれば、悪魔はクレアを犯せない。ならば下手に暴れず、甘言に流されぬよう自分を律して、耐えるまでだ。

愛液と先走りに濡れたペニスにコシュコシュと擦られ、クリトリスがじぃんと痺れた。緩い快楽に膝が震える。腰が浮きそうになる衝動をどうにか堪える。

いかがわしい姿を見ていられなくて、きつく目を閉じた。

そんなクレアを、アドラスがふっと笑う。

最後に一度、愛液で滑りを帯びたペニスの先端を膣口に押し付けてから、アドラスはクレアの膝裏に手をかけて持ち上げた。そしてスラリと伸びた脚の付け根でペニスを挟むように、左右の太腿を閉じる。

「……え……? ひっぃ……っ!?」

脚の間に異常な熱さ感じて薄らと目を開いたクレアが悲鳴をあげる。

自らの脚の間を、アドラスの硬いペニスが行き来している。素股という言葉も、その行為の意味もクレアは知らない。しかし知識はなくとも、これが卑猥な行いだというのは直感的に理解できた。

アドラスが腰を前後させるたびに内腿にペニスが擦れ、熱さと脈動が伝わってくる。

「……っ、いやぁ……っ」

「何が嫌なんだ? 約束通り、お前のナカには挿れていないだろう」

確かに、アドラスの言う通りだ。

しかし、本当にそれでいいの……?

重要なのは純潔だと。処女を守れたら問題ないとばかり考えていたのが甘かった。こんな淫らな行為を悪魔から受けては、肉体が汚れてしまう。

地上に戻れたとしても、神様はわたしを許してくれるだろうか。

「……ゃっ、こんなの……いやっ」

アドラスの腰が裏腿に密着すると、ペニスが押し出されて腿の間から亀頭がクレアの視界に入った。グロテスクな肉棒が顔を覗かせるたびに羞恥心が積み重なっていく。

皮膚の薄い内股で、芯を持ったペニスの硬さや感触をありありと感じる。卑猥さに心臓が激しく高鳴った。

動いていないのに、身体が熱い。

クレアの膝が左右に割り開かれる。ずるり……ずるりと赤黒い剛直が秘裂を行き来し、クリトリスを擦り上げた。

「ひぃ……っ、や、やぁっ……ぁっ」

下腹部に甘い痺れが走り、膝が小刻みに震えた。秘所をいじられると、自分が自分じゃなくなるおかしな気配が強くなる。

性の快感に慣れず戸惑うクレアをひとしきり楽しんだ後、アドラスは自らの分身を己の手で扱いた。

ペニスの先端から勢いよく吐き出された白濁色の液体が、クレアの腹部にかかる。

「————っ!」

飛んできた飛沫にクレアは身をすくませた。一瞬、何が起こったのか彼女は理解ができなかった。

射精を終えたアドラスは、娘の肌から精液を指ですくい取り、その指を愛液でぬらつく膣の浅い部分にぷくぷくと出し入れした。

「いっ……や、やめてっ!」

「わかるだろう? これは本来、この奥に吐き出すものだ」

成人の儀式について村の女から教わった際に言われた、「精液」や「子種」という単語が脳裏をよぎる。

「んっ……それは、でも……わたしの相手は、あなたじゃない……っ」

子作りは神聖な行為だ。悪魔の精液を胎内に注がれるなど、決してあってはならない。

いやいやと首を振って拒絶するも、クレアの口調は弱々しい。反抗に気分を害したアドラスが、いつ指を膣奥まで挿れてくるかと思うと、気が気じゃなかった。——同時に芽生えた、その指で膣奥を弄られたらどれほど気持ちいいのだろうか……という邪な願望は、全力で思考から追い出した。

「……ひんっ……ぁっ」

クリトリスをぐりりと押され、びくんと腰が大きく跳ねた。

些細な責めにも反応を示す敏感な肉体に満足したアドラスは、膝を立ててベッドに座り直し、面白そうにクレアを見下ろす。

「……まあいい。時間はたっぷりある」

上半身を起こしたクレアはシーツを手繰り寄せて身を隠し、不思議そうにアドラスを見た。

「…………これで終わり、ではないの……?」

「ひとまずはな。なんだ、物足りなかったか?」

「……っ、違うわ! ゲームに勝ったら、地上に帰れるとあなたは……!」

ため息ひとつ、呆れを隠さず悪魔は前髪をかき上げた。

「誰がいつそんなことを言った? お前から求めてこない限り、俺はお前を抱かない——これが契約だろう? 勝手にルールを改変するな」

アドラスの言葉に、クレアは呼吸を忘れて目を見開く。

「だいたい、地上に戻ってお前はどうするつもりだ? 村の連中に再び焼き殺されるのか? 偽物ではあるが、地上でクレアという女はすでに村人たちに殺されている。死んだはずの女が再び姿を現したら、村の連中はどう思うだろうな」

「……でも、わたしは戻らないと……」

「悪魔に助けられた人間を村人たちは受け入れるのか? もうあの村に、お前の居場所はない」

「それでも!」

いつまでも、魔界にはいられない。たとえイーリカ村には帰れなくても、神の加護が及ぶ地上に、なんとしてでも戻らなければいけない。

「お願い、わたしが地上に戻れる方法を教えて。わたしにできることなら、なんでもするから」

泣いてすがるクレアを、悪魔は鼻で笑った。

「では、地上に帰るための通行料として、お前は俺に何を払える?」

「…………え?」

「お前が差し出せるものを言ってみろ。その時は新たな契約を結んでやる」

クレアは無知で、無闇に人を信じてしまうタチではあるが、筋金入りの馬鹿ではない。アドラスが多くを語らなくても、地上に帰りたいならその身を差し出せと言われていることをすぐに理解した。

「ふざけないで!」

「ふざけてなどいない。俺はいつでも真面目そのものだ。地上に帰りたいと望むなら、いつでも天国に連れて行ってやろう」

怒りを露わにするクレアに「その顔も可愛いな」とアドラスがうそぶく。

「村人に焼き殺されかけた際、死にたくないと願ったのはお前だ。——助けてとすがり、俺の手を取ったのも。この結果はお前の選択によるものだと、くれぐれも忘れてくれるな」

シーツをきつく握りしめて涙を流すクレアの頬にアドラスが口付ける。

自らの軽率な選択を悔いるクレアに、悪魔を振り払う余裕はなかった。



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