【小説サンプル】死にたがりの魔女と上位魔族2・第1話
※DL siteで販売中の作品の第1話サンプルです。
※文字数の都合により冒頭部分を省略しています。
あらすじ
逃げ出した魔女が上位魔族に連れ戻され、快楽責めによるお仕置きを受ける話。
全体を通したプレイ内容
人外(魔族)攻め・囚われ・無理矢理・肉体開発・しつけ・羞恥プレイ・子宮責め・快楽責め
・本編ではヒロインが攻め以外からお仕置き・性感開発を受けるシーンがあります。
・作中においてモブキャラの殺傷描写、流血描写がございます。
【第1話 捕獲】より
「長話が過ぎましたね。退屈させてすみません」
支配者の興味が自分に移りユキは身を固くした。
「さて……ユキ、お仕置きの時間といきましょうか」
「——っ」
ひゅっと息を飲み込む。
こんなぐちゃぐちゃに感情が入り混じった密室でそれを切り出してくるサファルが信じられなかった。
張り詰めた空気をものともせず、サファルは優雅にソファに深く腰掛け、ユキへと口を開く。
「本日の聖教会と聖都への奇襲は、もともとはそちらにいる男が計画したことです。なので下の広場に転がる聖騎士たちの死体については、ユキに原因はありません」
あえてそれを告げる意図を察したユキは、嫌だと泣きそうな顔で拒絶する。
罰を与えるために、わざわざ周りを巻き込む必要はないだろうに。
しかしサファルは容赦しない。ユキが最も嫌がることを、あえて的確に提示してくる。
「理解が早くて助かります。そうですね、これからこの場で起こる生殺与奪は、全てあなたの言動によって左右されます」
ただでさえ複雑なユキの心境を、サファルがさらに掻き乱してくる。
「あえて喚いて反抗的な態度を見せれば、あなたの憎しみの対象を葬ることも可能でしょう。これはゲームのようなものですので、どうぞ私を利用してください」
心理戦の提示に誰よりも戦慄したのは、はたで聞いていた聖女付きの侍女たちだ。彼女たちにはこれまでユキをストレスの吐け口にしてきた自覚があった。憎しみを持たれていても何ら不思議ではない。
対するユキは侍女への復讐心などかけらもなく、どうすればサファルの気を収められるかに必死だった。
侍女たちから受けた仕打ちを思い出している余裕はない。
他人ほどの縁しかない人間の命を無理矢理押し付けられたのだ。聖女たちやトオワタ、下の広場に集められた人間を人質に取られ、判断に窮する。
サファルはユキを精神的に追い詰めるのを目的としているのは明白だ。狙いが知れたところでこの場を凌ぐ最適解が見つかるはずもない。
皆殺しにしても問題ない、取るに足らない人間の命が予想外に役に立った。
ユキは生きたいと望む者の命を消されるのを厭う。そんな彼女が人間たち見捨てられないことなど、サファルはとうにお見通しだった。
下手に部屋の空気を刺激しないよう微動だにせず息を殺すユキの後ろから、目を潤ませた聖女がおずおずとサファルに歩み寄ってきた。
「あなたは下がって」
聖女は強引にユキを押し退けサファルの前に跪いた。
可憐な乙女を装う女は胸元で指を組み、神に祈るようにサファルを仰ぎ見る。
「ああ、誇り高き魔族のあるじ様。どうか……、どうか怒りをお鎮めください」
サファルが口を開かないのをいいことに、聖女の懇願は止まらない。
「この子が、ユキがあなた様になさったことをわたくしは存じません。……きっと許されぬ過ちを犯してしまったのでしょう。ですが、ユキはわたくしが手を差し伸べ、救うと心に決めた子なのです。おいそれと見捨てるわけにはいきません」
艶かしく身をくねらせ、聖女がサファルの足へ縋り付く。膝へ豊満な胸を押しつけた時、部屋の空気が数カ所で凍り付いた。
「ユキの罪は、主人であるわたくしに背負わせてください。罰はわたくしが甘んじて受けます。ですからどうか、この子にご慈悲をっ」
「ああ……聖女様……」
侍女たちが聖女の勇気に感極まって涙ぐむ。
茶番を放置してサファルはユキを盗み見た。
聖女側と魔族との温度差を正確に読み取っているユキは、とてつもなく居心地が悪そうだ。
眷属たちやサファルの友人の魔族が白けた視線を聖女に送るなか、部屋の隅でサウスがひとり壁に顔を向け、懸命に笑いを堪えていた。
聖女に振り回されてより一層複雑化するユキの心情が哀れでいて、とても可笑しいのだろう。サウスの心境は、主人であるサファルもまあまあ理解できた。
自分のことだけに精一杯になっていれば、混沌と化した部屋の空気で精神的ダメージを負うこともないだろうに。周囲に対して感受性が高すぎるのも考えものだ。
少々別方向にいじめすぎたかと苦笑し、サファルは足元で動く目障りな女に視線を戻した。
あわよくばユキの立場に成り代ってやろうという、野心が隠しきれていない。健気さを装った強欲な振る舞い、狙い通りに事が進むと信じて疑わない様相は、いかにも人間の権力者らしい。
「ひとつ訂正しますと、この子の主人はあなたではなく私ですよ。そうですよね、ユキ?」
「……え?」
きょとんとする聖女を無視し、サファルがユキに話を振る。
投げかけられた確認にユキは息を呑んだ。そして悔しさを滲ませた顔でサファルを見つめる。
ここで「違う」と否定すれば即座に聖女の首が跳ぶ。サファルの遊びを、ユキは的確に察していた。
そうやって悩んでしまうから自らを苦しめるのだろうと内心呆れつつ、サファルは聖女に向かって穏やかに微笑んだ。
「何を勘違いされているか知りませんが、貴女にはこの子の心を縛るための道具としての価値しかありません。ひとまず下がりなさい」
「えっ……ぁ」
「聞こえませんでしたか? そこにいては邪魔なので、離れなさいと言ったのです」
「そんな、魔族様っ……」
諦めの悪い聖女をノースが引き剥がす。始末するかと主人をうかがう配下に、サファルは首を横に振った。
サファルの意を汲み、ノースは聖女を侍女たちの元へ突き飛ばした。
「聖女さまっ」
「ああっ、なんておいたわしい」
侍女たちから熱い抱擁を受ける聖女に、ファルの関心は既にない。
「……さて」
小さく呟けばユキの体がびくりと跳ねた。
「ユキ、こちらへ」
ためらいを見せながらもユキは恐る恐るサファルの前に立った。
苦渋を滲ませ閉口する獲物に加虐性がそそられる。サファルの残忍な一面を感じ取り、ユキは無意識に修道服を握りしめた。
その手で誰にも縋ることができない。孤独で憐れな娘へとサファルは手を伸ばす。
「あんなものでも、あなたは見捨てられないのですね」
大きな手を頬に添えられユキは悔しそうに表情を歪ませた。
ユキに聖女たちへの特別な情はない。ただ彼女たちの死の原因に自らが関わることを忌避しているだけだ。
死にたがりの命の価値が、生を望んで懸命に足掻く命に優るはずがない。
我が身可愛さ故の葛藤に、サファルはとうに気付いていた。
「跪く必要はありません。あなたなりのやり方で、私に服従を見せてください」
具体性に欠けた無茶な要求にユキは眩暈に襲われた。
サファルはユキが困惑するのを承知のうえで命令を下している。
しんと静まり返った室内で皆がユキを注視して言動を待つ。舞台袖から突然、容赦なく舞台の中央へ引き摺り出されたユキは、向けられる視線よりもサファルの圧に慄いた。
「……っ」
できない、無理だと言いかけた口を閉じる。
「クライア……やめろ。そんなことしなくていい」
トオワタの訴えにユキの心がざわつく。
ここは鳥籠じゃない。自分を見ているのがサファルだけではないのだと、改めて思い知らされた。
それでもソファに腰掛けるサファルの前に立ち尽くして動けない。
ためらっていると、サファルが聖女たちを一瞥した。サファルの眷属たちが今にも動き出しそうな気配を感じ、ユキははっと顔を上げる。
「一度この部屋を血で汚し、また新たな証人を連れてきましょうか? それとも、私の所有物を自分の物だとほざく、そこの聖女に助けを求めますか」
「……やめて」
「聖女にこの危機を凌げると思いますか?」
ユキは否と首を振る。
聖女はいわば聖教会のシンボル的な立ち位置のマスコットにすぎない。生まれつき魔力を持っているというだけの、戦場を知らないどころか武器を持ったこともない貴族の娘だ。
「ここに集う人間の命を握っているのは神ではく、あなたです」
余計な命を押し付けてくる。
サファルの庇護下——鳥籠に居たならばこんなに悩む必要はないのだと、言外に、そして徹底的に知らしめられているのだ。
迷った末に、ユキは支配者に助けを求めようとした。
「何をすれば……」
「クライア!」
聖女が黙ればトオワタが騒ぐ。
ユキにとってはトオワタも聖女たちと同じく他人の位置にあり、同郷という共通点は仲間意識に反映されることはない。もとよりこの男の意見に耳を傾ける義理はないはずだ。
煩わしさを覚えるユキに構わず、トオワタは嘆かわしげに訴える。
「駄目だ、クライア。お前がこんな奴らのために犠牲になるな」
「なっ……」
聖女付きの侍女たちが絶句する。
教会の下働きごときがなんて無礼なと、彼女たちはトオワタを睨みつけた。
東方大陸の人間と、聖教会。新たな火種の燻りに、ユキはとうとう唇をきつく噛んで頭を抱えた。
立場や価値観が違う者たちの感情がぶつかり合い、摩擦でどろどろになった部屋の空気に頭痛がして、胃がキリキリと痛む。
「目の前の主人を置いて気をそぞろにするなんて、そんな無礼は教えてはいはずだよ」
「唇も、噛むなって何度言えばわかるんだ。やーっと癖が取れたのに、また覚え直しか?」
いつの間にかユキの斜め後ろに移動したノースとサウスが、左右それぞれの耳元で囁いた。
頭痛や胃痛がすっと消え、代わりにぞくぞくと背筋に悪寒が駆け抜ける。
「教育の不手際は悔悟しております。少しばかり補助をお許しいただけませんか」
「そうですね。こちらは構いません」
サファルの許可を貰い、ノースが後ろからユキの下唇を薬指でつぅ……と触れた。ユキの口が自然と開かれる。
サウスは主人に披露するように、ゆったりとした修道服の上からユキの体のラインをなぞる。
世話役である双子の助け舟に困惑しながらも、ユキは彼らを拒めなかった。
「ほら、しっかり思い出せ。いただいた魔力が抜けきっていたとしても、体はあの時の快楽を忘れていないはずだ。夢に見るほど焦がれて、本当はずっと欲しかったんだろ? ここに……」
「あっ……、ゃっ」
下腹部をぐぅっと押され、ユキの頬に赤みがさす。
ノースは唇に触れていた指を横に滑らせ、髪を掻き上げてユキの片耳を塞いだ。そしてもう片方の耳へと唇を寄せる。
「君の主人が誰なのか、ちゃんとその可愛い口で言ってごらん?」
「——っ!」
浅く速くなった自身の呼吸音に混ざって、はっきりと脳に響いた中性的な声音に、ひゅっと息を吸い込んだ。
ノースは魔術でユキを操っていない。しかし何度も教え込まれ、体に染み付いた服従の精神は鮮明にユキの心に呼び起こされた。
鳥籠で受け続けた、恥辱の記憶と共に——。
「…………っ、サファルさま」
紅い瞳を見つめ、気づけばその名を読んでいた。
クライア、駄目だと。叫んでいるはずのトオワタの声が遠い。
サウスが揉むように指圧する下腹部が、じくじくと熱を持ち始めた。
体が欲しているのは外ではなく、ナカを抉る熱い刺激なのだと自覚させられる。
「さあ、自分からサファル様に口付けて、甘えた声でおねだりしてごらん。周りなんて気にせず、ただ主人のことだけを考えればいい。これは君だけに許された特権だ」
疲弊しきった精神にノースの甘言が染み渡る。
優しく背中を押され、サファルへと足を進めてしまう自分の弱さに煩悶しながらも逆らえなかった。
靴を脱ぎ捨てたユキはゆっくりとサファルの膝の上に身を乗り上げる。
「クライア!」
トオワタの声に羞恥心を煽られながら、瞳に涙を潤ませてサファルに顔を近づけた。
思考を放棄し抵抗を諦め、楽な道へと走るユキに、トオワタは焦りを増幅させた。
自分がどれだけ一緒に東へ帰ろうと説得しても靡かなかったユキが、こうもあっさりと魔族に懐柔される。こんな不条理があってたまるか。
「やめろ、……やめてくれっ」
トオワタにはこの場にいる誰よりもユキを理解しているという自負があった。
ユキは東方大陸を襲った地獄のような厄災を共に乗り越え、同じ憎しみを背負う仲間なのだ。
西方大陸で奇跡のような再会を果たした彼女を、ここで見捨てることなどできようか。
「魔族よ、彼女は教会の人間ではない。俺と同じ、東の大陸から来た者だ」
ノースの言葉に従いサファルへ口付けようとしていたユキがぴたりと止まる。
「クライアは、勇者の召喚に何一つ関わっていない。むしろ俺たちは西の奴らに食い物にされた被害者であって、お前たち魔族の報復の対象ではない!」
「……やめて」
お前の憎悪にわたしを巻き込むな。
感情の波に流されそうになるのを俯いて耐える。ユキは手首にできたあざを服の上から握るように強く指圧し、鈍い痛みこそが自身の感覚だと認識する。そうでもしないと、平静な自分を保てそうになかった。
ユキの苦悩をトオワタは気付けず、視線を向けてきた魔族達へと必死に捲し立てた。
「お前達の仲間を討った勇者の召喚に用いられた、膨大な魔力は、東方大陸の人間からかき集めたものだ。西の大陸に神などいない」
「そんなっ、虚言にしてもあんまりですわ!」
聖女の反論にトオワタは激昂し瞳孔が開く。
「黙れ! 俺たちの大陸を地獄に変えておきながら、何も知らずにのうのうと富を貪る極悪人どもが! お前たちのほうがよっぽど悪魔だ。クライア! お前がこんな連中を助ける必要はないはずだろう!」
「違う。……そうじゃない」
情があって助けたいわけではないのだ。
トオワタが当然のように向けてくる仲間意識が気持ち悪い。
ユキの背中にサファルがそっと手を回した。ごわついた服越しにほのかな体温を感じ、ユキははっと手首の指圧を離す。
物言わぬ、静かな温もりにぼろぼろと目から涙がこぼれた。
「自分を犠牲にして、なぜそうまでしてこいつらを助けようとするんだっ」
「うるさい!」
叫び声は思いのほか部屋に響いた。罵詈雑言は長く続かず、歯を食いしばって嗚咽を堪えるユキをサファルが慰める。
「その男を黙らせなさい。ユキが集中できません」
サウスがすかさずノースより受け取った猿轡をトオワタに噛ませる。
サファルがこの人間を煩わしく感じつつも始末しない理由を、眷属達は把握済みだった。
「無力だなあ。求めた女がてめえ以外のモノになる様を、そこからよーく見てろ」
言葉を成さないくぐもった声をあげるトオワタに、サウスがこっそり耳打ちしてやる。
顎に指をかけられ、サファルの瞳を食い入るように見つめるユキにサウスの声は聞こえていない。
「あれが、あなたの心を頑なにする原因ですか?」
「……違うっ」
「そうですか。では改めて、続きをどうぞ」
先を促され、涙で濡れたユキの頬が真っ赤になる。
目を見開き、口をぱくぱくさせたと思えば眉をへにゃりと下げてうろたえて。戸惑いながらもユキはサファルから離れようとはしない。
やがていじらしくサファルを見上げ、男の肩に手をつきゆっくりと腰を上げた。
ノースに言われた通りに自らサファルへと口付ける。唇を触れ合うだけで済ませてはいけないのは散々教え込まれてきた。
ユキはそっと舌を伸ばし、サファルの上唇と下唇の境目を遠慮がちに舐めた。
微かに開かれた口におずおずと舌を差し入れる。サファルの舌へと自らのそれを絡めた。
生暖かさと同時に舌にじんとした痺れを感じ、それはサファルの魔力だと瞬時にユキは思い出した。
「ふぁっ……ぁ……」
久しぶりの感覚に全身がカッと熱くなり、力が抜けていく。
唇を離しかけたユキはサファルに後頭部を押さえられた。
ユキの引っ込んだ舌を追うように、サファルが口腔を蹂躙する。ユキは口を開いて何の抵抗もなくサファルを受け入れた。
鼻で呼吸するとサファルの香りが鼻腔をくすぐる。雨上がりの森に漂う、懐かしい香りにユキの思考はとろけていった。
舌に乗せて与えられた唾液を迷うことなく嚥下する。
「ん……んぅっ……」
腹の奥にじわりと熱が溜まりだし、無意識に腰が艶めかしく揺れた。
理性を溶かすように体が欲情していく。その実感に、ユキは絶望と歓喜を同時に味わった。
「……っ、うぅ——っ!」
遠くからトオワタの呻き声が聞こえるも、そちらに意識に留めていられない。
ちゅっと舌を吸われ、サファルはようやくユキとの口付けを解いた。
力の抜けた体をサファルの胸に預け、短い呼吸を繰り返す。
サファルはトオワタに一瞥をくれた。
「見当違いもいいところです。人間の諍いなど我々にとってどうでもよい。……ユキ」
名前を呼ばれ、ユキは微かに反応を示す。
「あなたの罪は、そんなところにありませんよね?」
罪。追い詰める目的ではなく、服従するための言い訳として使われた単語に思考がこんがらがる。
かつての仲間であるトオワタがいて、西方大陸に生きる聖女がいて、目の前には支配者が——。この密室は、まるでユキを取り巻く世界の縮図だ。
罪を償うのは当然として、ユキにとって何よりも重い罪はなんだ?
過去から目を背けることか。生き残った分際でのうのうと生き続けていることか。——支配者の元を、逃げ出したことか……?
置かれた状況に混乱を極めるユキに構わず、サファルは丈の長い修道服の裾をたくし上げた。
「いやっ」
「抵抗したいならお好きにどうぞ」
「————っ」
体が震えたのは足が外気に晒されたからじゃない。
逃走は無意味で、力では到底敵わない。
非力なユキなど容易に好き勝手にできるというのに、サファルはあえて選択の自由を与えてくる。
自由ではあるが、逃れられぬ明確な理由もまた、支配者はユキへと示していた。従うのはやむを得ないことなのだと言い訳できる逃げ道が、この場では唯一正しい選択なのだと錯覚してしまう。
陵○を阻止しようと咄嗟に掴んだサファルの手首から、ユキは無言で手を放した。
ソックスを脱がされる。靴擦れで膿んだ踵に外気が当たり、開放感と共にひんやりとした冷たさが足を包んだ。
ユキの生脚の、ふくらはぎから膝の側面にかけて浮かんだ靴跡の形をした痣が人目に晒される。
サファルは笑みを消してため息を付いた。
「認識を改める必要がありますね。この体はあなたの物ではなく、私の所有です。他者が傷を付けようとするならば、あなたにはそれを回避する義務がある」
「——っ、わたしはっ」
誰の物でもないと言おうとして悔しげに口を閉じた。沈黙すると、突き刺さるような視線を四方から感じ、改めて置かれた状況を思い出す。
人の目から逃げるようにサファルの胸に顔を埋めればかつての淫らな記憶が鮮明によみがえり、秘所がじんと疼いた。
傍からすればサファルに甘えているような仕草だが、ユキは気にしていられなかった。
丈の長い修道服の裾から差し入れられた手が、太腿をまさぐる。筋に沿って膝から脚の付け根へと指が通り、触れられてもない下腹部が切なさを訴えた。
「んっ……ぅ……」
呆気ないほど簡単にユキの体に淫欲の火が灯る。
これが欲しかったのだと、久しぶりの愛撫に歓喜し、更なる刺激を求める自分自身に止まりかけていた涙があふれた。
ショーツのラインをなぞられて上体が艶めかしくくねった。
着衣の上からだと微かに体が揺れただけでしかない。しかしユキの悩ましげな吐息に、見ている者たちは修道服の中の淫らな行為を想像し、顔を赤く、もしくは青くした。
サファルが与える触覚的な情報が先行し、観客を意識することがユキには叶わない。
「ふ、ん……っ」
下着の布越しに指がクリトリスに触れた。付近を往復し、気まぐれに押され、爪を立てられるもそれは強い快楽には遠く及ばずもどかしさが積もる。
かりかりと、爪を遮る布地が恨めしい。
もっと、もっととねだるように立て膝になり、同じタイミングで腰に回されたサファルの手がくっとユキを引き寄せる。
前屈みに倒れ、ユキはサファルに抱きついた。
右側腰骨付近のショーツと肌の隙間にサファルが二本の指を入れた。指を曲げて生地を引き伸ばした途端、ぴりっとした魔力が流れて生地が裂けた。左側も同様に。腰の緩い締め付けがなくなり、布きれとなったショーツがはらりと落ちる。
覆うものが消えた秘裂にサファルが浅く指を沈めた。
「——っ、ぁ……」
指の滑らかな動きに秘所のぬかるみを知り、顔がカッと熱くなる。
クチっ、クチュ……と。今にも水音が聞こえてきそうだ。
「んぁっ」
愛液をまとわりつかせた指が一本、膣の中へと侵入してきた。狭く閉じた膣道が押し広がる感覚に、ユキの腹部に力が入る。サファルの長い指を、膣壁がぎゅうぎゅうときつく締めつけた。
その動きは異物を拒むのではなく、まるで歓迎しているかのようだった。
「外へ出て以降、こちらに誰かを許しましたか?」
「……っ、ないっ、ぅ……だれも……」
検分するように、そしてそこでの快楽を思い出させるように。中に埋まる指が狭い膣壁を押しながらゆっくりと動く。
「ふぅ、んっ……は、あっ……」
肉壁を拡げるように指でくるくると円を描かれ、徐々にあの狂気的な悦楽が蘇ってゆく。
指ひとつ程度では済まされない。膣をぎちぎちに広げる熱くて硬い熱棒を。指先が触れているその先へも及ぶ、絶対の支配を——。
淫欲が腹の底から沸き上がる。このままではいけないと危機感が募るも、回避する方法などありはしない。
焦って呼吸が速くなるユキを落ち着かせようと、体を支えるサファルの手が背中をさすった。
「ゃあぁ……、うぅ……」
この状況を敷いている男に縋るしかない。無力感すらもじわじわと快楽がかき消してゆく。
「こうして、自分で慰めたことは?」
膣に中指を入れられたまま親指でクリトリスを押される。
「んんぅっ、やぁ、あっ……、な、いっ」
びくびくと腰を震わせながら、ユキは必死に首を横に振った。
ユキは自分が潔癖だとは思っていない。しかし快楽を求める行為の先にサファルの存在を思い出すのが怖くて、自慰をすることができなかった。
どうせ一人では満足できないと、心のどこかでわかっていたのかもしれない。
毎晩、過去の悪夢を曇らせるほど鮮明で淫らな夢が脳裏を駆け抜ける。
今ここで感じている快感は、夢でなく現実のものだ。
「あっ、ん、んっ……っ。んくっ、んん……うう」
親指の腹がクリトリスの頂をこねる。つんと主張する肉芽の裏筋を押し上げられ、膣道がきゅうっと締まった。
しかしユキが次なる刺激に身構えるより先に、サファルの親指はクリトリスから離れてゆく。
「……んっ、あ……あっ」
膣に入る指が二本に増やされる。痛みはないが圧迫感が増した。
「あ、やぁっ……、そこ、は……っ」
「覚えていますか。好きなところでしょう?」
「ちがっ、やっ、あ……あぁっ……」
腹側の浅い部分をくちゅくちゅと指で押し擦られ、快楽の波が高くなる。
愛液の水音が微かに耳に届き、ユキは羞恥にうろたえた。
ここは鳥籠じゃない。多くの人が見ている場所で、自分ひとり何をしているのかと我に返るも、すぐに新たな快感が上乗せされて冷静さをかき消す。
「んぅ……っ」
三本目の指が挿入された。膣道を広げるように進んだ指は、最奥の肉壁をこりこりと押し、鉤状に曲げて戻ってゆく。
指先が入り口近くへ到達すれば、浅い位置にある腹側の感じる部分を数度押し、再び膣奥へ。
「やっ……、あんっ、んぅう、やだっ、あっ……ぅ」
徐々に指が奥に留まる時間が長くなる。
三本同時にぐにぐにと肉壁を押し広げられたかと思えば、一番長い中指がポルチオを集中して責める。
サファルが気まぐれに動かす指は予測ができず、そちらに気を取られては周囲を意識する暇もない。
子宮の入り口は快感の源泉だと散々教え込まれた体だ。
しばらく性的な事象とは無縁な生活を送っていたとしても、ポルチオで味わった強烈な快感を忘れられるはずがない。
いとも簡単に呼び覚まされた快楽に悶え、次のステップへ昇り詰めるため膣道は貪欲に指を咥え込む。
「気持ち良いのでしょう? どのような状況であっても快楽を拾える、淫らな体です。絶頂する姿をここにいる皆に見てもらいましょうか」
「やっ……いや、やだあっ……ぁっ」
サファルが耳打ちするものだから気が逸れて絶頂には至れない。
理性を押し流す大波をはぐらかされ、解放への欲求は蓄積される一方だった。
羞恥ともどかしさのはざまで、ユキはなすすべもなく腰をくねらせる。
最初の口付け以降、サファルはユキに魔力を与えていない。
しかしサファルの魔力は呼び水となってユキの性欲を煽り立てた。
もっと……もっとと、本能が理性を磨り潰す。さらなる強い刺激を、そして絶頂を望んでしまう。
「いぁ、あっ、あ……、いやぁあ……」
人に見られているのが嫌なのか、達せないことが嫌なのか。もはや口走るユキにも判別がついていない。
「いや、じゃないよね。気持ち良い時はなんて言えばいいんだった?」
「んうぅ——っ」
後ろからノースに囁かれ、ユキが背中を丸くする。
——きもちいい。否定しようがない事実を突きつけられて一層思考の混乱が悪化する。
「……いぃ……、いいっ、…………っ」
「そうだね。愉悦は恥ずかしさを凌駕する。痛みなんかよりもずっと、他人の感情を遮断して、君を君でいさせてくれる。今その身に受ける感覚に、もっと素直になりなよ」
「はっ、あぁ……、あんっ、ううぅ」
ユキはノースの囁きから逃れようとして、サファルの肩口にぐりぐりと額を押し付けた。
甘えるような仕草にサファルはしがみつくユキの背中を軽く叩いてあやした。
この舞台を作り上げた元凶に縋るしかない、憐れな獲物が愛おしい。
ユキが二度と逃走を企てないように。徹底的に拠り所を潰し、己の手の内でしか生きられぬようトラウマを植え付けることをサファルは一切ためらわない。
ノースも主人の意図を汲み取ったうえでユキを追い込んでいる。
淫らな肉体を自覚させ、主人が望む精神状態へとユキを導く。
「あうっ、あっあぁっ、あ、んん……っ」
サファルの指がポルチオを突く。しかし絶頂へと昇り詰める前に膣の締めつけに逆らい指は抜け、またもや迫りくる大波をはぐらかされた。
「はぁ……、ああっ……ぁっ」
「指だけで満足できますか?」
「あぅ……うっ」
するりと抜けた指が膣口をくるくるとなぞる。ナカへの刺激を望む膣道のうごめきをユキは嫌でも自覚させられた。
足りない。これだけでは満たされない。
指よりも長大な肉棒が体の奥を制圧する充足感を、ユキはとうに知ってしまっている。
「…………サファル、さま」
「どうしましたか、ユキ?」
だめだと理性が警鐘を鳴らして訴えてくる。
サファルの魔力に染まりきっていない体は自由が利く。僅かに残る冷静な思考で、男の思惑に反して嫌だと抵抗することもできた。
しかし同時に理性は周囲の人間たちを意識してしまう。言動を間違えれば囚われた彼女たちの首が飛ぶ。ならば従うしかない。
安直に導かれた答えが支配者の思惑の一部だと、ユキに疑ってかかる余裕はない。たとえ疑えたとしても、抗うことはできなかっただろう。
「……抱いて……ください」
懇願は敗北の宣言だ。
「サファル様ので……、イキた……い」
どのみちこの男に見つかった時点で、屈服は時間の問題でしかなかった。
自らサファルに屈したことを苦心する反面、諦めからくる解放感にユキは心の片隅でほっとしていた。
「いい子だね。ちゃんとおねだりできた」
後ろからノースに褒められる。サファルにも頭を撫でられて、ユキの中で安堵はより一層強まった。
頬を赤くして潤んだ瞳で上目遣いにサファルを見つめる。
うっとりとしたユキの横顔に焦ったのはトオワタだ。男は魔族の拘束を解こうと必死にもがいた。
「ん——っ! んんっ……!」
駄目だ。魅入られてはいけないと。ユキに向かって叫びたいのに噛まされた猿轡が発言を許さない。
ソファに腰掛ける魔族の脚に跨り、甘えるように身を寄せるユキからは、これまでにない色香が漂っていた。
——お前はもっと、何事に対しても頓着がなく、誰に媚びない孤高の女だろう!
トオワタにとってユキはずっと憧れの存在だった。縁が巡りに巡ってようやく自分のモノに出来るチャンスが来たというのに。
いずれは強気な瞳を蕩けさせ、自分だけに甘えるように仕向けたいと何度も妄想したことを、人間でもないパッと出の魔族に横取りされた。
本来サファルの立ち位置に居るのは自分だったはずだ。こんな状況、納得できるはずがない。
ユキの恥じらいながらも喘ぐ姿に、トオワタは鼻息を荒くし涙を流した。
魔族に拘束されてなおももがくトオワタを、サウスは冷たい視線で観察していた。
トオワタがユキへと寄せていた一方的な支配欲が、ユキが他人のモノになったことでより一層強まった。——といったところだろう。
遅えよと、サウスは心の内でトオワタを嗤う。
トオワタ自身では魔族に太刀打ちできないからと、ユキにサファルへの反抗を促す様子はあまりにも滑稽だった。
独善的な主張が愛する女を追い詰めていることにも気付けない、独りよがりな男だ。
「騒がずに黙って見てろ。てめえは愛した女ひとり守れない……、いや、守らせてもらえない、ただの雑音だ。恨むならあの子じゃなくて、自分の無力を恨むことだな」
「——っ!」
サウスの煽りにトオワタはもがく力を強める。しかし人間が魔族の力に敵うはずもない。
「余計なことをするな」
トオワタを拘束する仲間に面倒そうに文句を言われ、サウスは悪びれることなく謝った。
そんな視界の片隅で起こるやり取りが耳に入るわけもなく、ユキの視線はサファルの手を追いかけた。
寛げたボトムより取り出された、そそり立つ剛直に子宮がきゅんと訴える。これが欲しいのだと膣がうねり、淫らな渇望に僅かに残る理性がみるみる溶けていった。
裾から服の中へと潜り込んだ手が腰に添えられると、ユキは自ら膝立ちとなる。修道服の裾がたくし上がり、ユキの脚部が人前に露わになった。
無駄な肉のないしなやかな脚は、肌に浮かぶ傷やあざが痛々しい。
溜め息を吐きたくなる気持ちを堪え、ノースは周りに目をやった。
顔を赤くしながらも行為を食い入るように見つめる聖女たち。興奮を抑えきれないのはトオワタも同じようだった。ふうふうと鼻息を荒くして、男の視線はユキを捕らえて離さない。
トオワタの衣服越しでも判別できるほど盛り上がった股間を、おそらく本人は自覚できていない。
空気を壊しかねないので失笑したくなるのをノースは視線を逸らすことで耐えた。
「自分で挿れてごらんなさい」
久方ぶりに目の当たりにした長大なペニスに怖気付くユキへと、サファルは容赦なく命令を下した。
ユキは怯えながらサファルをうかがい、有無を言わさぬ笑みに逃げ道はないと悟る。
ごねればその分、また性感を煽られてしまう。ここまでくれば道はひとつしかない。
意を決して、サファルのペニスに両手を添えた。
指先に当たる肉棒の熱さに出かかった悲鳴を飲み込む。同時にそれが胎内に埋まるところを想像してしまい、どくりと心臓が高鳴った。
膝に力を入れて腰を持ち上げ、ペニスの先端を自らの蜜壺へと誘う。
ぬちり……。
強烈な圧迫感を覚悟してきつく目を閉じ、ユキはゆっくりと腰を落とした。
指とは比べものにならない質量と熱が、膣口をゆっくりと広げていく。
「あっ……んうっ、んんー……っ」
際限なく開くかのように思われた入り口は、先端の膨らみを迎えて落ち着いた。引き攣る痛みに、じわじわと快楽が混ざる。連動するように膣奥が切なく収縮した。
亀頭が膣に収まったところでサファルはユキの腰から手を離した。捲れていた修道服の裾が脚を隠す。
「は……あ、うぅ、ぐっ……」
熱がぎちぎちの猥路を押し進む。挿入はスムーズとはいかなかった。
「う、あ……」
「やみくもに体重をかけてはいけません。……そう、落ち着いて、ゆっくりと……」
誘導する声の穏やかさが安心をもたらし、力んでいた体が弛緩する。浅く速い呼吸がだんだんと落ち着いていてきた。
「……ぁっ、あ、んっ……あぁう」
ゆっくりと時間を掛けてユキの腰が沈む。ペニスが膣奥へ近づくにつれ、体が深い快楽を思い出していく。
「んっあ、あぁ……っ、また……、……あうっ」
熱が胎内を埋め尽くす悦びと、腹の奥から湧き上がる悦びに思考が蕩ける。
サファルの腕の中、体を震わせるユキの頬に涙が伝った。
やがて肉棒は子宮口に突き当たる。
「ああっ、はぁ……っ、んうぅ、あっ」
自重で肉壁にペニスが当たりユキの腰が引けた。
「そこで終わりではないでしょう?」
サファルは怖気付くユキに告げ、腹部にそろりと触れる。言わんとしていることを理解したユキは瞠目して首を横に振った。
「むり、できなっ」
「では少し慣らしましょうか。脚に力を入れて」
否とは言わせず、サファルがユキの腰を支えた。
「……いや……、そんな……入らない」
ただでさえペニスは強烈な圧迫感をもたらし、限界まで膣道を広げている。前回の性行為から時間が空きすぎた体では以前のようにはできないと訴えるも、サファルは赦してくれない。
「大丈夫です。あなたのここは、とっくに私を受け入れられるように作り変わっています。間隔が空いたところで、その身が戻ることはありません」
「……なっ、やあっ!」
腰を掴まれ、ぐりぐりと奥の肉壁に先端を押し付けられる。体を突き抜ける深い快感にユキは目を見開いた。
「ああっ! あっや、あぁっ、きゃうっ!」
追い討ちをかけるようにサファルは裾から手を差し入れて、クリトリスを指で押し揉んだ。ポルチオの刺激も緩められることはなく、ユキの腰ががくがくと揺れた。
「こんな淫らな体で、よく逃げ出そうとしましたねえ」
「あっああぁ! ごめっ、なさ……っ、ああっ——ぁんっ」
ユキが達する直前でサファルはクリトリスから手を離した。
ペニスの先にある、肉壁のさらに奥が支配を欲して劣情を強める。
「あ……、や……っ、はぁ、ぁっ……」
目一杯にペニスを咥える膣があと一歩の快楽を拾おうと懸命に収縮を試みる。
破滅を望むユキの精神とは裏腹に、肉体は性的な行為に貪欲だった。
「達したいなら自分で動きなさい。お仕置きは終わっていませんよ」
「……っ、うぅ……あっ」
促されるままにユキはゆっくりと体を持ち上げた。少し腰を浮かしては脚の力を抜いて、奥にペニスの先端を押し付ける。
「あぅっ、うっ、ん……くっ、あっ、ああぁっ!」
繰り返すうちに、かつて味わった快感が呼び戻される。
固く閉じた肉壁の先、膣の奥の奥を埋め尽くすサファルの支配と、灼熱を。そこに行き当たらない現状に焦らされ、もどかしさばかりが腹の奥に溜まっていく。
自ら腰を振り、よがるユキをトウワタは呆然と眺めている。しかし過去を知る男の視線すら、サファルがもたらす悦びの前では些細なことに思えてしまう。
「やぁ、あっ、……っくぅ、……いっ、くうっ……あぁっ!」
散々はぐらかされた絶頂の波が押し寄せる。
切羽詰まった声で鳴くユキの下腹部に、サファルが服の上から手をかざした。
するとユキの腹の中にじわじわと熱が灯り、薄い腹がびくびくと震えた。
「あっ! ああぁっ、やっ、ああ!」
腹の熱は徐々に下がり、ポルチオの快感を増幅させた。
ちかちかとユキの視界が明滅する。
ひと突きごとに子宮口が緩む。直接の熱い肉棒を既に知っている子宮は、この程度では足りないとペニスの到達を待ち詫びた。
「ああっ、あっ! まっ……、さふぁ……さっ……ああぁ!」
苦しい。でも、気持ちよくてたまらない。
抽送に合わせて子宮口が広がり、腰の沈みが深まってゆく。
「やっ、あ、ああ——っ!」
快感の波にのまれ、ユキの視界に火花が散る。絶頂に達するのと同時にサファルはユキを抱き込むように抑えつけ、軽く腰を突き上げた。
ぐっ、ぬう——っ。
子宮内にペニスの先端が侵入を果たす。
ユキの肉体はかつてのようにサファルの魔力に完全に染まりきっていない。そんな状態であっても、ユキはその身に快楽を感じ、サファルのペニスに支配される悦びを享受していた。
「あう、うっ、……うぁあ……、あっ、あんっ……んんぅ……」
びくん、びくんと体が跳ね、なかなか絶頂から降りられない。
サファルはユキの背中を優しくさすり、余韻が落ち着くのを待った。
しばらく動かずにいると、徐々に喘ぎが小さくなる。
ひくんっ、ひくんと体が跳ねる間隔が長くなるのを見計らい、サファルがユキの腹部に手を置いた。
「今、どこに何が入っているのか、ここにいる者たちに教えて差し上げなさい」
「んんぅ——っ、やぁっ……」
下腹部を押されて上半身がぎゅうっと縮まった。
奥に嵌まった熱をありありと思い知らされる。はくはくとユキの口が開閉し、声にならない吐息がこぼれた。
サファルの余裕が滲む表情を目の当たりにしたユキは、命令に従うまでこの淫蕩な行いが永遠に続くと察した。
羞恥にまみれながら言葉を探す。
「…………わたしの、子宮に……んぁあっ、……サファル様の、ペニスが……ぁっ、……入って…………ます」
蚊の鳴くような声は静まり返った室内中にはっきりと届き、人間たちはどよめいた。
聖女は顔を真っ青にして口を手で覆いながらユキを凝視する。聖女を囲む侍女たちは自身の未来をユキの身と重ね、魔族に陵○される己の末路を想像して泣いた。
「気持ちいいのでしょう?」
「…………は、ぃ……」
サファルの問い掛けに、ユキは時間をおいて首肯した。
トオワタは興奮を隠しきれず、吐き出す息に耐えず呻きが混ざった。
普段の冷たい態度からはおおよそ思い描けない、ユキの蕩けた表情から目が離せない。彼女にそんな顔をさせるのは、魔族ではなく自分であるはずだった。他人に奪われてしまうと殊更にユキが惜しくてたまらない。
なぜもっと早く、無理矢理にでも東の大陸へ連れ戻さなかったのか。
そうしていれば、ああしてよがるユキを自分のモノにできたというのに……。
「諦めろ。てめえじゃあいつは満足させられねえ」
サウスが跪かされたトオワタの前にしゃがみ、ユキへ向けられた視線を遮る。
「いい加減に自覚しろ。お前が今ここで生かされているのは、ユキがお前に対して何の愛情も持っていなかったからだ。でなきゃとっくに……、今日を迎える前にお前は消していた」
嘘だ。そんなはずはない。
トオワタとユキはかつての東方大陸で、地獄のような厄災を乗り越えた仲間なのだ。
ユキとの付き合いの長さはここにいる誰よりもトオワタが勝っている。
魔族の言葉など、信じるに値しない。何度も自分に言い聞かせるが、そんなことで現状は変わらない。
聞こえてくるユキの喘ぎ声に、トオワタの目からぼろぼろと涙が流れた。
真っ赤な頬に水滴が伝う。トオワタの悲痛な面持ちをサウスは鼻で笑った。
「ったく、他人のモノに執着してんじゃねえぞボケナスが」
周囲のやり取りをユキは気にしていられない。
サファルがユキのお尻を下からすくうようにして体を持ち上げ、小刻みに揺さぶった。振動は体の奥にまで届き、子宮にさらなる熱が溜まる。
「やあ! あっ、あうっ! ……はっ、んあっ、あっ、ああぁ!」
引きかけた絶頂の波はすぐに呼び戻され、たまらずユキはサファルの肩にしがみついた。
自重が合わさり子宮の奥壁へ押し付けるように当たる熱は際限がなく、体の内側からユキを責め立てる。
もうやめてほしいと望む一方で、無意識に腹筋にぎゅっと力が入り腹をへこませてしまう。サファルが与えてくる次の刺激を求め、圧倒的な支配を示す熱棒を胎に受け入れたまま、ユキの視界は真っ白に染まった。
「ああっ、やぁあ————っ!!」
二度目の絶頂に上り詰めるのは早かった。
切羽詰まった悲鳴が上がるのと同時にサファルは揺さぶるのをやめて、自らもユキの胎内に白濁を放つ。
「は、あ……っ、あ、——これっ!」
口付けで与えられた時とは比べ物にならない、サファルの膨大な魔力が子宮から全身を駆け巡る。
魔力の侵食が進むにつれてユキの体の強張りが緩んだ。
強烈な快楽はなおも秘所に留まっている。しかし体の自由が利かない。
発散させたくても、動けないのだ。
「……ぁ……あぁ……うっ……ぅ」
主導権を明け渡すがごとく、ユキはくたりとサファルに身を預けた。
子宮が熱い。四肢の力は抜けていくのに、膣壁はなおもうごめきペニスに奉仕を続ける。それがまた苦しいぐらいに感じてしまう。
腹の奥から頭の先、——思考まで。自分という存在が書き替えられる。
恐怖が掻き消えて、支配されることへの喜びが心を埋め尽くす。
こんな感情はまやかしだと、わかっていても抗えない。
「自分が一体誰のものなのか、思い出せましたか?」
サファルの声が耳から脳に届き、精神に溶け込んでいく。
体の内側でこれが答えだとばかりにサファルの魔力が呼応して、頭が沸騰しそうなぐらいに熱くなった。
「……っ、あ、う……」
圧倒的な魔力に溺れて思考することもままならない。
そんなユキにサファルはさらなる罰を下す。
「勝手にどこかへ行ってしまっては、こちらも肝が冷えます。あなたが反省できるまで、暫くは行動を制限するとしましょう」
膣内にペニスを咥えたユキは股を広げて膝でサファルの腰を挟むような状態にある。ペタンと膝を折って座る体勢の両足は、左右それぞれ体の外側へ投げ出されていた。
黒い修道服の裾から覗くユキの足に触れ、サファルはグラダロトに目配せした。
命令の言葉はなくとも主人の意図を察知して、グラダロトはユキの背後に立つ。靴擦れで膿んだ踵の上、細い足首を掴んだ彼は親指の鋭い爪を立て、腱に突き刺した。
「——っ!」
ユキが感じた鋭い痛みは一瞬だった。
体は依然として動かずもがくことができない。
足首の裏側を襲った衝撃はすぐにじんとした痺れに変わる。痛覚は消えても、違和感が尾を引いて残った。
反対の足首にも同様に激痛と痺れが施される。
何をされたのか。混乱するユキを意に介さず処置を終えたグラダロトはその場を離れた。
「な、に……? 今の……っ」
「すぐにわかります」
サファルの親指が足首をこすると痺れるような違和感も消えてしまった。
意味のないことだとは思えない。嫌な予感がするのに、サファルが望んだならば仕方がないと認めてしまう自分もいて、危機感が持続しない。
「……さあ、少し眠りなさい。お仕置きの続きは鳥籠でするとしましょう」
「…………ゃ……ぁ」
嫌だ。駄目だ。聞いてはいけない。
下腹部に留まる熱に快楽を拾いながらも、瞼が重くなる。
「——おやすみなさい」
支配者の言葉に逆らえず、ユキは意識を闇に沈めた。
◇ ◇ ◇
気を失ったユキを自身にもたれさせ、サファルは血の滲んだユキの足首を再度指先でなぞる。
枷はつけた。もうどこにも逃がさない。
修道服の袖口から見える力無く垂れた細い手首を掴み手のひらを上に向ける。ユキの手は節々のアカギレから血が滲んでいた。少し目を離しただけでこれか。
呆れ混じりにじっとユキを見つめた。すぐに治せる傷であっても、安易に体を痛めつける行為は早急にやめさせなければならない。
溜め息ひとつ、サファルはユキの胎内からペニスを抜き去った。
「あっ……うぅん」
悩ましげな声が溢れるも、ユキが目を覚ます気配はない。
ノースより棒状の器具を受け取ったサファルはそれをユキのナカへと入れた。
つるりとした硬質な器具は難なくユキの膣道へと侵入を果たす。
指で奥へと押し込み、子宮内の精液がこぼれないよう栓をした。
「は……あぁ……んっ」
器具が子宮口に当たるとユキは眉を寄せて甘い喘ぎを漏らした。
膣より指を引き抜き、サファルはユキを横抱きにして立ち上がった。
「さあ、帰るとしましょうか」
ユキへかける声はどこまでも優しい。しかし慈しみ微笑むサファルの瞳は冷たく、二度とユキを逃さないという強い意志が垣間見られた。
「えぐい執着だな」
一部始終を傍観に徹したサファルの長年の友——ミスガルムが、呆れを隠さず顎でユキを示す。
「人間の身でお前の魔力に順応するとか、どんだけ時間をかけて書き替えたんだ」
「これがなかなかに優秀な子でして、そう苦労していません」
「ほう……。お前と奇跡的に相性が良かったのか、そいつの体質が特別なのか……試したくはないか?」
暗に自分にもユキを抱かせろとせがむ友人に、サファルは余裕のある笑みを返した。
「生憎と、この子は私の独占です」
だろうなと、答えを予想していたミスガルムはあっさりと諦めてソファへ深くもたれかかった。
「それで、気は済んだのか?」
「ええ。ご協力感謝します」
状況が変わる。依然として呆然とユキを見つめる聖女を置いて、彼女を取り囲む侍女たちは身構えた。
「……ああ、そういえば」
存在を忘れていたとでも言いたげな口ぶりで、サファルは聖女たちに体を向ける。
「ご苦労様でした」
部屋の一部の空間が歪む。ねじ曲がり、かき混ぜられ、瞬きをする間も無くそこにいた人間を肉片に変えた。
サファルの労いは、聖教会の者たちの耳に届くことはなかった。——ただひとり、聖女を除いて。
「ひいぃっ!」
「おや、残りましたか」
血を吸った絨毯に聖女が腰を抜かして尻餅をついた。恐怖に引き攣る聖女に、サファルは穏やかな笑みを讃えた。
「聖女というのは、偽りでなかったようですね。人間たちにとって特権階級の身分である故に、そちらを手にすることができたのでしょう」
「やっ、やめっ! お願い助け——っ」
懇願は聞き入れられず、先程よりも強い力が聖女を襲う。
骨も肉塊も磨り潰され、床におびただしい量の血が広がった。
絨毯の繊維では吸収しきれず生じた血溜まりに、円錐形の物体が残された。
ノースがそれを手に取り、血を拭き取ってサファルに差し出す。
黒色の、ヒビが入った硬質な物質からは西方大陸の人間たちに魔王と恐れられた末に討たれた、サファルの友人の魔力を感じられた。
サファルはそれを受け取らず、ソファで寛ぐミスガルムへ渡しておくよう指示を出す。
人間たちが利用している友の破片はこれだけではないはずだ。今回取り戻せたものはミスガルムの元に集められ、二度と人間の手に渡らぬよう彼がまとめて消し去るだろう。
西方大陸にもう用はない。
「邪魔をしてすみませんでした。最後にあれだけ貰っていきます。もう少し、聞きたいことがありますので」
この場を支配する圧倒的強者二人に視線を向けられ、トオワタは震え上がった。
「話の流れ的に、お前の腕の中にいるのと同郷じゃねえのか? 東の大陸のことならそいつに聞けばいいだろう」
「困ったことに、頑固な子ですからねえ。そこも可愛いのですが」
「……まあいい。勇者に関する情報はこっちにも寄越せよ」
「そのつもりです」
血で変色した足元を見て、サファルはやれやれと息を吐く。
人間たちの生きることへの執着に、彼女も少しは感化されて欲しかったのだが……。
ユキが他者の感情に敏感ならあるいはと考えたものの、そう上手くはいかないようだ。
「あとはお願いします」
ユキを回収したサファルは眷属たちを連れて北方大陸へ戻った。
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