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咲崎弧瑠璃 2024/01/26 17:45

蛍と賊と太もも責めと

 トンズラを決め込もうとしていた時だった。
 すでにブツを引き渡し、無妄の丘から国境を越える、まさにその時のこと。
 やおら、凄まじく可憐な少女に呼び止められた。

「待って!」
 見れば金髪の、どこの国ともつかない服を着た美少女。全体的に白をまとった小娘が、大きな目をこちらに向けている。白百合に似た印象を与える少女は、やっと見つけたと言わんばかりに半ば恨めしげだ。

「なんか用かね」
「話はいいから盗品を出して。もう貴方以外いないの」
「何のことかお話が見えないのがねぇ」
 のらくらとかわしながら逃げる算段を考える。正直こんな娘に呼び止められたところでなんの痛痒もない。時間の無駄だった。
 片や金髪少女は、一歩踏み込んでくる。白のニーハイブーツを履いた、恐ろしく美しい脚、太く長い良い脚だ。肩や胸元を露出した服も何よりその顔も、近くで見れば放っておくには惜しい。値踏みするようにジロジロ見つめ、それを娘は軽蔑する。
「今渡せば無傷で帰してあげる」
「誰かに騙されたないかいお嬢ちゃん。悪いことは言わないからさっさと帰んな」
「貴方も倒されたい?」
「だから……、ん、倒したって……?」
 嫌な予感がした。ヤワな連中を仲間にする俺じゃない。嘘じゃないと言えば大事だった。旅人と呼ばれる冒険者がシマを荒らしているという。誰も歯が立たない、やたら肩書きの多い異郷の人間。まさかこんな小娘が?
 けれど、訝しんでいる暇もない。

 見ればこの娘、問答無用で剣を抜いていたのだ。
 それどころか、振り下ろしてさえいる。
「ぶわっ?!」
「そう。交渉決裂だね」
 切り掛かってから言うことではない。空を切る音も華奢な体格からは想像のつかないほど重々しい。ヤバい奴に目をつけられたかもしれない。
「くっそ!」
 破れかぶれの煙玉だった。どうせ逃げられないなら虚を突く他ない。煙幕に咄嗟に身を庇う。そこへあらんかぎりの力を使って蹴りを入れれば、どうも鍔に直撃したようだった。

 回転し宙を舞う剣。よく見れば実力に不相応なほど貧相な装備だが、ともかく武器を奪えさえすれば問題ない。爆薬をばら撒き、退散しようとした、
 その矢先。

 彼女の姿が消えた。
 というより、いきなり目の前に現れた。

「ひっ?!」
 怪物じみた勢いで間合いを詰めた小娘。眼前に琥珀色の瞳が広がったと思えばふわりと髪が俺の頬を撫でた。慌てて剣を振るうも、すでに娘は飛び上がった後。刃先にトンっと乗るとすぐさま一回転し、武器を回し蹴りで蹴り飛ばしてしまう。

 そして次の瞬間。
 丸腰の俺に、絡みついたのはその美脚だった。
「なっ?!」
 一瞬視界に溢れるくすみひとつない乳白色。それは桁違いに肉感的な逸品だった。むっちり美脚が首に巻き付くと、少女特有の柔らかさに一瞬心が開催を叫ぶ。だが次の瞬間押し寄せたのは、健康的で強靭な締め付け。ふくらはぎもがっちり絡みつけば、俺はスカートの中に横から顔を突っ込むハメになる。
「何を、ぐっ、やめ……ッ!」
 身を振り解こうにも無駄、何より重心が狂って立っていられない。むっちりと極太の太ももに挟まれ包まれ締め上げられ、少女が体を捻れば俺はほとんど蹴り倒されたも同然だった。少女が全体重をかけるに及んでは、もはや立っていることなど不可能。そのまま地面へと、したたかに叩きつけられてしまう。

「ぐああ゛っ?!」
 何が起こったのかわからない。
 ただ、少女にねじ伏せられているという結果だけが残っている。
 しかも、太ももで。

「馬鹿野郎ッ! 放せ、やめ、ぐっ、ああああ゛ッ?!」」
 ねじ伏せてなおギチギチと締め上げる小娘。柔らかくも旅で引き締まった太ももは、もはや凶器とさえ言えた。ぎっちりとした弾力がむちむちの柔らかさをまとって、えも言われぬ極上の質感。それで全力で締め上げられるのだから、万力じみた丸太おみ脚がギッチギチに首に巻き付くのだ。しなやかに締め上げつつむっちりたわむ、マシュマロ柔肉が溢れかえってしかたない。少女のビロードのような滑らかな肌に包まれた、豊穣な肉感と暴力的太ももギロチン。それが、俺の命を刈り取ろうとしている。
「やめっ、殺す気か、あ゛っ、〜〜〜ッ!!」
 なんとか外そうとするも、太すぎて指もかからない。ただ指先が、太ももに沈み込んでは撫でるだけ。こんな状況でなければいつまでも感じていたかった。まさか肌の滑らかさに殺されかけるなんて。太ももに埋まった顔は、鼻さえ塞がれてしまう勢いだ。

 まずい、死ぬ。
 小娘の極太美脚で、首をへし折られる。窒息させられる。
 こんな美しくむちむちの柔肌が、男の命を、俺の人生を挟み潰そうとしているのか。

 だが、旅人に容赦はなく。
「うるさい。ジッとして」
 藻掻く俺を抑え込もうと、上からのしかかるのだ。

 一瞬、ほんの一瞬、太もも○問具が力を緩める。

 だが、次の瞬間降ってきたのはスカートの中身だった。視界一面に広がる、純白の下着。ローアングルからドアップで拝む股間が、“どむ゛ッ♡“と顔面をぶっ潰す。

 顔面騎乗位だった。

「〜〜〜〜ッ!!!」
 当人は太ももで首を締め上げるのに夢中で、股間で窒息させていることに気づかない。左右から包み込むエゲツない太さの肉感と、直接包み込む柔肉が快苦で俺を責め立てた。股間が明らかに苛立っている。金髪美少女の太ももホールドと顔面騎乗位に悦んでいる。盗人の尊厳をかけてもがく俺。そんなの、更なる○問を生むだけなのに。

「落ちて」
 片や金髪娘はたった一言、可憐な声で、それだけ。
 そして、俺を締め殺しにかかるのだ。

 首をへし折らんばかりの力だった。常人とは比べ物にならない脚力で、頭をがっちり抱きしめる。完全に股間と美脚でホールドし、首を締め上げて。なかなか落ちないなというふうに締め具合を変えるものだから、ショーツ越しにお股がふにふに撓んで俺を弄んだ。直接嗅がされる美少女の甘香。蕩けるような肉感と淫猥な感触。
 全方位から押し寄せる、快楽の中で。
 快楽が急上昇し、死と射精の危険が同時に襲ってきた、その瞬間。

「あ」
 旅人のニーハイブーツが、太さに耐え切れずブチっと音を立て。

 盗人の意識もまた、無理やり引きちぎられたのだった。

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咲崎弧瑠璃 2024/01/26 17:42

生塩ノアに握られている

 

§

 軽やかな声に呼びかけられた時、白百合の香りに吹かれた心地がした。高く澄んで、理知的な、奥深い人格。生塩ノアの声だった。

 

「先生、今日のミーティングの件ですが……」

 銀髪の少女が駆け寄れば、はためくパーカーと、タイトにしまったスーツ姿。そしてふとこちらを見上げれば銀髪から覗く目は、淡く澄んだアメジストの色。それがぱっちりこちらを見つめてくるものだから、私は毎度心臓に悪い思いをする。ノアの至近距離での直視は、私の能く耐えるものではない。

 

「……あの、先生、どうかしましたか?」

「……ぁ、いや、なんでもないよ」

 その声に、両目をつむってニッコリ笑う少女。それから再びこちらを見つめると。

 

「……♪」

 目を細め、クスリと笑った。何かを見透かすような視線に、思わずドキリとする。この少女といると、どうも調子が狂う。主導権を握られっぱなしで、どころか手のひらの上で転がされて。その柔らかで優しく、イタズラな手のひらから私は、逃れられずにいる。

 まごまごしている私を、クスクス笑うノア。

 

 けれど私は、その視線に応えるすべも知らず、

「それでは先生、またあとで♪」

 くるりと踵を返すノアに、かける声すら持たなかった。

「あ、あぁ……」

 ふわりと広がる、長い長い銀髪。すらりとした立ち姿は、一人咲く白い百合さえ思わせる。その後ろ姿を目で追いながら。

 私は、安堵ともつかない吐息を漏らした。

 

 

 ⁂

 生塩ノアが謎めいていることに、異存はないだろう。

 

 もちろん私も、仕事柄いろんな生徒を知っている。年齢に見合わないほど老成した子も少なくない。

 

 けれどノアは、とびきりだった。

 

 柔らかな笑みは本物なのに、どこか底知れない。けれど何かを隠しているのでもなく、恐ろしく自然体。何が起こっても動じないのに、純粋に目の前の世界を楽しんでいる様子だ。

 ベールに包まれているようで、曇り一つない目で全てを見通すような少女。

 不思議だ。本当は、上位存在か何かなのではないか。奥行きある捉えどころのなさは、魅力という他ないだろう。

 

 けれど、淡々と記録していくそんな彼女も、退屈だけは苦手だという。変化を記述する、その特性ゆえに無変化は好まない。

 そんな日々の無聊を、ユウカで紛らわせていた彼女。それが、新たな対象を見つけたらしい。

 

 私だった。

 

「ほら先生、手が止まってますよ♪」

 やおら肩元から覗き込み、作業の遅滞を笑う囁き。吐息が耳奥を撫でるような感覚に、思わずヘンな声が出る。おまけに、振り返れば目前に美少女のドアップ。肩に顔を乗せそうな勢いで覗き込むノアに、真正面から見つめられてしまう。

 

 セミナーの執務室、静かな空間にいるのは私と彼女だけ。それがもう鼓動さえ聞こえそうな距離にいるものだから、驚くのは当然だった。

 

「い、いつからそこに?!」

「今です、たった今♪」

 そう言って、ノアが目前の椅子に腰を下ろす。

 

「少し早く来すぎてしまったようですね? 前回少し遅れたのを、ちゃんと覚えていたみたいですね♪」

 少し揶揄うように言いながら、深いアメジスト色の瞳がこちらを覗く。その超然とした包容力に、甘い引力を感じないでもない。

 

 何を馬鹿な。私は先生だろうに。

 そう思い視線を戻すと、そこにはクスリと笑うノア。

 見透かされている。

 

「今日は色々とお教えくださいね? 先生は、大人の方ですもんね……♪」

 私の隣に座り、耳元に囁く白百合の美少女。あの甘い声が耳内をくすぐり、鼓膜を撫でてぽそぽそ囁く。こぼれた柔らかな銀髪が、私の肩を、手を、膝を撫でて、滑らかな感触を残していった。もう少女話の香りは、ふわりとあたりに広がるばかりだ。

 

「まぁ、教えるものがあればね」

「ふふ、先生は本当に面白いですね♪」

 平然を装う私に興が乗ったらしい。クスクス笑いながら、タイツの足先で私の脚を突き始める。女性的なほっそりした輪郭が、服越しに脛を、ふくらはぎを、足の甲をなぞり上げた。

 すっかりわるい揶揄い方を覚えてしまったノア。過激な行為も、不動心の少女にとっては刺激のほうが重要なのだろう、まるで気にしていない様子。魅惑の黒スト美脚を絡め、妖艶な足つきで私を弄ぶ。つつき、なぞり、少しつねったり、甘く内股をさすったり。脚を上げればスカートの隙間から、むっちり肉付きの良い太ももが顔を現す。ぴっちりとした繊維をパツパツに広げる、太くエッチな極上の太もも。タイツ特有のマットな光沢を貼り付けて、椅子にむちむちと圧し広がるのが肉感的でたまらない。今すぐ、その感覚を確かめたいくらいだった。

 

「ふふっ、興奮してるんですか? 先生が生徒にそんなこと、しませんよね♪ ね? “先生“♪」

「ッ……! あまりそういうこと、大人には、しないほうがいいかな……っ」

「ええ、信頼してる先生だからこそ、出来ることです♪」

 悟る。いや、悟っていた。私は、この華奢な少女に抗えない。精神的にも的にも、物理的にも、社会的にも。何かと奔放な私だって、一線を越えることはできない。なにより、よしんば全てをかなぐり捨てたって、私ではノアを押し倒すことすらできないだろう。キヴォトスの少女らと私とでは、力に差がありすぎる。ノアはきっとニコニコしたまま、私の腕を片手で止めてしまえるだろう。かつて戯れに腕相撲した時のように。

 私は、この華奢な少女に、絶対に抗えないのだ。

 

 クスクス笑い、煌めく瞳で、私の全てを記憶する女子高生。

 それから、急に身を引くと、

 

「ほら、ユウカちゃんが来ましたよ♪」

 

 爆発的な勢いで、ドアが開いた。駆け込んでくる黒髪の娘。カチリと時計が頂点を指した。

「す、すみません、待ちましたか?!」

「……ううん、待ってないよ」

「大丈夫、時間ピッタリですよ♪」

 さしずめ、また問題児に時間を食われていたのだろう。息を乱しながら飛び込んできたユウカ。大した打ち合わせでもないのに時間を遵守したのは、気質だろうか、プライドだろうか。

「そんなに気にしなくても大丈夫だよ」

「ありがとうございます。まぁ今日は、忘れてくれない記録魔がいますし……」

 席に座り、はぁ……っと頭を抱えるユウカと、お茶を出すノア。弱々しくカップを受け取る同期に優しく微笑むと、書類を配る。

 

 それから、ストンと腰を下ろした。

 

 いつものユウカの隣ではなく。

 私の、真隣に。

 

「では、始めましょうか♪」

 嫌な予感とともに、ふわりと漂うノアの香り。もう触れそうな距離にその華奢な肩がある。ユウカも何か言いたげな様子だが、それを許さない己との間で葛藤中の様子だ。そして、ノアにふわりと笑いかけられると、

「では、始めましょうか♪」

「え? ええ、そうね」

 もう、何も言えなくなってしまうのだった。頭を切り替え、書類を広げて、

「それでは、オープニングセレモニーについてですが……」

 仕事モードに入るユウカ。平常運転のノアはペースを崩さず、私の隣で頷いている。滑らかに動く時限爆弾の隣にいるようだ。

 

 けれど。

 

 けれどそれからは、存外平穏なもので、

「次はこちらで……」

「先生、こっちの書類も一応チェックを……」

 つつがなく、そう、ひどくつつがなく処理されていく議題。前打ち合わせ程度つもりだったが、困難に見えた問題も、淡々と処理されていく。優秀な二人がいると話が早い。

「案外、早く終わりそうだね」

 さすが冷酷な算術使い、などとユウカをからかう余裕も出てきたところで……。

 

 不意に、視界の外からノアが顔を出した。

「時間もありますし、開幕式のVTRも確認してしまいましょうか♪」

 ズイッと身を乗り出して、私の手にある書類を指し示す少女。恐ろしく長い白銀の髪がこちらに溢れ出る。

 

 それだけじゃない。

「あの、ノア……」

「はい、なんでしょう?」

 至近距離でにっこりほほ笑む美少女。だが、それに答えることはできない。当然だ。言えるはずがない。

 

──手が、股間に当たってる、だなんて。

 

「い、いや、なんでもない……」

 震える声で言葉を飲み込む私。それが、ノアのお気に召したらしい。

 

 そして、いきなり。

 

 ジジジッ、と。

 

 ズボンのチャックを、ズリ下げた。

 

「ッ?!」

 あまりのことに、反射的に立ち上がろうとする私。驚愕する中で、物音にキョトンとするユウカと目が合う。そのイノセントな反応を、とてもじゃないが汚すことはできない。耐えるしかない。というより、耐えることしかできない。

「ユウカちゃん、動画、始まりますよ♪」

 ノアの手前、彼女も仕事をおろそかにはできなかった。画面を見つめ、集中してしまう。もう、私の異変に気づいてくれる者もいない。

 

 そしてノアは、閉じようとする私の脚をこじ開けて。

 お目当てのものを、下着の中から引き出すと、

 

 そのまま、指を絡ませたのだ。

 

「ひぅ……ッ?!」

「ダメですよ〜、静かにしなきゃ……。ユウカちゃん、気づいちゃいます♪」

 その囁きに呼応するように、指先が私のそれをなぞりあげる。美しい指が、必死に自制する男性器をからかい、撫で上げ、そして、ゆっくり、ゆっくりと五指をそれに沿わせると……、

「我慢、しましょうね……♪」

 “ぎゅっ♡“と、それを握ってしまうのだ。

 

「ッ……!!」

 声が出そうになるのを必死にこらえる私。生徒にとんでもないことをされている、それだけで私の対処能力を超えていた。そうする間にも、白魚のように細いノアの指が、私のものに巻きつく、絡みつく。ひんやりと快い体温は静けさをたたえていて、けれど同時に漂ってくるのは少女のからかうような気配。やや冷たい温度が鮮明に指の感触を染みつかせ、ふにっとした柔らかさを感じさせていく。小さな女性の手。柔らかな細指。それに包まれ、握られて、私はもう抗えない。

 

 そして、そのまま“ぎゅ、ぎゅうぅ……っ♡”と握りこまれて。

 

 甘い手コキが、始まったのだった。

 

──すさまじい感触だった。

 動作としては自慰と変わらない行為。それが、他人に触れられている、それだけで性行為に変わってしまう。ノアの意思が私に染み込む、性感帯に囁きかける。優しく優しく、けれど的確に快感を煽り立てる指使い。美少女に触られているという事実が、生々しく脳裏に刻みつけられる。

 おまけに、その甘い手の感触は極上で。小さな手がぴっとり性器に吸い付き絡みつく、その事実だけでどうかなりそうなほどだった。

 “ずにいぃ……ッ♡”と先端へ搾り上げられ、再び練りつけるように根元へ滑らせられる。その軽い一ストロークだけで、ジンジンとした快感が先端に凝結していった。

 

「ダメですよ〜……♡ ダメ、動いちゃ、ダメです……♡」

 あの落ち着いた声が、ウィスパーボイスで私の耳を凌○する。ASMRのような、極上の囁き責め。内耳を舐めくすぐるような吐息と、脳の中から響くようなノアの美声が、あまりに神経を興奮させる。強烈な快楽だった。

 

「ふふ……♪ もうこんなになってしまいましたね♡ ユウカちゃんの目の前なのに、だらしなく感じてしまうんですか? ……あはっ♡ ビクッて感じたの、しっかりわかりましたよ♪」

 手が汚れることも、彼女の不動心を揺るがすものではなかった。指先をカリ裏に滑らせると、ぎっちり握りこみそのまま刺激するノア。その手技は、明らかに私の弱点を探り当てていた。初めは知らないおもちゃを相手に、色々と試していた様子の手つき。それが彼女の持ち前の理解力でもって、加速度的に成長していたのだ。

 

「ここの音楽の入りは、もう少し早い方がよくありませんか?」

 音を隠すためだろうか、VTRの音量を上げるノア。天佑にも思えた。それは、ユウカからの発覚を紙一重で守ってくれるはず。そう思う一方で。

 それは同時に、過激な手コキをも許してしまい。

 

「もう逃げられませんね♡」

 私は、容赦なく股間を攻め立てられるのだ。

「私にそんなところを握られて、どんな感覚ですか? こんなふうにしっかり握られて、私の細い指に巻きつかれて…………、こう♪」

 “じゅぷっ♡ じゅぷじゅぷじゅぷッ♡♡”と激しく私を責め立てる美少女の細指。艶かしく裏筋を撫であげたり、カリカリと鬼頭を撫で回したり、音が漏れそうなほどめちゃくちゃにシゴきまくったりと、その所作は○問レベル。潮吹きでもさせようというかのような執拗さと強烈さは、私の全てを掌握していた。ただただ気持ち良い。そして絶望的なまでに果てしない。今も常に囁きかけるノアの美声が、その快楽を何倍にも増幅させた。

 頬にかかるサラサラとした髪、そこから漂う女の子然とした甘く華やかな香りと、押し付けられた巨乳の弾力。むっちり腕に推し広がり、そのまま“むにぃっ♡“と谷間に挟まれれば、いよいよリビドーは鰻登りだった。女性の指、髪、香りに乳房、その甘美さが、意識してはいけない相手だからこそ背徳的に衝迫する。

 

 もう私は、快感にガタガタと震えるばかりだ。

 

「ちょっ、ちょっと先生、どうしたんですか?!」

「大丈夫ですか? 先生、無理はなさいませんよう」

 気遣うように声をかけるノア。ユウカの視線に私を立たせ、関節手に快感を増幅させるつもりラシア。

 そして、心配して私を覗き込むように顔を近づけると、

 

「今イッたら、私、ユウカちゃんにバラしちゃいますよ……♪」

 

 ぽそぽそと、そう囁きかけたのだ。

 

「……ッ!」

 

「大変ですね先生、ご体調でも悪いんですか?」

 私の驚愕を無視して、気遣わしげに頭を撫でてくれるノア。ヨシヨシと優しいその手つきは、けれど容赦ない手コキとともに私を挟撃する。“ヨシヨシ♡ かわいそうかわいそう♡”という風な甘い手つきと、苛烈な責めの同時攻撃に、頭がバグをきたしそうなくらいだ。

 

 そして、その手を下ろすと……、

 

「えいっ……♡♡」

 そのまま、両手での包み込み手コキを始めてしまうのだ。

 

「ぎっ?! っ、~~~~~!!!!」

 凶悪だった。逃げられないようぎちぎちに片手でペニスを握りしめながら、もう片手で無防備な亀頭にその滑らかな手のひらをこすりつけるのだ。先端を磨くように、円を描いて撫でまわす極上の手のひら。女性の柔らかな手が、ふっくらした起伏や繊細な指紋でその感触を変えていく。まるで○問器。まるで快楽の万華鏡。可憐な少女に、私はなす術がない。ただひたすら、そのエッチな手のひら責めに悶えるだけ。

 

「なるほど。そこが弱点ですね? 覚えました♪」

 無防備に握られて手のひらの中、赤裸々に自分の好きな箇所を伝えてしまう私の男性性。それを、最も有能で最も記録に長けた少女に知られてしまう。すぐさまその学習は手コキにフィードバックされ、快感は指数関数的に高まった。

 

 そして、いよいよ沸騰、という時になると。

 

「だめですよ~? ちゃんと耐えるんです♡ 耐えて~、耐えて~、……ギュっ♪ あはっ、ビクッてしましたね♪」

 パッと手を止め、がっちり握り込み。煮える快楽が少し引くまで待つ。気遣うフリして吐息を吹き込み、耳をはみ、耳の中で囁いて、油断したところを“ぎゅっ♡“と握りしめる。そして、ゆっくり、ねっとり、正確無比な刺激で私を手のひら地獄へと落としていった。

 

 まるで、ノアの小さな手のひらの上で飼われているかのようだった。すべすべの手のひらから湧き立つ、強烈な快感。そこから逃げることも止まることもできず、もみくちゃにされる。ストロークと囁き、甘いからかい。それが、繊細かつ強烈なテクニックで私を握り犯し続けた。

 

 おまけに、カリを締め付けられ。指のリングで、執拗に執拗にイジめられ始めれば。

「ひぅ?! ッ、〜〜〜!!!」

 私は机に突っ伏し、ガタガタと震える他ない。ユウカの立ち上がる音が聞こえる。素っ頓狂な声も響いてきた。けれど、それを上書きするように、ノアは耳の中にエッチな唇で囁きかけ……。

 

「おば〜かさん♡」

 そう言って、更に甘美な窮地へと立たせるのだ。

 

「すみません、ユウカちゃん、ちょっとアレ、取ってきてくれますか?」

「アレって?」

「保健室のキットです」

「わ、わかった!」

 そう言って、小走りに去っていく少女。

 

 そして、パタンとドアが閉まると、

 

「ふふっ♪ では、私たちも……」

 一転、甘い声で少女は言った。

 

「限界、試してみましょうか♡」

 そう囁いた。

 

「わかりますね? 先生なのに、生徒の、女の子の手に、無様に、惨めなものを、吐き出すんです♡ それとも、ユウカちゃんに見られるのがお望みですか? ユウカちゃんが真っ赤になって立ち尽くしてる前で、私にこのまま、搾り取って欲しいですか? ふふ、それもいいですね♡」

 あからさまに狼狽えるのを、見逃す彼女ではなかった。

 一度、目をつむってニッコリ微笑むと、

 

 耳に、直接触れるほどに唇を近づけて、

 

 その、悩ましい吐息で、吹き込むように、

 

──イ・ケ♡

 

 そう、囁いたのだ。

 

「ッ────!!!」

 耳の中を吹き荒れる呼気、脳を直接舐め上げるようなウィスパーボイス。それと同時に最も気持ちいい場所を“ぎゅちッ♡ ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅうぅッ♡“とシゴきあげられるのだから凶悪だった。今まで麻痺していた快感が一斉に鮮明になり、神経の中を暴れ回る。

 

 まるで、ペニスに詰まった栓を、一気に引き抜いたような快楽だった。

 声にならない声を漏らし、突沸する快楽。

 白熱するような絶頂で、ノアの手の気持ちが脳に刻み付けられる。

 

 それでも、ノアは止まらない。

 

 美少女の指先が艶かしく私を包んでシゴきあげ、極上の一撃を何度も何度も加えている。もうイッている。なのにやめてくれない。ニコニコしながらノアは、“まだイケます♪ まだ残ってますよ♪“と言うように追撃をやまないのだ。

 

 そして、○問のように手の中に搾り取られ続け、二度、三度、幾度となく、めちゃくちゃにイカされ続けるのだ。

 指のリングでシゴかれ。

 手のひらで磨くように撫で擦られ。

 イッたばかりの性感帯を、残酷なまでに刺激し続けるノア。耳をイジめるのも忘れない。手の気持ちよさを、何度も何度も私に教え込む。優美な手つきで私を犯し尽くす美少女の手。その中で、もう私は煮えるような快楽の中に閉じ込められていた。

 

 そして、私が気絶するように脱力したところで、

 

「あはっ♡♡」

 

 ノアの美声が、脳と耳をくすぐり○す。

 

「ユウカちゃんには、病気で早退したって伝えておきます♪ ついでに資料もシャーレまで届けてもらいましょう。それでは先生、私は汚れを落としてきますので……♡」

 そう言って、席を立つと。

 

「♪」

 

 銀髪の美少女は、あっけなくも。

 足取り軽く去ってしまったのだった。

 

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咲崎弧瑠璃 2024/01/26 17:40

ニィロウは不浄を知らず

 
 §
 物見遊山で来るには、いささか刺激が強かった。
 さすがスメールシティだと思い知った。
 さっきまで、あれほど愕然としていたのに。わが国最大の都市が、まさかこんな素朴な街だったなんて。街の中に畑があるとは思わなかった。これでは大した収穫も見込めない。地下市に寄ったら帰ろうとしていた時分だった。

 ──ズバイルシアターは、一人の少女の独壇場だったのだ。

 遠く、どこか小鳥めいた踊り子が、肢体をしなやかに流し踊りを捧げる。近づけばそこには彫琢された美。まだあどけなさ残る美少女の、表情まで見えてきた。無垢な顔立ちが、どこか神懸かり的な雰囲気を醸し出す。奔放に動いているようで洗練された動きは流麗、夕焼けに染まった髪色と青の衣装が宙に流れ、時に金の装飾の音が鳴る。

 音楽の中、靴の舞台を踏み軋む音さえ聞こえてくるようだった。角の生えた被り物から豊かに流れるオレンジ髪も、胸元と腰回りだけを隠す衣装も、舞台や音楽さえ渾然一体となりその美しさを際立たせる。何より、凄まじいほどの美少女だ。締まった脚は肉感的で、色白の肌はミルクのよう。眼福、いや、それ以上。来た甲斐があった。
 観客が感嘆ともつかないため息を漏らし囁き合う。そうか。ニィロウというのか。

 美しい夢のようだった。そこに身を浸せば長く続く甘い時間。振り返れば何もなかったかのように残滓だけが残る一瞬。彼女の香りさえ漂ってくるような世界で、乳白色と青と紅が混ざり、ふと、その紺碧の瞳と目が合った。

 音楽がやみ人もまばらに散っていった後、尚立ち尽くす。
 今見たのは、現実なのか。
 或いは俺はこの時点で、狂気の中にいたのかもしれない。

 一歩進みだした。

 もはや、夢遊病だった。

 一目みたい。あれが実在していた痕跡が欲しい。何かが倒錯していく気がする。鍵もかかっていない楽屋に忍び込んですら、俺は自分を省みることがなかった。早く彼女に触れたいと思うばかりで、この時だけは欲望も純粋だったかもしれない。

 けれどいざ楽屋に辿り着いた時。俺は拍子抜けもいいところだった。
 いない。
 袋一つが置いてあるばかりだ。
 やはり、下城区の姫にお目にかかるのは難しいのか。沸騰していた思考が、急に醒めてくる。

 ……帰るか。
 きびすを返そうとしたとき、とはいえどうも未練がある。
 袋の中身が気になった。彼女のものと思しきそれは、何かが詰まっている。道具だろうか。或いは、服……?
 ゆらぁっと、仄暗い欲望がくゆり始めた。

 止められない。
 ただ、こんなに無防備に置いてある方がおかしいではないか。盗んでくださいと言わんばかり。紐解き中を探り、ふわりと広がる香りに脳が揺すぶられる。
 だが中身を取り出すまで時間は待ってくれなかった。

 代わりに飛んできたのは、鈴のような美声が一つ。

「ちょっと、何してるの?」
 弾かれたように振り返れば、果たしてそこには明るい紅茶色の踊り子娘。見紛うはずない。ニィロウだ。まだダンス衣装を着たまま。もしかしてこれが普段の格好なのか? いや、今はそんなことを考えている場合ではない。早くこの場を切り抜けなければ。いや、このまま留まって、あるいはこの美少女と……。
「その手に持っているものはなぁに?」
 少女が問い詰めるが、綿菓子のようにふわふわとした声では迫力がない。ただ、その音色は耳にあまりに甘かった。染み通っては消えていくような声音。これに耳元で囁かれたら、理性を保てないかもしれない。

 沈黙は雄弁で、それをニィロウは自白と受け取った。
 ため息をついて頭を振る。
「こういうの良くないんだよ? とにかく、人、呼ばなくちゃ……」
 人? そうか、人がここにきて、彼女と俺の間に入り、そして俺は、俺は……!
 ようやく事態を理解し、焦燥感が駆け巡る。逃げなければ。でもどこへ。もしくは今すぐ彼女の口を塞ぎ何かするべきか。彼女の肌に触れたりすれば、理性を保てる自信がない。そうなればどれほどの幸福が俺に訪れるか。
 ただ、もうまごついている時間もなかった。
 袋を引ったくって、一目散に走りだす。

「あっ、ダメっ!」
 背後から声が響く。けれどいくら踊り子とはいえ、華奢な少女に男の脚には追いつくまい。流麗な踊りは似合っても泥臭い走りにはあまりに縁遠いはず。
 そう思った時だった。

「よっと」
 そんな、間の抜けた声と共に。

 脇腹に叩き込まれたのは、しなやかでぶっといおみ脚で──!

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咲崎弧瑠璃 2024/01/26 17:38

むちむち義妹にうってつけの日

 §
 新しく家族ができるのだと。

 少女が我が家に来るのだと。

 知らされて、引き合わされたのが、半年前。
 冬。
 まだ春分にも届かない頃だった。

 梅の並ぶ公園へ、会いに行ったのを覚えている。蕾の固く閉じた梅、綻ぶにはなお時間が必要で。父の再婚や急激な環境の変化に、思うところがない訳ではない。とはいえ、期待してしまうのもまた事実。何か予感めいたものもあった。冬の固い地面の感触を靴底に感じ、半ば速足だったことは白状する。

 ──本当に、本当に鮮烈な体験だった。

 公園の展望デッキ、鈍色の空を背景にしてなお、その姿は煌びやかだった。

 洒落たコートをまとった少女。16歳だとは聞いていた。けれど、その後ろ姿はずいぶんと背が高い。何より華やかだ。紅茶色の髪をサイドテールに結び、こちらを探しているのか、見回すたびに弾んでいる。
 そして振り返った時。
 思わず胸が跳ねた。
 
 小走りにやってくるのは、とびきりの美少女。周囲の男性と変わらない長身でやってくる、幼くも可憐な女の子だった。みるみる大きくなる人影は、一歩ごとに魅力を輝かせていく。まるで女子高生モデルかなにかのようだ。可愛らしいお姉さんといったその雰囲気。もう、ウィスキーに似た淡い瞳さえ見えてきた。

 そして、頭一つ分低い男子の前に立ち、はにかんで。
 家族となるべき相手と、少しぎこちなく会釈しあう。

 だが、その第一声。
 彼女は膝を折って屈みこみ。

「ボク、歳はいくつ?」

 子供向けの笑顔でそんなことをのたまったのだ。
 おまけに、“親御さんは?”、と。

 175㎝の長身美少女。
 片やこちらは、150㎝付近の小男。
 目線は、コート越しでも主張する胸元に届く程度で。

 俺が渋面するのも、当然のはこびだ。

「……俺、18歳なんだが」
「……え?」
「だから、年上だって!!」
 憤慨する義兄の声に少女は瞠目する。次いで、何か理解したように少し視線をそらすと、
「あー…………」
 困ったように、笑みを浮かべたのだった。

 “あー”とはなんだ、“あー”とは。

 ──まあ。
 まあそれが、有栖との初対面だったわけで。

 詰まるところ俺たちの邂逅は、最悪の部類に属するものだった。当たり前だ。後でわかったことだが、迷子かなにかに呼び止められたと思ったらしい。妙にぎこちなかったのもそのせい。“初めまして”より先に年齢かと憤慨したものだが、なんてことはない、義兄だと気づいてすらいなかったのだ。まして、年上だとは夢にも思わなかったろう。それが、これからともに暮らす人間だとも。
 ハナからずっこけた義兄妹、そんなもの麗しい家族愛を育むはずもない。おまけに相手は20㎝以上小さな低身長男子。弟なら可愛がる気にもなれただろうが、2歳年上となれば話は別。
 
 一目見て有栖は思っただろう。
 ああ、こいつに猫被るは必要ないな、と。

 結果生まれたのは、長身生意気義妹。
 コートを脱ぎ、猫を被るのをやめれば、中から出てきたのはサイドテールのクソ生意気美少女だった。大人びた顔だちに不遜な笑みを浮かべ、高身長の体をそびえさせる。
 そして、俺など歯牙にもかけないのだ。
 自然体を通り越した、清々しいまでのスルー。無視させない存在感を放ちながら、こちらの存在を徹底的に素通りする。いや、もはや無視ですらない。目に留めつつ、見なかったことにする。無視がゼロならこちらは反転してマイナスだ。ひどい話だった。
 
「……おい、いい加減目を見て話せ」
 ソファに寝っ転がり、長い体をどんっと横たえる有栖。一目見た時のあの可憐さはどこへやら、“あー、うんうん”とだけ生返事する。スマホから目も離さず、一文字たりと聞いていない。腹立たしい。正直キレそうだ。だが、力押しが通用する時代は終わった。今はただ不遇の時代。嘆息しつつ、手の打ちようがなかった。

 そりゃあ確かに? 俺が150㎝と女性より小柄なのは確か。いや、破格に小さい。正直ランドセルを背負った女子小学生に見下ろされることもある。背の順に並べば大抵1番目だし、子供と間違われることだってしょっちゅうだ。男性ホルモンをよこさなかった親父を恨むしかない。

 だけど、だけど175㎝は話が違うだろ……!
 考えてもみればいい。常に目線に巨乳を揺らす超絶美少女。それが一つ屋根の下、リビングに入れば凄まじい存在感で歩いているのだ。目のやり場に困る。一応家族になってしまった。直視するわけにはいかない。だが、無視もできない。こんな可愛い女子高生にキモがられたら、正直立ち直れるかわからなかった。
 
 だが、幸か不幸か、有栖は。
 キモいという感情さえ、持ち合わせてはいなかった。

 早々に俺を意識から外すと、空気のように、異性としては無以下のものとして扱い始めたのだ。

 ……俺のときめきを返せ。
 俺の青写真を返してくれ。

 そう思いつつも俺は、こいつの美少女っぷりから目を離せずにいた。無理もない。自分より圧倒的にデカい美少女が、あちこちのデカさを主張しながらすぐそばにいるのだから。

 悶々とするのは当然だった。
「……おい、服を着ろ」
「着てるよ? ほら」
「ほとんど下着姿じゃねえか!!」
 “ふーん?”と言ってわが身を確認する長身義妹。季節も過ぎ去り夏となった。その出で立ちはわずかに、キャミソールとホットパンツのみ。紺のデニム生地からは色白でぶっとい太ももが伸び、アイボリーのキャミからは谷間も肩も丸見えだ。肩に伸びるストラップが色っぽく、同時に強すぎる刺激を放っていた。本当に16歳かこいつ。

 そんな姿でウロウロされたら、気が散って仕方ない。自室に引きこもっていたい。だが目下、リビングは兄妹間で領土紛争中だ。というより、一方的に侵略されつつあった。このままではテレビもソファも治外法権に置かれてしまう。生憎、それを良しとする余裕など俺にはなかった。

 今も有栖は、ソファに寝ころびスマホをいじっている。ひざ掛けに太ももを預け、その長く太いブツを見せつけるのだ。背もたれから伸びる、眩しいばかりのむっちり美脚。俺の胴くらいあるんじゃないか。健康的な肉付きは生々しいくらいで、揺らすたびにむんにりとたわみ、色香を振りまいている。
 だが、見つめているわけにもいかない。
 俺は空いた席から義妹のバッグを放り出すと、どっかと腰かけた。
「ちょっと、危ないんだけど」
「詰めろバカ」
 強引にソファに割り込む。不平を言いつつ有栖も身を起こした。ああ、義兄妹仲良くソファに並ぶ日が来るなんて。正直、あまり嬉しくない。
「はぁ……。まあいいけど」
 隣で身をもたげる長躯。長身女性と並んで、肩までしか頭は届かない。それに思うところがないではないが、取り急ぎ保有地は確保できた。得意顔でソファに居座る俺。みみっちさはこの際度外視するほかない。

 とはいえ、妙だ。妙な居心地の悪さがあった。
 何か別のものを支配されているような……。

「義兄さんっていつもこうなの? 私だけ?」
 ぶつくさ言いながら、けれど巨大な肉体はなお何か甘い引力を感じさせている。
 主に、それは視線のすぐ近くから発せられていて……。

 ああ、そうだ。これだ。
 横に並べば、目線は肩と背比べ、目の高さには美少女爆乳。横から張り出してくる、恐ろしいまでのキャミソールおっぱいが視界を侵略してくるのだ。メロンくらいはあるその重量感。規格外のサイズは、他では拝めない物量だった。
 そんなもの、無視できるはずがない。
 おまけに、今俺の表情は有栖の死角。横目で見れば、彼女に気づかれることもない。普段見まいとしていた分、視線誘導の強制力は強烈だった。

 困った。
 実に実に困った。
 見ずにいられるはずがない。
 キャミソールから、溢れんばかりに覗くマシュマロ色おっぱい。
 その膨張する肉感と蕩けるような乳白色が、目に余りに毒だ。
 この巨乳に触れたら。
 この高密度の柔らかさに埋もれたら。
 洗濯物で、うっかり見てしまったGカップという大きさ。
 夢のようなそれを知って、どうして欲求を抑えたらいいのか。
 もしこのまま、いや、でも…………。

 義妹という立場と有無言わさぬ圧倒的肉体。
 両者がせめぎ合って、白熱する脳内。
 その脳天を打ったのは、

「見てんのバレてるよ?」
 美少女の、そんな呟きだった。

「えっ?!」
「バレない訳ないでしょ。しっかり俯いてんだもん。あはっ、小さいからって死角になると思ったんだ? 自分で認めてるじゃん、そのチビさ♪ 卑屈すぎ♪」
 ケラケラと笑うたび揺れるマシュマロ爆乳。今見るわけにはいかないと言いつつ、必死に見上げればますますバレてしまう。赤面しつつ、俺はどうすることも出来ない。ただ顔を背け、歯嚙みするだけだ。
「なんでこんなのと兄妹になっちゃうかなぁ?」
「……俺だって、誰がこんな生意気な……」
「で? それで胸見て興奮してるわけ? だっさ♪」
「べっ、別に見たくて見たわけじゃ……ッ!」
 一方の有栖は立ち上がると、そのままひらひら手を振って去ってしまう。
「そう言って、すぐ負けちゃうじゃん? ま、頑張りな~♪」
 どうも、戦利品のリモコンを取りに席を立ったようだった。生憎番組の趣味は合わない。何より今、こいつの隣に座り続ける度胸はなかった。

 憎々しくその背をねめつける俺。
 それから一つ、ため息を吐く。

 戻るか……。

 半ば敗北感に苛まれつつも、撤退する以外に手はない。
 席を立ち、トボトボと、義妹の背をかすめ、自室に戻らんとした……、

 その時。
 
「あっ、ごめん」
 振り返く美少女。
 そして、不意に、意図的に。
 その爆乳を、横殴りで顔面へぶち込んだ。

 乳ビンタだった。

「はっ……?」
 ふわりとした香りとともに、突如俺へ襲い掛かる義妹おっぱい。しっかりした生地に包まれたGカップ爆乳が視界を覆い尽くしたと思えば、次の瞬間襲ってきたのは“むちいぃ……ッ♡”ととてつもなく豊饒な弾力だった。顔前面に広がる幸せな密度と柔らかさ。だがそんなもの、1Lペットボトルで殴り倒されたも同然。質量にものを言わせた乳ビンタは、そのハリで小男を押し返し。
 俺を、弾き飛ばしてしまったのだ。

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