ひぽひぽ堂 2024/03/28 05:36

新婚でお嬢様 志保 EP2. (声:雲八はち)

そんなある日、志保は男から
「私物を取りにいくんですが、一緒に行ってみませんか?」
「僕の父が所有している別荘に…」
と誘われた


東京の郊外の緑が豊かな土地
その土地に男の言う「別荘」があった
「別荘とはいいましたが、その…」
「僕が子供の頃の大部分を過ごした家、って言ったほうが正しいかな…」
なるほど、それは別荘というには確かに、あまりにこぢんまりとしていた
「でも庭は広くて、池もあるし森もあったりで…そこがいいんですよ」
男が言うように敷地内の庭部分は大したものだった
「子供の頃はなんとも思わなかったけど「自然」っていいなぁ、て最近思うようになって…」
二人で庭を散歩し少しの時間が過ぎていく
その日は晴れ、ちょうどいい大きさと数の雲が空を流れている
そしてまたちょうどいいくらいの穏やかな風が吹いていた

いつしか二人は小さな森の中にいた
初めてなのになんだかどこかで見たことがあるような気がした志保
…あ、そうだ。子供の頃に観た有名な古いアニメ映画だ…
田舎に越してきた姉妹の物語。確か姉妹たちはこんな感じの、実に牧歌的な森の中を走り回っていた…
チュンチュンチュン…チチチ…と鳥の声
雲が流れ、さっきは隠れていた太陽が再び顔を出す
日の光に照らされる志保。その志保の長い髪をふわりと風が乱した
志保の口から自然と言葉が出た

●綺麗… 素敵な森ですね…
 …なんだか童話の中みたい…♡

男に対して言ったわけではない。それはまさしく独り言だった
そんな志保の横顔を見た男は
とても美しい…と思った
そして男と志保は別荘の中に入った
今日この場所に来たのは「ある物」を探すため…
男は一階をくまなく探すが見つからない
そして二階へ上がり男の「子供時代の部屋」に入り、中を探す
「やはりここにもないですね」
「捨てたはずはないのに…家族も捨てていない、って言っていたし…」
志保は邪魔にならないよう、壁際の窓の近くに立っていた
そして志保はふと窓の外を眺めた…
視界の中に「蔵」が映る
時代劇に出てくる建築物、ほっかむりをした盗人が忍び込みそうな、あの「蔵」だ
「蔵」なのに、こちらもどこかこぢんまりとしていた…
自然と「可愛い"蔵"ですね」と口から出た
「…え?…蔵…?」
きょとんとした顔の男。そして「そうだ、そこだっ!」と元気よく叫んだ

「あーーーっ!! あった!! あったぞっ!!やったっ!!」
蔵を出て男が地面に置いたモノ…それは
片手で悠々と持ち運べそうな、持ち手が付いた長方形の形の小さなバッグ
バッグを横断するように、表面についているチャックをジジジーー…と引っ張る
中から男が取り出したのは
数本の筆や様々な色の絵の具、そしてパレットだった
「懐かしいな…本当によかった…」
「これを…探していたんですか?」と志保
コクンと頷く男
「最近色んなことを考えるようになって…」
「これからのこと、自分の人生のこととか…」
「子供の頃のこと…」
「それで、自分は子供の頃よく絵を描いていたな…って思い出したんです…」
「いつごろから描かなくなったんだろうな、中学生からかな…よく覚えてないんですけど、そこは…」
「で、それを思い出してですね…それを思い出したら、なんだかまた描きたくなって…」
「で、描いてみたんですけど…どうにもなんか違うな、って… 思ったように描けなくて…困ってたんです」
「それで、子供の頃に使った筆や道具があれば…もしかしたらあの時みたいに上手く描けるかな、って思ったんです」
その時、強めの風がぶわっと流れ二人の髪を乱す
「す、すいません、こんなことに…付き合わせてしまって…」
髪をかき上げて微笑し
「そんなことないですよ、楽しかったです…」と答えた志保
「素敵な場所だと思います、ここ…」
「今度来るときは…もっとゆっくり案内してくださいね」
「…えっと、今度はお茶でも飲みながら…♡」

あ、と男は気づいて青ざめた
(そういえば…)
(僕たちが最後に飲み物を、水分を取ったのは何時間前だったろう…と)
男は急に喉の渇きを覚えた
(ずっと彼女は…不平不満を言わずにここまで僕の後を付いてきてくれたんだ…)


都内の屋敷に帰ってきた二人
門をくぐり入口のドアまであと何十メートルという時
男は不意に立ち止まり
「…いつか貴女の絵を描かせてもらえませんか…?」
と志保に聞いた
(私の…絵…)
(…志保の頭に一瞬「裸婦画」という言葉が思い浮かぶ)
(ま、まさか…そんなはずはないわよね…)
と少し動揺しつつも

●…え、えっと、私の"絵"ですか…?
 …は、はい…じゃあ
 そ、そのうちでよろしければ…はい…

と答えたのだった

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下記のファイルにて
頭に「●」がついたセリフが音声で試聴可能です

志保1.wav (6.15MB)

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