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小悪魔天使と地上生活の記事 (3)

Wedge White 2022/08/28 18:09

小悪魔天使と地上生活! 第2話

2話「夏休み前に」



「はぁ、夏休みねぇ」
「どうしたんですか、ハルちゃん。そんなに景気悪い顔をして?」
 今日の授業も終わって、寮へと帰る時間。
 わたしたちはしばらく教室に残っていました。天使とはいえ、それなりに友達を作って学校生活を送るもの。わたしには3人の友達がいました。
 いえ、上辺だけの付き合いだけなら、もっと友達は多いつもりでしたが、正直、普通の天使にはあんまり興味を持てません。なんというか、自我が薄すぎて、生物みを感じられないのです。つまり、わたしがまともに付き合っているのはアクの強い天使たち。
「暇なのよ、夏休みが。……私も頑張ってたつもりなのに、夏休み中の地上研修のメンバーには選ばれなかったし」
「クラスで3位でしたからね~。クラスから最大2人までっていう決まりでしたので」
「はぁぁっ……ルカに負けるのはしょうがないところあるけど、リトにも負けちゃったかぁ」
 盛大に溜息をついているのは、ハルちゃん。すっごく真面目なクラス委員で、勉強も運動も得意な優等生です。わたしほどは勉強できませんけど。
 すっごく真面目なのはそうなんですけど、負けず嫌いで表情がくるくる変わって、見ていて楽しい子です。
「……できるなら、代わってあげたいぐらいだけど。私、上手くできる自信ないし」
「ねぇ……。リトが地上なんて、心配過ぎるわ。先生がサポートするとはいえ、地上で生きている人間なんて、欲望まみれのヤバイ人ばっかりでしょ?リトみたいに可愛くて大人しい子、酷い目に遭わされないか心配……」
「あのー、ハルちゃん?リトちゃんは運動と戦闘試験では、ベルちゃんも超える堂々の学年一位のクッソつよつよなんですけど、どうしてそういう心配をされているので?」
「戦えることと、人間と上手くやっていけるコミュ力は別物でしょ。まさか気に入らない人間をぶん殴って回る訳にもいかないんだし」
「いいと思いますけどねぇ。天に弓引く行為をした時点で、罰が当たるのは当然。覚悟の上の行動と取っていいと思いますけど」
 リトちゃんは、いつもみんなの中で一歩引いて控えているような、あまり目立たない子です。
 しかし、意外や意外、運動神経は抜群で、音もなく相手の背後を取れるという、天使というよりはアサシンとして優秀過ぎる子です。わたしからすると、いまひとつモブ感強いなぁ、と思ったりもするんですが、能力的な個性はしっかりしてますね。
「そうだよ、リトちゃん。天使は舐められたら終わりなんだから」
「でも私、人が傷付くのを見たくないし……」
「私、組み手の決勝戦で結構、リトちゃんにぼこられた記憶あるんだけど……」
「それは……手を抜くのは失礼だと思ったし、ベルちゃんは剣術の腕前はすごいけど、動きが直線的すぎて読みやすいし……」
「うぅー!正論パンチはやめてー!私は守護天使の一族として、正々堂々とした戦いをする義務があるの!」
 さらっとリトちゃんに刺されまくっているのは、ベルちゃん。自分でも言っている通り、守護天使の家系だそうです。
 守護天使というのは、悪魔と戦う天界の戦闘班のようなものですね。天使の多くは神様の補佐を務めますが、守護天使だけは天使だけで軍隊を組織し、神様とは直接的な関わりを持ちません。そのため、教養などは求められず、その性質通りにベルちゃんは座学の成績が終わっています。その上で、戦闘でリトちゃんに負けてるので、うぎぎってなってますね。可愛いです。
「戦闘訓練とか組み手って言えばだけどさ、ルカは常に手を抜いてるでしょ?ああいうの、よくないと思うんだけど」
「手なんて抜いてませんよ?ただ、わたしは得物が弓ですし、タイマン勝負に致命的に向いてないだけです」
「それでもやりようがあるでしょ」
「わたしの運動神経のなさを甘く見ていますね……?」
 いや本当、わたしは戦闘とか運動とか、免除されてもいいと思うんですよね。……どうせ、まともに学校を卒業するつもりなんてないんですし。
「大体、守護天使以外に武力なんて必要ありませんよ。有事の際に悪魔と戦うため、とか言われてますけどね。それってつまり、神様を守るために死ねってことでしょう?……ひどいと思いませんか、そういうの」
 普通、こういう話を学校でしてはいけません。
 いえ、学校どころか、神様の存在する場所で言ってはいけないのです。しかし、わたしはあえて言いました。なぜか?
「まあ、ね……」
「私も。いざ戦えとなったら絶対、足がすくんで動けなくなると思う。……戦いなんて、したくない」
「……………………守護天使としても、同じ意見。戦いを生業にするのなんて、私たちぐらいでいいと思うから」
 わたしの友達たちはみんな、天界や神様の支配というものに、懐疑的なのです。
 それは、天使としては重篤な欠陥と言えます。天使は基本的には盲目的に神様に従うものなのです。そうじゃないと、色々な不都合が出てきます。
 ですが、ハルちゃんはその真面目すぎる性格からくる、責任感から。
 リトちゃんは、穏やかで優しい性格から。
 ベルちゃんは、守護天使として他の天使を悪魔たちから守りたいという使命感。騎士道精神のようなものから。
 それぞれ、普通の天使とは違う、わたしに言わせてみれば「堕天使的素質」を持っているのです。
 当然、彼女たちがみんな、堕天使になってほしいだなんて思いません。天使は天使として最後まで生きていくのが普通。それが幸せだと思っています。
 しかし、わたしが背中を押すことはなくても、彼女たちが堕天の道を進むというのなら……それを否定するつもりはありません。むしろ、わたしの友達が神様の支配を抜け出すような生き方を志すことを、誇りに思います。
「とりあえず、わたしたちは地上研修を頑張りましょうか、リトちゃん。たった数人の天使が疑問を抱いていたところで、なんにも変わらないかもしれませんが。それでも、何かは変わる可能性はありますし」
「……うん。ルカちゃんはもうどこに行くか、希望は出したの?」
「はいっ、一番そこが楽しそうなので、日本に決めました。以前、日本出身の人と話して、いいな~と思いまして。実際、他の地域に比べれば治安もいいそうですし、テキトーに楽しめそうなんですよね」
「そうなんだ。私はね、イタリアのヴェネツィアっていう街にしたの。すごく奇麗な街だから」
「あ、わたしも知ってますよ!確か、水の都って呼ばれてるんですよね」
「うん。どうせなら奇麗な街で暮らしてみたいから」

 それから、わたしたちは自然と解散になり、寮への帰り道をリトちゃんと一緒に歩きました。
 ハルちゃんは用事があるらしく、ベルちゃんはまだもうしばらく鍛錬をするということで、帰りがわたしたち二人だけになることは割りとよくあります。
 静かなリトちゃんと二人では、あまり会話は盛り上がらない……ということは全くなく、二人きりの方がリトちゃんは多弁になります。むしろわたしの方が聞き役になることが多いぐらいです。だからといって、リトちゃんは静かに話すので、うるさいということは全くありません。
 そして、わたしは彼女とのこの静かで穏やかな時間が好きだったりします。
「正直な話だけどね。私、学生としてはともかく、天使としては全然優秀じゃないと思うの。人と話すのも苦手だし、神様と話すのも……苦手。苦手なだけならいいけど、時々、目の前に立っているだけで息が止まりそうになる人もいるから……」
「あー、神様も色々いますからね。えらそーな神様とか」
「実際に偉い神様だったりするのはわかるんだけど、それでも……ね。なんだか、私のことを値踏みされてるみたいで」

「リトちゃんは可愛いですしね」
「にゃっ……!?」
「ほら、とっても可愛いですよ?」
「か、からかわないでよ……」
「まあ真剣な話をすると、神様の半分は天使を使える駒か、そうでないか、で判断してる節はありますよね。もちろん、優しい神様もたくさんいますけど。でもやっぱり、天使って下っ端ですし。道具みたいな物と思っていてもおかしくないので、むしろちゃんと親身になってくれる神様の方が本来的にはイレギュラーなのかもしれません」
「……それはわかってるつもり、なんだけどね」
「誰だって、自分を粗雑に扱われていい気持ちなんてしませんよ。その反感は決しておかしなことではないと思います」
「でも天使として生まれたからには、割り切らなきゃ、だよね」
「“ちゃんとした天使”であろうとするからには、そうですね」
「ルカちゃんはそうじゃないってこと?」
「わたし、真面目でちゃんとした天使に見えますか?」
「学校生活を見る限りでは」
「そんなの、いくらでも繕えますよ。――リトちゃんは一番の友達なので、教えちゃいますね。わたし、嫌いなものが2つあるんです。いえ、3つでしょうか」
「ルカちゃんの嫌いなもの?」
「はい。第3位は、天使です」
 わたしは、3本指を立てて、かる~く言いました。
 リトちゃんは、少し意外そうに目を見開きます。わたしは構わず、1本だけ指を折り、2本指を立てました。人のするピースサインです。
「第2位は、神様。第1位は」
 一本だけ指を立てて。
「嫌いなものの中で真顔で生きているわたし自身です。わたしは自分自身が一番嫌いで、許せないんです」
「……どうして?」
「理由ですか?う、うーん、そう聞かれると、困っちゃうんですよね。まあ、天界の体制がどうにも承服しかねるものであることと、後はやっぱり、大多数の天使がいかにも神様にとって都合のいい道具って感じで作られてるので、生理的嫌悪感を覚えるのと、それを平気で維持している神様が嫌いで……あれ、リトちゃん?」
「どうして、私はそうやって言えないんだろうね。どうしてルカちゃんとは違うんだろ」
「リトちゃん、わたしに憧れる必要なんてないですよ。わたし、今かなり危ない発言をしちゃってますし。こういうワルに憧れてもいいことなんて、ひとつもないので」
「ううん。でも……憧れちゃうから。あなたみたいになりたいって、思ってしまう。嫌いなものを嫌いってちゃんと言える。言語化できる。嫌いなものを嫌いなんだって認識できる時点で、私には羨ましいことだから」
「……なるほど。その辺りも、天使特有の“制限”なのかもしれませんね。わたし、自分で言うのもおかしいかもしれませんが、かなり天使としてのリミッターみたいなものが外れていると思うんです。頭のよさもそうですし、いい感じに生意気な感じとか。多分、他の天使には絶対にない特別なものなんですよね」
 少し、自虐的に言ってみます。
 実際、わたしは先生に会って、初めて胸のときめきを感じてから。
 わたしはきっと、他の大多数の天使とは違うんだ、と気づきました。完全なイレギュラー、ただの天使にはないものを持っていて、ただの天使が持っているものを持ってはいない。きっと真の意味での理解者がいない存在なのだろうと。
「私も、ルカちゃんの真似ならできるかな」
「……言ってみたらどうですか?これが嫌いだー、って」
「うん。言ってみる。言ってみたい。……私はね」
「はい」

 リトちゃんは足を止めて、わたしを見つめて言いました。
 その言葉を聞いた瞬間、わたしは確信することができたのです。

 ――ああ、この子はきっと、わたしと同じなんだ。
 間違いなく、普通に天使として生きていくことはできない。
 間違いなく、堕天使になってしまう。それを止めることは、誰にもできない。

『人間が大嫌い。自分の善行に酔っている人間も、悪行を重ねる人間も。自分が善でも悪でもない中立だと信じて疑わない人間も。全てが』

 どうして、彼女がそんな考えに至ってしまったのかはわかりません。
 だけど、わたしに言えることは一つでした。
「人間は、天使とは違いますからね。自由に考えることができるんです。自由に生きることができるんです。天使とは違って」
「……羨ましいね。妬ましいね」
「はい。間違いなく」
「いいなあ、人間って」
「そうですね」
 リトちゃんは、人間に憧れていました。
 彼女は、天使として真っ当に生きていくには気弱すぎたのです。
 そして、わたしが気軽に言った本音が、彼女の本音をも引き出した。
 人間への強い憧れ。強すぎる羨望の気持ちが裏返り、どうしようもない憎悪へと転化してしまっていた。
 きっと、リトちゃんに劇的な事件はなかったのだと思います。
 その代わり、幼い頃からずっと、天使としての生きづらさのようなものを感じていた。
 それが、今になっておぼろげながらも像を結びつつあり、そして結果的にわたしの言葉が完全な形を作らせてしまった。
「リトちゃん、リトちゃんが本音を言ってくれたので、わたしもひとつ、大事な秘密を話しますね」
 わたしは利己的な天使です。彼女の堕落のきっかけを作ってしまっておいて、それを流せるほど図太くないですし、自分の罪悪感を消し去っておきたい程度には小物です。なので。

『わたし、今回の地上研修を最後に、天界には帰らないつもりです。堕天使になっちゃいます』

 堂々とした犯行声明。
 言ってしまえば、実に簡単でした。
 ですが、それを言語化した瞬間から、真実味を持ち始めます。
 ああ、わたしは本当に天使をやめてしまうんですね。それを、強く望んでいるのですね。
 やってしまいました。完全に、やってしまったのです。
「いいなあ」
 ぽつりと言ったリトちゃんの言葉は、紛れもない本心だったのでしょう。
 ですが、わたしはそれをたしなめることも、彼女を励ますこともしませんでした。
 だってきっと、既に彼女の心も決まっていたのだから。



 ひとつだけ、ネタバレを。
 残念ながら、これから先はわたしの物語で手一杯で、彼女のその後を追いかけることはできないので、結果だけを報告させてください。
 リトちゃんはこの後、地上で30人以上の人間を手に掛けたことで、堕天使対策の守護天使たちの間で指名手配犯となります。
 端的に言うと、チンピラと、そこからつながっていった反社会組織の人間を手当たり次第に残虐な方法で殺していったそうです。
 リトちゃんは学校では暗器を使った戦闘術で誰にも負けず、華奢な見た目に反して、恐ろしいほどの腕力を持っていました。彼女ならば造作もないことだったのでしょう。

 わたしは先生との「愛」に生きるため、堕天使となることを確信していました。
 しかし、彼女は人間に対して行った「悪」によって、堕天使となったのです。
 わたしにはこれ以上、彼女を表現する言葉がありませんが、皆さんはどう感じるのでしょうか。
 いずれにしろ、この数日後。夏休み直前の終業式に、わたしとリトちゃんは永遠の別れをすることになりました。

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Wedge White 2022/08/04 23:57

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Wedge White 2022/08/02 15:42

小悪魔天使と地上生活! 第1話

このお話について

 「小悪魔天使の誘惑」のその後のお話となります
 先生と恋人関係になったルカは夏休み、「地上研修」として人間界に降り立ち、しばらく人間の生活ぶりを体験することになります
 完全に天界の監視から自由になり、先生と恋人になって初めて過ごす地上の夏
 二人の関係はどのように発展していくのか
 その様子を描いたお話となります



キャラクター紹介

キャラ紹介
ルカ
149cm 49kg B:98(I) W:62 H:86
天使学校の生徒
成績優秀で、学校始まって以来の天才とされるが、ややわがままで先生のことが男として大好き
お菓子が大好きで、そこら中ふわふわとした、ややだらしない体型
幼い頃から天才と言われるほど賢く、またお嬢様としてほとんど外の世界を知らずに過ごしたため、寮暮らしをしている今の方がむしろ自由がある
無菌状態で過ごしたためか、恋への憧れが強い。また、性欲も相当強く、毎日のように自慰をしている

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