羊おじさん倶楽部 2020/08/08 12:03

好きな小説について紹介させてください(ホラー縛り)

シナリオ書いてる人はCi-enで好きな小説紹介していいって

聞いたので、自作品でよく参考にする小説をホラー系の中から紹介します。(夏ですし)

書き終わってから気付きましたが、サイコパス系ばかりで幽霊ものが一個もないですね……まぁ、一番怖いのは人間(の怠惰)って言いますし。

著者がにわかなので有名作品ばかり並びます。ご容赦

各画像、引用紹介文はリンク先Amazon.co.jpからの引用です。

魔女の子供はやってこない

小学生の夏子はある日「六〇六号室まで届けてください。お礼します。魔女」と書かれたへんてこなステッキを拾う。半信半疑で友達5人と部屋を訪ねるが、調子外れな魔女の暴走と勘違いで、あっさり2人が銃殺&毒殺されてしまい、夏子達はパニック状態に。反省したらしい魔女は、お詫びに「魔法で生き返してあげる」と提案するが―。日常が歪み、世界が反転する。夏子と魔女が繰り広げる、吐くほどキュートな暗黒系童話。

ホラーかといわれると少し首をかしげるのですが、まぁ人がバンバカ死んでるのでホラーでいいでしょう。

この作者の文体はシュールレアリズム寄りというか、だいぶリアルな純文学っぽい考え方やセリフを吐くキャラクターの周囲でふざけ半分の世界が展開していく点が無二の才能だと思います。

以下は喪服を買いに来た主人公らによる原宿の風景描写です。

出口を間違えた私たちは竹下通りを目指しました。明治神宮へ飛来するという天狗を探しましたが雲で咄嗟に見当たりませんでした。日野の天狗に大戦後奪われ今は二代目という駅舎には天狗防除の遊戯王カードが無数に貼られておりテングストライクで時折止まる山手線のニュースも毎日のように聞くところでした。行者による誘引が後を絶たないので人は皆天狗の嫌う杉生い茂る竹下通りに集まるようになったという道徳の授業の内容と違わず竹下通りは溢れる人間で埋め尽くされており、ロッテリア、軽く傾斜のついた坂道、風船のオブジェと双頭の二宮金次郎像を通り過ぎ私たちは色とりどりの人混みに紛れました。「痛踏まれた」「人が多くて歩けない」

これだけなら文体芸人かな、と思うのですが、キャラクターの独白が下手な純文学より重苦しかったりして、アンバランスな生物が人の服着て大道芸人のふりをしているというのが率直な印象です。

日本文界で唯一の鬼才だと思います。

あと自作の宣伝で恐縮なのですが、この作品インスパイアなノベルゲーム作りました。もし興味があればどうぞ。(今日の本題おしまい)


魔女魔少魔法魔/羊おじさん倶楽部


或るろくでなしの死

良識を示そうとした浮浪者が誰にも相手にされずに迎える「或るはぐれ者の死」、他国で白眼視されながら生きる故郷喪失者の日本人が迎える「或る嫌われ者の死」、自らの欲望に女の子を奉仕させようとしたくだらない大人が迎える「或るろくでなしの死」、過去の栄光をよすがにダメな人生をおくるぼんくらが迎える「或る英雄の死」…。本人の意志や希望と関係なく不意に訪れる7つの“死”を描いた傑作短編集!

平山夢明の短編は社会のある一部分、我々が故意に目を逸らそうとしている部分を露悪的に、されど感情抜きに映し出します。

そこに教訓なんてなく、人はただ怠惰だったり無知だったりという理由で簡単に死んでいくし、悪いことをした人間ではなく弱くて性欲をそそる人間から死んでいくのだと。そして彼らの死は我々の一時的な娯楽となってすぐに忘れ去られるのだと。

元々実話系ホラー短編集で文体を磨いた人なので、グロテスクな描写や狂った人間のセリフ回しについては国内一級品です。

各短編で、必ず一人の人間が死にます。それが自分自身だったかもしれないと思いながら読むと、もしかしたら同情の念くらいは湧いて出てくるかもしれません。

GOTH

森野夜が拾った一冊の手帳。そこには女性がさらわれ、山奥で切り刻まれていく過程が克明に記されていた。これは、最近騒がれている連続殺人犯の日記ではないのか。もしも本物だとすれば、最新の犠牲者はまだ警察に発見されぬまま、犯行現場に立ちすくんでいるはずだ。「彼女に会いにいかない?」と森野は「僕」を誘う…。人間の残酷な面を覗きたがる悪趣味な若者たち―“GOTH”を描き第三回本格ミステリ大賞に輝いた、乙一の跳躍点というべき作品。「夜」に焦点をあわせた短編三作を収録。

ホラーじゃなくミステリーな気がします。「殺人鬼 vs 暗い子供たち」系のジュブナイル小説では一番好きな叙述トリックものです。何故か上下巻?+続巻???に分かれてるので『夜の章』を先にお読みください。

手にとってみればわかるかと思いますが、だいぶ薄い本で、そのうちにいくつかの短編が入っているので、一話一話はさらに短いです。

その短さのなかでコンパクトに面白さがまとまっている。

無駄な場面は一切なく、かといってキャラクター描写や事件の導入に不足があるわけでもない。構成に関しては出来のいい短編映画を思わせる優等生ぶりです。

筆者は中高生のときに読んで、いまだに乙一の影響から抜けられていない気がします。


とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢

美しい金髪女子中学生の誘拐事件、誕生前から仲違いしてきた双子の兄弟、赤ん坊を見守るネコの魔力、腕利きの美容整形医がはまる悪夢のような現実…。ミステリ/ホラー/ファンタジーの垣根を超えて心の暗闇と現実の歪みを描き、近年ノーベル文学賞の候補と目されるアメリカ女性作家の自選中短篇傑作集。

作品数多い作家さんらしいんですけど、日本だと手に入れにくいんですよね。幻想的なホラーです、と言い切れてしまえば楽なのですけど、彼女の小説の本質は人が犯罪を○すに至るまでの憎悪のゆらぎとその結末です。極めて淡々とした三人称、あるいは過剰な一人称で人が人を殺し、破滅するまでの過程を描いている。

決して印象的なセリフや魅力的なキャラクターがいるわけではないのですが、とにかく一人称のテンポと存在感が力強い。情景描写すらそのほとんどを一人称の独白で済ませてしまい(三人称文体なのに)、読者の意識を主人公の視界へと嵌め込んでしまう。

それからアイディアの手数も素晴らしいです。シチュエーションや主人公の属性がバラエティに富み、リアリティと幻想の合間を縫い、されど定型的ではなく思わず息を詰まらせるような意外なエンディングが用意されている。

ホラーでエンタメ的に面白いと思うことはなかなかないのですが(スティーブン・キングはちょっとキャラクターが浅すぎる)、この人の作品は素直に面白いと言える気がします。


以上

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