しゅれでぃんがー 2020/01/13 21:00

五等分の花嫁に見る「作品」と「商品」


 『五等分の花嫁』(週刊少年マガジン、春場ねぎ)が、物語をたたみにかかっている。姉妹たちはどんどん主人公との関係性に終止符を打たれていき、最後は告白するのかどうか。第一話からの結婚式シーンの前フリを回収する、興味深い展開である。

 しかし、読者の反応を見ていると、この流れに好意的な人はあまり多くないように思う。(納得している人はわざわざ意見を言ってないだけの可能性もあるが)わたしも正直言ってこの展開は良くないなぁ、と思っていたりする。この展開が面白い面白くないとかそういう話ではなく、【週刊誌で連載する漫画】としてよくない流れではないだろうか。

 何故良くないのか? それは単純な話。
【読者が求めていないから】、である。


 エンターテイメントに属するコンテンツというのは、良くも悪くも【クオリティ】ではなく【市場の需要】が優先される。【面白い物語】、ではなく。【みんなが読みたい物語】を作って送り出す。それが健全なサイクルとされる。読者は読みたいものにお金を払い、そして商品を読んで心を豊かにするのである。

 本当に面白い物語なら、どんな展開でも読者はついてきてくれる。そういう考えは作者の傲慢である。そういう考えなら雑誌でやらずに個人でWEB連載すればいい。運よく出資者の目に留まれば、単行本数冊ぐらいなら出版できるかもしれない。しかし、『五等分の花嫁』は読者に「ラブコメ」として認識されている物語である。クリスマスからの展開はラブコメをやや逸脱しつつも、一応は恋の駆け引きが継続した、なんとも不思議な物語が目を惹く作品となっていた。ここから好きになった読者もいるだろう。わたしもそうだ。しかし、今の『五等分の花嫁』は、もう五等分ではなくなりつつある。

 今までの謎が解けて過去に出会った少女が誰だったのか判明した。一途な主人公は彼女へ告白する決意を固める。たしかに良い展開である。感動的かもしれない。でも。そういう展開は、『五等分の花嫁』に対して求めていなかった。そんな人たちは結構多いんじゃないだろうか。わたしもそうである。いつまでもラブをコメしていて欲しかったし、もっと言えば【俺たちの戦いはこれからだ】(よくある打ち切りの最終頁のように、全てを濁して終わること)展開で、京都の少女が誰なのか分からずに終わる。というのも十分にアリだったのではないか、と思う。


 春場ねぎ氏は今の展開が描きたかったのかもしれない。ようやく描けて満足しているのかもしれない。しかし、読者は、作者が描きたかった展開を読んで、こんな話は読みたくなかった、と落胆する。面白く無いわけではない。ただ、こういうのは読みたくなかったのである。ここに、作者と読者の温度差がある。


 何故こんな温度差が生まれるのか。それは、「作者が、読者が読みたい話より、作者が描きたい話を優先してしまった」からではないだろうか。漫画とは娯楽である。(もちろん小説も)そこには、お金を出して買う読者がいる。その読者を置き去りにして、自分が描きたいものを優先してしまった。ゆえに、読者の心が離れてしまった。


 しかし、なぜ悪くない展開なのに、読者に違和感を与えるのだろうか。その理由は、それまでの物語と結末へ至る物語の流れにちぐはぐさが生まれているからではないだろうか。今までは複数ヒロインのラブコメでやってきたのに、いきなりシリアスに転換した。いや、いきなりではないのだが。

初めはラブコメだったのに。初めはラブコメだったのなら、何故最後までラブコメをしてくれないのか。そんな思いが、読者の心に渦巻くのだ。


 別に、唐突に終わってもいいのである。答えを出さずに終わってもいいのだ。だって、エンターテイメントなんだから。それなのに、現代のラブコメは誰か一人を選ぼうとする。そのせいで、これまでの作品の空気が崩壊し、読者は反発してアンチにすらなってしまうのだ。誰か一人を初めから選んでしまう、というのも問題だが。最後に誰かを選ぶのも問題だ。なにせ、【他のヒロインと結ばれる可能性】というのが、公式で完全否定されてしまうのだから。読者が想像する余地すらない。というか、創造の余地すら奪われる。だからこそ選ばれたヒロイン以外のヒロインが好きだった読者たちは、悲しみ、憎しみ、憎悪するのだ。


 わたしは結末の無い物語を推奨しない。しかし、エンタメ作品に対してはその限りではない。結末を明示することで、壊れてしまう物がある。それは読者にとって大切なものであり、作者にとっても大切なものである。

 そのどちらを優先するか。そこに、【誰に向けた物語なのか】が浮かび上がる。

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