しゅれでぃんがー 2020/04/01 19:34

触手くんの大冒険:勇者さん

 遠い昔に魔物たちが触手くんたちの世界に侵攻してきた時戦った人間の女性。人間を遥かに超えた力を持ち、見事魔獣たちから世界を守ったという御伽噺が残っている。


 しかし、その真実はちょっと違う。勇者さんは別次元からこの世界に送られてきた対魔獣武器をたまたま拾っただけの、いたって普通な村娘だった。その武器は人格を持っていて、自分は世界を侵食する魔獣の侵攻を食い止めるために作られた武器であること(こういう武器を作る世界が他の世界にあり、そこからいろんな世界に色んな武器やアイテムが転送されているらしい)。この世界は魔獣により魔界へと呑み込まれる危機に直面していることを語った。

 勇者さんは人並みに夢見る少女だったので、軽い気持ちで戦いに身を投じる。実際、その剣は鬼のように強かったので、特に危険な目に遭うことも無く、魔界とこの世界がつながりかけているゲートのようなところまではいけた。しかし、勇者さんの剣でもそのゲートを破壊することはできず、勇者さんはゲートの周りに何重もの結界を張らせて自身はその結界の中に残り、人間が対抗手段を見つけるまで時間稼ぎをすることを選んだ。


 勇者さんとしてはみんなのためを思ってした選択だったが、本心ではヒロイックな陶酔に酔っていただけである。だから、初めの数年は何ともなかったが、何十年も時が経つにつれて彼女の中に後悔が生まれてくる。何故自分はこんなことをしているんだろう。他のみんなは何をしているんだろう。助けはいつ来るんだろう。いつまでこんなことをし続けていればいいんだろう。そんな後悔がとめどなく胸から湧き出て、ついには胸を塗りつぶしてしまった。

 そして外の世界では研究機関が発足して研究が始まったが、時が経つにつれて危機感が薄れてしまい失速。その研究機関自体が予算カットやら国同士の戦争に巻き込まれたりして分割や消滅なんかのせいで削れていった。それではいけないと危機感を募らせた研究機関創始者が、老衰で死ぬ間際までに研究機関を国から切り離した学術機関としての地位を確立。あらゆる利権に侵されない、神聖なる研究機関という建前で存続を成功する。

 しかし、そのために行った活動の期間が長すぎて、勇者さんと魔界に関する情報がどんどん風化していった。今では魔界から侵攻された歴史を知ってる人間もいないくらい時が経ってしまったので、すっかり研究も凍結してしまっている。


 勇者さんは今でも触手くんの世界と魔界のはざまで戦っている。しかし、それを知る人はもういない。

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