しゅれでぃんがー 2023/01/26 03:24

【文字――物語概論】物語の盛り上がりの総量とヴィランの格の関連性について

 シナリオを作るうえで有効な手段というのはいくつかある。【行って帰る形にすること】、【ジュブナイルにすること】、【主人公かラスボスをどっちかとりあえず作り切ること】……他にもいろいろある。いや、なかったような気もする。


 今回は【主人公かラスボスをどっちかとりあえず作り切ること】に関連する理論である、物語の盛り上がりの総量とヴィランの格の関連性について書いていこう。





 主人公や悪役は作者の知能を越える物事を行うことはできない、という話を聞いたことは無いだろうか。作者が思いつかない展開は、勝手に生えてこないという意味である。その逆として、キャラが勝手に動き出す、という話もあったりする。これはなにも本当にキャラが勝手に動くという意味ではもちろんない。キャラの目線で展開を考えれば、自然に次の話が自動的にできていくという意味である。


 どっちが正しいか、どっちが良いことか。それについては人による。より良い展開を考えるためにひたすら勉強して知識を蓄えても良いし。キャラの目線で感情移入を深め、その動きに身を任せるのも良いだろう。優劣は無い。人の数だけ創作方法というのがあるというだけである。


 ただ、私は曖昧な事物というのを基本的に信じない。なにかをするならなにかしらの指針が欲しいし、決まった方法論があるならそれに則って作りたい。だから、自分なりに考えてみた。作ってみた。物語におけるスケールを拡大する方法、その確定した方法論を。一番手っ取り早く、確かな尺度。それを図るものさしを。


 それを図るものさし、それはなんなのか。それが、【ヴィランの格】なのだ。





 私がそれに気づいたのは、じつは、創作とはけっこう遠い場所からである。一時期はまって、真剣に努力して取り組んでいた娯楽。格闘ゲームでの気づきだった。


 私が好きだったゲームである『アカツキ電光戦記』。私が格闘ゲームに興味を持った時代では、もうアーケードで稼働しているゲームセンターが無かったので。ついぞプレイすることは無かったのだけれど。このゲームの同人販売されたディスク。その中のファイルのナンバリングを見ると、面白いことが分かる。その説明の前に、まず、この作品のシナリオ構造について解説しておかなければならない。


『アカツキ電光戦記』というゲームのシナリオはこういう流れだ。主人公のアカツキは旧陸軍の技官であり、電光機関という機密情報を外国から潜水艦で輸送していた。が、潜水艦は沈没。コールドスリープで時間が経ち、現代で目覚める。これがアカツキのバックボーン。だが、電光機関自体はアカツキが出現する以前から存在するし、むしろ電光機関よりも重大な要素がこのゲームのシナリオには存在する。それが作中では大いなる遺産と呼ばれるもので、その実態は【転生の秘宝】と呼ばれる……秘術だったっけ。まあ、そういうのがあるのだ。クローンに自分の記憶を転写することで永遠に生き続ける、それが大いなる遺産の実態であった。


 このゲームのファイル内の、キャラクターデータのナンバリング。その01はムラクモである。ムラクモはこのゲームのラスボスであり、アカツキに、任務が失敗せし時は、電光機関を破壊せよという命令を下した人物である。その次の02が大いなる遺産をクローン無しで実行できる存在である完全者(ペルフェクティ)なのだが……ここで大事なのは、アカツキはムラクモより後に生まれた存在。ラスボスが一番初めに生まれたという事実である。


 ムラクモはアカツキがいなくても存在できるキャラクターであるが、アカツキはムラクモがいなければ存在できない。というか、アカツキ電光戦記という世界自体が生まれない。それに気づいた時、私はヴィランの大切さについて理解した。巨大な敵の存在こそ、主人公の存在感を引き立たせるのである。


 主人公は、ラスボスが行った悪行以上の善行を積むことはできない。何故なら、主人公はある意味で受け身な存在。悪が行った悪事に対してしか行動することができないからである。その世界の問題を解決することで、主人公は自分がその世界の主人公であることを。その世界に、そしてその世界を読む読者に知らしめる。それゆえに、解決した問題の難度自体が、その主人公の能力の説得力となる。だからこそ。しょぼいヴィランしかいないと、相対的にしょぼい主人公という姿しか見せることができない。主人公の価値は、ヴィランの格に左右されてしまうのだ。






 魅力的なキャラクターをたくさん量産する人というのは世の中にわりといる。良い感じのヒーローとかヒロインとかを動かして、読者の心を掴む。それもまた才能であろう。だが、そういう人に限って。ヴィランをおろそかにしがちである。だから、せっかく生み出した魅力的な主人公たちの格が。倒すべき悪のしょぼさに引きずられて、しょうもない存在に成り下がっている。そういう作品が、世の中には多い。


 魅力的なキャラクターたちを輝かせるためにも、それを陰らせる悪が必要だ。そして、そこまで気づいたら見えてくるものがある。逆説的に考えるのだ。魅力的な主人公は、魅力的な悪を作れば自動的に生み出されるのである。だからこそ。一番初めに、一番頑張って作るべきは。その物語が始まる原因である悪なのだ。悪さえ生まれれば、それに対応した主人公が勝手に、しかも自由に生まれてくるのである。





 主人公なんてのは、後で考えればいい。まずは、主人公がいない世界でラスボスがやりたいことを最後までやり切ったらその世界がどうなるのかを考える。ラスボスがやりたいこと、そしてそれをやり切ったらどうなるか。それが出来上がったら、次に、それを止めるためには何処にどんなエピソードがありそうかを考える。そして、エピソードの候補がある程度で揃ったら、そのエピソードはどんなキャラクターがいれば解決できるかを考える。じゃあ、そうなればそのキャラクターはどんな立場でどんな職業でどんな年齢で……というのが、勝手に出来上がるのである。だって、そのラスボスに対して一番最適な主人公ってのは、ある種オーダーメイドのスーツのようなものだから。一番ちょうどいい存在というのは、目的を決めてある程度狙えばちゃんと作れるものである。


 あとは、ラスボスとか主人公とか、各エピソードにかかわってきそうなキャラを徹底的に洗い出す。で、ちょうど良さそうなキャラを作って行って、サブキャラを埋めていく。生まれたサブキャラは各エピソードで登場したとしてどういう動きをしそうか考えていけば、それに連鎖してまたキャラも増えていく。それらすべての根本には、まずラスボスがいなければならない。逆に考えれば。ラスボスさえちゃんと作れば、他の物は全部勝手に揃っていくのである。

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