yatsureCreate 2018/09/05 11:18

【ノベル】TSと親友と戸惑いと−1

「な・・・・マジかこれ・・・」

セミロングの黒髪に縮まった肩幅と身長、膨らんだ胸・・・おお、柔らかい。鏡に映っている自分の姿は、最早他人のそれだった。男は3日会わなければなんとやらと言うが、人が変わったと言う言葉の意味が、まさにそのまんまである。突然性別が変わってしまう病が流行っていると聞いて居たが、まさか自分が発症するとは。今の所、治癒の成功例が出て居ないこの不治の病は、一瞬で人の一生を全く別のものへと変化させる。恋人が居る人間が発症した時の修羅場と言ったらないが、まさか恋人いない歴=年齢というkirinが幸いになるなんて。今日が土曜で良かった。いや、よくねぇ。学校が休み、という所までは良い。問題は・・・・。

ピンポーン!

来た。はええ。約束の時間よりも一時間はええ。バカじゃねーのかアイツ。どんだけあのゲームにハマってんだよわかるけど。多分今頃、母親がインターホン越しに親友と話しているだろう。今日、アイツが来る事は伝えていたから。という事は、間も無くこの部屋に来る、ということだ。嘘だろオイオイ。

「ヘイヘーイ!今日も元気にゴリラAIM・・・え!?誰!?」
「・・・よぉ。」

これが、TS病を発症した初日の朝。流石にこの日は遊ぶのをやめて母親と病院に行き、学校に1週間ほど休むことを伝えた。体調的には少しだるいくらいで、病院の先生からも専用のホルモン剤を飲んでれば問題なく学校に行って良いと話をされたが、いやいや、学校どころじゃない。心の整理はさせてくれ。今後、どう生きるか。父親も交えた家族会議が開かれたが、まぁ、元々放任主義の両親だったので、結局"好きに生きろ"で話はまとまった。全然まとまってないのだが。学校には、すでに自分がTS病を患った事について連絡が行っている。と言っても、別段友達が多い訳ではないので然程話題にもならないだろう。というか、今後は友達ってどうなるんだ?女の子の輪に入るなんて、一旦考えられない。自分が女になった事と、自分が女の子の輪に入れる事はイコールで全く結びつかない気がする。そもそも、女の子と話せないから困っていたのだ。という所まで、ぼ〜っと考えたが、一般交友関係についてはどうでもよくなった。元々自分は友達が少ない。あんまり周りに合わせて過ごす、という事が好きじゃない。面倒なのだ。だから、気がかりなのはアイツ。唯一の友とも言える親友と、今後どう接したら良いのか。別に何も考える必要なんて無いのかも知れないが、こういう時、もしも逆の立場だったらと考える。もしもアイツがTSったら、自分はどうする・・・?ああ、考えるだけでゾッとする。そんな時、ピンポーン!とインターホンが家に鳴り響いた。母親はパートに出かけてしまい、家には自分一人だ。学校のお休み一日目の夕方。やれやれ、宅急便か。と思い出てみれば

「よっ!パブジーしようぜ!」
「・・・・。」

これである。今流行りのFPSゲームに、こいつはどっぷりハマっているのだが、問題はこいつの家にはゲームができるほどのスペックを持ったパソコンがない事だ。パソコンが大好きな自分はそこそこのスペックのパソコンを2台持っている。作業用とゲーム用。作業用にもグラボを積んでいるので、二人並んでゲームを楽しめる、という訳だが、こいつには遠慮という2文字はないらしい。思わずため息をつきそうになるが、そこがコイツの良い所でもあるし、今後についての無駄な思考をぐるぐるとループさせているくらいなら、気分転換にゲームをする方が良いだろう。部屋へと招き入れると、来る途中で買って来たと思わしきお菓子とジュースを広げ、ニコニコとポテチの袋を開け始めた。

「箸持って来るから、ちょっと待ってろ」
「サンキュー!」

いつも通り。なんか、拍子抜けした。アイツも自分と同じkirinだから、何かしらアクションがありそうだと身構えていたのだが。自分で言うのもアレだが、男の時からそこそこ容姿が整ってはいた自分は、今となっては結構良い線いく女の子だと思っている。本当に自分でいうのもあれだが。そしてルックスの話で言えば、アイツは自分に劣らない。正直イケメンの部類だ。それなのに女っ気がないのは、多分自分と同じ理由。だから自分達はいつも二人で遊んでいた。ゲームが好きで、漫画が好きで、自分のやりたくないことに付き合うのが嫌い。違いがあるとすれば、別段アイツはコミュ障ではないので女の子と話すことそのものは容易に出来る、と言うことくらいか。だから、アイツは多分、自分が女になったところで何も変わらないのかも知れない。そんな事を考えながら、箸とコップを部屋に運ぶと、珍しくゲームを起動しないで菓子を食べていた。

「どーした?アップデートあるかも知れないんだから、ログインくらいしとけよ。」
「・・・・お前、本当に女になったんだな。」

ぽつり。アイツの放った一言が、なんとなく胸に刺さる。お盆に乗せたコップと箸を持ったまま、呆然と立ち尽くす自分を、じーっとアイツは眺めていた。どくんっ、と心臓が跳ねているのがわかる。自分は、コイツは、今、何を考えている?

「・・・うっせーな。悪いかよ。仕方ねーだろ?なっちまったもんは。」
「いや、悪いなんて言ってないだろ?でもアレだな、中身は変わんねーんだな」

ニカッと笑うコイツの言葉に、どこか安堵した。いや、わかっている。自分は、女になった事でコイツに避けられる事を恐れていたのだ。コイツと一緒に遊んでいる時ほど楽しい事はない。唯一の楽しみ、とまでは言わないが、無くなってしまったら寂しいものがある。そんなちょっとした不安があって、コイツの言葉に思わず悪態をついてしまった。

「俺は俺だよ。つっても、マジで今後どーすっかなーって感じはあるぜ」
「・・・ここで一つ、お前に頼みがあるんだけどよ」
「あん?女子と仲良くなってお前に紹介する、と言う展開は諦めろ、と言っておくぞ。」
「はは、おいおい親友だろ?そのくらい、してくれもよくねーか?」
「ふざけんなバーカ。つーか、それは自分で出来るだろーがよ。バカな事言ってねーで、とっとと・・・」
「じゃあ、是非おっぱいを触らせてくれ!」
「・・・・は?」

何が"じゃあ"なんだろうか。思わず体が硬直する。これだ。自分が懸念していた、もう一つの不安要素。わかっていただけに、実際言われるとどう反応したものか悩みどころである。女と仲良くしない事と、女の身体に興味がないことは別だ。同じ思春期の男、気持ちがわかるだけに無下にできない。そう、もしも逆だったら。これを考えると、言葉が詰まる。勢いよく土下座するコイツに対し、侮蔑の眼差しを送ることはできない。

「ば、バカじゃねーの!?触らせる訳ねーだろが!」
「そこをなんとか!マジで最低だとは思うんだけども!でもおっぱいの感触が気になって仕方ないでござるよ!」
「・・・・・・。」

何がござるだこの馬鹿野郎。そう言い放ってやりたいが、鏡に映った女の自分を見た時、反射的に自分のおっぱいを揉んだ自分に、コイツを罵る資格なんてない。思わずため息をつく。土下座のまま、頭を床につけて動かない憐れな生き物を見下げ、再びため息をついた。暫しの沈黙が流れる。次の一手は自分のターン。何度も繰り返し、触らせるか否かの条件分岐を行き来するものの、頑なに触らせない理由がない。触らせてやる理由もないが、土下座までして恥や外聞を捨て去り頼み込むコイツは、それほど自分を信用している証でもある。まさかここまで頼み込んで来るとは思っていなかったが。

「・・・・少しだけだぞ。」
「マジで!?」
「本当に少しだけだからな。いいか、マジで調子に乗るなよ。」
「オレ、チョウシ、ノラナイ。ダイジョブ。」
「うるせーよバカが。・・・ほら。」
「・・・ごくり。」

ぱぁ・・・と、救われた者の目をしながら顔を上げるバカに念のため釘を刺したが、果たして効果はあったのだろうか。お盆を傍に置き、その場に座る。正座を崩して座り、両手を後ろについて胸を強調すると、吸い寄せられるようにアイツの手が伸びてきた。胸、と言っても、そこまで大きくはない。膨らみかけ、みたいなものだ。なんとまぁ間抜けヅラを晒してやがる。整った顔が台無しだ。

「んっ・・・。」
「・・・・・・・。」
「・・・なんだよ。」
「・・・固い。」
「・・・は?」
「下着の感触しかしないです(泣」
「十分だろが。はい、おしまい」
「そんなー!!殺生!殺生にござる!これじゃ死んでも死に切れねーよぉ!」
「うるさい死ね!」
「どうか・・・!どうか直接触らせておくんなますて!ふわふわのおっぱいが揉みたいんじゃ〜!」
「揉みたいんじゃ〜、じゃねーよバカが!直接なんてだめに決まってんだろ!」
「じゃあ、せめて下着外してくれよ〜!ワイヤー?が固くて、これじゃおっぱいの感触がマジでわかんないんだよ〜!」
「ぐぬぬ・・・・」
「頼む!マジで!これ、俺がTSってたら、お前だって絶対揉みたいって言うだろ!?なぁ、頼むよ〜!」
「〜〜〜!もうっ!わーったよ!」
「神・・・!」

母に促されるままに買ったブラジャーを、家にいるときも身につけている。確かに、これは結構素材も固く、揉み心地としては悪いだろうと、わかっていて胸を差し出したわけだが、案の定不満の声が上がった。わかる。胸を揉んでいいと言われて差し出された胸がこれでは、自分でも落胆する。一挙一動が想像通りであり、自分と重なるから厄介だ。ぱんっ、と手のひらを合わせて拝むように頼み込んで来るので、半ば呆れながらも承諾した。その時のコイツの表情と言ったら。砂漠で水を恵んでもらった人の様だ。ぷちっ、とブラのホックを外し、服の中から取り出すと、その様子を一部始終食い入るように見届けている。わかる。Tシャツ一枚しか着ていないので、つん、と乳首が浮き出てしまい、見事に視線が釘付けになっている。同情するぜ。その眼球運動、完全に読み通りだからな。あえて言うなら、今さりげなくチンポジの調整入れたのもバレてるぞ。全く・・・。

「・・・ごくり。」
「・・・お待たせ。」
「そ、それじゃあ・・・・。」
「・・・んっ・・・い、痛っ・・・!」
「ごめんっ!・・・このくらいで、どうだろう・・・?」
「ん・・・。そのくらいなら、大丈夫だ・・・。」
「・・・・・。・・・・・。」
「・・・・いつまで揉んでんだよ。」
「・・・来世。」
「やかましいわ・・・んっ!」
「・・・・!はー・・・。はー・・・。」
「お・・・い・・・。そこは、やめろ・・・。」
「・・・・・・。」
「聞いちゃいねー・・・・。」

ふにゅ・・・・ふにゅ・・・・。
はじめは強かった加減も、すぐに緩くしてくれたので、痛くはない。しかしながらなんか、人に触られるのは、こう、変な気分だ。当のコイツは、目が血走っている。女の子と喋れることと、モテることは別の話だ。コイツはコイツで、そういった異性関係は自分と同じくして拗らせているのかも知れない。くりっ・・・と、不意に乳首をつままれ、思わず変な声を出してしまった。まさか自分からあんな声が出るとは思わなかったが、コイツはよく耐えてくれたと思う。女の子の、そういった声は本当に欲情する。同じ男だったからわかることだ。喘いだ瞬間、襲われるかもと一瞬警戒したが、コイツは変わらず胸をもみ、片方は乳首を転がしている。やばい。変な感じだ。乳首に至っては、ちょっと気持ちいいかも知れない。そんな事を感じている表情を見られたくないので、目を瞑ってコイツが満足するのを待つことにした。本当に来世まで揉み続けていそうだが、強○的に終了させるのも可哀想と言うか、結局悶々とさせてしまう。結局コイツは悶々とする事になるのだろうが、満足いくまでこっちが胸を差し出したなら、コイツも深くは求められないだろう、と言う寸法だ。

「・・・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「はー・・・・・。はー・・・・・。」
「・・・・・。えっ・・・!?」

胸を揉む手が止まった。自分なら小一時間は揉むだろうと思っていたので、結構早く終わったなと目を開けた瞬間、がばっ、とその場に押し倒された。想定外の挙動に素っ頓狂な声を上げてしまうも、こいつの目は見るからにマジだ。息も荒い。ぐぐっ、と顔が近づいてきそうだったから、アイツの胸元に両手をついて押し返そうと試みるも、力の差がありすぎてあまり意味を成さない。男だった時は、よく腕相撲をとってはほぼ互角、なんて力関係だったのに。もう、残り数秒しかない様に思えるが、そもそも現金すぎる。いくら自分が女になったからといって、だからなんだと言うのだ。挿れさせてくれ、と頼み込んでくるならわかるが、こう、なんか、こんな風に押し倒されるのは違くないか?これじゃあ、まるで。

「はー・・・。はー・・・。」
「・・・・やめろっ!」

シーン・・・。大きな声の後に訪れる、静寂。拒絶、してしまった。考えなかったわけではない。自分は女になったのだから、自然の摂理からいえば、いつか自分は男と付き合う事になる。まぁ、女同士でくっつくのもありだが、正直そこまで男を嫌悪していない。理由がないから。TSったからこそ考えたものだが、そもそも同性を性の対象として見ないのは何故だろう。好みの問題も当然あるが、単純に他人の目を気にしているからなんじゃないか、とさえ思うのだ。少なくとも、"男だから"という理由で性的な目で見る事を排除するのは。だって、男性器が嫌いなら、自慰行為も出来ないだろう?別に好みな外見なら、男も女もどっちでもいい。異性の方が好みの外見が多い、というだけで、生理的に無理な外見をした者は、異性であっても無理だ。生理的に無理な外見が同性に多い、という事だとも思うが。それでいえば、ぶっちゃけコイツは生理的に無理ではない。中性的に整ったこのイケメンに、生理的に嫌悪感を抱く事はなく、なんなら、もしも男と付き合わなければならなくなったなら、見た目の話だけでもコイツが思い浮かぶくらいだ。それでいて、コイツは良い奴だ。人の悪口は言わないし、なんというか、本当に一緒にいて気持ちのいいやつだ。趣味も合う。そこまでわかっていながら、それでも反射的に出た言葉は、拒絶の言葉だった。理由はまだ、わからない。
ばっ、と飛び退く様にアイツは体を離した。解放された自分はゆっくりと起き上がり、その場に座ると、ばつが悪そうに目の前の雄は立ち上がる。

「ごめん・・・。調子に乗ったわ・・・。今日は、帰るよ・・・。」

そういうと、こちらの返事も聞かずにスタスタと部屋の扉に向かって歩き始める。何か、見えない溝が一歩一歩刻まれていく様で胸が締め付けられる。自分がコイツとどうありたいのか、それについては答えが出ていない。友達で居たいのか、それとも別の感情があるのかどうか。ただ、少なくともこれでコイツとの縁が切れるのはあまりにも不本意だと言い切れる。だから、このまま終わる事だけは、避けなければならない。そうしないと、絶対に後悔する。女に思わせ振りな態度を取られる事ほど、苛立ち、悲しい事は無いとわかってはいるし、今、自分を男として見れないのもわかる。なんなら、女として見てしまう事も。体が変わったからなんだというのだ、という人もいるかも知れないが、結局、身体が重要なんだ。男女間で友情が成立するかしないかについて、論争が起きている時点でお察しである。男女は、平等じゃない。同じじゃない。

「あ・・・明日・・・!」
「・・・・?」
「明日も、俺、家にいるからさ、その・・・なんだ、明日は、ゲームしよう・・・ぜ。買ってきてくれたお菓子とか、全然食ってないし・・・。」
「・・・・あぁ。」

困った様に笑ったアイツの気持ちは、痛いほど伝わってきた。あぁ、わかっていたんだ。真っ先に何故、俺とアイツ、TSったのが逆だったらと考えてしまったか。扉がパタンッ、と閉まる。いつもは玄関まで見送るのだが、そんな気力は残っていない。明日まで、24時間を切っている。考えなければ。考えて、答えを出さなければならない。そう、これがもし逆だったらどうなっていたかなんて、それこそ、本当に単純な話なんだ。もしもアイツが女になっていたら。

俺はきっと、アイツに恋をしただろう。

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