官能物語 2020/06/17 17:00

義弟と交わって/19

「う、奪うって、そんなこと……」
「できないと思ってる?」

 浩二くんは、微笑みました。それが、余裕の笑みで、すでに覚悟を決めているような凄みがありました。わたしは、怖くなるよりも、うっとりとしてしまいました。本当に、浩二くんに奪われてしまったらどうだろうか、と。そんなことを、一瞬、想像しました。夫とも子どもとも、義父母とも別れて、どこか誰も知らない土地で、浩二くんと二人で、いえ、生まれてくる子どもを含めて三人で暮らすのです。浩二くんは、毎晩、わたしのことを愛してくれて、わたしは、生まれてきたことを心の底から感謝して、眠りにつくのです。

 そんなことを妄想して、わたしは、すぐに我に返りました。そんなことは、やはりできるはずがありません。今の生活を全て捨てて、新しい生活をすることなど。それは、おとぎ話の世界の話です。今度は、うっとりとした気持ちはなくなって、逆に、ちょっと怖くなりました。浩二くんに対してではなく、今の家庭に不満が無いにも関わらず、そんなことを夢想してしまった自分自身に、恐怖を感じたんです。

 何だか快感の余韻がいっぺんに醒めてしまったわたしは、浩二くんに一言断って、下着と服を身につけると、彼の部屋を出ました。そうして、浴室に行って、シャワーを浴びて、交わりのあとを洗い流すようにします。

 細かな水流を体に受けながら、わたしは、もうこれ以上は、浩二くんと関係してはいけない、と思い定めました。一度ならず、二度までもしてしまって、三度目は本当にダメだと自分に言い聞かせました。しかし、言い聞かせた瞬間から、また、あの快感が蘇ってきて、もう浩二くんに抱かれたい気持ちになってしまいます。わたしは、深呼吸をして、気持ちを落ち着けました。今のこの家庭を壊すようなことは絶対にできません。

 しっかりとした決意を胸に秘めて浴室を出たわたしは、それから、再び浩二くんと距離を置き始めました。折良くというかなんというか、夫が気まぐれを起こして、翌日の晩に、わたしを求めてきたこともあって、夫を迎え入れたわたしは、何とか浩二くんのことを、少なくともしばらくの間は、忘れることができるだろうと、思いました。

 そうして、それは、半ば当たりました。というのも、それから、三週間のあいだ、わたしは、浩二くんと、必要最低限の接触以上の接触をしなかったからです。このまま、三週間が一ヶ月になって、さらに二ヶ月になってという具合に、時が過ぎていけば、いずれは、二回の過ちも風化することになると、わたしは高をくくっていました。

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