母の浮気/21
分かってみれば、何のことはない。ただの、夫婦の交わりによるものだった。気持ちの悪い声は、母の喘ぎ声で、気持ちの悪い音は、ベッドがきしむ音に過ぎなかった。良太は、夫婦の寝室まであと数歩というところで、足を止めた。原因が分かった限りは、このまま自室に戻ればいいわけであるが、
「ああっ、いいっ、はああああっ!」
母の声が大きさを増すのが聞こえると、良太は、むくりとペニスが起き上がるのを感じて、もっとその声を聞きたくなってしまった。声が聞こえるということは、戸が多少開いているということである。もしかしたら、中を覗くこともできるかもしれないと思って、闇の中をそろそろと近づいていったけれど、覗いた部屋の中もまっくら闇であって、中を見ることはできなかったし、
「ああっ、イクッ、イクッ……イクゥゥゥゥ!」
行為もほどなくして終わってしまったようだった。ドアの前に取り付いた良太は、あるいは、二度目(か、三度目か知らないけれど)が始まるかもしれないと思って、少しその場にいることにした。
すると、少しして、
「ああ、すごかったわ、あなた……」
母の惚れ惚れした声がした。心の底から、父との行為を楽しんでいるような調子の声を出す彼女が、他の男とも関係を持っているのだから、良太はそこがやはり不思議だった。あるいは、もしかしたら、大人というのは浮気をするのは普通のことなのだろうか。よくテレビで芸能人の浮気が取り上げられるとすごく悪いことのように非難されるけれど、あれは建前で、大人なら誰しもしている、あるいは、一度や二度はしたことがあるものなのだろうか。そんな疑いを良太は持った。
「あやか」
「なあに?」
「お前、スワッピングに興味あるか?」
「え? スワッピングって……パートナーを交換するってやつでしょ。どうしたの、いきなり?」
「いやあ、この前、江藤さんと飲んでたときにさ、江藤さんがあまりにお前のことを褒めるからさ。じゃあ、今度、互いに妻を交換して、スワッピングでもしませんかって、まあ、酒の席の冗談だけどな」
「ちょ、ちょっと、もう! なんでそんなことを! 男の人って本当にやーね」
「でも、あやかも満更でもないだろう。江藤さん、男前だしな。あっちもすごいらしいぞ」
「そんなこと言って、自分が由里子ちゃんとシたいだけでしょ?」
「ははっ、おれは、あやか一筋だよ」
「だったら、どうして、自分の妻を貸し出すようなことを言うのよー」
「妻自慢の一環さ」
良太には、二人が言っていることは分からないながら、江藤さんという名前は知っていた。なぜなら、それは、クラスメートの女子の名前でもあったからである。そのあとも、しばらく「スワッピング」についての話が続くようであったので、いつまでもとどまるのも危険だと思った良太は、そっとその場をあとにすることにした。