母の浮気/59
良太はしばらくの間、ベンチに座って、ぼーっとしていた。久司の母は本気なのだろうか。それとも、いたいけな童貞少年をからかっているだけなのだろうか。もしも後者だとしたら、ひどいことこの上ないけれど、前者だとしたら、心の準備が整っていない。いや、自慰を覚えてから十分に準備してきたと言えば言えるのだけれど、やはり、いざとなると、なかなか勇気がいるものである。そのいざがいつ来るか分からないが、彼女によると、そう遠くない未来ということになるだろう。
童貞卒業――
それは、いずれは自分に訪れるであろうと、訪れなければならないと思っていたイベントであるけれど、まだまだ先のことだと思っていた。この点で、自分よりもそれを先に成し遂げた久司のことを、良太は尊敬した。尊敬せざるを得ない。自分よりも年下なのに。その尊敬すべきことが、近い将来に自分に訪れるということになると、どうもうまく実感ができなかった。しかも、相手が申し分ないということも、その感覚を助長した。
良太は、スタイルのいい美人で優しげな人妻に導かれているところを想像した。さきほど久司の初めてを奪った我が母のようにしてくれるのだろうか。良太は、秘唇を自ら割り開いて誘ってくる裸の彼女に挿入している図を妄想して、いっそう肉棒を硬くした。いっそ公園内のトイレでもヌいてしまおうかと考えたが、さすがにそこまで破廉恥な真似はできず、とりあえず、気をそらせようとしたが、できる話でもなかった。
――もう、そろそろいいか。
良太は、公園のベンチから立ち上がった。コロコロと転がってきたボールを、追ってきた子どもに、ポンと蹴り返してやったあと、家路を取ることにした。もしかしたら、まだ久司がいるかもしれないと思って不安になったけれど、なにゆえ自分の家に帰るのに遠慮しなければいけないんだとも思って、そのまま足を家に向け続けた。
「あっ、良ちゃん」
すると、曲がり角に来て、家までもう少しというところで、久司と鉢合わせた。
「よ、よおっ」
良太が、慌てた声を出すと、向こうも、驚いたようで、しかも、当の良太の母親と初体験を済ませてきたばかりだからだろう、どこかおどおどとしていた。
「ど、どこ行くの?」
「いや、今から帰るところだよ。お前こそ、どこ行くんだ?」
「ぼくも帰るところ」
「そうか……うちで、ゲームでもやってくか?」
「えっ、あ、い、いやっ、今日はいいよ。宿題もあるし」
「そっか、じゃあ、またな」
「う、うん、また」
そう言うと、久司は足早に去って行った。
その背を、さっき彼の母親の背を見送っていたときのように見たあとに、良太は、家に戻った。
「遅かったじゃないの」
母が明るい声をかけてきた。いつもながら、夫以外の男と交わったあとだというのに悪びれた風は一片もない。本当にこの人はどういう神経をしているのかとちょっと疑いたくもなるけれど、まあ、そういう人なのだろうと思うほかない。良太は当たり障りの無い応答すると、自室に戻って、オナニーを始めた。