母さんでもいいや/1
そろそろ、起こした方がいいだろうか、と里穂は、時計を見た。朝の9時である。室内には、11月下旬の晩秋の光が、柔らかく差し込んでいた。里穂は、飲みさしのコーヒーを、そのままにして、ダイニングテーブルから立ち上がった。2LDKのこぢんまりとしたマンションの室内を歩いて、部屋の戸の前まで行くと、とんとん、とノックをして、
「拓実」
と声をかけた。部屋の中にいるのは、大学生の息子である。確か、今日は2限から授業があると言っていたはずであり、そろそろ起きて準備をしないと、授業に間に合わなくなってしまう。里穂は、何度か、ノックと声かけを繰り返した。しかし、返事は無い。昨夜も遅くまで起きていたようだったので、無理もないと思った。そうして、自分も、彼くらいの時は、しばしばそういうことがあったことを、さして懐かしくもない気持ちで思い出した。
――しょうがない……。
里穂は、ドアを開くと、彼の部屋の中に入った。むわっとする年頃の男の匂いを嗅ぎながら6畳の室内に入ると、窓際に寄せられたベッドの上で、息子がいびきをかいているのが見えた。掛け布団からのぞく鎖骨や肩が、朝日を受けて輝いていた。どうやら、上半身は裸であるようだった。暑くなって脱いだらしい。暑い季節ではないのだけれど、エアコンで暖房をかければ暑くなる道理だった。里穂は、かけっぱなしになっているエアコンを切った。
「拓実、そろそろ、起きないと」
まだまだ、2時間でも3時間でも寝ていられそうな勢いの息子に、里穂は声をかけた。大学に行かせているのは勉強をさせるためである。きちんと本分を果たしてもらわなければならない。
里穂は、息子の間近で何度か声かけをしたものの、全然効果が無いので、肩口に手をおいてゆさぶってみた。すると、
「んー……」
とむずかる声が上がって、ついで、寝返りを打った。そのとき、彼の足が布団を蹴飛ばしたことで、下半身があらわになった。里穂は、目を見張った。息子は、上どころか下も脱いでいたようである。完全に生まれたままの姿だった。
それだけならまだしも、里穂の目は、息子の体の、ある一点に注がれた。股間である。息子の肉棒は、隆々としていた。何かエッチな夢でも見ているのだろうか、あるいは、確か男性は、朝に大きくなるということを聞いたことがあったような気がする。
息子の一物を久しぶりに見た里穂は、しばらく、見入ってしまった。
それはもう子どものおちんちんではなくて、立派な大人のペニスだった。しかも、
――大きい……。
これまで見てきた中で、一番の威容である。