官能物語 2021/06/22 10:00

美少女のいる生活/2

「に、妊娠しているのか、その子?」
「そうなんだよ」
「そ、それは、おめでとう」
「それ自体はおめでたいんだけどな」
「お前、やることだけやって、実はその子と結婚したくないなんて言ったら、友だちとしてぶっとばすぞ」
「おいおい、おれの年でそんなことするわけないだろ。もちろん、付き合い始めるときも結婚を前提にって思ってたし、彼女にもそう伝えておいたさ」
「彼女が結婚したくないとか?」
「いや、プロポーズしたら、泣いて喜んでくれたよ」

だとしたら、もう分からない。当事者の同意があって、相手の親にも了承を得ているのであれば、まさか、友人側の親が反対しているというわけでもないだろうから、何も問題は無いはずである。にも関わらず、友人のこの浮かない雰囲気は何だろうか。

「問題は、美咲(みさき)のことなんだ」
「あっ! ……美咲ちゃんか」
「ああ」
「怒ってるのか?」
「いや、怒ってはいないな」
「そうか」
「激怒している」
「おいおい……あれ、確か、今年受験だったよな」
「合格したよ。こっちの大学だ」
「そうか……」

 友人には娘が一人いる。その母親は彼女がごく小さいときに亡くなって、それから友人は男手一つで彼女を育ててきたのだった。貴久も何度か面識がある。

「まあ、難しい年頃だからな。新しい母親だって言われて、6歳くらいしか年の違わない女を連れてきた上、子どもまではらんでいるってことになれば、そりゃショックだろうな。事前ににそれとなく、匂わせることはしなかったのか?」
「今年は受験だったからな、受験が終わって大学が決まってから、話すつもりだったんだ。ていうか、もしもおれがもう一度結婚することがあっても、美咲が大学に入学した後のことだと思っていたんだ。それなのに……まあ、出会いっていうのは、運命だよな」
「街角で偶然ぶつかったみたいな言い方するなよ。お前は、出会いを求める場に自分から行ったんだろうが」
「でも、それで、23の娘と出会えるってわけじゃないだろう」
「24じゃないのか?」
「いや、出会った時は23だったんだ。で、彼女の誕生日を祝った日に、おれたちは初めて結ばれたんだ」
「悪いけど、おっさんのラブストーリーなんて全く興味が無いから、美咲ちゃんの話を続けてくれないか」
「ああ、で、美咲は、結婚自体には別に反対はしてないんだ、彼女とも仲良くなったらしいしな。ただ、おれのことは、『どうしてきちんと説明してくれなかったの。わたしが反対するとでも思ってた? いきなり話される身にもなってよ。お父さんのこと嫌いになった。当分話したくない』って言って、その通りのことをもう1ヶ月実践しているんだよ」
「1ヶ月?」
「ああ、家事はしてくれるし、毎朝毎晩メシは作ってくれる、弁当も。でも、一言も口をきいてない」
「徹底してるなあ。間違ってないよ、お前の育て方は」
「この場合は、嬉しくないよ」
「それで、おれに美咲ちゃんのことを説得しろとでも言うのか。お父さんのことを許してやれって。自信無いぞ、おれ」
「説得はしなくていい」
「じゃあ、何だよ。もったいぶるなよ」
「もったいぶってはいないけど、ちょっと言いにくいことなんだよ」
「お前なあ、いい年してうら若い女の子をはらませて、一人娘に嫌われているなんてことを告白したあとに、何を言いにくいことがあるんだよ。さっさと言えよ」
「分かった。じゃあ、おまえに頼みがある」
「おお」
「娘を預かってほしい」

 貴久は、今度は奇声を上げなかった。
 意味が分からなかったからである。

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