官能物語 2021/06/23 10:00

美少女のいる生活/3

 貴久は、少し間を取った。それでも相手が二の句を継がなかったので、仕方なく、

「美咲ちゃんを預かるってどういうことだよ」

 と訊いた。訊きながらも考えられることがあって、それは彼女の、しばらく父親のもとから離れていたいという希望によるものではないかというものだった。父と娘で暮らしてきたのに、いきなり第三者を家族に迎えようとする身勝手に対して、口をきかないなんていうなまぬるいものではない、より強力なカウンターを行おうと彼女は考えたのである。それで誰の所に行こうか考えたときに、父の友人であり、多少の親交がある貴久に白羽の矢を立てた。

――いや、無理があるな……。

 家出をしたいなら、祖父母の家や友人の家が妥当なところだろう。親戚でもなければ、多少の親交があるとは言え昵懇とも言えない中年男のもとに来ることの意味が分からない。それに、そもそも論として、家を出たいなら出ればいいだろう。というのも、こっちで大学生活を送るということは、当然にこっちで一人暮らしをするわけだから、早めに入居できるところを探して家を出ればいい。

「『お父さんが勝手なことをするなら、わたしも勝手なことをさせてもらうわ。わたし、貴久おじさんのところに押しかけて、押しかけ女房になるから』っていうことなんだ」

 友人の言葉に、貴久はぽかんとした。全然自分の想像と違っていたのである。ところで、押しかけ女房ってなんだったっけと貴久は思った。

「つまりだ……美咲はお前のことを慕っているんだよ」
「慕ってる?」
「ああ。昔からな。だからこれまでカレシの一人もいない」
「そう言えば、会うたびに、『カレシいません』って報告してくれてたな。てっきり、お前が作らせないのかと思ってた」
「そんなことできるわけないだろ」
「今となってはよっぽど無理だろうな」
「それで、お前と一緒に暮らしたいんだそうだ。もちろん、お前が了承してくれればだけどな。それを頼みに今日こうしてここに呼んだんだよ」
「うーん……悪いけど、まだよく意味が分からんな」

 本当は、「よく」どころかまるきり分からなかった。親友の娘が自分のことが好きで同棲したがっているということなのだろうけれど、そんなことをすんなりと信じるには、貴久は人生経験を積みすぎてきたと言える。

「……お前、もしかして、美咲ちゃんを厄介払いしようとしているんじゃないだろうな」

 貴久は何の気なしに、ふと考えたことを言った。

「新しい女と結婚するから美咲ちゃんが邪魔になったとか」

 すると、友人は獰猛な目で見返してきた。

「いくらお前でも言っていいことと悪いことがあるぞ」

 どうやらそういうことでもないらしい。
 貴久は、素直に謝った。

「それにしても、全然意味が分からないな。あの美咲ちゃんが、おれのことが好き?」
「そうだよ。お前のお嫁さんになることが、娘の昔からの夢らしい」
「ふうん」
「ふうんって……お前、真面目に受け取ってないだろ」
「お前が真面目に受け取りすぎなんじゃないか?」
「どういうことだよ」
「こう言ったらなんだけど、美咲ちゃんには別の狙いがあって、そういう話をでっち上げているんじゃないかってことさ」
「別の狙いって何だ」
「そんなのおれが知るわけないだろ。でも、そうでなければ、あの年頃の子が、おれみたいなおっさんを好きになるってどういうことだよ」
「そんなもん、おれが知りたいよ。でも、そういうことだってあるだろ。おれがいい例だ」

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

記事のタグから探す

月別アーカイブ

限定特典から探す

記事を検索