官能物語 2021/06/29 10:00

美少女のいる生活/9

「素敵なお店ですね。よくいらっしゃるんですか?」

 二人でテーブル席に着くと、美咲が言った。

「ちょこちょこね。ここで本読んだり、ちょっと仕事をさせてもらったりすると気分転換になっていいんだ」
「マスターも美人ですしね」
「そこ重要なところだよな」

 話をしているところに、和装のマスターがやってくると、

「いらっしゃいませ」

 と言って、水の入った二つのグラスをそれぞれに差し出した。

「ここのサンドイッチが絶品だから、ぜひ食べてもらいたい」

 貴久が美咲に言って了承を得てから、

「コーヒーは飲める?」
「もちろんです」
「じゃあ、サンドイッチとブレンドを二人分」

 コーヒーも注文すると、かしこまりましたと頭を下げて、彼女は去って行った。
 美咲は声をひそめるようにして、対面から言った。

「貴久さん、常連なんですよね?」
「そう言ってもいいんじゃないかな。週に一回は来ているから」
「……もしかして、わたしくらいの年の子とここに来たことありますか?」
「あるわけないだろ」
「でも、だとしたら、どうしてマスターわたしのこと聞かなかったんでしょうか。『こんなに大きな娘さんがいるなんて知りませんでした』みたいな」
「娘だったらいいけど、そうじゃなかったらヤバいだろう。ていうか、おれに子どもがいないことは知っているし。複雑な事情があると思ったから何も訊かなかったんじゃないか。そういう気遣いができる人なんだよ」

 貴久は、美咲がジト目で見てくるのを見た。

「な、なに?」
「貴久さん、マスターのこと、よく知っているんだなあって思って」
「そりゃ、常連だからな」
「恋心と下心を秘めて、通っているんじゃないんですか?」
「何言ってんだよ。年の差がありすぎるだろ」
「だって、ちょうど、父と景子さん――継母と同じくらいの年の差じゃないですか」
「きみのお父さんは特別なんだよ。普通はそんなことにはならないの」
「本当ですか?」
「よし、じゃあ、聞いてみよう」
「えっ?」

 貴久は周囲に客がいないことを確かめてから、サンドイッチとコーヒーを運んで来てくれたマスターに向かって、

「あの、マスター、つかぬことをお聞きしますが」

 と切り出してから、

「40代の男性ってマスター恋愛対象になりますか?」

 と訊いてみた。
 彼女は一瞬呆けたような顔をしたけれど、すぐに笑顔になって、

「十分になると思いますよ。40代でも50代でも」

 と言ってから、

「コーヒー、よろしければ、お代わりしてくださいね」

 と続けて、去って行った。
 貴久は、美咲の方を向いた。「なるってさ」

「貴久さん、嬉しそう」
「そんなことはないだろ」
「ニヤニヤしてますよ」
「サンドイッチ食べよう」
「はい」

 そう言うと美咲は貴久の皿に手を伸ばして、サンドイッチの一つを取ってパクついた。

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