美少女のいる生活/15
「絶対に冗談ではないです! 本気も本気、本気の108乗です!」
「108って、煩悩の数じゃないか」
「煩悩の塊です、わたし!」
美咲は席を立ち上がって、宣言した。
「なんのカミングアウトだよ」
「本当にいいんですか? わたしはクーリングオフは効きませんからね、返品不可ですよ!」
「きみを誰にも渡す気は無いよ」
貴久が言うと、美咲は頬を染めた。そのあと、顔を横に振ってから、
「デレデレしている場合じゃないわ。お父さんに報告しないと!」
と言った。
「まあ、待て待て、ちょっと落ち着けよ、美咲ちゃん」
「落ち着いていられませんよ。今、プロポーズを受けてもらったんですよ! これがどうして落ち着いていられるんですか? 貴久さんにだって、そういう経験あるでしょ!?」
「んー、まあ……」
「えっ、あるの、なんで? 誰に? 誰から? わたしというものがありながら!」
貴久は、じーっと美咲のことを見てやった。
彼女は、こほんと咳払いをした。
「あの……本当にいいんですか? わたし、冗談をやっているように見えるかもしれませんけど――」
「見えるな」
「でも、冗談じゃないです。ずっと好きだったんです、貴久さんのこと」
「信じてるよ」
「はい!」
「まあ、婚約はいいけど、とりあえずキミには大学生活がある。だから、それを優先させないといけない」
「結婚よりもですか?」
「結婚ていうのは、自立した個人が互いをパートナーとして認め合うことだ。キミは、自立しているか?」
「……してないと言わざるを得ません」
「そういうことだ」
「じゃあ、もしかして、わたしが大学を卒業するまで、結婚はおあずけですか?」
「いや、それだと4年後になるから、おれもそのときは44だ。それはそれで、遅すぎるかもしれない。とはいえ、今すぐ、結婚式というわけにはいかない。そこで、1年くらいは、互いのことを知り合う時間があってもいいんじゃないかと思うんだ。1年同棲してみれば、互いのことがよく分かるだろうし、いろいろと根回しをすることもできるだろう」
美咲は席に着いた。
「嫌か?」
「いいえ、ただ夢みたいだと思って……」
つぶやくようにしてから、
「夢じゃないですよね!?」
テーブル越しに乗り出すようにしてきたので、その頬に手を伸ばして軽くつねってやった。
「痛くないです」
「痛くしてないからな」
「わたしの最終目標がいきなり叶っちゃいました。まさか、告白を受けてもらえるなんて。物語の第1章を読み始めようとしたら、いきなり最終章だった感じですね」
「甘いな、美咲ちゃん」
「どういうことですか?」
「男女関係は付き合うことが最終目標じゃないんだ。付き合ってからが本当のスタートなのさ」