美少女のいる生活/22
目が覚めると、一人だった。
ベッドに起き上がった貴久は、昨夜はあのまま、美咲を腕に抱いた状態で何となく寝てしまったのだということに気がついた。時刻は6時30分である。小用を足すために部屋を出ると、
「おはようございます」
と美咲の元気の良い声が聞こえた。
どうやら、朝ご飯を作ってくれているようだった。
「あっ、そうか、言わなかったか。おれ、朝は食べないんだよ」
貴久は言った。中年にさしかかってから、一日三食を食べるのがつらくなって、ここ数年は、一日二食で過ごしているのだった。
「そうなんですね……」
美咲は、しまったという顔をした。昨日久しぶりに会ったばかりではあるが、何にも動じそうにない彼女がそういう顔をすることがあるというのが新鮮である。
「せっかく作ってくれたんだし、今朝は食べることにするよ」
見ると、食卓に並んでいるのは、サラダにスープにハムエッグといった軽く食べられそうなものばかりである。
「でも、それで体調が悪くなったら」
「そんなことにはならないと思うけど」
「じゃあ、お昼のお弁当もいりませんか?」
「作ってくれたの?」
「はい」
「もらうよ」
「すみません、先走ってしまって」
「何にも悪いことなんてないよ。ありがとう」
貴久は、小用を足して、顔を洗った。朝から何もしなくても、テーブルがセッティングされているというのは、ちょっとした魔法である。そうして、もちろん、それは魔法などではなくて、人の手によるものに違いなかった。
「作ってくれてありがとう」
「どういたしましてです」
朝食の席に着いた貴久は、美味しく朝ご飯をいただくと、彼女に部屋の合い鍵を渡しておいた。
「仕事は5時に終わるから、6時には帰ってくるよ」
「お待ちしてます。今夜は何か食べたいものがありますか?」
「今日はおれが作るよ。昨日作ってもらったんだから」
「でも、今日は貴久さん、お仕事でしょう。わたしは、お休みですから、わたしが作ります」
「じゃあ、お言葉に甘えるよ」
貴久は、和食をリクエストしておいた。
「了解しました。行ってらっしゃい」
「行ってきます」
「あ、貴久さん」
「ん?」
「『行ってらっしゃいのチュウ』は、まだ早いですか?」
「早いな。まずは、普通のチュウをしてからじゃないと」
貴久が真面目な顔で返すと、美咲は頬を赤らめた。
「来週の週末が楽しみです」
「おれもだよ」
貴久は、上気した顔の少女に見送られて玄関を出た。