美少女のいる生活/10
美味しく腹ごしらえをしたあとに、貴久は駅の周辺を案内した。
「このあたりを回れば、生活に必要なものは、何でも揃えることができる。次の休みの日にでも一緒に来て、買いそろえることにしよう。美咲ちゃんの転入祝いだ。おれからプレゼントさせてもらうよ」
「ありがとうございます。でも、わたし、できるだけ物を持たないようにしているんです」
「ミニマリストなの?」
「そう言っていいかもしれませんけど、そういう意識があるわけじゃなくて……父がですね、昔からわたしの好きな物を何でも買い与えようとしてくれていたんです。そのせいでしょうね」
「女の子で一人っ子だからな、世の父親は大体そうするだろ」
「そういうことに加えて、たぶん、母がいなくて寂しい思いをしているだろうから、せめて物だけでも与えようと思ったんじゃないでしょうか」
「あり得るね」
「それで、逆に、なんか父に申し訳なくなっちゃって、わたしのために無理させたくないなと思って、あんまり物を買わなくなったんです」
「なるほどな……」
「きゃっ」
貴久は、カフェに入ったときに放したままだった少女の手を取った。
「貴久さん」
「急に手をつなぎたくなったんだよ、いいだろ」
「……はい」
「そうだ! 入学祝いにケーキを買っていこう」
「ケーキですか?」
「嫌い?」
「大好きです」
「ホールにする? 大きなケーキを勝って、黒いチョコレートの板にホワイトチョコで、『入学おめでとう』って書いてもらうっていうのは?」
「ありがとうございます。でも、食べきれないので、『入学おめでとう』は、貴久さんが言ってくれればそれで十分です」
「……美咲ちゃん」
「はい?」
「きみはトンビが産んだタカだな」
「父には感謝しています。わたしのことをここまで大きくしてくれたんですから」
「今回の件がなければ?」
「いいえ、今回の件は本当はわたし喜んでいるんです。父はわたしに対して責任を感じているようですけれど、そろそろ自分の幸せを追求していい頃だと思います。というか、もっと早くたって良かったんです。以前そう言ったんですけど、わたしが高校を卒業するまではって頑張ってくれるということで……まあ、若干フライング気味になりましたけど」
「えっ、お父さんのことを恨んでないの?」
「恨んでなんていないです」
転入初日の昼間から衝撃の事実を聞いた思いの貴久である。
恨んでいるからこそ、その意趣返しにここにに来たのではないのか。
「じゃあ、どうして――」
「あっ、貴久さん、ケーキ屋さんってここですか?」
美咲が足を止めて、空いているもう一方の手を一軒の洋菓子店へと向けた。