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2021年 07月の記事 (19)

官能物語 2021/07/10 10:00

美少女のいる生活/14

「斬新なプロポーズだなあ」
「受けてくださって、ありがとうございますっ!」
「待て待て、受けたわけじゃない」
「ダメですか、わたしじゃ?」
「ダメなことなんてない。美咲ちゃんのプロポーズを受けない男がいたとしたら、その男は多分ゲイだ。一応言っておくけど、おれはゲイに偏見は無いが、でも、ゲイじゃない」
「ゲイだったら、お父さんと仲がいいのも、うなずけます」
「仲いいかなあ」
「いいと思いますよ」
「じゃあ、気をつけるよ。……って、なんか話がおかしな方向に言ってないか? 結婚の話をしよう」
「お父さんはわたしが説得しますね。でも、文句言えないと思いますよ。自分がしたこと考えたら。それに、相手が貴久さんだったら、よっぽどだと思います」
「待て待て。だから、なぜおれがプロポーズを受ける前提で話をしているんだよ。おれたちは、今日久しぶりに会って、これから同居を始めて、いい感じで仲を深めて行くんだろ?」
「そういうの全部省略しちゃいましょう!」
「省略!?」
「はい! だって、わたしもう貴久さんのこと、好きですもん。だから、貴久さんも、わたしのこと好きになってください。友人の娘としてじゃなくて、女の子として」

 美咲は、冗談をやっているように見えて、その瞳には常に真剣な光があった。まっすぐにこちらを見てくる少女に対して、貴久は、どう応えてやればよいか迷った。そうして、彼女が冗談をやっているにせよ、真面目なことをしているにせよ、こちらとしては、冗談をやっている時間はあまり無いのだということに気がついた。もう40歳である。冗談をやるのはいいが、やり続けるには年を取り過ぎていた。

 昔の人は、40歳のことを、不惑と言った。それは、己のなすことに惑わず、しっかりと向き合える年、そうすべき年ということだろう。そこで、貴久は、

「よし、分かった。美咲ちゃん、きみが本気なら、おれも本気で応えるよ。おれでよかったら、結婚しよう」

 言ってやった。それに対して、彼女が、

「やだ、貴久さん、こんな冗談を本気で取らないでください。ていうか、冗談ですよね。本気だとしたらちょっと怖いです」

 と言って笑われても構わないと思った。
 美咲は、笑わなかった。その代わりに、きょとんとした顔をして、今こちらが言ったことが聞こえていないような様子である。心配になった貴久は、

「大丈夫か、美咲ちゃん?」

 と訊き返した。
 美咲は、夢から覚めたように、目をパチパチとさせたあと、

「今言ってくれたこと……本当ですか?」

 と尋ねてきた。

「きみが言ったことが本当だとしたら本当になるし、冗談なのだとしたら冗談にしてもらって構わない」
「冗談じゃありません!」

 美咲の声が、さして広くない室内に響き渡った。

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官能物語 2021/07/08 10:00

美少女のいる生活/13

「全部です」
「全部?」
「そうです。例えるなら、このモンブランと同じですよ。モンブランのどこが好きかって問われても、全部って答えるしかないじゃないですか」
「なるほど……じゃあ、好きになったきっかけを教えてもらえないかな。いきなり全部を好きになるって、それじゃ一目惚れってことになるだろ。モンブランは一目で好きになるかもしれないけど、美咲ちゃんくらい年の離れた子が、おれのことを一目で好きになるということは、ちょっと無いだろ」
「貴久さん」
「ん?」

 彼女は真面目な目をした。
 美しい瞳にどきりとした貴久は、

「先に、モンブランとコーヒーいただいてもいいですか?」

 と訊かれて、同じくらい真面目な顔でうなずいてやった。

「あー、美味しい、幸せ」

 言葉通り、美咲は美味しそうにケーキを食べた。こうして、美味しそうに物を食べる女性を対面から以前見たことを、貴久は思い出したが、遠い記憶である。

「満足したかい、お姫様?」
「うむ、わらわは満足じゃ」
「それで?」
「わたし初めに会ったときから、貴久さんのこと好きでしたよ」
「それは嘘だ」
「どうしてですか?」
「初めて会ったのは、キミが赤ちゃんのときだからだ」

 美咲は声を上げて笑った。

「それはさすがにカウントしないでください。物心ついてからです。優しいお兄さんだなと思ってました。覚えてますか、わたしが4歳くらいの時、登ったジャングルジムから降りられなくなったことがあって、一緒にいた貴久さんが、お父さんよりも早くそれに気がついて、わたしのこと抱っこしておろしてくれたんです。それで、『怖かったね』って、優しく頭を撫でてくれて。そのときから、ずっと好きでした」

 にこにことしながら話す少女の口ぶりに嘘は無いようだけれど、嘘では無いとすると、大分大胆な話になる。

「決定的だったのは、わたしが中学生の時のことです。わたし、学校に行けなくなってしまったことがありましたよね」
「ん、ああ……あったね」
「あの時、わたし、貴久さんに電話してそのことを伝えたんです。そうしたら、貴久さんすぐにかけつけてくれて、『もしも行けなかったら、無理に行くことはない。世界のためにキミがいるんじゃなくて、キミのために世界はあるんだよ。世界はキミのものなんだ』って言ってくれたんです。そのときに、わたし、絶対に貴久さんと結婚しようって心に決めました」
「ちょ、ちょっとタイム」
「はい、どうぞ」
「ジャングルジムのことを覚えているような気がするけれど、その、The world is yours.は、よく覚えていないな。そんなこと、おれ、言ったっけ?」
「言ったかどうかということは大した問題じゃありません。大事なのは、貴久さんが言ったとわたしが信じているというそのことです」
「そうかなあ……って、あと、何、結婚?」
「はい、そのうち、わたしと結婚してください」

 美咲は、次の休みの日に映画に行ってくださいと言っているのと同じような軽さで言った。

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官能物語 2021/07/02 10:00

美少女のいる生活/12

 一回り以上年の差がある女の子を妊娠させて結婚するというとんでもない振る舞いをしたその父にして、一回り以上年の差のあるおっさんに告白するこの子ありと言ったところだろう。

「……ドン引きました?」
「えっ、いや、そんなことはないけど」
「もし、ご迷惑だったら、このケーキだけいただいたあとに、わたし、出て行きますから」
「入居初日が転居日になるなんて話は聞いたことないよ」
「じゃあ、いいんですか? 一緒に暮させてもらって」
「もちろん」

 ふうっと、美咲は大きく息をついた。

「ああ、よかった……」
「どうした?」
「だって、こんな話、絶対引かれると思ってたんですもん」
「それを、歩きながらさらっと話すってどういうことだよ」
「さらっと話したように思われたかもしれませんけど、心臓バクバク言っていますよ、触ってみます?」

 貴久は、美咲が自分の左胸に手を当てるのを見た。

「いや、周囲の人から、何か大いなる誤解を受けそうだから、やめておくよ」

 彼女がどこまで本気で言っているのか貴久にはイマイチよく分からない。親友と違って、若い子と話す機会なんて無いし、多少見知った子だったとしても、そこまで深い付き合いをしたことがあるわけでもないのである。

 そもそも、好きだというなら、好きになったきっかけがあるだろうが、それは何なのだろう。それが納得できる理由であれば、彼女が自分のことを好きだということにも納得ができることになる。

 そのあたりを訊いてみようかと考えたときにマンションに着いたので、今度こそケーキを食べながら話を聞くことにした。

「さっきご飯食べたばっかりだけど、もうお腹空いてきました」

 部屋に戻ると美咲が言った。

「サンドイッチとコーヒーだけだったからな。もっとガッツリしたものの方が良かったな」
「でも、美味しかったですよ、サンドイッチ」
「じゃあ、良かった」

 貴久が、コーヒーの用意をしようとお湯を沸かそうとすると、

「わたし、やります!」

 美咲が給仕役を買って出た。
 
 任せることにした貴久はダイニングテーブルに着いた。そこから、年若い少女がキッチンでカップを出し、ケーキのための皿を出して、ペーパードリップでコーヒーを淹れるのを見ていた。今後、この光景がデフォルトになるのかと思うと、なんだか不思議な感覚である。

「カップは適当に使わせてもらいました」

 コーヒーを持ってきてくれた美咲に、貴久はうなずいた。

「二個持ってきちゃっていいですか、ケーキ?」
「ちょっと二個は重たいな。今一個食べて、夕食後にもう一個はどう?」
「いいですね。先にモンブランでいいですか?」

 貴久はケーキを食べながら、さっき考えた通り、彼女が自分のどこを気に入ったのか訊いてみることにした。

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官能物語 2021/07/01 10:00

美少女のいる生活/11

「ここでもいいし、もうちょっと行くと、また別なところもあるよ」
「今日はここにしましょう」
「美咲ちゃん、何か隠していないか?」
「何も隠していませんよ。お部屋でモンブランをいただきながら、お話しできることは何でもお話しします」

 それならというわけではないが、貴久は、彼女と共に店内に入った。こぢんまりとしたスペースにでんっとショーケースが張り出すようになっており、色とりどりのケーキが並べられている。

 美咲は目を輝かせた。

「すごいですね、美味しそう!」
「モンブランでいいんだっけ?」
「モンブラン『も』好きです」
「『も』?」
「『も』です」
「『も』か、よし、転居祝いだ。10ピースでも20ピースでも買っていいよ」
「それじゃ、ホールケーキ買うのと一緒になっちゃいますし、何より冷蔵庫に入り切りません、きっと」

 そう言うと、美咲はモンブランとカシスのケーキを二人分買おうとした。もちろん、貴久が支払いをした。ショーケースの中に並んでいるケーキに勝るとも劣らない愛らしさを持つ店員さんにケーキを渡してもらって店を出ると、ケーキを買ったからには街中をこれ以上ウロウロすることはできなかった。

「どっかでコーヒーカップも買わないとな。二人でおそろいにしよう」
「いいですね」
「さっきの話なんだけど、お父さんのことを恨んでないなら、どうして、おれのところに来たの? ……ケーキ食べるまで待った方がいい? この話」
「別に大丈夫ですよ。わたしがこちらに伺ったのは、貴久さんのことが好きだからです」
「えっ……好き?」
「はい」
「知り合いとしてってこと?」
「いいえ、男性としてです」

 貴久は、それから無言で、十歩ほど歩いてみた。
 ケーキの袋を手に提げているので、今は彼女の手を取っていない。
 美咲が話を続けた。

「大学生になる前だと告白してもご迷惑になるかなと思って、これまで、じーっと待っていたんです。こっちの大学に決めたのも、貴久さんに会いたかったからです。本当は、こちらでお会いしてから徐々に距離を詰めていって、そのうちに告白しようかなって思ってたんですけど、そこにちょうど父の結婚話が出てきたので、怒った振りをして、貴久さんのところに行くっていうことにしたんです。まさか、こんなにうまくいくとは思いませんでしたけど」
「……家賃が浮くとか、なんか生活上の利点ではないの?」
「全然違います」
「うーむ……」

 さっき美咲のことをトンビが産んだタカに例えたが、カエルの子はカエルにした方がよかったかもしれない、と貴久は思った。

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