(第二話はこちらから)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/209572
忘れもしない、あの日から一ヵ月。○○さんと街に出掛ける約束をした。俗にいうデートというやつだ。
「やっぱり、松永さんの黒タイツ姿は良いね!」
会ってすぐ私の服装を見るなり彼はそう言った。彼は黒タイツの脚が好きらしい。だからこそ、私は今日それを履いてきたのだ。(寒いから、というのもあるけれど)そしてどうやら喜んでもらえたらしい。彼はさりげなく、私の太腿をそっと撫でた。
まず本屋に行き、それからカフェで遅めの昼食を取った。私は水やコーヒーなど、飲み物を五杯ほど飲んだ。過剰摂取した水分が膀胱に蓄積されていくのが分かったが一度もトイレには行かなかった。単に行きたくならなかったというのもあるけれど、心の奥底で何かを期待する気持ちが微かにあった。
あの日以来、私はごく頻繁に『おしっこ』を我慢するようになった。
今の内に済ませておくべきという時でさえあえてトイレには行かず、ギリギリまで尿意を堪えるようになった。幸い、あの時みたく失敗することこそなかったものの、危なかったことなら二、三回ほどあった。それでも私はその癖を止められなかった。
――もし、漏らしてしまったら…。
それを思うだけで。背徳感にも似た気持ちと綱渡りのようなスリルとが相まって、何ともいえない高揚を私は覚えるのだった。
――これじゃ、まるで変態みたいだ!
『おしっこ』を我慢することで興奮するなんて…。こんなの絶対、人には言えない。どうやらあの日の失態がきっかけとなり、私の中で何かが変わってしまったらしい。それもこれも全部、彼のせいだ。
繁華街からバスで地元に帰ってきて、その後当たり前のように彼の家に誘われる。
「え~、どうしようかな~?」と私は断る素振りを窺わせつつも、内心ではとっくにそのつもりだった。あの日は思わぬハプニングがあったが、あるいは今日こそは。
それを想像するだけで、私はまたしてもショーツ内を『おしっこ』とは違う液体で濡らすのだった。
彼の家に着く頃には、尿意はいよいよ顕著になっていた。まだ限界というほどではないにせよ、このままだとひょっとすればひょっとするかもしれない。
――今『おしっこ』したら、どれだけ気持ちいいだろう?
脱いだ靴を揃えながら、私はそんなことを考える。理性も尊厳もかなぐり捨てて、今すぐ尿意を解放することができたら。彼の前で『おもらし』することができたら。
彼は私を蔑んだ目で見るだろう。一度ならず二度も年頃の女子が『失禁』だなんてそんなの絶対ダメだ。でも、だからこそやってみたい。そんなイケない衝動を理性で必死に抑え込む。
――ちょっとだけなら…。
バレない程度にほんの少しだけ。私は微妙な力加減で括約筋に反対の力を込める。あくまで出過ぎてしまわないように気をつけながら。
――ジョロ…。
「くっ!」と慌てて押し留める。危ないところだった。あと少しで膀胱は自制を失いその全てが解放されてしまうところだった。
ショーツの中がじんわりと温かく湿る。愛液と『おしっこ』が絶妙に混ざり合い、私の股間を優しく愛撫する。
――気持ちいい…。
快感に身を委ねたのも束の間、慌てて足元を確認する。
どうやら『おしっこ』は溢れていないらしい。『おもらし』がバレていないことに私は安堵する。けれど…。
――私、また『おもらし』しちゃったんだ。
ショーツ内の柔らかなその感触が、自分のしてしまったことを自覚させる。そして次の瞬間、あの日のあの感覚が蘇ってくる。
どうしようもなく恥ずかしくて情けなくて、切ないような甘く痺れるような感傷。決して人には見せられない姿。だがそれを見られてしまうことで私の全てを知られ、受け入れてもらえるみたいな、そんな感情。
それは、男性に裸を見られる感慨にも似たものなのだろうか?
いやそんなはずはない。男性に裸もしくは秘部を晒した経験は同年代の女子ならば誰もがあるだろうが。秘めたるべく、そこから溢れる羞恥の液体を見られた経験などほとんどの者にあるはずがない。
そして、この後の展開をふいに想像してしまったことで。私は自分のした綱渡りのその代償についてようやく思い当たる。
――どうしよう。もし今、下着を脱がされたら…。
私が『おしっこ』を漏らしたことがバレてしまう。ショーツの湿り具合はもはや、発情によるそれとして言い訳ができないくらい広範囲に及んでいる。とはいえそれはまだ『おもらし』というほどの被害ではなく、せいぜい『おちびり』程度のものだ。あくまで匂いにさえ気付かれなければ何とかなるかもしれない。
「結衣、どうしたの?」
彼に呼ばれたことで、ふと我に返る。彼が私のことを下の名前で呼んでいるのは、今日のデートにおける数少ない成果の一つといえるかもしれない。
「体調悪いの?」
彼は心配そうに訊ねてくる。本当に心配してくれているのかもしれない。あるいは私が生理中であることを彼は心配しているのかもしれない。せっかくお膳立てをしていよいよという時に、上げ膳を喰らうことを怪訝に思っているのかもしれない。
「いえ、大丈夫です!」
私は精一杯に微笑んで見せる。元々体調が優れないわけではないのでそれはさほど難しいことではなかった。
「それなら良かった」
彼はようやく安堵したらしく、中断していた話を再開する。思えば、私は彼の話を上の空でしか聞いていなかった。彼の家に上がって以来、いやそのずっと以前から、私の頭は違うことで一杯だった。
『おもらし』
私の脳内は、今やそんな『四文字』の誘惑に支配されかけていた。
カフェで飲み物を必要以上に飲んだのも、トイレに行かずバスに乗ったのも全てはその前準備だった。そして彼の家に来たことも一方では「初めて」を予感しつつも(そちらの方がまだ正常だろう)、どこかで「二度目」を期待したが故だった。
ついに膀胱が悲鳴を上げ始める。体をちょっと動かすだけで、その声ははっきりと聞こえてくる。早く言わないと、「トイレに行きたいです」そう申し出るべきだと、かろうじて本能に抗う私の理性が告げている。
彼はまたそれを拒むだろうか?拒否されたら困るという感情と、拒否されることで私の願望が叶うという劣情が葛藤する。
いよいよ尿意は耐え難いところまできており。私は忙しなく両脚を組み替えたり、さりげなく股間に手をやったりして何とかそれを堪えるのだった。
手を触れたことでそこが微かな火照りを覚える。同時にアソコに潤いを感じるも、それが果たして何の液体によるものなのかは判別できなかった。私は意を決しつつ、積み上げてきた我慢が無に帰してしまうことを恐れながらも彼に向けて言う。
「トイレ借りてもいいですか?」
本来ならさりげなく、自然を装った流れの中で訊ねるべきことである。だけど私は彼との会話を分断して、突如その問いを発したのだった。
――さて、○○さんはどんな反応をするだろう?
彼は面食らったような顔を見せつつも、そこでようやく私の様子が変だった理由に思い当たったみたいだった。
「え~、また~?」
再度の申告に苦笑し、やや呆れながらも。
「いいよ」
さも当然の如く彼は答えた。いや、無論それが当たり前なのだ。拒否される理由はどこにもない。それこそトイレが使えない(水が流れない)などが無ければ、即座に認められて然るべきである。(ちなみに、あの日拒否された理由はやはり嘘だった)
「じゃあ…」
彼に告げて、私は立ち上がる。申請し、承認されたのだ。形式的な手続きであり、それはむしろ形骸化されたやり取りに過ぎない。だからこそ、私は沸き上がるような怒りを覚えるのだった。
――だったら、なぜあの時そう言ってくれなかったのか?
あの日、私は同じく彼に願い出た。少しの気まずさと気恥ずかしさを覚えつつも、ちゃんと自分の口でそう言った。だが彼はそれを拒んだ。さらに私の移動を掌握し、あろうことか私の振動を増幅し、その結果ついに私は…。
『おもらし』をしてしまったのだ。まさかそのような予定が待ち受けているなんて、彼の家に行く前の私が想定しているはずもなかった。
その瞬間と直後、私は激しい後悔に苛まれた。もっと早く言い出していたならば…(そもそも拒否されるなんて思わなかった)。職場を出る際に予め済ませておけば…(その時点では尿意など感じていなかった)。そんな無数の仮定と過程が私を攻め、責め立てるのだった。
けれど洗面台で濡れたショーツを情けなく洗っている時、私は思った。
大切な何かを失くしてしまった虚無感と、ふとした瞬間に蘇る羞恥の実感。
家族に対して秘密を作ってしまった罪悪感と、誰かと分かち合いたい共感。
全身を包み込むような脱力感と、もう決して過去には戻れないという予感。
それらはきっと初体験をした(してしまった)時と同じ感情なのだろう、と。
だからこそ私はその余韻を貪るように、部屋に戻ってから『オナニー』をした。
アソコに絡み付く液体を彼の精液であるかのように。指を彼のペニスに見立てて、もう何度目かの一人きりの絶頂を迎えてしまったのだった。それなのに…。
彼は、そんな私にとってのある種の性体験を無かったことにするように。あたかもそれ自体を否定するみたいに。私がトイレを使うことを許してくれた。
私はそれが許せなかった。一回ヤったら終わり、と女を簡単に捨てる男のように。私をこんな気持ちに、こんな体にさせておいて、さも自分は何事もなかったかの如く平然と振舞っていることが。まるで自分は無関係だと平静を装っていることが。
廊下を進みながら、私は何度この場で『おもらし』してやろうかと思った。
だけど強○も矯正もされずに○す失敗はまさしく私の罪であり、彼の罪ではない。自ら望んで晒す失態はもはや『失禁』ですらなく、あくまでもプレイの一環として。特殊な性癖に倒錯する変態女、というレッテルが私のみに貼られてしまう。
それはそれで何だか興奮するような気もした。だがやはりどこかで彼のせいだと、だから彼に責任を取ってもらうのだという大義名分が必要である気がした。
私に彼氏が出来なかった原因。容姿もそこそこなのに(自分ではそう信じている)処女を守り続けてしまった理由は、そうした責任転嫁にこそあるのかもしれない。
一歩ずつトイレに向かう。その足取りは重い。あえてそうしているわけではなく、膀胱が行動を制限しているのだ。そして今も尚、私は葛藤している。
ここで解放してしまうべきか、きちんとあるべき場所で解消すべきか、を。
ふいに強烈な波が押し寄せ、尿意を抑え込みつつ私は立ち止まる。
「これが最後のチャンスだよ」と彼に教えてあげたい。今もし下腹部を押されたら、きっと漏らしてしまうだろう。だけど彼は座ったまま、呑気にスマホを弄っている。私の気も知らないで。私がどんなに危機かも知らないで。
ようやくドアの前へと辿り着く。あとはここを開けて中に入り、下着を脱ぎ去り、便座にしゃがみ込むことで。私は人としての尊厳を守り抜くことができる。
今度こそ誰にも邪魔されることなく、今夜こそ羞恥や絶望に苛まれることもなく、無事に全てを終わらせることができる。けれど…。
取っ手を掴みながら私は逡巡する。果たして間に合わせてしまって良いのか、と。私の中で失望と『失禁』とがせめぎ合う。そこで…。
後方から伸びてきた無慈悲な手が、無警戒なままの私の腕を掴んだのだった。
「えっ!?」
思い掛けぬ事態と隠し切れない期待から、つい私は叫声(嬌声)を発してしまう。遅滞なく振り返ると、そこには彼がいた。
「やっぱり、トイレには行かせられない」
彼はきっぱりとそう言い切った。その目にはバイト中には見たこともないような、真摯さと真剣さが宿っていた。
「何でですか?」
私はかろうじて欲情を堪えつつ日常の言葉で訊き返す。戸惑う演技は歓喜により、上手くいかなかったかもしれない。
「どうしても」
彼は断言した。
「でも…。このままだと私、漏らしちゃいますよ?」
恥ずかしげもなく、私は公言する。もう限界なのだと、そう宣言する。
「いいよ」
同音異義の了承を彼は示した。優しげな口調はまるで私の失敗を肯定するように。あたかも私自身の結末を決定づけるように。
「本当に、もう無理なんです…!!」
それでも私は自らの体裁を保つためだけに言う。あくまでも責任を自分ではなく、彼に押し付けるように。
「結衣の『おもらし』が見たいんだ」
彼は告白した。紛れもなく己の口ではっきりと。私の情けない姿が見たいのだと。全ての責任は自分にあるのだと。だから私は安心して身を委ねればいいのだと。
――じゅわ…。
反射的に私の括約筋は緩んでしまう。それによって不本意な小流が漏れてしまう。だけどまだ本流ではない。私は決意する。最終確認として彼に同意を求める。
「本当に良いんですか?」
その問い自体が私の願望を吐露したようなものだ。彼は頷いた。そして…。
「結衣の『おもらし』見てください!!」
私は尿道に力を込める。までもなく、ほんの少し力を緩めただけ。
――ジョボロロ~!!!
下着の中がみるみる内に温かくなる感触。あの日と同じ感覚だ。けれど今日の私はショーパンと黒タイツを穿いている。
まずショーツ内に水流が生み出される。激流を薄い衣料が貯留できるはずもなく、溢れ出す奔流は両脚を覆う黒タイツに模様を描く。尚且つ吸収しきれなかった急流がデニム生地のショートパンツを貫通して、下方のフローリングへと直流を結ぶ。
『放尿』しつつ私は放心していた。アソコが痙攣しているのが分かる。それによって『おしっこ』が断続的に幾つかのリズムに分けられる。
――ピチャ、ピチャ!!ピシャ~!!!
跳ね返る液体は足元を濡らしている。のみならず下着も黒タイツもショーパンも。密着していたことで彼の着衣さえも。それら全てを染め上げ私は『失禁』を終える。
すっかり『おしっこまみれ』となった体で。後悔と未来の課題に苛まれながらも、私の脳はもはや考えることを放棄していた。
「結衣、すごく可愛いよ」
それでも彼は私の体を抱き寄せ、びしょ濡れになった下半身に手を当てる。
「汚いですよ?」
そんな私の懸念を振り切り、彼は私の手を引き強引にベッドへと誘う。
――もしかしたら、今がその時なのかも…?
私の不埒なそこは彼の不貞を迎え入れる準備を整えている。不浄な身と不純な心で今や不確かではない高揚を私は感じていた。
――続く――