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おしっこの記事 (9)

おかず味噌 2020/05/11 05:49

ちょっとイケないこと… 第十一話「聴覚と味覚」

(第十話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/247599


「良かった。お姉ちゃん『トイレ』に行きたかったの…」

 不安を抱くような、安心を吐くような言葉。やや籠って聞こえづらかったけれど、それは紛れもなくお姉ちゃんの声だった。

 無関係の他人ではなく、無歓迎な客人ではなく、無我無心を装った人狼でもない。やはり僕は何のためらいもなく、ドアを開けてあげるべきだったのだ。

 それでも。僕はもう一度、ドアスコープを覗いた。一体どういう原理なのだろう、小さな覗き穴からでもお姉ちゃんのほぼ全身が見て取れた。

 今朝と同じ服装。だけどその顔からはいつもの笑顔が消え去り、困っているような焦っているかのような表情が窺えた。眉は垂れ下がり、唇はきつく結ばれていた。

 両手はお腹よりも少しばかり下の位置にあてがわれて、そこを強く押さえていた。両脚は「もじもじ」と何度も組み替えられて、足踏みしながら何かを堪えていた。

 もはや全ての証拠は揃い、自供さえも得られた。それは決して僕の憶測ではなく、あるいは過去の前科による冤罪でもない。

 あの夜に目撃した証拠隠滅の現場。お姉ちゃんの『おしっこ』という名の被疑者。それが今や体内に溜め込まれ、凶器なる『尿意』による再犯を企んでいるのだった。

 ひょっとしたらひょっとするかもしれない。僕がこのままドアを開けなければ…。


「ねぇ、純君。悪いんだけど、早く開けてもらえないかな…?」

 再びお姉ちゃんの声がした。その瞬間ふと我に返り、瞬く間に悪巧みは霧散した。

――僕はなんて、意地悪なことを考えていたんだろう?

 僕がまだ小学生だった頃、よく自分のお小遣いで漫画を買ってくれたお姉ちゃん。(もちろん僕は覚えていないけれど、ママが言うには)僕がまだ赤ちゃんだった頃、オムツを替えてくれていたお姉ちゃん。(それについては覚えていなくて良かった)

 そんな優しいお姉ちゃんを。なぜ、そんな酷い目に遭わせなくてはならないのか?ほんの一瞬でも魔が差し、束の間の期待をしてしまった自分を恥じた。

「卑怯者」「裏切者」。漫画の中で敵に向けられる台詞が、僕自身に浴びせられる。

 正義の味方になりたかった時期は卒業したし、最近では悪の側に魅せられることも少なくないけれど。あくまで僕が憧れるのはカリスマ性を兼ね備えた大悪党であり、姑息で卑劣な小悪党なんかじゃない。


 僕は鍵を解錠した。チェーンロックを外して、ドアを開放する。

 すぐにお姉ちゃんがドアの隙間から滑り込んでくる。僕に体が触れるのも構わず、僕の横をすり抜けていく。(僕はアソコが当たらないようにこっそりと腰を引いた)

「ありがとう、純君」

 僕の方を振り向きもせず背中越しにお姉ちゃんは言う。よほど余裕がないらしい。普段は決してしないような行儀の悪さで靴を脱ぎ散らかし、そのまま玄関を上がる。

 廊下を進んでいく。僕の手前もあってだろうか、廊下を走るなんてことはしない。あくまでも早歩きで、お姉ちゃんは念願の目的地へと向かう。

 ここまで切迫しているということは、家にたどり着く前から催していたのだろう。お姉ちゃんがいつそれを自覚したのかは分からない。だが仮にバイト先を出た時点ですでに行きたかったのだとしたら、かなりの距離と時間を我慢していたことになる。(どうしてバイト先で行っておかなかったのだろう?)

 そこで僕はある想像をしてしまう。それは経験から培われた「想造」だった。


――お姉ちゃんは、もう…。

『チビって』しまっているのかもしれない。『おもらし』まではいかないながらも、少量の『おしっこ』をパンツに染み込ませているのかもしれない。そうやってまた、お姉ちゃんはパンツを汚してしまっているのかもしれない。

 お姉ちゃんは先を急ぐ。ここは僕の家であるのと同時にお姉ちゃんの家でもある。もちろんトイレの場所は分かっている。だから迷うことなく一直線にそこに向かう。

 お姉ちゃんの後ろ姿を目で追う。その時、僕はといえば…。

 ただ茫然と玄関に立ち尽くしていることもできた。すでに僕は役目を終えたのだ。ドアを開けてやる、というごく簡単な作業。だけどその行いによって、お姉ちゃんにささやかな恩返しができたのだ。

 なぜお姉ちゃんが鍵を持っていなかったのかは分からない。多分忘れたのだろう。お姉ちゃんはしっかり者だが、やや抜けている部分もある。がさつではないものの、おっちょこちょいな一面もある。お姉ちゃんがあくまで「カンペキ」じゃないことを僕は知っているし、今ではその証拠さえも掴んでいた。


 僕も歩き出す。玄関を上がり廊下を進む。お姉ちゃんの後をついていくみたいに。お姉ちゃんの背中を追いかけるみたいに。小学生の頃の僕がそうしていたみたいに。

 あの頃のお姉ちゃんならば、僕が追いつくまでちゃんと待ってくれたことだろう。僕の手を引いて僕に歩幅を合わせてくれていたことだろう。だけど今のお姉ちゃんは僕の手を引いてくれることもなく、僕が後ろに居ることに気づいてもいなかった。

 再び僕の中に葛藤が生まれる。悪党じみた考えがよぎる。

――ここで僕が、邪魔をしたら…。

 お姉ちゃんの腕を掴むなり、後ろから抱きつくなりしたならば。

――離して純君!お願いだから…。

 お姉ちゃんは懇願するような目で、僕に訴えかけることだろう。

――お姉ちゃん、もう限界なの…。

 お姉ちゃんは絶望したような顔で、僕にすがりつくことだろう。


 そして。僕はついに目撃することになる。お姉ちゃんの『おもらし』を…。

 お姉ちゃんのショートパンツから次々と水滴が溢れ出し、足元に水溜まりを作る。漫画の中ではたった一コマに過ぎなかったシーンが、映像となって僕の前に現れる。そしてそれをしてしまうのは空想の人物ではなく、僕のよく知る実在の人物なのだ。

 あと少しの思い切りだけなのだ。お姉ちゃんに追いつくのは難しいことじゃない。もう少し僕が歩速を上げて先を急げば済む話だった。それだけで僕は願望を捕捉し、想像を補足することができる。チャンスの後ろ髪は、すぐ手の届く先にあった。

 だけど。僕にはどうしても、最後の一歩の踏ん切りがつかなかった。それによってお姉ちゃんとの関係が失われてしまうことを恐れたのかもしれない。それとも単純に「やっぱりお姉ちゃんが可哀想」という己の良心に屈してしまったのかもしれない。

 結局、僕はお姉ちゃんがトイレに行くのを阻止することができなかった。


 僕に邪魔されることのなかったお姉ちゃんは、ようやく念願の目的地に辿り着く。焦っているためか何度かノブを掴み損ねながらも、何とかドアを開けることが叶う。お姉ちゃんはトイレに入り、ドアを閉めた。

 僕とお姉ちゃんの間が再び遮られる。だけどそれは分厚い金属製のドアとは違い、薄い木製のドアだった。お姉ちゃんの発する振動が詳細に伝わってくる。

 最初に聞こえたのは布の音だった。擦れるような音。お姉ちゃんがズボンを脱ぎ、パンツを下ろす音だった。

 僕はつい中の様子を思い浮かべてしまう。今まさにお姉ちゃんの下半身が丸出しになっているという状況を…。

 ドア越しに息を殺し、耳を澄ませる。それから間もなく、ある音が聴こえ始める。


――シュイ…!!ジョボロロ~!!!

 それは『おしっこ』の音だった。お姉ちゃんの股間から迸る『放尿』の擬音。

 かなり溜め込んでいたらしい。その勢いは、心地良いくらいに真っ直ぐだった。

 激流が便器に叩き付けられ、重力に従って流れ落ちる。便器内に溜まった冷水と、お姉ちゃんの出した温水が混ざり合う。(果たしてそのどちらが清浄なのだろう?)

 お姉ちゃんの『排尿』は暫く続いた。せいぜい十数秒くらいのことだったけれど、僕にはその何倍にも感じられた。あるいは永遠にも続くとさえ僕には思えた。

 だけど、やがてそれは終わりを迎える。用を足し終えたお姉ちゃんは溜息をつく。間に合ったことの安堵によるものか、それとも『おしっこ』自体の快感によるものか僕には判らなかった。

 それでも僕にはお姉ちゃんのその吐息がとても「えっち」なものに感じられたし、その息遣いはドアを隔てた僕のすぐ耳元で聞こえているみたいだった。


 またしても、僕は意識を研ぎ澄ませる。

「カラカラ」と渇いた音がして、お姉ちゃんがトイレットペーパーを巻き取る。
「ブチッ…」と切られる音がして、お姉ちゃんが一回分をちぎり取ったらしい。
「スリ…、スリ…」と拭く音がして、お姉ちゃんのアソコがキレイに保たれる。
「ジャ~~!!」と無機質な音がして、お姉ちゃんの出したものが水に流れる。
「スルスル」と再び布が擦れる音がして、お姉ちゃんはパンツを穿いたらしい。

 お姉ちゃんがトイレのドアを開ける。僕は慌てて、二、三歩ほど後ろに下がった。まさか僕がドアのすぐ前に居て、お姉ちゃんの立てる音に聞き耳を立てていたなんて知られるわけにはいかなかった。

 トイレから出てきたお姉ちゃんと鉢合わせる。僕がいるとは思わなかったらしい。お姉ちゃんは驚いたように目を丸くしてから、少しばかりバツが悪そうに苦笑した。僕としても何だか悪いような気がして、目を逸らした。

 お姉ちゃんはそのまま洗面所に向かう。お姉ちゃんはトイレの中で手を洗わない。トイレを済ませた後はわざわざ洗面台で手を洗う。その気持ちは僕にもよく分かる。トイレの水というのは、キレイだと分かっていても何となく汚い感じがするのだ。

 洗面台で手を洗うお姉ちゃんの背中。その光景はまるで、デジャヴのようだった。


 鏡越しに、お姉ちゃんと目が合う。お姉ちゃんも僕の視線に気づいたらしかった。それ自体は何の問題でもない。今日のお姉ちゃんは秘密を隠しているわけじゃない。

 それでも。やっぱりお姉ちゃんにとっては見られたくなかった姿であったらしい。お姉ちゃんはトイレを我慢していたのだ。僕にもはっきりと分かるくらいに限界で、お姉ちゃんとしても僕に知られていることに気づいているだろう。

 そして、お姉ちゃんは『おしっこ』をしたのだ。それが僕に聞こえていたなんて、それを僕が聴いていたなんて、さすがにお姉ちゃんも思っていないだろうけど…。

 普段から顔を合わせている弟である僕に、生理的欲求を気取られてしまったのだ。もちろん『おもらし』の恥ずかしさなんかとは比較にならないだろうが、気まずさは大いに感じていることだろう。


「鍵。家に忘れちゃってさ…」

 お姉ちゃんは言い訳するみたいに言う。僕の思った通りだ。やっぱりお姉ちゃんはどこか抜けているのだ。

「純君が家に居てくれて良かった」

 もし僕が家に居なかったら、どうしていたのか?その時にはきっと…。

「そういえば、パパとママは?」

 お姉ちゃんは話題を変えようとする。そんなつもりはないのかもしれないけれど、少なくとも僕はそう感じた。

「買い物だよ」

 僕は答えた。

「そうなんだ。あれっ?純君はついていかなかったの?」

 お姉ちゃんは不思議そうに訊いてくる。せっかくのチャンスを僕が逃さないことをよく知っている。

「別に。ゲームしたかったから」

 僕は嘘をついた。「勉強するため」と言わなかったのは、そんな嘘はお姉ちゃんにお見通しだと思ったからだ。だからといって、本当のことなんて言えるはずもない。「お菓子より魅力的なチャンスを得るため」だとは…。

「へぇ~、何のゲーム?」

 タオルで手を拭きながらお姉ちゃんは訊いてくる。どうやら話題を変えることにはすっかり成功したらしい。

「アニマル・ハンター」

 僕は答える。それは僕がこの前の誕生日に買ってもらったばかりのゲームだった。(ちなみにお姉ちゃんには協力プレイ用のコントローラーを買ってもらった)

「そっか」

 お姉ちゃんは興味があるのかないのか分からないような反応をする。

「ねぇ、久しぶりに一緒にゲームしない?」

 まさかの誘いがお姉ちゃんの口から発せられたことに、僕は少なからず戸惑った。もうずいぶん長いこと、お姉ちゃんと一緒にゲームなんてしていない。

 だけどコントローラーをもう一つ買ってもらったのは、友達と遊ぶためというのももちろんあるけれど。元はといえば、お姉ちゃんと一緒にゲームをするためだった。話題のゲームを買ってもらうと知ったとき、お姉ちゃんから言い出したことだった。


――確か、そのゲーム。何人かで遊べるんだよね?

 お姉ちゃんに訊かれる。「四人まで、ね」僕は得意げに答えた。

――じゃあさ、私がコントローラーを買ってあげるから一緒にやろうよ?

 そこで、お姉ちゃんはまさかの提案をしてきた。

 昔はよく一緒にゲームで遊んでいたけれど。いつからか僕一人で遊ぶようになり、大学生になったお姉ちゃんはもうゲームなんて卒業してしまったのだと思っていた。それなのに。お姉ちゃんは僕が買ってもらうゲームに珍しく興味を示したのだった。

――え~。お姉ちゃん、ゲーム下手だもん…。

 照れ隠しから僕は渋った。だけど僕が隠していたのは嬉しさでもあった。

 約束通り、ママからソフトとお姉ちゃんからコントローラーを買ってもらった。「お姉ちゃんとゲームをする」というもう一つの約束が果たされることはなかった。

 結局、僕はほとんど一人で新しいゲームを進めた。発売前から期待していた通り、それは一人でも十分面白いゲームだった。僕は最近、主にそのソフトで遊んでいる。唯一、お姉ちゃんから買ってもらったコントローラーだけが今のところ出番がなく、新品のまま箱に仕舞われたままだった。


「別に、いいけど…」

 僕のどっちつかずの返答に対して。

「やった~!!」

 お姉ちゃんは大袈裟に喜んでみせる。

 今はあまりゲームをやりたい気分ではなかったけれど、特に断る理由もなかった。それにもしここで断ってしまえば、もう二度とその機会は訪れないような気がした。

「じゃあ、ちょっとお洋服着替えてくるから。先にお部屋で待ってて」

 お姉ちゃんから子供っぽくそう言われて、僕は大人しく部屋に戻ることにした。(洗面台のすぐ横、洗濯機の中のものに名残惜しさを感じながら…)


 数分後。僕の部屋のドアがノックされる。返事をするとお姉ちゃんが入ってきた。

 それからママとパパが帰ってくるまでの一時間。僕はお姉ちゃんとゲームをした。それは本当に久しぶりのことだった。

 お姉ちゃんはやっぱりゲームが下手で。僕が何度も「回復薬」を使ってあげても、あっけなく「死んだ」。その度にお姉ちゃんは僕に謝ったり、悔しがったりした。

 僕一人でなら簡単に倒せる「アニマル」でも、お姉ちゃんがいるせいで苦戦した。だけど僕はお姉ちゃんにムカついたりはしなかった。ただ純粋にゲームを楽しんで、どこか懐かしさのようなものを感じていた。

 それでも僕はゲームに集中できないでいた。お姉ちゃんの様子をチラチラと窺い、その度に洗濯機の中の記憶が蘇ってきた。

――お姉ちゃんは今、どんなパンツを穿いてるんだろう?

 僕の脳内はそのことで一杯で。お姉ちゃんの操作する「女性ハンター」が動く度、露出度高めの格好をしたアバター自体がまるでお姉ちゃん自身であるかのように。「見えそうで見えない」もどかしさに襲われるのだった。


 一時間後、パパ達が買い物から帰ってきた。僕が勉強してなかったことが分かるとやっぱり叱られた。

「ほら、言った通りじゃない!」

 鬼の首を取ったように、ママは鬼になったが如くお説教を始めようとしたものの。すぐにお姉ちゃんも一緒になってゲームをしていたことが分かると…。

「結衣も、あんまり純君の邪魔しちゃダメよ?」

 軽く注意しただけで、それ以上は何も言わなかった。僕たちは「イケない秘密」を共有するみたいに目配せをして、小さく笑った。

 その夜、家族皆が寝静まった頃。僕はトイレに行くふりをして洗面所に向かった。目的はもちろん洗濯機であり、中を漁るとすぐにお姉ちゃんのパンツが見つかった。

 本日のそれは「ピンク」だった。


 お姉ちゃんのパンツは、やっぱり汚れていた。

 昼間僕が見たのと同じく、いやそれ以上に。『おしっこ』がたっぷりと染み込み、ぐっしょりと濡れていた。今回は女子特有の汚れについてはそれほどでもなかった。僕はパブロフの犬のように、条件反射的に匂いを嗅いだ。

 お姉ちゃんのパンツは『おしっこ』臭かった。不純物がないせいか、より直接的にアンモニア臭が鼻腔を刺激した。

――お姉ちゃん、やっぱり『チビって』たんだ…。

『おしっこ』を便器に出し切ることができず、パンツの中に『チビって』いたのだ。いかにも生還したような顔をしておきながら、こっそりお股を弛緩させていたのだ。


 次に、僕はお姉ちゃんのパンツを舐めてみた。なぜそんなことを思いついたのかは自分でもよく分からない。だけど僕はすでに…。

「視覚」でお姉ちゃんの汚濁を認めて、
「嗅覚」でお姉ちゃんの芳香を確かめ、
「触覚」でお姉ちゃんの幻想と交わり、
「聴覚」でお姉ちゃんの音調を聴いた。

 残るはあと一つ「味覚」のみだった。

 お姉ちゃんのパンツの濡れた部分にベロを這わせ、そのままベロベロと舐め回す。サラサラとした舌触り、ピリピリとした味覚が僕の舌先を刺激した。

 甘味がするなんて思っていたわけではない。だけど想像を超える酸味は僕の思考を麻痺させ、同時に襲い来る苦味が僕を現実に引き戻したのだった。

 パンツから顔面を引き離す。そうしてさらに観察を続ける。お尻の真ん中辺りに、何やら薄っすらと『茶色いシミ』が付いていた。

――これって、もしかして…?

 疑念を抱くと同時に、僕はある疑問に囚われるのだった。


――あの時、お姉ちゃんは「小」ではなく「大」だったのだろうか?

 いや、そんなはずはない。トイレの滞在時間からも、ドア越しに聞こえた音からもそれは明らかだった。

 だとすれば今朝『排便』をした際(お姉ちゃんは毎朝「長めのトイレ」に入る)、上手くお尻が拭けずにパンツに『ウンスジ』を付けてしまったのだろうか?

 いや、それこそあり得ない。いくらお姉ちゃんが「カンペキ」ではないとはいえ、その失敗はもはや「ガサツ」を通り越し「フケツ」といっていいほどのものだった。

 再び僕はお姉ちゃんのパンツに鼻を近づけた。パンツの底ではなく後方の部分に。お姉ちゃんのお股ではなく、お尻が触れていた部分に。

 ふと僕の脳内に場違いな映像が流れる。あれは確か、春休みに動物園に行った時。あるいはもう少し直近の記憶でいうならば、急に催して公園の公衆便所に入った時。

 あまりにも野性的で暴力的な匂い。それは紛れもない『うんち』の臭いだった。

 お姉ちゃんは『おしっこ』のみならず『うんち』までもパンツに付けていたのだ。


 僕の部屋を訪れた、あの時――。

 お姉ちゃんは部屋着に着替えていた。だけどパンツはそのままだったのだろう。(その証拠に夕飯前に洗濯機を覗いてみたけれどお姉ちゃんの下着はまだ無かった)

 僕とゲームをしている間も――。(それが今では夢の中の出来事のように思える)
 晩御飯を食べている最中も――。(なぜかお姉ちゃんはいつも以上に饒舌だった)
 夕食後の家族団欒の一時も――。(お姉ちゃんのお胸やお尻ばかりに目がいった)

 お姉ちゃんはパンツを『おしっこ』や『うんち』で汚していたのだ。

 その現実に僕は混乱した。だけどその真実は僕を激しく興奮させたのだった。


 次の休日(その日も家族は全員留守だった)、僕はお姉ちゃんの部屋に入った。

 お姉ちゃんの本棚には相変わらず難しそうな本ばかりがたくさん並べられていた。だけど背伸びしたい年頃を過ぎた僕の、今日の目的はそこではなかった。

 片付いた部屋の中を移動し、背の低い家具の前に立つ。

 僕はしゃがみ込み、タンスの引き出しを上から順番に開けていく。

 一段目には、お姉ちゃんの服が入っていた。
 二段目にも、これまたお姉ちゃんの服があった。
 三段目にして、僕はついに「アタリ」を引き当てた。

 きちんと丁寧に畳まれ、整理整頓されたカラフルな下着たち。それは僕にとって、まさしく宝の山だった。僕は堪らずに宝箱の中に顔を埋めてみた。

 洗剤と柔軟剤の香り。不快な臭いなどするはずもなく、洗濯を終えたそれらからは現実のお姉ちゃんの不都合な情報が失われ、理想のお姉ちゃんの偶像を醸していた。


 ずっと、そうしていたかったけれど。やがて僕は顔を上げて、お姉ちゃんの下着を漁り始める。

 下着の種類は大きく分けて二種類。ブラジャーとパンツ。僕がより興味があるのはもちろん下半身に付ける方だった。

 可愛らしいデザインに目移りしそうになりながらも、あくまでも僕の目的は一つ。他の誘惑に負けないように探し求めていると、すぐにそれは見つかった。

(見たところさしたる装飾のない前面上部に取って付けたかのような小さなリボンがあしらってあるだけの)黒いパンツ。

 同じ色の下着は何着かあったものの、恐らくこれに間違いないだろう。

 あの日僕が見た、お姉ちゃんが手洗いしていた、僕にとってはきっかけとなった、お姉ちゃんの『おもらしパンツ』。後ろから盗み見ることしか叶わなかったそれが、時を経て今ついに僕の手に触れたのだった。

 僕の指は震えた。良心の呵責ではなく発覚の恐怖から平常心ではいられなかった。


 僕には前科があった。洗濯機の中のお姉ちゃんのパンツを漁ったという罪が…。

 だけど今回ばかりは、観察するだけではなく拝借するのだ。僕は揺るぎない証拠をこの手にすることになる。もし現物を押さえられたら、それでお仕舞いなのだった。

 とはいえ、これだけあるのだから一つくらい無くなったところでバレないだろう。

 本当ならばむしろ、洗濯する前の汚れた下着を手に入れたいところではあったが。そうするわけにはいかないいくつかの理由があった。

 お姉ちゃんは洗濯が終わった下着をきちんと「セット」でタンスに収納していて。もし片方が無くなれば不審がられる可能性があった。

 あるいは、お姉ちゃんの「シミ付き」のそれを僕が部屋に隠し持っていたとして。それの放つ臭いで気づかれてしまう危険性もあった。

 だからこそ僕は。お姉ちゃんが刻み付けた汚れは失われつつも、僕の網膜と記憶に刻み付けられた黒いパンツを「思い出」と一緒にポケットにこっそりと仕舞い込み、お姉ちゃんの代わりに「お守り」にすることにした。

 普段はそれを勉強机の鍵の掛かる引き出しに入れておき、たまに取り出してみてはそこにあるはずのお姉ちゃんの肉体を想像し妄想に耽るのだった。

 そうして僕は再び、元の生活へと戻った。


 朝起きて、顔を洗って、歯を磨く。トイレを済まして、手を洗って、朝食を取る。制服に着替えて、靴を履いて、登校する。授業を受けて、給食を食べて、下校する。帰宅して、漫画を読んで、ゲームをする。夕飯を食べて、TVを観て、お風呂に入る。歯を磨いて、宿題を終えて、ベッドに入る。深夜にベッドを抜け出し、下着を漁る。

 そんな毎日の繰り返し。これまでとほんの少し違った非日常の中にいるからこそ。まるで全てが本物のような、いつの間にか日常から抜け出してしまったかのような、どうにも落ち着かない気分だった。その原因はやっぱりお姉ちゃんだった。

 家族の誰も知らない秘密。それは僕とお姉ちゃんだけの秘密なのだ。


――続く――

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おかず味噌 2020/02/20 01:11

ちょっとイケないこと… 第三話「尿意と再現」

(第二話はこちらから)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/209572


 忘れもしない、あの日から一ヵ月。○○さんと街に出掛ける約束をした。俗にいうデートというやつだ。

「やっぱり、松永さんの黒タイツ姿は良いね!」

 会ってすぐ私の服装を見るなり彼はそう言った。彼は黒タイツの脚が好きらしい。だからこそ、私は今日それを履いてきたのだ。(寒いから、というのもあるけれど)そしてどうやら喜んでもらえたらしい。彼はさりげなく、私の太腿をそっと撫でた。

 まず本屋に行き、それからカフェで遅めの昼食を取った。私は水やコーヒーなど、飲み物を五杯ほど飲んだ。過剰摂取した水分が膀胱に蓄積されていくのが分かったが一度もトイレには行かなかった。単に行きたくならなかったというのもあるけれど、心の奥底で何かを期待する気持ちが微かにあった。


 あの日以来、私はごく頻繁に『おしっこ』を我慢するようになった。

 今の内に済ませておくべきという時でさえあえてトイレには行かず、ギリギリまで尿意を堪えるようになった。幸い、あの時みたく失敗することこそなかったものの、危なかったことなら二、三回ほどあった。それでも私はその癖を止められなかった。

――もし、漏らしてしまったら…。

 それを思うだけで。背徳感にも似た気持ちと綱渡りのようなスリルとが相まって、何ともいえない高揚を私は覚えるのだった。

――これじゃ、まるで変態みたいだ!

『おしっこ』を我慢することで興奮するなんて…。こんなの絶対、人には言えない。どうやらあの日の失態がきっかけとなり、私の中で何かが変わってしまったらしい。それもこれも全部、彼のせいだ。


 繁華街からバスで地元に帰ってきて、その後当たり前のように彼の家に誘われる。

「え~、どうしようかな~?」と私は断る素振りを窺わせつつも、内心ではとっくにそのつもりだった。あの日は思わぬハプニングがあったが、あるいは今日こそは。
 それを想像するだけで、私はまたしてもショーツ内を『おしっこ』とは違う液体で濡らすのだった。

 彼の家に着く頃には、尿意はいよいよ顕著になっていた。まだ限界というほどではないにせよ、このままだとひょっとすればひょっとするかもしれない。

――今『おしっこ』したら、どれだけ気持ちいいだろう?

 脱いだ靴を揃えながら、私はそんなことを考える。理性も尊厳もかなぐり捨てて、今すぐ尿意を解放することができたら。彼の前で『おもらし』することができたら。

 彼は私を蔑んだ目で見るだろう。一度ならず二度も年頃の女子が『失禁』だなんてそんなの絶対ダメだ。でも、だからこそやってみたい。そんなイケない衝動を理性で必死に抑え込む。

――ちょっとだけなら…。

 バレない程度にほんの少しだけ。私は微妙な力加減で括約筋に反対の力を込める。あくまで出過ぎてしまわないように気をつけながら。

――ジョロ…。

「くっ!」と慌てて押し留める。危ないところだった。あと少しで膀胱は自制を失いその全てが解放されてしまうところだった。

 ショーツの中がじんわりと温かく湿る。愛液と『おしっこ』が絶妙に混ざり合い、私の股間を優しく愛撫する。

――気持ちいい…。

 快感に身を委ねたのも束の間、慌てて足元を確認する。

 どうやら『おしっこ』は溢れていないらしい。『おもらし』がバレていないことに私は安堵する。けれど…。

――私、また『おもらし』しちゃったんだ。

 ショーツ内の柔らかなその感触が、自分のしてしまったことを自覚させる。そして次の瞬間、あの日のあの感覚が蘇ってくる。


 どうしようもなく恥ずかしくて情けなくて、切ないような甘く痺れるような感傷。決して人には見せられない姿。だがそれを見られてしまうことで私の全てを知られ、受け入れてもらえるみたいな、そんな感情。

 それは、男性に裸を見られる感慨にも似たものなのだろうか?

 いやそんなはずはない。男性に裸もしくは秘部を晒した経験は同年代の女子ならば誰もがあるだろうが。秘めたるべく、そこから溢れる羞恥の液体を見られた経験などほとんどの者にあるはずがない。

 そして、この後の展開をふいに想像してしまったことで。私は自分のした綱渡りのその代償についてようやく思い当たる。

――どうしよう。もし今、下着を脱がされたら…。

 私が『おしっこ』を漏らしたことがバレてしまう。ショーツの湿り具合はもはや、発情によるそれとして言い訳ができないくらい広範囲に及んでいる。とはいえそれはまだ『おもらし』というほどの被害ではなく、せいぜい『おちびり』程度のものだ。あくまで匂いにさえ気付かれなければ何とかなるかもしれない。

「結衣、どうしたの?」

 彼に呼ばれたことで、ふと我に返る。彼が私のことを下の名前で呼んでいるのは、今日のデートにおける数少ない成果の一つといえるかもしれない。

「体調悪いの?」

 彼は心配そうに訊ねてくる。本当に心配してくれているのかもしれない。あるいは私が生理中であることを彼は心配しているのかもしれない。せっかくお膳立てをしていよいよという時に、上げ膳を喰らうことを怪訝に思っているのかもしれない。

「いえ、大丈夫です!」

 私は精一杯に微笑んで見せる。元々体調が優れないわけではないのでそれはさほど難しいことではなかった。

「それなら良かった」

 彼はようやく安堵したらしく、中断していた話を再開する。思えば、私は彼の話を上の空でしか聞いていなかった。彼の家に上がって以来、いやそのずっと以前から、私の頭は違うことで一杯だった。


『おもらし』

 私の脳内は、今やそんな『四文字』の誘惑に支配されかけていた。
 カフェで飲み物を必要以上に飲んだのも、トイレに行かずバスに乗ったのも全てはその前準備だった。そして彼の家に来たことも一方では「初めて」を予感しつつも(そちらの方がまだ正常だろう)、どこかで「二度目」を期待したが故だった。

 ついに膀胱が悲鳴を上げ始める。体をちょっと動かすだけで、その声ははっきりと聞こえてくる。早く言わないと、「トイレに行きたいです」そう申し出るべきだと、かろうじて本能に抗う私の理性が告げている。

 彼はまたそれを拒むだろうか?拒否されたら困るという感情と、拒否されることで私の願望が叶うという劣情が葛藤する。

 いよいよ尿意は耐え難いところまできており。私は忙しなく両脚を組み替えたり、さりげなく股間に手をやったりして何とかそれを堪えるのだった。

 手を触れたことでそこが微かな火照りを覚える。同時にアソコに潤いを感じるも、それが果たして何の液体によるものなのかは判別できなかった。私は意を決しつつ、積み上げてきた我慢が無に帰してしまうことを恐れながらも彼に向けて言う。

「トイレ借りてもいいですか?」

 本来ならさりげなく、自然を装った流れの中で訊ねるべきことである。だけど私は彼との会話を分断して、突如その問いを発したのだった。

――さて、○○さんはどんな反応をするだろう?

 彼は面食らったような顔を見せつつも、そこでようやく私の様子が変だった理由に思い当たったみたいだった。

「え~、また~?」

 再度の申告に苦笑し、やや呆れながらも。

「いいよ」

 さも当然の如く彼は答えた。いや、無論それが当たり前なのだ。拒否される理由はどこにもない。それこそトイレが使えない(水が流れない)などが無ければ、即座に認められて然るべきである。(ちなみに、あの日拒否された理由はやはり嘘だった)

「じゃあ…」

 彼に告げて、私は立ち上がる。申請し、承認されたのだ。形式的な手続きであり、それはむしろ形骸化されたやり取りに過ぎない。だからこそ、私は沸き上がるような怒りを覚えるのだった。

――だったら、なぜあの時そう言ってくれなかったのか?

 あの日、私は同じく彼に願い出た。少しの気まずさと気恥ずかしさを覚えつつも、ちゃんと自分の口でそう言った。だが彼はそれを拒んだ。さらに私の移動を掌握し、あろうことか私の振動を増幅し、その結果ついに私は…。

『おもらし』をしてしまったのだ。まさかそのような予定が待ち受けているなんて、彼の家に行く前の私が想定しているはずもなかった。

 その瞬間と直後、私は激しい後悔に苛まれた。もっと早く言い出していたならば…(そもそも拒否されるなんて思わなかった)。職場を出る際に予め済ませておけば…(その時点では尿意など感じていなかった)。そんな無数の仮定と過程が私を攻め、責め立てるのだった。

 けれど洗面台で濡れたショーツを情けなく洗っている時、私は思った。

 大切な何かを失くしてしまった虚無感と、ふとした瞬間に蘇る羞恥の実感。
 家族に対して秘密を作ってしまった罪悪感と、誰かと分かち合いたい共感。
 全身を包み込むような脱力感と、もう決して過去には戻れないという予感。

 それらはきっと初体験をした(してしまった)時と同じ感情なのだろう、と。

 だからこそ私はその余韻を貪るように、部屋に戻ってから『オナニー』をした。
 アソコに絡み付く液体を彼の精液であるかのように。指を彼のペニスに見立てて、もう何度目かの一人きりの絶頂を迎えてしまったのだった。それなのに…。


 彼は、そんな私にとってのある種の性体験を無かったことにするように。あたかもそれ自体を否定するみたいに。私がトイレを使うことを許してくれた。

 私はそれが許せなかった。一回ヤったら終わり、と女を簡単に捨てる男のように。私をこんな気持ちに、こんな体にさせておいて、さも自分は何事もなかったかの如く平然と振舞っていることが。まるで自分は無関係だと平静を装っていることが。

 廊下を進みながら、私は何度この場で『おもらし』してやろうかと思った。

 だけど強○も矯正もされずに○す失敗はまさしく私の罪であり、彼の罪ではない。自ら望んで晒す失態はもはや『失禁』ですらなく、あくまでもプレイの一環として。特殊な性癖に倒錯する変態女、というレッテルが私のみに貼られてしまう。

 それはそれで何だか興奮するような気もした。だがやはりどこかで彼のせいだと、だから彼に責任を取ってもらうのだという大義名分が必要である気がした。

 私に彼氏が出来なかった原因。容姿もそこそこなのに(自分ではそう信じている)処女を守り続けてしまった理由は、そうした責任転嫁にこそあるのかもしれない。


 一歩ずつトイレに向かう。その足取りは重い。あえてそうしているわけではなく、膀胱が行動を制限しているのだ。そして今も尚、私は葛藤している。

 ここで解放してしまうべきか、きちんとあるべき場所で解消すべきか、を。

 ふいに強烈な波が押し寄せ、尿意を抑え込みつつ私は立ち止まる。
「これが最後のチャンスだよ」と彼に教えてあげたい。今もし下腹部を押されたら、きっと漏らしてしまうだろう。だけど彼は座ったまま、呑気にスマホを弄っている。私の気も知らないで。私がどんなに危機かも知らないで。

 ようやくドアの前へと辿り着く。あとはここを開けて中に入り、下着を脱ぎ去り、便座にしゃがみ込むことで。私は人としての尊厳を守り抜くことができる。
 今度こそ誰にも邪魔されることなく、今夜こそ羞恥や絶望に苛まれることもなく、無事に全てを終わらせることができる。けれど…。

 取っ手を掴みながら私は逡巡する。果たして間に合わせてしまって良いのか、と。私の中で失望と『失禁』とがせめぎ合う。そこで…。

 後方から伸びてきた無慈悲な手が、無警戒なままの私の腕を掴んだのだった。

「えっ!?」

 思い掛けぬ事態と隠し切れない期待から、つい私は叫声(嬌声)を発してしまう。遅滞なく振り返ると、そこには彼がいた。

「やっぱり、トイレには行かせられない」

 彼はきっぱりとそう言い切った。その目にはバイト中には見たこともないような、真摯さと真剣さが宿っていた。

「何でですか?」

 私はかろうじて欲情を堪えつつ日常の言葉で訊き返す。戸惑う演技は歓喜により、上手くいかなかったかもしれない。

「どうしても」

 彼は断言した。

「でも…。このままだと私、漏らしちゃいますよ?」

 恥ずかしげもなく、私は公言する。もう限界なのだと、そう宣言する。

「いいよ」

 同音異義の了承を彼は示した。優しげな口調はまるで私の失敗を肯定するように。あたかも私自身の結末を決定づけるように。

「本当に、もう無理なんです…!!」

 それでも私は自らの体裁を保つためだけに言う。あくまでも責任を自分ではなく、彼に押し付けるように。

「結衣の『おもらし』が見たいんだ」

 彼は告白した。紛れもなく己の口ではっきりと。私の情けない姿が見たいのだと。全ての責任は自分にあるのだと。だから私は安心して身を委ねればいいのだと。

――じゅわ…。

 反射的に私の括約筋は緩んでしまう。それによって不本意な小流が漏れてしまう。だけどまだ本流ではない。私は決意する。最終確認として彼に同意を求める。

「本当に良いんですか?」

 その問い自体が私の願望を吐露したようなものだ。彼は頷いた。そして…。

「結衣の『おもらし』見てください!!」

 私は尿道に力を込める。までもなく、ほんの少し力を緩めただけ。

――ジョボロロ~!!!

 下着の中がみるみる内に温かくなる感触。あの日と同じ感覚だ。けれど今日の私はショーパンと黒タイツを穿いている。

 まずショーツ内に水流が生み出される。激流を薄い衣料が貯留できるはずもなく、溢れ出す奔流は両脚を覆う黒タイツに模様を描く。尚且つ吸収しきれなかった急流がデニム生地のショートパンツを貫通して、下方のフローリングへと直流を結ぶ。

『放尿』しつつ私は放心していた。アソコが痙攣しているのが分かる。それによって『おしっこ』が断続的に幾つかのリズムに分けられる。

――ピチャ、ピチャ!!ピシャ~!!!

 跳ね返る液体は足元を濡らしている。のみならず下着も黒タイツもショーパンも。密着していたことで彼の着衣さえも。それら全てを染め上げ私は『失禁』を終える。

 すっかり『おしっこまみれ』となった体で。後悔と未来の課題に苛まれながらも、私の脳はもはや考えることを放棄していた。


「結衣、すごく可愛いよ」

 それでも彼は私の体を抱き寄せ、びしょ濡れになった下半身に手を当てる。

「汚いですよ?」

 そんな私の懸念を振り切り、彼は私の手を引き強引にベッドへと誘う。

――もしかしたら、今がその時なのかも…?

 私の不埒なそこは彼の不貞を迎え入れる準備を整えている。不浄な身と不純な心で今や不確かではない高揚を私は感じていた。


――続く――

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おかず味噌 2020/02/14 01:22

ちょっとイケないこと… 第二話「後悔と洗濯」

(第一話はこちら)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/207275


――あの日は、最悪な日だった。

 思い出したくもない。バイト帰り、興味本位で立ち寄った彼の家。そこで私は…。
 あえて口に出すのも憚られる。私は、彼の前で『粗相』をしてしまったのだった。

 果たしていつぶりだろう?およそ記憶になんて残っていない。幼少期、私がかつて『オムツ』をしていた頃以来だ。当時のことであれば別に恥ずかしくもない。私にはまだ自我が芽生えておらず、善悪の判断も羞恥の決断も出来なかったのだから。

 だけど私は、大学生にもなって『おもらし』をしてしまった。
 羞恥の判断も出来る年頃に。善悪とかそれ以前に。

――○○さんが悪いんだ!

 彼は私がトイレに行くのを阻止した。そう、私はきちんとトイレに行き、きちんとそこでしようとしたのだ。そしてそれは本来なら間に合うはずだった。それがまさか『穿いたまま』してしまうことになるなんて…。

 あの瞬間のことは忘れようにもない。ショーツの中がじんわりと温かくなる感触。止め処ない水流が決壊と同時に溢れ出し、最初は不快でどうしようもないのだけど、ある境界を越えるとなぜか心地よく思えてくる。イケないことをしているみたいな、これまで味わったことのない感覚。それはとても不思議な体験だった。


 あの日、帰宅した私がまず最初にしたことは濡れた下着を手洗いすることだった。
『おもらしショーツ』をそのまま洗濯機に放り込むわけにもいかず、バッグに入れて持ち帰ったそれを夜中に一人、洗面台で洗った。

 彼のおかげ(?)で制服が濡れなかったのは不幸中の幸いだった。ノーパンのままズボンを穿いて、かろうじて私は自宅に辿り着いたのだった。

 音を立てずにそっと玄関のドアを開けて中に入る。家中の灯りが消えていることを確認して、忍び足で廊下を歩き、一直線に洗面所に向かう。
 家族が皆寝静まっていたのは僥倖だった。いくら身内といえど、こんな無様な姿を晒すわけにはいかない。ましてや、まだ中学生である弟に見咎められるなんて…。

「お姉ちゃん『おもらし』しちゃったの?」なんて訊かれた日には、姉としての私の威厳が崩壊してしまう。

 だけど私はそれより恥ずかしい姿を、家族でもない他人に見られてしまったのだ。
 裸を見せるよりももっと恥ずかしい行為。いや、それとは少し違う羞恥。

 数十分前の出来事を思い出すと、私はまだ『おしっこ』を出し終えていないような奇妙な感覚に襲われた。膀胱はとっくにカラであるはずなのに。全てをショーツ内と彼の家の浴室のタイルにぶちまけてきたはずなのに。まだまだ出し足りないような、もっと出したいような、すっきりしないような感覚だった。


 バッグの中からビニール袋にくるまれたショーツを取り出す。それはびしょ濡れになっている。鼻を近づけて嗅いでみると、強烈なアンモニア臭が鼻腔を刺激した。

 私は改めて、自分が『おもらし』をしたのだと知った。
 どこかでそれは夢じゃないかと、目が覚めてトイレに行けば済む話と思っていた。
 だけどそれは、紛れもない現実だった。

――明日からどんな顔して、○○さんに会えばいいんだろう?

 少し先の未来のことを考えると、気が重くなった。それはもはや絶望とさえいっていいほどに…。

 一応彼には「誰にも言わないでください」と口止めはしたし、まさか後輩の失態を言いふらすような人ではないから大丈夫だと思うが、それでも万一ってことはある。
 それに(それこそまさにあり得ないことだが)彼が『おもらし』の口止めを口実に私の体を要求してきたとしたら。どちらにせよ私は彼に弱みを握られたことになる。

 考えれば考えるほどに、想像すればするほどに、問題は幾つも山積みではあるが。まずは目の前の問題から一つずつ片づけていかなくてはならない。
 とにかく今の私にできることは、家族が目を覚まさぬ内に汚れたショーツを洗い、少しばかり部屋で干した後、何食わぬ顔でそれを洗濯機に突っ込むことだった。


 早速水を出して洗おうとしたとき、ふと思い立って私は作業を中断する。

 思えば(当たり前のことだが)こうして自分の穿いていたショーツを眺める機会はそうそうない。いつもはお風呂に入るときに爪先から脱ぎ捨てて、そのまま洗濯機に投げ込んでいる。汗をかいたときだって、生理のときだってナプキンはしているし、それほど汚れるものでもないだろうからそれで良かった。

 だけど今こうして自分の下着を。本来最も汚れる場所に触れる衣類を観察すると、実に様々な発見があった。

 黒いショーツは『おしっこ』で湿っている。だけど、その濡れ方は洗濯後のように均一ではない。ゴムの付いた上の部分はほとんど濡れておらず、一番濡れているのは当然、股に当たる部分だった。

 クロッチの部分をよく覗き込んでみる。そんな事をしている場合ではないのだが、何か抗えない強大な力にそうさせられているように、自作の『シミ』を注視する。
 ただ『おしっこ』が滲んでいるだけと思っていたそこは、微かに白く汚れていた。

「何だろう?」と思って触れてみると、ヌルヌルと粘り気のあるものが指に付いた。
 細く糸を引くその液体は、私の愛液だった。私はアソコを濡らしていたのだ。

 一体いつから、そんな状態になっていたのかは分からない。あるいは何かの反動で(いわゆる人体の神秘というやつだ)思いがけず溢れてきただけなのかもしれない。もしくは彼の家に誘われたことで、何かを期待する気持ちが私にあったのだろうか?

 そうだ!私がトイレに向かうのを邪魔する際、彼はどさくさに紛れてズボン越しに私の股間を弄ったのだ。あのせいで、あくまで生理現象により濡れてしまったのだ。だとすれば、それは私のせいではない。

 それでも。なぜ下着に愛液が付着しているのか、その理由に心当たりがあった。
 またしても私は思い出す。あの瞬間の感覚を…。


 決壊を迎える直前、限界を越える寸前、ふいに股間が湿る感触を覚えた。
 私は、ついに『チビった』のだと思った。(実際、彼にはそう思われてしまった)だけどその液体は尿とは異なり、私の陰部に温かくまとわりついたのだった。

 まさしくそれは、濡れるという感覚だった。私は『おしっこ』を我慢しながらも『おもらし』の誘惑によって、アソコを濡らしてしまったのだ。

 何ということか。あろうことか私は羞恥によりヴァギナを開かせてしまったのだ。
 それに気づくと、記憶の想起によって、再び股間が熱を帯びるのが分かった。

 私は制服に愛液が付いてしまわないように、股の部分を指でそっとつまむ。だが、時すでに遅し。ズボンを離した瞬間、冷たい感触が確かに伝わってきた。
 そして。制服ズボンを濡らすその液体は今、目の前のショーツのクロッチ部分にも白く染み込んでいるのだった。

 さらに、私の下着の汚れはそれだけに留まらなかった。

 続いてショーツの後方、お尻に触れる部分を凝視してみる。割れ目に当たる部分にカピカピになった茶色い粉のようなものが線状に付着している。そこに鼻を近づけて嗅いでみると、思わずむせてしまいそうなほど強烈な臭いがした。


 それは、紛れもない『うんちの臭い』だった。
 私は、『おしっこ』のみならず『うんち』さえもショーツに付着させていたのだ。

 おそらく、朝トイレに行って排便をした時にきちんと拭けていなかったのだろう。
 私は『大』をした後、大体二、三回は拭くようにしている。ペーパーに付いた便を確かめ「もうこれくらいでいいだろう」と水を流し、トイレを後にする。(ちなみに集合住宅である私の家に、ウォシュレットなんて気の利いたものはない)

 たまに肛門付近にショーツがひっつくような感触もあったが、汗だろうと気にしてなかった。それがまさか、こんなにも『ウンカス』をこびりつけていたなんて…。

『おもらし』の後始末をする際、彼に下着の裏地を見られなくて本当に良かった。
 パッと見ではよく分からないだろうが。凝視されれば確実に私の『ウンスジ』が、ショーツに刻み付けられた痕跡がバレてしまうところだった。

 それに。お尻を触られなくて良かった。仮に割れ目をなぞられたなら、彼の指に『うんち』を付けてしまう可能性だってあった。ましてやお尻を嗅がれでもしたら、『うんちクサさ』を彼に知られてしまう恐れだってあった。


 ふと我に返る。イケない、いつまでも悠長に観察を続けている場合ではない。
 家族は皆寝静まっているとはいえ。いつトイレのために、あるいは小腹を空かせて起きてくるか分かったものじゃない。急がなければ…。

 蛇口を開けて水を出す。ジャーと小気味の良い音。命令を与えられ、感情もなく、水を流す装置。そこに後悔や羞恥があるはずもなく、調整された勢いで溢れ出す。
 漏れ出したわけではなく、垂れ流してしまったわけでもない。私のそれとは違う。だからこそ、堂々としている。

 黒ショーツを水に浸す。やがて、きれいな水によって『おしっこ』は押し出され、押し流されてゆく。ジャブジャブと手で揉んで洗いながら、ショーツから滴る液体を眺めていると、それは何だか『おもらし』しているみたいだった。

 既視感を覚えつつ、体験を再現し客観視しているような奇妙な感覚に襲われる。
 私はこんな風に『おもらし』をしたんだ、と再びアソコがじんじんと疼いてくる。それと共に、わずかに尿意を催してきた。私は尿道に力を込めてみる。

――このまま、しちゃおうかな…。

 どうにも理性が緩みかけている。けれど片付けが余計に大変になることを考えて、私はその衝動を堪えるのだった。

――よしっ、もういいだろう。

 水を止め、ショーツを固く絞る。確認のために今一度、匂いを嗅いでみる。
『おしっこ臭』はすっかり消えていた。洗剤の香りこそしないものの、それはもはや濡れた洗濯物とほとんど変わらない。私は洗面所の明かりを消した。


 ひと仕事終えて部屋に戻る。濡れたショーツを乾かすためテーブルの上に広げる。制服を脱いでベッドに横になる。ブラは付けているが下は穿いていないため下半身は丸出しになっている。
 だがここは数少ない私のプライベート空間であり、深夜に家族が入ってくることもないだろうから構わないだろう。

 これからシャワーを浴びて寝るか、朝になってからシャワーを浴びるかを考える。
 今日は大学帰りにそのままバイトに行った。その疲れもある。それに汚れた下着を洗ったことで、まるで自分自身も清められたかのような錯覚もあった。

 手を頭の後ろに組んで脚を伸ばす。目線を下方に向けると、生え揃った自分の毛が見えた。浴室以外でこうして自分の陰毛を眺めるのは、何だかヘンな感じがした。
 シャワーを浴びているときのそれは濡れてしなしなになっているが、今のそれは(やや湿り気を帯びながらも)乾いていて、ふんわりとボリュームを保っている。

 陰毛に手を伸ばす。柔らかくも髪の毛とは少し違った感触。それを撫で付けつつ、私は夢想に耽る。

――いつか、この場所に触れてくれる男性がいるのだろうか?

 不安にも似た焦燥を抱いている。根拠不明な情報ではあるけれど、若者の初体験の年齢は年々下がってきているらしい。大学生にもなって処女、というのは恥ずかしいことなのだろうか?

「そんなことはない」と言う人だっているだろう。個人差があるものだし、焦る必要なんてない、と。だけど当事者にとってみれば、平均的という指標こそが重要なのであって、それが悪魔のように囁き、私を急かせるのだ。

「遅れている」と…。


 私の処女膜は未だきつく閉じられている。守りたくもないのに、固く守られてきたその部分が、まだ顔も知らない誰かによってこじ開けられる瞬間を想像する。

――やっぱり、痛いのかな…?

 少しだけ怖くなる。だがそれも、自分が周囲から取り残される怖さに比べれば全然平気なものに思える。

 いつの間にか私の指は陰毛を弄るのを止めて、さらにその奥にあてがわれていた。
 男性を迎え入れる場所。『おしっこ』の出る場所。その周辺をなぞってみる。

 きつく閉じられているはずのその部分は、微かな湿り気と温かみを帯びている。
 そして指の動きに合わせて、次々と液体は溢れ出してくる。

 時に乱暴に、時に優しく、アソコを自分の指で愛撫する。己の意思の赴くままに、私の指は気持ちいい場所を熟知している。

 次第に息が上がり、動悸が激しくなってくる。イケないことと思いつつも私の指はもう止まらない。
 膣内を出し入れし、クリトリスを転がす。そのスピードは徐々に速くなる。

――もう、イキそう…。

 私は両脚に力を込めて絶頂が訪れるのを待つ。やがて私の指はペニスへと変化し、その持ち主を想像する。それは自然と彼の姿になった。

「もう、イちゃいそうです…」

 小声で私は呟く。「いいよ」と優しげな彼の声がそれに応える。

――『おもらし』しちゃった結衣に、お仕置きしてください!!

 後から思い返すと、赤面してしまいそうな台詞を脳内で叫ぶ。
「俺も、もうイキそう」情けないような、彼の声が聞こえる。イク時は一緒がいい。そして…。


 ビクンと体が跳ねる。膣が収縮し、私の指(ペニス)をきつく咥え込む。そして、熱い精液が私の中に発射される。「ドピュ!ドピュ!」と。だがその感触は想像上のものでしかなかった。

 ふいに私は尿意を感じた。トイレに行くほどではないものの、そこに力を込める。

「私、また『おもらし』しちゃいそうです!」

 声を抑えつつも、けれど理性を失った私の宣言は予想以上に大きく響いた。

――ジョロ…。

 私の『放尿』は頼りない放物線を描き、そのままベッドへと染み込んでゆく。

――気持ちいい…。

『おしっこ』するのがこんなに気持ちいいだなんて、初めての感覚だった。これまでオナニーの経験は何度かあるけれど『おもらしオナニー』をしたのは初めてだった。

――こっちも、弄っちゃおうかな…。

 やや腰を浮かせて、伸ばした指はアソコを通り越し、その先のアナルに触れる。
 普段弄ることのないそちら側。そこが、そういうことをするための穴でないことは知っている。(あるいは上級者はこっちも使うらしいが…)

 紛れもない排泄専用の穴。ショーツのお尻部分に羞恥を刻み付けた、その元凶。
 ぷっくりとした出口を指で弄ぶ。本来、出す専門の方。

 あまり深く入り過ぎてしまわないよう気をつけながらも、第二関節まですっぽりと飲み込まれる。指にまとわりつくヌルッとした感触は腸液だろうか、それとも…。

――また、出ちゃいそう!!

 溢れ出す衝動を予感する。

――チョロ…。

 またしても私は『おもらし』をしてしまう。肛門を犯しつつ、別の出口から液体を迸らせてしまう。
 間違っていることなのに。イケないことなのに。それなのに『アナルオナニー』を止めることはできず、未知なる快感に私は酔いしれるのだった。

 すっかり放心した状態のまま、自ら描いた放物線の残像を脳裏に焼き付ける。
 私が『おしっこ』の染み込んだシーツの後始末に頭を悩ませたのは、それからもう少し経ってからのことだ。


――続く――

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おかず味噌 2020/02/09 22:06

ちょっとイケないこと… 第一話「尿意と我慢」

 登場人物「松永結衣」

 バイトの後輩。この春から大学生になり、どちらかといえば地味でイケてなかった高校時代を取り戻すため、男遊びを覚えようとしているのだが。根が真面目なことと実家暮らしのため、いまいち一歩が踏み出せないでいる。

 あなたに好意を抱いているわけではないけれど。だからこそ好きでもない相手と、その場のノリで、一線を越えてしまうことに、少なからず憧れのようなものがある。
「この前、バイトの先輩とヤッちゃって~」などと武勇伝を語ることで。さも自らもイケイケの女子大生に近づけるという、ややズレた貞操観念を持ちながら。
「大学生にもなって、処女とかないよね~」友人とのそんな会話に相槌を打ちつつ、実は自分がまだ『処女』であることは機密事項。

 美少女とまではいえないながらも、比較的整った容姿を持ち、スタイルも細身で、決して男ウケしないわけではない。だからこそ、不遇だった(あまりモテなかった)高校時代は己の恋愛に対する生真面目さこそが原因だと思い込み、不真面目な恋愛に爛れることで何かが変わると信じている。

 バイトの帰り道が偶然一緒になった、あなたからの「家に来ない?」という誘いに確実に下心を感じながらも。雰囲気次第ではそれも悪くないと半ば覚悟を決めつつ、あっさりと付いてきた…。


「ちょっと、トイレ行ってくる」

 何を話すでもなく、バイトの愚痴や趣味の話など、そんな他愛もない話題の最中。ふと僕は尿意を感じて、会話の中断を申し出たのだった。
 思えばバイト先を出る前からトイレには行っておらず、もう数時間が経っていたし、談笑に夢中になることで飲み物を飲み過ぎたせいもあるだろう。

「ごめんごめん、それで何だっけ?」

 僕が排尿を終えて戻ってくると、結衣は何か言いたげな様子だった。

「私も、トイレ借りていいですか?」

 あくまでさりげなさを装って、彼女は訊いてくる。男の家に来てトイレを借りたいというのは、女子として言い出しづらいものがあったのかもしれない。だから彼女は僕がトイレに行った後、そのタイミングを好機とみて、ごく自然にそう切り出したのだろう。そして同時に、彼女は思ったはずだ。

 当然トイレには行かせてもらえるだろう、と。

「だめ」

 僕は無情にも言い放つ。彼女は一瞬、何を言われたのか分からないという顔をして表情を強ばらせつつ、

「えっ…?何でですか?」

 やはり冗談っぽくそう切り返した。「いや、普通断ります?」というような、まだどこか余裕を残した様子だった。だけど僕には分かっていた。

 もう間もなく、彼女の膀胱が限界を迎えようとしていることが。

 僕の家に来てからもう二時間くらい経っただろうか。彼女は僕の差し出したお茶を飲み干している。まさかその行動がごく近い将来の自分を苦しめることになろうとは露とも知らず…。


 結衣はバイト上がりで、そのまま僕の家へとやって来た。バイト中も、バイト後も恐らくトイレには行っていない。行くチャンスがなかった訳ではない。バイト先でもコンビニでも、機会はいくらでもあったはずだ。それでもあえて行かなかったのは、単にトイレなんていつでも行けると思っていたからに違いない。

 そして何より、その時はまだ尿意なんて微塵も感じていなかったのだろう。まさか僕と一緒にいる間に催すことになろうとは考えもしなかったのだろうし。たとえ仮に催したとしても、その時はその時ですぐに対処可能だと思い込んでいたのだろう。

 だけど僕は、彼女がトイレを使うことを決して許さなかった。

「いや、トイレ借りますよ?」

 もうこれ以上、無意味なやり取りをするつもりはないというように。結衣は強引にトイレの方へ向かおうとする。排尿を禁じられることで今はっきりと尿意を自覚したらしく、それがもはや如何ともし難いところまで来ていることに気づいたらしい。

「ダメだってば!」

 だが僕は断固として、彼女の前に立ちはだかる。

「え~、何でですか?」

 彼女の表情が曇る。少し怒っているようにも見えた。

「そんなにトイレ行きたいの?」

 僕は意地悪く、彼女に訊ねる。

「はい、まあ…」

 そこでようやく、彼女は自らの生理現象を告白したのだった。
 それによって、僕のS気質にますます火が灯されるとも知らずに…。

「ずっと我慢してたの?」

「いや、そういうわけじゃ…」

 結衣は言葉を濁す。仮にも女子である自分が「おしっこを我慢していました」とは言いたくないらしい。だが僕は知っている。彼女の膀胱はもうパンパンなのだ、と。
 その証拠に彼女は小刻みに(注意して視なければ見逃してしまうほど僅かにだが)震えていた。本当は両手で股間を押さえ付けたいのだろうが、僕の前でそんな醜態を晒すわけにもいかないらしい。

「なんで、トイレ行っちゃだめなんですか?」

 拒否されなければならない理由問う彼女に対して、

「うちのトイレ、今水流れないから」

 僕は苦し紛れの嘘をつく。もしそうならば、困るのは家主である僕自身なのだが。

「えっ…」

 それでも、どうやら彼女は僕の嘘を信じ込んだらしい。しばし動きを止めたまま、何事かを考え込んでいる。

 無事に排尿を済まし終えたとして。水を流せないとあらば、便器内に溜まる液体も便所内に漂う臭気も、そこに留まり続けることになる。
 それを僕に見られ嗅がれてしまうこともまた、やはり彼女にとって耐え難い羞恥に他ならないのだろう。

「じゃあ、そろそろ帰りますね」

 僕の家でトイレを借りるのを断念したらしく、結衣は妥協案を提示する。本当なら今すぐにでも便器に跨って、制服ズボンとパンティを下ろし放尿したいのだろうが。尿意の解消を先延ばしにして、とりあえずはこの状況を打開しようと試みたらしい。

「ダメだよ」

 それでも僕は、彼女のそんなわずかな希望(もしどうしても間に合わないのならばせめて野外で。万が一漏らすにしても僕の前ではなく一人で)さえも打ち砕く。
 だが彼女にとってもその妥協案は譲ることのできない、乙女として最期の防衛線であるらしく。「もう夜遅いので」と建前を口にしながらも、おもむろに玄関の方へと向かうのだった。

――あと、もう一押しだ!

 そう悟った僕は、背中から結衣に抱きついた。

「ちょっと、やめてください!」

 当然の如く、彼女は抵抗する。僕の腕を振り払おうと自らの腕を振り回す。全ては女性としての尊厳を守りつつ、大人としての威厳を保ち、生理現象に抗うために。
 だがそこは男の力だ、そう簡単に振り解けはしなかった。

「離してください!本当に、トイレに行きたいんです…」

 ついに彼女は己の欲求に正直になり始めた。涙目になりながらも、悲痛な面持ちで懇願してくる。すかさず僕は彼女の腰に手を回し、下腹部を軽く押さえてみた。

 同時に、空いたもう一方の手で尻を揉む。これまでバイト中に眺めるばかりだった結衣の小振りの尻は柔らかく、細い体は壊れてしまいそうなほど頼りなかった。

「うっ…」と声にならない声を上げて、尚も彼女は焦燥に耐えようと必死に歯を食いしばっている。僕は下腹部にあてた手を徐々に下ろしてゆく。そしてズボン越しに、結衣の『おしっこ』の出る部分に触れる。

 その瞬間、彼女の体がびくりと震えたのが分かった。

 反射的に腰を突き出し「もういっそ恥じらいなど捨ててしまえ」と言わんばかりに股間に自らの手をあてがう。そこにはもはや普段の真面目で上品な彼女の姿はなく、ただひたすら尿意を堪えるだけの下品な女に成り下がっていた。


『おもらし』

 彼女の脳内には、そんな禁忌の『四文字』が大きく浮かんでいることだろう。
 大人になった自分とは無縁の、それどころか自我が芽生えた頃から現在に至るまでおよそ経験のない羞恥と隣り合わせという現実に、大いに戸惑っていることだろう。

 これまで自分が築き上げてきた立場、人間関係、プライドが。あとほんのちょっと股の力を緩めてしまえば、立ちどころに崩壊するという恐怖。そうした心理的感情と身体的活動の結果、彼女の体はもはや誰が見ても明らかなほど振動していた。

 彼女にはもうわずかな抵抗力さえも残されてはいなかった。出来ることといえば、ただ股を押さえる力を強めることのみ。間もなく結衣は限界を迎えようとしていた。

 僕は彼女を浴室に誘導する。さすがに廊下でされたとあらば後片付けが面倒だし。いくら結衣のものとはいえ『おしっこ臭』が部屋に充満するのは避けたかった。

 だがそれは僕の事情だ。彼女としては失禁する場所が廊下だろうと浴室だろうと、「人前で漏らす」という羞恥はどちらにせよ筆舌に尽くし難いものに違いない。

「制服が汚れるといけないから」

 僕はいかにも真っ当であるかのような(少しも真っ当ではない)ことを言いつつ、結衣の制服を脱がしにかかる。彼女は再び激しく抵抗した。
 下着を見られるのが恥ずかしいというよりは、「ズボンを脱ぐ」というその行為が「尿意を解放していい」という大義名分を与えることを恐れているみたいだった。

 僕は抵抗する彼女の手をかいくぐって(彼女は相変わらず股間から手を離すことができないでいたから、それは容易かった)ベルトを外し、ファスナーに手を掛ける。

「ジジィ…」と金属の擦れる音が聞こえて、ズボンのチャックを全開にする。
 暴れる彼女の手をうまく捕まえつつ、少しずつ重力の方向へと下ろしてゆく…。


 結衣は、黒のパンティを穿いていた。見たところさしたる装飾のない、前面上部に取って付けたような小さなリボンがあしらってあるだけの簡素なパンティだった。

「純白だったら良かったのに…」と少し思ったけれど、そう思い通りにはいかない。
 彼女は彼女の意思でこのパンティを選び(あるいは洗濯のサイクルの中で偶々)、今こうして僕の家に穿いてきたのだ。
 決して人に見せるためのものではなかったのかもしれない。だがそれもまたいい。偶然か必然か、彼女はこの下着を『おもらしパンティ』に選んでしまったのだった。

 黒パンティのクロッチ部分を指でそっとなぞってみる。やや湿り気がある。いや、そこはかなり大胆に湿っていた。

「ちょっと、チビっちゃった?」

 僕は意地悪く結衣に訊ねる。彼女からの返答は当然の如く得られなかった。
 だけど、そこは明らかに濡れていた。性的興奮によって分泌された液体ではなく、それは『おしっこ』によるものだった。

 僕は顔を近づけて、結衣のパンティの匂いを嗅いでみた。彼女は再び抵抗したが、もはや全てを諦めているようだった。鼻腔にツンとくる刺激臭、それは紛れもない『アンモニア臭』だった。

 何度も濡れた部分を指でこする。すると、じわじわと液体が溢れ出してきた。
 そしてある一定の境界線を越えたとき、「あっ…!」と結衣は断末魔のような声を上げたのだった。


――シュィィィ…!!

 パンティの下方から水流が生み出される。それは止めようとしても止められない、決して抗うことのできない奔流。

 結衣は『おもらし』をしていた。

――ジョオォォォ~!!!

 永く堪えていた末の激流は留まるところを知らない。今や彼女はすっかり脱力し、己の本能に身を委ねていた。パンティから垂れる雫は足元に水溜まりを作りつつも、すぐに排水溝へと流れてゆく。(ここが浴室で良かった、と僕は心から思った)

 本来不浄であるはずの濁流。だがそれも彼女の体内で醸成されたものだと知ると、不思議と清浄なものに思えた。愛おしい、とさえ感じた。
 湧き出すそれを手のひらで受け止めてみる。結衣の『おしっこ』は生温かった。

――チョロロロ…。

 やがて、結衣の『おもらし』が終わる。
 徐々に急流は断続的となり、人生最大の羞恥と共に彼女は『失禁』を終える。
 俯く彼女は何も言わず、僕としても掛ける言葉は見つからなかった。

 辺りに立ち込めるアンモニア臭と、まだわずかにパンティから滴る雫。
 やがて消えてしまうそれらを、僕はただ五感で享受していた…。


――続く――

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