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出産の記事 (4)

シロフミ 2024/03/30 22:09

少女妊婦出産ものの試案

低年齢の妊娠・出産ものについて。
人間の胎児の妊娠・出産についてはこれまで何度か考えてはきたものの、だいたい途中でヒロインがあまりに悲劇的で、もっとちゃんとした大人が保護してやれという気分になったり、出産後の新生児がこんな扱いで良いのだろうか、産まれた子供に罪はないのにと考え初めてしまって筆が止まっていた。
そう。かわいそうなのは抜けない。
といって、産まれた命を無碍に扱うのは主義に反する。排泄物のように扱ってしまっては、それこそなんのために妊娠出産を主題にしているのかわからなくなる。
また、出産にいたるまでの妊娠の過程を描くと、どうしても「お腹に赤ちゃんがいる状態」であれこれとシチュエーションを重ねるのがあまりにもやりやすく、ここに分量を割きすぎることになってしまう。本題のはずの出産がおざなりになるのはあまりにも本末転倒だ。
そういったことを考えながら、いくつか考えてみたものの放置されていたストーリープロットになる。完全に文章にすることはおそらくないと思うので、あるていど読みやすく整形したものを公開しておく。


●持ち込む要素として
・クラスの中で自分だけがオトナにされてしまう。
・えっちなことの経験はクラスメイトの子もしているかもしれないが、お腹に赤ちゃんがいるのは自分だけ。
・特殊な無知シチュエーション。セックスによって赤ちゃんができるという知識はあるが、それはパパとママが愛し合うからだと思っている。愛のある性教育の結果、受精と妊娠には愛し合う二人でなければならないという思い込みがある。
・つまり、自分が妊娠してしまうのは、相手を愛しているからだということになる。
・相手への好意がセックスに伴う性的な快感を覚えることと結びつきやすい未分化な精神状態のため、ヒロインは気持ちよくなる=ママになる意思があるという詭弁に陥ってしまう。

●プロット案
・ヒロインは5年生。本人に自覚は無いが天性のファムファタール。際だって美少女というわけではないのだが、被虐を受けた時にその情景や表情が欲情をそそるタイプであり、二次被害や新しい加害者を招き入れてしまう。
・ヒロインはお金と暇がある変態おじさんに捕まり、その毒牙に掛けられた。
・おじさんはこれまで何人もこうした少女を陥れ、その多くを妊娠させて赤ちゃんを産ませてきた。その記録写真や動画を見せられながら自分も「こう」なることを見せつけられてしまう。
・セックスはしても愛が無いから妊娠はしない、赤ちゃんはできないと抗弁する少女。おじさんは少女の勘違いにつけこみ、妊娠するならおじさんのことを愛しているはずだと論点をすり替えていく。
・嫌なはずなのにおじさんの巧みな誘導と開発によって快感を覚えるようになってしまう少女。
・初体験からわずか半月、きちんと頃合いを見計らったおじさんの本気種付けによって着床してしまった。おじさんは確かな「手ごたえ」とともに少女に妊娠おめでとうと告げる。

・さすがに妊娠確定を匂わせる発言に怖くなり逃げ出す少女。しかし家族(両親がいないか無関心か、年の離れた祖父が形だけ世話をしているだけ)にも言えずに家にも帰れないでいた少女は、担任の先生に保護される。
・先生も実は重度のロリコンだがそれを隠して仕事をしていた。
・事情を聞いて驚くも親身に少女のことを案じる先生。
・先生と慰め合っているうちに、優しい先生ならいい、わたしのここ、汚くないか確かめてとセックスになだれこむ。
・先生のおちんちんはそんなに大きくも長くもなくて、おじさんのような強烈な快感はないものの、少女はあまりにも先生が愛おしくて中で出すことをねだってしまう。
・先生も我忘れて少女にのめり込むが、性欲抜群でとんでもない変態手管を身につけている変態おじさんに比べるとあまりにも淡泊で一方的。さいしょから変態おじさんの熟練度MAXな種付けをされていた少女にとってはそれが新鮮でもあった。
・そのまま何回か、少女は先生の家に泊まってセックスをする。
・しかし我に返り、眠っている少女を見た先生は、罪悪感に耐えかねて失踪してしまう。

・様々な事情は伏せられたまま学校に戻る少女。しばらく登校しなかった間のことが学校では噂になっていた。
・援交で出歩いていたとか、彼氏と駆け落ちしたとかいうありもしない風聞のいくつかは部分的に的を射ており、クラスの男子はなんとなく、少女が「経験済み」であることを悟り、なんなら自分もヤれるんじゃないかなどと不埒な想像をしていた。
・学校でも孤立する中、少女は再び変態おじさんに見つかって、またおちんちんでいたずらされる。あっさり誘導に引っかかり、先生との逢瀬を口にしてしまい、おじさんによって先生とどっちが気持ちいいかとなぶられて、「おじさんのカタチ」すっかり馴染んだあそこに、またも大量におじさんの子種を注ぎ込まれてゆく。
・おじさんは変態なので少女の微妙な反応の変化に気付いていた。
・おじさんに快感に追い込まれておしっこをさせられ、妊娠検査薬で赤ちゃんができていることを教えられる。
・信じられないヒロインはそんなのウソ、パパとママが愛し合ってるから赤ちゃんができるんだもんと反論。子供じみた理屈である。
・おじさんとはそういうんじゃない、先生とだから。先生の赤ちゃんだ。おじさんに侵され、快感に声を上げながらも、喘ぎ声の合間に売り言葉に買い言葉でそんなことまで叫んでしまう。

・少女は自分に言い聞かせるように、おなかの赤ちゃんはおじさんの子供じゃなくて、先生の赤ちゃんだと繰り返す。
・それを確かめるためにはどうするか? 実際に、先生の赤ちゃんを産んでみせるしかない。本当に先生の赤ちゃんだろうか? ふと疑念が少女の頭をかすめる。
・不安になる心を振り払おうと、少女は確認を先送りにした。
・おじさんのどぷどぷどぷうぅうーーって火山の噴火のような射精に比べると、先生の射精は弱々しくて、びゅるっ、程度のささやかなものだった。先生の小さなおちんちんは、さんざん変態おじさんの大きくてぶっといおちんちんに馴染まされたあそこには物足りなかった。
・おじさんと比べたら、先生の射精は簡単に負けてしまいそうな弱々しいものだった。まっしぐらに卵子を目指して群がり食い荒らそうとする荒々しいおじさんの精子に、先生の精子は勝てるんだろうか。
・大丈夫、わたしの卵子はおじさんの精子になんか負けたりしない。
・がんばれ、がんばれ、わたしの卵子。
・そい願いながら、少女はおじさんの射精を受け止め続けた。

・先生の分まで頑張って、先生の赤ちゃんのママにならなきゃ。
・そう決心したものの、おじさんの執拗で巧みな性技に少女は溺れていく。こうやって何度も、おじさんは女の子を孕ませて赤ちゃんを産ませてきたらしい。
・おじさんは怪しい産科医とも懇意であり、少女のバックアップ体制も万全。おじさんに受診させられて母子共に健康であるようにケアも怠らない。
・実際に、自分と同じくらいの年齢の女の子が赤ちゃんを産んでいる動画まで見せられる。おじさんへの恨みや憎しみをみせながら、それでも無理矢理「ママ」にされていく姿を見せられ、少女は追い詰められていく。
・次第に大きくなるおなか、学校では不審がられはしても深い追求は受けなかった。担任の先生が失踪して、代理の先生はまったくやる気が無い。
・すっかりおじさんのなすがままになり、少女は妊婦セックスの快楽に溺れる。おなかの中で赤ちゃんが動いている。ランドセルのままのセックス。制服の白いタイツを下ろされてセックス。
・揺れるおなかを抱えながら、少女は自分の境遇から逃避するように、その身に刻まれた快感に没入セル。
・八ヶ月を迎えたおなかは少女の細く小さな身体に不釣り合いなくらいに大きくなり、胎動で姿勢を変える赤ちゃんが元気すぎて、いつもお腹の中で暴れるのでママは眠るのも精一杯。
・妊婦セックスでおなかの赤ちゃんが動く。少女の中に半分だけ挿入しながら、子宮をこつんと突き上げるおじさん。
・おじさんのおちんぽに反応して動くのでこの子はおじさんの子供だ。ママと一緒になって子宮を大きくして膣を狭め、パパのことを気持ちよくしてくれる。母娘二代でおじさんをいかせてくれる親孝行な赤ちゃんだと、おじさんはいう。やはり変態おじさんだ。

・たった一人の家族だった祖父が入院し、少女は家に一人だった。表向きはおじさんが様子を見ているということで体裁が守られている。
・妊娠九ヶ月、セーターを着ていてもおなかが大きいのがわかる少女。
・ある日の夜、少女の家に強盗が入ってくる。覆面の二人組。家にはヒロイン一人、子供しかいないので大したお金もなく「ハズレ」かとがっかりするが、強盗の一人がだぼだぼのセーターでごまかしている少女のお腹が大きく膨らんでいることに気付く。
・とっさにお腹を庇って、乱暴にしないでと抵抗する少女。
・そのの本気の抵抗に、むしろ強盗はこれに興味を持った。
・おい、マジでその腹どうなってんだ? こんなガキが妊娠してるのか? 孕めるわけねえだろこんなガキが。じゃあこれはなんだよ? 知らねえよ。病気か食い過ぎてるんだろ。
・なあ、ちょっと確かめてみようぜ? おい、そんなことやってる場合か。いいだろ、どうせどっかで一晩過ごさなきゃいけねえんだろ。そんなガキ相手に勃たねえよ。
・強盗たちは別にロリコンというわけではなかったのだが、弄ばれているうちに妙な色香を見せ始めたヒロインに次第に魅入られていく。
・突き出されたおちんちんからお腹の子を庇うため、懸命にフェラをするヒロイン。思いのほか上手くて、強盗は殺気立っていたこともありあっさり射精してしまう。
・うぉ、すっげ……。なんだ、このガキすげえ淫乱じゃねえか……。マジで腹に赤ん坊がいるのか?これなら納得だな。腹ん中にガキがいるなら、これくらい余裕で入るだろ。
・ちょっと触ったらすぐ濡れて、強盗のペニスはわりとすんなり入る。しかし奥は子宮が膨らんでいてきつい。
・お、すっげ、すっげぇ。なんだこれ。大きく膨らんだ子宮に押しつぶされ、篤く狭い膣孔。妊婦セックス初体験の強盗は思わぬ快感に声を上げた。
・無理矢理の挿入、しかもおじさんとは違って慣れていない。強盗たちの無理矢理の行為に少女のおなかで赤ちゃんが暴れる。大きく膨らんだ妊娠九ヶ月のおなかがうごめく。
・お腹の赤ちゃんに酷いことしないで!叫ぶ少女の口にタオルが突っ込まれた。うるせえガキのくせにガキなんかつくりやがって。腹ン中のガキにぶっかけてやる!
・子宮口に直接浴びせかけられる射精に、胎動が激しくなる。膣奥への刺激や射精は子宮を緩ませ、出産を促すものなのだ。強盗たちに交互に代わる代わる犯される。
・ダメ、本当に赤ちゃん産まれちゃう……! うるせえな、そんなに言うならここで産んでみろよ、この淫乱ガキがよ!ほれ、ほれ!!いや、あ……ぁ!!
・おなかの中の赤ちゃんは先生の赤ちゃんなんだから、先生が迎えに来るまで待たなきゃいけない。こんなところで産まれちゃうのはダメ。少女はそんな妄想に縋って耐える。
・完全にいきり立った強盗たちに朝まで代わる代わる犯された。少女はお腹で暴れる赤ちゃんを必死になだめ、お風呂で汚れを落とす。
・シャワーを頭から浴びながら、一人で涙する少女。赤ちゃんのためにも、辛くてもママは頑張らなくちゃいけない。

・そしてとうとう少女が、クラスのみんなの前でママになる日がやってきた。
・冬休みを迎える直前の学校。朝からおなかの痛みを感じ、なんとかして帰ろうとしていた少女だが、終業式直前で破水してしまう。
・それでもみんなに秘密にしなければと、人気のない体育倉庫までなんとかたどりつくも、クラスメイトが大勢それを見つけに来る。
・実はクラスメイトには裏サイトからヒロインのおじさんとのハメ取り動画が流出しており、全員事情を知っている。
・同じ小学生の、クラスメイトの女子がナマで赤ちゃんを産むところを見せる性教育。小学生だってママになれるんだという現実を突きつけられ、クラスメイトたちはそのことに正気を失いつつあった。
・動画では、おじさんに何度も攻められて極太ちんぽを根元まで突っ込まれて、必死によがり狂う少女の姿。自分から望んで気持ちよくなり、おちんぽを飲み込んで、ママになろうとしている。そういう光景。
・先生の失踪との関係も気付かれていて、ヒロインは誰でもセックスをする淫乱な子であり、だから妊娠しちゃったのだという理解がされていて、同性のクラスメイト達からは蔑まれている。どこにも味方はいない。
・仮に少女を思うクラスメイトがいたとしてもここではじっと見守って痴態を見ることに終始し、助けにでたりはしない。全部済んだら次は自分がセックスしたいとか、自分の赤ちゃんを産んで欲しいとか、そんな妄念にとりつかれているヒョロガリのクラスメイトもいたりする。

・クラスのリーダーの女子、委員長。実は医者の娘である。変態おじさんが少女を受診させていた産科医というのは彼女の父親。
・変態おじさんはちょっと下手を踏んで逃亡中らしい。
・彼女の父の産科医は、本当ならおじさんが少女に赤ちゃんを産ませることで大きな収入を得られることになっていたのだが、おじさんがいなくなってその当てが無くなった。
・その代わり、ヒロインはクラスメイトたちの慰み者にされてしまうことになったのである。ここに同席しているクラスメイトたち(女子の一部、男子多数、他のクラスも少々)
・実のところ、少女は朝から長時間、ずっと陣痛が続いていて、学校にきてからは必死にいきみ逃がしをしている状態だった。産道はすでにかなり開いており、充血して開いた陰唇の奥からはせり上がる子宮口が見える。開け閉めされる狭い出口をくぐろうと、その奥で膜がずりずりと動き回る。まだ5センチしか開いていないの孔を、直径10センチのものがくぐろうとしている。
・赤ちゃんの頭が出かかったところで、少女は無理矢理保健室まで歩いて移動させられる。あそこから羊膜をのぞかせながら、クラスのみんなに囲まれて歩かされる。足下には羊水の噴き出した水たまりが続く。
・少女は保健室の仰向けに寝かされて足を開いた形で固定される。
・二度目の破水がベッドシーツを濡らす。本当に同年代のクラスメイトが赤ちゃんを産もうとしているのだという事実に、見物の男子たちが色めき立つ。
・彼らはそのほとんどが、少女のハメ取り動画で猿のようにオナニーをしていた。十月十日(実際はもうちょっと早い)、おなかの中で大切に新しい生命を育てたクラスメイトの少女が、いまここで赤ちゃんを産み落とそうとしている。
・みんなの前で、少女はママになろうとしている。
・おじさんのじゃない、あんな変態おじさんのあかちゃんじゃない。
・先生の赤ちゃんだ。ぜったいに先生の赤ちゃんなんだ。変態おじさんの赤ちゃんじゃない。絶望の中、少女はその妄想に必死に縋りながら、息もうとする。
・もうすぐ赤ちゃんが産まれる、その土壇場で、委員長はそっと少女に耳打ちした。
・「ねえ、知ってる? あなたのおなかの赤ちゃん、双子なのよ」

・じつは、産科医の診察でそのことは判明していたが、少女には秘密として伏せられていた。変態おじさんは少女の出産ギリギリになって、あるいは少女が一人
目の赤ちゃんを産んだところで衝撃の事実として「二人目」がだおなかにいること明かすつもりだったらしい。
・しかしおじさんがいなくなったので、委員長はこの秘密を別の方法に利用することにした。
・「5年生で妊娠なんて、それだけでもとんでもないのに……二人も赤ちゃん妊娠してるなんて、あなたって本当、いやらしいのね……?」
・「そう。わかるでしょ? ……あなたのおなかにいるのって、先生の赤ちゃんと、あの変態おじさんの赤ちゃんを、両方なのよ」
・少女はおじさんの怪しい薬で排卵を誘発された直後に、おじさんと先生両方の赤ちゃんを着床し、二卵性の双子を妊娠していたのだ。
・「最初に産まれてくるの、変態おじさんと先生の赤ちゃん、どっちかしら……?」
・委員長はどっちの赤ちゃんを先に産むかという事実で少女の心を弄ぶ。
・双子を妊娠してる時点で、先生とおじさんのいいとこ取りをしようとした卑怯なママ。という切り口。ふつうはひとりしか妊娠できないのに。さんざん気持ちよくなったおじさんとのセックスで妊娠しておきながら、先生のあかちゃんまで孕もうとした、はしたないおなか。
・「あなたが本当に妊娠したかったの、どっち? あの変態おじさん? それとも先生?」
・委員長は少女に囁く。ママが本当に好きで本当に孕みたかったのはどっちのパパの赤ちゃんか。
・おなかの「奥」を与えていたほうが本当のあかちゃんで、「手前」にいたのは卑怯にも後から割り込んできた赤ちゃんである、という論説。
・委員長は巧みに少女の心を誘導していく。これだけ興奮に眼をギラつかせたクラスメイトに囲まれていたら逃げられない。しかし、たとえば双子のうち一人目が産まれたあと、二人目が産まれてくる前に逃げることはできるかもしれない。
・男子たちは、まだ少女が妊娠しているのが双子だというのは知らないのだ。だったら、一人目の赤ちゃんが産まれたら、もうそれで終わりだと思って解放してくれるかもしれない。
・「がんばって、変態おじさんの赤ちゃんを先に産んじゃえば、みんなそれで見逃してくれるかもよ……?」
・(そ、そうすれば、せんせいの、あかちゃん……っ)
・この場で、おじさんの赤ちゃんを先に産んで。
・それからなんとかして逃げて、そうすれば、そこで先生の赤ちゃんを産んであげられる。そんな考えに少女は縋り付いた。
・順番を考えれば、変態おじさんの射精が半日くらい早い。つまり、少女のおなかに「先」に着床したのはおじさんの赤ちゃんである。先生はその後に射精したのだから、先生の赤ちゃんのほうが「後」になる。
・しかし少女はもう破水しており、排臨がはじまっている。これは「後」の、子宮の出口に近い方にいる赤ちゃんのはずだ。
・順番から考えれば、先生の赤ちゃん、ということになる。
・だから。少女はいまにももう産まれそうな双子の第一子をおなかに抱えながら、なんとかして、おなかの「奥」にいるはずの第二子、変態おじさんの赤ちゃんを先に産まなければならない。
・いままさに初産を迎えようとしている5年生の少女に強いるには、あまりにも無謀な「産み分け」であった。

・少女は苦痛と苦悶の中、必死に息み、おなかのなかの胎動を見せつけ、大きく開いた足の付け根に赤ちゃんの頭を覗かせながら。無謀な「産み分け」に挑もうとした。
・しかし、耐えきれず出てきてしまったのは先生の赤ちゃんの小さな頭部だった。ずるりっと、思いのほかすんなりと娩出される胎児の頭部。そのまま肩まで一気に胎児の娩出が進み、クラスメイトの男子たちは歓声を上げる。
・双子でありながら、小さくてひ弱そうな、一回り小さい赤ちゃんだった。そもそも5年生のお腹で双子が育ちきるのは無理があったのだ。
・生まれ落ちた赤ちゃんの姿は、少女にとって直感があった。先生だ、先生の赤ちゃんだ。あの頼りない小さなおちんちんが、情けなく漏らした射精で、ちゃんと私のおなかには先生の赤ちゃんが着床していた。
・本当は先生の赤ちゃんじゃなくて、あの変態おじさんのあかちゃんだと認めるのが怖くて。ずっと不安だった。感動の対面に涙がこぼれる少女。
・しかし。第一子の守山からほとんど間を置かず、激しい陣痛と胎動が少女を襲う。感動と興奮にわめいてたクラスの男子たちが一斉に顔色を変えて目を剥いた。
・先ほどとは比べものにならない強い破水。二度目の破水。
・そのまま、ほとんど間を置かずに双子のもう一人、第二子の出産が始まってしまったのだ。
・委員長は改めてここで少女が双子を妊娠していたことを公開する。エコー写真にはっきりと映っている、双子の胎児。一目でわかるほどに、双子の片方が小さく、もう片方が大きい。
・双子を妊娠しているという事実に沸き立つ男子たち。もう一回クラスメイトの出産が見れると大興奮する。
・そして、変態おじさんのパワーを見せつけるかのように、大きく育った赤ちゃんが後から産まれてくる。双子の第一子の出産はまるでただの「練習」だったとでも言うように。
・いまだ少女のへその緒がおなかの中に繋がっており、第一子の胎盤が残ったままだというのに。
・少女は再び初産の苦しみに喘ぎ、懸命にいきむ。先生の赤ちゃんとはまるで違う、素直に産まれてきてくれない、わがままでわんぱくな生命力の塊。
・少女のおなかに最初に着床した一番乗りはあの変態おじさんで、おなかの奥深く、大事な場所を明け渡してしまったのもおじさん。先生の赤ちゃんはなんとか頑張って孕もうとした「おまけ」で、身も心も最初から最後まで「おじさん」のものだった。
・必死に息むこと数十回。大きな頭を娩出させ、胎児は身体をねじりながら肩をはみ出させ、どうにか右手、左手が順番に外に出てくる。さながら、元気よく育ちすぎてそのまま外に飛び出してきたかのように。
・飛び出した双子の第一子の出産はまるでただの「練習」だったとでも言うように。
・両手をぶらんと逆さまにバンザイするように、少女の大きく開かれた足から胎児がぶらさがる。絶望とともに息む少女の産道から、せり上がるように赤ちゃんが押し出され、同時まだ胎内に残っていた羊水がどばっと吐き出された。
・裏返った子宮口から、二本のへその緒を覗かせ。
・ぜいぜいと肩をあえがせ、びっしょりと汗でずぶ濡れになりながら。
・少女はこうして、クラスの皆の前で、双子の赤ちゃんを産み落とし――はじめてのママになる一部始終のすべてをみせつけることになった。

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シロフミ 2020/08/06 22:51

犬のお世話・その5

「……ね、シロー、わかる?」
 ソファーの上、シローをぎゅっと抱きしめながら、マキはシローの耳にだけ届くように、そっと囁きます。
「わんっ。わふっ」
 笑顔のマキにこたえるように、シローも嬉しそうに目を細め、ぐりぐりとマキのおなかに顔を押し付けてきました。
「わう?」
「えへへ。そうだよ?」
 くす、と笑顔を浮かべ、マキは答えます。
 シローにもちゃあんと伝わっているようでした。心の中にほわっとした温かさを覚え、マキはもう一度、シローの顔を抱き締めます。
「わぉん!」
 そんなマキを思いやるように、シローは舌をぺろんと伸ばし、そのおなかをぺろぺろと舐めてきました。
「ひゃう……っ!?」
 いきなり敏感なところを舐められて、くすぐったさに息を詰め、マキは笑い出しそうになってしまったのをぐっと唇を結んで声を堪えます。
「もぉ、シロー、びっくりするじゃないっ」
「わう?」
「わう、じゃないわよっ」
 ちょっと唇を尖らせて、マキはシローのあたまにぎゅっと手を載せました。リビングのソファーの上でじゃれあう二人を見て、パパたちは『本当に仲がいいねぇ、ふたりは』と笑っています。
 一か月ぶりにシローと逢えて、確かにマキも大喜びでした。でも、それだけではありません。
「もぉ。……みんなにはナイショなんだから。ね?」
 だから、マキはそっとシローの首に顔をうずめて、ひそひそ話をするように小さくつぶやきました。
 世界の誰にもないしょの、マキと、シローふたりだけのひみつを。
「……シローの赤ちゃんね、あたしのおなかにいるの♪ ……ちゃんと元気に育ってるよ。だから、あたしね、もうすぐママになるの」
 シローとのお別れが決まってから、マキはなんども、なんども、何度も何度も。シローと、いっぱい、いっぱい愛し合いました。
 シローは、一生懸命腰を振って、硬く大きく膨らんだおちんちんで、マキの小さなおなかの中に、なんどもなんども、何度も何度も溢れんばかりに、熱くて濃くてどろどろの、赤ちゃんのもとを注ぎ込んでくれました。
 マキも、なんどもなんども、気絶しそうになりながら、いっぱいいっぱい、シローをキモチ良くしてあげました。
 ですから、あれからもう一度も、マキの『お月さま』はやって来てはいません。
 マキの小さなタマゴと結びついた、シローのありったけの愛の証が、今も、マキのおなかの中で小さな鼓動となって、力強くとく、とく、と響いているのです。
「……シローも、もうすぐパパになるんだよ?」
 そう言うマキの笑顔は、シローと無邪気にじゃれあうときの少女のものでも、最愛のパートナーと精一杯身体を重ね合うときの『女の子』のものでもありませんでした。
 おなかに宿した小さな生命を守り、育てる――そんな決意を秘めた、穏やかで優しい笑顔でした。
「わんっ!!」
「あは。そうだねっ。……あたしも、シローも、いっぱいいっぱい、がんばったもんね……」
 思わず、マキは涙ぐんでしまいます。
 大好きなシローを、これからもずっとずっと、大好きでい続けることの証。そう誓ってキスを交わし合ったマキのおなかですくすくと育っているのは、まさにその愛の結晶なのですから。
「うん。あたし、がんばって、元気な赤ちゃん、産むからね……」
「わう!!」
 それが、マキがシローにずっとずっと伝えたかった言葉でした。
 新年になってマキが引っ越した先の新しいお家は、おじいちゃんの家とは随分離れていて、これまでみたいにお父さんもお母さんも、気軽に行ったり来たりできる場所ではありません。ですから、おじいちゃんの家に引き取られたシローとマキが会えるのも、これが初めてなのです。
 マキにはいっぱいいっぱい、シローに話したいことがありました。きっとそれはシローも同じのようでした。
「わう……わお、わんっ!!」
 力強く、シローが吼えます。甘えん坊でわんぱくだったシローも、しばらく見ないうちに頼もしいくらいに勇ましくなっていて、小さなママになろうとしているマキを体じゅうで励ましてくれます。
 それがマキにはとても、とても嬉しかったのでした。
「シロー……だいすきっ」
「わぉん!!」
 ぎゅうっと抱きしめあう小さなふたりを見ていたマキのパパやママたちは、本当にあの子達は仲が良いわねえ、と笑い合いました。
 まるできょうだいみたいよ、と言うマキのお母さん。小さな頃からいっしょだからなぁ、というマキのお父さん。目を細めるおじいちゃんとおばあちゃん。
 ……でも、そんなのはみんな的外れもいいところです。
 こんなにもお互いのことが大好きなふたりが、きょうだいなんかであるはずがありません。いまも、マキのおなかの中では、ふたりの愛の結晶が、すくすくと育っているのですから。
 シローは嬉しさに、尻尾を千切れそうなくらいにぶんぶんと振り回して、マキにぎゅうぎゅうと圧し掛かります。じゃれ付いているのだと分かってはいても、自分よりもずっと大きなシローに飛びつかれてはマキもたまりません。
「わおんっ!!」
「ちょっと、こらぁ、シローってばっ」
「ぁおんっ。わおん。わふ、ぐるるぅ!!」
 最近、だいぶ暖かくなってきて、ちょっと暑苦しそうなシローの冬毛は、それでもマキの大好きなもこもこ毛皮です。シローの匂いをいっぱいに吸い込んで、枯れ草の中に沈みこむような気分に、マキはそっと目を閉じます。
「もぉ……そんなに乱暴にしたら、赤ちゃんびっくりしちゃうよぉ……」
 そう言うと、まるでそれに答えるように、マキのおなかの中でもぴくりっと小さな動きがありました。
 白く小さなマキのおなかの中、パパとママの語らいに返事をするように、赤ちゃんがばたばたと動き出したのです。
「ぁんっ……」
 おなかの奥を、こつんと元気良く蹴飛ばされ、マキは思わず声を上げてしまいました。
 まだ服の上からではあまり目立ちませんが、お風呂に入ればマキのおなかはちいさくぽこんと膨らんでいます。わんぱくで悪戯好きなパパにそっくりの赤ちゃんは、マキのおなかの中で毎日のように暴れていました。
 それはたいてい、おなかがすいたという合図です。だからマキは、好き嫌いもせず、たくさんご飯を食べるようになりました。引っ越してから外で遊ぶことは減ったわりに、ご飯をおかわりばかりするようになったマキを、マキのパパとママはちょっとだけ不思議に思っていました。
「あは。シロー、赤ちゃんもね、パパに会えて嬉しいって言ってるよ?」
「わう?」
「わかるよ。あたし、ママだもん♪」
 どうしてと首を傾げるシローに、マキはちゃんと説明してあげます。
 おなかの中の赤ちゃんは、ヘソの緒というものでママと繋がっているのです。ですからそこを通じて、おなかの中にいる赤ちゃんとマキははっきりと心が通じ合うのでした。
 いまも、マキにはヘソの緒を通して、赤ちゃんの気持ちが伝わってきます。
「シロー、だいすき……」
「わぅ……」
 パパたちが見ていないのをちらりと確認すると、マキはそっとシローの口に、自分の唇を当てました。
 前のお家ではどんなときでも、ずうっと一緒だったシローに毎日会えないのはとても寂しくて、辛い事でした。
 でも、とマキは思います。いま、マキのおなかの中にはシローの赤ちゃんがいます。だから、自分は一人じゃない。どれだけ言葉にしても伝えきれない想いを伝えるために、マキはぎゅうっとシローを抱きしめます。
「シロー……っ」
 これからどんどんと、赤ちゃんは大きくなってゆくのでしょう。マキのおなかの奥、生命をはぐくむゆりかごの中で、生命の海に満ちた袋の中に包まれてすくすくと育つシローとマキの赤ちゃん。
 その光景を想像すると、胸がいっぱいになって、いとおしくなって、マキはそぉっと膨らんだおなかを撫でます。
「あは……♪」
 わぉん、というシローの吼え声にあわせて、こつんとおなかを蹴飛ばす赤ちゃん。
 その息の合い方がなんだかおかしくて、マキはくすっと笑いました。
 わんぱくなパパと、可愛らしいママは、もういちど優しくキスを繰り返します。そんな幸せなふたりに見守られながら、赤ちゃんはマキのおなかの中の、穏やかなゆりかごに揺られて、また元気に動くのでした。










 ……ここをお読みの皆さんは、想像妊娠、という言葉をしっていますか?
 女の子が、ほんとうは赤ちゃんができていないのに、いろいろな理由でそう思い込んでしまって、実際に身体が赤ちゃんができたときのような反応を示してしまうというものです。
 なかには本当に、おなかのなかで赤ちゃんが動くのを感じてしまったり、他のひとにもそう思わせてしまうことまであるそうです。

 これまで何度も繰り返したように、イヌと人との間で、赤ちゃんが産まれることはありません。たとえ受精が起きて、赤ちゃんの素と、おんなのこのタマゴが結びついたとしても、それが人間の女の子のおなかの中で育つことは決してないのです。
 ですから、このお話の中で、マキのおなかのなかに赤ちゃんがいることはなく、マキがシローの赤ちゃんを産んであげられることは、悲しいことですけれど、絶対にありえません。

 ですから――
 ここから先は、マキの夢。ぜんぶ、ぜんぶ夢。
 何が起きても、どうなっても、夢なのです。

 ……そういうことに、しておきましょう。










「はぁ、はぁっ、はぁっ……んッ…!!!」
 閉ざされたカーテンの隙間から、明るい春の陽射しが差し込んでいます。もうすぐお昼が近いというのに、薄暗い部屋の中には、途切れることなく、切羽詰った少女の吐息が響いています。
 厳重に閉じられた鍵は、誰にもこの場所を侵させないという決意の表れのようでした。
 もっとも――引越して以来、忙しくなってしまったマキのパパとママは、今日も朝早くから出掛けていて、一人お留守番のマキ以外は、誰も家にはいません。
「はぁ、はぁ、はぁっ……」
 もっとも、もうお昼前になろうというのにダイニングにはさめた朝ごはんが手を付けられないまま並び、当のマキはずっと自分の部屋の中に閉じこもっているのを知れば、さすがにマキのパパたちも顔色を変えることでしょう。
「はあっ……ふ、ふうっ、っふ、っ……」
 堅く閉じられた子供部屋の中には、サウナのような熱気が立ち込めています。
 まだ新しいベッドの上は、まるで洪水のようにぐっしょりと湿っていました。シーツどころかマットレスまでたっぷりと濡らすそれは、おもらしなどではなく、もっとぬるぬると熱い液体です。
 その上で、大きめのパジャマの上だけを羽織った格好で、マキは荒い息に肩を上下させていました。そのパジャマも、いまやおへその上まで大きく捲れ、マキの腰から下は丸裸でした。
 剥き出しの太腿はすっかり汗を浮かべ、白い肌を覗かせています。赤い顔はしっとりと汗ばみ、マキの目元にはうっすらと涙さえ滲んでいます。
 小さな手のひらがシーツを掴み、ぎゅうっと引っ張るたび、汗に湿ったシーツが引き絞られて波打ちます。
「ふうっ、ふぅー、っ、っはあっ……」
 苦しい呼吸を繰り返し、なんとか息を整えようとするマキですが、それもままならないほどに全身が疲れてきっていました。
 夜中から始まって、いままで。もう十時間以上も、マキはずっとずっと、一人で戦っていたのです。
「んぅっ……!!」
 ハダカの下半身の、脚の付け根からおヘソの上、マキのちいちゃな胸のすぐ下までが、ふっくらとまあるく膨らんでいます。しなやかな手足とはアンバランスなおなかの膨らみは、確かに人間の赤ちゃんに比べてしまえばさほど大きなものではありません。
 けれど、マキにとっては何もかもが初めての、一世一代の大仕事なのでした。
「ぁっ、んぅ……っ」
 桜も咲き、心地よい陽射しに溢れた穏やかなこの春の日に。
 すっかり大きく育ったマキとシローの赤ちゃんが、いよいよ産まれようとしていたのでした。



「っは、ふぅっ、……うぁあ、あああぅ」
 マキの腰から下は、じんわりと、熱い熱いお風呂にずっと浸かっていたときのように火照っていました。
 おトイレに行きたい感覚を何十倍にもしたような、おヘソの裏側でちりちりと焦げるような感触が、ぼうっとしたマキの頭の芯を炙っているようです。この感覚はもう一日近くも、引いては押し寄せ、押し寄せては引き戻し、絶え間なくマキの身体を包んでいました。
 同時に、じくん、じくんと波のようにおなかの奥が疼く、赤ちゃんが産まれようとしている合図は、マキにもしっかりと届いていました。
 およそ4ヶ月近くの間、その内側に小さな生命を大切に大切に抱いていた神秘の揺り篭が、とうとうその役割を終えようとしているのでした。
「んぅっ、っは、っく……はぁ、はあっ、はぁっ」
 ぞくん、ぞくん、と背筋を貫くような衝撃に、マキの小さな身体がびく、と硬直します。
 今度の『波』はなかなか引いてくれません。始まってからいったい何十分、いえ、いったい何時間が経ったのでしょうか。永遠にすら感じられる長い長い時間、マキはベッドの上で、ママになるための試練にじっと耐え続けていました。

 ぞるっ。ぞるるっ。

 マキのおなかのなかで、すくすくと大きくなった赤ちゃんは、もう狭くなってしまった揺り篭に押し込められているのは嫌だと、むずがるように暴れています。
 妊娠から3ヶ月を過ぎたあたりから、やんちゃな赤ちゃんは毎日しきりに動いて、早く外に出たいと訴え続けていました。それがいよいよ本格的なものになったのは、一週間ほど前からです。
 これまで身体の外側へ膨らんでいた揺り籠が、徐々にその重さに引かれるように地面のほう――脚の付け根のほうへと降りはじめたのでした。それと時を同じくして、マキはおなかの奥に、ちりちりとした熱のようなものを感じるようになりました。
 それが、赤ちゃんが産まれる準備を始めていたのだと気づいたのは、昨日のことです。
「うーっ、っは、っ、あぁ……んぁ……っ」
 ぎゅっと目を閉じて、マキはじんじんと疼くおなかを、そっと撫でます。
 これまではぽよん、と膨らんで、ふっくらまあるく柔らかかったおなかの膨らみは、時間を経るにつれどんどんと緊張に硬くなり、ますますずっしりと重く腰の上にのしかかっていました。
 加えて、昨日の夕方から続いているこのちりちりとした感覚。次第に波のように強弱をあらわにしてきたこの感覚にあわせ、まあるく膨らんだおなかの中の揺り籠は、ゆっくりゆっくりと時間をかけて、その形を変えていました。
 これまでマキの身体の中に納まっていた赤ちゃんが、出口へと向けて身体の向きを変え、頭を下に、脚を上にして、おなかの下の方へと降り始めているのでした。
 そして今も、ぞぞっ、ぞぞっ、と得体の知れない感覚が、マキの腰骨の奥を這い回っていました。シローと深く深く繋がり合ったときにも感じたことのなかった、身体の中心で、マキは確かにその脈動を感じ取ります。
 けれど、肝心のマキのほうはと言えば、まだ全然準備ができていません。

 ぞるっ、ぞるぅぅっ。びくっ。

「うぅっ……だめえ、勝手に動いちゃだめだよぉ……っ」
 はーっ、はーっ、と息を繰り返し、マキはおヘソの裏をごりごりと擦る赤ちゃんにおとなしくするように言い聞かせます。
 おなかの中の赤ちゃんをどうやって産めばいいのか。お家にあったむつしい百科辞典と、病気の治し方を書いた古い家庭の医学という本。それに、学校の図書館で保険の教科書をたっぷりと読んでべんきょうしたマキは、ママになるために知識をいっしょうけんめい思い出します。
(っ……まだ、まだ、だめ……っ)
 押しては引く焦げたようなおなかの中の疼きは、陣痛というそうでした。もともとは細い針がほんの少し通るほどしかない、小さな小さな揺り篭の出口を、大きな赤ちゃんが無事に通り抜けられるように、ほぐれて柔らかくなるまで、これは続くのです。
 それから、赤ちゃんを包んでいる膜が破れて、おなかの中の羊水という液が出てきます。そうなったら、いよいよ赤ちゃんを産むためにママが頑張る番でした。
 けれど、もう何時間も何時間も続いているのに、まだ全然、その様子がないのです。
(赤ちゃん。赤ちゃん、早く出てきてよぉ……っ)
 焦る心と共に、はやく赤ちゃんを産んでしまいたいと思う気持ちが合わさって、マキは大きく開いた脚の付け根に力を籠め、おもいきりいきんでしまいました。
「んっ、んんぅ……っ、はっっ……」
 ぐっとシーツを噛み締め、マキが息を詰めるたび、脚の付け根の大切なところがぱくぱくと口を開け、その奥にたわになったやわらかなひだひだをうごめかせます。
 けれど、いくらそうしてもマキのあそこは、くぱくぱっと蠢くばかりで、いっこうに赤ちゃんが産まれてくる様子はありません。
「んんぅ、ぅっ、んんんゅぅうーーーっ……!!」
 ぎゅっと捲り上げたパジャマの裾を掴む指が白くなるまで、強く強く力を篭めて、マキはおなかに力を込めます。
 けれど、あんなに動いて、外に出たがっている赤ちゃんは、なぜかおなかの中にとどまったまま、外に出てくる気配はありません。
「っは、はあ、はあっ、はあっ」
 ついに諦めて力をほどいたマキは荒くなった息を少しでも抑えようと、深呼吸を繰り返そうとしました。
「ふぁぅ……っ……ぁああああっ!?」
 けれど、今度はさっきまで静かにしていた赤ちゃんが勝手に動き出します。あそこからはくちゅ、くちゅと泡だった粘液がこぼれ、幼いつくりのあそこはきゅうっと伸び縮みを繰り返すのです。
 パパにそっくりの、やんちゃでわんぱくな赤ちゃんは、そんな小さなママの注意も聞かず、お外に行きたいと暴れます。パジャマの下でマキのおなかはゆっくりとカタチを変え、暴れる赤ちゃんの様子をはっきりと伝えるのでした。
「もぉ、い、いまはおとなしくしててってばぁ……っ」
 おなかの中の子宮がぽこんぽこんと蹴飛ばされ、小さなでずるずると、敏感な揺り篭の中を這い回られて、もうマキはすっかりくたくたでした。
 ぐったりと鉛のように重い手足を引きずって、マキはまた押し寄せてくる熱いうねりに唇を噛みます。
(っ……、)
 赤ちゃんが生まれるには、ママと赤ちゃんが力をあわせて一緒に頑張る必要がありました。でも、はじめて赤ちゃんを産むマキには、そのためにどうすればいいのかがなにも分からないのです。
 マキは赤ちゃんを産むため、いっしょうけんめいいきもうとするのですが、一方で赤ちゃんが産まれてこようとして身体の向きを変えるので、その刺激に腰が崩れてうまく力を入れられないのです。
「んっ、んんんぅーーーっ!!」
 どうしていいのかわからずに、マキはなんども、なんども、赤ちゃんが出てこれるようにいきむのを繰り返しました。
 けれどやっぱり結果は同じ。
 ママと赤ちゃんのすることがちぐはぐにかみ合わないままでは、はじめての出産という大仕事は、とても終わるはずがないのです。
 赤ちゃんの動きが本格的になったのは昨日の夜になってからですが、もう一日近くも延々とそれが続いているせいで、マキの腰から下はふにゃふにゃに蕩けてしまっていました。
「――……っ、」
 かすれた喉が、小さく吐息を繰り返します。
「……、シロー…………っ」
 いま、一番傍にいて欲しい相手の姿は、マキの隣にはありませんでした。
 ママになろうと必死に頑張るマキの、おなかの中の赤ちゃんのお父さん。そして、マキが世界で一番だいすきな、だんなさま。
 けれど、シローはずっとずっと遠くの、おじいちゃんの家に引き取られたままなのです。どんなにマキが願っても、ここに来てくれることはないのです。
 終わる気配を見せない初めての出産という大仕事。胸の中にわだかまる不安を掻き消すように、マキはベッドの隣にちょこんと座る、大きなぬいぐるみを見上げます。
 丸いボタンの両目をした、どこか愉快な表情をしたぬいぐるみは、真っ白な毛皮のイヌのぬいぐるみ。
 名前も『シロー』と言いました。お引越しをして、ずうっと一緒だったシローと離れ離れになったマキが、寂しくないようにと、パパが買ってきてくれたぬいぐるみでした。
(あたし、頑張る、からねっ……)
 その『シロー』の前脚にぎゅっと手を重ね、もうかたっぽのシーツを握る手に力を込めて、マキはぐっとおなかに力を入れていきみます。
「んぅっ……ふぅ、んんーーっ……っ!!」
 くちゅりと蜜をこぼしたあそこがぱっくりと開いて、マキのおなかの内側の色を覗かせます。とろとろとこぼれる蜜は白っぽく濁り、マキのお尻の下をぬかるみの大洪水にしていました。
 シローといっぱいいっぱいえっちをする時にだって、こうはなりません。きつく狭く、曲がりくねったマキのあそこが、大切な相手を受け入れるのとは別の、もうひとつの大事な役割を果たそうとしているのです。
 長い長い時間を掛けて、本当なら指一本入るのだってやっとのマキのあそこは、柔らかく伸び、カタチを変えて、おなかの中の赤ちゃんのための出口をつくっている最中でした。
「……っ、っは、はあっ、んうっ……はぁ、はぁーっ……」
(あ、あたしが、ちゃんと、頑張って、あげなきゃ……いけないんだから……っ、や、約束、シローと、約束したんだから……っ)
 目を閉じ、顔を真っ赤にしていきむたび、マキのそこはぷちゅぷちゅと蜜を吹き上げます。それをじっと見下ろす『シロー』のつぶらな瞳を見上げ、マキはぐっと奥歯を噛み締めます。
 きっとこの声が、シローのもとに届くように。その瞬間が、シローによぉく見えるように。マキはおおきく膨らんだおなかをそっと撫で、パジャマの上着を捲り上げます。
 めいっぱい広げられた両足の間で、マキの大切なところはすっかり薄赤く充血して、綺麗なお花のように、ほころんだひだひだを重なり合わせながら覗かせています。
 その奥の奥、ねとりとした粘液を溢れさせるその奥で、赤ちゃんをそっと包み、たぷたぷとぬめる液を満たしている膜が、じょじょに引き伸ばされ始めていました。
「ぁあっ、くぅぅっ……」
 そうです。赤ちゃんだって、産まれたくないわけがないのです。
 何日か前にはもう少し高い位置にあったおなかの膨らみは、腰骨の上から滑り落ちるように、脚の付け根――おなかの下の方へと、ゆっくりゆっくり下降を始めています。赤ちゃんがマキのおなかの中の揺り篭から、その出口へと進んでいるのです。
 すこしずつ、すこしずつ、赤ちゃんは産まれようとしています。
 でも、それはあまりにゆっくりで、もどかしすぎて、マキには永遠にそのときが来ないんじゃないかと思えるほどでした。だからマキはたまらずに、まだ準備が終わっていないのに、いきんでしまうのです。
「ふぅ、んぅぁぅぅあ……っ」
 おなかのなかでひっきりなしに動き回る赤ちゃんも、一生懸命いきみ続けるマキも、新しい生命を少しでも早く産み落とそうと懸命です。
 けれど、まだほんの小さなマキの身体も、初めて産まれてくる赤ちゃんも、分からないことだらけでそれをうまく伝え合えず、かみ合わずにいるのでした。
「……シローっ……」
 マキはたまらずに、すぐ傍でじっと手を繋いでくれている『シロー』を引き寄せ、ぎゅうっときつく抱きしめます。
「シロー、見てて……っ、あたし、頑張って、いっぱい頑張って、元気な赤ちゃん、産むからねっ、ちゃんと、ママに、なるんだからねっ……!!」
 小さな身体を軋ませる、うねる波のような衝撃の隙間、荒くなった息を辛うじて繋ぎながら、マキは『シロー』の身体に腕を回し、健気に語りかけます。
 ぬいぐるみの『シロー』も、どこか野原に似た優しい匂いをさせて、押し付けたマキの顔をそっと包み込みます。
 そうすることで、マキはまるで本物のシローに励まされているような気がしました。マキはそうやって、くじけそうになる心を、そうやっていっしょうけんめい奮い立たせるのでした。
「あたしと、シローの、赤ちゃんなんだから、……っ!!」
 ふたりが、何度も何度も、愛し合ったその証。大好きなシローの赤ちゃん。そう思うたび、どこからか途方もない愛しさがこみ上げてきて、マキの小さな胸はもうはちきれてしまいそうでした。
 いったんは挫けそうになってしまった心の奥から、湧き上がる歓びと元気が、疲れきったマキの身体にまた活力を与えてくれるのです。
 そして実際に、わずかに膨らんだマキの胸のふくらみの先端からは、じわりと白いおっぱいが滲んでました。パジャマを内側から汚しているそれは、大切な赤ちゃんにあげるためのものです。
 そう、新しい生命をはぐくみ育てるための準備は、小さなママの内側で、ちゃあんと進んでいるのです。
「ふぁああ……ッ!?」
 びくん! とマキが背筋を仰け反らせます。抱きしめた『シロー』を抱える腕に強い力がこもりました。
 マキの膨らんだおなかがゆっくりと動き、脚の間からさらにその下へと、その場所を変えていきました。おなかの中で赤ちゃんを抱きとめていたゆりかごが、ぎゅうっとカタチを変えて、赤ちゃんを外に出す手助けをはじめたのです。
 それは、とうとうマキの身体の準備が終わり始めた証拠でした。
 マキのおなかの膨らんだ部分はゆっくりと脚の付け根に向かって進み、そこは内側から盛り上がるように、じょじょに膨らんでいきました。
 おなかの中の小さな生命は、幼いママの息遣いに合わせて、いっしょうけんめい脚の付け根にある、小さな小さなゆりかごの出口へ進もうとしているのです。
 マキのおヘソの裏の、ちりちりという感覚が強くなります。三十秒に一回だった波が、二十秒に一回になり、炙るようなとろ火から、焦げるほどの強火へと。
「あ、あっ、あ、あっ、あ、あっ」
 マキは仰け反るようにして、その瞬間を感じ取っていました。おなかの中に焼けた鉄を飲み込まされたように、その熱はどんどん大きくなっていきます。
 そして、
「ふわぁぁああああっ!!!?」
 よりいっそう高く大きな声が、マキの喉を貫きます。これまでのいきみで感じたものとはまったくべつの、強い洪水のような力強いうねりが、マキの腰を、またたくまに塗りつぶしてゆきます。
 まるで杭か何かに貫かれたみたいに、深く、激しく。マキの頭のてっぺんまでを、衝撃が走り抜けてゆくのです。
 ひときわ大きく、おなかの膨らみが蠢き、マキの脚の付け根、ちょうどおまたの合わせ目の部分が、なにかに押し上げられるようにぐうっとせり上がってゆきます。
「あ、ぁ、ああ、ぁああっ!?」
(っ、あ、き、きたっ、赤ちゃん、あかちゃん、きてるっ……!?)
 大きな大きな熱い塊が。ずんっ、とマキの腰を貫きます。
 くちゅ、と広がったまきのあそこの奥。細い出口の中に引き伸ばされ、引っ張られ、とうとう耐え切れなくなった赤ちゃんを包む膜が、ぱちんと弾けました。

 ばちゃぁっ、びゅ、びゅるるっ!!

 堰を切ったように迸る、大量のぬめる粘液。ひっくり返ったように開かれたマキのあそこからどばっと液が溢れてゆきます。
 ぬかるんだベッドの上にあふれた生命の洪水は、ばちゃりと音を立てるほどの、愛のスープの海をつくりあげました。
「っぅうぁあああああっ、っんゅぅ、ぁあぅぅぅぅ!!!」
 破水です。
 はじけた羊膜の中から、赤ちゃんを包んでいた袋が破れ、赤ちゃんを大事に大事に守っていた卵胞の粘液が流れ出したのです。
 いよいよ、マキの出産が最後の段階に入ったことを示すものでした。
「ぁ、あっ、あ。あぁ、あぁっ」
 凄まじい圧迫力と共に、マキの腰がきしみます。脚をバタつかせ、下半身をのたうたせ、マキは懸命に叫びました。
 からだが内側から引き裂かれてしまいそうです。大人の女のひとですら、赤ちゃんの通り道はぎりぎり大きさなのですから、ましてまだ小さなマキのそこは、赤ちゃんが無事通り抜けるのには狭すぎるほどでした。
 本当なら、骨が軋んで肉が裂けて、とてもマキの身体には耐えられないだろう、大きな負担です。
 けれど。マキは苦しみや痛み、そんなものをいっさい感じてはいませんでした。
「っふ、ぁぅぁああああ!? ぅ、あ、あ、ぁぁあっ!!?」
(っ、う、産まれる、産まれぅ、赤ちゃん、産まれるよおっ……♪)
 ぼんやりとした意識の向こうで、マキの女の子の心が、はじめての『ママ』になる悦びにうち震えています。
 大好きなひとと愛を交わし、生命を繋ぎ、新しい命をはぐくみ産み落とす――それは、どんな女の子にも備わった、いちばん大切な想いなのです。そんな愛でいっぱいのマキには、痛みなんて届くわけがありません。
 ぬいぐるみの『シロー』の見ている前で、破水と共にマキのおなかの中の赤ちゃんの動きはますます激しいものになっていきました。
 元気いっぱいの赤ちゃんは小さな身体を精一杯踏ん張って、おなかの中を進んでゆきます。
 ときおり、ぎくんと緊張して、マキの下半身が強張ります。大きく内側から盛り上がって押し上げられた脚の付け根の部分からはじゅるじゅると、半透明の粘液が溢れ、滲んだ血がかすかにピンク色をした雫をシーツの上に飛び散らせます。
 その間から、ゆっくりと――赤ちゃんのいるゆりかごの出口が見えてきます。
 そのゆりかごの出口、くぱり、と開いたやわらかいひだひだの奥から、細くて狭いマキの孔の中を押し広げ、破れたぬるぬるの膜に包まれて、熱く大きな塊がぐうっとせりだしてきました。
 ちりちりとおヘソの裏側を擦るようにして、ぐりぐりと身体をねじり、確かに息づく生命が、ゆっくりとマキのおなかの奥から外に出て行こうとしています。
「ぁああああっ、あくぅっ!!」
 だいすきなシローのおちんちんを精一杯受け止めて、言葉にできないほどの快感をもたらし、余すところなくあかちゃんの素のを絞り取るための、えっちでいやらしい『おんなのこ』の器官は、いまやもう一つの大切な役割である、尊くて神聖な、生命誕生のためにその全力を注いでいました。
「ぁああうぅぁあっっ!!!?」
 またマキが声を上げると、丸い爪の生えた毛むくじゃらの前脚が、ぢゅぷり、と音を立ててマキの柔らかな孔から飛び出します。
 小さな小さな前脚は、びく、びくともがくように暴れ、マキのおなかの中からがら這い出そうとします。
「ふぅっっ、はあっ、んううぅぅぅっ……!! んくぅっ……」
 ぜいぜいと息を荒げ、『シロー』の首筋に歯を立て、噛み付きながら、マキはけんめいに赤ちゃんを産み落とすために下腹部に力を込め、ありったけのちからでいきみます。
 おなかの中の赤ちゃんも、狭い出口をくぐりぬけようと、必死になってもがいていました。マキのおなかの内側を激しく蹴り上げ、子宮の中にぐうっと脚を踏ん張ります。小さな小さな身体をせいいっぱいのたうたせて、細く柔らかなひだひだが重なり合う道を通り抜け、ママのおなかの外へと這い出そうとしているのでした。
「ぅあ、ぐ、ぅ、あああぅ、あ、あああっ!!」
 けれど何もかもはじめてのことばかり。初心者ママのマキはしゃにむにおなかに力を入れ、首を振りたてて呻きます。本当なら痛いとか苦しいとか、そんな気持ちのはずなのに、赤ちゃんの産みかたを勉強して読んだ本にはそう書いてあったのに、マキの頬にはなぜだか、後から後から涙が溢れて、ぼんやりと視界が歪んでゆくのでした。
 新しい生命が誕生するということは、とても素敵で、すばらしいものなのだということを、マキは知りました。
 おなかの中の赤ちゃんも、マキと一緒に、ひたすらに、懸命に頑張っているのです。その様子が、とくんとくんと高まる赤ちゃんの鼓動とともに伝わってきて、マキを励まします。
 なによりも愛しく大切に思うパートナーの赤ちゃんを、誰よりも好きなひとの生命を受け止めて、それを次の世代に繋いでゆく。
 それは、女の子として、生涯最大の歓びなのです。
「ぁああうぅ、くぅあ、ふわぁああああああああぅう!!!!」
 いちど、おなかの外に姿を見せてから、いったん奥に引っ込んで、また外へ。それを繰り返しながら、少しずつ、すこしずつ。赤ちゃんの顔が外に出てきます。それを見る余裕もないまま、マキはなんどもなんどもシローの名前を、赤ちゃんのことを呼びました。
(ぁ、赤ちゃん産んでるっ……あたし、シローの赤ちゃんっ……!! シローの赤ちゃんの、ママになるんだよ……っ!! シローっ、しろぉ、見て、見ててぇ……っ!!)
 しなやかな身体を弓のように仰け反らせて、マキはきつくきつく抱きしめたふかふかの『シロー』の毛皮に顔を埋め、息を止めておなかに力を入れます。

 ぶちゅっ、くちゅっ、ぢゅぶっ。

 全身を使ってのはげしいいきみにあわせて、ゆりかごがぎゅうっと押し潰され、狭く細い、子宮の出口が思い切りこじ開けられます。
 まるで、身体をまっすぐに貫くほどの、圧倒的な衝撃でした。
 マキの身体を端から端まで突き抜ける、灼熱の鼓動。あそこのすぐ真上のまで達していた下腹部の膨らみが、ゆっくりと、マキの大きく広げられた脚の付け根の、さらに先端のほうへと動いてゆきます。
「か、あぁ、は……っ!?」
 頭が真っ白に塗りつぶされて、息が止まります。全速回転で跳ね続ける心臓まで、一緒に止まってしまったかのようでした。
 音も聞こえず、何も見えない真っ白な世界の中で、マキは一心に念じていました。

(こわがらなくていいよ。……うまれて、きて……っ。
 ママが、ちゃんと、うんであげるから…っ)

 まるで、溶岩の塊が、おなかの奥からせり上がってくるかのよう。
 長い長い時間を掛けて少しずつ柔らかくなったマキのあそこは、ひっくり返るように大きくめくれ上がり、反り返ってゆきます。
 同時にぐちゅり、と大量の粘液がベッドの上に溢れました。
 たったいままでマキのおなかの中にあった生命のスープが、ぱちゃりと広がるその上で、マキの可愛らしいおしりの孔はいきみに従ってきゅうっとすぼまり、そのすぐ上では生きよう、産まれようともがく小さな生命が、さかんに小さな前脚をばたつかせています。
 ぱくりと反り返って拡がった、あそこの出口。そのさらに奥に覗いたまぁるい子宮口を押し広げ、びくびくと裏返らせながら、粘液にぬめる毛むくじゃらの身体が、ぞりゅるるるっと滑り出してきます。
 妊娠4ヶ月という期間を経て、マキのおなかの中で大きく育った赤ちゃんの身体は、こんどこそ奥に引っ込むことはなく、マキの内腿の付け根の間から、しっかりと顔を覗かせました。
「ふ、……ぁ……は……っ!!!」
 まるで身体の中身の、内臓そのものがごぼっと形を保ったままで外に引きずられてゆくような感触でした。
 とほうもなく熱くて大きな塊が、おんなのこの中心を引き裂いていくかのようです。
 それは同時に、4ヶ月にも渡っておなかの中で共に時間を過ごしてきた赤ちゃんが、とうとうママの身体と離れて、ひとつの生命として生きることを決断する瞬間でもありました。
 どれだけ言葉を尽くしても語りきれようはずもない、溢れんばかりの歓びは、マキの全身を穏やかに、激しく、とめどなく包み込んでゆきます。
「あ、あ……っ♪、あ、あぅ……」
 ぞるっ、ずるっ、ずるるぅっ、と。
 粘液にまみれた肩を引き出すように、赤ちゃんがもがきます。もう、赤ちゃんを遮るものはありません。元気な赤ちゃんは、力強くも何度もぴくぴくと動きながら、マキのおなかの中から這い出してゆきました。
 熱く小さな塊がぢゅぽんっ、と身体の奥から引き抜かれたかと思うと、ばちゃり、後に残った後ろ足を羊水の水溜りに投げ出して、毛皮に包まれた仔犬が、マキの大きく広げた脚の間に産まれ落ちました。
「ぁは………♪」
 まだ、とてもちいちゃな赤ちゃん。たった今までおなかの中にいたとは思えないほど、元気いっぱいに暴れる新しい生命が、ばちゃばちゃと四肢を振り回します。
 まだ目も開いていない、幼く小さな生命。けれど、そんな小さな身体で、いっしょうけんめい狭く苦しい出口を潜り抜けて、赤ちゃんはこの外の世界に産まれてきてくれたのです。
「あ、は……っ」
 大きな大きな世界に生れ落ちた赤ちゃんは、全身でその悦びを訴えていました。
「っ、……っ!!」
 なにもかもがはじめての歓びに、マキはどうしようもないほどの感動を覚えていました。知らずに肩が、背中が打ち震えました。
 それを言葉にするすべをもたない、小さな少女は、ママになることができた嬉しさに、ただただぽろぽろと涙をこぼし、泣き続けるばかりです。
 とうとうマキは、本当の意味での『ママ』になったのです。
 それは、シローの赤ちゃんを産んで、本当の意味で、大好きな大好きなシローのお嫁さんになったことも意味していました。

 ――だってほら! 見てください!!

 産まれたばかりの赤ちゃんは、シローの小さかった頃に瓜二つ。まだ全身がぬるぬるに包まれていましたが、ふかふかの毛皮とつぶらな瞳を持つ、愛くるしい仔犬です。
 けれど、その毛皮の色は、マキの髪にそっくりな、つやつやした深い深い黒でした。
「あは……」
 羊水代わりの粘液の上で、いっしょうけんめい脚を踏ん張らせて、立ち上がろうともがく仔犬の赤ちゃん。その小さなおなかからは、細くねじくれたヘソの緒が伸び、いまもまだマキのおなかの奥にしっかりと繋がっていました。
 この赤ちゃんがマキと確かに血を繋げ、血肉を分け合ったことはもはや疑いようもない事実です。
 愛し合うふたりの血を、遺伝子を、間違いなく受け継いだ二人の赤ちゃんが、広げられたマキの脚の間で力強く身体を振り立てます。まるで泳ぐように、けれど少しずつ大きく。丸めていたみじかな脚で、ぬめる粘液のなかを暴れ回ります。
 その一挙一動が、マキのこころに歓びを湧き上がらせてくれました。
「あはっ……♪ ぅ、産まれたぁ…っ…!! シローと、あたしのっ、赤ちゃん、……産まれたよぉっ……!!」
 あとからあとから溢れ出す涙をぬぐうこともせず、マキはそう叫んでいました。シローとのお別れでも、こんなに泣いたことはありません。なにより、寂しさや悲しさの涙ではないのです。
 嬉しくて、嬉しくて、嬉しすぎて、泣いてしまうのです。
「ほらっ、見て? 赤ちゃん、シローにそっくりだよっ……♪」
 傍らのぬいぐるみ、『シロー』を通じて、ここにはいないパパに呼びかけるように、マキはそう語りかけます。
 マキには伝わってくるのです。産まれたばかりの赤ちゃんと、まだ繋がったヘソの緒を伝わって、言葉にできないほどの歓びが。

『ママ、ありがとう。産んでくれてありがとう』

 生命の誕生にともなう、人生最高の歓び。
 おんなのこの一生でもっとも大きな仕事を果たし、とうとうママになった幼いマキの胸を、深く深く満たしていました。
 大仕事を終えたばかりのけだるい身体で、マキは身体を起こし、赤ちゃんをそっと抱え上げました。
「がんばったねっ……がんばったね…っ」
 赤ちゃんの鼻先を覆っている羊膜を舐め取って、少しでも楽に息ができるように――両手や顔がぬるぬるになってしまうにも構わず、マキはそっと大切に、赤ちゃんを抱きしめます。
 赤ちゃんも大好きなママにほお擦りして、小さな鼻先をふんふんと鳴らして答えました。
 まだ声は出ないようですが――きっとパパと同じように、一生懸命元気にママに悦びを伝えようとしているのです。
「っ……」
 また、溢れそうになった涙に声が塞き止められます。
 マキは胸が一杯になって、なんどもなんども、手の中の小さな生命に頬をすり寄せ、そっとそっと、優しく撫でてあげるのでした。
 けれど――

「っ!?」

 それで、マキの大仕事がぜんぶ終わった訳ではなかったのです。
 びくん、とおなかの中で再度、熱く小さななにかが蠢く感覚に、マキは思わず声を途切れさせます。
 再び、体の奥でちりちりとした熱が燃え上がります。腰骨の奥にまで響いた激しい疼きに、背筋を仰け反らせたマキの――まだ、膨らんだままのおなかの下。
 たったいま新たな生命を産み落としたばかりの赤ちゃんの出口が、くちゅりと裏返り、そこから大量の粘液がごぽりと溢れ落ちてゆきます。
 それは、疑いようもない胎胞の破裂。
 ついさっき、マキがベッドの上で経験した、人間の正しい出産で言うならば破水にあたる現象です。
 つまり、二度目の破水――
「ふわぁあ……ぁは……♪」
 マキは、ようやくそのことに思い当たり、満面の笑顔を浮かべます。
 そうです。マキがその小さなおなかに宿していた生命は、一匹だけではなかったのです。
 初産、という大仕事を経て、ママになったばかりのマキには、いまや驚くくらい敏感になったおなかの中のゆりかごの中の様子がはっきりと感じ取れました。
 1、2、3、4……。まだまだたくさんの、兄弟たちが、次々とマキのまあるく膨らんだままのおなかの中で、次はボク達の番だよ、はやく産んでよ、と、『ママ』に口々にせがんでいるのです。
「そう、だよね……っ」
 イヌの赤ちゃんは、いちどにたくさん、たくさん産まれて来ます。
 なんどもなんども、焼けるほどに熱く、濃く、絶え間なく注ぎ込まれたシローの愛に、マキの幼い身体も一生懸命になって答えようとしていたのでした。
 重ねて分泌され、排卵されたたくさんのおんなのこのタマゴ。マキとそっくりに優しくて献身的なタマゴは、やんちゃで元気なシローの溢れんばかりの赤ちゃんのもとをありったけの優しさで受け止め、限りない愛情の塊となって少女のおなかを大きく膨らませていたのです。
「ぁああ……だめ……っ」
 ぶるぶると背中を震わせ、マキは忘我の中でつぶやきます。とてもではありませんが、こんなの、絶対に耐えられそうにないのです。
「死んじゃう……死んじゃう、よぉっ……シローっ……」
 心の底から、マキはそう思いました。
 大事な大事な、大切な、可愛い可愛い赤ちゃん。そのたった一人を産み落とすだけで、こんなにも胸がいっぱいになって、幸せで、満ち足りてしまうというのに。今日はこれから、あと何回これを繰り返せばいいというのでしょうか。
「あは……っ」
 本当に、本当に、本当の本当に。うれしくて、うれしくて、うれしすぎて死んでしまうかもしれない――そんなふうに感じることがあることを、マキははじめて知りました。
「シローっ……♪」
 マキはぎゅっと、『シロー』を握る手に力を篭めます。
 全身を包んでいた疲労も、いつしかどこかに吹き飛んでしまっていました。
「シローの赤ちゃん……あたしの赤ちゃん……みんな、元気に、産むから……ぅ、く、ぅあああっあああ!?」
 うわ言のようにつぶやいて、マキは新しくおなかの中で動き出した生命の誕生のため、ぐっと息を飲みます。
 マキの、ママとしての一番最初の大仕事は――まだまだ終わりそうにありません。


 (了)

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シロフミ 2020/08/05 22:38

旅する少女と異貌の民・その3

 ◆12◆

 これまでボク達の妊娠に構わず自分達の欲望を優先させ続けていた沙族達も、流石にメルが産気づいているのを知ると、メルを襲うのは諦めたらしかった。あるいは、この事態に至るまで、こいつらはボク達が自分達の子供を孕んでいることに気付いていなかったのかも知れなかった。
 考えてみれば、いくら人間のメスを攫う習性があるとはいえ、タマゴで産まれる沙族達が、人間のメスを犯した時にどうなるのかまで詳しく知っているとも限らない。孕んだ子供におなかを膨らませていようと、おっぱいを張り詰めさせてミルクを噴き出させていようと、赤ちゃんが動きまわるのに喘いでいようと、こいつらにはそもそもボク達の妊娠という身体の仕組みすら分かっていなかったのかもしれない。
 ともあれ、その日やつらはメルの異状を悟り、彼女を○すのは諦めた。
 その分、ボクはひとりで、いつもの倍の数の雄を相手にしなければならなかった。両脚を抱え上げられて揺さぶられたり、仰向けにされた上に思い切り圧し掛かられたり、赤ちゃんを宿した大きなおなかを揺すられるのはただでさえ辛いのに、次々順番を争って群がる沙族を全員満足させるのは、至難の業だった。
 彼らはメルを気遣うでもなく、といって無碍に扱うでもなく、ただ放っていた。
 もしかしたら自分達のメスとは違って、こういう形で赤ちゃんを産むボク達の様子に戸惑っていたのかもしれない。その証拠に、沙族達は産気づいて苦しむメルの傍には近づこうとせず、時折興味深くその様子を覗き込もうとするだけだったからだ。
 メルがどうなっているのか、唯一理解しているはずのボクは、ひときわ身体の大きい沙族に、足をつかまれて部屋の隅まで引きずられて、抱え上げられながら、メルが沙族の赤ちゃんを産み落とすその一部始終を、見せ付けられることになった。


 数十人の沙族を一人で相手にし、そいつらの精液をおなかの中に注ぎ込まれる羽目になったボクも決して楽だった訳ではないけれど、メルの比ではない。
 たった一人、洞窟に放り出されたメルは、何一つ経験のないまま、はじめてお母さんになるという大仕事を、自分の力だけで成し遂げなければならなくなったのだ。
 小さな身体に汗をびっしょりとかいて、悲鳴を上げながら、メルは必死に肩を上下させ荒い息を繰り返し、おなかを抱えて身体を震わせていた。断続的に押し寄せる陣痛に悲鳴を上げ、自分の意志とは無関係に収縮しようとする子宮がおなかの中を締め付ける苦しさに暴れる。大きく膨らんだメルのおなかは、時間の経過とともにどんどんと脚の付け根の方へ下りてゆき、その中にいる赤ちゃんが激しく暴れ動く。
「っつ、は、ぐぅ、うぅぁああうぅ~~ッッ……!!」
 舌を噛みそうになるのをこらえ、ぼろきれを握り締めて懸命に息継ぎをし、力をこめていきむメルにあわせて、メルの脚の付け根で、肉色の部分がびくびくと引きつり、内側に折り畳まれていた部分がせり出してくる。
「ぅぐ、っ、あ。ぁ、あぁあうぁあああああ!!!?」
 メルが呻きだして数時間が過ぎたころ。大きく左右に拡げられた足の間から、ばしゃりと大量の生ぬるい水が噴き出した。破水……たぶん、普通の赤ちゃんならそう呼ばれる状況。メルのおなかの中で、陣痛と共に腹圧が強まり、ついに粘液の中に赤ちゃんを包んでいた卵胞が破れたのだ。膜の内側を満たしていたぬるぬるの羊液が噴水みたいに溢れだして、メルのお尻の下に大きな水溜りを作る。
 5ヶ月ちかくの間、おなかの中の赤ちゃんを育み続けてきたゆりかごが、その機能を放棄したのだ。これでもう、メルの陣痛が奇跡的に収まって、赤ちゃんが暴れるのを止め、おとなしく子宮の中にとどまる可能性はなくなった。
 これ以上赤ちゃんはメルのおなかの中には居られない。まだ子供のはずのメルはここで、最後まで、赤ちゃんを産み落とし――出産を終えなければならなくなった。
 断続的に破水が続き、びちゃびちゃとぬめる羊粘液が苔のベッドを濡らす。これまで見た事もないくらい大きく、メルの女の子が引き伸ばされてゆく。どんなに大きな沙族のペニスに犯され、柔襞粘膜を裏返らせていた時よりも、大きく、激しく、奥の奥から。
 顔を仰け反らせ、白い喉を震わせて叫ぶメルのあそこが、ぐうっと大きく引き伸ばされ、生々しくひだひだの奥から、赤く充血した丸い部分が顔を見せた。降りてきた子宮が、その口を覗かせたのだ。
 あの中に、メルの赤ちゃんがいる。
「はぐぅうう……っ、あ、ぅ、ぅうぅううあううううっ……!!」
 陣痛に呻きながら、メルが低い声を上げて唸る。ありったけの力を込めて、おなかに力を入れていきむ。
 けれど、そうやってメルが何度も何度も、懸命にいきんでも。子宮の口はまだほとんど開いてはいなかった。赤ちゃんが通り抜けるどころか、指が一本通るかどうかも怪しいほど。
 メルの小さな身体には、赤ちゃんが大きすぎるのだ。激しい陣痛に喘いでなお、初産のメルの身体は、まだまるっきり、赤ちゃんを産むための準備を終えていない。
 十分に子宮の口が開かなければ、この状況でいくらいきんでも無駄だ。ただ、無駄に体力を減らしてしまうだけ。そのことが、初めての出産であるメルにはまだわからない。
「ッは、はーッ、はぁ……ッ」
 荒く息を繰り返し、ぎゅぅッとぼろ布を握りしめて、メルは可愛らしい喉が枯れるくらいに何度も叫ぶ。
「っ、で、出てきてよぉ……ッ、おねがい、はやく、早く出てきて……ッ!!」
 長い長い陣痛と、収まることのない胎動。ずる、ずるとお腹の中を動き回りながら、一向に顔をのぞかせることすらしないおなかの中の赤ちゃん。メルは懸命に痛みをこらえ、おなかの中に呼びかける。
「ねぇ……もう大丈夫だから、ちゃ、ちゃんと、産んであげるから……っ、おねがい、は、はやく、産まれてきて……ッ!!」
 赤ちゃんを産む、というのは、出産というのは、単純に母親だけの仕事じゃない。
 長い陣痛は、子宮を下降させて産道を緩ませ、大きな赤ちゃんが産まれてくるのを助けるものだし、いきむことで収縮を促し、赤ちゃんを押し出してやるのは、もちろん母親の仕事だけど。
 赤ちゃんのほうだって産まれる準備が整っていなければ、身体の外にまで出てくることはない。それどころか、赤ちゃんは無理矢理自分を産もうとする幼いママに抗うかのように、メルのおなかの中に留まろうとするように、メルのおなかの中にもがく様に手足を突っ張って抗おうとする。
 もうどうしようもないくらいに産気づいて、破水までしてしまったメルは、初産の困惑の中にありながらも、必死にママになろうと頑張り続ける。けれどそんなメルと、そのおなかの赤ちゃんは、滑稽なくらいにその意思が繋がっていなかった。
「ぅ、あ、やッ、……やだ、もうやだぁ、早く、出てきてよぉ……ッ!!」
 メルのおなかの膨らみは、数日前に比べてはっきり分かるくらい、身体の下のほうへと降りてきていた。
 これまではみぞおちからおヘソのあたりにかけて、緩やかに柔らかく盛り上がっていたのが、いまや脚の付け根、恥骨のすぐ上あたりまで膨らみが下降し、張り詰めたおなかははちきれんばかりに膨らんでいる。本当に、今にも裂けてしまいそうなほど。
 大きく育ちすぎた赤ちゃんは、もう、幼いママの小さな身体の中には納まっていられないのだ。けれど、そうやっていつ産まれてもおかしくない状況になっていながらも、赤ちゃんはなおも激しくメルのおなかの中をずる、ずる、と這い回り続けている。
「おねがい……っ、暴れないで、っ、お願いだからぁ!!」
 出産のために圧迫されて狭くなる子宮に文句をつけるように、メルのおなかの中で赤ちゃんはメルに抗い続けていた。その激しさと言ったら、はっきりメルのおなかが形を変えるのが分かるくらい。
 赤ちゃんが不機嫌に身体を動かし、メルのおなかを蹴とばすたび、まるく膨らんだメルの大きなおなかが、不格好に歪む。柔らかな子宮の壁をえぐられる衝撃に、メルはすでに息付く余裕すらない。
 陣痛と子宮の収縮で赤ちゃんを産み落とそうとする身体。まるっきり産まれる準備のできていない産道、産まれまいとする赤ちゃん。メルの身体がバラバラになってしまうのじゃないかと思うほど、激しく跳ね上がった。
「はぐ、ぅぅうううううううっ……」
 赤ちゃんが暴れまわるたび、メルは唇から泡をこぼして悲鳴を上げる。いったいどれほどの苦痛が、衝撃が、メルを襲っているんだろう。
 めりめりと骨を軋ませ、肉を裂く――このまま陣痛が続けば、いつそうなってもおかしくないかもしれない。想像するのも嫌になる恐怖が、ボクを怖気させる。
 それでもメルは諦めなかった。
 必死に、一生懸命に、おなかの中の赤ちゃんに呼び掛け、たったひとりで、ちゃんと赤ちゃんを産んであげるために――叫んでいた。命の危機すらありえる初めての、ママとしての大仕事から逃げ出すことなく、全身の力を振り絞り、歯を食いしばって、頑張るのをやめなかった。
「おねがい……私の、あかちゃんなんだから……おねだい、ママの、言うこと……聞いて……ちゃんど、産んで、あげるから……!!」
 メルはただただ、赤ちゃんを産み落とそうと必死に脚の間に力を込める。痛ましいくらいに充血し、とろとろと粘液を溢れさせたメルの大事なところが、くぱ、くぱっ、と押し広げられてはうごめく。
 徐々に。わずかずつ。
 ほんの少しずつ、少しずつ。じれったくなるほどの時間をかけて、メルの子宮の口が拡がってゆく。
 大きく開かれたメルの脚の間には、身体の内側、おなかの一番奥から、大きな塊がせり上がってきているのははっきりしていた。まる半日以上かけて、メルのそこは親指とひとさし指で輪を作ったくらいの大きさまで口を開けるようになっていた。
「はーッ、はぁー、っ、はぁーーっっ、っふ、ひ、っ、ふうっ……」
 けれどまだ、全然足りていない。
 メルのおなかの中の赤ちゃんが通り抜けるには、それくらいの隙間では、あまりにも小さかった。
 ただでさえ小柄なメルの、おまけに初産だ。それも仕方のないことかもしれない。確かに、女の子としてはあんなにも大きな沙族のペニスでも受け入れるようになっていたメルだけど、赤ちゃんを産むことと比べてしまえばまるで桁が違う。
 まして、メルの産もうとしている赤ちゃんは、普通とはまるで違う。
「んんぅ、っ、ぅぅぅぁあぁあ……ッッ」
 メルが涙を振り絞って脚を掴み、ぐうっと身体を弓のようにのけぞらせて懸命にいきむと、ぱくりと広がったぐうっとそこが反り返り、押し広げられた出口から、ぬるぬるとした羊膜につつまれた肉の塊が覗く。
 それは、明らかに人の肌の色をしていなかった。
「はやく……はやく、でてきてよぉ……!!」
 かすれた声で、メルは、懇願するように叫び続けた。





 ◆13◆

 けれど――それでも、現実は過酷だった。悲壮な決意でママになろうとするメルを嘲笑うみたいに、初産の苦しみはメルを完膚なきまでに打ちのめした。
 実に半日。メルは、産まれてこない赤ちゃんに苦しめられたのだ。
「は……っ、は……っ、ひぅ……っ」
 長時間の陣痛といきみの繰り返しに、すっかり疲れ切ってしまったメルは、もう何もかもを失ったように、ぜいぜいと息を繰り返すばかり。おなかに力を込める余力すらとっくに尽き果て、顔も涙と鼻水でびちゃびちゃだ。
 哀れなほどに涙の痕が幾筋も頬を伝い、ぼさぼさになった髪が地面を擦る。
 何もかも初めてのメルと、未知の種族である沙族の赤ちゃん。
 きっと、本当なら誰かがつきっきりで励ましてやらなきゃならないはずだった。初産のメルはそれだけだって、産婆さんが必要なはずなのに。明らかに大きく育ちすぎた沙族の赤ちゃんは、メルがひとりきりで産むにはあまりにも困難だ。
 こんなふうに難産になるのは、きっと明らかだった。
「っ、嫌っ、もう嫌……なんで、なんで産まれてこないのっ!? ぁうぁあっ、ポーレ、ポーレぇ!!」
 心が挫けてしまったのか。メルは何度も何度もボクの名前を呼んだ。
 苦しい時、辛い時。
 ここで沙族に囚われる前の、旅の中でも。ボクたちはお互いに助け合い、お互いに手を取り合って、困難に立ち向かってきた。それはこの洞窟に閉じ込められてからも、変わらなかった。変わらなかったはずだ。
 けれど。
 ……ボクは、同じように大きなおなかを抱えたまま、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの沙族たちにかわるがわる犯され続けて、それどころじゃ、なかった。
 ボクの胸で、口で。ずらりと並ぶペニスをかわるがわる擦り、扱いて射精させている間にも、ボクの腰を掴んで抱えあげた大きな沙族が、太いペニスでボクの奥の深いところをごつごつ突き上げる。子宮口に押し当るその先端が射精を繰り返すたび、おなかの中の赤ちゃんは羊水を汚されるのを怒って不機嫌に身をゆする。
 メルの分まで、倍以上の数で群がる沙族たちの凌○を。ボクはやはり、ひとりきりで受け止めていなければならなかった。

 ――いや。
 この時ボクは、心のどこかで、あさましくも、安堵していなかっただろうか。
 今この時だけは、この、数多く群れる沙族、この場の全てのオスを、ボクが独り占めできることに――
 この場にいる沙族のオスたちが、メルじゃなく、ボクだけを見てくれていることに。

「ぁあああ、っぅ、あ、んぅ、んんぅぅううううっっ……!!」
 あれからいったい何時間が過ぎただろう。ボクの顔は沙族達の射精を何度も受け止め白くどろどろに濁り、べたべたと粘ついた白い濁液にまみれている。
 一向に産まれてくる様子のない赤ちゃんに、もう自暴自棄になって、メルが何度目かの絶叫をあげる。
 どんどん狭くなる子宮の中、不快もあらわに暴れもがく赤ちゃんを、足の付け根にせり出したおなかの膨らみを、陣痛の苦しさに耐えかねて、メルがぎゅっと押さえつけた時だ。
「んぅあッッ!?」
 突然メルの様子に変化が起きた。ばちゃりっ、と粘液を大きく飛び散らせて、メルの脚の付け根の間から、異形の赤ちゃんが顔を出したのだ。
 碧の鱗を生やした口先は、鳥の嘴か、蛇の鼻先に似ていた。赤く充血したメルの子宮口をくぐり抜けるように、赤ちゃんが大きく暴れ出す。
 いったいどういう心変わりだろう。なんの前触れすらなく、これまでかたくなにメルのおなかの中に留まろうとしていた赤ちゃんは、とつぜんまるで蜥蜴のように突き出した口先を暴れさせるように激しく波打たせ、無理やりに狭い、子宮の出口を潜り抜けようとしはじめたのだ。
「ぁ、あっ、あ、あぁぁああああッッ!!!!?」
 ぐうっ、とせり上がるようにメルが身体をのけぞらせる。
 同時、メルの脚の付け根、ぐうっとせり出したおなかの膨らみが、一気に下へと動き出す。ぎゅうっと収縮する子宮の中を足場にして蹴とばすように、力強く赤ちゃんが足を踏ん張って、メルの胎内から赤ちゃんが外へと飛び出そうとしている。
 文字通り、もうメルのおなかの中には収まりきらないというかのように。
「あぐぁあ、ぁ、ひぐ、ぁう、ぁあぁあああああ!?!?」
 半粘性の羊液の塊をかき分けるように、いっきにメルの出産は進む。既に限界までほぐれていた子宮口を裏返らせ、ずるぅ、と赤ちゃんの顔がメルの胎外に露出する。本当ならここから、何度も赤ちゃんが顔をのぞかせたり引っ込んだりを繰り返しながら、ゆっくりと顔を外に出してゆくのだけど――メルの出産は、排臨から先は一気に進んだ。
 顔を外に出した沙族の赤ちゃんは、はっきりと意志を感じさせるように動き、メルのおなかの中を掻き分けて這い出してきたのだ。
 メルの狭い産道から、器用に身体を捻るようにしてねじり、肩を覗かせ――
 さらに前脚の片方が、メルのあそこから外へと飛び出す。
「ぁ、あっあ、あぁぅぁ、っぁ、あぁ、ぃ」
 メルはと言えば、もう正気を失ったように目を見開いて、ぱくぱくと唇を開閉させるばかり。
 腕を飛びださせた赤ちゃんは、そのままメルの脚の付け根から、狭い産道の出口をかき分けるようにしてじたばたを身をもがかせ、さらにぐりぐりと身体をねじって暴れ出す。
「ぁ、い、ゃ、待って、だめ、ぁ。」
 何かの気配を悟ったのだろうか。メルが、かすれた声で制止を求めたその直後。
 ごぼっ、ずるぅっ、と。
 大きな塊が、一気にメルの脚の付け根にはい出してきた。
「っ、っっっ~~~~~~~~~~~~ッッ!!!」
 のけぞるメルの細い産道を一気に膨らませ、かき分けるように、子宮口を裏返させて、大きな大きな肉の塊が這いずりだしてくる。粘液に塗れながらばちゃりっ、と羊水だまりの上に産み落とされる赤ちゃんが、腰から下を一気に、メルのおなかの中から引き抜いた。
 それはとても出産などとは言えない光景だった。ママになるための努力もなにもなく、単に、赤ちゃん自身が、メルのおなかの中から出てくるのを決めたかのよう。
 メルの矜持、小さなママの尊厳すらねじ伏せて。沙族の赤ちゃんが、五ヶ月を経てメルのおなかから産まれる。
 絶叫とも悲鳴とも違う、獣のようなメルの咆哮が、石窟を震わせた。
 その小さな身体をたわませたメルは、とうとう――大きな沙族の赤ちゃんを、限界まで押し開かれた脚の間へと産み落としたのだった。




「ッはー、はーッ、はッ……」
 生涯最大の大仕事を終えた忘我のメルの荒い息遣いが、狭い洞窟に響く。
 ばちゃばちゃと、血を滲ませた羊液の水たまりの中で、緑色の鱗だらけの小さな生き物が暴れ回る。そいつはメルの柔らかくてしなやかな身体から生まれ落ちたとは思えない、不細工で恐ろしい外見をしていた。
 沙族のオス達に比べても、手足の指もまだ丸っこく、爪も生え揃ってはいない。剥き出しの目にはまだ薄い膜がかかり、牙も生えそろっていない。確かに幼い、まだ未発達さを伺わせる、赤ちゃんと呼んでもいいような外見をしていた。
 けれど、そのごつごつとした顔や、瘤の並ぶ背中、長い尻尾――間違いなく、そいつは沙族の身体をしていた。メルのおなかでずっと育ったにもかかわらず、こいつは異形の、化け物だった。
 これだけ毎日犯され続けていても、ボクは沙族達の生態はよく知らない。けれど、ひょっとしたらこれは、早産だったのかもしれなかった。
 沙族は人間に近い知能や生活をしているらしいけれど、タマゴで育ち、あんな外見をしているくらいだ、森の獣みたいに、ちゃんと親と同じ格好に――産まれてすぐに動けるようになってから産まれてくるのが本当なんだろうという気がする。
 たぶん、メルの小さなおなかの中では、赤ちゃんがこれ以上大きくなることができず、子宮に納まりきらずに産まれてきてしまったに違いなかった。
「っは、はー、っ、はーっっ」
 まるで理性すら壊れてしまったかのように、白い喉を反らし、身体を仰け反らせて荒い吐息だけを繰り返すメルの足元で、けれどその不恰好な赤ちゃんは、力強く尻尾を振り回し、手足を踏ん張らせる。けれどぬめる羊水の水溜りの中では、きちんと立ち上がることも難しいようだった。
 あまりにも人とかけ離れたその姿は、本当に、それがメルと血のつながった生き物であるのかと疑いたくなるほど。
 目の前でメルのおなかからそれが産まれ落ちる瞬間を見ておきながら、ボクはそれが何かの間違いであるのではないかと――そんな事を考えていた。だって長い尻尾、不格好な口、緑色の肌、それらのどれも、メルの姿とは何一つ似ていない。
 あれが、メルのおなかの中で何カ月も育ち続けた赤ちゃんだなんて、信じられなかった。
 けれど――
「メル……?」
 あれは間違いなく、メルがママとして産み落とした、正真正銘、メルの赤ちゃんなのだ。
 とうとう、メルはお母さんになった。その証のように、暴れのたうつ赤ちゃんのお腹から伸びたヘソの緒は、たるむロープみたいに確かにメルのおなかの中へと続いていて。そいつがメルの産んだ赤ちゃんであることを、抗いようも無いくらいにはっきりと証明している。
 沙族の赤ちゃんはぬかるむ粘液の中で、じたばたともがき続ける。誰かの手を借りなければ生きていけない、半端な生命。けれどそんな姿である事は、かえって、メルのおなかで育ち生まれ落ちたことの証明だったのかもしれない。

 あれと同じ生き物が、ボクの胎の中にもいる。
 もっともっと大きく育って、産まれてくる。
 ……覚悟していたつもりの背中が、ぞうぅっと震えた。

「ぁ、あ、あ、ぅ、あ」
 ちょうどこの時、空気を読まずに――いや、もともと彼等にそんなものはない方が当たり前なのかもしれないけれど――ボクにまたがっていた沙族が、ちょうどボクの一番奥で達したところだった。
 赤ちゃんを宿した子宮に圧迫されて狭くなった膣奥にどくどくと注がれる、熱く吹き上がる生命の奔流。白濁の滾りが、胎内深くで射精され、いつものようにボクの女としての部分を歓びに打ち震わせる。
 けれど。それとともに、不意にきゅう、とおなかが痛んだ。
 これまで感じたことのない不安が急速にボクの身体の底に膨らむ。じわ、じわ、とおなかの底のほうで鈍い痛みがはじまり、それが徐々に上のほうに上ってくる。
 胎内奥深くで勢いよく、子宮の口を押し潰されるようにして射精され、ボクの身体は五ヶ月の赤ちゃんを宿して居てなお、あさましくメスの本能で精液を受け止めようと、胎奥で口を緩ませる。
 それは、開きかけた子宮を、じくん、と蠢かせるのに十分な刺激だった。
「ぁ…………ッ」
 ぞうっと背筋が冷たくなる。分かっていた筈だ。こんなにも大きなおなかを抱えて、後先考えず、激しく彼等と交わっていたらどうなるのか。本当なら、普通の性交だって避けなければいけない時期なのに。ボクはそんな事お構いなしに、沙族のオスたちに犯されようとしていた。
 猛烈な忌避感が、ボクを襲う。
 あんなことになったら――メルのようになったら。

 産みたくない。
 こんな子供なんて、産みたくない。

 麻痺していたはずの心が、悲鳴を上げた。





 ◆14◆

 ボクが産気づいたのは、その日の夕方だった。
 メルが彼等の赤ちゃんを産み落とす、その一部始終を見せつけられながら、ボクよりも幼い彼女がママになる有様を目に焼き付けながら、ひたすらに続いた凌○が原因だったのだろうか。
 あるいは、何度も何度も執拗に続いた、おなかの中の一番奥を突き上げる凌○が原因だったのだろうか。ともかく、おなかの中の赤ちゃんの事も顧みず、一番感じる子宮の口で沙族達のペニスを味わおうとし続けたボクへの、当然の罰だったかもしれない。
 元々、精力旺盛な沙族たちは、一度満足させてやっても時間が経つうちにすぐに回復してしまう。打ち止め、ということはないみたいで、時間さえあればいくらでも交尾ができるようになっているらしい。
 これまでの交わりでも、ボクがへとへとになって群がってくる彼等全員を相手し終わっても、その頃には一番最初の相手がまた、ぎんぎんにいきり立ったペニスを押し付けてくることなんかしょっちゅうだった。
 どう考えてもメルの出産が一時間や二時間で済んだことは思えないから、多分半日くらいは代わる代わる、交代に犯され続けていたのだろう。総計三桁に届くほどのペニスで何度も何度も犯され続けたあそこはすっかり充血して、わずかな刺激にも反応してぴゅうと潮を噴き上げてしまう。
「はぐ……ぅあう。あぁあぁあ……っっ」
 とても自分の声とは思えない唸り声が、洞窟の中に反響する。頭では理解していたけれど、赤ちゃんを産むってことがまさに、自分の命にも関わりかねない事なのだという事実を、ボクは今自分の身をもって体験していた。目の前で、あんなにも凄絶なメルの出産を見ていたのに――ボクはいざこの窮地が自分の身に降りかかるまで、その事を本当に理解しようとはしていなかったのだ。
「ポーレ、だいじょうぶ、大丈夫だから……っ」
 髪を振り乱して悶えるボクの手のひらを、そっと握って。一足先にママになったメルが、ボクを励ましてくれる。その言葉にはどこか、ボクを案じ、嗜めるような響きもあった。
「メルだって、ちゃんと頑張れたもん。ポーレだって頑張れるよ? ね?」
 そう言って、メルは掠れた声で歌いだした。出鱈目な節の中途半端な調子で、昔の記憶にあるメルの歌声とは似ても似つかない、へたくそな歌。
 けれどそれはあの旅の中。もう遥か記憶の向こうに霞んでしまった、あの竜の大地の果てを目指す毎日のなかで。ボク達を励まし、力づけ、勇気をくれた吟遊詩人(ミンストレル)の歌だった。
「っあ……は、っぐ、……ぅあぁ……ぁ」
 小さな手から感じる温かさが、辛い。
 たった一人で赤ちゃんを産み落とすという人生最大の大仕事を終え、すっかり疲れきってしまっているだろうに、メルは残った力を振り絞って、ボクを励ましてくれる。
 ……そう。
 結局ボクは、ママになるのにも、メルに先を越されてしまったのだ。
 まだ、ヘソの緒が繋がったままの沙族の赤ちゃんは、ついさっきまでメルのおなかの中にいたとは思えないくらいにしっかりとした動きでぬかるむ羊水を掻きわけ、メルの胸まで昇って来ていた。つんと先端を尖らせて膨らんだメルのおっぱいにとりついて、そこからこぼれるミルクをちゅうちゅうと吸っている。メルのあやし方が上手いのか、それともまだお腹の中に繋がったヘソの緒で心を通じ合っているのか。それまでの暴れ方が嘘のように、メルの赤ちゃんはメルになついていた。
 丸い歯が乳首にこりこりと当たっているみたいで、メルは時折ぴくりと表情を変える。
 ぱちゃ、ぱちゃとぬかるむ羊水だまりを、長い尻尾で叩くメルの赤ちゃん。メルの小さなおなかの中では、完全に育ち切れずに生まれてきてしまった、沙族と人とのハーフ。
 けれど、その大きさは普通の人間の赤ちゃんよりも、遥かに大きくてたくましい。メルは、立派に自分の赤ちゃんを産み、ママになるという試練を果たしたのだ。
 それなのに。
 それなのに。
「ぅあ……っあ」
 ボクは押し寄せる陣痛に呻く。おなかの中が焦げ、火で焙られているみたいだった。メルと違って、まだ産まれるまでにはもうしばらくかかると思っていた、ボクのおなかの中の赤ちゃんも、外に出たいと暴れ出している。ずる、ずる、と子宮の中を這い回る赤ちゃんは、ボクに激しく訴える。
 本来の沙族の雌ではないおなかでは、ここまで育つので精一杯だったんだろうか。
 ずきずきと腰骨を軋ませ、脚の付け根の筋肉を震わせる、激しく疼く、陣痛の波の中で。
 ボクは悔しさに涙の滲む目元を感じながら、張りを増す膨らんだおなかをそっと撫でた。


 あの直後、沙族のペニスを深く咥え込んでの射精に身体の奥に激しい違和感を感じたボクを、構わず抱えあげてきたのは、例の片目の沙族だった。
「っあ、ぁ、あっあ、ぁッ、あぁあ…っ!!」
 彼等の中でも一、二を争う体格をしたこいつは、その身体に恥じない大きな太いペニスで、ボクの一番深い所を○すのが好きだった。複雑に曲がって節くれだった瘤をいくつも見せたペニスが、ボクの大事なところを的確に犯し尽くす。
 いや――あるいは、ボクの身体が、こいつのペニスを一番気持ち良く締め付け、同時にこいつに犯されている間こそもっとも悦楽を覚えるように、適応したのかもしれない。
 そこはボクにとっても弱点のひとつ。こつんと子宮の入り口を突き上げられるたび、ボクの“女の子”は意思に反して深々と胎内に納まったペニスをきゅうぅっと絞り上げてしまう。ごつごつした沙族のペニスを思い切り感じながら、深く深く何度も粘膜を擦られるのは、頭の中を白く飛ばしてしまう程の快感だった。
 ボクを仰向けにさせることを、この刀傷の沙族は好まない。ボクは手を衝いて四つん這いにさせられ、大きく膨らんだボクのおなかを、まるで荷物でも抱えあげるように太い腕で持ち上げて。獣みたいにうつ伏せになったボクの背中から、何度も何度もペニスが突き込まれる。
 こうすることで、この片目の沙族はボクのナカが狭くなり過ぎないように調整しているのだった。
「ぅあ、あぁ、あ、あっ……」

 ずる、ずる、ずるるっ。

 重力に引かれて大きくたわんだボクのおなかの中で、赤ちゃんが激しく暴れまわる。ただでさえ自分のいるゆりかごをゆさゆさと激しく揺さぶられて不機嫌な赤ちゃんは、さらに無理やり自分のいる部屋の出口をごつごつと叩く父親たちに猛烈な抗議を繰り返すのだ。
 けれど、こいつ等は、ボクのおなかに、まさにいつ産まれてもおかしくないこいつ等の赤ちゃんが育っていることを理解できているのかさえ怪しい。単に、最近ボク達が積極的だった交わりを拒むように態度を変えたくらいにしか思っていないのかもしれなかった。
「あ、ぁ、や、……ぁ…っ」
 ずる、ずる。メルの出産を目の当たりにしたことでか、赤ちゃんの暴れ具合もいつもにも増して激しい。狭い卵胞のなかで何度も寝返りを打ち、風船みたいに引き伸ばされた子宮の柔壁を内側から揉むかのよう。まるで、自分も早く外に出せ、と訴えられているみたいな錯覚すらあった。
 さっきから、おなかの奥に感じる鈍い痛みもずきずきと強まり、ボクの不安を煽っていた。
「んぅあああぁ!?」
 一際激しい律動と共に、沙族のペニスが根元から大きく膨らむ。これが彼等の射精の予兆であることも、間もなくあの、どろどろとした熱い精液が、たっぷりとボクの胎内に注がれる快感も、ボクの身体は、心はもうすっかり覚えてしまっている。
 頭のどこかは危急を叫び、それを必死に拒否していたけれど。同じ人間相手ではなく、沙族との交合によって雌の喜びを隅々まで覚えさせられてしまった身体は、オスの迸りを渇望して激しく疼く。
 ぶくりと不格好に膨らんだペニスのふくらみが、ぐうっとせり上がり――ボクの身体の奥で、どくんと弾ける。
「………ぁ、あ、あ、ぅ、あ……ッ」
 まるでおなかの奥に直接、熱湯を注がれているみたい。半年前よりも遥かに敏感になった、雌の芯の部分で射精を受け止めるたび、ボクの心は躍る。
 強い雄の遺伝子を受け継いで、彼等を満足させられる立派な雌になったことを、繰り返し繰り返し実感することで、ボクはもうどうしようもないくらいに、成熟した“オトナの女”にされてしまっているのだ。
 そして、――――
「あ、……え……ぁ……ッ!?」
 どくどくと注がれる射精とともに、これまでよりも遥かに強く、ずくん、とおなかの底が痛んだ。
 いつもの反応できゅうとうねり、根元から沙族のペニスに絡みついて余すところなく精液を絞り取ろうとするボクの、身体の内側の粘膜の動きが――いつもと違う、強い違和感を湧き起こらせる。
 じん、と身体の奥に響く、まるで地震の前触れのような大きなうねり。
 じわじわとおなかの底のほうで鈍い痛みがはじまり、それが広がり、膨らみ、形をもって、質量をもって、徐々に腰の下から上のほうにせり上がってくる。
「あ。……あ、あ……」
 なににも喩えようもない――全くの未経験の感覚。なにか、とてつもなく巨大な何かが、ボクの身体を通り抜けて、この場に現れ来ようとするような。せめて言葉にするならそんな感じだった。
 ぞわあ、と背筋を伝わる怖気に、ボクはただ、ぱくぱくと唇を押し開き、声にならない声を途切れ途切れに上げるばかり。

 ずるぅ……っ。

 ボクの身体を徹底的に犯しつくしていた、刀傷を遺す片目の沙族が、ボクの胎内に深々と埋まっていたペニスを引き抜く。ぬらぬらと光るペニスからは、まだぴゅるぴゅると残った精液が噴き上がり、ボクの身体とのあいだにねとねとと白く凝った粘液の糸を引いていた。
 同時、栓をされていたボクの大事なところからは、どろおっと粘つく大量の白濁が零れおちる。どく、どくとまるで心臓がそこに移ってしまったみたいに、脈動を始めるおなかが、どんどんと強い痛みを増していた。
 彼が離れるとすぐに、次の沙族が、待ちかねたというようにボクの脚を掴んだ。
「っ…………」
 久しく、感じていなかった嫌悪感。そしてそれをはるかに上回る、本能的な忌避感が、一気に沸き起こる。ボクは激しい拒絶と共に掴まれた脚を思い切り振りまわしていた。
「だ……だめ……ッ!!」
 力の入らない腕を使って、なんとか彼等から逃れようとする。しかし彼等がそんな事を聞き入れてくれる筈もない。これまで従順だったメスが相手なのだ、些細な抵抗など、快楽を高めるためのスパイスだと思っているかもしれない。
 もがいたボクの脚は、沙族によって思い切り押さえつけられてしまった。
 脚の隙間へと、また呆れるくらい反り返り、既に根元を膨らませる射精の兆候を見せた、太く大きいペニスがあてがわれる。鈴口がぐっと粘膜を抉る感覚に、ボクはとうとう悲鳴を上げた。
「お、お願い……!! だ、だめ……やめて、やめてよ!! い、今は……っ」
 どくん、どくん、とおなかの中が大きく波打つ。身体の奥からうねるように、じわじわと鈍い痛みがその勢力を増してくる。
 もう疑いようもない。まだ、産まれるのは先だと思っていたはずの、赤ちゃんが。ボクのおなかの中の赤ちゃんが。
 このまま、いま、ここで、産まれようとしているのだと。ボクの本能が、はっきりそう告げていた。
「今は駄目、だめなの!! あ、赤ちゃん、赤ちゃんが、っ、……ボクの赤ちゃん、産まれちゃう……っ」
 ……もともと、女の身体というのは妊娠の確率を上げるため、胎内奥深くで射精されるたびに子宮の口を緩めて、受精を起こりやすくするようになっているらしい。
 十人以上にも及ぶ沙族の射精をかわるがわる何度も受け止めて、ボクの身体はおなかに赤ちゃんがいるのにも関わらず、いやらしく彼等の遺伝子を飲み込もうと子宮の口を緩ませてしまったのだ。ただでさえごつごつとおなかの奥を突き上げられる刺激はご法度なのに、挙句ボクは、もう一杯のおなかで、こいつらの子供をさらに孕もうとすらしていた。
 無茶を繰り返した結果、落ち着いていた子宮の状況は一気に限界を迎え、安定状態だったおなかの揺り籠が、みしみしと軋む。
 その刺激はまだ、きゅうと差し込むような痛みではなかった。けれど違和感は収まることなく、じわじわと、しかし確実に勢力を広げてゆく。
「あ。……ッ」
 それにあわせて激しく暴れまわる赤ちゃんが、おなかの中でぐるぐると動き回り、激しく身を揺すって、揺り籠の出口を蹴破ろうとしているのが分かった。膨らんだおなかいっぱいに育った身体を持て余すように、ボクのおなかを内側から蹴りつける。
 子宮の口を内側から激しく突かれ、ボクはその場にへたりこんだ。じんじんと疼く脚の付け根の奥で、閉じていた狭い口が白濁にまみれて緩み始めている。
「だ、だめえ……ッッ!!」
 不安と共に心が跳ねた。思わず息を止めてしまうと同時、意識せずにおなかに力が入ってしまう。同時、赤ちゃんが身体を反らすように頭を跳ねさせた。
 無意識のうちのいきみが、子宮をぐっと収縮させる。ボクの身体まで、ボクの意識を裏切ろうとしていた。
 これまでおなかの上のほうにおさまっていた子宮が、ゆっくり下降を始め、その出口が身体の外へと降りてくる。ぐうっとせり上がるような圧迫感と同時に、おなかの底が破れて、身体の中身の大事な者がすべて、外へぶちまけられてしまいそうな気配があった。
「んぅあッ……ぁ、は、ぐぅ……ぅうっっ」
 張り詰めた卵胞が膨らみ、外へと押し破られそうになる。苦悶と共に歯を食いしばり、ボクは懸命にそれを堪えていた。手足が震え、ぶるぶると背骨や骨盤までが軋む。
「っあ、は、はっ……」
 ボクは懸命に、湧き起こる出産の予兆を押さえ込もうとした。こみ上げる苦痛を押さえ込み、必死におなかをさすって、暴れようとするおなかのなかの生命に呼び掛ける。
(だ、だめ、おとなしくしてて……今は、だめ、いまだけはっ……!!)
 けれど。今まさにボクを抱え込んだ沙族は、そんなことに配慮なんかしてくれるわけがない。懸命に堪えているその、秘芯へとペニスをあてがい、無理やり挿入を果たそうとする。ボクが拒絶の意志を見せているせいか、膣口はきゅっときつく締まり、狭くなったそこに具合よくペニスを押し込もうとする彼にとっては、都合良く快感をもたらしているらしかった。
「あ、だ、だめ、だめっっ、だめえっ!!」
(い、いま挿れられたら、あ、赤ちゃん、生まれちゃう……っ!!)
 脳裏に悶絶を繰り返しながら苦しみ続けたメルの姿が浮かぶ。ごつごつとした岩のような肌。鱗におおわれた長い尻尾。手にも足にも延びる長い爪。大きな口からはみ出す牙。
 あんな、あんな姿の。赤ちゃんが。
「お、お願い、ほ、他のとこなら、く、くちでも、胸でも良いからッ、何でもしてあげるから…!! いま、今だけはだめ……だめ、ええ……っ!!」
 ボクは胎奥に疼く陣痛の予兆をこらえながら、手であそこを押さえ、沙族の侵入を跳ねのけようとした。涙声で訴えるボクの懇願は、しかし、まったくの無意味でもあった。
 急に抵抗を始めたボクを持て余したのだろう。沙族は他の仲間と一緒にボクの脚を引っ張り上げる。そして宙づりにされた格好のボクの身体の中心へ、しっかりと反り返った太いペニスを押し当て、腰を突きだす。
「っあああああっ!?」
 まだ緩み始めた子宮の口がめがけ、粘液と密の助けを借りて勢いよくずるんと押し込まれたペニスが、思い切り突き込まれた。身体の芯を貫くオスの滾りにボクが仰け反ると同時、沙族はボクの身体を抱え込み、激しい挿入を始める。
 同時に子宮で暴れ出した赤ちゃんが、ボクを身体の内側からも責め立てる。
 びくり、とはっきりとした鳴動があった。鈍い痛みが一気に膨らみ、ずきずきというはっきりした波の形をとって、おなかが激しく痛み始める。
 陣痛だ。
 もがくボクをよそに、ボクの出産も、始まってしまったのだ。
「ぁう、あ、っっぐ、、ふぁ、は……ぁ。ぁああ!?」
 痛みと快感と、混乱と恐怖と。訳のわからない感情がない交ぜになって、ボクの頭の中はもう、人としての思考すら失いはじめていた。





 ◆15◆

 そうして。ボクが完全に産気づいて。とうとう堪え切れずに子宮の口を開かせ、卵膜を破かせ破水してしまうまで、沙族たちはボクを犯し続けた。
 激しく羊液を噴き出させ、子宮の収縮と胎動のもたらす苦痛に呻き、もう後戻りできない事態に陥ってなお諦めきれずにやめてと叫んでも、お願いと訴え縋っても。彼等はボクを離してくれなかった。
 最初はボクというメスへの執着と自惚れていたそれは、けれど全く違っていたことに気付くまで、そう時間はかからなかった。
 ……だって、当然。
 彼等は産気づいたメルには手を出すどころか、赤ちゃんを産む邪魔をしないようにと近づこうともしなかったのに。
 ボクには赤ちゃんが産まれそうになっても、彼等はまるで気にせずに交わりを続けていた。
 それはボクに雌としての魅力があったからでもなんでもない。……彼等はボクのことを生殖の対象としてではなく、ただの欲望の解消装置だとしか捕えていなかったのだ。
 結局、全部、ぜんぶ、最後まで。
 ボクの独りよがりと勘違い。ボクは最初から、あいつらに正しい雌としては見られていなかったんだ。
 ボクはただ、メルよりも年上だというたったそれだけのことに縋って、自分の女としてのプライドを惨めに保ってきただけだ。メルよりも優れたメスだってことを証明してやりたい一心で、あさましい欲望に身を晒してきただけだった。
 挙句、メルのお姉さんを気取っていながら、こうしていま、出産の恐怖に無様に悶え苦しんでいる。

 こんな赤ちゃんは、産みたくない。
 ……メルと同じような、きちんと育ちきっていない、未熟な姿じゃなくて。
 ちゃんと、きちんとした姿に育った、沙族の立派な赤ちゃんを産んであげることが。
 ボクの最後の、最後に縋った希望だったのに。
 メルよりもボクの方が優秀な、生殖に耐えうるメスなのだと、訴えるための最後の最後の希望だったのに。
 それすらももう、叶わないのだ。

 ずる、ずる、ずるると。狭い子宮の中で身をよじり、ひっきりなしに暴れ回る赤ちゃんがおなかを内側から蹴飛ばそうとしている。ボクの子宮はもうだらしなく口を開き、赤ちゃんの頭を半分覗かせていた。
「っあ、あぁ、あぁああぁああ……」
「ポーレっ……頑張ってっ!!」
 ぐったりと横たわったまま、気丈にボク身を案じ、励ましながら手を握ってくれているメル。けれどボクはそんな彼女にすら嫉妬している。だって今もメルの胸には、産まれたばかりの沙族の赤ちゃんがしがみ付いていて、器用におっぱいを吸っているのだ。
 たった一人で、ボクがあさましい優越感に浸って、無様に大きなおなかを揺らし、沙族のオスたちと交わっている間にも。自分の力だけで頑張り抜いて初産の試練に耐え、赤ちゃんを産み落としたメルに、喩えようもない劣等感を感じながら。ボクはいつ終わるとも知れない陣痛に悶え苦しんでいた。
「あ、あぅあ、っあ……っ、ふぁ、あぁうあ、あぁぁぁぁ……ッッ!!」
 腰が震え、収縮する子宮の感覚にあわせて、ぶしゅっと膣口から粘液の塊が溢れ落ちる。すっかり出口まで降り切った子宮の内側、緩んだとはいえまだまだ通り抜けるには細すぎる子宮口に、むずがる用に赤ちゃんが鼻先を押し付ける。
 その内圧に、ボクは何度も喉を反らし、悲鳴を上げ続けた。
 この苦しみも、この痛みも、この悔恨も。ぜんぶ、ぜんぶ、ボクへの報いだ。


「うぁあ……ひぐ、っ、あ、は、ぐぅう……ッ」
 ――あれからどれくらい経っただろう。
 陣痛はまだ続き、赤ちゃんはいっこうに生まれてくる気配がない。蛙みたいに開いた脚の付け根は、火箸を押し当てられたみたいに熱く、疼いて止まらない。脚の付け根まで降りてきた子宮が、その内側で暴れる赤ちゃんと一緒に、たわみ、震え、歪む。
 五ヶ月の間、頑張って赤ちゃんを育て続けたボクの女親としての証が、もうすぐその役目を終えようとしていた。
 ……押し寄せる陣痛の波が遠のく合間に、こうして手記を綴ってはいるけれど。もう思うように手も震えてしまって字も満足に書けないみたいだった。
 きっと後で読み返してみても、何が書いてあるのかはわからないだろう。これからそんな事が出来るのかどうかも分からない。
 でも、これを残さなければボクは本当にボクではなくなってしまうに違いなかった。
 このおなかの中の小さな生命を、自分の血を分けたボクの赤ちゃんを、無事産み落とすことができた時。その姿を目にして、この腕の中に抱きあげた時。
 ボクはきっとその歓びに耐えられない。
 こんな惨めなボクでも、ちゃんと彼等の赤ちゃんを産むことができるのだと、分かってしまったら。ボクはただ本能のままに、沙族に犯されて、その子を産むことに悦びを覚えるだけの、メスに堕ちてしまうだろう。
 もう、ずっと昔の事になってしまうけれど。旅の間には、お産に立ち会ったこともあった。たまたま連れ合った山小屋で、一人の女の人がお母さんになる瞬間にも一緒したことがある。
 あの時お母さんになったあの人は、こんな想いを抱いていたんだろうか。
 辛くて、苦しくて、不安で、怖くて、嫌で、逃げ出したくて。
 もうなんでもいいから、このおなかの中の生命を、早く産んでしまって楽になりたい。弱音を吐く心がそう叫ぶ。でも、まだこうして子宮が疼き、痛みが続いているうちはそれはできない。産道が十分に開き、赤ちゃんが生まれてくる準備ができる前に、いくらいきんでも赤ちゃんはそこを通り抜けられないし、母体も消耗するだけだ。メルのお手本を見ているのだから、せめてそれだけは、ちゃんとしておきたかった。
 そう、メルの出産だって、半日は楽にかかったはずだ。ボクの出産がそれより早く済むとも思えなかった。
 ボクが、ボクでなくなってしまう前に。……きっと最後に残された道は、その前に死んでしまうことなんだろうけど。
 そんな事、出来る筈もない。だってボクは、
 もうすぐお母さんに――


 (ここから後は筆跡が乱れ、判別できない)






 (了)

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シロフミ 2020/08/05 21:50

シローとユイの話・その6

 春休みも間近なその日――
 両親がまた揃って出かけ、やっとできた一人の時間を心待ちにしていたユイは、厳重に玄関と自分の部屋に鍵を掛け、冷たい水とお湯とタオルをもって自分の部屋に閉じこもった。
 下半身を――全身を、熱っぽい感覚が包み込んでいる。じんじんと響く感覚はすでに一昼夜、少女の身体を侵しつつあった。
「はぁ……ッ、わかる? シロー、シローの赤ちゃん、もうすぐ産まれるよッ?」
 もうすぐママになる少女は、この空のどこかにいる、もうすぐお父さんになるシローに良く見えるよう、ワンピースのスカートをぐっとおヘソの上まで引き上げていた。大きく育った少女の腹部は、元気一杯に育った赤ちゃんによってまあるく膨らんでいる。
 目一杯く広げられた両足の間は、すっかり薄赤く充血しほころんだ肉襞を覗かせている。ユイの下腹部の膨らみはいくぶん脚の間に向かって動き、少女の膣口からは間断的にねとりとした粘液が溢れている。
 既に、通常の出産では破水にあたる卵胞の破裂と、胎内を満たしていた粘液の放出が終わっている。陣痛の間隔も短くなり、ユイの子宮口はすっかりほぐれて柔らかな弾力を帯びていた。
「はんんっっ……んぅううぅうっ!!」
 おなかの中の赤ちゃんをどうやって産めばいいのか。姉の百科辞典と保険の教科書、それに家庭の医学をたっぷりと読み漁ったユイは、ママになるための知識を十分に身につけている。
 ぐっとハンカチをくわえ、ユイがいきむたび、ぱくぱくと開いた膣口が、奥にたわになった柔襞を蠢かせる。
 ぎゅっと捲り上げた服の裾を掴む指が白くなるまで力を篭めて、ユイは荒くなった息を少しでも抑えようと深呼吸を繰り返した。
「ふぁぅ……っ……ぁああああっ!!」
 くちゅ、くちゅと泡だった粘液がこぼれ、幼いつくりの秘孔が伸び縮みを繰り返す。
 子宮の収縮に合わせ、ユイの膨らんだ腹部が、ゆっくりと股間に向けて下降してゆく。生命の揺り篭に包まれた小さな命は、母親となる少女の息遣いに合わせて長く狭い産道を進んでゆく。
「シロー、見てて……っ、あたし、頑張って、元気な赤ちゃん、産んであげるからねっ」
 陣痛の隙間、荒くなった息を辛うじて繋ぎながら、心配げに寄り添うシローの身体を思いだすように、ぎゅっとぬいぐるみの『シロー』に腕を回し、ユイは健気に語りかける。そうすることで湧き上がる歓びと元気が、疲れきったユイの身体にまた活力を与えてくれるのだ。
 これから、ユイはお母さんになる。シローの赤ちゃんを産むのだ。
 その事を口にするたびに、途方もない愛しさがこみ上げてきて、ユイの小さな胸はもうはちきれてしまいそうだ。
 事実、わずかに膨らんだ乳房の先端からは、じわりと白い乳が滲んでいる。ワンピースを汚すそれは、愛しい我が子に与えるためのものだ。新たな生命をはぐくみ育てるための準備は、すっかり整って、愛しいわが子を待ち焦がれている。
「ふぁああああっ!!!?」
 力みとは違う感覚がユイの腰を、圧倒的な存在感で刺し深く貫く。
 不随意筋による子宮の伸縮――
 ぷちぷち、と狭い産道が圧倒的な圧力に耐え兼ねて小さく裂けてゆく。出産という一大イベントは、成熟した女性ですら無事に耐え切れるかどうかも分からない苦行である。まして、子供を産むにはあまりに未成熟なユイには、押しだされる胎児の身体はあまりにも大きすぎ、骨盤を歪め内臓を押し潰す激痛のはずだ。
 しかし新たな生命を産み落とす歓びに支配されたユイには、そんな痛みはまるで届かない。愛する相手の子供をはぐくみ、そしてこの世に産み落とすという神聖で不可侵の行為に、少女の心は途方もない感動で満たされて、尽きない歓びがあらゆる苦痛を麻痺させていた。
「ふぁあああああっ、ぁあぅぅぅぅ!!!」
 力の篭る下半身。じゅるじゅると粘液が溢れ、滲んだ血がかすかにピンク色をした雫をシーツの上に滴らせる。
 反り返る膣口から、せりあがる子宮口。
 くぱり、と開いた襞の奥から、破れた胎胞に包まれた黒い塊がせりだしてくる。
 粘液に濡れた毛皮の塊がゆっくりと押し上げられ、小さな産道を押し広げていく。
「ぁああああっ、あくぅっ!!」
 愛しい相手の生殖器を受け止めて、至上の快感をもたらし、余すところなく生命の素の白濁を絞り取るための器官は、もう一つの大切な役割である生命を誕生させるためにその全力を注いでいる。
「ぁああうぅぁあっっ!!!?」
 丸い爪の生えた両前脚がユイの小さな柔孔からぢゅぶり、と突き出た。
 胎児は、狭い産道を潜り抜けようとその強靭な生命力を持ってもがいた。おなかの中を内側から激しく蹴り上げ、子宮の中に脚を踏ん張り、全身をのたうたせて、細い襞のひしめく少女の膣を通り抜け、母体の外に這い出そうとしている。
 本来、出産は母体だけが行なうものではない。胎児と母親、ふたりが力を合わせてひとつの生命を誕生させる崇高な行為だ。しかし初産のユイにはそんな健気な胎児の行ないを感じ取る余裕はなく、ただただ遮二無二下半身に力を篭めるばかり。
 けれど――
 そこには、あまりにも美しい姿がある。
 何よりも愛しく大切に思う相手の子供を、誰よりも好きなひとの遺伝子を、生命を受け止めて、それを次代に繋いでゆく、雌として、いや生命としての根源的な歓び――
「ぁああうぅ、くぅあ、ふわぁああああああああぅう!!!!」
 全身を使ってのはげしいいきみと、筋肉の塊である子宮の力強い収縮。そしてユイの説に願う魂の叫びが、がっちりと噛み合った。
 まるで、身体をまっすぐに貫くほどの、圧倒的な衝撃が。
 少女の身体を端から端まで貫いて、下腹部の膨らみがゆっくりと、ユイの大きく広げられた脚の付け根、股間へと下降してゆく。
 ぐちゅり、と大量の粘液を溢れさせながら、生きよう、産まれようともがく小さな生命が、ぱくりと反り返って拡がった膣口、覗いたまぁるい子宮口を押し広げて裏返りながら、ぞりゅるるるっと滑り落ちてゆく。粘液にぬめる毛むくじゃらの身体は、こんどこそ奥に引っ込むことはなく、ユイの膣口から顔を覗かせた。
「ふ、……ぁ……は……っ!!!」
 まるで身体の中身の、内臓そのものがごぼっと形を保ったまま外に引きずられてゆくような感触。とほうもなく熱い塊が、少女の身体を
 それは同時に、3ヶ月以上にも渡っておなかの中で共に時間を過ごしてきた赤ちゃんが、とうとう母体と離れ、ひとつの生命として生きることを決断する瞬間でもある。溢れんばかりの歓びは、ユイの全身を穏やかに、激しく、とめどなく包み込んでゆく。
「あ、あ……っ♪、あ、あぅ……」
 まだ目も開いていない、幼く小さな生命。それがゆっくりと、しかし確実に、少女の膣をくぐり抜けて、外の世界へと産み落とされてゆく。
 なにもかもがはじめての歓びに、どうしようもないほどの感動に打ち震え、それを言葉にするすべを知らない、幼い少女はぽろぽろと涙をこぼし、泣き続ける。

 とうとうユイは、本当の意味での『お母さん』になったのだ。

 シローが途方もない連続射精によってユイの卵子を執拗に犯し付くし、蹂躙し、ユイの持つ卵細胞の遺伝子を凶悪なまでの獰猛な遺伝情報で塗り潰したためか。
 生まれ落ちた胎児の身体は、父親そっくりのつややかな毛並みを持つ愛くるしい子犬だった。
「あは……」
 ただし、その毛皮の色はユイの髪にそっくりな黒。みまごうこともないような、美しくつややかな毛並みの黒犬だった。
 幼くも小さな母親の遺伝子も、間違いなく受け継いだ二人の子供が、少女の脚の間で力強く身体を振り立て、丸めていたみじかな四肢でぬめる粘液のなかを暴れる。その一挙一動が、ユイのこころに歓びを湧き上がらせる。
「あはっ……産まれたぁ……シローの赤ちゃん、産まれたよっ……!!」
 我知らず、あとからあとから溢れ出す涙をぬぐうこともせず、ユイは口にしていた。
 シローの不在を知ったときも、その別れを告げられたときも流れなかった涙は、こうして歓喜の言葉と共に少女の頬を濡らしてゆく。
「ほら、見て? シローにそっくりだよ……♪」
 傍らのぬいぐるみ、『シロー』に呼びかけるように、ユイはひとりで声を繰り返す。
 羊水変わりの粘液の上で、懸命に四肢を伸ばし立ち上がろうとする子犬。その小さなおなかからは細くねじくれた臍の緒が伸び、ユイのおなかの奥にしっかりと繋がっている。この子犬がユイと確かに血を繋げ、血肉を分け合ったことは疑いようもない。
 そして、ユイには伝わってくるのだ。産まれたばかりの赤ちゃんと、まだ繋がった臍の緒を介して、言葉にできないほどの歓びが伝わってくる。

『ママ、ありがとう。産んでくれてありがとう』

 生命の誕生に伴う最高の歓びが、人生でもっとも大きな仕事を果たし、とうとう母親となった幼い少女の胸を満たしていた。
 ……だが。
 これで、終わったわけではなかった。

 ―――ずくんっ!!!

「ふぁああああああああっ!?」
 再び体内で響いた激しい疼きに、ユイは背筋を仰け反らせる。
 たったいま新たな生命を産み落としたばかりの膣口がくちゅりと裏返り、そこから大量の粘液がごぽりと溢れ落ちる。
 それは、疑いようもない卵胞の破裂。
 数時間前にユイがお風呂場で経験した、人間の出産で言うならば破水にあたる現象。
 つまり、二度目の破水――
「ふわぁあ……ぁは……♪」
 ユイは、そのことに思い当たり、満面の笑顔を浮かべた。
 全身を包んでいた披露など、どこかに吹き飛んでしまっていた。
「……そう、だね……っ」
 ユイがその小さなおなかに宿していた生命は、一匹だけではなかったのだ。
 執拗に執拗に繰り返されたシローの射精に応えようと、ユイの無垢で純粋な卵子は己の身体を引き裂いて、献身的に父親の遺伝子を受け止めていたのだ。
 シローの身体の摂理に少しでも答えようと、複数受胎の果てに形成された多胎が、限りない愛情の塊となって少女のおなかを大きく膨らませていたのである。
「シローっ……」
 初産を経て今ははっきりと感じ取ることができる。
 次々と、まあるく膨らんだお腹の中で、早く産んで、と幼いママにせがむ赤ちゃん達の声が、ユイの耳にはしっかりと届く。
「ぁああ……だめ……っ」
 ぶるぶると背中を震わせ、ユイは忘我の中でつぶやく。とてもではないけれど、耐えられそうにない。
「死んじゃう……死んじゃう、よぉっ……シローっ……」
 心の底から、ユイはそう思った。
 大事な大事な赤ちゃん、そのたった一人を産み落とすだけで、こんなにも胸がいっぱいになって、幸せで、満ち足りてしまうというのに。今日はこれから、あと何回これを繰り返せばいいというのだろう。
 本当に、本当に、本当の本当に。嬉しすぎて死んでしまう――そんなふうに感じることがあるのだと、ユイははじめて知った。
 ぎゅっと、シーツを握る手に力を篭める。
「シローの赤ちゃん……あたしの赤ちゃん……みんな、元気に、産むから……」
 うわ言のようにつぶやいて、ユイは新しくおなかの中で動き出した生命の誕生のため、ぐっと息を飲んだ――




「ねえ、お母さん、見て見てっ!!」
 そうして――夜遅く帰宅した両親に、ユイは用意しておいた清潔なダンボールに、一番大事な毛布を丁寧に敷き詰めて、産まれたばかりの赤ちゃん達を並べて見せた。
 ユイが一世一代の大仕事の果てに産み落とした赤ちゃんは、全部で5匹。
 寒そうに震えて身体を寄せあっている子犬達は、みな見事なくらいにシローの小さかった時にそっくりで、同時に同じくらい、ユイと同じようにつややかな真っ黒い毛皮を持っている。
「今日、産まれたのっ!!」
 拙い言葉で、ユイはこの歓びをどうやって両親に伝えればいいのだろうと思案する。本当ならパパになったシローと一緒に紹介したかったのだけど、シローがどうしても帰ってきてくれないので、ここは代役のぬいぐるみの『シロー』に相手役を務めてもらっているのだ。
「みんな、みんな、あたしのだいじなだいじな、とっても可愛い、あかちゃんだよ♪」
 おなかを痛めて産んだ、大切なわが子を胸に抱いて。
 両親を前に、誇らしげにユイは満面の笑顔を浮かべて、そう言った。



 (了)

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