ウメ畑 2022/11/01 09:46

リクエスト作品 『淫靡な洞窟のその奥で』 フィアーナ『醜い男からの羞恥検査』

「おおっ!? フィアーナ殿、そのお姿は……」

 その日、フィアーナとアルフィラが国へ戻ってきたという話を聞きつけたドルイドが謁見の間へ続く大広間で見た光景は、とても言葉にすることが難しいものだった。
 フォンティーユにおいて最強とも言われるエルフの女性騎士フィアーナと、その部下アルフィ。
 二人の姿を見た時、土塁では言葉を失った。
フォンティーユ王城、玉座の間へと通じる大階段の前に、あれほど夢想した美貌の女騎士が立っている。
 それはいい。
 多くの犠牲が出たものの、けれど生存者がいたというのは喜ばしい事だ。
 ……戻ってきたのはその二人だけで、彼女の部下たちはほぼ全滅と言っていい状態。
 ただ、フィアーナとアルフィラの二人は……とても、言葉にしづらい姿をしていたからだ。
 城へ戻るために最低限の身嗜みこそ整えているが、ボロボロになった衣服、その身を守っていた鎧はほとんど失われ、所々から白い肌が覗いてしまっている。
 城内で見かける際にはいつも目を惹かれていた美しい銀髪も汚れが目立ち、凛としていた表情には疲労の色が目立つ。
 そこには場内で誰もから一目置かれていた『最強』の姿はどこにもなく、疲労と不安に揺れるエルフの美女が立っている光景なのだから。

(お、おぉ……)

 敬虔な女神ファサリナの信徒でもあるフィアーナは隙を見せる事が少なく、城内や私室であってもだらけた姿を晒すことはほとんど無かった。
 それはいつも彼女を目で追っていたドルイドだからこそ分かる、とても貴重な姿。
 いつも隠れていた肩や両脚の素肌が露になるどころか、その胸元……服の上からでも隠せていなかった豊満な胸の谷間まで。
 しかもフィアーナは自分の姿が恥ずかしいものだと理解しており、彼女の帰城を知って集まってきた人々の視線から肌を隠すように少しでも身体を小さく見せようと肩を丸めてしまっている。
 その恥ずかしがる仕草に、ドルイドはまるで人生初めての恋心を抱いてしまったかのように胸を高鳴らせ、同時にズボンの上からでも分かるほど股間を熱くしてしまう。
 ……けれど、それを責めることは不可能だ。
 なにせ、この場に集まった男たちのほとんどが同じような劣情を胸に抱き、あられもない姿を晒すフィアーナとアルフィラに熱い視線を送っているのだから。

「どけ、どけ! 道を開けろ!」

 ドルイドは数十秒ほどフィアーナのあられもない姿に目を奪われた後、そう言って人波を掻き分けながら前へと進んだ。

「フィアーナ殿、大丈夫ですか!?」
「ドルイド卿……はい、身体の方に問題はありません」

 フィアーナは下心満載で近付いてきたドルイドの本心を視線から察しつつ、けれど律儀に返事をした。
 彼は近付いたことで鮮明に見えるようになった胸の谷間、ローブのような衣服の左右に作られた深いスリットから覗く健康的な美脚、ボロボロの衣服を纏っていても隠し切れない美しい素肌から視線を逸らすことが出来なかったのだ。
 なんとも間抜けで欲望を隠しきれていない視線だが、けれどフィアーナはドルイドを邪険にすることは出来ない。
 彼はこの国における財務大臣――財政の多くを担っている貴族である。
 権力を持つ貴族たちの中でも高い地位にあるドルイドを邪険に扱えば、いかに国民から英雄視されるフィアーナでも城内での活動に不和が生じてしまう。
 ……これから女王に対して敗戦の報告をしなければならない立場からすれば、更に敵を増やすような行動はとりたくないと考えての事だ。
 そんな気持ちから、フィアーナはドルイドの欲望が透けて見える視線を受けながら、けれどそれを咎める事もせずいた。

「これはこれは、フィアーナ殿。……まずはこちらへ。そのようなお姿で女王の目に留まっては危険でございます」
「ど、ドルイド卿?」
「アルフィラ……だったな。貴女もまずは兵舎なり私室なりへ戻り、身嗜みを整えなさい」
「はっ――フィアーナ様、これから……」

 突然割り込んできたドルイドがフィアーナを呼び、アルフィラには着替えてくるようにと指示を出す。
 それは実際、その艶姿を眺めていた他者たちから守るという意味では、最善にも思える手際の良さだった。
 こういう事と金に関することへの頭の回転だけは速いのか。
 ドルイドはその巨体からは想像できない機敏さでフィアーナが通る道を確保し、彼女を扇動して別室へと連れていく。
 フィアーナはその有無を言わさぬ行動力に抵抗できず巨体の後を追うと、アルフィラの方へ顔だけを向けた。

「着替えてから、レティシア様へのご報告に向かいます! 後で落ち合いましょう!」
「了解いたしました!」

 それだけを話すと、アルフィラも早足でその場を後にする。
 彼女も城を出る際に身に着けていた全身鎧は失われ、着ている黒を基調とした衣服もボロボロ。
 厚手の上着のいたるところが破られ、ズボンも破損が目立って激しく動けば黒色の下着が見えてしまう状態だ。
 騎士とは思えない綺麗な白い肌を露にし、フィアーナには及ばないが十分に巨乳と言える胸の谷間や横乳まで見えている状態を他人の視線に晒すのは恥ずかしかったのだろう。
 フィアーナがその場を離れると、アルフィラも両手で胸を隠しながら小走りで私室へと向かった。

「あの。ドルイド卿、どちらに?」
「この時間なら使っていない客間があります。ここでは人目についてしまいますので……そのような姿を一目には晒したくないでしょう?」
「…………」
「それに、多くの貴族たちはまだ気付いておりませんが、フォンティーユの騎士が魔物に敗北したなど……貴族や国民に知られてしまっては、問題が大きくなってしまいますからな」

 その言葉に、早足で場内を歩いていたフィアーナがビクリと身体を震わせた。

「それは……」
「いえいえ。戦いに絶対はございませんし、私は剣を握ったこともありませんからこれ以上の事は申しません。ただ、『敗北した』という状況を必要以上に悪く思う者も多いのです」

 私のように戦いを知らない者ばかりですから、とドルイドは続けた。
 別に悪い意味で言ったわけではない。
 ドルイドにとって、戦いというのは勝負であり、勝つ者が居れば、負ける者も居る。
 魔王が存在していた時代を経験しているからこそ、たとえフィアーナであっても負ける側になる可能性は十分に有り得るのだ。
 ただ、問題なのはそれが『国一番の騎士』である事。
 その実力と美貌から国民の信頼を多くうけるフィアーナの敗北は、悪い意味で国中へ伝わってしまうだろう。
 そしてそうなれば国民からの国への信頼が揺らぎ、少数だろうが他国へ移住する可能性だってある。
 それではフォンティーユの財政に少なくない打撃となり――財務大臣としては、その打撃を可能な限り少なくしなければならない職務があるのだ。
……と言い訳しておく。
 けれど実際には、ドルイドはフィアーナを扇動して歩きながらもチラチラと事あるごとに振り返り、破損した衣服から覗く白い肌や、清純で真面目な騎士らしい純白の下着を見てくる。
 フィアーナはその視線に耐えながら、けれどドルイドをあまり刺激しないようにその後を追ってい歩いていた。

「まずはお召し物を整えませんとな。そのような状態で女王へご報告などすれば、それこそ騎士団の弱体化が顕著に見えてしまいます」
「お心遣い感謝いたします、ドルイド卿」

 フィアーナは邪な感情はあれど、ドルイドの自分だけでなく国全体を考える気遣いに感謝の言葉を述べた。
 正直、フィアーナはドルイドが苦手だ。
 容姿もだが、何よりその欲望を隠そうともしない態度が好きにはなれない。
 けれどそれは、王城へ勤める大勢の女性たちが抱いている感想である。
 ドルイドは美しい女性を好み、フィアーナ以外にも好色な視線を向けていた。
 メイドや魔術師、中には同じ貴族階級の女性にも。
 けれど、決して職権を乱用しようとはしない。
 欲望は大きいけれど、自分の立場を危うくするようなことまでは手を伸ばせない……そんな小心者。
 だからこそ女王レティシアの信頼も厚く、好色でいつか問題を起こしそうな性格なのに財務大臣という要職に付けている人物。
 それがドルイドという貴族だった。

「ささ、こちらへ。貴族のご令嬢が休む部屋ですが、なに、彼女たちは服が一着減った事など気付かないでしょう」
「それもどうかと思いますが……」

 そうしてドルイドが案内したのは、貴族用の寝室だった。
 部屋は一つ、天蓋付きのベッドが二つ。
 メイドたちによって掃除も行き届いており、ベッドの近くにあるサイドテーブルの上には綺麗な紅い花が活けられた花瓶が飾られている。
ドルイドが室内を進むと、大きなクローゼットの前に立った。
中には煌びやかなドレスや小奇麗な衣服が収められている。

「こちらをどうぞ」
「……本当に、勝手に使ってもよろしいのですか?」
「問題ありません。あまり大きな声では言えませんが、これなどは私がお贈りしてから一度も着てもらえていないのです」

 そう言ってドルイドが指で摘まんだのは、黒い布地に金の刺繍が施された……フィアーナの目をして少し派手すぎる……悪趣味なドレスだった。
 しかも胸元の布地は少なく、スカートの左側には臍の高さまでありそうな深いスリット。
 これでは、少し動けば下着が丸見えになってしまうだろう。
 肢体にぴったりと張り付く形状をしていて、身体の線が丸見えになってしまうのも……見ているだけで恥ずかしい。

「失礼いたします」

 フィアーナはドルイドが選んだドレスを身に着ける気にもなれず、女王の前に出て恥ずかしくない服を自分で選ぼうとクローゼットの前に立った。
 ドルイドが数歩下がって、後ろからその美肢体を眺める。
 鍛えられたフィアーナは体幹がしっかりしていて、背筋がまっすぐに伸びていた。
 銀色の髪で彩られた正しい姿勢を後ろから眺めているだけでも目の保養になるが、なにより彼の欲望を刺激するのはそのお尻。
 厚手のローブを大きく持ち上げる臀部だが、ボロボロになり、汗を吸って肌に張り付いたことで下着の線を如実に浮かび上がらせてしまっている。
 大きなお尻を包み込む下着の形を見ていると、クローゼットの中か服を選んでいるフィアーナが左右に動く。
 それに合わせて大きなお尻も左右に動き、足が動けば肌に張り付いたローブも動いて、その下にある大きなお尻の形が僅かにだが変わってしまう。
 それが、右に、左に。
 フィアーナは着る服を見付けられずにいるようだ。
 当然だろう。
 ここにあるのはドルイドが選んだ、メイドや格の低い貴族の令嬢に着せるための……所謂、夜のお供となるドレスばかり。
 最初はそんなつもりはなかったが、ここへ来るまでにフィアーナが抵抗しなかったこともあり、多少の無理なら押し通せるのでは……と感じたのだ。
 それに、拒絶されたとしてもフィアーナはこのことを他の騎士や貴族たちに報告する事も出来ないだろう。
 たかが田舎の魔物に敗北してきたのだ。
 そんな状況で貴族の一人から個室に連れ込まれたと話せば、『国一番』の騎士であるフィアーナの評価は良くも悪くも落ちてしまう。
 優秀な彼女の評価はすなわち騎士団の評価にも直結し、それは騎士団の弱体化にもつながる。
 それが些細な変化だったとしても、個人で背負いきれる責任でもない。
 長く生きたエルフだからこそ周囲の評価の変化がどれほど重要か理解しており、ゆえにフィアーナはドルイドからの言葉を断り切れない。

(しかし……どんな女たちよりも、美しい……)

 金勘定やそんな思考の計算ばかりが早いドルイドは、フィアーナの背中を眺めているだけで満足だった。
 彼は小心者なのだ。
 ここで手を出したりすれば、フィアーナは口に出せないだろうが、けれど彼の評価は地に墜ちるどころか地の底まで沈んでしまう事だろう。
 それを恐れ、せめて眺めるだけで満足してしまう。
 こんな冒険することを恐れる小心者なところが、逆に女王レティシアからは高評価だったりするわけだが……。

「時に、フィアーナ殿。いくつか質問してもよろしいか?」
「はい、なんでしょうか?」

 ドルイドとしては何気ない、世間話のような感覚だった。
 彼がフィアーナへこの仕事を伝えた際、冒険者協会から聞いていたのは『田舎の村で魔物が出現した』『将来有望な冒険者が数人戻ってこなかった』というものだ。
 強力な魔物が出現したのだろうというのは予想できたが、それが『なに』なのかが気になって、訪ねる事にした。

「騎士団がほぼ全滅するというのは、どれほどの魔物が相手だったのでしょうか?」

 ドルイドが聞くと、フィアーナは……後ろからも分かるほど身体を強張らせ、着るためのドレスを探していた手が止まる。
 あからさまな動揺に、ドルイドの方も驚いてしまったほどだ。
 いつもは冷静で、凛としていて、貴族相手にも物怖じしない長く生きた美貌のエルフ。
 その彼女がドルイドの前で始めて見せた動揺に、少しだけ興味が湧いた。

「おや、どうかなさいましたかな?」
「いえ……」

 フィアーナは同様に声を強張らせながら、背中越しに何とか返事をする。
 けれど、ふと、思い出してしまうのだ。
 フォンティーユの北にある廃坑で襲われた事実を――城へ戻る間にも、何度も。
 スライムに襲われた。
 戦い、殺されかけたという意味ではない。
 性的な意味で襲われ、犯され……精液を胎内に出されてしまった。
 それは屈辱と恐怖でしかないはずなのに、どうしてもフィアーナはその時の事を思い出すと腹の奥が疼いてしまう。

(……そんなはず、ない……はずなのに)

 犯され、生き延びたアルフィラと二人。
 フォンティーユの城へ戻るまでその事に自分たちから触れることは無かった。
 精神に深い傷となった凌○――けれどそれだけではない。
 処女だったアルフィラはともかく、この数百年の人生において何度か男性と契りを結んだフィアーナはスライムの技巧が人とはかけ離れたものだと理解していたのだ。
 嫌悪感とともに、隠し切れない快楽も与えられたのだ。
 ……しかもそれを気持ちいいと感じてしまう自分が情けなくて、惨めで……認めたくない。
 その気持ちからフィアーナがこの話題に触れることは無かったし、アルフィラの方も処女を散らされ、気持ち良くされ、絶頂までさせられたなど、たとえ相手が同姓だったとしても口が裂けても言いたくなかった。
 だから二人はこの話題を避けていたのだが、そんなことを知らないドルイドは興味から質問してくる。

「それで、フィアーナ殿? 田舎に現れた魔物というのはどういったものだったのでしょうか? 騎士団が敗北するほどですから、大型の……キマイラだったとか?」
「いえ、スライムです」

 動揺していたフィアーナは、つい、口を滑らせてしまった。
 スライム。
 この世界において最弱とされる魔物。
 人間の子供でも石で叩けば殺してしまえるような弱い存在であり、戦いを経験したことが無いドルイドであってもとても脅威を抱かない……そんな魔物。
 その名前を聞いた時、ドルイドは何か聞き間違いをしたのかとすら思ったほどだ。

「スライム……ですと?」
「ぁ、いえ――相手は特別なスライムだったのです」

 フィアーナは説明した。
 魔法を使い、人間のように罠を張り巡らせる知性がある魔物だと。
 けれど。

「スライムに知性が……? にわかには信じられませんな……」

 ドルイドは感じたことを口にする。
 確かに高位の魔物は知性を有し、中には人語を解する存在も居た。
 けれどスライムだ。
 子供でも殺せるような弱く脆い存在が魔法を使い、罠を使う知性を有するなど……この世界の常識から外れていた。
 だからドルイドの言葉には信じられないという感情と、そんなものに敗北したのかという……僅かに呆れの混じった声となってしまう。

「ですが本当なのです。私たちは敵がただのスライムだと思っていました。ねぐらである洞窟に入り……けれど、逃げ場が無くなったのは私たちの方だった」
「それで全滅したと?」
「……はい。それに、スライムに協力する人間もいたのです」
「それこそ、信じられませんな。人類の敵である魔物に協力する人間など……」

 ドルイドはフィアーナが精神的に疲れているのだと思った。
 それも当然だろう。
 部下はアルフィラ以外の全員が全滅し、もしその話が本当なら『国一番』の騎士がスライム程度に敗北したというのだ。
 そんな状況で正気を保っていられるはずもない。

「まあ、よろしいでしょう。ただ、そのような話を女王様の前でされては困ります」
「そ、それは……」
「少しおやすみなさい。その方が貴女のためにも……」

 ドルイドがフィアーナに休息を勧めるのは当然の事だった。
 こんな精神状態で女王の前に出られては、何を話すか分からない。
 貴族と騎士の仲が悪い事は、周囲の事実だった。
 利権を主張する貴族と、国は強くあるべきと考える騎士。
 魔王が居なくなったこの世界では、これから先、騎士の言う『強い国』と言うものの形も変わってくる。
 金だ。
 使える資金を潤沢にし、国を栄えさせることこそがフォンティーユという国の未来を支える事になる。
 騎士たちが言うように戦技を鍛えたところで、使う相手が居なければ無意味でしかない。
 けれど、国に騎士も必要だ。
 もし有事の際、戦力が無ければ無力に蹂躙されるしかないのだから。
 その均衡を保つことが重要であり――もしここで騎士がスライムなどに敗北するほど弱い集団だと知られては、その均衡が崩れてしまう。
 他の貴族たちはそれを喜ぶだろうが、こと、財務大臣という金銭に深く関わる立場であるドルイドには騎士の没落はまだ早いと思っていた。
 だからこその、フィアーナへのねぎらいの言葉。
 けれど、フィアーナはその言葉を聞くと勢いよくドルイドの方へ向き直った。

「そ、それは困りますっ」
「こ、困る……ですか?」
「私は一日も早く、あの場所に戻らなければ――部下たちの無念を晴らしたいのですっ」

 この時、ドルイドはようやくフィアーナが女王へ何を訴えようとしていたのかに気が付いた。
 任務の報告だけではない。
 敗北を雪ぐために、もう一度魔物退治に出ようとしていたのだと。

「お願いします、ドルイド卿。何でもしますから、どうかお口添えを……お力をお貸しください」

 フィアーナはそれほどまでに追い詰められていた。
 振り返った表情はとても必至で、余裕がない。
 スライムごときに負けた、部下を失った……異世界から現れた勇者によって魔王が倒され、平和になった世界に突然起こった悲劇。
 それに心を痛めているのだ。
 それと同時に……。

「な、なんでも……」

 ドルイドは不謹慎ながら、その言葉に動揺してしまった。
 女王にも劣らない……一部では女王よりも人気があるフィアーナのような絶世の美女が自分のような男に「なんでもする」と口にすれば、どんな男でも動揺してしまうだろう。
 それに、フィアーナの服装も問題だ。
 まだ着替えていない彼女は厚手のローブのような衣服をまとい、しかも所々が破れて素肌や下着の一部が覗けてしまう。
 そんな彼女が懇願するように頭を下げれば、エルフとは思えないほど豊満な胸の谷間が露になり、そこへ視線が向いてしまうのを止められない。
 ゴクリ、とドルイドが生唾を飲み込んだ。
 そして……。

「それは……また。なぜそれほどまでに――お仲間の敵討ちですか?」
「は、はい――」

 けれど、フィアーナはその言葉に少しだけ返事を詰まらせた。
 そこに感じるものがあったのは、財務大臣として多くの人……要職に在り、一枚も二枚も舌が回る老獪な有力者を相手にしてきたからか。

「他にも何か?」
「いえ、他には何も……」

 そんな言葉とは裏腹に、フィアーナは先ほどまでの勢いを失い、視線をドルイドから外してしまう。
 けれどその白雪のような美しい肌にはうっすらと朱が浮かび、エルフ特有の長い耳まで赤くなってしまっている。
 そんな状態のまま胸の下に腕を置けば豊満な胸が更に強調され、反対の腕は下半身へ……まるで股間を守るように置かれた手が、僅かに揺れる太ももの間に挟まれていた。

(……これは?)

 明らかに過剰な、そして男を意識した動きだとドルイドは感じた。
 フィアーナらしくないとも思う。
 いつも凛として女神ファサリナに祈りを捧げ、ドルイドの好色な視線に強気な態度で返していた彼女とは別人のようだとも思う。
 そんな彼女が恥ずかしそうに身を竦め、胸や股間を守るために両手を置いている。
 むしろそんな事をすれば余計に男の目を惹いてしまうということを……知らないはずはないのに。

「まあ、フィアーナ殿が女王様へ任務の報告をするのは当然ですし、私は否定しませんが……」
「そ、そうですか?」
「ですが、もし今の話を他の貴族たちに話したらどうなるか……は、分かりませんな」

 いつもなら絶対にしないだろう、強気な女騎士を相手にしての駆け引き。
 失敗すれば失うものの方がはるかに大きい博打であり、確実な勝算が無ければ挑めない類の選択。
 けれど、ドルイドは恥ずかしそうに身を縮こまらせるフィアーナの色香に惑わされ、気付いた時にはそう言ってしまっていた。
 吐いた言葉は呑み込めない。
 ――フィアーナはドルイドの言葉を聞くと、驚きに目を見開き、そして悔しそうに唇を噛む。
 服の上からでもそうと分かる豊満な胸の下に回された腕に力が籠ると、余計に胸をしたから持ち上げて強調してしまう。
 破損した服の隙間から覗いていた谷間が更に深くなり、両脚が内股気味になる。
 ……けれどそれだけだ。
 侮蔑の言葉も、軽蔑の視線も無い。
 フィアーナは顔の赤みを強くしながら視線を外し、無言のままその場から動かない。
 その頭の中では、部下たちの無念を晴らし自身の恥辱を雪ぐことと、これからドルイドに要求される事とを天秤にかけ……。

「…………お願いいたします、ドルイド卿。このことは、他の方々には内密に……」

 その言葉に驚いたのは、ドルイド自身だ。
 色香に惑わされたとはいえ、優秀な騎士相手に侮蔑とも取れる言葉を履いて無事に済むとは思っていなかった。
 平時なら、彼女の腰にある剣で『侮辱された』として斬り裂かれても……。

「おや、フィアーナ殿? 腰の剣はどうなさったのですか?」

 ドルイドはこの時になって彼女の腰にあるはずの名剣が無い事に気付き、聞いてみた。
 フィアーナはその事を話すのも悔しいのか唇を噛み……数秒の後。

「……スライムとの戦いで失いました」
「スライムとの? アレは確か、女王様から賜った名剣だったはず――それをスライム御コキとの戦いで?」
「――――ッ」

 それで弱みを握られたと思ったのか、フィアーナは一瞬だけドルイドへ強い視線を向け……けれどすぐ悔しそうに視線を外す。
 小心者のドルイドはその視線だけで背中に冷や汗を流してしまうが、次に見せた悔しそうで……そして、自分に抵抗できない女騎士の姿に興奮してしまう。

(これはもしかしたら、もっと深い事を聞けるのでは……?)

 そう思うと、ドルイドは半裸とも言える格好で自分の前に立つ銀髪の女騎士の美肢体を頭のてっぺんから足の先までじっくりと舐めるように視姦した。
 僅かに汚れが目立つが小奇麗に整えられた銀髪、エルフらしい長い耳、少し力を籠めたら簡単に折れてしまいそうな細い肩――そんな線の細さが嘘のように膨らんだ豊満すぎる胸。
 腰は内臓が詰まっているのかと疑問に思ってしまいそうなほど細く、更に視線を下げれば安産型の大きなお尻と、騎士として鍛えられた魅惑的な太ももと美脚。
 そんな、どれだけの金を払っても手が届かないような美肢体を持つ女騎士が、自分の前で悔しそうに美貌を歪めながら、けれど恥ずかしそうに耳まで赤くしてしまっている。
 抵抗する素振りは見せず、ドルイドの機嫌を取ろうとしている姿は格下の貴族令嬢たちに通じるものがあるけれど――それとはまったく状況が異なる。
 あいてはあの、このフォンティーユに置いて最強とも言われるほど優秀な女騎士、フィアーナなのだ。
 そんなフィアーナが、今まで妄想の中でしか劣情を抱くことが許されなかった女傑が、ドルイドの前に立っている。
 ボロボロになった衣服を着替える事もせず。
 ……それで興奮するなという方が不可能だ。

「まあ、他の皆様方に黙っているのは構いませんが――いくつか質問させていただいてもよろしいですか?」
「え?」

 ドルイドは数分前にも口にしたことを、もう一度言葉にした。
 確認のためだ。
 その表情にはいつ訴えられるか分からない緊張と、そしてこれからもしかしたら何度も妄想したフィアーナの美肢体を隙に出来るかもしれないという興奮から歪んだ強張りを浮かべている
 その表情から嫌な予感がしたが、フィアーナは屈辱と恥辱を雪ぐ機会を失いたくない一心で頷く。

「では――まずは、装備はどうなさったのですか?」
「装備、ですか?」
「ええ。騎士団が身に着けている装備は、元を辿ればこの国から支給されたもの。それをどこで紛失したのかと聞いているんです」

 何気ない質問だ。
 特に不穏な意味も無いように思え、フィアーナは正直に答える事にした。

「スライムに襲われた際に、脱がされました」
「脱がされた?」
「はい」

 フィアーナとしては『スライムから攻撃された』と伝えたかったのだが、けれど装備を脱がす魔物だなんてそれも常識ではありえず、そんな事を言えばドルイドからまた不審に思われてしまうだろうと考えての事だ。
 言葉を選んだ返事にドルイドは満足したのか、胸を抱いて身を縮こまらせるフィアーナの隣に移動する。
 視線には欲望が濃く表れ、それが胸に向いているのが嫌でも感じられて気持ち悪かった。

「この胸を守っていた鎧も、スライムに剥がされたのですか?」
「――――っ。ドルイド卿っ! それは――ッ」
「それは? 私の質問に答えていただけないなら、次は貴女の部下であるアルフィラ殿に質問するしかないですな」
「っ。あ、アルフィラには……」
(彼女はスライム相手に処女を失って、私より……)

 フィアーナの前では気丈に振舞っていたが、もしこんな質問をされたら……。

「わ、わかりました。答えますからアルフィラにはこのような事はやめてください」
「勿論ですとも」

 ドルイドはその言葉で、フィアーナの弱点を一つ握った。
 唯一の生き残った部下であるアルフィラは、フィアーナにとって大きな弱点だったようだ。
 運良くその事に気付けたドルイドはほくそ笑みながら――それでも抵抗しないフィアーナの態度にほくそ笑む。

「それで、鎧はスライムに外されたのですか?」
「は、い。そうです……」
「どのように?」
「え?」
「スライムとは粘液の塊でしょう? 金具を外したのか、それとも、鎧の下に潜り込んで破壊したのか……気になりまして」

 その質問の意図が分からず、フィアーナは疑問符を浮かべたまま返事をする。

「き、気絶させられて……気が付いたら、外されていました」

 実際には胸を揉まれた絶頂の衝撃と屈辱で気絶したのだが、そんなことを口に出来るはずもない。
 フィアーナが答えると、ドルイドが満足したように頷く。

「ほうほう――その知性の有るスライムというのは、鎧を外す知識も持ち合わせていると」
「はい……」

 その呟きの後、ドルイドが手を伸ばした。
 必要以上に刺激しないよう、腰に少しだけ指先が触れるだけ。

「――ッ」
「あの粘液の怪物が肌の上を這いまわって、スライムが鎧を外したのですか?」
「…………そ、それは答える必要があるのでしょうか?」
「勿論ですとも。どうやってスライムが鎧を外したのか気になりますし……もしかしたら、失敗を隠すための嘘、かもしれませんから」
「私は嘘などっ!!」
「分かっていますとも――ですが、スライムと言えば最も弱い魔物ではないですか。そんなスライムにどうやって負けたのか……事前に聞いておかなければ、私もフィアーナ殿の支援が出来ませんので」

 ドルイドは我ながらよく回る舌だと思った。
 聞いただけならそれっぽい事を言いながら、肥満体の貴族はフィアーナの腰に指を触れさせたまま質問を続ける。
 まるでナメクジのように太くて、丸くて、それでいて体温高い指だとフィアーナは思った。
 服の上からでも異物感が強い。気持ち悪い。
 その嫌悪感に耐えながら、女王レティシアへの面会、そして恥辱を雪ぐ機会を得るためにドルイドの支援を得ようとする。
 疲労困憊のまま城へ戻ってきたばかりでまだ動揺が抜け切れていないからこそ、そんな思考になってしまうのだろう。

「そ、そうです……鎧の下に入り込まれ……その」
「鎧の下ということは……」

 ドルイドはフィアーナがフォンティーユの城を出立する前の姿を思い出す。
 素早さを生かした戦いを得意とする彼女の鎧は最低限で、関節や胸を守る程度のモノ。
 だから、鎧の下に入り込んだということは……。

「……こうやって?」

 ドルイドの指が動いた。腰から腹部、臍の傍……そこから更に上へ向かって。
 少しずつ、ねっとりと。
 指先にボロボロになった衣服の感触と、フィアーナの体温を感じながら。

「っ」
「聞いているのです、フィアーナ殿。こうやって……スライムは、鎧の下に入り込んできたのですか?」
「………は、はぃ」

 フィアーナの美貌が真っ赤に染まる。
 恥辱に震え、屈辱に形の良い眉が「ハ」の字に下がっていた。
 あまりにも顕著な反応に、ドルイドの方も驚いてしまう。
 けれど抵抗が無い事を良い事に……そのナメクジのように太い指が、胸の下乳にまで触れてしまう。
 僅かに硬い下着の感触を感じながら、指先でその縁をなぞりながら横へ。

「そのスライムは、鎧の下でどのように動いたのですか?」
「そ、それは……」
「教えてください。もしスライムの話が真実なら、私もフィアーナ殿に協力いたしますので」

 方便だ。
 ドルイドはスライムの行為に羞恥心を感じているフィアーナの様子に興奮し、貴族らしい仕立ての良いズボンの下で不気味なほど股間を膨らませていた。
 偶然にもそれを見てしまったフィアーナはゴクリと唾を飲み、そして異様なほど腹の奥が熱くなってしまう。

(違う、こんな……)

 スライムとの情事を無理やり言葉にさせられ、思い出し、その動きに沿ってドルイドの指が服の上を這う。
 まるで肌を直接撫でられるような気持ち悪さを感じ、男の生理現象を目の当たりにして……だというのに嫌悪感や羞恥心と同じく、性的な興奮を覚えてしまうなんて。
 そんなことはあり得ないと、フィアーナはドルイドの前に立ったまま身を硬くした。

(違う、違う……違います、こんなのは……)

 自分にどう言い聞かせながら、深呼吸。
 肺一杯に冷たい空気を取り込もうとしたが、感じたのはドルイドの汗の匂いだった。
 とても臭い。
 男の匂い。
 ……それを肺いっぱいに吸いこむと、ドルイドが目に見えるほど大量に汗を掻いていることに今更ながら気が付いた。
 緊張しているのだ。
 肥満体の身体は油のようにねっとりとした汗で額と言わず顎まで濡らし、息を乱している。
 ゾッとした。
 恐ろしいと感じてしまう。
 同時に――その指が下着の縁に沿って動けば、凌○を思い出して興奮する身体が勝手に反応してしまう。
 弱い刺激だということも災いした。
 動けないまま一方的に、乱暴に犯された刺激とは全く違う弱い刺激に……ほんの僅かだが、物足りなさを感じてしまったのだ。

(ちがう……こんなの、こんなのは私じゃない……)

 そう言い聞かせるのに。

「ん……ぁ……」

 開いた唇から、小さな、耳を澄ませなければ聞こえないような小さな声が漏れてしまった。
 指で撫でられたくすぐったさではない。
 明確な……性的な刺激。
 スライムもそうだった。
 緊張感で身を硬くしているフィアーナに対し、緊張をほぐすために優しく触ってきた。
 ドルイドがそんなことを知るはずはないのに、けれど全く同じ動き。
 ゆっくりと、ねっとりと、嫌悪感を最小限にするための触れるだけの刺激――それは嫌でも、フィアーナにあの洞窟での凌○を思い出させてしまう。

「ドルイド卿……ゃ、やめてください。このようなことは……」

 フィアーナは精一杯の勇気を振り絞ってそう言った。
 自分から受け入れた事なのに、これ以上は何か嫌な予感がしてしまう。
 ――どうしても、頭からスライムの凌○が消えない。
 スライムが最初に行った優しい愛撫を思い出してしまうのだ。

「このような事? 私はフィアーナ殿が口にしたスライムの動きをなぞっているだけなのですが……なにが、このような事なのでしょうか?」
「え?」
「これはスライムの攻撃でしょう? まさかフィアーナ殿は、スライムに攻撃されて感じたなど……ないですよね?」
「そ、それはっ! 当たり前です!!」

 フィアーナはまるで馬鹿にされたような気がして強気に言い返したが、しかし直後にしまったと考える。
 表情が強張ったが、反対にドルイドはニヤリと笑う。

「なら問題ないではありませんか――それで、スライムはこの後どう行動したのですか?」

 あくまで『鎧の下に潜り込んだスライムの真似事』をするドルイドは、フィアーナから次の言葉を引き出そうとする。
 ここで否定すれば、自分は『スライムの攻撃で感じた女』と侮辱されるようで……フィアーナは目を伏せ、唇を噛む。

「それは……」
「それは?」
「……その、鎧の下を這い回って……私の胸を……」

 ドルイドから協力を得るために自分はなにを言っているのか。
 そんな思いもあったが、今更引けないという気持ちもある。
 何より、自分が断ればアルフィラに害が及ぶのだ……傷心の部下をこれ以上追い詰めたくない気持ちで、フィアーナは洞窟内でフレデリカたちに裏切られ、スライムに潜り込まれ――その粘液で胸を揉まれた時のことを口にする。

「胸を、揉まれました……」
「スライムに?」
「はい。服の下にまで潜り込まれて、胸を揉まれたんです……」
「ほほぅ、それは――」

 その言葉に、ドルイドの心臓が高鳴る。

(服の下に?)

 その言葉の通り、ドルイドはローブのいたるところに作られた穴から指を服の下に侵入させた。
 フィアーナの美肢体がドルイドの目の前でビクッと震える。
 その指先はフィアーナの体温と、そして緊張と興奮で浮いた汗を感じていた。

「フィアーナ殿? こんなに汗を掻いて、どうしたのですかな?」
「そ、それは……」
「貴女は状況を話し、私が真偽を確かめる……それだけのはずなのですが」

 けれどフィアーナの肢体は、まるで情事の最中にある女その桃の反応にしか思えなかった。
 肌は火照り、汗が浮き、そして僅かな指の動きにも反応してしまうほどの敏感さ。
 銀髪の女騎士がその肢体を興奮させていることは明らかで、ドルイドが指摘する。

「まさか――まさかですが」
「ち、違います! 違う、そんなことは……」
「まさか、スライムなんかが肌に触れ、胸を揉まれたことに感じたのですか?」
「――――ッ」

 ドルイドがわざとらしく大仰に言うと、フィアーナが身を強張らせた。
 同時に、更に一歩、その肥満体が近付く。
 身体と身体、服と服がぶつかり合うほどの接近。
 女騎士の美肢体に当たった男の肥満体が僅かに歪んでしまうほど。
 けれどフィアーナは他人の体温を感じて、さらに胎の奥を疼かせてしまった。

(ありえない、こんな――)

 立ち尽くして言わされるままだったフィアーナの後ろに、ドルイドが立った。
 身長はほとんど変わらない――ドルイドが後ろから腕を伸ばせば、丁度良い位置にフィアーナの豊満な乳房がある。
 そのままドルイドはボロボロの衣服の隙間から、両手で女騎士の肌に指を這わせていく。

「ですが、ほら」
「ぁ、だめです……ドルイド卿、止めてください……」
「ダメと言いながら――しかし抵抗はしないのですなぁ」

 ドルイドの言う通りだった。
 フィアーナは口では抵抗しているが、けれど身体は動かさない。
 指一本すら抵抗するどころか、むしろドルイドが触りやすいように胸を下から支えていた腕を下げてしまうほど。
 あの時フィアーナは剣を握り、スライムと相対していた。
 その時を再現するように、両手を腰の前に持っていく。

「わ、私は剣を構えていて……服の下に潜り込んだスライムが、邪魔をしてきたんです……」
「ほう。ということは、スライムは複数いたのですか?」
「はい……一緒に居た女性魔導士は、子供だと言っていました……」
「スライムの子供という事でしょうか」

 魔王が死んだことで、魔物が増えることはない。
 これはこの世界の常識である。
 ドルイドはその思考から『子供』という単語の意味を深く理解せず、小さなスライム程度の認識で考える。
 そんな事よりも……。

「では、フィアーナ殿は胸を揉まれながらスライムと戦ったのですな」
「え、えぇ……あっ……」

 ドルイドの手の動きが大胆になってきた。
 服の上と破れた隙間から豊満すぎる胸を揉む。
 下着の硬い感触を手の平に感じながら、最初は優しく、肌を撫でるような繊細さで。
 その太いなめくじのような指からは想像もできないような丁寧な動きだ。

「ぁ、そう……最初は、優しく……」
(私、こんな事を……)

 自分の口が信じられない。
 知っている相手とはいえ、再び戦場へ戻るためとはいえ、異性にこんなことを話すだなんて――。
 潔癖症というわけではないが、正常な貞操観念を持つフィアーナには自分の行動が理解できない。
 いやそれは……。

(また、お腹が熱く……)

 ……こんな状況で、スライムに犯された時のように身体を熱くするなんて信じられない。

「は、い……最初は優しく……」
「最初ということは、徐々に激しくなっていったのですかな? それとも突然?」
「わ、わかりません……ただ、気が付いたらすごく……」
「すごく?」
「…………これ以上は、必要ないはずです……っ」
「それを判断するのは貴女ではなく私です、フィアーナ殿。貴女はどうやってスライムと戦い、敗北したのですか?」
「……っ」

 ドルイドは退かなかった。
 いや、両手に感じる極上の感触に理性が薄れ、普段の好色な本性が表に現れてしまったのだ。
 フィアーナはいつも弱気で、卑屈とすら感じていたドルイドの変貌に動揺し、その質問を断れない。
 いや、心のどこかで『もう一度戦うために』と『アルフィラを守るために』という考えが浮かび……従ってしまう。
 自分よりも弱い相手に敗北する――スライムで経験した被虐的な快感を覚えてしまったからこそ、その先にある快感を知っているからこそ、フィアーナは従ってしまう。

「む、胸をずっと触られていました……戦っている、間……ずっと」
「胸を揉まれながら戦った、と」
「……は、はい」

 認めると、それだけで体温が上がったような気がする。

「どうやって負けたのですか?」
「胸を……揉まれて……」
「それで?」
「……集中力が乱れて……です」
「何故、集中力が乱れたのでしょうか? 胸を揉まれても、気持ち悪いならそれほど気にならないようにも思うのですが」

 ドルイドはフィアーナの反応から、そこで何が合ったのかをすでにある程度理解していた。
 なにせ、こうやって後ろから抱きしめるようにして胸に触れているだけでも息を乱しているのだ。
 ……フィアーナは最初の抗議が嘘のように黙ったまま、ドルイドの質問に答えている。
 その体温はドルイドの胸の中でどんどん上がり、服を着たままだというのに美女の汗が服に染み込んでくるかのよう。
 体温の上昇から『女の発情』を理解したドルイドは、更に行為を激しくしていく。

「……」
「フィアーナ殿? 何故、スライムという魔物に胸を揉まれて集中力が乱れたのか、と聞いているのですが?」
「それは……」

 気持ち良かったから、とは言えなかった。
 恥ずかしいし、何より魔物に触られて感じたということを自分から認める事が嫌で。
 だというのに、すでにその事に気付いているドルイドはフィアーナを急かす。
 ボロボロのローブと下着越しにドルイドの太い手でも包み切れない豊満な胸の表面を撫で、微弱な刺激を与えながら。
 ……たったそれだけの刺激で、フィアーナの細い腰がピクン、ピクンと跳ねるのだ。
 その反応が面白くて、ドルイドは質問しながら、フィアーナの反応を楽しむ。

「では、少し質問を変えましょう」

 数分ほどフィアーナの反応を楽しんだ後、ドルイドが言った。
 フィアーナはほっと安堵の息を吐く。
 けれど、彼女に襲い掛かる恥辱は変わらない。

「スライムはずっと優しく触っていただけですか?」
「……え?」
「貴女は、こうやってずっと優しく触られたまま戦ったのですか?」

 それは、次に進むための言葉だ。
 フィアーナは理解する――敗北の瞬間まで、この辱めは続くのだと。
 同時に、ゾクリと背筋が、そして胎の奥が疼く。
 敗北の瞬間を思い出して。

「少しずつ……激しくなっていきました」
(あぁ……)

 言ってしまった、とフィアーナは思った。
 瞬間、その言葉通りに……少しだけドルイドの手が激しく動く。
 ナメクジのように汚らわしい太い指が、ボロボロのローブと下着の上から、そんな布切れでは隠し切れない豊満すぎる胸へ沈み込んだ。
 ほんの少しだけだ。
 けれど、刺激が強くなる。
 ゾクリと、背筋が震える。
 ビクンと、肩が震える。

「ぁっ」
「おや? どうしました、フィアーナ殿?」

 フィアーナが隠し切れない快楽に染まった声を上げた瞬間、まるで今気付きましたと言わんばかりのわざとらしい言葉がドルイドから放たれる。
 ……その間も、巨乳に食い込んだ指は動き、まるで牙で食むように食い込んでくる。

「ぁ、いえ……っ……その……」
「それでは、徐々に胸を揉んでいたスライムの動きが激しくなっていった……と」
「はい」
「その刺激で集中力を乱してしまい、負けてしまったのですね?」
「……はい」

 一つ一つ、敗北の原因を口にさせられる。認めさせられていく。
 頭が変になりそうな屈辱と恥辱なのに……フィアーナの両脚は内股気味のまま太ももを擦り合わせ、腰が勝手に上下してしまう。
 フィアーナ本人は気付いていないが、腰が上下う動いたことで胸にも劣らない豊満なお尻が動き、ドルイドの股間を刺激してしまっていた。
 まるで今以上の刺激を求めるように、ローブとショーツ、ズボン越しに男性器を優しく包み込む。

「おっふ……」
「……ドルイド卿?」

 ドルイドがその刺激にたまらず奇妙な声を上げると、フィアーナが心配そうな声を出しながら肩越しに振り返った。
 美人のそんな仕草にも色香を感じながら、お返しとばかりにドルイドがフィアーナの胸をギュッと握った。
 根元から押し出すように、牛の乳を搾るように。
 根元から先端に向けて、握りながら手を動かす。

「は、ぉ……ッ」

 その刺激に肩越しに振り返っていた美貌が眉を「ハ」の字に垂らし、艶やかな唇を開いたまま舌を覗かせ、鼻の穴まで膨らませた情けない姿。
 女王レティシアにも比べられるほどの美貌がだらしない顔へと変わったのはほんの一瞬。
 けれどその一瞬を見逃さなかったドルイドは、スライムからの凌○で感度が増したフィアーナの反応に気を良くしていく。

「まさか、この程度の刺激で敗北したのですか?」
「ち、ちが――」

 フィアーナは敗北していないと言いたかったが、ドルイドは『もっと気持ち良かった』と勝手に解釈して手の動きを激しくする。
 片腕五本、両手で十本の指の動きが変わった。
 変わったとフィアーナは思った。
 今までの優しい刺激ではないとわかる――明らかな変化だ。

「あ、あの……っ」
「これは確認です、フィアーナ殿。それでは、報告の続きを」

 後ろから肥満体の男に抱きしめられ、胸を揉まれる。
 こんな状況で報告も何もない――と思うが、フィアーナはその言葉に逆らえない。
 上昇した熱と状況が思考力を奪い、ドルイドの命令に従って口を開いてしまう。

「それで、スライムの動きはどのように激しくなったのですか?」
「どのように……?」
「このまま胸を揉んでいたのか……それとも」

 そこで言葉を切ると、ドルイドの両人差し指がトン、と優しく胸の先端を叩いた。
 服と下着越しでも隠し切れないほど固くなった、乳首。胸の先端。
 そこを叩かれると、フィアーナの熱がまた一段上がる。

「どうなのですかな?」
「……そ、れは……」

 けれどそれは、まるで自分から「乳首を触ってくれ」と言っているようなものではないか。
 そう考えると、フィアーナは羞恥心が勝って返事が出来ない。
 十数秒の後、その反応の意味を理解したドルイドはその耳に口を寄せる。
 エルフの長い耳。
 そこへ息を吹きかけるように。

「では、頷くなどで返事をしてくださって結構です。乳首を触られましたか?」

 その質問に、フィアーナはすぐに首肯した。
 触られたのは本当だ。嘘ではない。
 ……嘘ではないけれど、自分から認めてしまったことが恥ずかしい。
 まるで少女のように頬を赤らめながらフィアーナが顔を伏せると、ドルイドは彼女の見事な銀髪に顔を埋めながら指を動かす。
 十本の指それぞれが異なる石を持っているような複雑な動きだ。
 度の指も繊細で、力強く――その中でも人差し指が、服の上から乳首を押す。
 ギュッと。第一関節まで沈み込むほど強く。

「オっ」

 伏せたフィアーナの唇から、低い声が漏れた。
 同時に、全身が震える。
 人差し指から力を抜くと、見事な張りと弾力によって指が押し戻され――また第一関節まで乳首を押す。

「ア、 ぅっ!」

 どうやら、フィアーナはとても乳首が弱いようだった。
 ……まさか何十時間も嬲られ続けて敏感になってしまったなどと想像もしないが、ドルイドはフィアーナの弱点を見付けるとそこを重点的に刺激し始める。
 人差し指を刺したまま胸を揉んだり、服の上から人差し指と親指で乳輪ごと摘まんで扱いたり。
 下着の裏地に擦れる硬い刺激が特に気持ちいいのか、服の上から扱くとフィアーナの全身が激しく震え出した。
 両脚は踏ん張っていないとも謳っていられないように揺れ、力が抜け、背後に立つドルイドに背中を預けてしまう。

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