flower spiral 2021/05/13 23:09

アルトボイス彼氏 沙月奏太 前日譚④

・販売予告はこちら
https://www.dlsite.com/girls/announce/=/product_id/RJ325675.html

「……私、馬鹿だ」
奏太くんとフードフェスに行く当日。
私は楽しみすぎて、待ち合わせの場所の駅に、三十分もはやくついてしまった。
(どうしよう。目の前にあるコンビニで、適当に時間をつぶそうかな……)
スマホを鞄に入れて、歩き出そうとしたとき、奏太くんがコンビニから出てきた。
私に気付いてくれているのか、まっすぐ向かってくる。
「えっ……奏太くん?」
「お、おぉ」
「あれ?待ち合わせって1時30分だよね?」
「用事が予定より早く終わったんだ。だから、早めに来て時間潰してた。あんたは?」
「えっと、あの……遅刻するよりいいかなと思って、早めに来たの」
「……あんた、真面目だな」
「そ、奏太くんよりは、不真面目だよ」
「ははっ……なんだよそれ」
おかしな返しをしてしまったのに、面白いという感じで笑ってくれた。
どうしよう。まだ、目的地についていないのに、すごく楽しい。
「めちゃくちゃ運動してきたから、すげぇ腹減った。早く行って色々食べようぜ」
「うん!」


フードフェスティバルの会場は、たくさんの人で賑わっていた。
大きな公園の広場や道を利用して開催されているので、客層も家族連れから私たちと同年代くらいまで幅広い。
焼きそばのいい匂いが鼻をくすぐってくる。
「はぁ……食べ物のにおいって食欲をそそるよね……」
「そうだな。まず、どこから行く?あんた、決めてくれていいぜ」
「ありがとう!」
私は事前にネットから印刷しておいた、フードフェスティバルのマップを鞄から取り出した。
赤いペンで、どこに行くかチェックを入れてある。
(まずはお昼ご飯になりそうなものを食べよう!)


和洋中問わず、私たちは事前にふたりで決めた食べ物を順番に買って、はんぶんこした。
「このオムそばチーズ、具が色々入ってて、すげぇボリュームだな。一個をふたりで分けて、ちょうどいい感じだ」
「牛タン、柔らかい……!いいお肉って、塩コショウだけで十分美味しい……!」
「そうだな。これと一緒に、飯が欲しい。あ、予定外だけどあのおにぎり買おうぜ」
「うん!」
「この地鶏南蛮サンドのタルタルソース、らっきょうが入ってるのいいな。すっぱ甘くて、軽く食える」
「パン自体も美味しい!食パンも売ってたから、買おうかな……」
ひとつのものをはんぶんこして、感想を言いあいながら食べることが、こんなに楽しいなんて、知らなかった。
一通り美味しいものを堪能した私たちは、ベンチに座って休憩する。
「ちょっとずつでも色々食べると、けっこう腹にたまるよな」
「私、デザートぶんくらいは余裕あります」
「マジか……。俺、ちょっと苦しい。かき氷メインのつもりで来たのに、調子にのって食べ過ぎた」
「えっ!?私のペースに付き合わせちゃって、ごめんなさい!」
「いや、俺も食べたかったし、楽しかったし」
本心からそう言ってくれているのが、明るい表情でわかって、ほっとする。
奏太くんはベンチに座ったまま、大きく伸びをした。
「もう少し休憩したら、腹ごなしに、歩いてもいいか?お土産系の店とか、軽く見てみたい」
「うん!」


マップを確認して、私たちはお土産系のエリアに着いた。さっきまでいたエリアと比べて、食べ物のにおいはあまりしないけど、干物系のしぶいお土産から、可愛いお菓子まで色々な出店がある。
奏太くんは地方から来ているお酒屋さんの前で足をとめた。
「へぇ……果物の酒も売ってるのか」
「パッケージ可愛い!どれも美味しそうだね。奏太くんは、どういうのが好き?」
桃のお酒を手にとりながら訊ねると、彼は眉をさげる。
「いや、俺は二十歳になるの来月だから……って、あんた誕生日すぎてたんだな」
「うん。友達が一人飲み用の可愛いお酒、いっぱくれたから、色々飲んでるよ。……奏太くんは6月のいつ?」
「18日だ」
「じゃあ、もうすこししたら飲めるんだね」
「おぉ。解禁になったら、あんたのおすすめ教えてくれよ」
「わかった!」
偶然にも彼の誕生日を知る機会を得て、嬉しくなる。
「誕生日過ぎたら、美味い酒を飲ませてやるって、言ってくれてる人がいてさ。けっこう、楽しみにしてる」
「そうなんだ?」
(奏太くんと初めて一緒に飲めるの……羨ましいな)
一瞬、そんな気持ちが頭によぎって、私は慌てて首をふる。
誕生日を過ぎたら、いつでも飲めるんだし、そういうふうに考えるのはやめよう。
そうだ!おすすめを教えて欲しいって言われたし、宅飲みに誘ってみるのはどうかな?
あ、でも……恋人じゃない男の子を一人暮らしの家によぶなんて、軽率な子だと思われる……?
(せめて誤解されないように、来月までに、もっと奏太くんと仲良くなりたい……)
「あんた、この店の酒、買うのか?」
「えっと……ひとつだけ買おうかな」
どれにするか悩んで、私は桃のお酒を買った。
「じゃあ、〆のかき氷に行くか!」
「うん!」
お酒を販売している店員さんから商品を受け取って、歩き出そうとしたとき――
後ろから子供の声が聞こえてきた。
「お姉ちゃんっ!よかった、みつかった!」
「わっ!?」
いきなり後ろから抱きつかれて、私は振り返る。
5、6歳くらいの男の子だ。彼は私の顔を見上げて、目を丸くする。
「あ……ごめんなさい……。ぼく……お姉ちゃん……ひっく……」
きっと、泣くのを我慢してお姉さんを探していたのだろう。
男の子は、ぽろぽろと涙を零して泣き出してしまった。
「うっひっく、うう……お姉ちゃん……お姉ちゃん……」
「ど、どうしよう……!?えっと、迷子だよね?」
「そうだな。とりあえず、落ち着かせようぜ」
奏太くんは男の子を軽々と抱き上げて、近くのベンチまで連れて行く。
男の子をベンチに座わらせて「大丈夫だよ。お姉さんがみつかるまで、私たちが一緒にいるから」と声をかけ続けると、ようやく泣き止んでくれた。
「君、お名前は?」
「……カケル」
事情をゆっくり聞くと、一緒に来たお姉さんとお菓子のお土産エリアで、はぐれてしまったらしい。
「下手にうろうろするより、迷子のアナウンスしてもらったほうがいいかな?」
「それが一番確実だな」
うつむいて不安そうなままのカケルくんに、奏太くんは優しく話しかける。
「とりあえず、肩車してやるから、案内所に行くまで姉ちゃんを探してみろ」
「ありがと!」
奏太くんは軽々とカケルくんを肩車した。
視界が高くなって楽しくなったのか、カケルくんははしゃぐ。
「前から思ってたんだけど、奏太くんって力持ちだよね」
「あー……関係あるか、わからねぇけど……一応、子供の頃から柔道やってる。今日も朝から道場に行ってきたんだ」
「すごいね!柔道って、なんか……カッコいい」
「そうか?あんたみたいに言ってくれた女子、はじめてだ」
「また今度、お話とか聞かせて欲しいな」
「お、おぉ……」
奏太くんは少し頬を染めて、咳払いした。
「カケル。姉ちゃんって、どんな感じなんだ?」
「えっとね。怒ると怖いけど、いつも優しいよ!」
「いや……性格じゃなくて、見た目とか年齢とか、どんな服をきてるとかを教えてくれ」
カケルくんは「んー……」と考えてから、私を指さす。
「このお姉ちゃんに似てる。服、おんなじ色。髪の毛もふわふわ」
「了解。じゃあ、似てる感じの女子、探しながら歩くぞ」
案内所に向かう道すがら、カケルくんから教えてもらった情報を元にお姉さんを探す。
目を凝らして遠くまで見て歩いていると――
「あっ!!お姉ちゃんだ!!おねーちゃんっ!!」
カケルくんが見ているほうに視線を移すと、高校生くらいの女の子が走ってきた。
奏太くんが彼を肩車から降ろす。
ふたりは、ぎゅっと抱き合ってから私たちに頭を下げてきた。
「ありがとうございます!私がしっかりしてなかったせいで、おふたりにご迷惑をおかけしました……。本当に、みつかってよかった……」
「無事会えたんだし、そんなに落ち込まなくていい。あんた、良い姉ちゃんだと思うぜ」
「っ!」
「もうはぐれないように気をつけろよ」
「はいっ、ありがとうございました!」
「カケルくん。お姉さんの傍から離れちゃダメだよ」
「うん!」
奏太くんは穏やかな眼差しで、ふたりを見送る。
「すぐにみつかって、よかった……」
「そうだな。せっかく遊びに来たのに、嫌な思い出が残ったら悲しいからな」
私たちは、お互いを見て、笑いあう。奏太くんの言葉は、いつも優しくて胸が温かくなる。
(私……奏太くんのことが好きだな)
今日、一緒に遊ぶことができて本当によかった。
告白はまだできないけれど、このイベントをきっかけにして、これからもっと仲良くなりたい。
また、一緒に美味しいものを食べて、楽しくお話したい。
……お付き合いも……いつか、できたらいいな。
(奏太くんに好きになってもらえるように、頑張ろう……!あ、今日のことも友達に報告しなきゃ……!)
「じゃあ、今度こそかき氷、食べに行くか」
「うん!」
いそいそとかき氷屋さんに行くと、ちょうど誰も並んでいなかった。
奏太くんはマンゴーのかき氷を注文した。
「あんたは、どうするんだ?」
「実は……悩んでるの。……濃厚イチゴ氷かミルクチョコイチゴ……どうしよう」
「お客様の好みによりますが、今日は濃厚イチゴ氷が一番売れてますね!氷自体もイチゴの果汁がたっぷり、まわりにも瑞々しいイチゴがいっぱいのってるので、イチゴがお好きでしたら、おすすめですよ!」
「うっ……じゃあ、濃厚イチゴ氷の一番大きいサイズでお願いします!」
「かしこましりました!」
店員さんからかき氷を受け取った私たちは、近くにあったベンチに座った。
今日はたくさん歩いて汗をかいたので、かき氷は〆にちょうどいい。
「わぁ……すごく美味しそう!」
「あ、俺のも、先に食べてみるか?」
「いいの?ありがとう、食べる!」
私は自分のスプーンで奏太くんのマンゴーかき氷を少しだけ削って、口にはこんだ。
すると、奏太くんはクスッと笑う。
「……なに遠慮してるんだよ。もっと、いっぱいマンゴーのところもすくえよ」
「え、でも……」
「いいから。ほら、食えって」
奏太くんは、まだ使っていない自分のスプーンでマンゴーをすくう。
そして、私の口に近づけてきた。
「早くしないと、溶けるぞ」
「っ!」
反射的に、ぱくりと食べてしまう。
肉厚なのに柔らかいマンゴーは少し噛んだだけで、トロッとけていった。
「お、美味しい……!」
「そりゃ、よかった。俺も食べ……」
笑っていた奏太くんは、はっとした顔をして、しゃべるのをやめる。
彼も間接キスになってしまうと気付いたみたい。
(ど、どうしよう!?)
私が内心、おろおろしていると――
奏太くんは、すごく真剣な顔をして、かき氷を食べ始めた。
(い、嫌じゃなかったかな?)
これ以上、彼の口元をみつめていると、変に思われてしまうだろう。
(今は自分のかき氷に集中しよう)
大きく口をあけて、かき氷とイチゴを食べようとしたとき、前を通り過ぎた二人組の男子と目があった。
「うわぁ、でっけー!あれひとりで食うの?マジで?」
「やば、金かかりそう。俺だったら無理」
「オレもカノジョにしたくねー!」
ゲラゲラと笑う声につられて、周りの人たちが私に注目してくる。
何人かは目配せしてクスクスと笑っている。指をさして、なにかを話してる人もいた。
(は、恥ずかしい……!でも、それよりも――)
一緒にいる奏太くんに嫌な思いをしてほしくない。
私は、できるだけ明るい調子で言った。
「ご、ごめんね!私なんかと恋人に間違われたら、迷惑だよね!あはは……」
「無理して笑わなくていい。今通ったやつらが言ったことなんか、気にするな」
「!」
慰めてくれる奏太くんの優しさに泣きそうになる。
「俺は、美味しそうに食べてるあんたの顔、すげぇ可愛いと思ってる」
「……え?」
彼の言葉に混乱して涙がひっこんだ。
なぜか奏太くんは遠くを見て、すうっと息を吸い込む。
「もし彼女でも、俺はぜんぜん迷惑じゃねぇし、可愛いと思うし!!他人の気持ちなんて、どうでもいい!」
つられて奏太くんがみているほうへ視線を移すと、さっきの二人組の男子と目があう。
彼らは一瞬、気まずそうな顔をして、早足で去っていく。
奏太くんは溜飲がさがったとう顔で、ふんっと鼻を鳴らし、私をみつめてきた。
「ごめんな。今のは俺がスッキリしたかっただけだ」
「……っ、そんな……庇ってくれて、ありがとう……」
「お、おぉ……」
奏太くん、本当に良い人だな。それから可愛いって――
(っ!?)
今、奏太くん……私のこと可愛いって二回も言ってくれた?え?可愛いって、誉め言葉だよね?
『もし彼女でも、俺はぜんぜん迷惑じゃねぇし』
それって、私と付き合ってもいいってこと……?
「……どうした?」
「あ……えっと……」
私、今……変な顔になってないかな?口、おおきく開けすぎてないかな?
奏太くんが好きだって言ってくれた、可愛い顔で食べれてるかな?
彼の視線が気になって、手が止まってしまう。
「っ……」
長い沈黙の後、奏太くんが溜息をはく音が聞こえた。
慌てて彼を見ると、かき氷を勢いよく食べはじめる。
奏太くんの視線が外れたことで、ようやく私も自分のかき氷を食べることができた。
でも、さっきの好きと言ってもらえたことが気になって、ぜんぜんかき氷の味に集中できない。
ドキドキして頭が熱くなっているのに、かき氷は私の身体を冷やしてくれない。
(これを食べ終わったら、どういう意味かって聞く……!)
――急いで食べ終わって一息つくと、彼は、こめかみを手の平で叩いて唸っていた。
「あ、あの……大丈夫?」
奏太くんは私から目をそらしたまま「おぉ」と答えてくれた。
なんだか様子がおかしい。きっと私が上手く返事できなかったせいだ。
「奏太く――」
「……ごめん。俺、余計なこと言いすぎたな」
「え?」
「食べたいものは制覇したし、帰るか」
奏太くんはベンチから立ち上がり、出口に向かって歩き出した。
私も慌てて腰をあげて、彼のあとを追う。
奏太くんは私が横に来たのを見て、ぽつりと言った。
「あのさ……。さっき、言ったこと……ごめんな」
「え……?」
「だから……。俺なんかに可愛いとか言われて、困っただろ?」
誤解されているのだと分かって、私は、とっさに彼の腕をつかんだ。
「そんなことない!奏太くんにほめられて、困ったりしてない。すごく……嬉しかった……」
「……嘘つくなよ。俺があんたを可愛いって言ったあと、あからさまに固まってただろ」
「それは」
「気を使わなくていい。マジで悪かったな。あんたのこと、馬鹿にしたやつらに腹がたって、余計なことまで言ったな」
「だから、違うよ!私、奏太くんに……可愛いって思われ続けたくて……!い、意識しすぎて、普段の食べかたが、わからなくなって固まってたの……!」
正直に言うと、彼は赤面する。私は奏太くんへの気持ちを勢いのままにぶつけた。
「そ、それから……彼氏に間違われてもいいって、言ってもらえたの、嬉しかった……」
「あんた……」
「奏太くんこそ、私が可愛くみられようとしたって聞いて、狡い子って、がっかりしなかった?」
「そんなことない……!俺は、今もあんたのこと可愛くて、いいやつだって思ってる!」
奏太くんは頬を真っ赤にしたまま、まっすぐ私をみつめてくれた。
「なんでも美味しそうに食べる、幸せそうなあんたが好きだ。だから、俺の前では気にしないで、いつでも、好きなだけ食べてくれていいっ!あんたが嫌な目にあったら、ちゃんと守ってみせる!」
「っ!そ、それって……あの……えっと……」
「だからっ、その……つまり……」
奏太くんは私と向きあって、そっと両手で肩に触れてきた。
「あんたが嫌じゃないなら、俺と付き合ってくれ。……俺は、あんたの彼氏になりたい」
奏太くんの告白に、私は泣きそうになる。
彼も私を好きだと言ってくれていた。
夢のような現実に、じんわりと幸せな気持ちがこみあげてくる。
(私……いつも優しくしてくれる奏太くんの、特別な存在になれるんだ)
嬉しいのに目の奥が熱くなって、唇が震えそうになる。
今、涙を見せたら、奏太くんに心配されてしまう。
だから、私は精一杯の笑顔でこたえた。
「あ、ありがとう。……私も……奏太くんの彼女になりたい……です」
「マジか!?」
大きな声に、通った人が驚いた顔をしてこちらを見てくる。
奏太くんは、とりつくろうように咳払いしてから、私の耳元に唇を近づけてきた。
「……じゃあ、今からあんたは俺の彼女ってことで、いいか……?」
「う、うん……」
吐息混じりの声が、くすぐったくて、返答がどもってしまった。
奏太くんは頬を染めて微笑んだあと、少しだけ拗ねるような口調で言った。
「あー、くそ……。こんな事故みたいな告白するなんて、思ってなかった」
「奏太くん、かっこよかったよ!いつも、奏太くんは優しくて、素敵だよ」
「お、おぉ……そっか……」
まっすぐ伝えると、奏太くんは視線を泳がせて口元を隠す。
「……お、俺も……あんたのこと、いつも可愛いって……思ってた」
「ほ、本当?」
「あんた、バイト先でも明るくて感じいいし。笑ってる声とか聞いてると、こっちも元気なれて――って、なに言わせてるんだよ!?」
「えっ、ご、ごめんなさい……?」
「あ……いや、今のは俺が悪い。ごめんな」
奏太くんは頬をかいて、幸せそうに笑う。
「今日は、すげぇ楽しかった。また、こういうのあったら来ようぜ」
「うん、探しておくね!」
「俺もあんたに喜んでもらえそうなイベント、探しとく。……食べ物系がいいか?」
「食べるのは大好きだけど、奏太くんと行けるなら、どこでもいいよ。……遊ぶ系のデートも、してみたい」
「わかった。……これからは、そういうの、もっと話しような。……あんたのこと、教えてくれ」
今までよりも、さらに優しい甘い声に、ドキッとする。
「……私も、奏太くんに聞きたいこといっぱいある」
奏太くんは「おぉ」と照れくさそうに笑ってから、はっとした顔になる。
「店長たちに、俺らが付き合うこと言ってもいいよな?」
「うん。そうしたほうが、多分お休みもとりやすいよね」
「……もし、叔母さ……副店長に冷やかされたら、言えよ。あの人、俺に彼女ができたってわかったら、めちゃくちゃはしゃぐと思う。先に謝っとくけど、ごめんな」
「私、奏太くんの彼女になれて嬉しいから、気にしないよ」
奏太くんは「……あんた、けっこう恥ずかしいこと平気で口にするよな」とつぶやく。
そして、考える素振りをしてから、なぜか自分の手をシャツで拭いた。
「……とりあえず……手とか、繋いでみるか?」
「う、うん!」
手を差し出すと、奏太くんは優しく繋いでくれた。
男の子の手って、こんな感じなんだとわかって、ドキドキが増していく。
(私……奏太くんの彼女になれたんだ……)
これからは、デートでお出かけができるし、手を繋げる。
浮かれて、手をそっと揺らすと、奏太くんも真似して揺らし返してくれる。
家に帰ったあとも、私の胸は幸せな気持ちでいっぱいだった。

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