兄嫁の淫らな裏の素顔
#01 画面の向こうの義姉の痴態
画面のなかの女性は、極度に緊張しているように見えた。自らの肩を抱き、何度も不安げに、周囲に視線を送っている。
「あ、あの……本当に、撮るんですか」
その声を聞いて、通隆(みちたか)は目を見開いた。
——そんな……。
信じられなかった。DVDに添えられていた紙面を読んだ時も、まさかとは思っていた。
これが悪質な悪戯で、それを否定したい一心で、通隆はDVDを再生してみたのだが、聞き覚えのある声を耳にして、にわかに心がざわめきはじめていた。
いや——声もそうだが、女性の唇のすぐ右隣にある黒子(ほくろ)と、首の鎖骨のくぼみのところにある古い傷痕を目にした瞬間、心臓がありえないほどに激しく、鼓動を刻み始めるのを、道隆は自分の躰(からだ)ではないかのように、意識させられていた。
黒子も傷痕も、兄嫁の肉体の特徴であり、特に鎖骨の傷は道隆が自分の過ちで与えてしまったものなので、見誤ることはないと思われた。
画面の女性はかなり、エロティックな恰好をしていた。四月には大学の入学が決まってはいるが、まだ身分上は高校生である通隆には、刺激的すぎると言えた。
通隆も、今日びの若者であり、アダルトチャンネルの配信サイトや動画のダウンロード、インターネットで流布されているライブチャットなどで、18禁コンテンツは目にしてきているが——どのような人物であれ、知り合いかもしれない女性の、そういうシーンを前にして、とても平静でいられるはずがなかった。
女性は下着を身に着けていたが、布地の部分が少なく、とても下着の役を果たしていなかった。
豊かとは言えないが、さりとて貧乳でもない胸が剝き出しになっており、褐色のシースルーのレース地が、お腹の部分をわずかに覆っていた。それも前が開いており、へそとその周辺の、日焼けなどいっさいしていない白い肌がのぞいていた。ハイレグのパンティーも幅が狭く、陰唇をわずかに隠しているだけだった。
腰にはガーターベルトを巻いており、黒のストッキングをむっちりとした太腿まで、吊り上げていた。さらに顔には、幅のあるアイマスクをしており、それが素顔をさらすのを防いでくれていた。
「もう、忘れたのか、さつき。今日のことは全部、撮影すると、言っていたはずだが」
画面の向こう——映像に映し出されてはいないが、男の声がした。その声には聞き覚えがなかったが、女性をさつき、と呼んだことに、通隆はショックを受けていた。
さつき——紗月。声では字面がわからないが、それは義姉と同じ名前だった。
男が現れ、女性の背後に立った。さつきの胸を掴んだ。
男はパンツを穿いているだけの、半裸だった。背がかなり高く、胸板も厚かった。特に腹筋が割れているのが、印象的だった。
その男が、つんと上を向いたさつきの乳首を、指先で探り当てると、弄(いじ)ってきた。
——そんな汚い指で、紗月さんに触れるな!
道隆の怒りの言葉はしかし、実際に声に出されることはなかった。そのさつきという女性が義姉であるとは、通隆はいまだに認めることはできなかった。
道隆は唇を噛みしめると、じっと画面を睨みつけた。
さつきの胸は形がよく、立っていても釣り鐘型を維持し続けていた。童貞である道隆には、胸の形から年齢を当てることはできそうにないが、垂れてはいなかった。手で包み込めば、片手でも余すことなく隠れてしまうほどだが、じっとその胸を見つめていると、美麗さにため息が出てきそうだった。
さつきが男の愛撫から逃れようと、身をよじらせた。が、背後の男は反対側の肩をつかむと、上体を反らさせた。乳首を摘んだ。
「やめて——乳首に、爪をたてないで下さい」
「そうかな? 本当は、レ○プ同然の荒々しいセックスが好きなんだろう。違うか」
「ち……違い、ますぅ」
「違いないさ。……さつき、お前はおれの、何だ」
さつきは、口を開きかけ、それから唇を真一文字に結んだ。
「いいのか。調教をここで、止めてもいいんだぞ。お前以外にも、性奴○になりたい奴は、いくらだっているんだからな」
「い、言います。だから、調教を止めるなんて、言わないでください」
さつきは顔をあげ、懇願するように言った。
「わたしは――」
「わたし、じゃないだろう」
「……さつきは、快楽を得るためなら、夫や弟を裏切る――裏切っても構わないと思っている、淫らな牝犬です」
「夫や弟と、おれとでは、どっちを愛しているんだ」
「それは――」
さつきが言い淀んでいると、男に顔をつかまれた。振り向かせられると、舌がさつきの唇を割って入っていった。
「ん……んフン、は、あぁッ!」
さつきは嫌がる素振りを見せながらも、キスには積極的に応じた。舌先を合わせると、にちゃにちゃと画面から直接、音が聞こえるような、濃厚なキスをはじめた。
唾液が垂れるのも構わず、舌が空中で絡み合い、唾を啜り、男の舌を朱唇で挟んだり、舌と舌で粘膜を擦り合わせたりしていた。
まるで、恋人のようなそのキスに、通隆は頭を殴られたようなショックを受けた。
強引に迫られるのなら、まだいい。が、これではまるで、愛し合っているふたりが、キスをしているみたいではないか。
男は、キスを中断させると、耳もとで何事かを囁いた。
道隆は思わず、DVDを再生させているパソコンのスピーカーに耳を寄せたが、相手が何と言ったか、聞き取ることはできなかった。
さつきが、顔をあげた。
アイマスクをしているが、向こうからはピンホール越しに周囲が見えているのだろう。こちらをじっと見つめてきたので、通隆は目が合ったような気になり、どきりとさせられた。
「はい。わたし、さ、さつきは、ご主人様である宗治(むねはる)さまを、あ、愛しております」
「夫や弟よりもか」
「はい。夫も弟も、もう愛してはおりません。さつきに快楽を与え、調教してくださる宗治さまだけを、心より、あ、愛しております」
男――宗治は、さつきの言葉を聞いて、満足したようだった。嗤ったのが、画面に映り込んだ。
「では、告白をするんだ。弟くんを裏切って、明後日から何をすることになっている」
「それは――」
さつきが、義姉と同じ首筋のところできれいに切りそろえた黒髪をまとわりつかせながら、首を横に振った。
アイマスクの下から涙の筋が流れ出していることに、道隆は気づいた。それはまるで、さつきがこれから語ることは本心からのものではなく、仕方なく宗治に言わされているのだと、伝えようとしているように感じられた。
「明後日から三泊三日の間、ホテルで種付けセックスをしてもらうことになっております」
道隆は目を見開いたまま、さつきの言葉を聞いていた。普段はお淑やかな、その義姉とかなり似ている声での、『種付けセックス』というどぎつい表現に、どきどきとさせられたが、確かに紗月は今日から友達と、温泉旅行に出掛けると、聞かされてはいた。
種付けセックス——その言葉から、通隆の頭の中に、紗月が正常位や側位、抱き合っての対面座位、淫語を口走りながらの後背位、恋人つなぎをしながらの騎乗位など、様々な体位で犯されているところが、閃いた。
これまで、通隆も年頃ではあるので、義姉のそういうシーンを思い浮かべては自慰に耽(ふけ)ったことはあった。が、実際に姉がそういう目に遭わされると考えただけで、胸を締めつけられるような痛みが走った。
しかし、それ以上に、ペニスがズボンを窮屈に感じさせるほど、エレクトしてしまっていることが——義姉が自分以外の男とセックスをし、淫らな声をあげている姿を想像し、それに興奮してしまっている自分が、ただ、腹立たしかった。
「くそッ!」
通隆はパソコンの前から離れると、自分の部屋を飛び出していった。
★ ◆ ■
洗面所で頭から水をかぶり、文字通り頭を冷やした通隆は、滴が目に入るのも構わず、正面の鏡を見つめた。
鏡の中の自分と、目が合った。怒りを心に留め、絶望に抗しようと足掻いている顔。
——今の自分の表情を言葉で表すと、そうなるだろうか。
シンクに両手をつき、顔を俯かせると、先刻から続く邪念を振り払うように、激しく首を横に振った。
深呼吸をすると、だんだんと頭の中が澄み渡って来るような気がした。股間のペニスも、興奮状態から半勃ちになりつつあった。
洗面所から出ると、道隆はリビングの中を歩いていった。普段は義姉とふたり暮らしで、たったひとりがいないだけなのに、家の中はがらんとしているように感じられた。見慣れたリビングのテーブルやテレビ、ソファーやチェストなどが別の家のもののように思える。部屋の中の空気までが、淀んでいるようだった。
――道隆くん、どうしたの。そんな顔をして。何か悩んでいることがあれば、お姉さんに話してみたら?
もし今、ここに紗月がいればきっと、そんな風に話しかけてくるにちがいなかった。
——ん……んフン、は、あぁッ!
不意に、先程のさつきの喘ぎ声が耳もとによみがえり、道隆はTシャツの上から、心臓のあたりをぎゅっと握った。
と――まるで、道隆のその仕草をきっかけにしたように、ジーンズのポケットに入れていたスマートフォンがぶるぶると振動した。
びっくりしつつも、スマートフォンを取り出して画面を見ると、紗月からの着信を告げる画面が表示されていた。
反射的に道隆は通話ボタンを押してしまい、それから、しまった、と思ったが、もう手遅れだった。仕方なく、通隆はスマートフォンを、耳に当てた。
『道隆くん、今、大丈夫?』
聞き慣れた、紗月の声が聞こえてきた。
『大丈夫じゃなかったら、後でもいいんだけど』
「あー、う、うん。大丈夫だけど。どうしたの」
どうして、このタイミングで紗月は電話してきたのだろう。それを考えると、先刻見たDVDの『さつき』の痴態が目に浮かび、どす黒いものが道隆の胸を満たしていった。スマートフォンを握る手が小刻みに震え、心臓がどきどきと早鐘を打ち始めた。
道隆は落ち着きを取り戻そうと、紗月に気づかれないように、そっと深呼吸をした。
『う、うん。別にどうってことはないんだけど、今日って予備校も休みでしょ? 無事にこっちに着いたことを、通隆くんに報告したくって』
「無事に着いたって、そんなこと、わざわざ、電話して来なくったっていいじゃない」
『そッそうな——んだけど、みッ道隆くんに――』
紗月の声が急に、途切れがちになった。
「え? どうしたの。よく、聞こえないんだけど」
『で、電波状態がよく——ないのか、あッ、な……そこ、そこは、だ、だめッ』
「紗月さん?」
『だ、大丈夫だから。なッなんでもないから』
「紗月さん。もしかして、体調が悪いの」
再び、道隆のなかでどす黒いものが渦巻きはじめた。
『う、うん。ちょっと……ね。疲れが出ちゃったのかな。ねぇ、通隆くん』
「なに?」
『あ、あぁッ!』
急に、紗月の声が大きくなった。それと同時に、電話の向こうからぱちんぱちん、と何か柔らかいものを打ちつけているような音が聞こえてきた。
『そこは——駄目。来る、来ちゃう。も、もう、いく……あぁ』
電話の声を聞きながら、道隆は口のなかがからからに乾いていることに、気づいた。今すぐ、喉を潤したいと思ったが、足がどうしてもその場に貼りついたように、動かすことができなかった。
不意に種付けセックスという、DVDのなかで話されていた言葉が、頭のなかに浮かび上がってきた。スマートフォンを無意識に、握りしめてしまう。
再び、心臓が痛いほど鼓動を刻み、視界が暗くなった。立っていることができなくなり、道隆はその場にうずくまった。息が苦しい。
「さ、紗月さん――」
『通隆く……くん。ごめんなさい。こんな姉で――本当に、ごめんなさい』
電話の向こうの紗月の声は、泣いているようだった。泣いているのを堪えながら、紗月は言葉を続けた。
『ごめんなさい。でも、通隆くん。あ、あなたがどう思おうと、わ、わたしが愛しているのは……』
突然、紗月の声が聞こえなくなった。
「紗月さん?」
返事はなかった。スマートフォンの画面を見ると、通話は一方的に終了されていた。
通隆はもう一度、電話をかけ直そうとしたが、ボタンを押すことはできなかった。かけ直したところで、どうなるだろう。紗月に迷惑がられるかもしれないし、温泉地より遠く離れたここからではもう、どうすることもできないのだから。
叶うのならば——今すぐにでも紗月のもとに駆けつけ、彼女を自宅まで連れ戻したかった。
が、その決断を、通隆は下すことができなかった。
まず、先立つものがないし、紗月がどこの温泉宿に宿泊しているのかも、わからないのだ。
紗月の交友関係にしても、さっぱり心当たりがないし、それに——彼女が本当に友達と温泉旅行に行っているのかも、今となっては信じることはできそうになかった。
いや——たとえ、温泉宿にたどり着き、万に一つの奇跡が起こって、紗月を見つけ出すことができたとしても、彼女が道隆に従ってくれるのかどうかも、わからなかった。
紗月も、夫と死別して一年近くが経過しているのだし、そういう相手がいたとしても、何ら不思議ではない。先刻の電話のことだって、考えたくはないが、もしかすると、ふたりの同意の上で、そういうプレイをしていた、とも考えられる。
紗月が今も、通隆の見知らぬ男に抱かれているのかもしれない——そう思うだけで、嫉妬で狂いそうだった。
が、まだ学生である通隆には、どうすることもできなかった。両親と兄の遺産があるとはいえ、自立することもできない通隆を、紗月が振り向いてくれるとは、とても思えなかった。そういう意味ではまだ、通隆は紗月の庇護下に置かれていると言えた。
通隆はリビングの床から立ち上がると、スマートフォンをポケットにしまった。ため息をつくと、自分の部屋へと歩いていった。
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