ヒロイン工学研究所 2023/11/19 20:51

【座談会1_5】ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気

仮想ヒロピン座談会とは


「仮想ヒロピン座談会」とは、ヒロピンに関するテーマを掘り下げるために開かれた仮想の座談会で、管理人がAIとやり取りしながら進めた考察をマスター、ブレーン、トリックという架空の三者による座談会形式にまとめたものです。
仮想ヒロピン座談会の目的はヒロピンに関する議論をコンテンツ化することで、それを呼び水として読者から質問や意見を募集し、さらにテーマを掘り下げ、議論を豊富にしていくフォーラム的な場を作ることにあります。議題となっているテーマについて関心や質問がある方は是非コメント欄にご意見をお寄せ下さい。また、「こういうテーマを座談会で扱ってほしい」といった提案も募集しております。

議題:ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気 5回目

【マスター】
それでは「ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気」をテーマにした座談会の5回目を始めたいと思います。
まず前回のポイントをまとめると、
・優勢なのに不穏な状況においてヒロインが転落を予感していない場合、「この自信満々なヒロインがこの後一気に転落する」という期待感がサディズム的な興奮を生むので、見せかけの優勢状況のポジティブ側面を描くだけで転落の落差を上乗せすることができる
・どことなく勝利を既成事実のようにとらえてしまっているヒロインを描くことで慢心を表現できる
・慢心する姿は上手く描けば欠点をもつヒロインの可愛さや嗜虐欲を刺激する魅力的なポイントになる
ということでした。
このテーマに関する座談会はとりあえず今回で終了を予定しているので、今回はこれまでの議論を総括しつつ、このテーマを掘り下げることで得られた収穫を確認しておきたいと思います。

【ブレーン】
表面的な優勢状況の中に潜在する転落の可能性に注目して、「そのことに関する自覚がヒロインにある場合とない場合」という基本的な分類方法を採用したことにより、それぞれのタイプがもつマゾヒズム的方向性とサディズム的方向性がわかりやすくなった点が評価できます。

【マスター】
作者はまずそのシーンがどちらのタイプなのかを考えて、それぞれのタイプがもつ興奮形成のメカニズムに合った演出方法を考えられるというわけですね。

【トリック】
「優勢なのに不穏」という状況の特徴は「違和感」だけど、もっと本質的な言い方をすれば、それは「不協和」なんだと気が付くことができた。勝ちそうなのに負けそう。勝利のイメージと敗北のイメージが同時に存在していることが生み出す不協和。その不協和が奇妙な興奮を生むのがこのシチュの独特の魅力なんだ。

【マスター】
たしかに単純にヒロインがピンチになっているだけのシーンとは味わいが違いますね。

【トリック】
ヒロインに自覚があるケースではヒロインもその不協和を内面で感じ取っている。反対にヒロインに自覚がないケースでは、不穏な空気が漂っている中で勝利を確信しちゃってるヒロインの存在自体から不協和が生み出されちゃってる。

【ブレーン】
読者との関係で言えば、「ヒロインの中で発生する不協和を読者がともに感じる」関係と「ヒロインが発生させる不協和を読者が客観視している」関係ということになりますね。

【マスター】
その違いはシーンを作っていく上でどのような意味をもちますか?

【トリック】
不協和がヒロインの内面で発生しているなら描写や演出は悶々とするヒロインの内面に読者を感情移入させるようなものにした方が良いんじゃないかな。逆にヒロイン自身が不協和を発生させている場合は、読者には感情移入をさせるのではなく、客観視をさせてヒロインが浮いた存在になってしまっていることを認識しやすくさせるとか。

【ブレーン】
ヒロインに自覚がなくて自信満々であるときにヒロインの内面を描くのは効果的じゃないということですか?

【トリック】
いや、そうじゃない。ヒロインに自覚があるケースでもないケースでも内面を描くことは効果的だよ。でも内面を描くことと感情移入させることは別のことだ。ヒロインが転落の可能性を自覚して不安に苛まれているならそこに感情移入させてマゾヒスティックな興奮を生むことは可能だけど、読者が不穏さを感じているのに自信満々なヒロインに感情移入なんてしても興奮は生まれない。そういうケースで内面を描くのは感情移入させるためじゃなくて間違った方向に進んじゃってるヒロインを客観視させるためなんだ。

【マスター】
具体的な手法について掘り下げたいところですが、「ヒロピンシーンにおける視点の問題と演出方法」というテーマはかなり重要なものなので、また別の機会に譲りたいと思います。

【ブレーン】
「勝ちそう」と「負けそう」のように矛盾する認知が同時存在してしまう状況を心理学では認知的不協和と呼びますが、これに対するリアクションは二つあげられます。一つはもっとも代表的なもので、「矛盾する二つの認知のどちらかを強めたり弱めたりすることで矛盾を乗り越えようとする」というもの。もう一つは「この矛盾した状況の結末はどのようになるのか知りたくなる」というものです。

【マスター】
後者は読者がストーリーのその後の展開が気になってページをめくっていく推進力になりますね。これはおそらくヒロインに自覚があるケースでも自覚がないケースでも同じでしょう。

【トリック】
「認知が矛盾する状態を乗り越えようとする」というのは自覚があるヒロインがやろうとすることだよね。「この作戦は正しいはず…現にさっきから敵は防戦一方じゃない…」みたいな感じに楽観要素を過大評価したり、「さっきの敵の反撃は最後の悪あがきにすぎないわ…」みたいな感じで不安要素を過小評価したりして、居心地の悪い不協和の状態を解消しようとする。

【マスター】
不協和というキーワードから派生して、私は不安定というキーワードからあらためて問題を考えてみようと思いました。不安定性はストーリーにとって非常に重要な要素です。創作の世界では「そこにある不安定さがストーリーを前進させ、読者の関心を引き付ける」という意味のことがよく言われますが、これはヒロピン嗜好の本質を考える上でも重要だと思います。

【ブレーン】
ヒロイン工学研究所による定性的な調査でもヒロピンとストーリー性の間には密接な関係があることがわかっていますね。

【トリック】
ヒロピンとリョナは重なるところが多いカテゴリーだけど、リョナはストーリーがなくても成り立つのに、ヒロピンでは何らかのストーリー性が必要になるというところが大きな違いだよね。でもその問題も不安定性という観点から考えればもっとよく理解できるかもしれない。例えばヒロインが戦闘不能状態になった時点から始まって延々と一方的な虐○を受け続けるストーリーの作品があったとして、それはリョナ作品ではあってもヒロピン作品ではないような気がする。なぜそう感じるのかを考えたときに、マスターさんが言った不安定性がヒントになる。つまり延々と一方的に虐○が続くストーリーは勝つか負けるかの「優勢⇔劣勢」のシーソーゲームがもう停止してしまっているから、その意味では安定してしまっているんだ。虐○シーンは不安を生むかもしれないけど、もうそこにはストーリー工学的な意味での不安定さがないんだ。

【ブレーン】
トリックさんは以前「ヒロピン性の興奮は不安と期待の混合」とおっしゃっていましたが、今の話に当てはめると、単なる不安と期待ではなく、「ストーリー工学的な不安定性がもたらす不安」と「不安定性が読者にもたらすストーリー展開への関心(=期待)」ということになりそうですね。

【トリック】
厳密に定義しなおすとそうなるかもしれない。不安定性という要素から考えた方が「ヒロピンにおけるストーリーの重要性」とか「ヒロピン性興奮における不安の重要性」とか「ヒロピンとリョナの区別」といった問題が一挙にとらえやすくなるね。

【マスター】
私はここにきてようやく最初にトリックさんがおっしゃった「優勢なのに不穏というテーマはヒロピン上級者向け」という言葉の意味がわかってきました。ヒロピンの本質が不安定性にあるのなら、「勝ちそうなのに負けそう」という認知的不協和の不安定性が興奮を生むこのシチュは非常に高度な形でヒロピンの本質を表現しているシチュであると言えそうです。

【トリック】
僕も今回二人の話を聞いてすごく重要なことに気が付いた。ヒロピン嗜好のルーツはまさにその認知的不協和なんだよ。ブレーンさんが言っていたように大半のヒロピン嗜好というのは幼年期に形成されてしまう。そのとき子供たちは「正義のヒロインは必ず勝つ」と思い込んで見ているのに、その必ず勝つはずのヒロインが負けそうになったり一時的には本当に負けてしまったりするんだ。

【ブレーン】
体験者が子供の場合、「正義のヒロインは必ず勝つ」という認知が強い分だけピンチ状況がもたらす認知的不協和のストレスが強くなると言えそうです。感受性が強い子供が認知的不協和による強度のストレスに晒され、そこから生まれる倒錯的な興奮がヒロピン嗜好を形成していくという仮説が立てられますね。

【マスター】
面白い仮説ですね。今はとりあえず「倒錯」と呼んでいるものが具体的にどんなメカニズムをもっているかを明らかにすることがヒロピン研究の目標といえるかもしれません。
今回の座談会では「ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気」というやや特殊なテーマについて話し合ってきましたが、最終的にヒロピン研究の本質的な部分にアプローチできたことは大きな収穫だったと思います。ありがとうございました。
(終)


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