小説「呪われた女騎士団長は快楽を求める」⑥
【あらすじ】
女でありながらも国の騎士団長を務めるフィオナは、ローディル王子と恋仲の関係にあった。
しかしある日、フィオナは仲間を守るために魔物の放った呪いを代わりに受けてしまう。
その呪いは、快楽を得られないと高熱に悩まされ、最終的に死に至るというものだった。
恋人であるローディルに日々抱かれ、なんとか呪いの高熱を鎮めながら生きているフィオナだったが、団長の座を奪いたい男ゴルドにそのことを勘付かれ……。
●今回の要素
フィオナとゴルドによる会話のみです。
本文掲載場所
【本文】
ローディルが旅立って二日目。残った騎士団は変わらず訓練を続け、国境の警備をし、魔物の動向を見ている。フィオナも変わらず訓練を見ていると、その隣へゴルドがやってきた。
「よお、団長殿。いつにも増して具合が悪そうじゃねえか」
「……」
朝方まで自慰を続けたことと熱の影響もあり、フィオナは意識が朦朧としていた。正午に解呪の儀式を受けたのだがほとんど効いていないようで、気を抜けばすぐに倒れてしまいそうなほどであった。
それでもフィオナはゴルドを前に、気になっていたことを問う。
「なぜ、お前が……ローディル様に、ついていかなかったんだ」
騎士団長が護衛としてついていけないのであれば、副団長であるゴルドがついていくはず。そう思っていた。しかしゴルドは、今ここにいる。
フィオナの問いに、ゴルドは当たり前のように答えた。
「俺が王に進言したんだよ。今の団長殿はいないも同然。俺がついていっている間に何かあっては、指令系統が麻痺したまま……それは望ましくないって、熱があってもわかるだろ?」
今日はやたらとゴルドが近い。召使の女たちが秘密事を話すかのように、身体の距離が近いのだ。フィオナは身体を支えるのに必死で、退くことができない。
「それで提案したんだ。俺は残り、代わりに第三部隊と第四部隊の二部隊を護衛につけた方がよいのでは、とな。王は納得してらしたぜ」
「……もっと、離れ、ろっ……!」
フィオナの太ももに、ゴルドの手が触れる。大袈裟に肩を揺らしたフィオナは、慌ててゴルドの手を振り払った。
思わず出てしまった声は存外に大きく、付近で訓練をしていた兵士が二人を見る。
「……お前らが近すぎると団長殿は言っている。その剣技訓練は適切な間合いではない、だとよ。もっと向こうの広いところでやれ」
ゴルドがそれらしいことを言うと、訓練をしていた兵士は疑うことなく返事をし、再び訓練に戻った。
近場に人がいないのを確認すると、フィオナはゴルドを睨みつけつつ、声を潜めて言う。
「……そんなに団長の座が欲しいか。私を、貶めてまで……」
いつの間に王へ進言できるほどの関係性を築いていたのか。そこがゴルドの恐ろしいところであった。厳つい見た目通りの怪力男というわけではなく、策を講じてくるが故にこの男は副団長まで上り詰めたのだ。フィオナがいなければ、間違いなく騎士団長はゴルドが就いていただろう。
ゴルドはどこか余裕のある表情で、フィオナを見つめた。
「そりゃあ欲しいぜ。俺はお前と違って名のあるスタイン家の人間だ。ただ、頑固者の呪われた女が、なかなかその席を譲ってくれなくてなあ」
スタイン家とは、この国における武術、剣技に秀でた名家のことだ。ゴルドはスタイン家出身ということもあり、若干荒っぽいところもあれど、支持する人間はそれなりにいる。
するりと伸びたゴルドの指先が、フィオナの顎を撫でた。フィオナは抵抗らしいこともできず、されるがままだった。
「なあ、熱が治まらなくてつれえんだろ? だって、慰めてくれる王子様がいねえもんなあ?」
「……うる、さい」
「そのままだと死んじまうんだろう? そこで俺から一つ、提案がある」
指先に惑わされ、フィオナは顔を上げる。ゴルドは何かを見据えたように、目を細めていた。
顎を撫でた指は首を撫で、肩を撫で、そのまま背中へ回り、ゆっくりとフィオナを抱き寄せるような動きを見せた。
「俺が王子の代わりを務めてやる。なぁに、王子の使い古しの穴を使ったりはしねえさ。触るだけで十分ならな。その代わり……」
その言葉に、ゴルドに撫でまわされた夜を思い出す。確かに、ゴルドに触れられた夜はそのまま眠りにつけたのだ。考えるのを避けていたが、あれだけでも身体は僅かに満たされていたのだろう。
しかし、とんでもなくふざけた提案だ。誰がそんな提案に乗るものかと断りを入れる前に、ゴルドは言葉を続けた。
「王子が帰ってきたら、騎士団長の座を俺に渡せ」
次回分はすでに執筆が終わっていますので、明日更新されます。
よろしくお願いいたします。