なぜ我々はダンデ戦で泣いてしまうのか 〜 #ポケモン剣盾 におけるLeitmotivの訴求力〜
↑サムネ用ダンデ
フォロワー+支援者の数が151だったので、今流行りでちょうどくらびすたもプレイしているポケモンの特集でも書こうと思います(こじつけ)
多分みんなプレイしながら感極まっていたあのフレーズ
うわ!!!URLで2:04から再生って指定しているのに効いていないやんけ
手動で移動して聴いてください。
https://youtu.be/bUG_NS0xqSY?t=124
※わかりやすい「大サビ」ということもありここを推しますが、よく聴くと開幕から同じフレーズが出ています。探してみよう。
いやまあ観客斉唱ってのがもうズルすぎてズルズキンなんですけど(?)、それを踏まえてもこのフレーズめっちゃ刺さったんですよ。
恥ずかしながら僕はポケモンはRSEしかプレイしたことなかったもので、このフレーズが初代殿堂入りBGMに由来するということを知りませんでした。なるほどねぇ。
https://www.youtube.com/watch?v=zvE7jSiV59c
赤緑殿堂入りはト長調、先ほどのフレーズはハ長調ですが、この2小節はまったく同じです。
これだけでも十分エモいし、赤緑との繋がりを持ちつつ新しい時代へ向かうんだなぁといったアレはあるのですが、それだけでは音屋ブログとしてまるで面白くありません。
そう、ここからが本題。
後出しじゃんけんと思われるかもしれませんが、僕はこの曲を聴いたとき、はじめて聴いたとは思えない何かを感じたんです。RSEしかやっていないから赤緑殿堂入りBGMなんて知らないはずなのに。
絶対に何か刷り込みが起きていたはずだ、なんだっけ、なんだっけと調べたところ、この「懐かしさ」は巧妙に仕込まれたライトモチーフによる効果だったのだと気付きました。
ライトモチーフ(Leitmotiv)とは
「示導動機」と訳される概念。ドイツ語です。leiten「導く」(英語でいうleadに相当?)とmotiv「モチーフ、動機、きっかけ」がくっついたもよう。
ライトモチーフは複数のセクション、複数の曲に現れることでそれぞれを「意味」で繋ぐものであり、また、それ自身が様々に変奏される、その有り様をもって「意味」を示すことができるもの、でもあるのです。(くらびすたなりの解釈も多分にあります)
今回紹介する曲はそれぞれ、1小節とか2小節とかのまとまったフレーズではなくその中の2、3音の集まり=モチーフの数個同士での近似を持っています。このことはまさに先ほど書いた「ライトモチーフはそれ自身が様々に変奏される」という特性にあたります。また、そのことにより「モロに何か、とある曲のアレンジ」というレッテルを付けられないまま、プレイヤーの意識へ溶け込んでいくことに成功しているのです。
※くらびすたの場合、小さいものから
- マイクロモチーフ(隣り合う2音の関係; くらびすたの造語)
- モチーフ(3、4音程度の結合)
- フレーズ(1、2小節程度の集まり)
- メロディ(1小節から4小節程度の大きめのかたまり)
- ブロック(Aメロやサビといった、4小節や8小節程度のひとまとまり)
と呼び分けています。Wikipediaなどではモチーフは1小節とされています。この辺は人によるかも。
例のライトモチーフが使われているっぽいフレーズその1: タイトル画面
https://twitter.com/Klavistr/status/1201538806370881538
いきなりです。ピアノの「チャ↓チャン↑」とドラムに紛れがちですが、高音のうにょうにょシンセが赤緑殿堂入りBGMを思いっきり弾いています。
例のライトモチーフが使われているっぽいフレーズその2: スタジアム
https://twitter.com/Klavistr/status/1201544859531661321
Twitterで紹介したときにうっかり最後に上げてしまった分です。ストーリーではこちらが先です。ジムおなじみのフレーズの合いの手として、フレーズがまるっと使われています。
例のライトモチーフが使われているっぽいフレーズその3: ターフタウン
https://twitter.com/Klavistr/status/1201543094975397888
そこはかとなく感じられますか?少し例のモチーフに近いフレーズにアレンジしてみましょう。
弾いてみるとこんな感じ。
リズムがクリソツなのもそうですが、
- 1小節目の2音目→3音目 = 4度(ド→ファの距離)の動き
- なんなら1小節目の1音目→2音目もただのオクターブ違いなので実質4度の動き同士で同じ
- 2小節目の1音目→2音目→3音目 = 4度下降→4度上昇の動き
- 2小節目の3音目→4音目→5音目→7音目 = 上昇→下降→下降の動き
といった感じで、ざっくりした大枠では音程も同じ動きになっています。
例のライトモチーフが使われているっぽいフレーズその4: バウタウン
https://twitter.com/Klavistr/status/1201543965964521472
ここも結構アレンジが入っていますが、アップ/ダウンの配置にかなり近いものがあることがわかると思います。
ここでぴたりと止んでしまう同一ライトモチーフ採用タウン
聴き落としているものがなければ、他のシティやタウン、施設には類似フレーズはありません。
全部の街でやるのはくどいという判断になったのか、スタミナ的にしんどかったのか、冒険感を出すためにもシナリオの進行に合わせて新しいメロディを出したかったのか、「序盤で聴いたフレーズが時間を空けて蘇ってくることによるサプライズ感」を採用したのか、赤緑というシリーズ最初の作品のフレーズを序盤の街に持ってくるというメタ的な含みだったのか、あるいはその全部かと思います。
アイデアというのは複数の問題をいっぺんに解決すること、とは宮本茂さんの言葉。『美しいやり方』『エレガントな設計と実装』が、この「どの角度から見ても『ちょうどいい』」という塩梅を生んだのだと思います。
きっと我々は序盤の街での刷り込みと、タイトル画面/スタジアムでの反復があったからこそ、チャンピオン戦であのフレーズを聴いたときに胸がいっぱいになるのです。
そして、この感動体験はあからさまな「殿堂入りBGMのアレンジ」ではきっと得られなかったのではないかと思います。敢えてほぐしながら浸透させる、このワザマエですよ。ゲーフリのサウンドスタッフさん、本当にお疲れ様でした。