芽生え8
学校で便意に襲われる恐怖。
もりもりと盛り上がっていく黒タイツ。
(せめて、あの電柱まで――)
本当なら学校のトイレを使いたかったけど、うんちをしていると知られるのは恥ずかしかった。
仕方がなくイリアは通学路の途中にある公衆トイレを使おうと思ったのだが――。
校門を出ると、もう後戻りできない長い道のりが続いている。
公園までのたった十分の道のりが、イリアにはとても長く感じられた。
電柱を目印に歩き、そこまで歩くと次の電柱を目指して歩き出す。
こうすると長い道のりも、ちょっとは苦しさを紛らわせることができた。
それでも、小さな身体は悲鳴を上げてしまう。
ギュルルルル……。
「はぁう!? おおぉぉ……、お腹、痛いぃ……っ」
腸のなかを、少しずつ固いモノが進んでいる感触。
お尻にかかっている圧力が高くなり、お尻のあいだから固いものが出てきてしまいそうだった。
「だ、だめぇ……っ」
脂汗を浮かべたイリアは、苦しげに呟く。
周りに人がいないのが不幸中の幸いだっただろうか。
イリアは便意のあまりにへっぴり腰になり、その様子はお尻を振っているようにも見える。
「ふぅ~っ、ふぅ~っ、ふぅぅ~~ッ」
なんとか呼吸を整えて、お腹の痛みを我慢する。
こうして三十秒ほど立ったままで我慢していただろうか。
なんとかお腹の痛みは治まってくれた。
「あ、危なかった……。漏らしそうだったよ」
だがまだ油断はできない。
腹痛には波があるのだ。
一度波を越えたとしても、次の波が必ずやってくる。
そしてその波は、乗り越えるほどに大きくなっていく。
「早くおトイレに行かないと……」
額には脂汗。
背筋には滝のような冷や汗を流しながら、イリアは遅々とした足取りで進み始める。
――が。
ゴポ、ゴポポッ!
ギュルルルルルル!!
「はうう! だ、だめぇ……っ」
耐えがたい腹痛に、イリアはすぐに足を止めてしまった。
黒タイツに覆われた太股を、秋風が撫で回していき、お腹を冷やしていく。
冷たい秋風に撫で回されては、イリアのお腹もこれまでだった。
「あっ、あっ、ああ! だ、だめ……っ。まだ、おトイレじゃないのに……っ、こんなところで……うっ、ううう!」
メキ、メキメキメキ……。
固く棒状のものが、お尻をこじ開けていく感触。
十日ものあいだイリアの腸内にあった排泄物は、水分を吸い尽くされて石のようにカチカチに固くなっていた。
思春期を迎えてプリッとしてきたイリアのお尻に、それを止める力は残されてはいなかった。
「おっ、おおぉぉ……っ」
メキメキメキ……もこり。
黒タイツに覆われたお尻……。
その真ん中の部分が、歪に膨らんだ。
イリアは、ついにうんちを漏らしてしまったのだ。
「い、いやぁ……。まだトイレじゃないのに……! せめてパンツ下ろしたい……ううっ」
しかし取り返しの付かない感触に、イリアの心は折れかかっていた。
もこり、もりもりもり……。
静かに、だが確実にイリアのお尻は大きくなり、更には饐えた茶色い香りが漂いだす。
イリアのお腹に十日間も眠っていたのだ。
少女の深部体温で温められ続けた食べ物は発酵し、醜悪な香りを放つようになっていた。
「あうっ、うううっ。臭い、よぉ……っぱんつがパンパンになって、盛り上がっちゃ……いや……、嫌だ、よぉ……っ」
メリメリメリ……ぷすす。
どんなに力を入れても止まってくれなかった失敗だが、空気が混じったものが出てくると、終わってくれた。
だがまだこれはほんの序章に過ぎないのだ。
イリアのお腹には、まだまだたくさんの『食べ物だったモノ』が詰まっている。
(ぱんつ、こんなに重たくなるなんて……。早く、おトイレ行きたい……ううっ)
スカートに覆われたイリアのお尻は一回りほど大きくなっていて、スカートの裾が踊るたびに醜悪な香りを漂わせている。
だがここで立ち止まっているわけにも行かなかった。
(カチカチうんちがっ、ぱんつに当たって……ううっ、膨らんでる……重いよぉ……っ)
皮肉なことに、ちょっと出してしまったことによってお腹は楽になっている。
イリアは自らの排泄物が詰まって重たくなったショーツに顔を歪めながらも、ゆっくりと歩を重ねていく。
☆
小さな身体のイリアとすれ違えば、きっと誰もが饐えた茶色い腐敗臭に顔をしかめることだろう。
それほどまでにイリアのスカートの裾が踊るたびに、耐えがたい匂いが撒き散らされていた。
短くしてあるスカートは、もはや大きく盛り上がったお尻を隠しきることができずに、少しでも風が吹けば盛り上がったショーツが見えてしまうほどだった。
なんとか黒タイツで分かりにくくはなっているが、イリアの小さなお尻は、モッコリと歪に膨らんでいた。
それでもイリアは一生懸命歩いた。
ショーツの中に詰まった固いものが、一歩進むたびにお尻に食い込んできて気持ち悪いけど、ここで立ち止まっているわけにはいかないのだ。
それにいつ再びお腹が痛くなるか分からない。
今度漏らしてしまえば、本格的に決壊してしまうことだろう。
なぜかは分からないけど、イリアには確かに不吉な予感がしていた。
そしてその予感は、後もう少しで公園に辿り着こうかというときに的中してしまうことになる。
ぐるる……。
ごぽぽっ。
「はうぅ!? ま、だ、だめぇ……っ」
急に襲いかかってきた腹痛に、イリアは腰を引いてしまう。
ただでさえ歪に盛り上がっているショーツの輪郭が、極小の腰布に浮き上がった。
「せめて公園まで……、あと、もうちょっとなんだから……っ、ううっ。おトイレ以外でするなんて……」
まだおねしょは治っていないけど、イリアにも羞恥心はある。
人前でうんちやおしっこを漏らすなんて……、そんなことは思春期を迎えた少女として、あってはならないことだった。
……が、思春期というのは、心と体の成長があまりにもアンバランスすぎる。
どんなに恥ずかしがっていても、イリアの小さな身体は、ついてきてはくれなかった。
ゴポポポポ……。
ぷす、ぷすす。
「あっ、ああぁ……っ!」
直腸を熱いものが抜けていく感触。
一瞬、漏らしてしまったのかと思って立ち止まってしまう。
「おなら……、出ちゃった……?」
スカートの上からお尻を撫でてみて、その感触を確かめる。
固く盛り上がっているものの、熱いものが溢れ出してきている感触はなかった。
幸いなことにやわらかうんちは出てきていないようだ。
気体で済んでいたらしい。
だが、それは崩壊への序章でもある。
ホッとしたのも束の間、
「うっ、ううう!? 固いのもダメッ」
今にも出ようと押し寄せてくる、コルクのような硬質便。
それがミッチリと直腸に詰まり、お尻の穴を内側からこじ開けようとしてくる。
イリアには確かな予感があった。
これが出てしまったとき、すべてが終わり、そしてすべての悲劇が始まる、と。
「こんな道ばたで……っ、ぱんつ穿いたままなのに、できない、んだからぁ……っ、せめて、せめておトイレまで……っ」
ぎゅるるる~~……。
ごぽ、ぐぽぽ……ッ。
鈍い音を響かせているお腹をさすりながら、イリアは公衆トイレを目指して歩を重ねていく……。
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