真夏の記憶4
中学生のお姉ちゃんがお腹を壊して下痢をおもらしするわけがない。
♭2日目 昼下がり お腹を壊してパニック☆
二日目は、宿題を片付けることから始まった。
八畳ほどの和室の真ん中にあるちゃぶ台に参考書を並べて、姉妹揃って解いていく。
和室には、エアコンが無い。
その代わりに山から吹き下ろしてくる風が、家を通り抜けていくようになっていた。
「お姉ちゃん、ここ分からないから教えてー」
「どこがわからないの?」
「ここ」
「ここは、この公式を使っていけばいいの」
「……やってみる」
妹の勉強の様子を見ながら、葵も計算ドリルを解いていく。
茜は算数だけど葵は数学だから、そのぶんだけ複雑な公式を使わなければならなかった。
それでもシャーペンを走らせていき――、
「茜ちゃん、葵ちゃん、スイカ切ったからたーんとお食べ」
祖母がスイカを切って持ってきてくれる。
古ぼけた柱時計を見ると、ちょうど三時を指していた。
ちょうど疲れてきたころだし、葵は広げていた参考書を閉じる。 茜はすでに跳ねるように立ち上がって、
「おばあちゃんのスイカ、だーい好き!」
祖母が持ってきたスイカが載った皿から一つ取ると、パクリと一口食べていた。
切り立てのスイカは瑞々しくて、綺麗な三角形をしていた。
「んっ、おいしー! シャクシャクするよっ」
「うん、美味しい……」
スイカを食べていると、祖母は更に、
「いっぱいお菓子、用意しておいたからね。遠慮無くたくさん食べていきなさい」
祖母がお盆に載せて持ってきたのは、山のようなかき氷やジュース、更にはアイスだった。
「わーい、すごーい! かき氷、イチゴ味! だーい好き!」
「茜、あんまり食べ過ぎるとお腹壊しちゃうから気をつけなさいよ」
「このくらい平気だもん!」
姉の言葉に耳を貸さず、茜は祖母に甘やかされるがままにスイカにかき氷を美味しそうに食べていく。
そんな茜に釣られるように、ついつい葵もかき氷を一口だけ食べてみると、たっぷりイチゴシロップがかかっていて、ほっぺたが落ちるくらいに美味しかった。
「おばあちゃんのかき氷、美味しい……」
ついポロッと呟いてしまうと、たったそれだけのことなのに祖母はとても喜んでくれた。
だから葵もついつい食べ過ぎてしまう。
まさか、このあとに悲劇が待ち受けていると知らずに……。
☆
ぎゅる、ぎゅるるるる……。
スイカを食べてから一時間が経ったころだろうか?
葵のお腹から茶色い不吉な音が鳴ったのは、茜と一緒に夏休みの宿題に頭を悩ませているときのことだった。
「お姉ちゃん、お腹壊しちゃったの?」
「うう……、ちょっと食べ過ぎちゃったみたい。ちょっとおトイレ行ってくるね」
「いってらっしゃーい」
茜に見送られながらトイレに立つ。
長い廊下を歩いて、家の端っこのほうにあるトイレのドアを開けると、そこにあるのは葵があまり好きではない汲み取り式の和式トイレ。
真っ暗な穴から、ごーごーと換気扇の音が響いてきている。
「あんまり好きじゃないんだよね……」
呟きながらも、白のワンピースを捲り上げて、ショーツを降ろして和式のトイレにしゃがみこむ。
お尻に、ひんやりとした風が感じられる。
……だからだろうか?
お腹が痛いというのに、緊張して中々出てきてくれなかった。
「うう~、お腹痛いのに……っ、ううっ、苦しいのにぃ……っ」
お腹の変なところに力が入ってしまっているのか『大』ばかりかおしっこも出てきてくれなかった。
たくさんスイカを食べたから、お腹が苦しいっていうのに。
こうしてトイレで唸っていると、ドタドタと廊下を走る音が近づいてきた。
直後には何度もノックする音とともに、切羽詰まった茜の声が聞こえてくる。
「お姉ちゃん! まだトイレなの!? 早く出てよお!」
「茜ー? どうしたの?」
「漏れる~! お腹ギュルギュルだよっ」
「あ、茜もなの!?」
まさかの展開に、ただでさえ出てきてくれそうにないものがビックリして引っ込んでしまう。
こうなってしまうと、そうそう簡単には出てきてはくれないだろう。
(茜も漏れそうって言ってるし、私はもうちょっと我慢できそうだし……、もういいかな)
深いため息をついて立ち上がって、ショーツを穿き直す。
スカートの裾を正してからトイレを出ると、すぐそこに前抑えしている茜が飛び込んできた。
「漏れるっ、漏れる~!」
「はいはい、いま空いたからそんなに慌てなくても」
よほど茜は切羽詰まっていたのだろう。
ドアが閉まる前にスパッツとショーツを降ろすと、プリッとしたお尻を丸出しにして、そのままの勢いで和式のトイレへとしゃがみこんでいた。
ドアを閉めてあげると、直後には、
「あっ、あああああああ!」
ぷりゅっ、むりゅりゅりゅり!
プッシャアアアアアアアアアア!
トイレの中から茜の悲鳴とともに、なにかが放たれる音が聞こえてくる。
……どうやらギリギリセーフで間に合ったようだ。
(……茜が出てくるまで、宿題でも片付けてようかな)
さっきまでお腹が痛かったけど、なんだか出てきてくれる気配はなさそうだし。
そんなことを考えながら、和室に戻ろうとするけど……、
ぎゅるるるるる~~~。
「はぁう!?」
いきなりお腹に雷が落ちたかのような痛みに襲われる。
なんで、急に……!?
自分の身体のことながら恨めしく思ってしまうけど、こうなってしまっては我慢するしかない。
なにしろ、祖母の家にはトイレが一つしか無いのだ。
「茜、まだ……、出そう……!?」
「うん……っ、お腹、痛い、よぉ……っ」
この調子だとまだまだ時間がかかりそうだ。
だけど葵のお腹はジェットコースターのように急降下を始めている。
スイカやアイス、ジュースにかき氷まで食べたのだから、お腹は冷え切ってるし、緩くなってしまっているのだろう。
「う……っ! も、漏れそう……っ」
どんなにお腹に力を入れても、今にも柔らかいものが漏れ出してきそうだ。
あまりの便意に、フッと意識が遠のき――、
ぶりゅりゅっ!
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この小説は、同人誌『真夏の記憶』として発表しています。
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