涼宮ハルヒの消化② ~巨大ハルヒと〇学生の命がけの鬼ごっこ~
※本作は『涼宮ハルヒ』シリーズの二次創作です。
丸呑み・消化・〇亡ENDのため、ご注意ください。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…………えっ?」
「うわっ!!?」
「なにこれ!? は!?」
「空っ……えっ!? えっ!!?」
昼休みの生徒達が走り回っていた小学校の校庭に、突如として衝撃が走った。
さんさんと照りつけていたはずの日差しは不意に色味を失い、薄暗く青白い色に世界が染め上げられた。
その異様な光景は数秒のうちに元に戻ったが、その間にまるで何らかの世界の法則が捻じ曲げられてしまったかのように感じられる。
そして生徒たちはすぐに、その答え合わせとなるような異様な存在を視界に収めた。
「あ、あれ……あれっ……!」
「えっ!!?」
「何……あれ……!?」
小さな子供たちが走り回る校庭に立つ木々。
その何倍もの大きさの校舎――そこに寄りかかるようにして、巨大な影が佇んでいた。
『んっ……ふぅ、上手くいったみたいねっ! ふふふっ、がお~~~~~♪』
「しゃべっ……」
「きょ、巨人……巨人じゃんあれ!?」
「すっげーーーー!!!」
「やばっ! でっか!!!」
僅かに音を立てることもなく、瞬きの内に一瞬で出現した巨大な人影に、無垢な少年少女達は目を輝かせた。
彼らにとっての"巨人”とは漫画やアニメの中に登場するキャラクターであるし、"彼女”の見た目が水色のセーラー服を来た少女であった事も相まって、生徒たちはほとんどが笑顔で無警戒に走り寄った。
その様子を見た巨大少女が腕を組み、ムムと首をかしげる。
『…………あれ? なんで逃げないのかしら。 せっかくあのアニメみたいな巨人になったのに……えいっ!』
ズッドォオオオオオオオオンッッ!!!
「う、うわっ!!?」
「えっ!? やばっ!! やばくない!?」
「ひぁあああっ!!?」
セーラー服を来た超巨大女子高生――”涼宮ハルヒ”はぶつくさと独り言を零した後、そのスカートから素肌が覗く巨大な足を振り上げ、勢い良く地面に叩きつけた。
轟音と共に地面が揺れ、土煙が巻き起こる。
校庭に居た生徒達はみな尻もちをつき、あまりの衝撃にしばらく立ち上がる事ができなかった。
(恐らく作り物か映像であろう)巨人をもっと近くで見てみたい、あわよくばその短いスカートの中も……などと考えていた男子生徒達からも青い好奇心の一切が失われ、その目には一様に恐怖が宿った。
一瞬の静寂の後、火が付いたように騒ぎ始める生徒達の声を掻き消すように、巨人サイズの大音声が響き渡る。
『はーい注目ー! 今からゲームのルールを説明するからよく聞きなさいっ!』
「う゛っ!? うる、さ……」
「なっ、えっ……?」
「ゲーム……!?」
『ルールは簡単っ! あたしがあんた達を追いかける、あんた達はあたしから逃げる、それだけっ! 30秒くらいは動かないでいてあげるから、その間に頑張って逃げなさい。 すぐ捕まえちゃっても面白くないからねっ♪』
生来の物か、キンキンと耳に突き刺さるようなやかましい声でまくしたてるハルヒの声が窓ガラスにビリビリと響き、生徒達は思わず耳を押さえていた。
腰に手を当て、最後にズビッと勢い良く指をさした彼女は得意げだったが、何が何やら分からず困惑している生徒達を見て、ムッと顔をしかめる。
『何よあんた達、すっとぼけた顔しちゃって! とにかくあんた達はこのおっきなハルヒちゃんから逃げ回れば良いのよっ!! もしも捕まっちゃうと~~……♪』
「あっ、あぁあっ!!? やッ!! はなしてッ!!」
『んふふ、んあぁ~~~~~~~~…………♥♥』
「うわっ、うわあぁああああああああ!!!!」
屈んだハルヒが不意に腕を伸ばすと、逃げる間もなく一人の男の子がその手に捕まってしまった。
白い5本の指はスラリと細く、女性的な可憐さを感じさせるシルエットにもかかわらず、1本1本が生徒達の胴体よりも遥かに太い。
にやりと笑みを浮かべたハルヒが口を大げさに開いて近づけると、半狂乱になった男の子が全力で暴れ始める。
あどけなさを残しつつもツンと目鼻立ちの整ったハルヒという美少女の顔は、既に囚われの男子生徒の視界に映っていない。
彼の目の前にはぬらぬらと粘液を滴らせたピンク色の深い洞窟があり、その深淵へ手招くようにして超巨大なナメクジのような舌先がうねっている。
『はぁ~~~~~~~♥ れろれろ~~~~~♥♥』
「うわぶッ!!?? ぶふッ!! んぅううううううっ!!!」
「うぁっ……あぁぁ…………!!?」
ハルヒの呼吸に合わせて、まるで蒸気のようなムワリとした湿気と熱を帯びた空気が男の子の全身を包み込む。
ぐぢゅり、と音を立ててハルヒの巨大な舌先が男の子の顔へと押し当てられると、周りの生徒達からは男の子の姿が見えなくなってしまった。
生徒達へ広がる動揺が完全なる恐怖変わろうとしたところで、いたずらっぽく微笑んだハルヒが男の子をその手から解放した。
「ぶはっ!! はぁッ、はぁッ、う゛っ……えっ、げほッ!」
『んふふ、どう? 捕まったらどうなっちゃうか理解できたかしら? あ、ちなみに今のは”フリ”だったけど、次に捕まえたら本当に食べちゃうから! 捕まってゴックンって丸呑みにされたら最後、あたしのお腹の中で骨まで全部溶けちゃうのよ♪』
「ひっ……!!?」
「あっ、うぁあ……!!」
心底楽しそうな、いじわるそうな顔でハルヒがまくしたて、生徒達に恐怖が広がっていく。
目の前の巨大少女がどこまで本気なのかは誰にも分からないが、少なくとも彼女にそれを可能にする力があり、これが夢や幻ではない事は確かであった。
「げほッ! げほげほッ! おぇッ!!」
『うふふ♪ まぁ、本気で走って追いかけたりはしないし、踏みつぶしたりもしないから安心しなさい! その代わり……ちょっと、うるさいわよ!』
ハルヒが得意げに話し続ける傍らで、先ほど戯れにハルヒに顔を舐め上げられた男の子が激しくえずいていた。
それを見やれば、先ほどまで彼を助け起こそうとしていた生徒達はいつのまにか、みな遠巻きに距離を取っていた。
その原因は、彼の体に染みついた強烈な悪臭であった。
「お゛っ、えっ……うっ、げぼぇえぇええええええッッ!!」
『えっ、ちょっ……はぁああ!!?? 何吐いてんのよッ!!?』
美少女然とした見た目にそぐわず、ハルヒは入浴等を欠かしていないが、口内環境はまた別の話である。
年相応に代謝の活発な彼女の口内は独特の据えた唾臭で満たされ、巨大化によって何倍にも増幅されたそのニオイはまさしく刺激臭と形容するに相応しい猛烈な悪臭となっていたのだ。
それらを全身に吐きかけられ、舌先で唾液ごと塗りつけられた男の子はしばらくの間えずいていたが、ついに耐えきれなくなって吐き戻してしまったようだ。
自身の口臭がそこまで強烈なものになっているとは夢に思わないハルヒが顔を真っ赤にして騒ぎ立て、その剣幕が更に子供たちの恐怖を煽る。
『このガキんちょ!! そこは乙女のキ、キスで、照れたりするとこでしょーが!!』
「げぼっ、お゛ぇえっ……!! ひぃ、ひぃいいああああああっ!!!」
『あっ、ちょっ!! まだ始まってな――――あっ!? こらッ!! 待ちなさいってば!!』
「うわぁああああああ!!!」
「きゃあああああああああああ!!!」
胃液ごと吐しゃ物をまき散らし、怯え切った目を一瞬だけハルヒに向けた男の子は、そのまま死に物狂いで地面を蹴り、ハルヒの制止を振り切って走り出した。
それが引き金となったのか、困惑で固まっていた他の生徒達も一斉に恐怖を爆発させ、蜘蛛の子を散らすような勢いで方々に走り出してしまった。
「…………はぁ、まぁいいわ。 あんまり早く捕まえちゃっても面白くないしね。 せいぜいあたしを楽しませなさい♪」
しばし、逃げ行く子供達を目で追っていたハルヒであったが、気を取り直した様子で目を閉じ、カウントダウンを開始した。
自身の衝動を抑えつけるように腕を組み、静かに目を閉じつつも、口元はニマニマと緩んで感情をこぼれさせている。
突如として現れた巨大少女と小学生男女達の、命がけの鬼ごっこが、間もなく始まる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ドォオオオン!!
ドッゴォオオオオオンッ!!
ズッドォオオオオオオオオオオンッッ!!!
「ひっ!!? 来た!! 来てる来てる!!!」
「早く入れよ!!! おい!!!」
「お、押さないでっ! い゛っ! 痛いって!」
「開かない……!? 開かないぃぃ!! なんでぇえええ!!!」
「やばい来てる来てるって!! うぁあああああ!!!」
『んふふ、残念でした~♥ 校舎の中には入れないし、学校の外に出る事もできないわよ! 大人しくあたしに捕まりなさいっ!』
「や、やだぁああああ!!!」
「いやぁああああああああああ!!!」
生徒達の大多数は校舎の中へ逃げ込もうとしたり、校門から敷地の外へ出ようとしていたが、なぜかそれらの出入口は固く閉ざされたままビクともしなかった。
鍵がかかっているとか、裏で何かに押さえられているとか、そのような次元ではない強固さで扉が閉じられている。
まるで、何か不思議な力でこの校庭だけが世界から切り取られてしまったかのようだ。
『ん、しょっと……あれ? 意外と難しいわね。 んふふ、待ちなさ~~~い♪』
恐怖で泣き腫らし、何度も転んで擦り傷を作りながら死に物狂いで逃げる子供達とは対照的に、ハルヒはまるで散歩中に野花を摘むかのようなゆったりとした動きで子供達を追いかけていた。
実際、子供達はこの校庭から一歩も外に出られず、誰かが助けに来る事も無いのだから、ハルヒには何も焦る理由が無かった。
もちろん、最終的にはいずれかの子供を捕まえるつもりだったが、子供達が必死に逃げ惑う様を眺めるのもまた、非日常を心から愛するハルヒにとっては新鮮な娯楽の一つであった。
『はぁ、手だけだと全然捕まえられないわね。 でも、足を使ったら潰しちゃうかもしれないし、どうすれば良いのかしら……んふふ♪』
ハルヒは白々しく独り言を放ち、コテンと首を傾げて悩む様を晒していた。
ハルヒが勝手に設定した"ルール”とやらが守られる保証などどこにも無いが、子供達はその僅かな希望に縋って逃げ続け、ハルヒが諦める事を祈るほかなかった。
『……そうだ! 手がダメ、足もダメなんだったら……口を使ってみようかしら! こんなふうに……ふぅうう~~~~~~~♥♥』
「わっ!? うわぁああっ!!?」
「風がっ……う゛っ!? うぇえっ……!」
「げほっ! ごほっ! くっさぁいぃ……」
ハルヒは地面に這いつくばるような姿勢を取ると、そのまま頬を膨らませ、生徒達へ向けて勢い良く息を吹き出した。
巨人サイズの唇から放たれる吐息は凄まじい勢いで砂塵と木の葉を舞い上がらせ、物陰に隠れていた子供達をいとも簡単にあぶり出した。
ハルヒの息が続く限りの断続的な物ではあるが、その瞬間風速は子供達ではとても立っていられない程に強烈だ。
そしてやはり、そのニオイもまた先ほどと同じように強烈だった。
風を受けて転げた子供達はほとんどが鼻を押さえており、正面からまともにその吐息を吸い込んだ子供は涙を流して悶絶していた。
『ふぅうう~~~~~! ふぅううう~~~~~!! ふんっ! またそんな大げさに嫌がって! ほんっとに失礼ねっ! あんた達、捕まえたら覚えてなさいよ!!』
腰に手を当て、ぷりぷりと不満げにむくれるハルヒであったが、そろそろゲームを終わらせる頃合いかと考えていた。
ハルヒには”自分が子供を捕まえて終わり”、という結末を変えるつもりは毛頭無く、そのための品定めを始めている。
ズドォオオオンッ!!
ズドォオオオオオンッ!!
ズドオオオオオオオオンッッ!!!
「き、来た……早っ!!?」
「お、追いつかれ……ひぃいっ!!?」
「やだやだやだやだやだ!!!!」
一番背の高い男の子にしようか、かわいい(自分には及ばないが)女の子にしようか。
そのような事を考えながら、ハルヒは歩みを早め、子供たちの一団を追い詰めていった。
『誰にしようかしらね~? うーん…………よしっ! んっ……もご……くちゅちゅ……♥』
何かを思いついた様子のハルヒは、独り言を止めて口を閉じ、何やら舌をモゴモゴと動かしている。
ニヤニヤといたずら気な笑みを浮かべながら口の中にたっぷりと唾液を溜めた後、ハルヒは子供たちの方へ顔を近づけた。
『んふふ……くちゅ……いふわよぉ………………ぺぇッ!!』
「うわぁっ!?」
「きゃああああッ!!!」
「アキちゃんッ!!!」
「アキちゃんが……うっ……!?」
「げほっ!! ごぼごぼっ!! だずっ、だずげっ……!!」
『大当たり~~~なんてね♪』
追いかけながら誘導した子供たちの集団に狙いを定めたハルヒは、口の中に溜めた大量の唾を塊にして吐き出した。
細い糸を引きながら緩い放物線を描いた唾塊は、運悪く逃げ遅れた少女の上にベヂャアッ!と酷い音を立てて着弾した。
巨人サイズの口から放たれた唾液はただ量を水増ししただけとは思えない程に重たくネバついており、少女の未発達な体を地面に縫い付けるのに十分な凶悪さを持っていた。
一瞬で全身をぬるぬるのネバネバにされた少女はなかなか立ち上がる事ができず、その白く泡立った粘液から発せられる強烈なツバ臭が周りから子供たちを遠ざけた。
『ぷっくくくっ! 泳いでる泳いでる! あはっ! あっははははは!!』
唾まみれの手足を空回りさせながら必死でもがく少女を指さし、ひとしきり大笑いした後、ハルヒはおもむろに少女へ向けて手を伸ばしていった。
『あ~~面白かった。 さて、それじゃ今日はこの子に…………あら?』
「ま、待てっ! やめろっ!! アキちゃんに触るな化け物っ!!」
「ごほっ、うぇっ……タケ、シくん……!」
「おい化け物っ! 俺が相手だっ!! 俺を捕まえてみろよっ!! できるもんならなっ!!」
「タケシ……!?」
「みんな! 今のうちにアキちゃんをっ!!」
『…………ふぅ~ん?』
ハルヒが伸ばした手に体当たりするようにして、1人の男の子が駆けだしてきた。
”タケシ”と皆に呼ばれている男の子はハルヒの手を蹴りつけ、素早く距離を取ってハルヒを挑発し続けていた。
見るからに活発で正義感の強い男の子だ。
クラスの女の子のピンチに居ても立ってもいられなくなったというところか。
『んふ……むふふ……なるほどねぇ~……♪』
タケシを無視して”アキ”と呼ばれた少女を摘まみ上げるのはたやすいはずだが、ハルヒはそうせずに少しの間思案していた。
そして、意地の悪い嬉しさを隠しきれないように頬がニマニマと吊り上がっていく。
思えば確かにこの男の子は図抜けて足が速く、逃げる子供たちの集団を先導していた。
リーダーシップがあり、正義感が強く、皆の希望を背負ったクラスの中心人物――――そのような男の子の顔が恐怖と絶望に染まり、泣きじゃくる様を見るのはどれだけ気味がいいだろうか?
その様を見せつけられた他の子供たちはどんな絶望的な顔をするだろうか?
ハルヒの頭の中で、とっておきのシナリオが組み上がっていく。
「おいっ! どうしたっ!! 捕まえてみろよっ!! 化けも――――ぅぐぇっ!!?」
「……はっ?」
「えっ!? タ、タケ……ッ!? えっ!? えっ!!?」
『んふふっ、ざぁんねん♪ 何とかなると思った? あたしが今まで本気で追いかけてたと思った? バカねっ! そんなわけないじゃない!』
わずか一瞬の出来事であった。
突然、今までとは段違いの速度で動いたハルヒの手がタケシの体をあっけなく掴み取り、そのままハルヒの巨大な顔の前へと運んだ。
クラスで一番足が速く、運動神経が良いタケシに対して、英雄的で幻想的な、まるでアニメじみた展開を薄っすらと期待しかけていた子供たちは、目の前で起こった事態に一瞬で凍り付いてしまった。
「タケシくん!! タケシくーん!!」
「ぐぎっ……離せっ!! 離せ化け物ぉっ!!」
『んふふ……そう? 離しちゃっていいの? あんたもやっぱりあの女の子を食べちゃった方がいいって思う?』
「っ……!? ぐぅぅっ……!!」
『ぷっ! あっははははっ! 女の子の代わりになるなんて、あんたカッコイイじゃない。 キョンにも見習わせたいわね……なんて、これはさすがに見せられないんだけど』
ハルヒはむずむずとした笑みを浮かべながら、まるで子供たちに見せつけるようにしてタケシを掴んだ手をぐるりと回し、また自身の顔の前まで動かした。
そして、ゆっくりと見せつけるようにして口を開いていく。
『んふふ、カワイイわね……さぁ、食べちゃうわよ~……はぁぁぁ~~~~~~~♥♥』
「ん゛ッ!? ぐッ! げほッ!! くっさ――うげぇッ!!? い゛ぃいいいッ!!」
「タケシくんっ!!!」
『あーもうっ!! 乙女に向かって臭いって言うなっての!! そんなの……お、大きさが違うからちょっと大げさに感じるだけでしょっ!!』
活発で運動好きなタケシは大抵の痛み等は我慢できるが、悪臭――特に口臭や唾臭は大の苦手だった。
サイズ差だけでは説明がつかないハルヒの強烈に饐えた口臭に耐えきれずに咳き込んでしまうと、怒ったハルヒがタケシを強めに握りしめる。
ハルヒはもちろん手加減をしているが、このまま握りつぶされてもおかしくない状況で、タケシは気概を失わず、負けじとハルヒを睨みつけた。
「ぐッ、ぎぎッ……く、臭いんだよ化け物女……! 食うなら早く食えよ……! その代わり、お前の腹の中でめちゃくちゃに暴れてやる……胃とかに穴開けてやるからな……!!」
『こんのガキっ……!! ふふんっ! そこまでいうなら勝負してあげるわよ! しばらく呑み込まずに口の中に入れておいてあげるから、せいぜい頑張って暴れてみなさい? そうね……10分以内に出てこれたら勝ちにしてあげるわ。 そしたら他の皆も見逃してあげる♪』
「言ったな化け物女! 絶対負けないっ!! 俺は皆を――――」
『あーもううっさいわねっ! いつまで主人公やってんのよっ! 主人公はあたしなんだから……あぁ~~~~~ん』
「くっ……負けないぞ…俺は、俺は絶対――――」
しびれを切らしたハルヒが大口を開けて、タケシへと迫った。
ピンク色の巨大な肉の壁が頭上から迫りくる様子がやけにスローモーションに感じられながらも、それに抗うすべを持たないタケシの視界は、やがて闇へと包まれた。
『…………あむっ♥♥』
バグン、と空気を震わせながら、ハルヒの巨大な口が閉じられ、生徒達はヒッとひきつるように息をのんだ。
この恐ろしい光景からはしかし、誰も目を背ける事は許されない。
タケシと、生徒達にとっての地獄はまだ始まったばかりであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……っ!!? ん゛っ!!? む゛ぐぅうううううっ!!!!」
視界が暗く閉ざされた瞬間、タケシの体は熱くぬめった粘肉に上下左右から包み込まれた。
恐らく舌と思われる、独特の"ひだ”の感触があるヌルヌルの肉に全身が沈み込み、全方位から強く押さえつけられているために身動きがほとんど取れない。
呼吸すら困難なほど舌肉に押し付けられているところに、周りからジュワジュワと滲み出してきた新鮮な唾液が流れ込んでくる。
「ぶッ、ぐッ!!? がぼぼッ!! ぶえッ!! げッほッ!!」
(い、息ができない!! 唾で溺れる!!!)
「むぐぅうッ!! ぐぐぐッ…………ぶはッ!!! げほッ! はぁッ……ふぐッ!!? うぅ゛ううううッッ!!!」
(く、臭いッ!! 臭すぎるッ!! 何だこれッ!!?)
顔中にまとわりつく舌肉をなんとか押しのけ、僅かに生まれた空間でようやく息を吸い込んだタケシは、次の瞬間に鼻腔を貫いた凄まじい臭気に悶絶してしまった。
他人の不潔な口内から醸される悪臭が濃縮されたモノを、規格外のサイズ差から全身を包み込むようにして嗅がされているタケシは一瞬にしてパニック状態に陥った。
「ぐざッッ!! ぐぇッ、臭いぃぃッッ!!! きたなッ……うぇ゛ぇぇええッ!!」
(これ全部、あの化け物女の腐った唾のニオイ!? 無理無理無理ッッ!! 息できないッッ!!!)
幼いながらも健全に育っているタケシであれば、美女との口づけに淡い幻想を抱いていたはずだが、初めて間近で嗅いだハルヒの口臭と唾臭はそのような幻想を粉々に打ち砕く程に強烈なニオイだった。
桜色の唇で密閉された空間はサウナ以上の湿度に保たれ、顔をどの方向に向けようとも、熱く湿った臭すぎる空気が鼻に殺到し続ける。
そしてハルヒの舌が気まぐれに動き出せば、またもタケシの体は舌肉に押し付けられ、もみくちゃにされる。
「むぶぇッ!!? がぼッ、ごぼぼッ!! じゅるるッ!? げほッ!! お゛ッ!! お゛ぇええええッッ!!!」
(つ、唾飲んじゃった!! 口の中ネバネバする!! き、気持ち悪いいぃ!!!)
そのような状態でも窒息を避けるために呼吸しようとすれば、運が悪いと唾臭い空気の代わりに唾そのものがジュルジュルと流れ込んでくる。
たとえ目を閉じていても、ただの水とは明らかに違うニオイと粘度がそれを確かに"他人の唾”であると強烈に主張し、口内で何本も糸を引く感触や、重くモッタリとした不快な喉越しが震えるほどの嫌悪感を引き起こす。
「お゛ぇええッ!! ぐざいッ!! ぐざいぃぃぃッ!! がぼごぼッ!? ぐぇぇッ!! だず、げッ――ごぼぼぼッ!!」
もはや目は開けていられず、顔の鼻から口からドロドロと入り込んでくる大量の唾液のせいで、タケシは溺れているような状態になっていた。
タケシの幼い人生経験が走馬灯として呼び起こしたのは、プールの授業中に息継ぎに失敗し、塩素入りの水をしこたま飲んでしまった苦い経験だった。
しかし、人肌に温められた激臭を放つ他人のネバついた体液で溺れ死にそうになっているこの状況の悲惨さはそれとは比べ物にならない。
「ん゛んんんッ!! うぁあああッ!!! ごぼごぼぼッ!! ぶぁッ!! あ゛ぅうううううッッ!!!」
今までの人生で一度も味わった事のない未曽有の嫌悪感と苦しみの中で、タケシはどうすれば良いか分からず、赤ん坊のように泣き叫び、喚き散らした。
手足をバタつかせ、届く範囲の粘肉をめちゃくちゃに叩き、爪を立て、歯を立てた。
しかし、その全身全霊の叫びは暗く湿ったハルヒの口内に反響するに留まり、必死の抵抗はハルヒにとっての"心地よい刺激”として消費されるだけであった。
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