緒又しゆう 2023/07/06 00:00

【催◯わ~るど】あるザーメンサーバーの風景

 足が僅かに下へと押さえつけられる感覚がする。狭い部屋は少しずつ上へ上へと移動しており、天井近くの表示版は少しずつ数字を大きくしていった。

「小西さん、もしかして緊張していますか?」

 俺のすぐ隣りにいる女性が語りかけてくれる。優しい雰囲気の女性だった。髪の毛は後頭部の高いところで一つにまとめており、前髪は斜めに流してピンで止めている。きれいな大人の女性だが、顔の横で細く垂らした横髪が可愛らしさを携えていた。後れ毛が色っぽいうなじには社員証がかけられており、ジャケットからこぼれ出そうな胸元の前でゆるく揺れている。社員証の顔写真の横には、「姉川瞳」と書かれていた。

「い、いいえ、だ、大丈夫、です」
「無理なさらなくていいんですよ?」
「……すみません。少し……いや、結構、緊張しています」
「そうですよね。私も同じ立場だったらそうだと思います」
「お、俺、ちゃんと働けますかね? 25にもなって、バイト以外で働いたことなんてないし……バイトも全然、長続きしたことなくって」
「あら、でも研修は行ったんでしょう?」
「ま、まあ……でも、あれ研修だったんですかね? 半年間規則正しい生活して、運動して、夜には音楽聴きながら寝るだけでしたけど……まあ、痩せられたのは良かったんですが」
「なら大丈夫。あなたも立派な大人、なんですから。まあ、その見た目だと、女の子に見えるかもね?」
「そ、そお、ですかね……ハハ、ハ」

 俺はへらへらと笑ってごまかすが、本当なら笑っていられない。エレベーターの壁に取り付けられた鏡をみやり、俺は一層不安にかられてしまった。
 エレベーターの文字盤前には姉川さんが立っている。そのすぐとなりに俺が立っているのだが、俺の身長は姉川さんよりも頭一つ分は小さかった。姉川さんが特別大きいというわけではない。女性にしては確かに多少背が高いが、それにしたって170程度だ。大して俺は150前後。もしかしたらもう少し小さいかもしれない。首から下は一丁前にスーツを着てはいるものの、会社員というよりは社会科見学にきた中学生のようだった。顔立ちも元より丸みを帯び、目元もこころなしか大きくなっているように見える。

「……大人になってから伸びるってのは聞いたことあるけど、縮むなんてあるかなぁ……?」

 俺がつぶやき終えると同時に、ポーンと呼び鈴が鳴った。受付らしい女性と姉川さんが軽く会釈をし合って、俺も軽く頭を下げて中へと入っていった。どうやら女性が多い会社らしい。男性も何人かいることはいるが、オフィスの大部分は女性社員だった。姉川さんは社員同士かるく挨拶を交わすと、俺を連れて前の方に立つ。

「皆さん、おはようございます。本日の朝礼を始めましょう」

 女性社員達がそれぞれ口を止め、それぞれの席に立つ。オフィス内では俺と姉川さんに視線が向けられた。

「おはようございます。本日は、私達のオフィスに新しく配属された社員がおります。皆さんのお仕事をサポートする役割ですので、よろしくおねがいしますね。では小西さん?」
「あ、は、はい。こ、小西玲です。ど、どうぞよろしく、お願いいたします! 最初はご迷惑をおかけするかと思いますが、精一杯がんばりますので、よろしくおねがいします!」
「へぇー……可愛い~♪」
「小西くぅーん、なんさーい?」
「え、あ、25です!」
「へぇ、25かぁ♡」
「ふぅん、私より歳上なんだぁ……?♡」

 オフィス内にクスクスという声が聞こえてきた。一体何なんだろう。俺は不安にかられながら、軽く会釈をして姉川さんのすぐとなりに戻っていった。姉川さんは少しだけ俺に微笑みかけると、またすぐにオフィス内を一瞥した。クスクスという小さな笑い声は消えたものの、女性社員の怪しい笑みは止まらない。

「それでは、只今から小西さんの配属を通達いたします。まあ、皆さんはおわかりですよね?」
「……?」
「小西さん、これがあなたの配属です」

 姉川さんはそう言うと、俺に何かを見せてきた。首輪のようだった。ペットとかにつける、大型犬サイズの。首元には横長のプレートが取り付けられており、そこには『営業一課 ザーメンサーバー 小西玲』と書かれている。

「え……」

 俺の理解が追いつかないうちに、首輪がカチャリと取り付けられると、姉川さんは俺の前で腕組をする。

「さ、小西さん。服を脱ぎなさい。服も、下着も、全てです」
「……!」

 一体何なんだろう。オフィスに来て、服を、脱げ? ここって仕事場だよな? M男向けの風俗とかじゃないよな? けれど、俺の口は返事をせずとも、体は素直に服を脱いでいった。




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