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裸足裏の記事 (48)

【ホラー】九州地方のある神事について【足裏○問】

 このドキュメントは、ある女性記者のPCに残されていた未発表原稿である。

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 日本には奇祭と呼ばれる祭りがいくつかある。諏訪の御柱祭、男鹿のなまはげ柴灯祭、富士吉田の火祭りなどは日本三大奇祭として知られているが、それ以外にも数多の奇祭が各地で開催されており、そのいくつかは時代の流れに逆らい続け、今も過激で危険な様相を色濃く残している。

 現代の感性では受け入れがたい、そういった危険な祭りはほとんどが地元民だけでひっそりと行われているが、昨今はインターネットなどの発展により情報が溢れ、外部からの参加者も少しずつ増えつつあるようだ。また、開催する自治体自体が村おこし、町おこしの一環として、積極的に奇祭をメディアでアピールすることもある。

 今回、私が伺った九州地方の▓▓県▓▓▓村の奇祭もその一つだ。大学時代に民俗学を専攻し、日本各地の奇祭にも興味のあった私だが、▓▓▓村の火叢祭は名前を聞くのも初めてだった。本誌を読まれる読者の中にもこの祭りを知る者は少ないだろう。今回は、極めて過激ながらも当地で脈々と受け継がれてきた、この驚くべき奇祭の様子を皆さんにお伝えしたい。

■最初は火渡り神事に見えたが……

 火叢祭は▓▓▓村に存在する▓▓▓神社の境内にて毎年二月に執り行われる。▓▓▓神社の祭神は火叢之誉姫(ホムラノホマレヒメ)とされる女神であり、日本書紀などにはその名が確認できないが、現地に伝わる伝承によれば足裏苦行を司る神であるという。

 私が調べた限りでは、ホムラ姫信仰は北は北海道から南は沖縄諸島にまで点在しており、地域によって穂村之宝稀姫、火村之穂希比売などの表記揺れがあり、あるいは短く焰姫(ホムラヒメ)などとして伝わっている例もあるが、いずれにせよ全て同じ神格を指すものと考えて良さそうだ。ホムラ姫を信仰する地では規模の大小はあれど足裏苦行にまつわる奇祭が行われており、時代の流れに呑まれてしばらく途絶えていた地もあったようだが、そういった地域でも昨今、祭りの再開が相次いでいるという。地元民の方々の篤い信仰心によるものであろう。

 苦行の神というのは、我が国ではあまりメジャーな神格ではない。インドではヒンドゥー教のシヴァ神が苦行者からの信仰を集めているが、ホムラ姫は若く美しい女神とされており共通点は少ない。おそらくインドからの伝来ではなく、我が国固有の神格と思われる。

 さて、前置きが長くなったが、祭りはまだ風の冷たい二月の祝日、正午より執り行われた。かなりの広さのある神社の境内には、村中の村民は当然として近隣の村の人々も駆けつけており、また、見るからに高額な撮影機材を準備した部外者らしき人たちも集まっていた。一部の人達の間ではホムラ姫信仰やその奇祭の人気が加熱しており、各地を飛び回ってその様子を撮影しているようだ。

 境内には素足に草履履きの若い巫女たちが多数いて、彼女たちが火の道の準備をしていた。今日行われる祭りは火渡り神事である。巫女たちは十六歳から二十四歳までの女の子たちで、村内の女子の中から志願者が募られ、さらに村外からも希望者も受け入れているようだ。境内には二十名を超える女子たちが集まっていた。

 火渡りは熱した炭を敷き詰めた道の上を裸足で歩くもので、これ自体は日本各地で行われている神事である。薪を積んで火を付けると、次第に薪は煌々と燃え上がるが、この状態で渡るわけではなく、十分に燃え切った後の炭火の上を渡る。

 参加者が募られ、見物客の男性や女性、おじいちゃん、おばあちゃん、小さな子供までが列を作って並び、次々と火渡りをしていくが、皆、一様に平然とした素振りである。現に私も参加してみたが足裏にほんのりとした温かみを感じた程度であり、火傷どころか熱いとも感じなかった。程度の差こそあれ、どこの火渡り神事も似たようなものらしく、参加者が火傷をすることは基本的にない。だが、本奇祭の火渡り神事はここからが本番であった。

■足裏を火傷させる巫女たち

 見物客の火渡りが終わると、緋袴姿の巫女たちが次の支度へと取り掛かった。彼女たちはずっと大鍋を火にかけていたが、その中には無数の砂利が入っており、熱されたそれは焼け石となっていた。巫女たちは数人がかりで大鍋を運び、鍋を傾けて火の道の上へと焼け石を落としていく。凄まじい熱気が溢れ、最前列で見ていた私は顔に当たる熱風に火照りを感じたほどだ。

 真っ赤に焼けた砂利の上に、巫女たちが枯れた草を敷き詰めていく。すぐに草に火が付いて燃え上がるが、さらにその上へ生草と薪を置いて火の勢いに蓋をしていく。しばらくすると薪の間からチラチラと炎の舌が見えるようになり、本番用の火の道が完成した。

 火の道が放つ熱は先程までとは明らかに異なっている。この上を裸足で歩けば、ほんのり温かい……と言った程度では絶対に済まない。足裏は間違いなく火傷を負うだろう。

 なのに、二十人を超える巫女たちは次々に草履を脱ぎ捨て、躊躇なく火の道の前へと並んでいく。数人の女の子は緊張からか険しい顔をしていたが、ほとんどの女の子はうきうきと楽しそうな表情で、今からの火渡りが待ちきれないといった様子だ。高価な撮影機材を準備していた見物客たちも頻繁にシャッター音を響かせる。ホムラ姫を祀る火渡り神事はまさにここからが本番だからだ。

 列の最初に並んだ巫女が、火の道に向かって一礼をした後、笑顔を輝かせて、もう待ちきれないとばかりに火の道を踏みしめた。彼女は緋袴をひらめかせながら、白い素足をゆっくり、ゆっくりと進めて、赤い炎を足裏で踏みにじっていく。その間もずっと笑顔のままだった。わずか10メートルの火の道を三十秒以上かけて踏破した後、彼女は笑顔のまま正座をして、その足裏を見物客たちに見せたが、両足裏とも見事に真っ赤に腫れ上がっている。見物客たちから「オーッ」という歓声と共に盛大な拍手が送られた。その腫れ上がった足裏は全治二週間相当の火傷と思われた。

 この時に火渡りをしたU子さんは村に住む19歳の女性で、16歳の時から巫女として、この神事に欠かさず参加しており、今年もとても楽しみにしていたいという。

「火渡り巫女の一番手は火女一番(ひめいちばん)と呼ばれます。火女一番に選ばれるのはとても名誉なことなんです。その後に続く巫女たちのお手本になれるように、完璧で美しい火渡りが求められます。私は過去三年での火渡りが認められて、今年ついに火女一番に選ばれました」

 火女一番は巫女たちの間での事実上のナンバーツーである。さらにより高位のお役目もあるが、それは後ほどお伝えしよう。

 火女一番のU子さんに続いて、素足の巫女たちが次々と火渡りをしていく。U子さんのように最後まで笑顔で渡り切れた子はほとんどおらず、途中で小さな悲鳴を上げたり、渡り終えた後も顔をしかめさせて体を震わせながら必死に正座をしている。どの女の子の足裏も赤く腫れ上がっており、足早に駆け抜けた子であっても全治一週間相当の火傷を負っていた。

 隣の県から参加したという16歳のM美さんは、私の取材に対してこう語った。

「この村の神事は子供の頃からの憧れだったんです。村のホームページで参加した巫女たちの足の裏が見れるんですけど、どれも痛々しい火傷を負っていて……。もちろん最初は『怖い!』って思ったんですけど、なぜか気になっちゃって。怖いもの見たさなんですかね。なんかもう日課のように毎日、ページで火傷した足裏を見るようになって。それにどんどん『私もやりたい』って気持ちが強くなってきて……。16歳になったら参加できるから、去年くらいから私もうソワソワしちゃって、待ちきれない気持ちでいっぱいでした。だから、今日は本当に楽しみで仕方なかったんです。初めての火渡り、思った以上に熱くて痛くて、今も泣きそうなくらい足の裏が痛いんですけど、とにかく最後までちゃんと渡り切ることができて良かったです。先輩の皆さんたちと一緒に私の足裏をホームページに載せてもらえるのも誇らしいですね」

 ただ、踏破できない巫女もいた。異変が起こったのは六人目の巫女で、彼女は笑顔のまま火の道を渡り終えようとしていたのだが、ゴール手前で急に絶叫を上げて、転がるように火の道から逃げ出してしまった。17歳のSさんはその時のアクシデントについて、こう語った。

「焼け石を踏んじゃったんです。焼け石は本当にめちゃくちゃ熱かったですね……。見て下さいよ。焼け石を踏んだ左足の裏の土踏まずだけ、ほら、でっかい水ぶくれになっちゃって。これで全治三週間らしいです。もちろん踏もうと思って踏んだわけじゃなくて、薪の上を踏んだつもりが踏み抜いちゃって、下の砂利まで踏んじゃったんです。本当に痛すぎて反射的に体が火の道から逃げちゃったんですけど……ううん、踏破したかったなぁ……大火傷は別に良いんですけど、ああ、もう……渡り切れなかったの悔しいなぁ……」

 Sさんは村の住人で、神事の参加はこれが二回目。昨年は見事に火渡りを踏破したという。火女一番も狙っていたという彼女だが、今回の失態により来年の火女一番は絶望的となったし、リタイアしたので終了後の晒し足にも参加できない、ホームページにも載せてもらえないと心底からガッカリしていた。

 結果、今年は二十二名の巫女が参加し、内二十名が踏破した。巫女の内訳は村民が六人、残りは神事を聞きつけた村外からの参加者だという。北海道からの参加者もいた。

■終わらない火渡り

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