【ホラー】関東地方のある神事について【足裏○問】

前作 → https://ci-en.dlsite.com/creator/19615/article/1055851




 このドキュメントは、ある女性記者のPCに残されていた未発表原稿である。

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 前回、筆者は▓▓県▓▓▓村に伝わる奇祭、火叢祭の様子を読者諸氏にお伝えしたが、今回もホムラノホマレヒメ神にまつわる奇祭をレポートしたいと思う。前回は九州地方だったが、今回は北関東の▓▓県にて執り行われている神事であり、このことからもホムラ姫信仰が広く日本各地に広がっている状況がお分かり頂けると思う。

 今回の記事だが、火叢祭の際に懇意となった見物客の方から、「独特の取り組みを行っている高校がある」との情報を得たのが取材のきっかけとなった。仮にAさんとしておくが、Aさんはホムラ姫の神事を熱心に追いかけており、各地を飛び回って写真撮影を行っている。そのAさんが一枚の写真を見せてくれたのだが、そこにはセーラー服に裸足で火渡りを行う女子高生の姿が写されていた。

 その方いわく、これは神事ではなく学校行事とのことだが、それは逆に興味深い。ホムラ姫神事がハレの場を飛び越えて、一般の生活圏にまで既に入り込んでいるような感覚を私は覚えたのだ。

 写真をよく見ていると不思議な点が見つかった。写真には他の生徒たちも写っていたが、彼らは裸足ではなく靴下のようなものを履いていた。その点をAさんに尋ねてみたが、彼にも細かな事情はよく分からないという。ここの学校名を教えてもらい、▓▓県▓▓▓▓高校へと連絡を取ったところ、すぐに返信があり、生徒会長が取材に応じてくれることとなった。


■学校主催の火渡り行事

 実際にお会いして驚いたのだが、生徒会長の宗上沙千佳(むなかみ・さちか)さんはあの写真の御本人であった。(著者注:宗上沙千佳さんからは実名を出して欲しいと頼まれています。調べればすぐに行き当たることですし出しても良いかと考えますが、シリーズの統一性もあると思いますし、編集部のご判断をお願いします)

 写真を見せたところ、沙千佳さんは「私で間違いありません」と言って朗らかに笑った。あの学校行事について尋ねると、沙千佳さんは用意してくれていた資料を開いて、やや時代がかった写真をみせてくれた。それは火渡りをする高校生たちの写真でタイムスタンプは一九九二年となっている。

「火渡りはこの頃から当校で行われています。元々、一九八〇年頃まで当地の神社で行われていた神事だったのですが、神社が廃れてしまい……それで文化保全を目的に、生徒有志が始めたようです。その翌年から学校の公式行事となっています」

 多くの生徒が靴下のようなものを履いているが、それは何なのだろうか?

「それに関しては、火渡りを開始した当時の生徒の手記が残っています。普通の火渡りって火傷しないですよね? でも、神社に伝わる文書にしたがって、その通りに準備すると、明らかに足裏を火傷する火力になってしまったんです。で、困ったな……って話になって。彼らは文化保全が目的でしたから、文書の通りにやりたい。でも、そのままだと火傷しちゃう。そこで彼らはこう考えたんです。靴を履けば良いんじゃないか、って」

 沙千佳さんはそう言っておかしそうに笑った。

「神社の文書には火渡りする修道者の方には何も言及されていない、必ず裸足でやれなんて書かれてない、靴を履いていいんだ、とか言うんです。笑っちゃいますよね。書かれてないっていうか、裸足でやるのが当たり前だからわざわざ書かなかっただけですよ」

 確かに靴を履いて火渡りをすることに意味があるとは思えない。当時の有志たちの間でも議論は割れたらしい。

「当時、中心的メンバーだった香山美佳さんという高校一年生の女子が猛反発したらしいです。文化保全を目的にやるんだから、ちゃんと以前の形でやらないと意味がない、過去の写真などを見ても当然ながらみんな裸足でやっている、私たちも裸足でやるべきだ、と。まぁ、当たり前ですよね。……で、喧々諤々の議論の末、流石に靴はやめよう、でも裸足は怖いし……ってなって、折衷案として、底の厚い布足袋を履くことになったんです。で、それが今でも続いてるわけです」

 写真の靴下のようなものは布足袋だったのだ。

 この布足袋を履いて、直前に水溜まりを踏んでから火渡りをすると、多少の怖さはあるものの火傷することはまずないという。では、なぜ沙千佳さんは裸足で火渡りをしていたのか?

「もちろん裸足でやらないと意味がないからです。香山さんも初年度は渋々従ったそうですが、翌年、学校行事として火渡りが行われた際に、自分の番の直前で足袋を脱ぎ捨てて、彼女一人だけ裸足で火渡りしたそうです。全治二週間の火傷を足裏に負いながらも毅然として立っていた、と記録にありますね。その香山さんの伝統が今も続いているわけです」


■学校は裸足を禁止しているが……

 では、学校側は裸足での火渡りを推奨しているのかと言えば、全くそんなことはなく、むしろ禁止しているという。

「生徒が怪我するような行事は、学校としては手放しで認められないのでしょう。香山さんはメチャクチャ怒られたし、一部の生徒たちも、せっかく復活させた神事がまた廃止されてしまう、と香山さんにキツく当たったみたいです。でも、香山さんは平然と聞き流して……。学校側から、罰として、足裏が治り次第、河川敷を二〇km走るように、と伝えられたのですが、香山さんは、分かりました、と言って、すぐに立ち上がって……」

 なんと、火傷した足で裸足のまま河川敷を走り出したという。

「河川敷には砂利道があるんですが、わざわざその上を走り続けたんです。四時間かけて走り切った、と書かれています。最初は香山さんに批判的だった生徒たちも、最後は砂利道に並んで香山さんを応援したそうです。すごい話ですよね」

 沙千佳さんはDVDをデッキに差し込み、再生した。それは今年の火渡り行事の様子だった。白い布足袋を履いた生徒たちの中で、沙千佳さんと何人かの女子だけが堂々と肌色の素足を見せつけている。

「火渡りに裸足で挑むのは毎年女子の十数名だけです。なぜか男子は全くやりません。空手部、剣道部、応援団の女子で裸足になる子が多いですが、文化部や帰宅部の子もやります。裸足になる子は毎年裸足でやりますね」

 映像に映る裸足の女の子たちは、みんな楽しそうで、明るい笑顔を浮かべている。火叢祭の際の裸足の巫女たちも火渡り前には同様の笑顔を浮かべていた。

「学校側からは、必ず足袋を履くように!と言われてますよ。でも、それを無視して裸足で挑む女の子たちはやっぱりカッコイイんです。自分で言うのも何ですけど、後輩女子からも尊敬の眼差しを向けられますし、男子たちの間でも一目置かれます。私が生徒会長に選ばれたのも、毎年、裸足で火渡りをしているのが大きかったと思います」

 ▓▓▓▓高の歴代生徒会長はほとんどを女子生徒が占めているが、彼女たちはみな裸足で火渡りを行っていたという。

「火渡りの後、裸足の女子たちは先生に名前を呼ばれて集められて、和を乱したことを全校生徒の前で叱責されます。正座させられ、反省を求められ、来年はやらないと誓えと言われますが全員拒否します。すると、罰として、火傷が治り次第、河川敷を走れと言われるので、すぐに立ち上がって全員で河川敷に行き、裸足のまま二〇kmを走り出します。毎年お決まりの一種の演劇ですね。砂利道の周りに生徒たちが立って応援してくれるのも毎年の光景です」

 当たり前だが、火傷した足裏で砂利道を走る苦痛は筆舌に尽くしがたいという。

「火に炙られて脆くなった皮膚が砂利に削られますから。三kmも走ればもうズタズタですよ。足裏のマメが破れたら痛くて歩けなくなるじゃないですか。あれが足裏一面で起こってるのに、その痛みに耐えながら砂利道を走り続ける感じです。香山さんは四時間で走り抜いたと手記にありますが、すごいですよね。四時間で走れる子なんてほとんどいなくて、私は毎回六時間くらい掛かっちゃうかな……。後半はずっと泣き喚いてますね。八時間経っても完走できなかったら強○終了なんですけど、これはとても恥ずかしいこととされています」

 それにしても、なぜ沙千佳さんたちは裸足の火渡りに積極的に挑んでいるのだろうか。文化保全という目的だけでは、やや理解し難い程の積極性に感じられるが……。

「えっと、変な子だって思われそうなんですけど」

 沙千佳さんは、はにかみながらも答えてくれた。

「楽しい……んですよね。みんなから尊敬の眼差しを向けられる、っていうのも少しはあるんですけど、そこは全然本質的じゃなくて。単純に楽しいんです。火渡り直前のドキドキ感もすごく楽しいし、火傷した足の裏がズキズキ痛むのも嬉しいんです。お茶をこぼして手とかを火傷した時は単に辛いだけなんですけど、足の裏が痛いのはニヤニヤしちゃうっていうか。いや、メチャクチャ痛いんですよ。痛いのになぜか嬉しいんです。火傷した足の裏で砂利道走ってる時も泣き喚く程に辛いのにずっと嬉しくって。二〇kmと言わず一〇〇km走らせて欲しい、三日三晩走らせて欲しい……そんなふうに思っちゃいます」

 沙千佳さんは当時の苦痛を思い出しているのか、本当に幸せそうにそう語った。

「足裏がズタボロになるのも嬉しいんです。砂利道を走った後、裸足になった子が集まって、お互いの足の裏を見せ合いっこするんですが、どの足裏も火傷して皮が剥げ落ちて……ボロボロで本当に愛しくって。私が今味わってる足裏の苦痛をみんなも味わってるんだなって思うと、たまらなく幸せな気持ちになるんです。私の足の裏もみんなの足の裏ももっともっとボロクソになればいいのに、って。……たぶん、静川さん、今、変な子だなって思ってますよね(笑)」

 私は否定したが、沙千佳さんはクスクスと笑った。

「いや、しょうがないんです。こればっかりはやらないと分からないんですよ。そうだ、静川さん、今週末に隣県の▓▓神社で火村巫女舞祭(ほむらみこまいまつり)ってのがあるんです。私、それに参加するんですけど、良かったらご一緒しませんか? 名前から分かる通りホムラ姫の神事です。静川さん、ホムラ姫神事を取材されてるんですよね? これはかなり安全な部類だと思うので、一度体験されてみてはいかがですか」

■巫女舞神事への参加

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