-freya- 2023/06/05 14:55

SMメイド喫茶を利用する女の子

――はじめに――
 こちらは全体公開用の前編になります。
 
 支援者の方は限定公開と合わせてお楽しみください!
 
以下、登場キャラクター

・藤光紗希(ふじみつさき)
 どこにでもいる普通の大学生。
 物語の主人公。

・堀川結衣(ほりかわゆい)
 紗希の友だち。
 幼稚園のころからの腐れ縁。

・日夏七菜(ひなつなな)
 結衣の大学の先輩。
 紗希とは初対面。
  
・メイド喫茶スレイブの店員。
・リリ
 ツインテールのメイド。
・ノノ
 ポニーテールのメイド。
・ルリ
 ショートカットのメイド。


――以下本編――


 大学一年目の夏休み。藤光紗希(ふじみつ さき)は、幼馴染である堀川結衣(ほりかわ ゆい)の誘いで、招待状がなければ入店ができない大人の喫茶店に訪れていた。
 
「じゃあ、あたしが食べさせてあげるから、お口あ~ん、して?」

「ま、マジで……?」

「でないと、食べれないでしょ?」

「うぅ……そうだけどさぁ……やっぱこれ、どうにかならないの?」

「ならないよ? 会計するまではそのままだって七菜先輩も言ってたじゃん」

「そうだけどさぁ……これ、めっちゃ恥ずかしいよ?」

「でも、結構似合ってるよ?」

「いや、似合ってても困るんだけど」

 いいから口開けて。と結衣は軽く笑いながら、お皿に盛られたクリームパスタをフォークで一口サイズに掬いあげ、あ~ん、と声を出しながら、紗希の小さく震える口元へそれを運んでくる。
 
「あ、あ~ん……ッ」

 紗希はそんな結衣の顔を上目遣いでチラチラ見ながら、頬を真っ赤に染めつつもクリームパスタを口に頬張った。

「どう? おいしい?」

「う、うん……おいしい」

「じゃあ、次もいくよ。はい、あ~ん」

「あ、あ~ん……ッ」

 明るく染めたショートボブの髪をはらりと揺らし、結衣は次々とクリームパスタを掬いあげては紗希に食べさせてくる。
 自分だけの玩具を手に入れた五歳児のようにその顔は明るさで満ち溢れているように見えるが、紗希の内心はそれどころではない。いくら幼馴染の誘いとはいえ、このような場所に来てしまったことを後悔していた。
 なぜなら、紗希の上半身には両手を後ろ手に縛り上げる麻縄がギッチリと食い込まされていたからだ。
 
 紗希は、清楚系の衣服を嗜むどこにでもいる大学生だ。
 高校生のころショートだった黒髪を現在はセミロングまで伸ばし、前髪は黒い瞳の上で切りそろえ、三つ編みに結った左右の横髪を頭の後ろで束ねるスタイルを好んでいる。
 身長は平均より低めで顔はどちらかというと少女のような童顔寄りだが、白いブラウスの胸元には誰が見ても立派な谷間が作り出されており、身体全体のシルエットが綺麗に見えるようなウエストを絞るスカートを身につければ、それなりの大人の女性に見えなくもない。今日はその中でも白いブラウスに合うように紅色がメインに使われた白黒チェックのフレアスカートを採用している。
 
 ギチッ、ギシシッ。

 だというのに、紗希の上半身に食い込む麻縄の存在は明らかに異質めいたものだった。
 コの字にそろえた後ろ手。
 手首だけでなく、二の腕の上下にまで這いまわるように施された麻縄は、育ちきった紗希の大きな胸の丸みを強調するように白いブラウスの上から真横に上半身を締めつけて、両腕の自由を奪っている。

 【メイド喫茶スレイブ】

 名前から想像するに、この喫茶店がどういうサービスを扱っているのかは明白だろう。
 わからない人のためにあえていうが、この喫茶店は、俗にいうSMプレイから拘束プレイに至るまでの“そういう”プレイを好き好んでいる被虐体質を持った女の子が奴○の気分を味わえるというお店である。
 しかしながら、招待状を手にして来店するお客さんには初めて訪れる人もおり、また、紗希と同じようにそういうことを知らない初心な人もいる。
 そのため、この喫茶店では、初めてサービスを利用する人限定で最終会計時に割引が課されるメリットが用意されていた。

 正面に手錠をつけるなら二割引。
 後ろ手に手錠をするなら三割引。
 緊縛による後ろ手縛りなら五割引。
 追加拘束することで、そこからさらに一割引き。
 
 上記のプランを選んだあとは、受付横にあるカーテンレールが誂えられた試着室でプラン通りの拘束をメイドに施され、そこから奥に進んだ廊下の片側一面に建ち並ぶ鋼鉄の鉄格子によって隔てられた狭い個室に奴○として収容されるのだ。
 しかも、その個室の出入口にある鉄格子にはしっかりと錠前が取り付けられており、一度でも中に入ってしまえば、鍵を持っているメイドが錠を開けない限り、自由に出入りができないようになっている。
 要するにこの喫茶店のメイドは来客をもてなすスタッフでもあると同時に喫茶店に自ら囚われに来た奴○たちの看守でもあるということだ。
 ただ、冷房の効いた牢屋に配置されたベルでメイドを呼び出したり、プランを追加したりしない限りはメイドが自らお客に関わることは基本的にはないらしく、あくまでもお客さんの希望に沿ったサービスを展開しているらしい。
  
「てかさ、なんで私だけが縛られてるの? もともとは結衣が縛られるはずだったんじゃん」

 最後のクリームパスタを胃袋におさめたころ。食事の介助を終えた結衣が向かいの座席へ戻っていくタイミングで、紗希は思い出したように現在の状況について異を唱える。
 そもそも紗希がこの喫茶店へやってきたのは、結衣が大学の先輩である日夏七菜(ひなつなな)から「喫茶店に遊びに来て欲しい」とその場の雰囲気で招待状をもらってしまい、あとから断ることもできず、最終的に友だちである紗希に「一人で行くのは不安だから一緒について来て欲しい」と涙目に頼み込んできたのが発端だ。
 お客を奴○のように扱うお店なんかに紗希は行きたくなかったが、「あたしの傍にいてくれるだけでいいから!」と結衣が泣きついてくるから、そこまで言われたら仕方ないと紗希は同行することを受け入れた。
 なのに、受付で拘束についてのサービス内容を聞いた途端、「やっぱりジャンケンで決めよう!」と結衣が騒ぎ出し、なんだかんだで紗希はジャンケンに負け、その勝敗を見守っていた結衣の先輩である日夏七菜に「じゃあ、紗希ちゃんのこと縛っちゃうね」とプランを選ぶまでもなく強○的に縄で後ろ手に縛られてしまった。
 紗希を後ろ手に緊縛し終えたあと「結衣ちゃんも縛ってあげるよ?」と日夏七菜は言っていたが、結衣は全力でそれを拒んで、紗希だけを生け贄に捧げたのは言うまでもない。
 
「いやぁ~、だってやっぱ身体の自由がなくなるって怖いじゃん? だから、唯一信頼できる紗希のこと誘ったっていうか……紗希ならあたしの代わりに縛られてくれるかなぁ~って、思っちゃったりしなかったり?」

「――――」

 その言い分が本当なのだとしたら、結衣は最初から紗希を身代わりにするために連れてきたということになる。
 結衣とは幼稚園からの付き合いになるし、なんとなくこういうことになるんじゃないかと予想はついていたのだが、それでも紗希は腹が立った。

「いや、その……はい、わかってます反省してますだからそんな怖い顔で睨まないでくださいごめんなさいっ!」

 鬼の形相を浮かべる紗希に対して、姿勢を正してから頭をペコペコと下げてくる結衣。
 それに免じて、ここでの会計を全額払うということを条件に、結衣を許してあげることにした。
 紗希は縄で縛られるなどという経験はしたことがなかったし、無料で体験できたと思えばギリギリ納得できなくもない。

 しかし、紗希にはどうしても気掛かりなことがあった。
 それは、日夏七奈に縄で縛られているとき耳元で囁かれた言葉。

 ――30分後。私が行くまでに紗希ちゃんが自力で縄抜けできてなかったら、特別なイベントに参加してもらうから、楽しみにしててね。

「……ッ」

 その言葉を思い出すだけでも、手のひらから嫌な汗がにじみ出てくる。
 なぜ日夏七菜に誘いを受けた結衣ではなく、おまけで着いてきた紗希がイベントに参加しなくちゃいけないのか。訳がわからない。
 しかも、イベント内容については一切説明なし。そんなイベントに参加などしたくはなかった。
 なのに、施された後ろ手縛りは紗希の想像よりも厳重なもので、縄抜けなどできそうにない。

 手首を背中に吊り上げる縄は指一つ分くらいの緩みがあって、若干の自由があるのだが、上腕を身体に縛りつける胸の上下の麻縄は肌に硬く食い込んでおり、そのせいで両腕全体が身体に密着し、肘を広げることができず、両手首を束ねて吊り上げる縄から腕を引き抜けないのだ。
 ならば、結び目から解こう、と親指と人差し指で縄目に触れるのだけれども、背中でコブのようにダマになっている結び目のどこに縄の端があるのかもわからず、ただ無意味に手首を疲れさせるだけだった。

「ねぇ、私の背中ってどんな感じになってる?」

 だから、紗希は縄に縛められた身体をくるっと回して、スマホに目を落とす結衣に状況を教えてもらうことにする。

「え……? そりゃあ、縄で縛られて動けなさそうだけど、それがどうしたの?」

「いや、そうじゃなくて……結び目とかどんな感じ? 自力で解けそうに見えるかな?」

「んぁ~……どうだろう? あたしには背中の真ん中で縄がいっぱい絡まってるようにしか見えないし、へたに触らないで七菜先輩に解いてもらったほうがいいと思うよ?」

「だよねぇ……」

 結衣の意見はごもっともだ。
 だが、それでは日夏七菜の言う特別なイベントとやらに参加することになってしまう。あのときの雰囲気からして、まともなイベントではないのは確実だ。
 何としてでも日夏七菜が来る前に縄抜けをしたい。したいのだけれども、メニューをオーダーしてからの待ち時間などを考慮すると、日夏七菜から宣言された時間はとうに過ぎており、結衣に結び目について問いかけた時点で、紗希は自分が納得できるように縄抜けが出来なかったいい訳集めをしているにすぎなかった。
 しかし、やっぱり納得いかない。
 
「どう? 二人とも楽しんでる?」

「あ、七菜先輩!」

「――ッ」

 そこへタイミングよく現れた日夏七菜が鉄格子越しに声をかけてきて、それに気づいた結衣がパッと明るい表情をみせながらスマホを閉じる。
 紗希はといえば、奥歯をぎゅっと噛みしめて、後ろ手に緊縛された両手をギシリ、と鳴らすことしかできなかった。

「そろそろパスタを食べ終わるころだと思って、食後のパフェ持ってきたよ」

 日夏七菜は鉄格子に備え付けられた錠前を専用の鍵でカチャリと開けてから、カートで運んできたチョコとストロベリーづくしの特盛パフェを個室のテーブルに二つ並べてくれる。

「あ、ありがとう……ございます」

 本物のメイドさんのように規則正しく洗練された日夏七菜の動きは、黒髪ストレートロングとメイド姿が相まって、とても育ちが良く見える。
 結衣の話しでは、このお店のオーナーは日夏七菜の親戚とのことだったが、これだけおしとやかで凛々しい佇まいができる人なら、血の繋がりとか関係なしにこういうお店に雇われていても不思議じゃない。
 なぜなら、こういうプレイを提供するサービスには安心感というものが一番不可欠なものだからだ。
 日夏七菜のようなカリスマ的な雰囲気を放つ女の子に縄で縛られるのなら、自ら進んで縛られに来るドMな女の子も多いだろう。
 紗希は日夏七菜とは今回が初対面だが、それほどまでにカリスマ的な魅力を彼女から感じていた。
 だからこそ、縄抜け出来ていないこの現状に胸の奥がもやもやするような危機感を抱いている。

「ありがとうございます七菜先輩!」

「どういたしまして」

 そんな紗希に構うことなく、結衣は配膳されたパフェと日夏七菜をキラキラした瞳で交互に見やりながら、早くもスプーンに手を伸ばす。
 テーブルに配膳されたパフェは、それほど見事なまでに豪華な見栄えをして美味しそうだった。
 もしも、両手が自由だったのなら、紗希も結衣と同じようにスプーンを手に取っていたかもしれない。
 しかし、紗希の両手は後ろ手に緊縛されたままギシギシ音を鳴らすだけで動かせない。
 それが酷くもどかしい。

「じゃ、いただきまーす! ――んんッ!? うわ、うっまぁ~い! なにこれ、最高なんですけど!?」
 
 大げさと言わんばかりに頬っぺに左手を添えて高い声をあげる結衣。
 いくらなんでもオーバーリアクション過ぎやしないか。と紗希は思うのだが、結衣のこういうところは昔から変わらない個性だったりする。

「ねぇ、私にも一口ちょうだい」

 パフェを美味しそうに頬張る結衣に釣られ、ついつい紗希もパフェが食べたくなり、結衣にねだってみる。

「え~、どうしよっかなぁ? もっと上手におねだり出来たら食べさせてあげてもいいよ? お願いしますぅ! ご主人様ぁ! って――」

「――――」

「あ、今のは冗談ですわかってますちゃんと食べさせてあげるからそんな怖い顔で睨まないでくださいごめんなさいっ!」

 やはりというべきか、調子に乗りまくった親友に冷ややかな視線を向けることになっていた。

「あはは、二人とも仲がいいんだね」

 紗希と結衣の関係は、仲がいいというよりも半分は腐れ縁のような関係だ。
 紗希のすぐ隣でおしとやかに唇に指を添えて、目を細める日夏七奈がいなければ、紗希は身を乗り出して結衣を蹴り飛ばしていただろう。それくらいお互いに気を許し合っているともいえる。

「……って、七菜さんはいつからそこに?」

「え、食器を片付けて、牢屋の戸締りをしてからだけど?」

 緊縛された紗希の隣に居座ることが当たり前かのように首を傾げて、日夏七菜が身を寄せてくる。
 その吸い込まれそうなほど深い黒色の瞳は、縄に絞り出された紗希の身体をしっかりと捉え、紗希が少しでも気を抜いてしまったら、さらに新たな縄を追加してきそうな危うい空気を纏っていた。

「あの、他のお仕事はいいんですか……? ほら、私たち以外にもお客さんいますよね?」

 適当に頭に浮かぶ疑問を零しながら紗希は隣に座っている日夏七奈から少し距離を取る。

「それは他の子たちに任せてるから大丈夫だよ? ほら」

 日夏七奈の視線の先。そこに見える鉄格子に視線を移すと、他のメイドが食器を乗せたカートを移動させていくのが見えた。
 どうやら、嘘は言ってないらしい。

「それよりも、紗希ちゃんは縄で縛られてるから一人じゃパフェ食べられないでしょ? 結衣ちゃんがイジワルして紗希ちゃんに食べさせあげないんだったら、私が食べさせてあげようかなぁ~って思ったんだけど……ダメかな?」

「そうだよ! 七菜先輩に食べさせてもらったらいいじゃん! たしかほら、メニュー表の追加プランにもそういうのあったよ?」

 日夏七菜の提案に便乗するように個室に置かれたメニュー表から、プランについてお品書きされたページを紗希に見せびらかすように結衣が広げる。
 そこには拘束されている奴○への給餌として、メイドが食べさせてくれるサービスプランというものがたしかに記されていた。

「ねぇ、結衣。値段見て言ってる? 半額とはいえ人件費がかかるから結構いいお値段してるよ?」

 ただ、メイド一人を付きっ切りで使用するプランのため値段はそれなりのものだった。
 それを言い訳にして、紗希はこの場をしのごうとするのだが、
 
「でも、七菜先輩が提案してきたってことは、無料でサービスしてくれるってことですよね?」
 
「もちろん、そのつもり」

「だってさ! ほら、食べさせてもらいなよ!」

「うぅ……ッ」

 紗希の上半身を縛めている縄が、さらに食い込むかのようにギシリと鳴いた。

「はい、紗希ちゃん。遠慮しないで、あ~ん、して?」

 頑なに閉じている紗希の口元に、日夏七菜がパフェを乗せたスプーンを運んでくる。

「……ん」

 この場の空気を加味しても、紗希に逃げ道は残されていない。
 目の前に迫るスプーンに乗せられたパフェ。
 白い生クリームとバニラアイスにストロベリーとチョコレートのソースが絡み合って、めちゃくちゃ美味しそうに見える。
 けれども、それを受け入れたらいけない気がする。
 受け入れたらきっと、良くないことが起きる。
 だから、絶対に受け入れたらいけない。
 なのに、パフェは問答無用で紗希の口もとへ迫って来て——

「……ッ」

 ——もう、どうにでもなれ。
 そんな言葉が紗希の脳裏に浮かんだ。

「あ、あ~ん……ッ」

 背中で揃えた両手で握りこぶしを作り、頬を真っ赤に染めながら紗希はパフェを頬張る。

「ん……っ」

 唇を閉じてすぐに、つるっとスプーンが舌の上から抜けていくと口の中でストロベリーチョコと生クリームの甘さがいっぱいに広がって、バニラの香りが溶けていく。

「どう? おいしいかな?」

「お、おいしい……ッ、です」

 どこか儚げに問いかけてくる日夏七奈から目を逸らし、不本意ながらに好意の言葉を紗希は漏らす。

「うふふ、よかった。この調子で食べさせてあげるね? ——紗希ちゃん?」

「は、はい……、おねがいします……ッ」

 頬を赤く染める紗希を揶揄うように、蟲惑的な笑みを作る日夏七菜を横目に見ていると、色々と考えるのも面倒になってくる。
 一体どこからどこまでが彼女の手のひらの上に転がる舞台なのか。弄ばれている紗希にはわからない。
 もしかすると、このお店に入店した瞬間から、紗希の逃げ道はなかったのかもしれない。
 それなら、このサービスを甘んじて受け入れるのも一つの抵抗と言えるのではないだろうか。

「はい、紗希ちゃん——あ〜ん、だよ?」

「あ、あ〜ん……ッ」

 だから紗希は、次から次に与えられるパフェを頬張っていく。
 何も考えず、ただ無心に、心を殺すように、目の前のスプーンの動きだけに集中して、与えられるパフェを口に含んでは飲み込むことを繰り返す。

 一つ。

「あ~ん……ッ」

 二つ。

「んぁ、あむ……ッ」

 三つ。

「はぁ、あ、あ~ん……んッ」

 そうやって繰り返すたびに、口の中でパフェの甘い香りが広がって、それと同時に緊縛された不自由な両手がなんとも言えないむず痒さを全身に滲ませてくる。
 
 両手を縄で縛られて、牢屋の中に閉じ込められ、初対面の人からパフェを餌付けされて……。
 一体自分は、何をさせられているのだろうか。

 そんな思考さえも、パフェを口に頬張るたびあやふやになって、周囲の現状も、何もかも、どうでも良くなってしまう。
 ただ一つだけわかるのは、ここのパフェはすごく美味しいってことだけだった。

「ねぇねぇ、紗希ちゃんって一人っ子?」

 すると、紗希の口もとで、パフェを乗せたスプーンを止めた日夏七菜が質問してくる。
 すぐそこまでパフェが迫っていたから、物欲しげに口を開けて待っていたのに、半端な状態で止められて、暫く口を開けて待っちゃってたのは、許してほしい。

「えと、そうですけど……?」

 日夏七菜の推測どおり、紗希は一人っ子だ。
 それがどうしたというのだろう。

「ふ~ん、どおりで甘え上手なわけだ」

「へ? あ、甘えって……私そんなに甘えてました?」

 甘え上手と言われても、紗希はただ、与えられるパフェを食していただけで、日夏七菜に自ら甘える行為をとった覚えは一つもない。

「うん、紗希が七菜先輩にパフェ食べさせてもらってるとき、よくわかんないけど、雰囲気がめっちゃえっちな気がする」

「は、はぁ!? そ、そんなわけないし……ッ!」

 横で紗希を見ていた結衣が珍しいものを見たような顔をしながら率直な感想を述べてきて、紗希は反射的にそれを否定する。

「えー、だって、今も頬っぺた紅くして発情したメス犬みたいに、はぁはぁ、って口あけて待ってたじゃん」

「そ、それは……結衣が食べさせてもらったら、って言ったから……! 食べさせてもらってるだけのことで……」

「あたしにパスタ食べさせてもらってるときは、別にそんな雰囲気してなかったじゃん」

 なぜか、リスのようにほっぺを膨らませる結衣。どうしてそんなに悔しそう顔をするのか意味がわからない。

「い、いや……ッ、だから別に、えっちな気分になんかなってないってば……ッ! ただパフェが美味しいから食べることに集中してただけで……そんなんじゃ——」
 
 結衣の謎リアクションに突っ込むことはせず、紗希はただただ事実を述べて、結衣の言葉を否定する。
 なのに、頬っぺたが変に火照って熱い。
 冷房の効いた部屋でパフェを食べているから、普通なら紗希の身体は涼んでいるはずだ。
 けれども、緊縛された紗希の身体は、なぜかのぼせたように熱に浮かされている。
 まさか、パフェを食べさせてもらっているだけで本当に発情してしまったというのだろうか。
 いや、そんなのはありえない。
 あっちゃいけない。
 
「えー、ほんとかなぁ~?」

「ほんとありえないってば!」

 細めた目でジットリと見つめてくる結衣に、紗希は大きな声で反論を続けるが、それが逆に図星みたいに感じて、ますます頬っぺたが熱くなっていく。
 これでは本当に紗希がそういうプレイが大好きな変態みたいではないか。

「はい、紗希ちゃん。まだパフェ残ってるから、お口開けて」

 そんな紗希の口もとに日夏七奈は、さきほどスプーンで掬い上げたパフェを近づけてくる。

「あ、あの、今はちょっと……まッ——あ、あむ……ッ」

 拒もうとしても、ほぼ強○的に押し付けられてしまい、後手に縛られた手首をギシリと鳴らしながら、紗希はそれを口に含む。

「七菜先輩はどう思います?」

 その隙を逃さず、結衣は話しの主導権を日夏七奈に手渡してしまう。

「え〜私? ん〜、そうね。もし、紗希ちゃんがパフェを食べさせてもらうだけで本当に発情しちゃってるなら、それはとってもはしたないことだし、私個人としては無理やりにでも紗希ちゃんを地下牢に連行しちゃいたいかも——あ、ほら紗希ちゃん、ちゃんとお口開けないとお口の周りクリームで汚しちゃうよ?」

「いや、ちょっと、ま、待ってくださ——あ、んむ……ッ」

 日夏七奈のとんでも発言に身の危険を感じて距離を取ろうとする紗希だったが、口もとにパフェを運ばれてしまってはどうすることもできず、それを頬張る。

「ち、地下牢って……マジですか?」

 そんな日夏七奈の行為に構うことなく、結衣は話しを深堀する。

「まぁ、他のお客さんには秘密なんだけどね……? このお店には長期間調教されたいVIP客専用の地下牢があるの。ほら、ここって喫茶店だから飲食を提供してて食べ物に困らないし、もしも本当にこの牢屋に人を閉じ込めておいても24時間スタッフの誰かが待機してれば、いくらでも面倒見れちゃうでしょ? そんな感じで少し前まで地下牢に監禁してた子が一人いたんだけれど、最近ご主人様に引き取られちゃって今はその地下牢空いてるから、紗希ちゃんが本当にえっちな子で、どうしても、そういうえっちなことが我慢できないっていうなら、その地下牢に閉じ込めて、私のペット兼奴○として暫く監禁調教してあげてもいいかなって思って――で、どうする? このまま私のペットになっちゃう……? 今なら夏休みだし、一ヶ月くらいは本当に監禁できちゃうよ?」 

「あ、いや……っ、その……ッ」

 そう言葉を発する日夏七奈の目は、何一つ笑っていない。
 紗希を見つめる彼女の黒い瞳は本気そのもので、紗希が一言YESと頷けば、マジで地下牢に連れて行かれそうだ。

「な〜んて、まぁ、冗談なんだけれど——どう? ドキドキした?」

「~~~~ッ」

「七奈先輩、やばッ! ぜんぜん冗談に聞こえなかったですよ~!?」

「あははは、そうかな?」

「マジ怖すぎですって〜!」

 わははは。と冗談めいて笑い合う二人とは別に、紗希の心臓はドキドキどころでなく、発作を起こしたみたいにバクバクと激しく振動していた。

「紗希ちゃん? 大丈夫?」

 異変に気付いた日夏七菜が、俯いている紗希の顔を覗きこむように声をかけてくる。
 
「あ、は、はいっ! だ、大丈夫、です! なんでもないです!」

 咄嗟に顔をあげ、首を大きく横に振って、大丈夫なことをアピールする紗希だったが、

「え〜もしかして、紗希……今のまんざらでもない感じだった? そういえば昔から紗希って、プライド高いくせにマゾっぽいとこあったもんね」

 結衣が横から余計なことをぺらぺらと言い出す。

「う、うるさいから! 変なこと言わないで!」

「えー、別にいいじゃん、それくらい」

「い、今はダメなときなの!」

「なんで、今はダメなの?」

「そ、それは……っ」

 ただでさえ紗希は、縄で緊縛されていて身の置き所がないのに、もしも、本当に地下牢なんかに閉じ込められでもしたら、骨の髄まで日夏七奈に調教されて、身も心もペット同然の奴○にまで落とされて……。
 それで……。
 その先は——

「あ、そうそう。話変わるんだけど、実はこれから特別なイベントがあってね? 紗希ちゃんはもちろん。結衣ちゃんにも、そのイベントに参加してほしいんだけど、お試しにどうかな?」

 顔を真っ赤にしながら声を荒げる紗希を横目に日夏七奈が結衣に話しを振っていく。

「それって、どんなイベントですか?」

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