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無料プランの記事 (15)

-freya- 2023/06/05 14:55

SMメイド喫茶を利用する女の子

――はじめに――
 こちらは全体公開用の前編になります。
 
 支援者の方は限定公開と合わせてお楽しみください!
 
以下、登場キャラクター

・藤光紗希(ふじみつさき)
 どこにでもいる普通の大学生。
 物語の主人公。

・堀川結衣(ほりかわゆい)
 紗希の友だち。
 幼稚園のころからの腐れ縁。

・日夏七菜(ひなつなな)
 結衣の大学の先輩。
 紗希とは初対面。
  
・メイド喫茶スレイブの店員。
・リリ
 ツインテールのメイド。
・ノノ
 ポニーテールのメイド。
・ルリ
 ショートカットのメイド。


――以下本編――


 大学一年目の夏休み。藤光紗希(ふじみつ さき)は、幼馴染である堀川結衣(ほりかわ ゆい)の誘いで、招待状がなければ入店ができない大人の喫茶店に訪れていた。
 
「じゃあ、あたしが食べさせてあげるから、お口あ~ん、して?」

「ま、マジで……?」

「でないと、食べれないでしょ?」

「うぅ……そうだけどさぁ……やっぱこれ、どうにかならないの?」

「ならないよ? 会計するまではそのままだって七菜先輩も言ってたじゃん」

「そうだけどさぁ……これ、めっちゃ恥ずかしいよ?」

「でも、結構似合ってるよ?」

「いや、似合ってても困るんだけど」

 いいから口開けて。と結衣は軽く笑いながら、お皿に盛られたクリームパスタをフォークで一口サイズに掬いあげ、あ~ん、と声を出しながら、紗希の小さく震える口元へそれを運んでくる。
 
「あ、あ~ん……ッ」

 紗希はそんな結衣の顔を上目遣いでチラチラ見ながら、頬を真っ赤に染めつつもクリームパスタを口に頬張った。

「どう? おいしい?」

「う、うん……おいしい」

「じゃあ、次もいくよ。はい、あ~ん」

「あ、あ~ん……ッ」

 明るく染めたショートボブの髪をはらりと揺らし、結衣は次々とクリームパスタを掬いあげては紗希に食べさせてくる。
 自分だけの玩具を手に入れた五歳児のようにその顔は明るさで満ち溢れているように見えるが、紗希の内心はそれどころではない。いくら幼馴染の誘いとはいえ、このような場所に来てしまったことを後悔していた。
 なぜなら、紗希の上半身には両手を後ろ手に縛り上げる麻縄がギッチリと食い込まされていたからだ。
 
 紗希は、清楚系の衣服を嗜むどこにでもいる大学生だ。
 高校生のころショートだった黒髪を現在はセミロングまで伸ばし、前髪は黒い瞳の上で切りそろえ、三つ編みに結った左右の横髪を頭の後ろで束ねるスタイルを好んでいる。
 身長は平均より低めで顔はどちらかというと少女のような童顔寄りだが、白いブラウスの胸元には誰が見ても立派な谷間が作り出されており、身体全体のシルエットが綺麗に見えるようなウエストを絞るスカートを身につければ、それなりの大人の女性に見えなくもない。今日はその中でも白いブラウスに合うように紅色がメインに使われた白黒チェックのフレアスカートを採用している。
 
 ギチッ、ギシシッ。

 だというのに、紗希の上半身に食い込む麻縄の存在は明らかに異質めいたものだった。
 コの字にそろえた後ろ手。
 手首だけでなく、二の腕の上下にまで這いまわるように施された麻縄は、育ちきった紗希の大きな胸の丸みを強調するように白いブラウスの上から真横に上半身を締めつけて、両腕の自由を奪っている。

 【メイド喫茶スレイブ】

 名前から想像するに、この喫茶店がどういうサービスを扱っているのかは明白だろう。
 わからない人のためにあえていうが、この喫茶店は、俗にいうSMプレイから拘束プレイに至るまでの“そういう”プレイを好き好んでいる被虐体質を持った女の子が奴○の気分を味わえるというお店である。
 しかしながら、招待状を手にして来店するお客さんには初めて訪れる人もおり、また、紗希と同じようにそういうことを知らない初心な人もいる。
 そのため、この喫茶店では、初めてサービスを利用する人限定で最終会計時に割引が課されるメリットが用意されていた。

 正面に手錠をつけるなら二割引。
 後ろ手に手錠をするなら三割引。
 緊縛による後ろ手縛りなら五割引。
 追加拘束することで、そこからさらに一割引き。
 
 上記のプランを選んだあとは、受付横にあるカーテンレールが誂えられた試着室でプラン通りの拘束をメイドに施され、そこから奥に進んだ廊下の片側一面に建ち並ぶ鋼鉄の鉄格子によって隔てられた狭い個室に奴○として収容されるのだ。
 しかも、その個室の出入口にある鉄格子にはしっかりと錠前が取り付けられており、一度でも中に入ってしまえば、鍵を持っているメイドが錠を開けない限り、自由に出入りができないようになっている。
 要するにこの喫茶店のメイドは来客をもてなすスタッフでもあると同時に喫茶店に自ら囚われに来た奴○たちの看守でもあるということだ。
 ただ、冷房の効いた牢屋に配置されたベルでメイドを呼び出したり、プランを追加したりしない限りはメイドが自らお客に関わることは基本的にはないらしく、あくまでもお客さんの希望に沿ったサービスを展開しているらしい。
  
「てかさ、なんで私だけが縛られてるの? もともとは結衣が縛られるはずだったんじゃん」

 最後のクリームパスタを胃袋におさめたころ。食事の介助を終えた結衣が向かいの座席へ戻っていくタイミングで、紗希は思い出したように現在の状況について異を唱える。
 そもそも紗希がこの喫茶店へやってきたのは、結衣が大学の先輩である日夏七菜(ひなつなな)から「喫茶店に遊びに来て欲しい」とその場の雰囲気で招待状をもらってしまい、あとから断ることもできず、最終的に友だちである紗希に「一人で行くのは不安だから一緒について来て欲しい」と涙目に頼み込んできたのが発端だ。
 お客を奴○のように扱うお店なんかに紗希は行きたくなかったが、「あたしの傍にいてくれるだけでいいから!」と結衣が泣きついてくるから、そこまで言われたら仕方ないと紗希は同行することを受け入れた。
 なのに、受付で拘束についてのサービス内容を聞いた途端、「やっぱりジャンケンで決めよう!」と結衣が騒ぎ出し、なんだかんだで紗希はジャンケンに負け、その勝敗を見守っていた結衣の先輩である日夏七菜に「じゃあ、紗希ちゃんのこと縛っちゃうね」とプランを選ぶまでもなく強○的に縄で後ろ手に縛られてしまった。
 紗希を後ろ手に緊縛し終えたあと「結衣ちゃんも縛ってあげるよ?」と日夏七菜は言っていたが、結衣は全力でそれを拒んで、紗希だけを生け贄に捧げたのは言うまでもない。
 
「いやぁ~、だってやっぱ身体の自由がなくなるって怖いじゃん? だから、唯一信頼できる紗希のこと誘ったっていうか……紗希ならあたしの代わりに縛られてくれるかなぁ~って、思っちゃったりしなかったり?」

「――――」

 その言い分が本当なのだとしたら、結衣は最初から紗希を身代わりにするために連れてきたということになる。
 結衣とは幼稚園からの付き合いになるし、なんとなくこういうことになるんじゃないかと予想はついていたのだが、それでも紗希は腹が立った。

「いや、その……はい、わかってます反省してますだからそんな怖い顔で睨まないでくださいごめんなさいっ!」

 鬼の形相を浮かべる紗希に対して、姿勢を正してから頭をペコペコと下げてくる結衣。
 それに免じて、ここでの会計を全額払うということを条件に、結衣を許してあげることにした。
 紗希は縄で縛られるなどという経験はしたことがなかったし、無料で体験できたと思えばギリギリ納得できなくもない。

 しかし、紗希にはどうしても気掛かりなことがあった。
 それは、日夏七奈に縄で縛られているとき耳元で囁かれた言葉。

 ――30分後。私が行くまでに紗希ちゃんが自力で縄抜けできてなかったら、特別なイベントに参加してもらうから、楽しみにしててね。

「……ッ」

 その言葉を思い出すだけでも、手のひらから嫌な汗がにじみ出てくる。
 なぜ日夏七菜に誘いを受けた結衣ではなく、おまけで着いてきた紗希がイベントに参加しなくちゃいけないのか。訳がわからない。
 しかも、イベント内容については一切説明なし。そんなイベントに参加などしたくはなかった。
 なのに、施された後ろ手縛りは紗希の想像よりも厳重なもので、縄抜けなどできそうにない。

 手首を背中に吊り上げる縄は指一つ分くらいの緩みがあって、若干の自由があるのだが、上腕を身体に縛りつける胸の上下の麻縄は肌に硬く食い込んでおり、そのせいで両腕全体が身体に密着し、肘を広げることができず、両手首を束ねて吊り上げる縄から腕を引き抜けないのだ。
 ならば、結び目から解こう、と親指と人差し指で縄目に触れるのだけれども、背中でコブのようにダマになっている結び目のどこに縄の端があるのかもわからず、ただ無意味に手首を疲れさせるだけだった。

「ねぇ、私の背中ってどんな感じになってる?」

 だから、紗希は縄に縛められた身体をくるっと回して、スマホに目を落とす結衣に状況を教えてもらうことにする。

「え……? そりゃあ、縄で縛られて動けなさそうだけど、それがどうしたの?」

「いや、そうじゃなくて……結び目とかどんな感じ? 自力で解けそうに見えるかな?」

「んぁ~……どうだろう? あたしには背中の真ん中で縄がいっぱい絡まってるようにしか見えないし、へたに触らないで七菜先輩に解いてもらったほうがいいと思うよ?」

「だよねぇ……」

 結衣の意見はごもっともだ。
 だが、それでは日夏七菜の言う特別なイベントとやらに参加することになってしまう。あのときの雰囲気からして、まともなイベントではないのは確実だ。
 何としてでも日夏七菜が来る前に縄抜けをしたい。したいのだけれども、メニューをオーダーしてからの待ち時間などを考慮すると、日夏七菜から宣言された時間はとうに過ぎており、結衣に結び目について問いかけた時点で、紗希は自分が納得できるように縄抜けが出来なかったいい訳集めをしているにすぎなかった。
 しかし、やっぱり納得いかない。
 
「どう? 二人とも楽しんでる?」

「あ、七菜先輩!」

「――ッ」

 そこへタイミングよく現れた日夏七菜が鉄格子越しに声をかけてきて、それに気づいた結衣がパッと明るい表情をみせながらスマホを閉じる。
 紗希はといえば、奥歯をぎゅっと噛みしめて、後ろ手に緊縛された両手をギシリ、と鳴らすことしかできなかった。

「そろそろパスタを食べ終わるころだと思って、食後のパフェ持ってきたよ」

 日夏七菜は鉄格子に備え付けられた錠前を専用の鍵でカチャリと開けてから、カートで運んできたチョコとストロベリーづくしの特盛パフェを個室のテーブルに二つ並べてくれる。

「あ、ありがとう……ございます」

 本物のメイドさんのように規則正しく洗練された日夏七菜の動きは、黒髪ストレートロングとメイド姿が相まって、とても育ちが良く見える。
 結衣の話しでは、このお店のオーナーは日夏七菜の親戚とのことだったが、これだけおしとやかで凛々しい佇まいができる人なら、血の繋がりとか関係なしにこういうお店に雇われていても不思議じゃない。
 なぜなら、こういうプレイを提供するサービスには安心感というものが一番不可欠なものだからだ。
 日夏七菜のようなカリスマ的な雰囲気を放つ女の子に縄で縛られるのなら、自ら進んで縛られに来るドMな女の子も多いだろう。
 紗希は日夏七菜とは今回が初対面だが、それほどまでにカリスマ的な魅力を彼女から感じていた。
 だからこそ、縄抜け出来ていないこの現状に胸の奥がもやもやするような危機感を抱いている。

「ありがとうございます七菜先輩!」

「どういたしまして」

 そんな紗希に構うことなく、結衣は配膳されたパフェと日夏七菜をキラキラした瞳で交互に見やりながら、早くもスプーンに手を伸ばす。
 テーブルに配膳されたパフェは、それほど見事なまでに豪華な見栄えをして美味しそうだった。
 もしも、両手が自由だったのなら、紗希も結衣と同じようにスプーンを手に取っていたかもしれない。
 しかし、紗希の両手は後ろ手に緊縛されたままギシギシ音を鳴らすだけで動かせない。
 それが酷くもどかしい。

「じゃ、いただきまーす! ――んんッ!? うわ、うっまぁ~い! なにこれ、最高なんですけど!?」
 
 大げさと言わんばかりに頬っぺに左手を添えて高い声をあげる結衣。
 いくらなんでもオーバーリアクション過ぎやしないか。と紗希は思うのだが、結衣のこういうところは昔から変わらない個性だったりする。

「ねぇ、私にも一口ちょうだい」

 パフェを美味しそうに頬張る結衣に釣られ、ついつい紗希もパフェが食べたくなり、結衣にねだってみる。

「え~、どうしよっかなぁ? もっと上手におねだり出来たら食べさせてあげてもいいよ? お願いしますぅ! ご主人様ぁ! って――」

「――――」

「あ、今のは冗談ですわかってますちゃんと食べさせてあげるからそんな怖い顔で睨まないでくださいごめんなさいっ!」

 やはりというべきか、調子に乗りまくった親友に冷ややかな視線を向けることになっていた。

「あはは、二人とも仲がいいんだね」

 紗希と結衣の関係は、仲がいいというよりも半分は腐れ縁のような関係だ。
 紗希のすぐ隣でおしとやかに唇に指を添えて、目を細める日夏七奈がいなければ、紗希は身を乗り出して結衣を蹴り飛ばしていただろう。それくらいお互いに気を許し合っているともいえる。

「……って、七菜さんはいつからそこに?」

「え、食器を片付けて、牢屋の戸締りをしてからだけど?」

 緊縛された紗希の隣に居座ることが当たり前かのように首を傾げて、日夏七菜が身を寄せてくる。
 その吸い込まれそうなほど深い黒色の瞳は、縄に絞り出された紗希の身体をしっかりと捉え、紗希が少しでも気を抜いてしまったら、さらに新たな縄を追加してきそうな危うい空気を纏っていた。

「あの、他のお仕事はいいんですか……? ほら、私たち以外にもお客さんいますよね?」

 適当に頭に浮かぶ疑問を零しながら紗希は隣に座っている日夏七奈から少し距離を取る。

「それは他の子たちに任せてるから大丈夫だよ? ほら」

 日夏七奈の視線の先。そこに見える鉄格子に視線を移すと、他のメイドが食器を乗せたカートを移動させていくのが見えた。
 どうやら、嘘は言ってないらしい。

「それよりも、紗希ちゃんは縄で縛られてるから一人じゃパフェ食べられないでしょ? 結衣ちゃんがイジワルして紗希ちゃんに食べさせあげないんだったら、私が食べさせてあげようかなぁ~って思ったんだけど……ダメかな?」

「そうだよ! 七菜先輩に食べさせてもらったらいいじゃん! たしかほら、メニュー表の追加プランにもそういうのあったよ?」

 日夏七菜の提案に便乗するように個室に置かれたメニュー表から、プランについてお品書きされたページを紗希に見せびらかすように結衣が広げる。
 そこには拘束されている奴○への給餌として、メイドが食べさせてくれるサービスプランというものがたしかに記されていた。

「ねぇ、結衣。値段見て言ってる? 半額とはいえ人件費がかかるから結構いいお値段してるよ?」

 ただ、メイド一人を付きっ切りで使用するプランのため値段はそれなりのものだった。
 それを言い訳にして、紗希はこの場をしのごうとするのだが、
 
「でも、七菜先輩が提案してきたってことは、無料でサービスしてくれるってことですよね?」
 
「もちろん、そのつもり」

「だってさ! ほら、食べさせてもらいなよ!」

「うぅ……ッ」

 紗希の上半身を縛めている縄が、さらに食い込むかのようにギシリと鳴いた。

「はい、紗希ちゃん。遠慮しないで、あ~ん、して?」

 頑なに閉じている紗希の口元に、日夏七菜がパフェを乗せたスプーンを運んでくる。

「……ん」

 この場の空気を加味しても、紗希に逃げ道は残されていない。
 目の前に迫るスプーンに乗せられたパフェ。
 白い生クリームとバニラアイスにストロベリーとチョコレートのソースが絡み合って、めちゃくちゃ美味しそうに見える。
 けれども、それを受け入れたらいけない気がする。
 受け入れたらきっと、良くないことが起きる。
 だから、絶対に受け入れたらいけない。
 なのに、パフェは問答無用で紗希の口もとへ迫って来て——

「……ッ」

 ——もう、どうにでもなれ。
 そんな言葉が紗希の脳裏に浮かんだ。

「あ、あ~ん……ッ」

 背中で揃えた両手で握りこぶしを作り、頬を真っ赤に染めながら紗希はパフェを頬張る。

「ん……っ」

 唇を閉じてすぐに、つるっとスプーンが舌の上から抜けていくと口の中でストロベリーチョコと生クリームの甘さがいっぱいに広がって、バニラの香りが溶けていく。

「どう? おいしいかな?」

「お、おいしい……ッ、です」

 どこか儚げに問いかけてくる日夏七奈から目を逸らし、不本意ながらに好意の言葉を紗希は漏らす。

「うふふ、よかった。この調子で食べさせてあげるね? ——紗希ちゃん?」

「は、はい……、おねがいします……ッ」

 頬を赤く染める紗希を揶揄うように、蟲惑的な笑みを作る日夏七菜を横目に見ていると、色々と考えるのも面倒になってくる。
 一体どこからどこまでが彼女の手のひらの上に転がる舞台なのか。弄ばれている紗希にはわからない。
 もしかすると、このお店に入店した瞬間から、紗希の逃げ道はなかったのかもしれない。
 それなら、このサービスを甘んじて受け入れるのも一つの抵抗と言えるのではないだろうか。

「はい、紗希ちゃん——あ〜ん、だよ?」

「あ、あ〜ん……ッ」

 だから紗希は、次から次に与えられるパフェを頬張っていく。
 何も考えず、ただ無心に、心を殺すように、目の前のスプーンの動きだけに集中して、与えられるパフェを口に含んでは飲み込むことを繰り返す。

 一つ。

「あ~ん……ッ」

 二つ。

「んぁ、あむ……ッ」

 三つ。

「はぁ、あ、あ~ん……んッ」

 そうやって繰り返すたびに、口の中でパフェの甘い香りが広がって、それと同時に緊縛された不自由な両手がなんとも言えないむず痒さを全身に滲ませてくる。
 
 両手を縄で縛られて、牢屋の中に閉じ込められ、初対面の人からパフェを餌付けされて……。
 一体自分は、何をさせられているのだろうか。

 そんな思考さえも、パフェを口に頬張るたびあやふやになって、周囲の現状も、何もかも、どうでも良くなってしまう。
 ただ一つだけわかるのは、ここのパフェはすごく美味しいってことだけだった。

「ねぇねぇ、紗希ちゃんって一人っ子?」

 すると、紗希の口もとで、パフェを乗せたスプーンを止めた日夏七菜が質問してくる。
 すぐそこまでパフェが迫っていたから、物欲しげに口を開けて待っていたのに、半端な状態で止められて、暫く口を開けて待っちゃってたのは、許してほしい。

「えと、そうですけど……?」

 日夏七菜の推測どおり、紗希は一人っ子だ。
 それがどうしたというのだろう。

「ふ~ん、どおりで甘え上手なわけだ」

「へ? あ、甘えって……私そんなに甘えてました?」

 甘え上手と言われても、紗希はただ、与えられるパフェを食していただけで、日夏七菜に自ら甘える行為をとった覚えは一つもない。

「うん、紗希が七菜先輩にパフェ食べさせてもらってるとき、よくわかんないけど、雰囲気がめっちゃえっちな気がする」

「は、はぁ!? そ、そんなわけないし……ッ!」

 横で紗希を見ていた結衣が珍しいものを見たような顔をしながら率直な感想を述べてきて、紗希は反射的にそれを否定する。

「えー、だって、今も頬っぺた紅くして発情したメス犬みたいに、はぁはぁ、って口あけて待ってたじゃん」

「そ、それは……結衣が食べさせてもらったら、って言ったから……! 食べさせてもらってるだけのことで……」

「あたしにパスタ食べさせてもらってるときは、別にそんな雰囲気してなかったじゃん」

 なぜか、リスのようにほっぺを膨らませる結衣。どうしてそんなに悔しそう顔をするのか意味がわからない。

「い、いや……ッ、だから別に、えっちな気分になんかなってないってば……ッ! ただパフェが美味しいから食べることに集中してただけで……そんなんじゃ——」
 
 結衣の謎リアクションに突っ込むことはせず、紗希はただただ事実を述べて、結衣の言葉を否定する。
 なのに、頬っぺたが変に火照って熱い。
 冷房の効いた部屋でパフェを食べているから、普通なら紗希の身体は涼んでいるはずだ。
 けれども、緊縛された紗希の身体は、なぜかのぼせたように熱に浮かされている。
 まさか、パフェを食べさせてもらっているだけで本当に発情してしまったというのだろうか。
 いや、そんなのはありえない。
 あっちゃいけない。
 
「えー、ほんとかなぁ~?」

「ほんとありえないってば!」

 細めた目でジットリと見つめてくる結衣に、紗希は大きな声で反論を続けるが、それが逆に図星みたいに感じて、ますます頬っぺたが熱くなっていく。
 これでは本当に紗希がそういうプレイが大好きな変態みたいではないか。

「はい、紗希ちゃん。まだパフェ残ってるから、お口開けて」

 そんな紗希の口もとに日夏七奈は、さきほどスプーンで掬い上げたパフェを近づけてくる。

「あ、あの、今はちょっと……まッ——あ、あむ……ッ」

 拒もうとしても、ほぼ強○的に押し付けられてしまい、後手に縛られた手首をギシリと鳴らしながら、紗希はそれを口に含む。

「七菜先輩はどう思います?」

 その隙を逃さず、結衣は話しの主導権を日夏七奈に手渡してしまう。

「え〜私? ん〜、そうね。もし、紗希ちゃんがパフェを食べさせてもらうだけで本当に発情しちゃってるなら、それはとってもはしたないことだし、私個人としては無理やりにでも紗希ちゃんを地下牢に連行しちゃいたいかも——あ、ほら紗希ちゃん、ちゃんとお口開けないとお口の周りクリームで汚しちゃうよ?」

「いや、ちょっと、ま、待ってくださ——あ、んむ……ッ」

 日夏七奈のとんでも発言に身の危険を感じて距離を取ろうとする紗希だったが、口もとにパフェを運ばれてしまってはどうすることもできず、それを頬張る。

「ち、地下牢って……マジですか?」

 そんな日夏七奈の行為に構うことなく、結衣は話しを深堀する。

「まぁ、他のお客さんには秘密なんだけどね……? このお店には長期間調教されたいVIP客専用の地下牢があるの。ほら、ここって喫茶店だから飲食を提供してて食べ物に困らないし、もしも本当にこの牢屋に人を閉じ込めておいても24時間スタッフの誰かが待機してれば、いくらでも面倒見れちゃうでしょ? そんな感じで少し前まで地下牢に監禁してた子が一人いたんだけれど、最近ご主人様に引き取られちゃって今はその地下牢空いてるから、紗希ちゃんが本当にえっちな子で、どうしても、そういうえっちなことが我慢できないっていうなら、その地下牢に閉じ込めて、私のペット兼奴○として暫く監禁調教してあげてもいいかなって思って――で、どうする? このまま私のペットになっちゃう……? 今なら夏休みだし、一ヶ月くらいは本当に監禁できちゃうよ?」 

「あ、いや……っ、その……ッ」

 そう言葉を発する日夏七奈の目は、何一つ笑っていない。
 紗希を見つめる彼女の黒い瞳は本気そのもので、紗希が一言YESと頷けば、マジで地下牢に連れて行かれそうだ。

「な〜んて、まぁ、冗談なんだけれど——どう? ドキドキした?」

「~~~~ッ」

「七奈先輩、やばッ! ぜんぜん冗談に聞こえなかったですよ~!?」

「あははは、そうかな?」

「マジ怖すぎですって〜!」

 わははは。と冗談めいて笑い合う二人とは別に、紗希の心臓はドキドキどころでなく、発作を起こしたみたいにバクバクと激しく振動していた。

「紗希ちゃん? 大丈夫?」

 異変に気付いた日夏七菜が、俯いている紗希の顔を覗きこむように声をかけてくる。
 
「あ、は、はいっ! だ、大丈夫、です! なんでもないです!」

 咄嗟に顔をあげ、首を大きく横に振って、大丈夫なことをアピールする紗希だったが、

「え〜もしかして、紗希……今のまんざらでもない感じだった? そういえば昔から紗希って、プライド高いくせにマゾっぽいとこあったもんね」

 結衣が横から余計なことをぺらぺらと言い出す。

「う、うるさいから! 変なこと言わないで!」

「えー、別にいいじゃん、それくらい」

「い、今はダメなときなの!」

「なんで、今はダメなの?」

「そ、それは……っ」

 ただでさえ紗希は、縄で緊縛されていて身の置き所がないのに、もしも、本当に地下牢なんかに閉じ込められでもしたら、骨の髄まで日夏七奈に調教されて、身も心もペット同然の奴○にまで落とされて……。
 それで……。
 その先は——

「あ、そうそう。話変わるんだけど、実はこれから特別なイベントがあってね? 紗希ちゃんはもちろん。結衣ちゃんにも、そのイベントに参加してほしいんだけど、お試しにどうかな?」

 顔を真っ赤にしながら声を荒げる紗希を横目に日夏七奈が結衣に話しを振っていく。

「それって、どんなイベントですか?」

【 サポートプラン 】プラン以上限定 月額:500円

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あります

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-freya- 2023/06/05 14:55

ひとりえっち大好きの女の子が突然現れた妖精さんに全身貞操帯を装着されて、絶頂管理されちゃうお話し

――はじめに――
 こちらは全体公開用の前編になります。
 先月限定公開でUPした文章を推敲してるので一部内容変更をしております。(限定公開していた前編の文章は非公開とさせていただきます)
 支援者の方は中編後編の限定公開と合わせてお楽しみください!
(文字数の関係で、中編後編にわかれちゃいました)
 
登場キャラクター

・二葉一愛(ふたばいのり)
貞操帯着けられちゃうオナニー大好き女子高生。
突然現れた妖精さんにえっちを禁止されて大ピンチになる。

・妖精さん
金髪碧眼の美少女で、性の規律を司る妖精(自称)。
二葉一愛の前に突如として現れ、性活を管理してくる。


――以下本編――

 アタシの名前は二葉一愛。 
 現在は、都内の女子高に通うため地方の実家を離れてマンションに一人暮らしをしている。
 アタシは周囲よりも背が低めで、手足も細く、少し大きめに育った胸以外は、華奢な部類だ。
 ただ、ショートに切りそろえた黒髪だけはキレイだね、となぜか周囲に褒められる。
 クラスメイトが言うアタシの評価は、童顔でボーイッシュな顔つきをしてるから、中性的で可愛いとのことだ。
 喜んでいいのかどうかわからないけれど、ブスとかモブと言われるよりは何倍もマシなので、良しとする。
 まぁ、特に仲の良い友だちもおらず、部活動に参加していないアタシは、女子トークに加わることもなく、放課後は真っすぐ帰宅しているのだけれども。
 それでも、自宅のマンションに帰宅したアタシには、みんなには秘密の楽しみがある。

 それは、ひとりえっちという名のオナニーだ。

 オナニーにのめり込んだのは、ちょっとした好奇心がキッカケだった。
 一人暮らしの空いた時間で少し大人っぽいことにチャレンジするつもりでおまんこを触ってみたのだ。
 それが想像よりも気持ちよくて、ちょっとだけ、もう少しだけ、と繰り返しているうちにアタシは学校から帰ってきたときだけではなく、起床時や就寝前にも欠かさずオナニーをしてしまうようになってしまった。
 日常的にオナニーを繰り返してしまうことが普通じゃないってのは、アタシもわかっている。
 けれども、気持ちよくなれる方法を知っているのに、それをしないなんてどう考えても損してる。としか思えなかった。
 だから、アタシはそれがいけないことだとわかっていても、ひとりえっちを日常的に繰り返していた。
 だって、おまんこクチュクチュするの気持ちいいんだもん。
 
「ン……ッ、ぅぅ、ん」

 今日も学校から帰宅してすぐにお風呂を沸かしつつ、ベッドの上で白い肌を晒していた。
 楽しみにしていたオナニーをするためにM字に股を開いて、おまんこに右手の細指をはべらせる。
 そのまま、すりすり、と割れ目の外と内側のビラビラを優しく擦りあげ、ゆっくりと刺激に慣れさせていく。
 膣口からじわじわ溢れ出してきた愛液で、おまんこを満たして、十分に濡れたのを確認してから、中指を膣内に挿入する。

「ん……ッ、んふ、んん」

 クリトリスの裏側を刺激するようにクチュクチュと肉襞を擦り上げるだけで、甘い吐息が勝手に零れてきちゃう。
 でも、これくらいの刺激では、絶頂までまだまだほど遠い。
 だから、クリトリスとおまんこを右手の指でイジメながら、次は育ち盛りのおっぱいに左手を伸ばしていく。

「ンぁッ……!? あ、ぁあ……ッ、んふぁ……ッ、あぁあんッ!」

 触るだけでぷるぷると揺れてしまうおっぱいを少しばかり乱暴に揉みこんで、先端にある乳首を硬く勃起させる。
 それから人差し指の爪先で膨らみ切った乳首の先端をカリカリと弾いたり、挙句には親指と人差し指を使ってクリクリと抓るようにこねくり回したりして、出来うる限りの刺激を送り込んでいく。

「あ、ぁあ……ッ、あぅ、イクぅ……イッちゃうぅッ……!」
 
 数分か数十分か。
 同じ刺激を淡々を送り続けた部位からヒリヒリするようなくすぐったさが背筋を通って脳みそに行き渡って、内ももがぶるぶると震えだして――イク。
 そう思ったときだった。
 
「あらあら、そんなによがり狂った声を出してひとりえっちなんかして、本当にはしたない子ね。毎日オナニーばっかりして他にやることないのかしら?」

「――ッ!?」 

 アタシしかいないはずの室内に知らない声音が響いてきた。
 何事かと声のほうへ振り向くと呆れたような顔で宙に浮かぶ天使の翼を生やした金髪碧眼の少女がいた。

「あんた誰よ!?」

 ――見られた。
 その事実に昂った感情が一気に冷めていく。
 どうしていいのかわからなくなって、新しく湧き上がってきた感情を目の前の侵入者にぶつける。
  
「私は性の規律を司る妖精よ。あなたが毎日毎日ひとりえっちを繰り返しちゃうから、強○的に呼び出されちゃったみたい」

「は、はぁ……? 意味わかんないし」

 妖精と言われても、パッとしなかった。
 たしかに彼女は宙に浮かんでいるし、背中からは羽が生えている。どうみても普通の人間ではないのは目に見える情報からもわかる。
 けれども、だからといってなぜそんな存在が、アタシのオナニーに反応して呼び出されてくるのか訳がわからなかった。
 
「私はあなたのセイカツを正すためにここにいるってことよ。ホント、変態って困るわ」

 生活を正す。とか言われても、アタシは一人で十分生活できてる。
 一体何を正すつもりなのかさっぱりだ。
 それよりも、自分から勝手に現れておいて、アタシを変態扱いしてくるとか、何様のつもりなのだろう。
 アタシが変態かどうかはともかく、妖精なのか天使なのか曖昧過ぎる存在の彼女にアタシの人間性を定義されたくない。
 というか、思春期を迎えたら誰だってオナニーくらいするでしょ。

「生活を正すだかなんだか知らないけど、あんたにそこに居られると気が散ってオナニーできないから、さっさと消えて欲しいんですけど?」
 
 突然現れた存在に胸の鼓動がうるさいくらい脈打ってるけれど、さっきまで絶頂まじかだった身体の熱は冷めきってしまって、火照り出していた肌の色も戻ってしまっている。
 これだとまた最初から乳首やおまんこを愛撫して、感情を高めていかないと気持ちよくなれないだろうし、こうしている間にもアタシの生活のルーティンを崩されて、お風呂に入る時間が遅れていってしまう。
 あおりに煽ってくる妖精の相手をするのは面倒だった。
 
「あなた、私の話し聞いてた?」

 なのに、彼女は金色の眉をひそめてさらにアタシを煽ってくる。
 
「アンタのことなんてどうでもいいし、興味ないから消えてって言ったでしょ?」

 だから、アタシも彼女に対抗するように先ほどよりも強めの声音で言い切る。

「――――」

 お互いに視線をバチバチとぶつけ合わせて無言の時間を費やしたころ。
 
「そう……そういう態度をとるのね。本当は優しく諭してあげるつもりだったけど、いいわ。それなら、今後一週間あなたには一切のえっちを禁止させてもらうから」

 えっちを禁止って、どういう意味?

「あんた何言って――」

 パチンッ。

 アタシの問いかけが終わるよりも早く、彼女が得意げに指を鳴らすと、アタシの周りに鉄のような見た目のベルトが突如として現れた。
 それはウエストを挟み込むようにアタシのくびれたお腹に嵌りこみ、さらにお尻の筋を通りながら、お股を掬いあげるようにおまんこの上にも被さってくる。
 そして、お腹の上で鉄のベルトがカチリと組み合わさり、へその上を中心にハート型の錠でガチャッ、と施錠されてしまった。

「え? は? うそでしょ……? なによ、これ……っ?」

 何が起こったのか訳がわからず、鋼鉄のベルトに触ってみるが、隙間なくガッチリとアタシの股間に装着された鋼鉄のベルトはどう触ってもズレる気配さえない。
 おまんこを触ろうと股間に指を伸ばしてもコメ粒ほどの小さい穴が散りばめられたドーム状の鉄板にコツコツと指の侵入が阻まれて完全にオナニーを禁止されてしまっていた。
 なのに、ドーム状の鉄の板の内側では、ベルトの中心にある縦に細長く開かれたスリットの部分から、おまんこの割れ目の内側にあるビラビラが、強○的に露出するようにはみ出されていて、変な刺激がずっと残っている。

「まだあるわよ」

「ちょ、ちょっと待って――」

 パチンッ。

 状況を飲み込めていないアタシに構うことなく、さらに妖精が指を鳴らす。
 すると今度はお椀型の鋼鉄の板が二つ胸の前に現れる。
 それは、くるっとアタシの周りを一周し、背後から脇の下を通ってブラジャーのようにおっぱいの上に被さると谷間のところで接合部をカチャリと合わせ、股間に嵌り込んでいる鋼鉄のベルト同様にハート型の錠で施錠されてしまった。
 そこへ、どこからか現れた鋼鉄の鎖が左右の肩と鎖骨の上を通り、おっぱいから鋼鉄の板がずり落ちないように背後の鉄のベルトと谷間の接合部にガチャリと連結されてしまう。
 
「な、なんなのよコレえ!?」

「乙女の貞操を守るための貞操帯よ。毎日オナニーしちゃう罰として一週間はそれを装着してもらうわ」

「は、はぁ!? 意味わかんないし!? ふざけてないで外してよ! こんな変なもの着けてたら、オナニーできないじゃない!?」

 股間に嵌り込んでいる貞操帯とやらを外そうと躍起になるが、股関節とウエストのT字のラインを描くように腰のくびれやお尻の縦筋に食い込むように隙間なく嵌り込んで、ビクともしない。

「うぅ……ッ、外れないし、密着してるし、まじ気持ち悪いんだけど……ッ!」

 お尻の穴を広げるように肛門に隣接している鋼鉄のベルトが、腰を捻るたび動いて気持ち悪いし、貞操帯の内側でスリットからはみ出すように剥き出しにされたおまんこのビラビラも腰を動かすたびに外側へ引っ張られて、ムズムズするようなじれったい刺激を伝えてくるから、もどかしくてたまらなかった。
 おっぱいのほうに装着されたブラジャーみたいな貞操帯なんて、しっかりとアタシの胸の形に合わせて胴体をホールドしているから、肩を動かすたびに背中から脇の下を締めつけてきて、何度も何度もおっぱいを押しつぶしてくる。
 
「さっきも言ったでしょ? 私の目的は、性活。俗にいう性的な活動を正すことって。その貞操帯はあなたが一週間えっちを我慢できるまで絶対に外してあげないわ」

 さっきのセイカツって――生活のことじゃなかったの?

「そ、そんなの意味わかんないってば!」

 性活なんていう辞書にもない言葉を言われても反応できるはずがない。

「私は何度も説明したはずよ? なのに、一方的に話しを終わらせようとしたのはあなたでしょ? まぁ、でも大丈夫よ。どうせ、あなたのえっち癖が治れば、私は自然消滅するんだから」

 にんまりと口角を上げて、余裕の面持ちで妖精は言い切る。

「だから、どうしてアタシがアンタのいうこと聞いて、えっち癖を治さなきゃいけないわけ!? そんなの意味わかんないから! とにかくさっさとコレ外してよ!」

「そう、どうやらまだ自分の立場が分かってないようね」

 意を唱えるアタシが気にくわなかったのか、妖精はまたもパチンッ。と指を鳴らす。

「――ッ!?」

 瞬く間に九つもの重厚な見た目をした鋼鉄のリングが空中に現れる。
 それらは一つ一つ大きさがバラバラで、ギラギラと銀色の光を放ってる。
 どう考えても、明るい未来が見えてこない。

「ま、待って……ッ、これ以上は無理! 謝る! 謝るから!」

 妖精に落ち着いてもらいたくて、開いた両手を妖精に向けて声を上げる。

「そうね。もう少し早く謝ってればよかったのに」
 
 しかし、その願いもむなしく、妖精が指を杖のように振り回すと、それぞれの重厚な鋼鉄のリングがカパっと口を開き、次々とアタシに向かって飛び掛かってくる。

「ひッ!?」

 カチャ、ガチャッ。ガチャン。

 とんでもないホーミング性能で飛び掛かってくる鋼鉄のリングに、対応できるわけもなく、手首。上腕。足首。太もも。最後には首にまで鋼鉄のリングがガッチリと装着されてしまう。

「ちょ、やだ……ッ、やめ!?」

 そこへさらに鋼鉄のリングから飛び出すように出現した分厚い鋼鉄の鎖がそれぞれ対応した部位と繋がっていき、アタシの手足と身体を繋ぎとめるように鋼鉄の鎖がいくつもぶら下がっていく。

「お、重……ッ!」

 次々と装着される装具の重量が身体にのしかかり、動くことさえおっくうになる。
 けれど、鋼鉄のリングの効力はそれだけにとどまらない。
 手首同士を繋げる短い鎖は両手を肩幅ほどにしか広げられないように制限し、さらに腰の貞操帯とも短い鎖で繋いで、手首を高くあげることさえ許さない。
 それに加え、上腕に嵌められた鋼鉄のリングは背中で胸の貞操帯と繋ぎ合わさり、脇を広げさせてくれない。
 足のほうなんて、太もも同士が触れるくらい短く鎖が繋がれ、足首は肩幅に開くのもやっとだった。

「うそ……ッ、うそうそうそうそうそッ!?」

 等身大の鏡に映るアタシの姿は、鋼鉄の装身具に囚われた奴○みたいなことになっていた。
 慌てふためいたアタシは、装着された各所の鋼鉄のリングを無理やり外そうとするけれど、どこもかしくも肌に密着するほどきつく嵌り込んでしまっていて、手足の筋肉を動かすたびに圧迫された柔肌が強く締めつけられてしまうだけだった。
 首に嵌まり込んだ鉄枷なんて、アタシの喉をほどよく締めつけているから呼吸が喉を通るだけでも息苦しさを与えてくる。
 
「本当は、ここまでするつもりはなかったんだけれど、あなたが反省しないから悪いのよ? 反省した?」

 妖精は余裕の笑みを作り上げながら、そんなアタシを煽ってくる。

「~~~~ッ!」

 あまりにも惨めな姿に、何をどうすればいいのかわからなくて思考が真っ白になってくる。
 なのに、どうしてだろう。
 明らかに現実離れした状況なのに、下腹部の奥がじゅくじゅくと声をあげるように疼いて、興奮してる。
 こんなの絶対普通じゃないってわかってるのに、アタシはこんなときでもオナニーしたいと考えちゃってる。
 
「これでわかったでしょ? 私のいうことは絶対で、あなたに拒否権はないの。もちろん、貞操帯を外せるのは私だけだから、自由になりたいなら、ちゃーんとえっち癖を直すことね」

「……ッ」

 うふふ、と壊れた玩具を見下すような妖精に、全身の血の気が引いていく。
 コイツは本気でアタシに一週間もこれらの装身具を嵌めておくつもりなのだ。
 このままでは、朝起きてから寝るときまでもずっと、鋼鉄の装身具を身につけながら、生活させられる。
 オナニーはアタシの生活の一部だ。
 一人暮らしを始めてから、毎日ずっと続けてきた習慣だ。
 それを禁止されたら、自分がどうなってしまうのかアタシでもわからない。
 
「こんなッ……こんなの一週間もなんて無理ッ! おまんこずっとムズムズしてるのに……触れないとか、絶対おかしくなっちゃうってば! コレ以外ならなんでもする! なんでもするから、だからお願い!」

 必死に両手を合わせて、外してください。と妖精に懇願する。

「いまさらお願いしたってダメよ。そのままオナニーできないおまんこのことでも考えながら反省してなさい」

 でも、アタシの想いとは裏腹に妖精の身体が光の鱗粉に包まれていく。

「あ、待って! 消えないで!」

 全身を縛めている鎖の音色を響かせようと関係なしに妖精を呼び止めるけど、大丈夫よ。アタシは近くで見守ってるから。と言い残し、彼女は光の鱗粉に紛れてあっさりと姿を消してしまう。

「あ……ッ、うぁ……ッ、あぁ……ッ」

 マンションの寝室には、全身貞操帯を身につけたアタシだけが床に這いつくばったままポツンと取り残されていた。
 鎖に繋がれた両手足は不自由で、股間とおっぱいは貞操帯に覆われてる。
 身体を動かすたびに伝わってくる鋼鉄の重量感は本物で、これが夢じゃないことを物語っている。
 なのに、それらを強○的に身につけさせた存在はいともたやすく目の前から消えた。
 信じられない。
 こんな、理不尽なこと受け入れられるはずがない。

「なんなのよアイツ!? ありえないしぃッ!」

 一瞬、心が折れそうになったけど、こんなにも現実離れしたリアルがあってたまるか。と怒りを糧に貞操帯を外すための様々な道具をかき集めていく。
 けれども、鋼鉄の装具はアタシの想像以上に頑丈で、マンションにある道具を使っても、まったく歯が立たない。
 ヤスリで表面を削っても傷ひとつつかなかった。
 まるで、この世のものとは思えない不思議な力で守られているみたいだった。

「こんなんじゃ、まともに生活することさえできないじゃない……ッ!」

 手首や足首を鎖で繋がれてる以上、衣服に袖を通すことはできない。
 上に何かを羽織ることはできるけれど、明らかに不自然な見た目になっちゃうから論外だ。
 アタシには学生という身分があるのに、えっち禁止の一週間ずっとこの格好のまま日常生活を送るなんて絶対無理がある。
 そう思っていると、頭の中に直接妖精の声が聞こえてくる。

「あ、一応教えておいてあげるけれど、あなたにはそのままの姿でもその場に合わせたTPOになるように特別な認識阻害がかかっているから、その姿で外出しても他人はあなたが全身貞操帯を着けていることを認識することはないから、安心してね。もちろん風邪をひかないように体温管理の機能もバッチリよ」
 
 今の話しが本当なのだとしたら、アタシは全身貞操帯を身に着けながら、他の人が行き交う社会に溶け込んで、日常生活を続けなくてはならない。ということになる。

「ま、マジで言ってんの……ッ?」

 問いを返しても、何一つ妖精は返事をしない。
 否定も肯定もしないということは、マジなのだろう。
 
「う、うぁ……ッ」

 貞操帯に抑えつけられたおまんこがヒクヒクと疼く。
 反射的に股間へ右手を伸ばしてしまう。
 でも、理不尽な鋼鉄の下着がアタシの指先を拒んで、おまんこへの侵入を許してくれない。
 いや、おまんこだけじゃない。
 おっぱいに被さる貞操ブラのせいで乳首にも刺激を送ることができないのだ。
 だというのに、自分の身に起きている現実を考えれば考えるほど、なぜだか逆にオナニーしたくなってくる。
 このままではいけないとわかっていても、貞操帯の下に隠されたおまんこに指を伸ばして触ろうとしてしまう。
 
 コツ、コツ。

「なんで……っ、なんで触れないの……ッ!?」

 けれども、やっぱり触れない。
 アタシがどんなにオナニーしたくても、貞操帯の存在がそれを許してはくれない。
 貞操帯が装着されている限り、アタシはオナニーすることができないのだ。

「うぅ〜〜〜あぁ、もう! とにかく一週間だけオナニー我慢すればいいんでしょ!? その代わり、ちゃんと約束は守りなさいよね! バカ妖精! 聞いてんでしょ!?」

 すでに消えてしまった彼女へ怒りをぶつけるように決意を吐き出して、えっちな気持ちを遠くへと追いやる。
 そうでもしないとどうにかなってしまいそうだった。
 彼女の思惑どおりに意思決定するのは癪だけれど、全身に貞操帯が装着されてしまってる以上、アタシはこの状況を受け入れるしかなかった。

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-freya- 2023/06/05 14:55

牛娘牧場に社会科見学することになった女の子のお話し

 はじめに
 先月から頭に浮かんでいたシチュエーションが纏まったのでゲリラ投稿です!

 どうぞお楽しみください!

 以下キャラクター

 和泉萌恵(いずみもえ)
 黒髪ショートの女の子。
 今回の物語における主人公ちゃん。
 
 紗代ちゃん(さよちゃん)
 萌恵が絡むグループのリーダーっ子で、イタズラが好き。

 飼育員さん
 牧場に雇われてる職員。
 男性の職員はゼロで、全て女性の職員で構成されている。

 牛娘(うしむすめ)
 牧場で飼われている家畜。
 見た目は完全に人間の女の子。
 家畜とわかるようにカウベル付きの首輪と牛耳や尻尾は必ず着用させる義務になっている。
 この牧場で育てられてる彼女たちはすべて乳牛。食用はいない。
 


——以下本編——
 
 気温が不安定になってきた二学期の中旬。女子高生の私こと和泉萌恵(いずみもえ)はとある牧場へ社会科見学に行くことになった。
 そこでは、私のような高校生の女の子と大して見た目の変わらない牛娘が畜舎の中で何匹も鎖に繋がれ飼育されていた。
 彼女たちを初めて目にしたときは人間の女の子が裸に剥かれて牛のコスプレをさせられながら鎖に繋がれているようにしか見えなかったけれど、飼育員さんがいうには、彼女たちは特別な遺伝子操作で生み出された新種の乳牛で、その豊満な胸から搾られるミルクは一般に出回ることがないほどに一部の資産家から絶大な人気を博しているのだとか。
 そのため、一般的に畜舎の見学などは常時解放されておらず、私たちのような高校生が飼育現場に立ち寄ることは初めての取り組みとのことだった。
 
「さて、これからみなさんには牛娘の乳搾りを体験していただきます」

 飼育員さんからの大まかな説明が終わり、私たちのクラスは畜舎の奥へと通される。
 ぱっと見たところ畜舎の中は長方形の形をしていて、内側(中心部)と外側(左右)のスペースを作るように柵で分けられていた。
 私たちが歩く道は中心部で、外側の左右に設置された柵の向こう側には、牛娘たちが大きなおっぱいを中心部に向かって晒しながら両手を上に吊り上げるように鉄枷から伸びる鎖によって拘束されていた。

(うわ……こんなにいっぱいいるんだ)

 一匹ずつ丁寧に、手前から奥に向かって、ズラリと陳列されてるその様についつい圧巻されてしまう。
 まるで牧場なんかではなく、奴○市場にでも来てしまった気分になるけれど、あくまでもここは畜舎であり、彼女たち牛娘は人間そっくりな家畜でしかない。
 そんな彼女たち一匹一匹にジャージ姿をした私たちが飼育員さんの指示で一人ずつ割り当てられていく。
 
「えっと……よろしくね?」

「うぅ……?」

 私とペアになった黒髪ショートの牛娘に挨拶混じりに語りかけてみる。私の顔を見るや否やカウベル付きの首輪をチリンと揺らしながら、純粋無垢な様子で首を傾げられた。
 意思の疎通はできるって飼育員さんは言っていたが、どうやらこの様子だと人間みたいに言葉は喋れないらしい。
 言葉が通じるなら、ここでの生活がどんなものなのか彼女に聞いてみたかったけど、無理なら仕方がない。

「というか……あなたって――」

 そんな彼女から伝わってくる第一印象は好感を持つべきか否か。迷うものだった。
 何といえばいいのか。
 兎に角、とても似ているのだ。
 何と似ているかって、私と彼女の顔がそっくりなのだ。
 背の高さも、体格も、まるで生き別れの双子のように感じるくらい似ている。
 私と違う場所を上げるとするならば、私よりも若干大きな胸を露出させたままの姿で牛柄の衣を身に纏い、首にはカウベル付きの首輪と手足には鉄枷を嵌めていて、頭とお尻に牛のような耳と尻尾(アクセサリーのようにも見える)がついていることくらいだろうか。
 これだけ私と彼女の見た目が似てるなら、ちょっとしたお遊びで私が彼女と同じものを身につけたら、簡単に入れ替わることができてしまいそうだった。
 
「ではみなさん始めてください」

 入れ替わる。などというバカみたいな考え事をしてる私の周りで、飼育員さんの指示を受けたみんなが一斉に乳搾りを始める。

「あぅ……ッ、んぅうッ……!」

「あ、あんッ……んッ……!」

「んぅッ……、うぅッ……!」

 瞬く間にあちこちから女の子の喘ぎ声みたいなのがたくさん聞こえてくる。出遅れたせいでなんだかその声を聞いてるこっちが恥ずかしくなってくる。
 目の前にいる私そっくりの牛娘も乳搾りを始めたら同じように喘ぎ声を漏らすのだろうか。
 それってある意味、私が乳を搾られながら喘ぎ声を漏らしているみたいに感じて、なんか嫌だ。

「…………っ」

 自分と鏡写しのような牛娘を見つめれば見つめるほどそのことを意識してしまって、搾乳を始めることに抵抗感が芽生えてしまう。
 何となく後ろめたさを感じて、周囲を見回すと、何もせずに手が止まっている私を見つけた飼育員さんがこちらに気づいて、近づいてきてた。
 どうやら、このまま私だけ乳搾りを体験しないわけにもいかないみたいだ。

「ご、ごめんね……? ちょっとおっぱい搾らせてもらうから我慢してね?」

 飼育員さんに声を掛けられてしまう前に、私は意を決して、自分とそっくりな牛娘のおっぱいへ両手をはべらせていく。

「あぅ……ッ」

 彼女の大きめのおっぱいに手が触れると自分のものとは比べ物にならないくらいふんわりと柔らかい肉質が指先から直に伝わってきて、軽く力を込めるだけで脂肪の塊に手指がグニュっと飲み込まれた。
 まるで膨らんだばかりの大きなマシュマロを手で掴んだような感覚に、申し訳ない気持ちがあふれ出てくるが、私はそこで手を止めず、吐息を漏らすだけで逃げるそぶりさえ見せない彼女のおっぱいをさらに揉んでみた。

「あ、あぁあ……ッ、あぅ……ッ!」

「————ッ」

 甘い艶を帯びた声が彼女の口から零れ落ちてきて、息が詰まる。
 同時に気持ちよさそうに股をモジモジと内側に寄せながら、繋がれた両手の鎖をジャラジャラ鳴らして、彼女は苦しそうに悶えるから、このまま彼女のおっぱいを揉み続けていいものかわからなくなる。
 だって、どこからどう見ても彼女が性的な快感を得てるようにしか見えないのだ。
 でも、周囲に目をやるとみんなはそれでも牛娘のおっぱいを揉み続けて、彼女たちの乳首からミルクを搾り取っていた。
 だから、私も他のみんなと同じように牛娘のおっぱいを優しくこねくり回すように揉み込んで、先端部分にある乳首に刺激を集めていく。

「ンァッ……! あ、あぅッ、うぅッ……!」

 すると、コリコリに硬くなっていく彼女の桜色の乳首から白くて濃厚なミルクがピュッピュッと溢れ出す。
 私はそれを確認してすぐに、搾乳専用の吸引器を彼女のおっぱいに装着して飼育員さんの説明通りに機械を作動させた。

「あうッ、うぅうッ……!」

 搾乳機の吸引がうまく作動して、彼女のおっぱいからたくさんのミルクが搾りだされていく。
 
「んはぁ……ッ、あぁッ……! あ、あぁあッ……!」

「――ッ」

 しかしながら、自分と瓜二つの顔をした牛娘が頬を赤らめながら気持ちよさそうに喘いでいるのは、やっぱり恥ずかしかった。
 どう見たって、鏡写しの自分が乳を搾られているみたいに見えるのだ。
 ミルクを搾られるだけでこれほどまでに艶めかしい声を漏らすとか、搾乳ってそんなに気持ちいいのだろうか。
 ちょっとだけ搾乳機がどんなものなのか気になってしまうけど、私のおっぱいからミルクなんて出るはずがないし、そもそも搾乳機を体験するなんて論外だ。

「あ、あぅあッ! あ、ぁんっ、んんッ、ん〜〜っ!」

「〜〜〜〜っ」

 あぁ、早く終わってくれないかな。

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-freya- 2023/06/05 14:55

【改稿版】閉鎖病棟体験その1~その3

 看護師を目指している川嶋麻乃( かわしま あさの)は郊外から外れた山奥にある閉鎖病棟へ看護学校の紹介で三日間の研修を受けに行くことになった。
 学校側から指定された研修開始の日付は、麻乃の十八歳の誕生日。
 自分の生まれを祝う日に、閉鎖病棟などという場所へ麻乃は行きたくはなかったが、麻乃は以前の合同研修を病欠で休んでしまっており、今回はその埋め合わせという名目で学校側が特別に用意してくれた研修だった。

 この研修を逃してしまうと卒業するための必須単位が足りなくなるということを学校側から説明されてしまっては断ることもできず、学校の指示通りにセミロングの黒髪やおしゃれのために伸ばしていた爪の長さなども短く切りそろえて麻乃は研修に備えた。
 
 そして、研修当日。
 目的の閉鎖病棟に向かうため、麻乃は十八歳の誕生日の早朝から家を飛び出し、電車を4つほど乗り継いで郊外の奥地へと向かった。
 そこで待ち合わせていた学校側の手配で用意された車で片道数時間という長い山道を走り抜け、午前10時を過ぎたころ目的の場所が見えてきた。

「うわ、刑務所みたい」

 木々が鬱蒼と生い茂る山の一部に隠れるようにそびえ立つ病棟の周りには、背丈の高い金網の柵があり、その上部には有刺鉄線まで設置されている。
 刑務所のような外観の病棟に麻乃は不安感を拭えないまま、学校からの紹介状を手に警備員が配置されている入口で車から降りた。
 長い道のりを送り届けてくれた運転手のおじさんにお礼を伝えて別れたあと、麻乃は警備員の人に連れられて、病棟内部の待合室へと通される。
 そこで数十分ほど待たされたのちに、ノック音とともに研修を担当してくれる看護師さんが現れた。

「はじめまして。看護師の新井です」

「は、はじめまして。川嶋麻乃です……!」

 現役の看護師である新井さんは昭和時代のようなタイトスカート式のナース服を着用しており、ポニーテールに結んだ明るい髪とスレンダーな体格からは大人の女性特有の色気が感じられた。
 
「それで、川嶋さんにはさっそくなんだけど。研修を受ける前にいくつかの書類にサインをして欲しいの」

「えっと、どういうことですか?」

 お互いに自己紹介を終えると、単刀直入に。という感じで大きなファイルにバインダーされた書類の束がテーブルの上に広げられ、流れのままに新井さんからボールペンを手渡されてしまい、麻乃は首を傾げる。
 
「学校側から説明は受けてるでしょう? ここの研修は患者の気持ちを理解するために行われるもので、一時的に患者さんと同じ扱いを受けるから、それに対する同意書が必要になるって」

「そんな話し、聞いてないですよ?」

 新井さんから聞かされる説明に、麻乃は酷く動揺した。
 閉鎖病棟にいる患者さんの面倒を見ると思いきや、閉鎖病棟の患者さんに成り切って医療行為を体験するのがここでの研修だというのだ。
 予想していなかった状況に何かの間違いではないか。と麻乃は研修について新井さんに聞いてみるが、
 
「申し訳ないけど、川嶋さんが研修を受けないというのなら単位を上げることはできないし、学校側には川嶋さんが研修を辞退したと伝えることになってしまうわ」

「――っ!? それだと、私が困ります……ッ!」

 新井さんから返ってきた言葉は、無慈悲なものだった。
 誕生日の日に長い時間を掛けてここまで来たのに単位がもらえないだけでなく、学校側に研修を辞退した。と伝えられてしまうなどとても許せるようなことじゃない。
 そんなことをされてしまったら、卒業を控えているはずの麻乃の内申点に大きく響いてしまう。
 なにより、この研修の必須単位をもらえなければ、麻乃が学校を卒業するための条件を満たせなくなってしまう。それは、麻乃の人生を大きく左右してしまうほどの問題だった。
 
「でも、ここでの研修は受けたくないでしょう? あなたの反応を見ただけでもわかるわ」

「うぅ……ッ」

 新井さんは研修を受けるかどうかは強○をしていない。
 あくまでも、選択権は麻乃自身にある。
 本来なら、患者側という立場ではなく、看護師としての研修を受けさせてくれればいいのだが、その話をしても「規則だから」とあっさり却下されてしまう。
 閉鎖病棟といえば、あまりいいイメージはない。
 それは、ここに来た時の外観からも見て取れる。
 少しだけ待ってもらうように新井さんへ伝えてから、麻乃はしばらく、考え込む。

 考えて、考えて、考え抜いた結果に。

「あの、ここでの研修を受けさせてください」

 研修は受けてから帰る。という答えがでた。
 結局のところ麻乃が学校を卒業するためには研修を終わらせなくちゃいけないのだ。
 
「本当にいいの? 無理に受けても辛いだけよ?」

「はい、大丈夫です……!」

「それなら、この書類へサインしてちょうだい」

「わかりました……!」

 新井さんに促されるまま、麻乃は次々と書類へサインしていく。
 そこには、麻乃がどのような事例をもって閉鎖病棟へ入院することになるのか記載されていた。

 数分後。

 新井さんの案内で、麻乃は病棟の一階にある控え室へ移動していた。
 室内には長方形のベッドのような診察台と車イスが配置されており、テーブルの上には、これから麻乃が身につけるであろう拘束衣と名前も知らない道具がいくつか並べられている。
 壁にはロッカーが設置されていて、その内の一つに荷物を預けるように新井さんに指示された。
 言われたとおり、持っていたすべての貴重品をロッカーに預けると、私服もロッカーに預けるように言われる。「全部ですか?」と麻乃が問うと「そうよ」とあっさり答えられてしまった。
 裸になるのは嫌だったが、書類にサインも記入して了承してしまったのだから、仕方がない。
 麻乃はスカートから順に服を脱いでロッカーへしまっていく。

「……っ」

 スカートとブラウスを脱いでしまえば、麻乃の白く瑞々しい肌を隠すのは下着だけになった。
 新調したてのレースの下着も脱ぎ終えると、麻乃の恥部までもが空気に触れる。
 空調がしっかりしてるおかげで寒くはないが、女性同士とはいえ人前で裸になるのはやはり落ち着かない。
 左手で胸を隠しながら、ロッカーの扉を締めるとぴぴッと電子音が鳴なり、取手のランプが緑から赤に変わった。

「え……?」

 麻乃は呆気にとられながら、取手を引いてみるが、ガチャッと引っかかり、開く気配はない。
 もう一度試してみるが、やっぱり開いてくれない。

「大丈夫よ、心配しないで」

 麻乃の肩に手を伸ばしてきた新井さんがロッカーの説明をしてくれる。
 ロッカーには防犯システムが備わっており、専用の電子キーがなければ開かないらしい。
 現在麻乃が利用したロッカーの電子キーは新井さんが所持しており、麻乃が私物を入れ終えたから鍵をかけたとのことだった。
 それならそうと、最初に教えて欲しかった。
 研修に付き合ってくれている新井さんに文句を言うわけにもいかず、「こっちに来てくれる?」と指示をする新井さんのあとを麻乃は丸裸のままついて歩き、診察台のそばへ移動する。
 
「まずは、コレから着ていってもらおうかしら」

「これ……パンツですか?」

「そうよ」

 麻乃が受け取ったのは黒色の三角形の小さなパンツ。
 ゴムみたいにぴちぴちとした伸縮性を兼ね備えた生地で作られているが、引っ張ってもなかなか伸びず、生地が厚めで丈夫な作りであることが伺える。
 ゴム製のパンツなど初めてで、履いたらどんな感じがするのかわからず、ちょっとだけ胸のところがドギマギする。
 よく見てみるとクロッチの部分にはジーパンのようなファスナーが付属していて、ファスナーを開けるだけで排泄ができる仕組みになっているようだった。
 ファスナーを開けるだけでアソコが丸見えになってしまうような下着に思わず着用するかどうか迷ってしまうが、このまま丸裸でいる訳にもいかない。
 そう判断した麻乃は、両足を黒いパンツへ通していく。
 
「――ッ」

 サイズがなぜか子ども用みたいに小さくて、履くのに苦労する。
 パンツに足を通すだけでも、くるぶしだったり、ふくらはぎだったり、足にある凹凸部に何度もギュムッと引っかかってしまうのだ。
 肌に擦れさせながら、それでもなんとか股間に収まるまで引き上げる。
 完全に穿ききると三角形の黒いフォルムが麻乃の局部にぴっちりと吸いつくように密着してきた。
 通気性はほとんどなく、穿き続けたら汗で蒸れてしまいそうだった。
 さすがに汚れたりした場合は取り換えてくれるはずだけど、きっと同じ種類のパンツに履き替えさせられるのは間違いないだろう。
 次はどうするのか。と視線を新井さんへ戻すとテーブルに置いてあった拘束衣を引き寄せて、背面を大きく広げながら麻乃に向けてきた。

「これは、両腕を袖に通しながら着用してね」

 ぱっくりと開いたキャンバス生地には、ベルトや金具がいくつも垂れ下がっており、どこからどう見ても健常者が身に着けるような衣服ではないのがわかる。

 ——拘束衣。

 本人のための医療行為であったとしても、特定の状況に限定して装着することが許されている代物である。
 麻乃は別に何かの病気に罹っている訳でもないし、犯罪者のように何か悪いことをした訳でもない。
 だというのに、その拘束衣の抱擁の中へ麻乃は自ら身をあずけようとしている。

「あの……本当にソレ、着なくちゃダメなんですか?」

「川嶋さんが裸のまま研修を受けたいのなら、着なくてもいいのよ? 代わりに別の拘束具を装着することにはなるけど」

「うぅ……ッ、さすがにそれは、嫌です」

「それなら、ちゃんと袖を通して身につけたほうがいいわ」

 胸を隠す麻乃の指先が痺れるように震える。
 本当は、拘束衣を身につけたくなどなかった。
 しかし、拘束衣を身につけなければ他に肌を隠す手段がないし、結局拘束具を装着されるなら受け入れるしかない。

「……ッ」

 拘束衣を広げたままの新井さんに促され、麻乃は息をのんで両手を袖の中へ差し込んでいく。
 指先から腕に掛けてキャンバス生地独特の乾いた柔らかさが伝わってくる。
 そのまま一番奥まで両腕を差し込むと、両手を差し込んだ袖先は、閉じた袋状になっており、袖の先から帯のようなベルトがだらしなく垂れさがっていた。
 おまけに指に触れるキャンバス生地の厚みがさらに強くなった気がする。
 指先での作業ができないようにあえて、そのような作りにされているのだろうか。
 
「整えていくわね」

 麻乃の両腕が袖の中へ通ったことを確認した新井さんは、背後へ回ると麻乃の白い柔肌を閉じ込めるようにまばらに広がっていたキャンバス生地を引っ張って、拘束衣の背面を閉じていく。

「うわぁ……ッ」

 ズズッ、ズズッ、と新井さんが拘束衣の生地を正していくたびにキャンバス生地は柔道着のような柔らかい質感を麻乃の肌に擦りつけてくる。
 しかし、その心地よさを消し去るように、首元から裾と袖の先まで、身体のラインに沿うように縫いつけられているいくつものベルトの存在が、拘束衣を拘束衣足らしめるように肌そのものへ窮屈な圧迫感も与えてくる。
 その息苦しさに麻乃が「うっ」と喉を鳴らすと、首もとのタートルネックみたいなベルトに付属した金具がカラカラと鳴り響いて麻乃の鼓膜を刺激した。
 
「一応、サイズは他にも用意してたけど、思ってたよりぴったりね」

「ほんと、ぴったりですね……?」

 着る前はサイズについて何も聞かれなかったのだが、あらかじめ用意されていた拘束衣が麻乃の身体にぴったりなのに、新井さんも驚いてるようだった。
 それが不思議で肩をすくめると喉もとや肩、胸と腹部にも生地が馴染むように拘束衣がさらに正されていく。
  
「さて、次はベルトを締めていくわね」

「は、はい……っ」

 袖の中に閉じ込められた両手に気を取られて、胸の前でブラブラ振っていると背面の口を閉じるために首もとのベルトからキュっと締められてしまう。
 新井さんはその後も背中のほうで作業を続け、拘束衣の背面にある五つのベルトに手を伸ばしていく。
 そうやって、一つずつ順番に背中や腰などに付属されたベルトが締められていく中。麻乃の頭に一つの疑問が浮かび上がる。

「この拘束衣って、着せるのも脱ぐのも大変そう、ですね……?」

「確かにそうかもしれないわね。けれど、患者さんがパニックなんかを起こして突然暴れ出したときに人に危害を加えてしまったり、すぐに自殺しようとしてしまうこともあるから、ここの患者さんのほとんどは拘束衣を必ず着せる決まりになってるわ」

 背面にあるいくつかのベルトが締められ、露出していた麻乃の素肌はベージュのキャンバス生地の中に収まっている。
 肌が空気に触れていないことで、恥ずかしさは軽減したのだが、そのような重篤な患者さんが身につけることになる拘束衣を看護学生である麻乃が身につけていることに、新しい戸惑いが芽生えてくる。

「わたしは、その……暴れたりしないですよ?」

 胸が奥がもやもやして、不安になってしまった麻乃は、自分はそのような患者さんとは明確に違うことを告白する。

「そうね。たしかに川嶋さんは本当の患者さんじゃないから暴れないかもしれない。でも、これは患者さんの気持ち知るための研修だから、あえて暴れてみてもいいのよ?」

 新井さんはそのことを理解しているからこそ、麻乃に向かってあえて逆の意見を提案してきた。

「いや、さすがに乱暴なことはしたくないですよ……!」

「まぁ、そうね。どんな風に研修期間を過ごすのかは、川嶋さんの自由だから何事もなく大人しくしているのもいいと思うわ」

「そ、そうします――っん」

 不意に、バストの辺りが後ろから強く締めつけられ、麻乃の黒い瞳が拘束衣の胸元へ向けられる。
 いつの間にか、胸の下を横に割くベルトが豊満な麻乃の乳房の形を崩さないようにみぞおちへと密着していたのだ。
 形状からして、この拘束衣は女性用なのかもしれない。

「もう少し、締めるわよ?」

「あ、はい……ッ」

 新井さんがもう一度ベルトを締め上げると拘束衣の胸元がブラジャーのように麻乃の乳房の形を維持して吸いついてきた。
 大きく息を吸うと先ほどよりもアンダーバストにフィットするキャンバス生地がみぞおちを締めつけてくる。
 これだけぴったり乳房の形を浮き彫りにされるとかなり恥ずかしい。
 だが、その後も背面のベルトは次々と締められていき、裾の部位にあるウエストのベルトも固定される。
 しかし、拘束衣にはまだ他にもベルトが残っていた。
 首元から胸の間を縦に流れて、谷間の下で輪を作っている一段と幅の広いベルトがある。このベルトの輪っかは何のために用意されているのだろうか。

「あの、この胸のところにあるベルトの輪っかって――」

 背面のベルトの緩みを確認しながら微調整している新井さんに麻乃は聞いてみた。

「そうね。胸の前で交差するようにその輪に片手ずつ両手を通してもらえる?」

「こう、ですか……?」

 言われたとおり、谷間の下のベルトへ、麻乃は左右から交互に両手を差し込んでいく。
 閉じた袋状の袖が少し引っかかったが、両手を通すとお腹を抱きかかえるように、乳房を持ち上げる姿勢になった。

「そうそう、そのままね」

「あ……ッ!」

 何をするのかと待っていると、両肘の近くに移動した袖の先端にあるベルトを新井さんがグイっ、と背面へ引っ張ってしまう。
 両腕を組んだまま、左右の手のひらを肋骨に這わせるように拘束衣の袖が移動させられ、袖のベルトが麻乃の背面で固定されていく。

「んぅ……ッ」

 ギュッ、とベルトが締まりこみ、背骨の高いところに圧力が加わる。胴体から腕を動かそうと引っ張っても、袖のベルトが背面で固定されたせいで麻乃の両腕は、お腹で組んだまま動かせなくなってしまった。

「こっちも締めちゃうわね」

 そのまま流れ作業のように両腕を挿入した谷間の下のベルトも、新井さんはギュッと締め上げてしまう。
 そうすることで、麻乃の両腕に十字方向からの締めつけが加わり、自らの腕で胴体を圧迫するように固定されてしまった。

「腕を拘束するためのベルトだったんですね……?」

「そうよ。そのベルトがあるだけで、拘束力が何倍も変わってくるの」

 たしかに谷間の下のベルトは、腹部で交差している麻乃の両腕を纏めるようにキッチリと締め上げている。このベルトの存在があるから、麻乃の両手は拘束衣と一体になり、腹部から上に持ち上げることができない。
 たとえ、両腕を動かすことができたとしても左右に向かってわずかに揺れるくらいだ。

「これ、本当に腕が動かせない……っ」

「えぇ、でも、まだ途中よ」

 麻乃にとっては、その拘束だけでも十分な拘束に思えた。
 これ以上拘束しなくたって、両腕は胸の前から動かせることはない。

「——えっ」

 それなのに、新井さんは拘束衣の上腕の外側に縫いつけられているベルトに付属したリング状のバックルに、背面から引っ張ってきた新たなベルトをくぐらせ、盛り上がった麻乃のバストを真横に押しつぶすように二の腕を胴体に固定してしまう。

「うわぁ……ッ」

 長袖のジャケットのような形状をしているこの拘束衣には、薄い生地の部位が簡単に破けてしまわないように各所を補強するように縫いつけられているベルトがある。
 それが、格子状のように拘束衣の上を這いまわっているから、通常の衣類のような伸縮性は確保されていない。
 おかげで麻乃が少しでも二の腕に力を込めると、おっぱいの上を締めつけるベルトが胴体を圧迫し、息苦しさを与えてくる。

「次は股のところにも通すから、ちょっと、くすぐったいと思うけれど我慢してね」

「ま、まだあるんですか……?」

「これで最後よ」

 新井さんが次に手を掛けたのは、肩から縦に流れるように両胸の上を真っすぐ降りながら、拘束衣に縫い付けられている二本のベルト。
 そのベルトは拘束衣の裾から股のほうへ飛び出して、麻乃の膝のあたりに垂れ下がっていた。
 新井さんは慣れた手つきでその二本のベルトを黒いパンツを履いている麻乃の股の下に通して、左右の鼠頸部に合わさるように這わすと、背面にある裾のバックルへ繋げてしまう。

「引っ張るわよ?」

「――ぁんッ!?」

 ギュッと、ベルトが締められた途端に、お尻が一瞬持ち上げられる。
 鼠頸部に深く食い込む二本のベルトの締めつけがじんわりと股間の周囲へ拡散していく。
 それに加え、胴体を包み込む拘束衣の重みが全身を包むように伝わってきて、麻乃の華奢な身体は四方八方から圧縮されたみたいに締めつけられていた。
 自分の身体がキャンバス生地によって別のものへ作り替えられていく歪な感覚に、踵からぞわぞわしたものが下腹部へ向かって這い上がってくる。

「ふふ、拘束衣すごく似合ってるわね」

「ひっ」

 ――ギッ、キギッ。

 囁かれた言葉に、麻乃は思わず、両腕から肩にかけて力を入れ、拘束衣の縛めに抗った。
 しかし、拘束衣に閉じ込められた麻乃の身体はただ無力な肉塊に成り果ていた。

 「――――ッ」

 その事実を知り、急に胸のあたりが締めつけられる。

 なぜなら、この拘束衣はどう考えても自力では脱げないのだ。

 どれほど麻乃が渾身の力で抵抗してみても、お腹を抱きかかえるように固定された両手はびくともせず、背中で締めあがるいくつものベルトが声高に、「お前を逃がさないぞ」と自己主張を強めてくるだけ。

 どうして、こんなものを着てしまったのだろう。

 なぜ、疑問も抱かず、受け入れてしまったのだろう。

 脳裏に焼きついてくる後悔の嵐が瞬く間に麻乃を不安にさせてくる。

「さて、次は――」

「あの……っ! この拘束衣って、いつまで着用してることになるんですか?」

 麻乃は乾いた唇に舌を走らせて、テーブルの上にある装具へ手を伸ばそうとしている新井さんに質問を投げかけていた。

「そうねぇ、入浴のとき以外は常時着用する決まりになってるわ」

「それって、つまり……?」

「二日後の研修最終日にある入浴までは、そのままってことね」

「そんなぁ……!」

 研修期間は二泊三日。
 今日も合わせると研修が終わるまで三日間ある。
 その間ほぼ全ての時間を拘束衣の姿のまま過ごすなんて、絶対に嫌だった。
 しかも、このまま二日間もお風呂にも入れないなんて、イジメだ。

「大丈夫、さっきの書類に書いてあったように川嶋さんは私たちに看護されるだけだから、変に心配する必要はないの。どうせ、ほとんどベッドの上で寝ているだけだし、必要なことはなんでもしてもらえるから安心して」

「うぅ……ッ」

 テーブルから離れ、麻乃のそばへやってきた新井さんは、拘束衣に包まれている麻乃の肩へ手を添えたかと思うと、そのまま首筋へ指先をゆっくりと這わし続ける。

「そんなに怖がらなくても大丈夫よ。ちゃんと患者さんと同じように扱ってあげるから――あら、ここちょっと緩いみたい」

 新井さんは麻乃の黒いショートヘアをさわさわと軽く撫でると拘束衣の歪みを見つけたらしく、背面に回って、ベルトの締め具合を確認していく。
 できることなら、麻乃は今すぐに拘束衣を脱いでしまいたい。しかし、書類にサインをした以上。今更になって拒否するわけにもいかない。

 ——ギ、ギギッ。

 麻乃が頭を悩ませている間にも、拘束衣が緩んでいる個所のベルトをギュっと締め直し、僅かな綻びがないように新井さんはベルトを微調整していく。
 先ほどにも増して、麻乃の肌に拘束衣が密着して馴染んでくる。

「さて、時間も迫ってきてるし、そろそろ急がなくちゃマズイわね。次はこのマスクを口に咥えてもらおうかしら」

「な、なんですか……? それ……?」

 新井さんの手にある道具は、分厚い革マスクのような茶色いカバーから、左右上下のあらゆる方向に細長い革の帯が伸びている装具だった。
 よく見てみるとマスクの中心部の内側には、黒色の突起が飛び出しており、その突起はシリコンのような見た目で中芯部に穴が空いている。
 逆に、シリコンの突起がある外側には銀色のリングのついた金具で蓋がされており、蓋を開けると突起物の穴と繋がっているみたいだった。

「口を保護するためのフェイスクラッチマスクよ。今回の川嶋さんのケースだと、妄想が酷かったりして、大声で突然叫んだり、人にかみついたりするから、舌をかんだりして怪我しないようにこのマスクで口を保護をすることになっているの」

「保護……ですか? けど、わたしは妄想なんて起こさないし、叫んだり、噛みついたりもしないですよ?」

「そうね。わかってるわ。これはあくまでも研修よ。だから、川嶋さんは患者さんの気持ちを知るために装着することになるわね」

「ですよねぇ……」

 新井さんの手にある口枷を麻乃は咥えたくはなかった。
 しかし、現在麻乃が受けている研修は最近若者に多くなってきた重度の統合失調症を想定した看護される体験ということになっている。

 そう、これは研修。

 あくまでも麻乃は“閉鎖病棟に入院する患者”という立場なのだから、新井さんから施されるものは、すべて医療行為に他ならない。
 目の前にかざされている口枷を咥えたくないが、あくまでも医療行為。
 それら全てを受け入れるという書類にサインをしてしまったし、研修が始まってしまってる以上、麻乃が嫌だと思っても咥えなければいけない。

「はい、川嶋さん。口を開けて、深く咥えて」

「――ッ」

 自分に言い聞かせるように麻乃は脳内で理由を連ねてみるが、目の前に近づけられた黒い突起におもわず身体がたじろいでしまう。
 奥歯が浮いたまま、唇が震え、口がうまく開いてくれない。
 拘束された腕が拒否反応を示して、勝手に動こうとするが、麻乃の両腕は拘束衣に囚われていてお腹を抱えたまま動かない。
 目の前で起きている現実を否定したくなってきて、口枷から目をそらすように拘束された自分の腕を見つめてしまう。
 
「ほら、この次は病室に移動するんだから、ちゃんとしなくちゃダメよ? 警備員の人も待たせてるんだから」

「わかってるんですけど……ちょっと、拘束衣を着てから怖いっていうか……なんというかその、心の準備ができてない、です……ッ」

「たしかに、拘束されることは怖いわよね。それは私もよく知ってるわ。でも、もしも川嶋さんが今の研修を受けてなかったらそういう患者さんの気持ちも知れなかったのよ? だから、最後まで頑張って」

 新井さんに励まされ、麻乃はどうにかして目の前のマスクを受け入れようとするが。

「い、いや……っ、やっぱだめです……ッ、胸のところがドキドキしちゃって……もう少し待ってください……ッ」

「そう……それなら先に、車イスにでも乗ってもらおうかしら」

 新井さんの視線は、室内に不自然に置かれている車イスへ向けられた。
 ただ、その車イスは麻乃が知っている普通の車イスとは少し様子が違う。
 座席へ座った人を固定するための茶色い抑制帯——革製のベルト——がいくつも付属されており、普通の車イスよりも骨組みがしっかりとした頑丈な作りをしていた。
 大体の車イスは持ち運びを楽にするために折りたためる仕組みが備わっているのだが、この車イスにはその仕組みはなく、強度のみを重視した物々しさが感じられる。
 麻乃には、囚人を運ぶためだけに作られたような、歪な雰囲気を漂わす車イスに見えた。
 
「こ、これに乗るんですか……?」

「そうよ。研修中の川嶋さんの移動は、基本的に車イスのみの移動になるから」

「でも、これ……ベルトがいっぱいありますよね……?」

「まぁ、子どもを車に乗せるときのチャイルドシートみたいなものよ。移動中に患者さんが突然暴れ出して転落や転倒があると、危ないでしょう?」

「たしかに、そうですけど……」

「歯切れが悪いわね。書類にもこのことは書いてあったし、研修を受けるためにサインもしたでしょう?」

「うぅ……ッ、はい、そうです……」

 新井さんに対して、生返事をしているのは麻乃もわかっていたが、あまりにも顕著すぎたらしく、新井さんの声色が一段強まる。
 しかし、拘束衣を身につけてからドキドキが収まらなくて、目の前のことに集中することができないのだ。
 このまま研修を続けても、麻乃にとって良い収穫が得られるとは思えない。
 だから、研修を中止してもらいたいのだが、書類にサインをしてしまった手前、言い出すにも言い出せなかった。
 でも、曖昧のままでいるよりも、はっきりと麻乃の意志を伝えたほうがいいのかもしれない。
 そう、決意を固め麻乃が口を開こうとすると――

「あぁ、もう! いつまでもうじうじしてないで、ほら、こっちに来てさっさと座りなさいっ! 早くしないと時間が過ぎちゃうわ!」

「あっ――はいッ……!?」

 拘束衣の側面にあるベルトを新井さんに掴まれて力を加えられただけで、麻乃の足はコントロールを失い、トタトタと歩き出し、車イスの座席へあっさりと腰かけてしまう。

「あとは、座ってればいいからジッとしてて」

「わ、わかりました……!」

 新井さんは、車イスに付属されている抑制帯を麻乃の身体に合わせ、一つずつ金具へ固定していく。
 胸と肩。
 股と腰。
 最後に足首。
 たったそれだけで、麻乃は車イスに身体を固定され、座ったまま立ち上がれなくなっていく。

「ん……ッ!? あの、もう少し緩くできませんか?」

「ダメよ。移動の際は、しっかり固定する決まりだから」

 心なしか抑制帯の締めつけが強いような気がして、麻乃はベルトを緩めるように頼んでみたが、あっさり拒否されてしまった。

「うぅ……ッ」

 あっという間に麻乃は車イスに拘束されてしまい、新井さんのいったとおり、チャイルドシートに座らされた赤ん坊みたいになっていた。

「これから病室へ移動するけれど、その前にさっきの口枷も咥えなきゃね」

「……あ、あの、やっぱりわたし……ッ!」

「嫌がってもダメよ? 研修でも決まりは決まりだから。さぁ、次はちゃんと咥えてね」

「ンむッ――!?」

 研修の中止を願おうとした意図に気づいてくれず、新井さんは赤ん坊に咥えさせるおしゃぶりよりも大きく膨らむマスクの先端を、麻乃の閉じた唇にふれさせる。

「~~ッ!? ~~っ!」

 車いすに固定されているから、顎を引いて顔をそらそうとしても、背後にいる新井さんの手からは逃れられない。
 だから、口を必死に噤み続ける。

「ほら、どうしたの?」

 麻乃が一言でも言葉を発すれば、その隙に口の中へ押し込んできてしまいそうな緊張が漂っていて、奥歯が震えてしまう。
 
 ――やっぱり怖くて開けられない。

「もしかして、無理やり咥えさせてほしいのかしら……?」

「ち、ちがッ――ぅぐ!?」

「違うなら、ちゃんと咥えなさい!」

「んむ~~~~ッ!?」

 舌を圧しつけるように入りこんできた冷たいシリコンの柔らかい突起が歯茎の裏に収まってくる。
 口の中が異物で満たされていく感覚が受け入れられなくて麻乃の身体は反射的に暴れ出す。
 しかし、抑制帯によって車イスに固定されている麻乃の身体は、わずかに揺れるだけ。

「ほら、暴れないの」

 麻乃が深く突起を咥えこめるように、麻乃の顎をホールドしながら、口元をしっかりと抑えつけるように口枷を奥まで押しこんで、新井さんは左右の革紐のバックルを調節していく。
 シリコンの突起は、麻乃の小さな口の中を埋め尽くすには十分な代物で、口に咥えるだけで言葉を奪っていた。
 
「んッ――あぅ……ッ!? ン、んううッ!」

 下を向いたり、左右に振ったり、と麻乃が嫌がるように頭を動かしたところで意味はない。
 鼻の下からほっぺたの周りにまで、柔らかい革のカバーが密着し、頭の後ろでキュっと革紐が留められてしまうと、舌が突起のポケットに収まり、押し出すことも、吐き出すこともできなくなった。

 しかし、カバーから伸びている革紐はそれだけではない。

 口もとの革帯と繋がる逆Y字の革紐が、麻乃の眉間を通り、頭頂部を抑えつけるように頭の後ろで固定され、さらに、頬の左右の革帯から伸びる革紐が顎下で交差しながら首の後ろで固定される。
 口で呼吸をすることもできず、ドクドクと鳴り響く鼓動に合わせて、ふすーっ、ふすーっ、と麻乃は鼻呼吸を繰り返すことしかできない。
 それが嫌で、マスクを外そうにも、両手は拘束衣によって完全に拘束されており、腹部で腕を組んだまま微動だにせず、僅かに揺れるだけ。

「暴れないって言ってたのに……川嶋さん暴れてたわね?」 

 胸の鼓動が激しく鳴り響く中。麻乃の紅く染まる顔を新井さんが横から覗き込んでくる。
 その顔は麻乃が抵抗することを見通していたかのようにニコっと微笑んでいた。

「ンぐ!? んぐうッ!」

 うるさいくらい鳴り響いている心臓の鼓動に抗うように、麻乃は精いっぱい身体を動かして、首を大きく左右に振りながら瞳を見開く。
 正直なところ麻乃は、抵抗するつもりなどなかった。
 ただ、突如として強引に口の中へ入ってきた異物に身体が反応してしまっただけのだ
 そのことを新井さんに伝えたいのだが、マスクに塞がれた口からはうめくような声しか発することができず、ふすぅーっ、ふすぅーっ、とただ息が乱れるだけ。
 
「そうやって拘束に抗うのも意外と楽しいのよね」

「~~~~ッ!?」

 さらには、その行為が何か別のものと勘違いされている。
 そう思って、麻乃はさらに首を振って、新井さんの言葉を否定するように何度も拘束に抗ってみせる。
 だが、拘束されている麻乃の身体は車イスの上で軋み声をあげるだけで、何一つ状況は変化しない。
 
「ングううう! ん、ン~~~ッ!」

 どんなに身体を揺らしても、麻乃を拘束している拘束衣の縛めは解けないし、今は口枷のせいで大きな声もだせない。
 拘束衣を着せられて、車イスに固定されて、口枷までも装着された麻乃は、新井さんのなすがまま。

「大丈夫よ。さっきも言ったけど、研修が終わるまで川嶋さんのことはちゃんと患者さんとして扱ってあげるから心配ないわ」

「……ッ!?」

 新井さんは、赤ん坊をあやすように麻乃の黒いショートヘアをポンポンと撫でてくる。
 それがなんとも言えない屈辱さを味合わせてきて、胸の奥がズキズキと痛む。

「さてと、それじゃあまずは病室へ向かいましょうか」

 新井さんは車イスのハンドルを握り、ブレーキを解除すると、麻乃の返事も聞かずに車イスを走らせる。
 車イスに磔にされている麻乃はそれに抗う手段は持ち合わせていない。
 自分の意志に関係なく、視界が強○的に移動させられていく。

「んむぅうう!?」

 連れていかれる病室がどこなのかわからず、声を上げる麻乃が背後にいる新井さんへ視線を向けると、部屋を出るときに「研修なんだから、存分に楽しんでね」と告げられた。
 つい忘れてしまいそうになるが、拘束衣に身を包み、車イスに固定され、口枷を咥えさせられている麻乃だが、これらはすべて研修のために行われていることだ。
 拘束衣も、口枷も、身に着けてしまったのなら最後まで研修を受けるしかない。

「――ッ」

 幾重ものベルトに締めつけられるマスクの内側で、口内を埋め尽くすシリコンを強く噛みしめながら、麻乃は覚悟を決めるしかなかった。

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-freya- 2023/06/05 14:54

完全拘束して欲しいとお願いしたら、完全拘束じゃなくて永久拘束されちゃう家出少女のお話し

大変長らくお待たせしました!

去年から描こうとしていた永久拘束モノが出来上がりましたので、投稿させていただきます。

以下、登場キャラクターについて

・古川夏希(ふるかわ なつき) 15才の女の子 地元の高校に入学してから間もなく家出をする。地元から離れた都会で所持金を失い、帰ることもできずに困っているところを雪代飛鳥に拾われ、とあることを条件に居候になる。

・雪代飛鳥(ゆきしろ あすか) 15才の女の子 とある大手企業の令嬢で、お嬢様学校に通っている。幼いころから投資を学び、そのころから蓄えた資金で自ら生活費を稼いでいる。可愛いものが好きで、特に「女の子の自由を奪って所有したい」という欲求があり、その衝動を叶えるための方法を模索しているところで、夏希と出会う。

――――――――――――――――――――

「私も鉄の枷で完全拘束されてみたいなぁ」

 タワーマンションの最上階にあるリビング。
 そのソファーの上で私――古川夏希――は、なんとなく呟いた。
 セミロングの黒髪に薄手の白ワンピースを着飾った私の胸の上下には、たわわに実った二つの乳袋が浮き彫りになるように紅い麻縄が施されている。背中では、両手が交差するように組み合わさり、少しでも細腕に力を加えれば、厳しい後ろ手縛りがギシッと鳴いて、身じろぎ一つ許してくれなかった。

「こんな金属のフレームで拘束されたら怖くない?」

 私をこのような状況に陥れ、このタワーマンションに二ヶ月ものあいだ監禁し続けている張本人である雪代飛鳥が何食わぬ顔で問い掛けてくる。
 隣に座る彼女は、ストレートロングの黒髪に、私とお揃いの薄手の白ワンピースを着こんでいるから、傍目から私たちを見るとペアルックを着込んだ百合カップルのようにも見える。
 けれど、彼女の片手には私の喉元に嵌り込む重厚な紅い首輪と繋がっているリードの先端が握られている。
 その様子からもわかる通り、私と飛鳥の間には、確かな主従関係が存在していた。
 
「それがいいんだよ。何一つ抵抗できないように身体を金属で固定されちゃってさ、ゆるしてぇ~って必死に懇願してもおまんことか乳首を気持ちよくされちゃって、観賞用のオブジェみたいに部屋に一生飾られたまま人生終わっちゃうの。絶対最高だよ」

 なのに私は、これまで一度も飛鳥に話してこなかったような要望をあけっぴろげに解き放つ。
 目の前の大型テレビに映るAV女優さんが拘束台に散りばめられている鉄枷によって、オブジェクトのように完全拘束されていく様がそれだけ魅力的に見えたのだ。
 飛鳥と出会ってから二か月ほど経過するが、AVを見ていてこんなにも胸の奥がワクワクドキドキしたのは初めてだった。

「人生終わっちゃう、って……さすがにそれはちょっとヤバくない? 定期的に拘束から解放して、メンテナンスしてあげないとすぐに壊れちゃうと思うよ? 夏希だって縄で縛られてると疲れてくるのは知ってるでしょ?」

 などと言っているが、十五歳という年齢にも関わらず、女の子一人を監禁しても何一つ問題ない財力を持っている飛鳥なら、私を完全拘束する道具など簡単にそろえることができるだろう。
 現にこれまでの生活で、飛鳥は様々な拘束具や大人の玩具を使って私を楽しませてくれた。
 その中で一番思い入れが強いのは、高さ100センチメートルに対し奥行きと横幅が60センチメートルしかない小さな鋼鉄の檻だ。

 あの時は、何も説明がないまま精神科の入院患者が着せられるような拘束衣を着せられて、狭い檻の中で体育座りをするように膝を折り曲げたまま、丸一日閉じ込められたのだ。
 拘束衣を身に着けているだけでも、何もできないのに、狭い檻の中は窮屈で、まともに背筋を伸ばすこともできず、ただただ無意味に退屈な時間を過ごすことしかできなかった。
 鉄格子の隙間から、定期的に水分と食べ物を与えれたりはしたけれど、排泄物はあらかじめ装着されていたオムツにするしかなかったし、生暖かい排泄物がじわじわと冷たくなっていく感触は、自分が人ではない無機物に変えられていくような気がしてマジでヤバかった。
  
「でもでも、短期的に完全拘束するくらいなら問題ないよね? というか、それくらい飛鳥なら簡単に用意できるでしょ?」

「そりゃあ、完全拘束するくらいなら道具があればいくらでもできるから、夏希がやられたいなら用意できるけど……夏希のいうような完全拘束を実現するのはちょっと難しいと思うよ?」
 
 そのときに私が体調を崩してからだろうか。
 飛鳥は、いつも私のことを第一に考えてくれている。
 私の要望に否定的なのは、その所為かもしれない。
   
「それなら、飛鳥が用意できるやり方でいいから、完全拘束されてみたい!」

 だからこそ、私は我を通した。
 あのときに感じた被虐的な倒錯感がどうしても忘れられず、あのまま狭い檻の中に閉じ込められ続けていたら自分がどうなっていたのか、と何度も妄想してしまうのだ。
 きっと、この二ヶ月の監禁生活で、私の性癖は大きく歪んでしまったのだろう。
 
「……夏希がそこまでいうならいいよ。完全拘束するための準備してあげる」

 飛鳥はしばらく頭を悩ませていたけれど、気持ちの整理がついたのか、ニコっと微笑んで承諾してくれた。

「やったー! 嬉しい! 飛鳥のこと大好き!」

 好意と感謝の想いを伝えるべく、飛鳥へ抱き着こうとするが、後ろ手に緊縛されているせいで抱き着けない。
 緊縛された身体をソファーの上でモニョモニョ動かしていると「ほら、おいで」と両手を広げた飛鳥が代わりに私を抱きしめてくれるから、ぷにぷにの飛鳥の乳袋に顔をうずめて甘えまくってやる。

「完全拘束されたい、だなんて……夏希はすっかりドMになっちゃったね? わたしに監禁されすぎて頭がバカになっちゃったんじゃない?」

 私の頭をぽんぽん撫でながら、飛鳥がからかってくる。
 飛鳥は冗談で言ったのだろうけれど、たぶん、マジで私はバカなことを言っているのだろう。
 図星過ぎて何と返すべきか迷ってしまう。
 でも、完全拘束されてみたいというのは本当だし、ここは正直に受け入れることにした。

「どうせ、行く場所なんてないし、飛鳥の傍に居られるなら、私はドMでもバカでもなんでもいいよ?」

「夏希のそういうところ、ホント可愛いから大好き」

 胸にうずめていた顔を上げて、飛鳥の黒い瞳を見つめると、頬っぺたをなでなでされる。
 
「私も、飛鳥のこと大好きだよ」

 それが嬉しくて、飛鳥に思いを伝える。

「夏希……ッ」

 喜ぶ飛鳥の顔が近づいてきて、柔らかい唇が重なる。
 それだけで、飛鳥が私のことを大切に想ってくれてくれていることが伝わってきた。

「夏希のこと、今日もいっぱい可愛がってあげるね」

「うん……っ!」

 その言葉を発端に、再び柔らかい唇が重なり、次は私の口腔へ飛鳥の舌がぬるりと入り込んでくる。
 やり返すように、私も飛鳥の口の中へ舌を潜り込ませて、一生懸命絡ませる。
 お互いに、お互いの温もりを確かめ合いながら、その日は想いを伝えあった。
 
――――――――――――――――――――

 私こと古川夏希が雪代飛鳥に監禁されているのは、自ら監禁されることを望んだからである。

 女子高生にもかかわらず、地元の北海道から都会へ家出をした私は、路銀を使い果たし、行くところも、帰る場所もなく、路頭に迷っていた。
 このままでは餓死してしまうのも時間の問題だろう。と公園のベンチで黄昏ている私に声を掛けてきたのが、雪代飛鳥だった。

 離れたところから家出してきた私の事情を聴いてくれた飛鳥は、同じ女子高生のよしみだから、と何一つ見返りを求めずにマンションへ泊めてくれた。
 最初は数日だけお世話になって出て行くつもりだったのだけれど、飛鳥は私を見捨てるつもりはないらしく、いつまでも居ていいよ。と何度も言ってくれて。
 飛鳥にそうやって諭されてるうちに、私は別れるタイミングを見失ってしまっていた。
 そんな生活の最中で「女の子を監禁したい」という社会に反した飛鳥の性的嗜好を知ってしまったのは、偶然か、必然だったのか、私にはわからない。
 ただ、私は彼女に「恩を返しをしたい」という想いから、自ら監禁されることを願った。
 正直言ってバカなことをしているのは自分でもわかっている。けれども、その頃にはもう、私と飛鳥は普通の女の子同士という枠組みから外れた関係にまで発展していたのだ。

 それから、私は監禁されることを条件に飛鳥のお世話になっている。

 どれくらい本気で監禁されているのかというと、マンションの玄関に電子ロックが掛けられ、私が勝手に外へ出て行かないように毎日暗証番号を変えられているくらいマジで監禁されている。
 もちろん外への連絡手段はすべて飛鳥が管理しているから、私が外部とのコンタクトを取ることは許されていない。
 一度、監禁する。と決めた以上。飛鳥は最後まで責任をもって私の面倒を見るつもりらしい。
 安心できると言えば安心できるし、逆を言えば逃げだす手段がないということになるのだけれど、それはそれだ。
 そもそも、逃げ出す意思が私にはないのだから、逃げられないというリスクよりも、安定した生活と飛鳥のそばにいられるというメリットのほうが大きいかった。
 
 そんな歪んだ日常生活に加え、私は毎日のように何かしらの拘束を施されている。
 
 飛鳥が学校に出かけているときは、手足に装着された革枷などの拘束具を鎖で繋いで、身体の可動域を制限した状態のまま日常生活を過ごしたり、逆に飛鳥がマンションにいるときは、鎖ではなく、南京錠で直接革枷を繋がれたり、さらにはアームバインダーという後ろ手に真っすぐ腕を拘束する逆二等辺三角形の革袋を装着させられたり。
 日によっては、縄で手も足も何もかも緊縛されてベッドに縛りつけられたりすることもある。
 簡潔にまとめると留守の時は軽い拘束。傍にいるときは厳しい拘束。という状況に合わせた拘束をされてしまうのだ。
 それらは私が逃げ出さないため。というよりも、飛鳥の趣味嗜好である支配欲を満たすためだけの拘束であるのは私も理解している。でなければ、こんな監禁生活を続けていないだろう。

 まぁ、その代わりに身の回りのことなどは、飛鳥がなんでもやってくれるから、拘束されていても困ることはない。
 ごはんを食べさせてもらったり、お風呂で身体を洗ってもらったり、拘束され続けて疲れたときは身体をマッサージしてくれたり。
 等身大のお人形さんをお世話するように、飛鳥は私に何でも与えてくれる。
 だから私は、飛鳥の気持ちに応えるように、与えられるものすべてを受け入れていればいい。
 自分のものを何一つ所有していない私にとって、なんでも与えてくれる飛鳥との関係は最高の巡りあわせなのだから。
 
「夏希、そろそろ心の準備はできた?」

「うん、いつでも大丈夫」

 そして、私が完全拘束を望んでから一カ月。
 ついに、その日がやってきた。

 朝風呂からの朝食タイムが終わった私に施されている拘束は、後ろ手の手錠のみ。
 飛鳥がそばにいるから、いつもなら厳重に拘束されているはずなのに、今日は扱い方が違う。
 
 理由は知っている。

 飛鳥の学校が夏休みに突入するのに合わせて、昨日の夕方にリビングの中心部へとあるものが運び込まれたからだ。
 それは、博物館に飾られていてもおかしくない黒くて大きな機械的な台座。
 その台座の上には、人体の形をくり貫いた額縁を作りだすように鋼鉄の柱が二本そびえ立っている。
 簡単に言えば、拘束台というものになるのだろう。
 拘束台には、腕、足、腰、首、などの各部位ごとを固定するためのダンベルの重りのように厚みがある鉄枷が前後左右にいくつも設置されており、幾多にも散りばめられたそれらの鉄枷に彩られた拘束台は、これからそこに嵌り込むであろう生け贄をジっと待ち構えている無機質な処刑台のように見えた。
 
「じゃ、手錠外したら服を脱いで、下着姿になってもらおうかな」

「うん、オッケー」

 後ろ手に嵌められていた手錠を飛鳥に外してもらってから、水色のレース一枚を上下に残して、薄手の白ワンピースを脱ぐ。
 本日の朝一番のお風呂で、飛鳥にされるがままに、肌のケアは済ましてあるから産毛ひとつない白い肌はすべてツルツルだ。
 あとはこのまま、台座の上に乗って、鉄枷に身体を預けるだけで、私はリビングの中心に完全拘束されてしまうのだろう。
 想像するだけで胸が高鳴ってくる。

「まずは足から拘束するね。台座の上に乗ったら、鉄枷に合わせて膝をついてくれる?」
 
「えっと、こんな感じでいいかな?」

 胸のワクワクを抑えつつ、飛鳥に言われた通りに足を肩幅に開き、昔のロボットのアームみたいに口を開いた重厚な鉄枷に足首と膝下を宛がうように乗せる。

「そのままジッとしてて」

 左右に口を広げた鉄枷の口を飛鳥が一つずつ手作業で閉じていく。
 左、右、左。
 右、左、右。
 三分割に分かれた鉄枷の接合部が、左右対象になりながら、スルッ、スルルッ、カチッとリズム良く合わさり、小さな穴をひとつだけ残して、最初から一つの鉄の環であったかのように繋ぎ目一つ見当たらなくなる。

「うわ、すごっ」

 いったいどんな技術を使用されているのかわからないくらい精巧な作りに、感嘆の声を漏らしてしまう。
 これ、外せるよね?

「次は両手をバンザイするように手首を首と同じ高さにある鉄枷に合わせてくれる? あ、もちろん首も一緒に合わせてね」

「う、うん」

 飛鳥の言うとおりに両手を左右に開き、肘を直角にして首の高さと並んだ位置にある鉄枷に両手首と喉元を宛てがう。

「じゃ、閉じるよ」

「ンッ……」

 スルッ、スルルッ、カチッっとリズム良く鋼鉄の接合部が合わさっていくと、手首と喉元にも繋ぎ目一つない重厚な鉄枷がガッチリと嵌り込んでしまう。
 すでに私の身体は、両手を左右にバンザイしたまま、肩幅に股を開く無様な姿で身動きが取れなくなっていた。
 これ、マジで動けない。

「どう? 首とかきつくない?」

「全然大丈夫だけど……ちょっとぴったり過ぎて怖いかも……?」

 極度に締めつけられて痛みがあるとか、肌が擦れて変な感じがするとか、そういうのは一切ない。
 ただ、首から下にある胸からお尻に掛けて身体をクネクネと動かす行為以外は、身動きが取れなかった。
 拘束台に幾多にも存在するうちの、膝下と首の部分の鉄枷を嵌められただけで、処刑される囚人のように、さらし首にされてしまった現実にゾッとする。
   
「前に身体の色んな所を採寸したの覚えてる? 手の指の長さとか、顔の輪郭とか、股下の広さとか。あのとき夏希を採寸したデータをもとに一つ一つ精密に設計させて作らせたから、夏希の身体にピッタリなんだよ」

「へ、へぇ~……そうなんだ?」

 飛鳥は得意げに拘束台の製作事情を教えてくれる。たぶんそれは、知らない人が聞いたら腰を抜かしてしまうほど、ヤバい発言だ。
 だって、飛鳥のその話が本当なら、この拘束台は私を完全拘束するためだけに作られたってことになるのだから。

「でも、こんなのまだまだ序の口だよ? 前に夏希が求めてたみたいにもっともっと夏希から身体の自由を奪い取って、最後には部屋に飾られるだけの生オブジェにしてあげるから覚悟しててね」

「う、うん……楽しみにしてる……っ!」

 そうだった。
 この舞台は私のお願いごとをもとに、飛鳥が私のためだけに用意してくれたものなのだ。 
 そのことを理解すればするほど、鉄枷に冷やされた身体が、胸の高鳴りと一緒に火照っていく。
 
「ねぇ、飛鳥。私は次どうしたらいいの?」

 だから、少しでも早く完全拘束されたくて、私も協力しようとするのだけれど。

「夏希はそのままジッとしてるだけでいいよ。あとはわたしが全部装着してあげる」

 飛鳥は私に優しく微笑みかけながら、「心配ないよ」とセミロングの黒髪をなでなでと撫でてくる。どうやら、私にできることは何もないらしい。

「あ、でもその前に、下着はこのあと邪魔になるから脱がしちゃっていい? ブラはそのまま外すけど、ショーツは脱がせないから切っちゃうね」

「うん、いいよ」
 
 私が頷いてすぐにブラジャーが外され、支えを失った二つのおっぱいが、プルプル揺れる。
 そのあいだにショーツも剥ぎ取られ、お風呂場でツルツルになるように手入れを施された割れ目がリビングに晒された。
 
「じゃ、残りの鉄枷も装着しちゃうね」

 興奮気味の私に応えるように、太ももや、ウエスト。胸の上下に、上腕部などなど、私の身体の輪郭に合わせて設計された各所に残っている鉄枷を飛鳥が一つ残らず閉じていく。

 スルッ、スルルッ、カチッ。

 鉄枷が一つずつ嵌められていくことで、腰や背骨の僅かな可動域さえも、何一つ動かす余地が残らないように、拘束台に完全に固定されていくのがわかる。
 まるで、鋼鉄のコルセットによって、身体の形状を強○されていくような感じだ。

「……ッ」

 そんな異様な状況に私の胸は高鳴って、体温がじくじくと上昇していく。
 鉄枷による完全拘束を施されて、身体の自由が失われていっているというのに興奮してるなんて、やっぱり、私は生粋の被虐体質らしい。
 
「とりあえずこんな感じかな?」

 拘束台にあるすべての鉄枷を装着し終えた飛鳥が、完成させた芸術作品の出来栄えを鑑賞するように、あられもない私の姿を視線で舐めまわす。

「これで終わり……?」

 思っていたよりも早く終わってしまったから、首を傾げるように飛鳥に伺いを立てる。
 傾げると言っても、喉元には重厚な鉄枷が嵌り込んでいるから、頭は何一つ傾いてはいない。

「まだ仕上げが残ってるよ。コレ見えるかな? この細い鉄のピンなんだけど」
 
 飛鳥は私の目の前に細長い鉄の杭のようなピンを見せてきた。

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