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-freya- 2023/06/05 14:53

【自縛趣味の女の子と拘束されちゃうあたし】

 夜のバイトの帰り道。自動販売機で缶ジュースを購入したコヨミは、公園のベンチに腰掛ける。

 ——疲れた。

 お小遣い目的とはいえ、学校に通いながら居酒屋でバイトを始めたのは、さすがに応えたらしい。
 学生の本分は学業に専念することだ。と親によく言われるけれども、たしかにその通りかもしれない。学校が終わったあとにバイトなんてしていたら、勉強をするほどの体力が残らない。
 バイトはバイトで、学校とは違う疲労感に襲われる。気疲れ、とでもいうのだろうか。それが酷く身体に応える。
 でも、お小遣いは欲しい。
 高校生はなにかとお金が入りようなのだ。

「……はぁ」

 深いため息が出た。
 どうやら、疲れ以外にもコヨミに不安を生み出している理由があるらしい。
 店長も、バイトの先輩も、すごく丁寧に仕事を教えてくれるし、仕事については困っていない。
 学校の勉強だって、特に何かを不便だと思うほど苦労はしていないし、問題はない。
 他に考えられるのは一つだけ。
 バイト先のとある男性客だけはどうもニガテだった。二十代そこらのチンピラみたいな奴で。いつもグループで来店してくる金髪の男はコヨミを見るや否や話しかけてくる。
 どうしてコヨミだけが絡まれるのか理由は定かではないが、バイトの身としては愛想を振舞うしかなくて、気苦労しかしない。

「あたし、絡まれるほど愛嬌振りまいてないはずなんだけどなぁ……ねちっこく質問攻めにされちゃうし、あたしはあなたに興味ない、っての!」

 プシュっ、と缶ジュースの口を切り、愚痴をこぼしながら一口飲み込む。さわやかな果実の香りが何層にも重なり、複雑な甘味が口の中に広がる。缶ジュース一本だけで嫌なことを全部忘れられる。幸せだ。

「んはぁ〜〜〜っ!!」

 全身に溜まったストレスをベンチに置いていくようにつま先から頭の先まで、力を抜いてリラックスする。最近のバイト帰りは、いつもこのベンチに腰かけて、缶ジュースを飲んでいる気がする。
 春の空気を嗜みながらまったりくつろぐのは、とても気分が晴れる。別に嫌いじゃない。
 しかし、バイト終わりのお決まりになってしまっているのは否めない。
 お小遣い欲しさに働いて、そのストレス解消にお金を使っていたら、元も子もない。悪い習慣は早めにやめなくちゃだ。

「よし、さっさと帰って寝よう」

 昨日より早めに缶ジュースを飲み干して、ベンチから歩き出す。
 このときに足もとを見ていなかったのが悪かった。

 ――ガッ。

「――あ」

 大地がひっくり返る。油断していたし、バイトの疲れもあったせいだろう。バランスを崩して、ド派手に転んでしまう。

「痛たたたッ……っ、て……っえ?」

 何につまづいたのだろう。
 足元を確認しようと振り向いたとき、ベンチの後ろで、動く影が見えた。
 街灯の明かりだけでは、薄暗くてぱっと見じゃわからなかったけれども、その影は人のような形をしていて、コヨミが足を引っ掛けたスクールカバンと何かしらの関係がありそうだった。

「あなた……何、してるの?」

 受け身を取った手のひらが痺れるように痛むけれども、コヨミはすぐに立ち上がり、影に近づいた。

「……ひゃ”っ!?」

 ベンチの後ろに膝を抱えるように隠れていたのは女の子だ。
 ボブカットの黒髪の下で、黒い瞳を見開いて、背中越しに、コヨミを凝視している。
 白いブラウスと、ベージュのバルーンスカートを着込む彼女の背中には、異様な存在を放つ道具が装着されていた。
 首、二の腕、両手首。計五箇所の革枷を、一つに繋ぎとめる金具が蜘蛛の巣を張り巡らすように彼女の上半身を拘束している。
 ガチャガチャ、と音を鳴らすそれらを”とある分野”で説明するならば、”SMプレイの道具”としか想い当たらなかった。
 
「――むぅ”っ!」

「ちょ、ちょっとっ!? どこ行くの!?」

「んむぅ”っ!」

 コヨミから逃げ出すために、拘束された姿のまま彼女は突然走り出した。走り出したといっても、左右の足首には鎖で繋がれた革枷が装着されている。
 一定の間隔しか伸ばせず、足取りは生まれたばかりの小鹿のようにおぼつかない。
 コヨミが軽く走りこんでしまえば、彼女を捕まえるのは容易だった。

「――ングッ!?」

「あ、ごめん」

 そのとき掴んだのが彼女の首輪から伸びているリードだったのは偶然だ。
 意図して掴んだわけじゃない。すごい苦しそうな声が聞こえてきたけれども、大丈夫だろうか。もしかすると、結構強く首が締まったかもしれない。
 でも、突然逃げ出した彼女が悪い。逃げ出されると、捕まえたくなってしまうのが人間の性だ。

「んむ”ぅうう!!?」

 コヨミが彼女を捕まえたことで、彼女は言葉にならない声を出しながら、リードに抵抗していた。
 拘束された上半身に力を込めているらしく、連結された金具がガチャガチャ、と騒がしい音を鳴らし、必死な声を漏らしながら、身をひるがえして拘束から抜け出そうと躍起になっている。
 だが、彼女を拘束する枷は緩む気配がない。

「ちょ、ちょっと……っ、落ち着いて……っ!」

「ひゃえ”っ!! ふぁえへっ!!」

 彼女は口にボールを咥えていた。いや、正しくは口にボールが咥えこまされている。
 頬を横に割くベルトが口に咥えたボールを吐き出せないように固定しているのだ。
 こんなものを口に咥えさせられていたら、そりゃ、喋れるはずがない。
 両手も背中で拘束されているし、ここまで厳重に拘束されていて、見ず知らずの人間に捕まるというのは、末恐ろしいことではないだろうか。
 今頃になって、自分がどれほど酷な仕打ちを彼女に与えているのかコヨミは理解してしまう。

「ま、待って、何もしないっ! あたしは何もしないから、安心して! ね?」

「ふぇ……っ、ひはぅほ?」

 何か言ってるみたいだけれど、口が塞がれてて意味がわからない。ここで外してあげようと思ったけれど、遠くからこっちに人が向かっているのが見えた。さすがに、他の人にも見つかるのはマズイ。

「と、とりあえず……ここじゃなんだから、あっちに行こう……って、そっか。リードあたし持ってるからついてくるしかないか」

「んむ」

「じゃあ、こっち、ここだと人がきちゃうから急いで」

「ンンっ!?」

 リードを引くたびに変な声を漏らす彼女を連れて、ベンチに置いていた自分のスクールカバンと、彼女のものであろうスクールカバンを回収し、木々に囲まれた木陰に隠れた。

「……っ、ぅぅ……んっ、……ぅ……んぅ、ん……」

 隠れている間も彼女は身をよじりながら、艶めかしい声を漏らしていた。

 ——ガチャッ。

 ——ガチャッ、チャッ。

「…………」

 金具が擦れる音が気になる。
 厳重に拘束されてるから苦しいのはわかるけれども、少しくらい抑えてほしい。
 もし、第三者に見つかってしまったら、彼女をこのように辱めているのがコヨミということになってしまう。
 それだけは絶対避けたい。

「ふぅ、行ったね……」

「んぅ」

 人が通り過ぎたのを確認して、気を緩める。
 彼女の表情は、暗くてよく見えないが、コヨミと同じ想いらしい。
 事情はわからないけれども、拘束は外してあげたほうがいいだろう。
 そのためにも街灯の恩恵が受けられる場所へ彼女を連れて戻る。特に抵抗することなく、彼女はついてきてくれた。

「えっと……まずはその、口のやつ外していくね?」

 彼女の上半身の拘束に手を掛けるより先に、まずは、彼女の口を塞いでいる黒いボールを外すことにした。口がふさがれていると会話ができなくて不便に感じたのだ。

「んっ、んあ……っ」

「ちょ、変な声出さないでよ……」

 頭の後ろで留められているベルトのバックルを緩める。あとは口からボールを吐き出してもらえれば、簡単に外せそうだ。

「んぁ……ぷは……っ、はぁ、ん……ぅ、あッ」

 街灯の光に照らされて銀色の糸が滴る。
 口から外れた黒いボールには彼女の唾液がべっとりと付着していた。
 彼女の白いブラウスを見てみると正面のところどころが唾液で汚れていた。もしかしたら、ずっと涎を垂らしていたのかもしれない。
 この黒いボールは言葉を奪う以外にもそういう用途があるみたいだ。
 コヨミもこの黒いボールを口に咥えてしまったら彼女と同じように口から涎を垂らしてしまうような、だらしない状態になってしまうのだろうか。
 だとしたら――。

「あ、あの……なんで、助けてくれたんですか?」

「――え?」

 ずっしりとした重みを感じる黒いボールに集中していて彼女のことをすっかり忘れていた。

「わたし、こんな拘束されてて、すごく変な恰好してるのに……どうして助けてくれたんですか?」

「別に、理由なんてないよ。たまたま見かけたから、なんとかしてあげようって思っただけ。それよりも、あなたはどうして拘束されてるの? 警察とか呼んだほうがいい?」

「け、警察はダメですっ! 実は……その、”自縛”をするのが好き、なんです!」

「……じ、じばく?」

「自分で自分を拘束しちゃうんです……えっと、セルフボンデージっていえばわかりますか?」

「ごめん……ぜんぜん、わからない」

「で、ですよね……」

「上半身のそれ、外してあげたほうがいい?」

「あ、お願いします……! 今日はもう、満足したので」

 そう言って、彼女はコヨミに背中を向けてくる。そこには先ほど見た蜘蛛の巣のようにつなぎ合わされた金具による拘束が施されていた。
 首、二の腕、手首。計五箇所、それぞれに嵌められた革製の枷と繋がる金具が鉄の輪を中心に彼女の上半身の自由を奪っている。
 この拘束を、彼女は自分で施したらしい。ありえない。こんなの、どうやって外すつもりだったんだろう。

「……外していくね」

 しかし、外すのは意外と簡単だった。
 ナスカンだ。
 キーホルダーに使用されるかぎ爪のようなホックが両側に付属された金具と、革枷に付属したD型のリングを、背中の丸いリングに繋いでいるだけだ。
 これなら引っ掛けるだけだし、自分で拘束することも、自分で外すことも、容易だ。でも、彼女はコヨミから逃げるとき、そうしなかった。
 どうしてだろう。

「コヨミさん、ありがとうございます」
 
「いいよ。これくらいならなんでもないし」

 すべてのナスカンを外し終えれば、彼女の首、二の腕、手首、に嵌る革枷は拘束力を失い。ただのアクセサリーに様変わりだ。
 足首の革枷に繋がっている鎖は彼女――シホリ――の手で簡単に外せてしまった。
 ちなみにナスカンを外している最中にシホリと自己紹介をした。どうやら、コヨミとシホリは同じ学年らしい。少しだけ、親近感が湧いてくる。

「カバン頂いてもいいですか?」

「あぁ、うん。こっちがシホリのだよ」

 カバンを受け取り、お礼を述べるとシホリは手足に嵌めてある枷を外し始めた。片手で外すのはすごくやりにくそうだ。

 なにはともあれ。事件性のあるものじゃなくてよかった。誘拐とか、監禁とか、そういう類の話しになってくるとコヨミもどうしていいかわからなかったけれども、シホリが望んで自分を拘束したのなら、話は別だ。
 誰かが困るわけでもないし、シホリの拘束は外し終えたし、何もかも解決――。

「――――」

 いや、待て。何も解決してない。

 そもそもシホリは、なぜ自分のことを自分で拘束していたのだろう。
 もしも、ここに居るのがコヨミではない悪い大人だったとしたら、シホリはどうなっていただろうか。
 抵抗する術を持たないシホリを誘拐することは簡単だ。誰かもわからない赤の他人に主導権を全部握られて、何も抵抗できずに、無理やり連れ回されるなんて、コヨミなら絶対に嫌だ。
 そんなリスクと表裏一体の行為を人目がある公園で行うなんてどうかしてる。

「こんな危ないこと。もうやめなよ?」

 シホリの事情も知らずに、コヨミは軽い気持ちで伝えた。自分に見えている範囲で事故や事件が起きるのが好ましくないと考えた結果に出た言葉だった。

「やめないですよ? 今回はコヨミさんのおかげでスリルがあってすごく興奮しましたし、また日を改めてやってみようと思います」

「いや、スリルとか、そういうんじゃなくて……」

「コヨミさんもやってみたらわかりますよ、すごく気持ちいいですから」

「”こんなこと”して”気持ちよくなるなんて、絶対おかしい”から……っ、もうやめなっていってるの、危ないし、本当に事件に巻き込まれたりしたら苦しい想いするのはシホリだよ?」

 心の底からシホリを心配して、シホリを諭すために言ったつもりだった。でも、思っていたよりも強い言葉が出てしまった。他意はなかったけれども、言い方は悪かったかもしれない。

「コヨミさんは……気持ちよくならないんですか?」

「な、なるわけないでしょ? 拘束されて気持ちよくなるなんて絶対おかしいって」

 しかし、シホリから返ってきた言葉は別のところに注意が向けられていた。コヨミからしてみれば、伝えたいのはそこではないのだが、シホリの中では自縛というプレイについての話しに切り替わってしまっている。
 とりあえず、話しの方向性を別に向けないと説得の意味がない。

「じゃあ、証明してください」

「え、いや……なんで、そうなるの? あたしは、ただ……っ」

「コヨミさんが拘束されて気持ちよくならないこと、証明してくれたら、”こんなこと”やめます」

 やられた。
 場の空気とか、雰囲気とか、読むのは苦手なほうだったけれども、そういうの全部シホリに持っていかれた。
 コヨミがここで「証明するのは嫌だ」といえば、「シホリが言っていること全てが正しい」と納得したのと同じになってしまう。
 そうなってしまったら、コヨミも、シホリと同じ「拘束されると気持ちいい」という価値観を共有したことになってしまう。
 いくら何でも、それは受け入れられない。

「……あたしが証明したら……っ、本当にやめるの?」

「はい、証明してくれたらやめます。今後一切、“こんなこと”はしません」

 シホリの眼差しは真剣だった。どう見ても本気だ。対してコヨミの心臓はドクドクと脈打ち、緊張しているじゃないか。
 これではまるで、コヨミのほうが変なことを言っているみたいだ。
 でも、コヨミは”拘束されて気持ちよくなる変態”じゃない。たとえ、コヨミが拘束されたとしても、シホリが考えているようにはならない。

「……わかった。なら、あたしが“証明”してあげる……っ!」

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-freya- 2023/06/05 14:52

あたしを奴○にしてください(過去作)

 コンビニから帰宅したシュリはお気に入りのアップルジュースが入った買い物袋をリビングのテーブルに置いた。冷房の効いたマンションの中は涼しくて心地がいい。このまま寝室のベッドに寝転がってお昼寝をしてしまおうか。そう、思案するが、いつも愛用しているセミダブルベッドの上には先客がいた。

「ん、んふッ」

 白いワンピース姿の彼女はシュリよりも二つ年下で現在は高校三年生だ。夏休みだというのに他人様の部屋でベッドを独り占めしているなんて何というご身分だろう。尊敬を通り越して、ため息が漏れてしまう。

 彼女のあられもない姿をよく見てみる。成人しきっていない細くて白い腕はあろうことか背中で交差したまま無造作に巻き付けられた紅い麻縄でキツく縛られていた。その縄は彼女の二の腕さえもしっかりと巻き込み、胸の上下に至る上半身をことごとく縛りあげてしまっている。

 これではまともに日常生活をおくることは難しいだろうし、自力で縄を解くことも簡単にはできないだろう。なによりも両手の自由を奪われているということは人間として行動できるうちの大半を奪われているに等しい。
 どこからどう見ても犯罪の匂いしかしない光景にさらにため息を漏らしながら、シュリは彼女の隣に座り、縄で強調されている胸を突っついてみた。

「あっ、ん」

 甘ったるい猫のような声が彼女の口を塞ぐ猿轡の隙間からあふれ出る。あまりにも変な声が耳に響いてきたことにシュリは動揺して彼女の表情を窺ってみる。
 けれど、彼女の口を塞ぐ猿轡と同様に視界も黒い布によって塞がれており、彼女の表情を読み取ることはできそうにない。縄を解くべきか。このまま放置を続けるべきか。少し心配になる。

「んぁ、っん」

 そんなシュリの隣で股縄を施された腰をモジモジとくねらせながら再び甘い声を小さく漏らす彼女。やはり、一人でも楽しんでいるらしい。予想外の反応に少し困る。ここは触らぬ神に祟りなしだ。

 ――ギシッ。

 シュリがベッドから離れようとすると縄が大きく鳴いた。背中で交差した両手に力を込めて、握りこぶしを作りながら、彼女が縄に抵抗したみたいだった。いまだに縄抜けを考えているのだろうか。

「んむ、っ、んんッ」

 縄が緩んでいないことを確認してからシュリは愛しのベッドからしぶしぶ離れ、リビングのテーブルに置いていたアップルジュースをグラスに注いで一口だけ口に含んだ。さっぱりした酸味が甘味と一緒に口の中に広がる。実にジューシーな味わいに満足し、暫くはスマホのアプリを起動して過ごすことにする。

 彼女と交わした約束の時間まであと二時間ある。スマホ越しに彼女の様子を時々見てみるが、彼女は物足りなさそうに縛られた身体をよじらせてベッドの上で縄の味を堪能している。冷房の音よりも彼女が動くたびにギシギシと響いてくる縄の音が騒がしく耳に入り込んでくるあたり、お気に召しているようだ。

 他人に縛ってもらったことがないと彼女は話していた。きっと自分で自分を縛るときよりも遙かに気持ちがいいのかもしれない。

「……はぁ」

 三度目のため息が出た。どうしてこんなことになってしまったのか。冷静になればなるほど自分が犯した罪を懺悔したい気持ちになってくる。腑に落ちないこの気持ちが早く消えてなくなればいいと考えながら、約束の時間を心待ちにしていた。

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-freya- 2023/06/05 14:52

闇に触れた刹那に(過去作)

 高校を卒業し、フリーターという職業の社会人になってから、才川真波は行き場のない毎日を送り続けていた。
 アルバイトという拘束時間の中で浅く培った知識と技術の経験を活かし、毎日の生計を立てる何気ない日々を過ごす。その途中で契約期間を終えたアルバイトを手放し、次のアルバイトへ手を付けた際には、答案用紙の空白に答えを当てはめていく問答を繰り返し、一つずつ知識と技術の穴埋めをしていく。

 大きい企業に就職することも考えた。だが、書類審査。一次面接。二次面接を繰り返しても、才川真波を雇い入れる企業はどこにもなかった。親に迷惑をかけたくない為に、アルバイトを掛け持ちで続けているうちにフリーターでも生活できることを知ってしまった結果が今の才川真波の生活基準になっている。

 何のために生きて、何のために働いているのか。
 学生の頃はたしかにやりたいことがあった。
 なのに、それが一体なんだったのか。今は思い出せないでいる。

 仕事の内容はすぐに把握し、理解しづらい部分の答えはすぐに見つけられるのに。
 自分の将来についての答えは未だに見つけられないでいる。
 
 これから先、どこへ向かうべきなのか。
 どこへ向かっていきたいのか。自分が本当に求めていることはなんなのか。
 考えれば考えるほどわからなくなっていくから、何も考えずに答えの埋まらない空白の日々を繰り返す。

 学生のころの友人はみんな彼氏ができていた。結婚したという噂もSNSで流れてくる。
 いつも遊びに出かけるほど仲の良かった友人も、大学関係の付き合いが深くなり、最近はほとんど顔も合わせなくなってしまった。

 年齢を重ねるにつれ、孤独になっていくこの社会で視野が狭まっていく恐怖から逃げることはいけないことなのだろうか。
 自分と向き合うこともせず、日々の暮らしだけに注意を向けてアルバイトで命を繋ぐだけの生活に慣れてしまっている自分にはとても悪いことだとは思えない。その問答に別の答えを投げかけてくれる友人は才川真波の傍にはいない。

 現在も。未来の在り方も。何もかも考えなければ楽になれる。それが今の才川真波にとっての最良の選択であることは知っているし、わかっているつもりでもある。だけれど、今の自分ではない過去の自分が今の自分を見た時に、現実がとてつもない重みになって、どこからともなく現れた抱えきれないほどの重圧を才川真波に押し付けてくるのだ。

 それが嫌で苦しくて、何も見たくなくて、現実から逃げ出したくなる瞬間が時折やってくる。

 そういうときは決まって、仕事を休んでしまう。

「……はぁ」

 日差しが入らないように締め切ったカーテンの一室は夏の湿気でじめじめしていた。エアコンのスイッチを入れているはずのに、外の気温が高いせいで室内の温度が下がり切っていないみたいだった。寝起きでお風呂にも入っていないから身体からは汗のにおいが漂っているし、結っていないセミロングの黒髪は寝ぐせも相まってボサボサだ。
 いつもなら寝起きのシャワーを浴びるけれど、今日はそんな気分ではない。サイズが合わなくなってきたブラジャーに窮屈さを感じながらリビングのソファに腰かけ、ヘッドフォンを身に着ける。それからテレビの電源を入れた。
 地上デジタルなどという放送枠には興味などない。画面表示されるのはHDMと繋がる入力チャンネルだ。
 
 そこで見れるものはただ一つの動画だけ。俗にいうAV――アダルトビデオ――だ。

『あっ、あ、んッ、んぁッ、ああッ!』

適当なジャンルから選んだAVから、これでもかというくらい騒がしく女優の喘ぎ声がヘッドフォンの中で響く。その音を。動画のシーンを見ながら、下着の中に手を忍び込ませて、自分の身体を好きなようにいじくり回す。

「……ん」

 自分でもおかしいことをしているのはわかっている。AVを見ながらオナニーをする女性を才川真波は見たことがないし、聞いたこともない。ましてや、女性のオナニーというものは男性よりも全体数が少ないらしい。それでも、このような嗜好に興じているのは才川真波が世間とは違う感性を宿しているせいかもしれない。

 妄想するのだ。もしも自分が、AVの中の世界にいたとしたらどんな反応をしているのだろうか。声を出して喘ぐのか。声を我慢して堪えるのか。それとも、高らかに声を響かせてもっともっとと叫ぶのか。
 実際に男ありきで性体験をしたことがないから、現実はこうはいかないかもしれない。けれど、どうせ相手はいないし、自分一人で妄想にふけるだけなのだから、自分の好きなように想像を巡らせて現実ではありえないような夢の中へと自分の意識を入り込ませたいと強く思ってしまう。

「やっぱり、普通にセックスしてるだけだと、あんまり感じない……かも」

 だが、このAVでは満足できないらしい。身体がいまいち熱を発してくれない。そう思って他のAVに切り替える。

「拘束……って、どうせゆるゆるのやつでしょ?」

 今日は何を思ったのか、拘束というジャンルにあるAVを試しに再生していた。このジャンルにはかなりの偏見を持っている。そのため今まで再生したことはなかった。SM物と違って、このジャンルのものはAV女優の子を単純に縄や拘束具で縛ったり、手足の自由を奪ったりするだけのものであり、性的な描写は一切ないのだ。それのどこに興奮するのかいまいち理解できないでいた。こんな動画で興奮できる男の人ってどうかしてると思う。

「……うぁ、やば」

 しかし、目の前で再生される動画を見て、心臓が誰かに握られているような動悸が走ってきた。それは今までにないほどに才川真波の胸を鷲掴みにしてくる。
 ビデオのストーリーとしては治療のために病院へ入院することになった女性患者へ医療用の拘束衣を着用させるというものだ。実際は女性患者にその治療は必要ないのだが、医師からの一方的な診断で身体への拘束を余儀なくされ、強○的に入院させられるという理不尽な内容だった。

 医師の診断に納得せずに反抗的な態度をとる女性患者だったが、スタンガンのように電圧が流れる警棒で脅され、強○的に裸に剥かれてしまう。そこへ看護師の手によって拘束衣を着用させられていく。
 袖が長いジャケット状のキャンバス生地――太い糸で織られた厚手の平織り布――の拘束衣が頭の先から女性患者の身体を包み込む。背中に付属された革製の帯を、同じく拘束衣に付属されているバックルへ繋ぎ止める。そうすることで、ただでさえ女性患者の身体にフィットしている拘束衣が、ますます肌に密着していくようだった。
 
 拘束衣の着付けが終えると、胸の前に腕を組むように交差させた女性患者の両腕の先――ジャケット状の袖の先――から伸びる革製の帯を背中へ回し、バックルへ繋ぎ止めていく。すると、女性患者の両腕は胸の下で腹部に密着し、胸を抱き上げるようにコの字に固定されてしまった。

『こんなことして、許されるとおもってるの?』

 拘束衣を着用されても、強気な姿勢を崩さない女性患者を電圧が流れる警棒で脅しながら、看護師は強○的にベッドへ仰向けに寝かせる。次はベッドにあらかじめ用意してあった拘束帯へ女性患者を拘束していくようだ。両足は肩幅に開いたまま、革の帯で固定され、腰も、首さえも同じように革の帯でベッドに固定してしまう。それでもまだ足りず、胸を絞り出すように脇に密着している二の腕の部位にも拘束帯を巻き付けてベッドに固定してしまった。

「これ……まじ?」

 どこからどうみても、女性患者は手も足も出ない状況になってしまっている。
 こんな状態にされてしまったら、誰かに拘束を外してもらわない限り、二度とその場から動けない。だというのに、女性患者は未だに反抗的な態度で看護師たちを罵り続けていた。

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-freya- 2023/06/05 14:52

黒い誘いにばんめ(過去作)

 白いベッドの上で寝がえりを打とうとする桜の手足は動かせなかった。背中を支えるマットレスの柔軟性が桜の全身を磔にしている。それが本当なのか信じられなくて、もう一度手足を動かしてみた。だが、確かめるために動かした手足からギシッと革の擦れる音が鳴り、手首、足首に枷が深く食い込んだ。

「ふぇ……?」

 初めて経験する手足の感触に気の抜けた声が喉から室内へ響き渡る。天井から射す橙色の照明はベッドの上で四肢を広げながら無様に拘束されている桜を包み込むように照らし、もう一人の影をも映し出す。

「起きちゃったんだ? でも、手遅れだよ。桜ちゃん」

 声を掛けられたほうへ顔を向けると首に嵌まり込む慣れ親しんだ黒い首輪が桜の喉を締めつける。その視界に映ったのは黒いラバースーツに革の拘束具を深く食い込ませた金髪の少女。

「……遊月、さん?」

 SMプレイの中でも奴○に身を堕とす者が身に着ける隷属衣装を思わせるその佇まいは少女本来の曲線や細い四肢を強調しており、とても扇情的で桜の嗜虐心さえもくすぐってきた。もし、桜が革の枷でベッドに四肢を拘束されていなければ、遊月を自分の好きなように弄ぼうと戦略をたてていたに違いない。

「今日はね、桜ちゃんも私も楽しめるように“すごいこと”しちゃうの。だから、一生懸命抗ってね?」

 容姿に惑わされ、思考が若干停止していた桜に投げかけられた遊月の言葉からおぞましい何かを感じ取り、桜は自分の身体へ視点を移す。

「あ、いや、遊月さん……嘘、だよね……?」

 そこには遊月と同じ革の拘束具が深く食い込み、ゴムの匂いを周囲に散らすラバースーツが全身を真っ黒く染め上げていた。いつのまに桜の身に拘束具を装着していたのか。いくら記憶に問いかけようと桜に思いあたるふしはない。朝ごはんを食べてからの記憶があいまいだった。

「しっかり咥えこむんだよ?」

「ま、待ってッ、だめだよこんな――ッあ、カハッ……んぁ!?」

 心の準備が終わっていない桜へ遊月は容赦なく開口具をあてがう。これから遊月が成し遂げんとする行いを理解した桜は手足をバタつかせて声を荒げた。だが、慌てふためく桜の口の中へ遊月は迷わず開口具を咥えさせる。

「あぅっ! えぁッ、あが! はへあおっ!」

 遊月が後頭部でバックルを留めると桜の口の中に入り込んだ銀色の開口具がミシミシと音を鳴らして大きく開いた顎を抑え込み、自分の意思で口を閉じられないよう固定する。抵抗する間もなく桜の口は獣以下の声しか出せない無意味な音を発する紅い空洞になり果ててしまった。

「一緒に楽しもうね」

「――っ」

 目を見開き抗議する桜の上に遊月は跨り、紅い舌をだらしなく外にだすと銀色の開口具を口に咥えこんだ。それは桜の口に咥えさせた開口具と瓜二つで、二人を鏡写しにするよう仕組んだ遊月考案の特別な拘束具。

「えへへ」

 ニコリと笑う蒼い二つの瞳の下で、紅い空洞が微笑みをこぼす。

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-freya- 2023/06/05 14:51

特殊スーツのテスター(過去作)

 手に触れる黒い膜の触感はラップのように薄くて軽かった。全身をコーティングする液状の潤滑剤のおかげで肌にへばりつく様子もなく、黒い膜は底なし沼の水面のようにズルズルとイズミの細く白い足を呑み込んでいく。危機感が漂う見かけとは裏腹に指先を一本ずつ包み込むほど繊細な作りに息をのむ。

「……っ」

 泥に包まれたような潤いがイズミの両足を覆った。自分で身に着けたとはいえ、初めての感覚に戸惑いを隠せない。できるだけ深く考えることはせず、さきほどナガレに説明された通りに次の動作へ駒を進めるべくイズミは手を動かす。
 下半身を包みこみあげる黒い膜を胸の前まで掲げて、体幹を包む込む冷たさに身を震わせながら黒い膜の淵にある双方の穴を掬いあげるように両腕を通してみた。 

「うわぁ……変な感じ……っ」

 泥の中に両腕を潜り込ませるようなゾワリと撫でてくるひんやりとした歪な触感が両腕を掠め、耐えがたい感触に背筋に緊張が走ってくる。その余韻に浸り、身動きできずに止まっていたイズミの背後で、白衣に身を包む黒い人影がイズミに残された白色の皮膚を黒い膜に封じこめてしまう。

――ギチッ。

「あっ、キツッ……」

 首から下の全身が黒い膜に閉じ込められ、突然の収縮に全身が引っ張られたみたいに肌が締めつけられる。そこへ黒い膜の触感が潤滑液のベールによってイズミの肌に密着し、沼の中に浸かっているような刺激に襲われる。そのころにはイズミの背中にあるはずの黒い膜の繋ぎ目は消えていた。スーツの特殊な機能の一つのようだ。脱ぐときはどうずるのだろう。。

「どうですか? 着心地はいかがでしょう?」

 白衣の女性ことナガレは全身を包み込む刺激に身を強張らせているイズミの肩に両手を添えながらスーツに問題が生じていないか確かめつつ問いかける。

「えーっ、と……なんていうか、そのぉ……すごく、恥ずかしいです」

 イズミとナガレしか居ないこの白い部屋の一面には鏡が貼りつけられていた。今は正面に鏡が対峙しており、イズミの身体が白いキャンパスの中で真っ黒く点在している光景があまりにも現実離れして見えていた。
 だからだろう。紅く染まっていくほっぺたが嫌で、両手で隠そうとする。だが、動かした両腕がミチミチと音を鳴らし、全身の黒い膜が伸びて張りを作ると背筋でヌルリと潤滑液が這いまわる。

「ひッ」

 幽霊に背筋をなぞられたかのような感触に思わず顎がこわばったが、横にいるナガレの含み笑いを見て自分がもっと恥ずかしい様を晒していることにイズミは気づく。さらにほっぺたが紅くなり、黒い膜越しに両腕を抱え込んで身を縮めてしまう。本当に恥ずかしいのだ。

「痛む場所があれば教えてください」

 黒一色に首から下を包み上げる黒い膜にイズミは視線を落とす。黒い膜で覆われた身体は上腕や太ももに胸や腰など、細かな部位ごとのラインを黒のコントラストで妙に強調されていたが局所的な痛みはなかった。着用時に自動でサイズ調節されるとのことだったが本当らしい。

「大丈夫、です……それよりもコレ……」

 成長期を終えた二つの乳房が動くたびにぷるぷると震える。こんなところを男の人に見せてしまったらお嫁には行けなくなる。よくよく考えてみれば肌に密着するスーツということはスーツ越しにイズミの身体をそのまま表に現わしているわけである。素肌で見るよりも一層卑猥にみえるその姿にイズミは不気味ささえ感じる。こんなスーツを一体何のために使うのか。イズミには想像がつかない。

「私も着ています、お揃いですよ?」

「わかってますけど……」

 白衣の下に着こむ黒いスーツをイズミに見せるナガレの冗談めいた動きにイズミは内心ため息を吐く。どうしてこんな場所にきてしまったのか。今すぐにでも帰りたい気持ちでイズミの頭の中はいっぱいだった。数日前、友人の誘いに軽くうなずいてしまった少し前の自分に戻りたくて仕方がない。

「スーツも無事に着れましたし、行きましょうか」

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