あたしを奴○にしてください(過去作)
コンビニから帰宅したシュリはお気に入りのアップルジュースが入った買い物袋をリビングのテーブルに置いた。冷房の効いたマンションの中は涼しくて心地がいい。このまま寝室のベッドに寝転がってお昼寝をしてしまおうか。そう、思案するが、いつも愛用しているセミダブルベッドの上には先客がいた。
「ん、んふッ」
白いワンピース姿の彼女はシュリよりも二つ年下で現在は高校三年生だ。夏休みだというのに他人様の部屋でベッドを独り占めしているなんて何というご身分だろう。尊敬を通り越して、ため息が漏れてしまう。
彼女のあられもない姿をよく見てみる。成人しきっていない細くて白い腕はあろうことか背中で交差したまま無造作に巻き付けられた紅い麻縄でキツく縛られていた。その縄は彼女の二の腕さえもしっかりと巻き込み、胸の上下に至る上半身をことごとく縛りあげてしまっている。
これではまともに日常生活をおくることは難しいだろうし、自力で縄を解くことも簡単にはできないだろう。なによりも両手の自由を奪われているということは人間として行動できるうちの大半を奪われているに等しい。
どこからどう見ても犯罪の匂いしかしない光景にさらにため息を漏らしながら、シュリは彼女の隣に座り、縄で強調されている胸を突っついてみた。
「あっ、ん」
甘ったるい猫のような声が彼女の口を塞ぐ猿轡の隙間からあふれ出る。あまりにも変な声が耳に響いてきたことにシュリは動揺して彼女の表情を窺ってみる。
けれど、彼女の口を塞ぐ猿轡と同様に視界も黒い布によって塞がれており、彼女の表情を読み取ることはできそうにない。縄を解くべきか。このまま放置を続けるべきか。少し心配になる。
「んぁ、っん」
そんなシュリの隣で股縄を施された腰をモジモジとくねらせながら再び甘い声を小さく漏らす彼女。やはり、一人でも楽しんでいるらしい。予想外の反応に少し困る。ここは触らぬ神に祟りなしだ。
――ギシッ。
シュリがベッドから離れようとすると縄が大きく鳴いた。背中で交差した両手に力を込めて、握りこぶしを作りながら、彼女が縄に抵抗したみたいだった。いまだに縄抜けを考えているのだろうか。
「んむ、っ、んんッ」
縄が緩んでいないことを確認してからシュリは愛しのベッドからしぶしぶ離れ、リビングのテーブルに置いていたアップルジュースをグラスに注いで一口だけ口に含んだ。さっぱりした酸味が甘味と一緒に口の中に広がる。実にジューシーな味わいに満足し、暫くはスマホのアプリを起動して過ごすことにする。
彼女と交わした約束の時間まであと二時間ある。スマホ越しに彼女の様子を時々見てみるが、彼女は物足りなさそうに縛られた身体をよじらせてベッドの上で縄の味を堪能している。冷房の音よりも彼女が動くたびにギシギシと響いてくる縄の音が騒がしく耳に入り込んでくるあたり、お気に召しているようだ。
他人に縛ってもらったことがないと彼女は話していた。きっと自分で自分を縛るときよりも遙かに気持ちがいいのかもしれない。
「……はぁ」
三度目のため息が出た。どうしてこんなことになってしまったのか。冷静になればなるほど自分が犯した罪を懺悔したい気持ちになってくる。腑に落ちないこの気持ちが早く消えてなくなればいいと考えながら、約束の時間を心待ちにしていた。