TNG 2024/01/16 01:33

キャラクターの日常08

【ある駄菓子屋の風景】


暖かな昼下がり。
駄菓子を並べた静かな店先から明るい声が響く。

「おばあちゃ~ん、こんにちは~。
 菊ちゃん、帰ってきた?」

ウツラウツラと船を漕いでいたワシは、
ゆっくりと顔を上げて声の主に目をやる。

「ハル坊か、よう来たなぁ」
「うん、こんにちは」

ハル坊は昔からよくウチに駄菓子を買いに来る
近所の子供の一人だ。
ちょっと前までは幾人かと一緒だったけれど、
今は一人でしか来ない。
いや、あの中ではこの子しか来なくなっていた。

「おばあちゃん、これ頂戴」

そう言って冷蔵庫からラムネ瓶を取り出すと、
お代を置いて帽子を取り、長椅子に腰を掛ける。
慣れた手つきでラムネ瓶のビー玉を落とし、
口を付けて瓶を大きく傾けた。

「んぐっ、んぐぅ!?げほっ、げほっ!!」

一度にラムネを口に注ぎ過ぎて咽ている。
そうだった。そうだった。
この子はいつも、ラムネを飲むのが下手だった。

「大丈夫かい?」
「ごほっ……うん、大丈夫!!」

涙目になりながらも元気に返事をするハル坊。
その笑顔を見ていると、こっちまで元気が出て
くる気がする。

「ハル坊も大きくなったねぇ」
「そう?そうかな?……へへへ。
 あっ、でも、学校のクラスでは一番
 ちっちゃいんだよ?」
「そうなのかい?今の子は大きいからねぇ」

取り留めのない話をしばらく続けていたけれど、
ハル坊は、ふと思い出したようにワシに問い
かける。

「そういえば、菊ちゃんは帰ってきた?」

菊千代……去年から居座っている雄猫は、
ふらっと出かけてはしばらく帰らない事が
度々ある。

「帰ってないねぇ。あのバカタレ、どこを
 ほっつき歩いているんだかねぇ……」

雄猫は縄張りが大事だと聞くから、きっと
遠くまで見回りにでも行っているのだろう。
それに元々、自由気ままな野良猫だ。
帰らなかったら帰らなかったで、あの子の
好きにすれば良い。

「そっか~、心配だねぇ」
「そんな心配はしとらんがよぉ。
 まぁ、また見かけたら帰ってくるように
 伝えておくれ」
「うん、分かったよ!!」

そう言ってハル坊は残ったラムネを飲み干すと、
帽子を被って立ち上がる。

「ご馳走様でした」

ラムネ瓶を置き場に挿し、こちらにお辞儀する。
そうだった。そうだった。
この子は昔から礼儀正しい。

「おや、もう行くのかい?」
「うん。ちょっと、お散歩でもしてくるよ」

少し残念な気持ちになったが、引き止めるのも
何だから、それは口には出さない。

「そうかい。そこの飴玉、一つ持っていきな」
「いいの!?おばあちゃん、ありがとう!!」

ハル坊は嬉しそうに言い、めっきり売れなく
なった飴玉を一つ手に取った。

「じゃあ、行ってくるよ」
「ああ、気を付けてなぁ」
「うん!!」

小さく手を振ってから去っていくハル坊。

(あの子はいつまでウチに来てくれるかねぇ?
 先にワシの方がポックリ逝っちまうかもなぁ)

そんな事を考えていると、また眠気が
やってきて、ワシはゆっくりと目蓋を閉じ、
そして、ふと思う。

(今の子は男の子だったかねぇ。
 そうだった。そうだった。
 ハル坊は女の子だったねぇ)

今しがた店に来た子の顔が、早くも思い出せなく
なっていたけれど、それは、きっと些細な事に
違いなかった。


キャラクターの日常の8作目です。
今回は駄菓子屋という事で、色々なお菓子や
玩具をそれっぽく並べてみました。

今は個人で営業している駄菓子屋なんて
見ないけれど、自分が子供の頃は、知っている
だけでも4軒あって、それぞれに特徴が
ありました。
ここは玩具が豊富にあるとか、くじ引きが
あるとか。
それらを自転車に乗って巡るのが大好き
でした。

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