TNG 2023/09/03 23:55

キャラクターの日常02

【ある朝礼前の風景】


騒がしい教室の中、私は読んでいた小説に
紙の栞を挟んでから閉じる。
今朝は何だか気持ちが沈んでいて、
少し落ち着かない。
隣の席をチラリと見る。

彼女の席にリュック鞄は無い。
まだ、彼女は登校して来ない。

教室の前方上方へと視線を移す。
そこにある大きな時計は午前8時29分を
指していた。
まだ教師は来ていないものの、後一分で
チャイムが鳴って朝礼が始まる時間だ。

昨日の彼女を思い出す。
「猫の菊ちゃんが、また居なくなったんだって。
 駄菓子屋のお婆ちゃんにお願いされたから、
 今日も探しに行ってくるね~」
そう言って、終礼が終わると同時に勢い良く
教室を飛び出し、廊下を歩いていた教師と
ぶつかって、ウチの担任と挟まれた状態で
怒られていた。

いつも通りだし、特に体調も悪くはなさそう
だった。
という事は……。

そこまで考えた辺りで、遠くからバタバタと
廊下を走る音が近付いてくるのが聞こえる。

「はぁっ、はぁっ……。
 ま、間に合った~~~」

教室の前の扉から飛び込んで来た彼女が、
教壇の手前で立ち止まり、呼吸を整えている。

「おはよ~、ハル~って、
 アンタ、何て格好してるの!?」

クラスの女子の一人が彼女に向かって
ビックリしたような声を上げた。

私は改めて彼女を観察する。

髪はボサボサ。
リュック鞄を背負って走ったせいか、
セーラー服の襟が少し開いた状態でショルダー
ストラップに押さえられ、首元から肩辺りまで、
いつもより肌が多めに露出している。
キャミソールの肩紐が少し見えているのが
なんだか生々しい。
そして何より、スカートの後ろが、腰の辺りまで
完全に捲れ上がっていた。
幸い短パンを履いていて、下着は見えていない。
恐らく、靴を履こうと座った時、リュック鞄と
腰の間にスカートが挟まったのだろう。
家から徒歩で登校している彼女は、
それに気付かず、この状態で街中を走って
来たわけだ。

(まったく、もう……)
私は静かに溜息を付く。

「あはは。朝寝坊しちゃってさ。
 髪、ボサボサだよね」
彼女は笑いながら両手で髪を撫でる。
「違うって、後ろ後ろ!!」
「え?後ろ?
 ……何もないよ?」
後ろを振り返り答える彼女に、声をかけた
女子が自分のお尻を指しながら続ける。
「もぅ!!スカートの後ろ!!
 捲れてるって!!」
「スカートの……後ろ?
 ……わわっ!!」
ようやく気付いた彼女が、慌ててスカートを
引っ張って裾を下ろした。
「アンタ。
 ホント気を付けなよ~?」
「うん。いつも、ありがとね。
 あ、でも、ホラッ!!
 短パン履いてるからセーフだよ!!」
ため息混じりに言われ、感謝の言葉を述べるも、
今度は自らスカートの前を盛大に捲り上げる。
「もぅ、馬鹿ハル!!
 見せなくて良いから、早く仕舞って!!」
「あ……、あはは。そうだよね!!」
言われて、慌ててスカートを整える。

あの女子は、いつも苦労している。
本当、お疲れ様。

「あのねぇ、ハルちゃん。
 潔くて漢らしいのはハルちゃんの
 良い所だけれどねぇ。女の子はさぁ。
 そんな事しちゃ、ダメなんだよ~?」
「うん、ありがとう。
 ごめんなさい。気をつけるよ……」

別の女子に、少しノンビリとした口調で
窘められ、項垂れる彼女。
しかし、すかさず男子が囃し立てる。

「あれ?ハルって女の子だっけか?
 いつ変わったんだ?」
「ボクは生まれた時から、
 ずっと女の子だよ!!
 一応ね!!」

今度は怒ったように反論する彼女だが、
一応と付け足す辺り、少し自信がないの
かもしれない。

(貴方は可愛い女の子だよ。ずっとね)

私は心の中で伝えておく。
囃し立てた男子が、ふと私の方を見て
視線が合う。そしてすぐに『ヤベッ』
という顔をして前を向いた。
……あの男子は後でシメておこう。

「お前ら~、もう良いか~?
 そろそろ朝礼始めたいんだが~?」
いつの間にか教壇に立っていた担任教師が、
少し疲れたように言う。

「ほら、穂樽も、さっさと席に着け。
 後、廊下は走るな。たまには歩いてくれ」
「はい、すみませんでした」
担任教師に深々と頭を下げた後、彼女は
こちらに向かって歩いてくる。

「おはよ~」
「おはよう、波流香ちゃん」

隣の席に座りながら、小声で挨拶する
彼女に、私も小声で応えた。
そして付け加える。

「また後で、髪の毛、触らせて?」
「うん、ありがとう。ヨロシクね」

そう言った彼女の笑顔が、いつもながら、
なんだか眩しい。
沈んでいた気持ちが、軽くなって
いくのを感じる。

(貴方は可愛い女の子だよ)

私は心の中でもう一度、大切な幼馴染に
そう伝えるのだった。


主人公の日常の第二弾です。

学校という環境から離れて、もう随分と
長い年月が経過しました。
今現在、あの世界がどう変化しているのか、
自分には知る術がありません。
だから、現代にそぐわない描写があるかも
しれませんが、その辺りは海よりも深い
心で流してやって下さい。

さて、この話は主人公の幼馴染である
女の子視点です。
物静かな彼女は、主人公の事が大好きで、
主人公を害する存在と戦う事に躊躇も容赦も
ありません。
冗談とはいえ、主人公を傷付けるような発言を
してしまった男子は、きっと激しくシメられて
しまう事でしょう。

ちなみに、彼女はゲーム本編には恐らく
登場しませんので悪しからず。

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