市街地 2024/04/02 08:04

【小説サンプル】露葉さんと過ごす冬〜優しいお狐様と甘々濃密セックスで身も心も温めあう話〜

※DLsiteにて販売中の作品のサンプルです。

あらすじ

祓い屋娘とお狐様のラブラブえっち。

全体を通したプレイ内容

甘々・溺愛・中出し・ほのぼの
お布団・こたつ・お風呂での甘々プレイ



【1.お狐様のお気に入り】


日付が変わったころから強風が吹き始めた。

唸るような風の音はヒナのいるマンションの一室にも届き、外の寒さを容易に想像させた。

暖房の効いた室内でも足元が冷たく感じてしまう。

台所で夜食のおにぎりを用意しながら、ヒナはこんな夜に外へ出なければならなくなった同居人を心配した。

身長が一五○センチ前半と小柄な彼女は、二重まぶたの大きな目と幼さの残る顔立ちも相まって、初対面の相手には未成年と間違えられるのが常だった。

実際の年齢は来年の一月で二二歳になる。肩甲骨が隠れるほどの長さのクセのない黒髪と、髪色と同等の真っ黒な瞳をしたヒナは、その幼い見た目とは裏腹に、凛とした空気をまとう女性だった。

この外向きの姿に関しては、家族から「黙っていれば——」という枕詞をこれまで耳にタコができるほど言われてきた。

ヒナ自身も見た目と中身の性格が一致していないのは承知している。

人前では常に綺麗な姿勢を保ち、所作のひとつひとつに品を心がけているため、時々巫女勤めかと間違えられる彼女だが、ヒナの実家は神職ではなく祓い屋の家系であった。

そしてヒナも現在はフリーの祓い屋として各地を慌ただしく飛び回っている。



一際強く吹いた風がカタカタと窓を揺らす。こんな夜に同居人が外へと赴いたのは、ヒナの代理で物の怪退治をするためだった。

当初物の怪退治の依頼はヒナが受けたのだが、先日仕事中に足を捻挫してしまった。

怪我人となってしまった彼女に代わり、現状で引き受けている依頼を同居人の露葉(つゆは)が処理してくれているのだ。

自分の不甲斐なさに気を落としているところに季節が変わり、寒波が襲来してきて、露葉への申し訳なさは増すばかり。

露葉はヒナに自分の帰りは待たずに休みなさいと言ってくれるが、そういうわけにはいかない。

せめて部屋を明るくして、軽食を用意し、帰ってきた彼を労うぐらいはさせてほしい。

リビングのソファでテレビも付けずに、ヒナはじっと露葉の帰りを待った。

風は弱まる気配がない。時折高く響く轟音に混じって彼の声が聞こえたのは、丑三つ時になろうかという時間だった。

「——ヒナ」

名前を呼ばれてヒナは弾かれたように顔を上げる。ソファから立ち上がり、左足を庇いながら声のした大窓へと急いだ。

「ツユさんっ」

勢いよくカーテンを開く。

ガラス一枚隔てた先、——目の当たりにした光景にヒナは体を硬直させた。

マンション四階のベランダには、血まみれの狐が座っていたのだ。

お座りをした状態で頭がヒナの胸あたりにくるその狐は、本来の毛の色がわからなくなるぐらいに血で染まり、口からもぼたぼたと鮮血が滴る。

「————っ!」

出かかった悲鳴を寸前で堪えてヒナはすぐに窓を開け、狐を部屋へと招き入れた。

狐と共に冷気が室内に侵入する。寒さに身を震わせながら窓を閉め、カーテンを戻す。

「ただいま、ヒナ。先に寝てなさいって言ったのは僕だけど、今夜ばかりは起きててくれて助かったよ」

「ツユさん! どうしたんですかそれっ、まさか怪我とか……大丈夫なの⁉︎」

「落ち着いて。全部返り血だから、僕に怪我はひとつもない。なんせ獲物がすばしっこくって、加減ができずについうっかり」

慌てふためくヒナに対して大型の狐——露葉はのほほんと返す。

ヒナは血みどろの狐を恐れず、獣が人間の言葉を発していることにも驚く様子はなく、露葉が無事に帰ってきたという事実に胸を撫で下ろした。

「お帰りなさい。無事でよかった……。あっ、ツユさん、ここでブルブルはダメです、お風呂場行きましょう。ムズムズするかもしれないけど、リビングでブルブルはやめてぇ!」

狐の体が力み首を揺らしかけたのに目敏く気付き、ヒナは慌てて露葉を浴室に押し込めた。

浴槽のお湯で血を流し、狐の体を洗っていく。

「お湯に浸かりますか? だったらまた溜め直しますよ」

「んー……、今日はいいや」

「了解です。おおかた綺麗になりましたけど、あとは自分でします?」

「えぇー、ヒナはお世話してくれないのかい?」

甘えたいモードの露葉にヒナは心得たように頷く。

「はいはい。でしたらブルブルーってお願いします。体の水気取っちゃってください」

要望通りに狐はその身を大きく振って、毛に含まれた水分を飛ばした。

脱衣所でバスタオルを使って残りの水気を拭き取り、あとはドライヤーで乾かしていく。

露葉はヒナの指示に従い体の向きを変えてくれるので非常に世話がやりやすい。

ドライヤーが済めばヒナも濡れた部屋着を一旦着替え、ストーブの前で露葉にブラシをかけていく。特に尻尾は念入りに。特大犬サイズの狐に本来の毛並みが戻ってきた。

ヒナがふさふさの冬毛に指を通せば、露葉も気持ち良さそうにうっとりと目を細めた。

「お仕事お疲れ様です。お腹が空いてるならお夜食ありますよ?」

「ありがたいけど、今日はいいかな。明日の朝にいただくとするよ。——それよりヒナ、ちゃんと足に湿布を貼らなきゃ駄目だよ。僕が帰った時もしてなかったよね?」

ぎくりとヒナの手が止まった。

「それは、寝る時に……」

「今貼りなさい。お世話してくれるのは嬉しいけど、自分のこともちゃんとしないと」

「……はぁい」

「なんなら僕がお世話してあげようか?」

「いえ、お仕事終わりのツユさんにそんなこと頼めません。自分でやりますので、そこでゆっくりくつろいでてください」

リビングに伏せる狐から手を離し、ヒナは四つん這いになって近くの戸棚に手を伸ばした。

捻挫に必要な処置だとはいえ、底冷えのする寒い日に冷たい湿布は身に染みる。足先から全身へと伝播する寒気に耐えながら足首に湿布を貼り、包帯で固定する。自分ひとりならぞんざいにできるが、終始露葉に見られていては手が抜けなかった。

「昔に比べたら見違えるほど上手くできるようになったね。偉い偉い」

「もう。いつまでも子供扱いしないでください」

「そうだったね。ごめん、ヒナはもう子供じゃなくて、立派な大人だもんね」

物腰穏やかにからかってくる狐にヒナはむくれた。

「……ツユさんは意地悪です」

仕事中に怪我をしておいて、どこが立派なのか。

独り立ちをして祓い屋稼業で生計を立てると決めたのはヒナなのに、結局は露葉に頼ってばかり。自分の不甲斐なさにしょぼくれたヒナを、露葉は尻尾で叩いた。

「こらこら、そうやって落ち込まないで。ヒナが頑張っているのはよくわかっているよ。僕のことはいくらでも頼ってくれていいんだからね」

「……うん」

露葉はゆっくりと立ち上がり、ヒナの腕にすりすりと顔を寄せた。

「夜も遅いしそろそろ寝ようか。明日は忙しいんでしょ?」

そうだった。仕事が終わったから、もうこの土地に居続ける必要はない。

早いところ次の住処を探さなければ、面倒ごとに巻き込まれてしまう。

仕事の完了報告に引越しの準備と、明日からは慌ただしくなりそうだ。

ストーブを消して台所の火元を確認し、リビングから寝室へと移る。

ベッドに軽々と乗り上げた露葉の、冬毛のもっさりとした首にヒナはぎゅっと抱きついた。

ふたりで寄り添い、眠りにつく。

露葉と一緒なら寒い夜も暖かかった。





    *





借りた部屋にもともと備え付けてあったベッドはシングルサイズである。

ひとりで眠るには十分な大きさだが、共に眠る露葉は窮屈でないかとヒナは住み始めた当初心配していた。

寒い季節、寄り添う猫のように互いの体温で温め合うことを心地よいと思うのは、おそらく自分だけだろう。露葉のもふもふの毛があれば、ベッドはおろか布団がなくても夜を平然と過ごせるはずだ。

建国神話に出てくる伝説の大妖に抱きついて眠るなんて、おこがましいにも程がある。

そうわかっていても、露葉はいつもヒナに優しくて、甘えることを許してくれる。

だからヒナもついつい彼との距離が近くなってしまうのだ。



そもそも、露葉は常に狐の姿をしているわけではないというのに——。





体と布団の隙間に冷気が流れ、ヒナはぶるりと身を震わせた。

眠りの中でも無意識に熱を求め羽毛布団を手繰り寄せる。カーテンの隙間から入り込んだ光を避けるように寝返りを打つと、ふっと笑う声が微かに聞こえた。

「ヒナ……ひーな、起きなくていいのかい?」

「う……んぅ……」

なんだツユさんかと、認識した途端に浮上しかけた意識が再び沈む。

ふかふかの羽毛布団をぎゅっと抱きしめるヒナは、夢の中では露葉に抱きついていた。

横向きに眠るヒナの顔にかかった黒髪を、露葉はそっと指で退かして耳の横へと流した。安心しきった寝顔が露わになり、露葉に悪戯心が芽生える。

「……ヒナ、もうお昼前だよ。今日は忙しいんじゃなかったのかな? 用事を明日に回すなら、僕に付き合ってくれてもいいよね?」

当然ながら、寝入っているヒナから返事はない。露葉はそれを了承と受け取った。

するりと羽毛布団の中に入り込む。部屋着の裾から手を差し入れ、ヒナの脇腹をやんわりと撫でた。

「……ん…………」

冷たい指先が肌に触れたことにより、ヒナが身を捩る。露葉は構わず部屋着の中へと自らの手を侵入させ、柔らかい胸の膨らみをまさぐった。

「…………ツユさん……?」

「おはよう、ヒナ」

「……はぃ? え……」

ようやく目を覚ましたヒナの眼前には、明るい茶色の髪を肩まで伸ばした若い男の顔があった。

下がり気味の目尻が優しい印象をもたらす男の瞳は、焦茶色をしている。年は二十代中頃ぐらいだろうか。薄い唇で穏やかに微笑む浴衣姿の彼は潜り込んだ羽毛布団の中でヒナの上に跨るようにして乗り掛かっていた。

男——人の姿となった露葉が寝起きで混乱しているヒナの乳首を軽く引っ掻く。

ヒナが甘い悪戯を認識した途端、焦りと同時に微かな疼きが腹の底から湧き上がった。

「ちょっ……つ、ツユさんっ、朝っぱらからこういうことは」

「もう朝と呼べる時間ではないけどねえ」

「うそ……やだっ、どうして起こしてくれなかったんですか⁉︎」

壁に掛かった時計を見て慌てて起きあがろうとするも、露葉によって簡単に阻まれてしまう。

「ヒナが目を覚まさなかっただけで、僕は何度も声をかけたよ」

「ツユさんの優しい声なんて目覚ましにもならないんですって。お布団引き剥がしてでも無理矢理起こしてといつもあれほど……」

「そんなことしたら可哀想じゃないか。朝の冷え込みは体に堪えるよ」

「そこは心を鬼にして!」

「狐に向かって鬼になれとは、無茶を言う子だねえ」

露葉は目を細めてくすくすと笑い、ヒナの鼻先をぺろりと舐めた。

「ツユさんっ!」

「もうこんな時間だ。討伐の完了報告が一日遅くなったところで、あちらが文句を言うことはないだろう。午前の予定が明日に持ち越しになるなら、空いた時間は有意義に使おうか。風が強くて凍える夜中に外を駆け回った僕に、ヒナはご褒美をくれないのかい?」

「それとこれとは……というか、今は……昼で……」

遮光カーテンの隙間からは明るい日差しが差し込んでいる。こんな時間から露葉の誘いに応じるにはいささか抵抗があった。

「……駄目かい?」

眉をハの字にしてしょぼんと気を落とす露葉に、うっと言葉が詰まる。釣られてヒナの眉までへにゃりと下がった。

まるで自分が悪いことをしてしまったような心境になってしまう。

この寂しそうな表情に、ヒナはめっぽう弱かった。

「い……一回だけ、なら……」

承諾を受けて露葉は妖艶に笑った。

「いい子だね」

どきりと、思わず見惚れたヒナの唇を露葉が塞ぐ。戯れの啄みは次第に深いものへと変わり、口腔を蹂躙する露葉の舌へとヒナは自らの舌を絡めた。

「……ぅ……っ、ふ……」

酸欠で頭がぼうっとしてくる。

キスは何度も教えられてきたが、最中の呼吸は依然としてうまくならない。それでも必死に応えようとするヒナに、露葉はうっとりと目元を和ませた。

「可愛いね。君はいつも一生懸命だ」

どちらともわからない唾液で濡れた唇で呟かれ、羞恥に顔が熱くなる。

「ヒナ……ヒナ……、とてもお似合いの代り名で僕も気に入っているけれど、こればかりはいつまで名乗れるかわからないからねえ。今のうちにたくさん呼んで、たくさん思い出を作ろうか」

「お、思い出って、こういうのじゃ……」

「もちろん体を重ねるだけではないよ。だけど今は、目一杯ヒナを堪能したい。——さっきから、疼いて仕方がないのだろう?」

低い声の囁きに子宮がキュンとする。

「な……や、ちが……っ」

「違わないよ。そんなことしても、慰めにすらならないはずだ」

羽毛布団の中でもじもじと股を擦り合わせていたのがバレた。

ヒナの脚の間に露葉が膝を割り入れる。彼の脚が邪魔をして、気を紛らわすことができなくなくなった。

部屋着のパンツの上からつぅ……っと長い指が内腿を往復する。

「あ……ツユさん……」

官能を誘う手つきに自然と脚が開いた。露葉によって快楽を教え込まれたヒナだが、ふたりがそういう関係になってまだ日は浅い。

未だ性行為への羞恥心は抜けきらず、現在が日中ということも重なりなかなか素直になれそうになかった。

「ん? くすぐったい?」

「わかんない、けど……、そんなことして、ツユさんは楽しいの?」

「そりゃあ、いろんなヒナの表情を見るのはとても楽しいさ。いつもの笑顔はもちろんだけど、困り顔も泣き顔も……感じている時の顔も……、全てを僕が引き出していると思うと、こんなに喜ばしいことはない」

「ひゃあっ……」

突然露葉が服の上から秘所を指でぐっと押した。

じわりと滲んでいた愛液をショーツが吸い取り、生地が肌に当たったことで既にそこが濡れているのだと自覚させられる。

「とても、物欲しそうだね」

にんまりと表現するのがふさわしい笑みを浮かべ、露葉はあっさりと秘所から手を遠ざけてしまった。

「うぅ——っ」

ヒナが不満そうな唸り声を漏らしても気にする様子はない。

いつもは優しく面倒見がいい露葉であるが、こと性行為に関してはヒナに主導権を握らせない。たまに加虐嗜好を疑うぐらいに意地悪をしてくる。

嫌だと文句を言いながらも毎回それに感じてしまうのだから、ヒナは最近では自身に被虐嗜好があるのかと密かに悩んでいた。

私に変な趣味ができたらツユさんのせいだ——などという文句は相手を喜ばせるだけなので絶対に口にはしないが……。

秘所を離れた露葉の手が胸へと移動した。服の上から膨らみを揺すられてもどかしさばかりが腹の奥に溜まっていく。

「ツユさんっ、……私、い……一回だけって言いましたよね。日はまだ高いんですから、さっさと欲求を満たして解放してくださいっ」

「……へえ……。まるで僕だけが楽しんでいるような言い方をしてくるね。……ヒナにとって僕との交わりは、ただの義務でしかないのかい?」

「や……そういうわけじゃ……」

確かに始まりは強引だったけど、露葉が嫌というわけでは決してない。

しかし受けていた依頼が完了した今日は日中に行うべき手続きがたくさんあって、ただでさえ寝坊してしまったのだから早く活動しなきゃいけないのに……。

露葉への罪悪感と祓い屋としての使命感がヒナの心でせめぎ合う。

「ほんとうに……ヒナは素直で可愛いらしい。そんなに困らなくても全部僕のせいにして、今は流されておけばいいんだよ」

くちゅり……。

露葉の手が緩く締まるゴムのウエストを潜り、ショーツの中へと侵入して秘裂をなぞる。

「ひぁっ、あ……」

「こんなに濡らして、いやらしい体に育ったものだ。どうして欲しいか、自分で言ってごらん」

「あっ……あうぅ……、ツユさんのいじわる……」

「ん?」

指は蜜が溢れる膣口の上を往復するだけで、ナカヘは挿れてくれない。

気まぐれに膣の愛液をすくうようにして割れ目をなぞるも、敏感なクリトリスにすら一度も触れようとしないままだった。

羽毛布団の下の、さらには服の中という見えないところで施される愛撫は次にどこを触れてくるか予想ができない。

焦らされるほどに期待が高まり、腰が無意識に揺れた。

「……んっ、……も……私も、気持ちよくなりたい……の。ツユさんに……、いっぱい、触ってほしいの……」

「うん、いい子だね。ふたりでたくさん、気持ちよくなろうか」

膣口に指が埋まる。愛液をかき混ぜるように浅い抽送を繰り返すのと平行して、露葉の親指がクリトリスを撫でた。

「あっ! それっ」

「気持ちイイ、でしょ?」

親指で神経の集中する敏感な肉芽をくるくると転がされる。直接的な刺激に腹がへこへこと動き、膣道にある指をきゅっと締め付けた。

「ヒナは陰核をくりくりされるのが大好きだものね。今度ここばかりをずっといじってみようか?」

「やっ、そんなの、あんんっ」

「嬉しい? 今、ナカがすごく締まった」

ぐじゅ……、ぐじゅりっ。

膣道に感じる圧迫感が増した。露葉が指の本数を増やしたのだ。

「あっ、……んぁ、あ……つ、……はぁ……あっ」

じっとりと体が汗ばむ。眠っている時はぬくぬくで心地よかった羽毛布団が熱を閉じ込めて、中は蒸し風呂のようになっていた。

「ツユさん、んっ……あっ、お……、お布団……ぅあっ、退けて……」

「そうはいっても、暖房を付けてないから部屋は寒いよ。体が冷えると風邪をひいてしまう」

「でもっ、あつくて……、汗……いっぱ、いっ……あっ! ああぁっ」

ぐにぐにと膣奥の壁を揉むように押され、訴えは瞬く間に甘い嬌声へと変えられる。まるでそんなことは気にしなくていいと言わんばかりに、快楽に染まる顔を観察していた露葉がヒナの額に浮かんだ汗をぺろりと舐めた。

「むうぅっ、あっ、やだっ……ツユさ、んっ……ああっん」

「そのまま上り詰めてごらん。……イク、だっけ? ほうら……ちゃんと僕の目を見て、僕の指に感じて……他のことなんて考えなくていいんだよ」

「あっああっ! やあぁ……っ、ううっ、んあっ!」

嫌だ、恥ずかしいと思っても、ヒナは露葉の言いつけ通りに彼を見続けた。

そうすれば……露葉に全てを委ねれば極上の愉悦に辿り着けると、身をもって知ってしまっているから。

「良い子だね……。ほら、ここ……ぐにぐにって指が押してるのわかるかな?」

「あっ、うっん……わかっ、るぅ……いい、ぁっ……イイの、それっ」

「うん。そうだね。こっちもキュッと締め付けて、返事をしてくれた。すっかり子宮の入り口で感じられる体になったね。君は教えれば教えるほど、敏感で、淫らになっていく……さぁ、上手にイってごらん——」

「んんっ、う……イ、く……ぅ、いああぁっ!」

導かれるようにしてヒナは絶頂に達した。

ひくひくと腰を跳ねさせ、快楽の余韻に浸るヒナの膣を一際深くえぐり、露葉は指を抜いた。

「はあぁんっ」

「偉いねえ。可愛くイけた。ここはもうぐしょぐしょだ」

愛液を掻き出すように膣の浅い部分に指を出し入れされる。ショーツの内側のぬかるんだ感覚は、微かに届く水音と、湿りを帯びた感触で知覚できた。

「あ……ツユさん……」

欲情の火は依然消えず。達したからといってこれが終わりでないことを、ヒナはとうに理解していた。

「少しだけ腰を上げて」

言われた通りにすると、露葉は片手で器用に部屋着のパンツとショーツをウエストからずり下げた。

伸縮性のあるニット生地の衣服をそのまま片足だけ外し、羽毛布団の下で露わになったヒナの脚を大きく割り広げる。浴衣の帯の結びを緩めた露葉が己の肉棒をヒナの秘所に当てた。

ズリ……ズリ……、ヌチィ……ヌチャッ。

そそり立つペニスに愛液が絡まる。ここに挿れてほしいのだと、膣口がぱくぱくした。

焦ったさに耐え切れず、ヒナは自ら腰を浮かせて秘裂をゆっくりとなぞるペニスに秘所を押し付けた。

「ツユさん、もっ……、いれ、て……っ、んっ、あ……ほし、い……ナカ、いっぱいに、……してっ」

「気持ちよくなりたい?」

「うん! ツユさんと一緒にっ、ツユさんっ……あっ……はや、くぅ……っ」

媚びるような甘えた自分の声に羞恥を感じる余裕はない。

「こぉら、そっちの膝を立てては駄目だよ」

足首を捻挫しているほうの膝を横に倒される。布団の中で熱いペニスの先端が膣口に当たる感覚がした。

「さあ、僕を受け止めて」

露葉がゆっくりと腰を落とす。指などとは比べ物にならない圧倒的な質量がミチミチとナカを押し進んでいく。

「ぐ……ぁっ、うぅ……」

「あぁ、……相変わらず、ヒナの膣は狭いねえ……。ほぅら……いい子だから、体の力を抜いてごらん」

そうしたいのもやまやまだが、膣道に感じる強烈な圧迫感とそれに混ざってじわじわ湧き上がる快楽。さらには卑猥にうねる肉路の果てが疼き、腹部にぎゅぅっと力がこもってしまう。

「あっ、ん……も、もっと、奥……に、早くぅ……っ」

「そんな乱暴なことはしないよ。……ほら、ゆうっくりと息を吐いて……落ち着いて息を吸い込んで……そう、じょうずだね。そのまま続けて……」

言われた通りに深い呼吸を繰り返す。次第に膣を拡げられる感覚は、自らペニスを包み込むものに変わっていき、より一層快感が増した。

「はぁ、はっ、あ……んっ、ツユさっ……そこっ」

「うん。ヒナはここ、大好きだよね?」

「ああっ、あっ、だ……やぁっ、ずにずにしちゃっ、やだぁっ」

膣道の腹側にある感じる部分を亀頭で何度も擦られ、背中がしなった。

グジュ、ヌチャ……ズ、ズゥ……。ジュリ、ズチュ……。

粘着質な音をさせ、膣口から膣道の途中までを熱棒が何度も往復する。

奥へと突き進もうとしない露葉の腰の動きに焦らされ、とうとうヒナが泣き出した。

「あうぅっ、んや……ぁ、んっ……、もっ……いじわる、ばっかり……やだぁっ」

「いじわるだなんて心外だね。無理をさせないようにしっかりと慣らしているんだよ。大事なヒナを、傷つけるわけにはいかないから」

「もう、大丈夫っ、だから……んっ、あ、もっと、奥も……ほし、欲しいのっ。ツユさん、おねがっ……ああっ」

「おやおや……いやらしいヒナが出てきたねえ……。欲情に我慢がきかなくなってしまったかな? 堪え性のない、本当に可愛い子だ」

ズヌ……グゥ……。

ゆっくり……ひたすらにゆっくりとペニスが奥へと進んでいく。

時折後退してヒナを焦らしながらも、時間をかけて卑猥な肉路は男の熱で埋まった。

「あっ、イイ……っ、イイの、ツユさん。気持ちいい、それっ」

征服される喜びを素直に伝え、快感を享受する。全て露葉に教わったことだ。

「……僕も気持ちいいよ。ヒナのナカが、健気にしゃぶりついて、精を搾り取ろうとしてくる。……ほら、もう一度」

奥まで到達したペニスがまた時間をかけて下がっていく。

膣口にカリが引っかかったところで再び低速での挿入が開始され、じわじわと与えられる快楽にヒナは悶えた。

「んぅー……あっ、あうぅ……んん……」

ヒナの腰を掴み、露葉が軽く身を起こす。すると上に掛かっていた布団もヒナの体の上から退き、肌に冷気が刺さった。

汗に湿った部屋着では、寒さを凌ぐ足しにもならない。

ゾクっと寒気が肩口から頭へと走る。

まるで奪われた熱を求めるように膣壁がきゅぅっとペニスを締め付けた。

「ひぅっ……うあぁ」

「ああ……ごめん。寒かったね」

もはや寒い暑いの問題ではない。ヒナの心境をわかっているはずなのに、露葉はけんもほろろとうそぶいて、あっさりと腰を掴むのをやめた。

羽毛布団と共に自らの体でヒナを包み込み、密着が深まるのと同時にペニスが膣奥を抉った。

「やぁっ、ああっ!」

トチュンッ——。

腹の奥に感じた深い衝撃にびくんっ、とヒナの体が大きく跳ねた。

体に覆い被さった露葉は腰の動きを止めない。布団の中に冷気が入り込まないように抜き挿しの幅を狭めて膣奥を突いてくる。

熱いペニスの切っ先で子宮口をこねられる。徐々に深まる快楽で思考が流されそうになり、ヒナは咄嗟に両足を露葉の胴へと絡ませた。

「いっ……あぁっ、ん……あっ! ツユさ……っ、ツユさんっ」

「ああもう可愛いなあ……。激しいのもいいけど、たまにはこうやって、ゆっくり、奥をトントンって……ね?」

「う、ん……っ、イイ……イイのっ、あっそれっ……うああぁっ」

行き止まりの肉壁をぐぐぐっ——とペニスで押され、露葉に抱きついたまま体がのけ反った。

「きゃんっ」

戯れに乳首をぺろりと舐められ、子犬のような声が出てしまった。

「ひぁ……ああんっ、ぃ……くぅうっ……いっちゃ……ああっ」

徐々に快楽の高みへと押し上げられていた体に、絶頂が近づく。

膣を埋め尽くすペニスにも果てる気配を感じ取り、はっとヒナは露葉を見上げた。

「ツユさんっ、だ……めっ、ナカは、こども……んっ、できちゃ……」

「何度も言っているだろう? 人間と妖の合いの子は、そう簡単にできやしないよ。……まあ、僕はヒナとの子供ならば、いつでも大歓迎なんだけど……」

ぐっ、ぐっ……ズンっ。

「おっあぅ、あああっ!」

緩い抽送が続いて油断したところに腰が引き、勢いよく奥を穿たれる。視界に火花が散った。

「さあ、一緒に果てようか。ヒナの下のお口で僕の精液を受け止めておくれ」

重い突き上げの後にぐりぐりぃ……と子宮口にペニスが押しつけられた。

「ん、いあっ、イく……っ、ああぁ——っ」

全身に力がこもり、絶頂に達したのと同時。膣内に熱い飛沫を感じてさらなる快楽に見舞われる。

ビューっ、ビューっと断続的に放たれる精液に子宮が歓喜し、無意識のうちにさらなる刺激を求めて膣がうねった。

「あっ……ああっ、んぅっ」

体の痙攣が止まらない。そんなヒナをうっとりと眺めつつ、露葉は緩やかに腰を打ち付けて余韻を楽しんだ。

「う、あっ……ツユさん……」

「ん? ほしいの?」

口づけをせがむヒナに露葉が応じる。唇の触れ合いは次第に深まり、やがて互いの舌が絡まり合う。

胎内に露葉を感じながら交わすキスが、ヒナはたまらなく好きだった。





    *





祓い屋が受けた討伐依頼の完了報告は、仕事が終わったなら迅速にするほうがいい。

依頼人の中には物の怪や怨霊といった存在に懐疑的な者も珍しくないからだ。怪異が収まった時期と退治完了の報告時期がズレるほど、インチキだとかなんとかイチャモンをつけて依頼人たちが報酬の支払い渋る確率は上がる。

全国各地に魑魅魍魎の伝承が色濃く残り、奇々怪々なニュースが日常茶飯事なお国柄であっても、一般人にとって妖たちは身近な存在とは言い難い。

科学では説明できない不思議な存在が「いる」ということを漠然と認識していても、「それ」が自分達の暮らしに与える影響はほぼ皆無だからだ。

祓い屋など、その筋を専門とする者でもない限り、人生において妖や怪異と関わること自体が減少した昨今。妖たちもまた、進んで人間と関わろうとする者は少なくなっていた。

そんな妖のひとりである露葉は、遥か昔からこの国に生きる狐の大妖である。

建国神話にもちらりと描写されるような伝説級の妖は今、ウィークリーマンションの一室で、自分が抱いた女を甲斐甲斐しく世話していた。

汗で体を冷やしてはいけないと、予め用意していた風呂でヒナの体を温める。

浴槽から上がればバスタオルで水気を拭き取り、ストーブのついたリビングで足首の湿布を貼ってやる。

寝起きから体力を使い、疲れ切ったヒナは露葉にされるがままである。

ヒナがストーブの前でぼんやりしていると、露葉は軽食作りに取り掛かった。

昨晩食べなかったおにぎりを焦がし醤油の焼きおにぎりにして、簡単なおかずとスープを揃えたらテーブルにヒナを呼ぶ。

「もうお昼過ぎちゃってるんですけど……」

「そうだね。お腹すいたね」

はいどうぞと席に着くや否や目の前に料理が配膳されていく。至れり尽くせりな対応にヒナの文句は簡単に引っ込んだ。

「とりあえず、国脇さんに物の怪討伐の完了報告だけはしに行かないと。次の仕事は……どうしようかな」

「駄目だよ、ちゃんと安静にしておかないと。そんな足で祓い屋稼業はさせないからね」

「わかってますよ……。でも、来週でマンションの契約期間は終わっちゃうから、この先どこに行くかも決めなきゃだし、やっぱり国脇さんに相談は必須です」

国脇とは不動産業の傍らで、ヒナのようなフリーの祓い屋を相手に仲介業をしている男である。

人間を困らせる怪異は土地や一定の場所に起因するものが大半で、それらの情報は不動産業界に多く回ってくる。そのため不動産屋が陰で祓い屋の仲介業を営んでいるケースは、この国ではなにも珍しいことではない。

ヒナのように各地を転々とする祓い屋にとっても馴染みの仲介屋との繋がりは、新しい土地で住む家に困らないためにも重要なことだった。

現在ヒナと露葉が暮らしているこの部屋も、国脇が手配した。

ここはいわゆる事故物件なので、相場よりも割安で借りることができていた。

「物の怪退治は無理でも、足を使わなくていい依頼があれば受けるつもりです」

仕事への意欲をみせるヒナに、テーブルを挟んで向かいの席に座った露葉が呆れた顔をした。

「家を頼るつもりはないんだね」

「当然です。これしきのことで帰るわけにはいきません」

なんといっても絶賛家出中の身だ。家族仲は決して悪くはない、むしろ良好すぎるほどなのだが、ヒナには家に帰れない事情があった。

両親や兄は露葉がそばにいるならと、ヒナの出奔を許してくれている。

大好きな家族のためにも、足の捻挫程度で助けを求めるつもりはない。

「まったく……頑固な子だねえ。実家が嫌なら僕を頼ってくれてもいいんだよ? 仕事なんてしなくても、贅沢させてあげるって言ってるのに」

「それは一番駄目です。ぐうたら人間にはなりたくありません。それにツユさんは私のお目付け役であって、保護者じゃないんですよ」

自分も成人して一端の祓い屋を名乗ることを認められたのだから、いつまでも子供扱いでは困るのだ。

「一緒にいるツユさんの分も私が稼ぐぐらいの意気込みじゃなきゃ、とても一人前とはいえないでしょう。……まあ、結局はこのざまなんですが……」

捻挫は仕事で討伐対象となった物の怪を追いかけている際、高所から落ちたのが原因だった。

骨に問題がないのは確認済みだが、捻り方がひどかったので一時期足首は変色して大きく腫れ上がった。かかった医者曰く、触診の際にもう少し痛そうな顔をしたならば問答無用でギブスをしていたという。

医者からは少なくとも霜月いっぱいの安静を言い渡された。そうなると困るのはこれからの仕事だ。

「豪遊している訳ではないのだから、年を越せるぐらいの余裕はあるよね?」

「そうですけど、師走は稼ぎ時ですし」

蔵の大掃除をしていたらおかしな物が出てきたとか。実害はそこまでないにしても気になっていたという程度の、些細な怪異を来年にまで持ち越したくないと重い腰を上げる者たちがこれからの時期は急増する。

「むやみに走り回らない仕事なら僕は何も言わないよ。——柿をむいてあげようか?」

「食べます! やったあっ!」

食事を食べ終えたタイミングで提案され、ヒナの目が輝いた。露葉もにこりと笑い、テーブルの食器を重ねて台所まで持っていく。

「あっ、洗い物は私がします。ツユさんにはデザートを作るっていう大事な任務があるんですから」

「んー……、洗い物は後でいいから、ヒナは隣の部屋を換気しておいで。布団を包む布も、予備があったよね? だったら今のうちに洗濯しておこうか」

のほほんと告げられて、ヒナの顔がみるみる赤くなる。

「ツユさん!」

「そんなに慌ててどうしたの? 汗をいっぱいかいたのだから、ちゃんと清潔にしないと」

「言ってることは正しいんだけど、もうちょっとこう……っていうかだいたい、朝っぱらからツユさんがあんなことしなきゃよかったんですよ。布団のカバーだって昨日替えたばっかりだったのに」

「ごめんって、次はお布団が汚れないところでしようね」

「なんか違うーっ!」

話が全く通じていない。

ヒナは羞恥に耐えられず、真っ赤になりながら一本足でぴょんぴょんと軽やかに隣の寝室へと逃げた。

賑やかな愛し子を見送り、露葉は上機嫌に包丁と柿を手に取った。







【2.罰当たりな家】


その昔、妖同士の争いに敗れた鬼の夫婦が、人間の村へと逃げ延びた。

怪我を負っていた夫婦は村の男に匿われ、命拾いをする。

鬼たちは村人に感謝した。そこで鬼の夫婦は怪我が治って村を去るとき、お礼として一帯の土地に守護を授けたそうな。

翌年より村では豊作が続き、村人は鬼の夫婦に感謝してふたりを匿った小屋の跡に祠を築いた。



それから月日は流れ、今から約三年前——。

最初に鬼を匿った村人の子孫にあたる男が、祠を破壊し、そこに家を建ててしまった。

鬼の祟りかは定かでないが、その男は祠を壊してから一年と経たずに病死してしまう。

男の死後、家を相続した息子がしばらくそこで暮らしていたものの、近隣住人たちからの非難の声に耐えられず、ひと月ほど前に土地や家を売り払って夜逃げ同然で何処かへ消えてしまった。



そんな曰く付きの家屋は地方の都市から山ふたつ挟んだ先の集落にあった。

元は畑であっただろう、今は雑草が生い茂る空き地に囲まれるようにして建つ、見た目はごく普通の二階建ての民家である。

「祟りって言っても……、伝承自体は割とどこにでもある美談なのよねえ。……昔話が本当ならば、後腐れなく土地を去った鬼が今になって厄災をもたらすとは考えにくいんだけど……」

祠を破壊して建てたとされる民家のリビングで、ヒナはこたつに入りながら資料の再確認をしていた。

書類を片手に睨めっこをするさなか、空いた手が無意識にこたつの上、カゴの中に積まれた蜜柑へと伸びたが、ハッとして思いとどまる。

すでにヒナの手元には蜜柑の皮が四個分。さすがに五個目はやめておくべきだ。

鬼に祟られたらしい家で寝泊まりをして早くも十日目に突入したが、今のところ本能的にヤバいと思う現象には出くわしていない。

近隣の家からも徒歩数分の距離があるこの家は、ヒナにとって静かで快適な住処であった。なんならしばらくはここを拠点にして、このまま年を越そうかとも思案しているほどだ。

しかし住み続けるにしても任された依頼は遂行しなければならない。

むむむ……と眉を寄せて書類とにらめっこをしていたら、台所から露葉が現れた。

「ヒナ、できたよ」

「わーい! やったあ!」

急いでこたつテーブルの上に散乱した書類を束ねて場所を作る。

できたスペースに露葉が鍋敷きを置き、再び台所へと戻り一人用の土鍋を運んできた。

目の前で土鍋の蓋が開かれる。熱々の鍋焼き肉うどんにヒナの目が輝いた。

「ツユさん大好き! いただきますっ!」

両手を合わせるヒナに露葉が微笑みながら頷く。

「どうぞ召し上がれ」

こたつで向かい合って露葉と鍋焼きうどんを食べる。

そういえば大学受験を控えた冬休みの深夜にも、ツユさんにうどんを作ってもらったことがあったなぁ……と昔を懐かしみながらはふはふと湯気がたつうどんをすすった。甘辛いお肉の味付けがこれまた絶品だ。

「美味しい?」

「すごく美味しいです! もうホントに幸せー」

「よかった。——それで、糸口は掴めたかい?」

こたつの横に積まれた資料に目を落とした露葉につられ、ヒナも視線を移す。

「いえ、正直さっぱりです。なんなら夜に来るあの人さえどうにかできれば、ここはもう安全ですって報告してもいいくらい」

このたびヒナが引き受けたのは、曰く付き物件の安全を保証する仕事であった。

殺人や自殺、今回のような祠や石碑、墓などを壊して建造したわけあり物件に実際居住し、怪異が発生しているなら原因を突き止め取り払う。

そうしてここは安全だという祓い屋からのお墨付きがあれば、売値相場を通常に戻しても買い手が付くようになるのだ。

特にヒナのように全国に名が精通している有力な門下の祓い屋であれば、安全保障は世間においても信頼性が高い。

足を捻挫して走れない。しかし依頼を受ける意欲はあるヒナに、それならばと仲介屋の国脇がこの仕事を提案したのだ。

「前の家主が家を手放してから日も浅いですし、壊したという祠自体も悪いものを封じていたとか、助けた鬼を神格化させたとか、そういった経緯もない。これ以上、私には手の出しようがないんですよね。……問題がないのはこの家自体はって前提ですが……」

現状、この物件に怪異を引き寄せているものは確かに存在しているが、それについてはヒナには非常に手が出しづらい。

「そんな報告だと、周辺に住む集落の住民は納得しないと?」

「……まあ、そういうことです」

この地に家が建って以降、近隣に住む者たちに災いが相次いでいるという。

彼らは不幸の元凶を祠が破壊されたからだと信じ込み、元の家主への憤りを隠さない。ヒナにとってはそんな彼らの憎悪が今回の依頼の最たる難点となっていた。

連続して怪死事件が起こったとか、奇病疫病が蔓延したわけでもなく、住民たちから報告された災禍は普通に生活していたらたまに起こる不運程度で済ませられるものばかりだ。

それら全てをこの家のせいにするのは早計すぎるとしか言いようがないのだが……。

「なんでもかんでも、どこかに責任を押し付けたがる人間のサガは、いつになっても変わらないねえ」

のほほんとした口調で、しかし冷酷に露葉は人間という生物そのものを嘲笑う。

「どうしようもないことにも理由を付けて、あやふやな状態を抜け出したいって気持ちは、わからなくもないんですけどね」

「それで大概は間違った方向に突き進んでしまうから始末に負えない。誤りに気づいたところで引き返せる者のなんと少ないことか」

「取り返しのつかないことにならなきゃ、私はそれでもいいかなと思いますよ。尻拭いが自分でできるならって条件付きですが」

露葉の冷酷な一面もヒナにとっては慣れたものだ。ヒナ自身も、自分が人に威張れるほど綺麗な心をしていない自覚があった。

「近隣の人たちは私の依頼人というわけではないので、最終的には国脇さんに任せます。私たちが去った後でまたこの家が怨霊の巣窟になったとしても、こちらの責任にはならないでしょう」

負の感情が集結する場所には良くないモノが溜まりやすい。

近くに住む者たちが些細な不幸をこの地の祟りだと信じている限り、ヒナたちが仕事を終えた後でまたここは怪異が寄り付く家になるだろう。

実際最初にこの家を訪れた時も、ひと月前まで人が住んでいたとは思えないほど家の中は怨霊と物の怪の溜まり場になっていた。

ヒナが祓い屋としてできることには限界がある。人の心に変化を促す仕事は畑違いなので、時折家に様子を見に来つつ文句を言って帰る近隣の者たちの考えを改めさせるつもりはなかった。

「フリーの祓い屋だとこういった時に割り切れるからいいですね。家の名前を背負った仕事だと、門下総出で各所の説得に回らなきゃいけない」

「大きな力を持つというのは、そういう面倒も被るってことだからね」

——面倒。確かにその通りだ。

そしてその面倒から逃げた自覚があるだけに、ヒナは気まずそうにうどんをすする。

「あとは……二階の押し入れにあった開かずの金庫ですね。あれはなかば諦めてますが、一応中身を確認しておくべきでしょう」

家具や家電と同様に前の家主が置いていった金庫は、念のため鍵屋に頼んで開けてもらうことになっていた。

もともと入れていたものが金銭のたぐいなら中は既にもぬけの殻だろう。

経験上、こういうものにはあまり期待できそうにない。




    *




深夜、日付が変わる頃。風呂にも入り、寝支度を終えてなおヒナはリビングのこたつで暖まっていた。

露葉は狐の姿で隣に伏せ、ヒナの太ももに顔を置いている。柔らかい毛並みを撫でると、露葉が気持ちよさそうにヒナの手に擦り寄った。

もふもふの冬毛に癒されながらその時を待つ。

しんと静まり返った室内で、チカ、チカ……天井より吊り下がる照明が点滅を始めた。

首をもたげかけた露葉の頭を抱きしめるように押しとどめ、ヒナは座ったままリビングの隅を凝視する。

「ツユさんはダメです。怖がらせたらまた逃げちゃいます」

ヒナが小声でいうのと同時。家の中にひとつ、気配が増えた。

か細い存在感の正体は判明している。ひと月前までここに住んでいたという、前の家主の生き霊だ。

消えた照明が点灯する瞬間、まるでそこだけ暗闇が取り残されたように人影が現れる。

一秒もしないうちに影は消え、また照明が暗くなり、カチっと光が戻った時に現れてはすぐに人影はいなくなった。

「……こんばんは。今夜もお会いしましたね」

ヒナが控えめに声をかけると照明の異常はぴたりとおさまった。

根気強く相手の出方を観察して待つ。

次第にうっすらと半透明な若い男が姿を現した。

猫背で俯く男の視線は床ばかりを眺め、ヒナを見ようとはしない。口からはブツブツと何かを呟やかれているも、言葉として聞き取れそうになかった。

「今夜は冷えますね。風もないのに、とても寒い。秋も終わって、すっかり冬になりましたね」

「………………」

「あなたをここに呼び寄せていたご近所さんたちは、もうこの家には来ませんよ。あなたは自由です」

当初、この男は近隣住民の怒りと執着が混ざった怨念から生まれた生き霊によって、夜な夜なこの家に呼び寄せられ、憎しみの捌け口にされていた。

要は生き霊が生き霊を寄ってたかっていじめていたのだ。

近隣住民たちはヒナがちょっと脅し気味に忠告して既に退場いただいている。

生き霊は心の闇から生じたもので、発生源の近隣住民にとっては無自覚の所業だ。無理矢理本体に返されたからといって心身にそれほど影響はないだろう……きっと。

まあ多少は悪夢に魘されることになるかもしれないが、その程度で済むなら別にいいかとヒナも案外楽観的だった。

なにはともあれ元住人の男は嫌がらせから解放され、はれて自由になったはずなのだが……、なぜか彼はそれからも毎晩この家に姿を見せていた。

「誰かに呼ばれてここに来た……ってわけじゃないはずです。ならばあなた自身も、この家に未練が残ってるってことですよね?」

「………………」

「生まれ育った土地を離れる結果となったのは、さぞ悔しかったことでしょう。あなたを追い詰め、追い出した者たちに、復讐を希望しますか?」

「………………」

「鬼神様の祠を壊したという、自分の父親が憎いですか?」

「………………」

「……この家に現在進行形で居着いている私が気に食わないとか?」

「………………」

男は俯いたままピクリとも反応を示さない。

「——あ、お蜜柑食べます? 不動産屋さんから差し入れを箱でいただいたんですが、ツユさんあんまり食べてくれなくて、ほとんど私が独占しちゃってる状態なんです。甘くて美味しいですよ?」

「………………」

「食欲もないかあ……」

「そんな食いしん坊でもあるまいし」

ぼそりとこぼした露葉に対しては上半身を曲げて、足と胸で挟むように抱きついて抗議する。それは私が食いしん坊だと言いたいのか。

男の生き霊は決まって毎日夜中に現れる。しかし話しかけたところでぴくりとも動いてくれない。

剛を煮やして近づけばすぐに消えてしまうから、安易に顔も覗き込んで表情をうかがうこともできなかった。

近づけば消えるということは、相手にはこちらの存在が把握できているのだ。ならば話しかけてどうにか彼がここに来る理由を探ろうとしているのだが、絶賛無視を決め込まれているのが現状であった。

「……私、そこまで気は長くないんです。何も言ってくれないなら強硬手段に出ちゃいますよ?」

一応これでも平和的な解決を目指しているのだ。この地に未練があるというなら、自分のできる範囲で手助けしてもいい。

祠を壊した男の息子——。そんな理由で地域一帯の者たちから冷遇されていた彼にそこまで同情はしていないが、ヒナにもそれなりの情けはある。

「あなたをこの家に向かわせるのは、一体なんなのですか?」

反応がないだけでなく、男には怒りや悲しみといった感情が全く感じられなかった。

近隣住民の生き霊に取り囲まれていた時は恐怖に震えていたようだが、その脅威がなくなった今となっては彼が何を目的としてここへ訪れているのかさっぱり検討がつかない。

まだこの家に未練があり、無意識に自身の所有物だと思っているなら、ヒナを侵入者とみなして害意を向けてきてもおかしくないのに……。むしろそうしてもらったほうが遠慮なく祓ってしまえる。

しかし現実はそううまくいかず、男は姿を見せるだけでそれ以外の行動が一切ない。

ヒナは生き霊が出るだけの家ならまあいいかと割り切れるが、ここに新たに居住する者は毎晩霊が出る家なんてたまったものではないだろう。たとえ無害であっても彼をどうにかするのはヒナの仕事の範疇だ。

ヒナはこたつから足を抜き、立て膝になって天板に身を乗り出した。

「おーい」

男を見上げ、ひらひらと手を振ってみる。

「……ほんっとに、ものの見事にシカトしてくれますね。これ多分、本人さんはぐっすり夢の中なんでしょうね。自分が生き霊になって分裂している自覚がないのは当然として、ここで何をしたいのか、おそらく彼自身もわかっていない」

心の奥底に秘める思いにこの地への未練があったとしても、本人に自覚がなければそれ以上動きようがない。

「精神の一部が体から離れていては、肉体も深い睡眠が得られないでしょう。つっ立ってないで横になってゆっくり休みませんか?」

「…………」

「なんならとっておきの子守唄でも歌いましょうか? 最初はちょーっと苦しいかもしれませんけど、後々すごく楽になりますよ。足ツボマッサージと同じです」

「………………」

「ここまで何も言ってくれないと、さすがに虚しいです。私じゃあなたの心の琴線には触れられませんか」

仕方ないなあと、ヒナは諦めてこたつ布団の中に手を入れた。隠してあった御札を指で挟む。

「終わらせるのかい?」

人の形になった露葉がヒナを後ろから抱きしめた。

「これ以上は進展がなさそうですので。付き合わせてすみませんでした」

彼の未練は、おそらく壊された祠と祟りの謎を解く糸口になる。だからどうにか説得して情報を得たかったというのがヒナの本音だ。

しかし彼がこんなにも頑固者なら、もっと早く強○的に本体へと戻すべきだったと説得を選んだことを後悔する。

生き霊は体を離れる時間が長くなるほど、彼本人の生活にも影響が出てしまう。

後手に回ってしまったなあ……と、しょんぼりしつつ御札を取り出そうとしたヒナの手を露葉が掴んだ。

「ヒナが諦めるというなら、ひとつ僕に試させてほしいな」

「……ちなみにどんな方法を?」

体を捻って露葉へと振り向こうとしたヒナのうなじに、露葉はチュッとリップ音をさせて口づけた。

「ひゃうっ、ちょっと……ツユさんっ!」

ぞくりと背筋に微かな痺れが走る。こんな時に何をしているのかと文句を言おうとしたヒナを露葉がまあまあと宥めた。

抱きつくようにして正面に回った露葉の腕は、ふにふにと服の上からヒナの胸をまさぐった。

「人前で何しようとしてるんですかっ」

「なにって……ちょっとした実験かな? 食欲はだめでも、人間の煩悩は他にもいろいろあるから」

「だからといってこんなこと……っ」

「いいから、僕に任せてごらん」

「んっ……ですが……」

あそこにいるのは精神体で、いわば体から離脱した潜在意識である。

本人はうっすらと夢を見ている程度の認識かもしれないが、ヒナからしたらたまったものではない。なんせ生き霊とはいえ他人が見ている目の前で、露葉はそういう行為を迫っているのだから。

「ヒナはアレの未練を知りたいんだよね? だから無理に祓うのじゃなくて、心を揺さぶろうと頑張ってる」

「それはそう、ですけど……」

「だったら僕の案も、一度試してみようよ。これでだめなら諦めるってことで……ね?」

部屋着の柔らかなニット越しに乳首を摘まれ、つんと突き立ったそこを今度はやんわりと撫でられる。

「ふっ……うぅ……、あぅっ」

ほんの少し胸をいじられただけで秘所がじわりと疼いた。

人前で恥ずかしいことをしている状況に興奮している。自分自身にヒナは愕然とした。

「ツユさんっ、本当にまって……っ」

「だぁめ。今まで無視し続けていた子がどれほど魅力的なのか、アレにちゃんと教えてあげないと。ヒナに興味がないなら、こっちが何をやってもあのまま床しか見てないよ」

「それはそれでなんかやだっ!」

石像のように動かない生き霊を前にして一体自分達はなにをやろうとしているのか。

酔いが醒めるように淫蕩な気分がふっと抜け掛けたヒナだったが、露葉にふぅっと耳元で息を吹きかけられ、肩がびくりと跳ねた。

「いい子だから、気持ちよくなろう? 僕もそろそろ『待て』の限界……ヒナが欲しいよ」

直球の求めに腹の奥から切なさが込み上げる。

この家に来てからというもの、夜は怪異の相手ばかりで露葉とそういったことをしていなかった。

仕事への使命感が先走り、お預けになっていたのはヒナも同じだ。背中に当たる露葉の体温を改めて実感し、熱い吐息が口から零れた。

抵抗をやめたヒナの部屋着のボタンを露葉が上から順に外していく。

外気に体が冷える前に、露葉の大きな手が開いた服の中へと入れられた。下着を付けていない胸を直接触れられ、膝立ち状態でヒナの腰がひくひくと前後に揺れた。

「はぅ、ん……っ、うぅ……」

「こらこら、声は我慢しないで、たんまり聞かせておあげ。どうせアレの本体は夢うつつで、なあんにも記憶には残らないだろうし」

「やっ、でも……恥ずか、しい……あっ」

「うん。ヒナは恥ずかしいことにたくさん感じる子だものね」

背後から耳に直接吹き込むように囁かれ、羞恥に顔が熱くなる。

否定できない。生き霊とはいえ男の前で露葉に胸を揉まれ、乳首を指で摘んでくりくりとされ、確かにヒナは感じていた。

「……背中を丸めないで、しっかり胸を張って。大きくて柔らかいヒナのおっぱいを、ちゃんと見てもらいなさい」

「む……無理ですっ。それにこんなことしたって、あの人はきっと顔もあげな……い、かと……」

いやいやと首を横に振るヒナの予想に反して、男の顔がぴくりと動いた。微かに顎が上がり、虚に濁った二つの瞳がこちらに向けられる。

彼の視線は明らかにヒナの胸に注がれていて……。

これはこれでなんか腹立つ。

「こんのむっつりスケベがっ!」

怒声に対して生き霊は馬耳東風。全く反応がない。そのことがヒナの苛立ちにますます拍車をかけた。

「なに見てんのよこれまで散々無視したくせに」

「男なんてみんなそんなものだよ」

後ろから聞こえる露葉の得意げな声が悔しくて仕方がない。

これまでの自分の優しさや気遣いはなんだったのかと、脱力しかかったヒナを露葉が後ろから支えた。

「さて、アレも興味を示してくれたみたいだし、今までのぶんもたくさん見せつけてやろうか」

「あっ、ひゃうっ、んっ……ぅう……」

首筋に露葉の舌が這う。反射的に肩をすくめたヒナは乳首を指先で引っ掻かれ、艶かしく体をくねらせた。






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