【R18連載】訳あり侍女の本懐〜第2話(後編)身体の不調を治すため〜
※新作の連載です。
※完結後に本文を修正、書き下ろしを加えた完全版をDL siteで販売します。
【あらすじ】
女には誰にも言えない秘密があった。
男には他人を信じられない理由があった。
主人の祖国を目指す旅の道中で、雇った道案内兼護衛に淫らな尋問で秘密を暴かれそうになる侍女の話。
※当作品はpixivにも掲載しています。
pixiv版『訳あり侍女の本懐』
【目次】
・[0.プロローグ]
(プロローグ:尋問・快楽責め・本番なし)
・[第1話(前編) 昼の駆け引き、夜の密事]
・[第1話(後編)昼の駆け引き、夜の密事]
(第1話:尋問・快楽責め・対面座位・中出し)
・[第2話(前編)身体の不調を治すため]
・[第2話(後編)身体の不調を治すため]←ここ
(第2話:治療・正常位・スローセックス・中出し)
第2話(後編)〜身体の不調を治すため〜
*
秋の終わり。村に行商が来たとき、山の上にはすでにうっすらと雪が積もっていた。
サイディ王国の片隅にある、小さな農村。もとより痩せた土地で作物の実りは少なく、山の恵みに頼ってどうにか生計を立てられる、貧しい村だった。
道具小屋のような小さな家に、彼女は四人で暮らしていた。最後が四人だったというだけで、以前はもっと人がいたのを、おぼろげながらに覚えている。
「たったこれだけにしかならんのか!? 家族三人分にはとてもじゃないがたりんぞ。これでは大人一人が冬を越すのもやっとだ」
「つってもなぁ……」
憤る父親を宥める商人がこちらを見た。ねっとりとした視線が全身に絡みつく。
気持ち悪い。家の隅で膝を抱える彼女は恐怖に身を固くした。
「これでもあんたらの事情を考慮しておまけしてやってんだ。こんな貧相で教養のないガキ、買い手を探すのも一苦労だ。昨今は孤児院のガキのほうがよっぽど肉付きがいいし、礼儀作法だって叩き込まれてるからな」
ニヤニヤと、いやらしい笑みを浮かべながら商人は歌うように話す。
ぐぬぬと、父親が唸った。
「別に断ってくれても構わねえよ。ただなぁ……さっき村長と話していたが、どうやらウチの商いがこの村にとって今年最後になるらしいじゃねえか。このままだと家族全員で冬どころか年を越すのも絶望的なんだろ? 俺はあんたらのことを思って提案してやってんだ」
商品は父親の足元を見ていた。持ちかけた取引を、父親が断らないのをわかっていた。
父親の言う「家族」とは、妻と、母親——彼女からしたら祖母にあたる——その人だけ。大人たちにとって子供はいざとなったら換金できる、道具でしかない。
とうとう自分の番が回ってきた。ただそれだけの話だ。
その年、彼女は親に売られた。
別段悲しみはない。悲しみを覚えるほどの愛情を、ここにいる大人たちに与えられていなかったから。
*
嫌な夢を見た。
眠りから覚めれば気分も晴れるかと思いきや、そんなことはなく。全身の倦怠感と腹部の重い痛みを自覚して、リゼは薄く開いた目をすぐに閉じた。
仰向けに寝ていたところに寝返りを打ち、横向けになって身体を丸くする。しばらく耐えていると、徐々に腹痛は治っていくもジクジクとした余韻が尾を引いて残る。そのうちまた痛みが波となって押し寄せそうな予感がした。
いつ来るかわからない苦痛に怯えて動けずにいると、今度は夢で見た情景が頭の中で勝手に繰り返された。
——どうして、あのときのことなのよ……。
過去から逃げるようにのろのろと起き上がる。リゼの身を包んでいた掛布が上半身からずり落ちた。
「目が覚めたか」
低い男の声に、ぎくりと身体がこわばった。
視線を上げると壁際にギルバートを見つけ、苦々しい思い出が頭から吹き飛ぶ。
「起き上がって大丈夫なのか」
「ここは……? ティエナさまはどちらに?」
警戒心から背筋が伸びた。肉体がどれだけ不調を訴えてきてもリゼはすべてを無視する。我慢は慣れっこだった。
無意識に両手でみぞおちを押さえる。生地が擦れる感触で、自分の着ている服がいつの間にか知らないものに変わっていることに今更ながら気づく。どこから調達したのか、着用しているシンプルなネグリジェはリゼの所有物ではない。胸を抑えるために巻いていた布も外されていて、胸部の圧迫感が消えて呼吸がしやすい。
ギルバートはリゼのいるベッドのそばへと移動して、静かな声で質問に答えた。
「アゼレーの宿の一室だ。ティエナならカノンと街に買い出しへ行ってる。お前を看病するんだと、はりきっていたぞ」
「ティエナさまをこの街へ入れて、あまつさえ外へ使いに出したのですか」
「カノンがついている。滅多なことは起こらない」
弁明に納得せず今にもベッドを抜け出しそうなリゼを「いいから聞け」とギルバートが止める。
「この街はたしかに精霊信仰の過激派が拠点となっているが、アゼレーの住人すべてに奴らの息がかかっているわけではない。しょせんは人目を忍んで活動している後ろ暗い組織だ。警戒は必要だが、街そのものを過剰に忌避する必要はない」
事前にアゼレーと精霊信仰の過激派についてティエナとリゼに説明した際、危機感を持たせるために話を事実よりも誇張したことをギルバートは認めた。
「俺とカノンは何度も奴らとやり合っている。向こうは自分たちが力で敵わないことを十分承知しているから、下手な襲撃は仕掛けてこない。この宿も、信頼できる伝手を頼って借りたものだ」
広々とした部屋に、天幕のついた大きなベッド。カーテンや調度品もひと目で高級品とわかる代物が揃えられている。王城の一室を思わせる豪華な空間だ。
宿屋ではなく、どこぞの貴族の別邸ではないのかと疑うも、リゼが抱いた疑問をギルバートにぶつけることはなかった。
腹痛がぶり返してくる気配が気になって、集中力が続かない。
それにアゼレーがリゼの想定よりもいくばくか安全だったとしても、フィーネの民とってに害のある者たちが潜んでいるのは事実だ。長居するべきでないし、そもそもそんな街にティエナを立ち寄らせてはならなかったのだ。
こうなってしまった原因が自分にあるだけに、頭ごなしにギルバートを責められない。
「お前が眠っているあいだに医者に診てもらったが、身体に異常はなく、原因の特定には至らなかった。疲れが溜まった結果だろうとの診断だった」
「……そうですか」
ほっと胸を撫で下ろすリゼにギルバートが目を細める。
「体内の……目に見えない部分の診察は、魔法を使ったとしても難しいものだ。患者から詳しい症状を聞かずに診断を下した時点で程度が知れる。ヤブ医者とまでは言わないが、時間の無駄だったな」
医者に対してずいぶんな言い様だと思ったが、リゼは沈黙を選んだ。胸の奥にぞわぞわと嫌な感じが広がる。
「お前のそれは、医者が言うように休んでいれば治るものではないだろう」
ベッドのふちに腰掛けたギルバートが、リゼの眼前に小瓶を掲げる。既視感どころではなく、リゼはそれが自分の持ち物だとすぐにわかった。
「乾燥したエガバの種だ。まさかこれをそのまま口にしたんじゃないだろうな」
エガバは大陸全土、安定した雨が降る平地にならどこでも自生している一年草だ。世間的には毒草として知られているが、一部の界隈では薬草として重宝されていた。採取がしやすく安価で取引されるエガバの種は、娼婦にとってなじみの避妊薬なのだ。
ギルバートが持つ小瓶の中に転がる残り少ないエガバの種を前に、リゼは押し黙った。
男の言うとおり、調合次第である程度は副作用を抑えられるエガバの種を、リゼはここ数日間そのまま服用していた。薬として完成させるために必要となる他の素材のストックがなくなってしまい、必要分を作れなかったのだ。リゼの不調の原因は、十中八九そこにある。
——わたしの持ち物をあらためたなら、エガバ以外にもいろいろ見つけたでしょうに。
隠し持っていた数々の薬草には言及せず、いの一番にエガバの実を指摘してくるあたり、心内を見透かされたみたいで落ち着かない。
リゼの沈黙を、ギルバートは肯定と受け取った。
「そこまでして身籠りたくないか」
「……アンタとの子供なんてクソ喰らえよ」
万が一が起きてしまったとき、その子の将来は孕み袋か、種馬か。自分は弱いから、フィーネの民の血を引く子供を、その血と魔力を利用しようとする者たちから守り通せない。
小瓶を取り返そうとしたものの、ギルバートに避けられた。リゼの手が空を切る。
不満を覚えるもリゼはまあいいかと早々に諦めることにした。ギルバートに背中を向けてベッドに横になる。
争うだけ無駄だ。自分で調合しなくても、歓楽街に近い場所にある薬屋に行けば薬は簡単に手に入るだろう。
「自分の血を引く子供は金になるなんて、よく言えたわね。人の命に値段を付ける奴なんて地獄に堕ちればいいのよ」
掛布を被って吐き捨てる。イライラに混ざって、だんだんと腹部の痛みがぶり返してきた。
「どの口が言うかって思ってるんでしょ? ……どうせわたしは出来損ないよ」
ヘル・シュランゲでは人身売買も日常的に行われている。リゼが地下組織の思想に完全に染まっていたら、フィーネの民との子供を組織の繁栄に嬉々として利用しただろう。
それができない、半端者。もう戻れないとわかっているくせに、いくつになっても人の道から外れられない臆病者。
ヘル・シュランゲは怖い。ギルバートが今どんな顔をしているのかも、確認する勇気がなくて振り向けない。わたしはいつも、怖いものから逃げてばかりだ。
はぁ……と、背後から深いため息が聞こえてきてリゼは膝を胸に寄せて身を小さくした。足を引っ張ったことを容赦なく責められるのだと、きつく目を閉じる。
「——すまなかった」
しかしリゼが耳にしたのはまさかの謝罪だった。聞き間違いを疑って、反応が遅れる。
「今回のことで判断を誤ったのは俺だ。お前に落ち度はないのだから、そう卑屈になるな」
丸まった背中に手がそえられたのを掛布越しに感じた。背中を撫でる大きな手に、ふと懐かしさが込み上げる。しかし思い出に浸る間もなく腹部の痛みはだんだんと耐え難くなっていった。
「……っ、……もう、ほっといて……」
「そういうわけにはいかないだろ。お前がそうなった原因は俺にあるんだ。責任は取る」
肩を掴まれ、身体を仰向けに返された。うずくまって痛みを凌いでいたところに背筋が伸びて、リゼの顔が苦痛に歪む。
「ティエナが戻るまでにすませる」
「な……にを……っ」
肩幅の広い男の体躯が覆い被さり、リゼの顔に影がさす。
眼前に精悍な顔が迫る。ギルバートの突然の行動に脳の処理が追いつかず、りぜの思考が一時的に停止した。
さらりと頬を撫でられる。繊細なタッチとは裏腹に、ギルバートの手のひらは荒れてカサつき、皮膚が硬い。武器を握る、男の手だ。
ギルバートの指先がリゼの唇をたどる。
いかがわしい空気が室内を満たしつつある。頭の片隅に危機感が芽生えるもリゼは動くことができず、ギルバートの双眸を凝視し続けた。
透き通る緑色。宝石のようなその瞳に肉体の苦しみを忘れて魅入った。
同じようでいて、あの子とは違うんだ——と、小さな発見に場違いな感動が込み上げる。
ギルバートの瞳にはティエナのようはようなキラキラとした輝きはない。
宝石のような虹彩が濁っているわけでも、かすんでいるわけでもないのに、男の瞳の奥には仄暗い影があった。眩しさを感じない、深みのあるエメラルドグリーン。美しさに混ざる危険な気配から目を逸らせない。
「あ…………」
「口付けに抵抗はあるか?」
問われてふるふると首を横に振る。
気遣いに少しむっとした。さんざんひとを辱めておいて、今さらなんの確認なのかと視線でうかがえば、あやすように側頭部を撫でられる。
「なら構わないな。力を抜いてろ」
ぺろり。
唇に柔らかいものが触れる。温かく湿り気を帯びたそれは上下の唇の隙間をこじ開けて口腔へと入り込み、手前から奥へと歯列をたどった。
「……っ」
舌の上をそろりとギルバートの舌が這う。驚き奥へと引っ込むも、追いかけてきた舌によって引き戻された。
「ふぅ、んっ……っ」
鼻から息が抜ける。頭がふわふわしてきた。口腔内に感じる他人の温度に困惑するも、不思議と抵抗する気は起こらない。
なんでかわからないけど、キスされてる……、……気持ちいい……。
心地よさが思考を奪う。同時に胸のむかつきや胃の痛みがやわらいだのに、リゼは気づけなかった。
しばしうっとりと口付けを甘受していたリゼだったが、ふと唇が離れたところで我に返る。
「ふぁ……ぁ、や……だめ……っ」
「大丈夫だ。すぐに楽になる」
唇が離れ、低い声の囁きに背筋がわななく。解放されたのはほんの数秒のことで、またすぐに口を塞がれた。
クチュ……、クチュリッ、クチャ……ッ。
口内で互いの舌が絡まり、唾液が混ざり合う。
頬を紅潮させたリゼはギルバートのキスに翻弄され続けた。
キスに夢中になるほどに、肉体の不調が消えていく。苦痛を一時的に忘れたわけではなく、身体をむしばむ悪いものが根本からなくなっている。こくりと喉の奥に溜まる唾液を嚥下すると、胃に感じていた重みがすうっと引いた。
「はっ……ぁ、…………? な……に……?」
自分に起こっていることが理解できず困惑するリゼを見て、ギルバートはわずかに目元をなごませた。
「フィーネの民の血肉はあらゆる病を治す万能薬になる……と、聞いたことはないか?」
「し……知らない」
「大陸の東側だと誰もが知っている伝承だ。ほとんどの者は本気で信じてはいないがな。これ自体はただの迷信だが、一部真実も含まれている」
リゼの口端からこぼれた唾液を、ギルバートの指がぬぐった。
「フィーネの民は自身の体液に魔力を乗せて、他者の肉体を内側から治すことができる。古くからトロスラライに伝わる治癒魔法だ」
唾液のついた指が口内に入り込み、舌の表面をなぞる。リゼは唇を窄め、ギルバートの指にちゅうっと吸い付いた。深い意味はない、完全に無意識での行動だった。
「……いい子だ」
ギルバートの自由なほうの手がリゼの胸元に置かれる。
「ここにある俺の魔力がわかるか? ……抗わなくていい……、力を抜いていれば、ゆっくりとなじんでいくだろう?」
穏やかな声音に誘導されるようにして身体から力が抜ける。
口腔をまさぐる指に頬の内側をくすぐられてむず痒さを覚えるも、リゼは嫌がるそぶりを見せなかった。
身体の胸から上がほんのりと温まり、頭が次第にぼんやりとしてきた。暖かさを帯びた気配に肉体が中から守られている感覚。これがギルバートの魔力なのかとぼんやり思うと同時に、胸の奥から強い安心感が込み上げる。
疲労も合わさり睡魔がリゼの意識を遠ざける。しかし眠りにつく前に、思い出したようにジクジクと下腹部が痛みだした。胃痛や全身の怠さはある程度解消されたものの、エガバの実の効能が最も及んでいる子宮の痛みまでは取り除けなかったようだ。
「……ぅん、ぁ……うぅ……」
眠たいのに、ズンと重い痛みが邪魔をして眠れない。
それでいい。これはエガバの実の薬としての副作用だから、むしろ残っていないと駄目なのだ。
わかっているのに、いつまで経っても楽になれない事実を受け止めきれず、リゼの瞳は涙で潤む。
「ぁ、やぁ……」
口から指が離れていく。弱った心に寂しさが上乗せされ、たまらずリゼは自らの手をのばしギルバートの手にすがった。
「も……やだっ、くるし、ぃ……」
「大丈夫だ、すぐ楽になる」
掴んだ手を掴み返され、指を組むようにして片手をベッドに縫い止められる。
胸に置かれていた手が腹部へ、そして脚元へと下る。寝巻きの裾を捲り上げた。太腿を滑るように指がつたい、両サイドにあるショーツの結び紐がしゅるりとほどかれる。
「あ、や……だめっ。それは……っ」
秘部を隠す布が取り除かれ、ギルバートがしていることを察したリゼは慌てて不自由な身を捩った。
「エガバの毒は主に女の性器に作用する。口からよりも、直接精液を注いだほうが解毒はたやすい」
「でも……それだと子供が……」
副作用をなくすためにギルバートの子種を受け入れていたら本末転倒ではないか。
波のようにぶ引いては強まる痛みに怯えながらも渋るリゼに、ギルバートが小さく息を吐き出した。
「わかった……、あとで俺の持っている避妊薬を飲ませてやる。材料にエガバを使用していないトロスラライ製のものだから、副作用の心配もないし、服用も一度きりで済む代物だ」
「……どうして、そんなの持ってるのよ」
純粋な疑問に、訊いた相手は悪びれもせず淡々と答える。
「娼婦に飲ませる以外に何がある」
そりゃそうか。ギルバートも男なのだから、一夜の相手を求めることぐらいあるだろう。行きずりの女ではなくその道の商売人を選ぶあたり、ある意味健全なのか?
一応の理解は示せるも、リゼの心境的に完全には納得しきれない。
「……一夜限りの娼婦に対してだってそこまで警戒できる男が、なんでわたしなんかに中出ししたのよ……」
「……そうだな、軽率だった」
あっさりと非を認めるも、男の声にはまったく反省の色が見られない。あまつさえ開き直ったような態度に、リゼはひくりと口端を引きつらせた。
「責任を取ると言ってるだろう。何もしなくていいから、力まずに力を抜いてろ」
くぷり……。秘裂に食い込んだ指が膣の入り口を撫でた。
「治せるとはいえ、身体が弱っていることは変わらないからな。できるだけ負担をかけないように努める。……苦しい思いはさせない」
「……ぁっ、ちょ……っ、まって……んぁ」
くるくると指の腹が膣口をたどる。くすぐったさに身を捩るも、ギルバートの手は秘部を離れない。
ゆるやかな刺激にじわじわと膣が潤い、愛液が指に絡まる粘着質な音がリゼの耳にも届いた。
腹痛でそれどころではないはずなのに、身体は些細な愛撫に快楽を拾い、雄を受け入れる準備を始めている。
咥えるモノを待ち侘びた膣が収縮しているのがわかる。自らの淫乱さにリゼは顔を真っ赤にして、ギルバートから視線を逸らした。
「んん……ぅ、あっ……ぁあ……」
濡れそぼった膣道へ、長い指がするりと入り込む。ナカの具合を確認してあっさりと引き抜かれたかと思えば、すぐに二本目が挿入された。
膣道を押し広げて最奥へと到達した指先が、柔らかい肉壁をゆるく引っ掻く。
ひくんっと、リゼの腰が小さく跳ねた。
二本の指が膣奥で開かれ、そのままゆっくり入り口へと戻る。膣壁のうごめきをものともせず、肉襞をめくりあげながら浅い位置まで戻ったところで、指が軽く曲げられた。
グジュリ、ヌチュゥ……。
膣口の窄まりから引き抜かれたのと同時に、愛液がこぽりと溢れ出る。
秘裂を流れる蜜をギルバートが指で掬う。
絶えず響く卑猥な音に耐えかねて、リゼはきつく目を瞑った。
目からの情報を遮ったところで男の刺すような視線を肌にひしひしと感じ、羞恥に身体がカッと熱くなる。
たまらずベッドに縫い止められたままの右手でギルバートの手を握れば、それ以上に強い力で握り返された。
どうやったってギルバートからは逃げられない。だったら逆らわずに受け入れたほうが楽なのでは……。
諦めに近い感情が場違いな安堵感に変わっていく。
リゼの身体から力が抜けたのを見計らい、三本の指が膣内に挿入された。肉壁を押される圧迫感は、リゼにとってまぎれもない快楽だった。
——気持ちいい……、もっと……ほしい……。
あくまでも肉路の拡張を目的として動く指は、感じるポイントをあえて外して肉壁を擦る。思うように快楽が拾えないもどかしさに、リゼの脚が自然と開いた。
「ふっ……ぅ、んぅ……う、ぁっ……うぅ」
刺激を求めて無意識に腰を揺らす。きゅうきゅうと締まる膣の中、ぐるりと三本の指が回された。クリトリスの裏側を抉るように押され、背中がわずかに仰け反った。
「うぁっ、ぁ……ぐ、ぅ……っ」
リゼが苦しげに眉を寄せた。
ジクジクとした痛みに紛れて子宮が疼く。苦痛と快感が入り混じった腹部の感覚にどうしていいのかわからず、とうとう目から涙がこぼれた。
「きついか?」
膣内から異物感が消えた。
覆い被さる気配にうっすらと目を開く。互いの唇が重なったとき、リゼがねだるように舌を差し出す。
誘いに応じたギルバートに舌先をちゅっと啄まれた。逃げるように引っ込んだ舌を追いかけて、唾液を乗せた男の分厚い舌が口内に押し入る。縦横無尽に動きまわる舌に翻弄され、リゼはくたりと身体を弛緩させる。
口腔に溢れる唾液をこくりと飲み込む。すると胸の奥から暖かさが全身に染み渡り、下腹部の痛みがわずかにやわらいだ。だんだんと意識がぼんやりしていく。
「そうだ……そうやって俺に任せていればいい……」
低い声に従いリゼはくたりと全身を脱力させる。しかし秘部の疼きは依然として治らず、膣内は刺激を求めて切なくうごめいていた。
「はふ……ぁっ、あ……ナカ、もっと……あついの、ほし……いっ」
願望が言葉となって口からこぼれる。望んだとおりに、秘部に熱い塊が当てられた。
ぐぷ……、ズヌリ……ググゥ……。
ペニスの先端がじわじわと膣口を押し開く。一番太い部分が通過した直後、カリに沿って入り口が窄まる。ゆっくりと時間をかけた挿入に肉棒の存在を強く感じ取り、リゼは熱のこもった吐息をこぼした。
「……ん、んぅ……、あ……あぁ」
狭い肉筒を広げながら奥を目指すペニスを余すとこなく感じ入る。
ギルバートはリゼに痛みを与えない。身体に負担をかけないよう細心の注意を払ってゆっくりとした速度で進む熱棒は心地よくもあり、同時にじれったかった。
片方の手はリゼと繋いだまま、ギルバートの自由な手に下腹部を撫でられる。手のひらの温もりが肌を通して子宮へと伝わり、心なしか重苦しい痛みがやわらいだ。
するとそれまで以上にペニスがもたらす快感が明瞭になり、リゼを快楽の渦へと引き込んだ。
「あ、つぃ……んっ、はぁ、ぁっ、……ナカ、いっぱいで……きもちぃ、の……ぁっ、ぁん……っ」
なぜ自分はこの男とセックスをしているのか。そもそもの目的が曖昧になってしまう。長旅で疲れた身体にもたらされる穏やかな快楽は、リゼから理性を根こそぎ奪っていった。
とちゅ……。最奥に到達したペニスがわずかに子宮口を押し上げた。下腹部に張り詰めた痛みがあったのは最初だけで、すぐにペニスの刺激がすべての苦痛を凌駕する。
腹の奥から痺れを伴う熱が全身へと広がる。肩をふるりとわななかせ、リゼは悦楽を享受した。
臍の下から薄い茂みへと身体の中心をギルバートの親指がたどる。指圧された胎の中、動かない肉棒にじらされて膣壁がうねった。ナカはきゅうきゅうと締め付けペニスに媚びて、さらなる快感を引き出そうとする。
静かな室内ではリゼの荒い息遣いが何よりも目立ち、ときおり甘い鳴き声が小さく響いた。
「……つらくないか?」
「……ぅんっ、……へ、いき……だから……んっ、もっ……と……っ」
正気の自分が聞いたら恥辱に悶絶しそうなおねだりが自然と口からこぼれる。どろどろに溶けた思考では自分自身を顧みる余裕がなく、ただ欲望に忠実にさらなる快楽を願うばかりだ。
……ズヂュ……。ギルバートがほんの少し腰を引いた。
熱の塊が子宮口を押し上げる圧迫感が薄れたのと同時、肉竿がズルリと膣道を擦る。
「あっ……ぁ……っ、んっ、……はぅ……っんん」
わずかな動きからも発情した肉体は快感を拾い上げ、ぞくぞくとした痺れが全身を駆け巡る。リゼは目蓋を落として愉悦を堪能した。
己のペニスに感じ入る彼女の表情を前にギルバートは目を細め、密かに熱のこもった息を吐き出す。
余計なことは言わない。リゼが正気に戻ってしまうから。
敵も味方もこの行為の目的すらもを忘れて悦に浸る彼女の姿にたまらなく興奮する。
無茶苦茶に犯したい欲求を鋼の精神で自制して、ギルバートは自らの役目を遂行すべく慎重に腰を動かした。
膣道の中ほどまで引き抜かれたペニスが、またじわじわと奥を目指す。
「は……ぁっ、ぁ……はぁ、は……っ、ぁっ……」
遅い速度の抜き挿しが繰り返され、心地よい快感が延々と続く。リゼの肉体の昂りは一定に保たれ、いつまで経っても絶頂の気配は訪れない。
激しさのないゆるやかな抽挿に物足りなさを覚えるのは早かった。
腰をくねらせて身悶えるリゼが、腹部に置かれた手に自らの手を重ねる。涙で滲んだ瞳で縋るような眼差しを向ければ、ギルバートはリゼの手を掴み、右手と同様にベッドへと縫い止めた。
リゼの視線を釘付けにして、ギルバートがねっと胸の頂を舐めた。生温かく濡れた舌が這う感触に呼応して下腹部がヒクヒクと小刻みに震える。
締まる膣道を亀頭がこじ開けながら進んだ果てに、先端が子宮口に当たった。
「はふ、ぅぁっ、あぁ……んっ」
重い一撃に背中がしなり、はからずもギルバートに胸を突き出すかたちになる。
膣の最奥をペニスでこねられながら、胸の先端を口に含んだその中で、乳首を舌先で転がされる。
「んぁ……あぅっ、んん……ぃっ……、あ……ああんっ」
突然リゼの腰がビクンッと跳ねた。ゆったりと身体に注がれ続けた快楽が限界に達し、器の縁から溢れるようにゆるい甘イキを味わう。
快感が小さな波となって次から次へと押し寄せる。そのたびに膣壁は収縮を繰り返し、熱くたぎるペニスの脈動をリゼは己の内側で感じ取る。
「ふぁ……あ、ぁっ、ふ、……ぅんっ……はっ……はぁ……あっ」
恍惚とするリゼに、胸から顔を離したギルバートが口付ける。小さく口を開き、リゼはためらいなく受け入れた。
口を塞がれ、息苦しさに顔に熱が集中して、意識が溶けていく。
男の施しに安心する。なんの疑問もなく身を委ねる自分自身に危機感を抱く余裕はとうにない。
ググ、グ……グゥ……と、硬い鬼頭に子宮口を優しくこねられるたびに、身体の中心から押し出されるようにして快楽が全身を駆け巡る。
下腹部の痛みはいつの間にか消えていたが、淫らな海に溺れるリゼはそのことに意識を向けられない。しかし気づいたところで、この淫らな愉悦から逃れたいとは到底思えなかっただろう。
征服者に主導権を握られているというのに、怖くない。それどころか、肉体の内側に感じる男の熱に守られているようにすら思えて、ためらいなくギルバートに身を任せられた。
うっとりと、されるがままにキスを享受し、自ら脚を大きく開く。
口付けの合間にギルバートがふっと穏やかな笑みを浮かべた。
たったそれだけのことで自分が誉められているような気がして、男の些細な仕草に幸せで胸がいっぱいになる。
「……ふふっ、んっ……っ、あっ、……んぅ————っ……」
とぷり……。
ギルバートにつられて微笑んだ直後、不意に身体の奥深くで熱が爆ぜた。
吐精中のペニスが子宮口に食い込むほどに押し付けらる。重い快楽に身悶えるさなか、灼熱の奔流が胎内を満たしていった。子宮に渦巻く熱の刺激に、リゼは快楽の絶頂へと昇り詰めた。
「んあぁっ、あっ……ぃ、イ、く……っ、イッ……て、あっ、ぁ……っ」
ヒクン、ヒクンッと腰が断続的に小さく跳ねる。膣の内壁は小刻みに震えながらも締めつけを強くしてペニスに絡みついた。
まるで精液を最後の一滴まで搾り出そうとするかのような動きにギルバートが息を詰まらせる。余裕をなくした男の気配を間近で感じ、わずかな優越感が心の奥底から湧き上がった。
「ぁ……はぅっ、あっ、まだ……ぅあっ、あぁ……ぁっ、んぁっ」
絶頂感は長く続いた。子宮に蓋をするようにギルバートがペニスの先端を最奥に押し付けてくるものだから、いつまでも快楽が終わらない。
「ナカの感覚はわかるか?」
問いかけに、リゼは素直にうなずいた。
「あ……わか、る……」
言いながら、身体の中心へと意識を向ける。
「あったかくて……、じーんとてしてて、ぁっ、ん……っ、……きもちぃ、の……」
もう身体のどこにも、エガバの実の影響は残っていない。
果たしてそれはリゼにとって喜ばしいことなのか。今のリゼでは考えがそこまでは到底及ばず、うっとりとギルバートのもたらす快楽に酔いしれた。
「そうか……ならいい」
それをギルバートが肯定するものだから、なおさらリゼの理性は深い水底に沈んでしまう。
心地よい疲労感に目を閉じると、意識せずともしだいに身体から力が抜けていった。
◇ ◇ ◇
肉体の交わりによって互いの魔力を高めあう術は各地に見られるものの、自らの体液を媒体として、魔法で対象者を治癒できるのは広い大陸においてもフィーネの民だけだ。
病や怪我に関係なく、肉体の内側を治す魔法としては患者の自己治癒能力を高めたり、悪い部分を消し去ったり、負傷した血管を繋げたり、骨を固定したりと現代ではさまざまなやり方が確立されている。しかし外からは見ることができない肉体の内部を治癒する魔法には解剖学の知識が必要となるため、魔法医の数は極端に少ない。
治癒魔法を得意とするティエナですら、本来なら致命傷となる外傷を即座に完治させることはできても、体内を蝕む病の治療は専門外なのだ。
トロスラライの外で育ったティエナは、フィーネの民が独自に使える魔法を知らない。
もしもティエナがトロスラライの治療魔法を体得していたら——と、そこまで考えてギルバートは小さく首を振った。しょせんは無意味な想像でしかない。
リゼの呼吸が落ち着くのを待って、身体を清め衣服を整えてやる。うつらうつらとまどろむ彼女はされるがままだった。
途中、ギルバートはなんとなくリゼの右手を掬うように持ち上げた。そこに自身が付けた傷はない。きっとティエナが治したのだろう。
傷跡が残らなかったことに安堵しつつも、ギルバートの心境は複雑だ。気づかぬふりでやり過ごすには、心のモヤモヤが強すぎた。
できることなら自分が治してやりたかった——なんて、自己満足にもほどがある。わかっていながらティエナに感謝できない自身の浅ましさから、うなだれるようにため息を吐き出した。
リゼの手をそっと戻し、ギルバートはベッドのふちから腰を上げる。——が、完全に立ち上がる前に袖を引かれた。
「……り…………くす、り……」
か細い声でリゼが呟く。薄く開く瞳はうつろで、今にもまぶたが閉じてしまいそうだ。そんななかでもリゼは掴んだ袖を離そうとしない。
要求が叶えられない限りは諦めそうにないリゼに、ギルバートは無表情の裏側で迷った。
——別に孕ませても問題ないのでは……?
不義理な誘惑が脳裏をよぎる。悪くない案だと思いつつも、ギルバートは収納魔法を展開してトロスラライ製の避妊薬を取り出した。ここでも偽薬を使うか迷ったが、結局最後はなけなしの誠意に従った。
自らの欲望よりも、男はリゼとの口約束を優先したのだ。
サイドテーブルに置かれた水差しの水をグラスに注ぎ、口移しでリゼに薬を飲ませる。
華奢な身体をベッドに横たえさせ、そっと掛布をかけてやる。
「これでいいだろ。心配事がなくなったならもう休め。体調もじきによくなる。……ティエナにはまだ、お前が必要だ」
最後の付けたしは自分への言い訳だ。
「……ティエナと別れたあと、お前は組織に戻るつもりなのか……?」
訊いてはみたが、答えは期待していない。リゼはとっくに眠りに落ちていたし、たとえ起きていたとしても彼女はまともに返してくれなかっただろう。
リゼの甘さはヘル・シュランゲとの関わりを考慮すると非常に危険だ。その影響はリゼと行動を共にしている自分たちにも及びかねない。
彼女が根っからの悪人だったなら、ここまで気を揉むこともなかったというのに。
甘さという点では自分も人のことを言えないかと、ギルバートは深く息を吐き出した。
リゼがティエナに向ける愛情は疑う余地がない。あれが演技だというなら、ギルバートとカノンは完全にリゼの術中にハマっていることになるわけだが……。
「……そう単純なものではないか」
時と場合と状況と。あるいは出来心や気分によっても、人間の心は案外ころころと簡単に変わるものだ。
信念を貫き続けることの難しさは、ギルバートも痛感していた。
ギルバートはしばらくリゼの寝顔を見つめていたが、小さなノックの音を聞いてギルバートは出入り口の扉へと振り返った。
開いた扉の隙間からティエナが顔を覗かせる。目が合うと彼女は無言でちょいちょいと手招きした。
ギルバートは名残惜しそうにリゼをちらりと見て、部屋をあとにする。廊下には買い出しから戻ったティエナとカノンがいた。
「リゼは?」
ティエナに小声で尋ねられる。
「薬が効いて眠っている。ゆっくり休めばそのうちよくなるだろう」
「そう……」
うなずきはしたものの、ティエナの表情は晴れない。しかし憂いを見せたのは数秒のこと、リゼのいる部屋の扉を一瞥し、ギルバートへと振り向いた彼女はにっこりといつもの明るい笑みを浮かべていた。
「じゃあ、あとはわたしがリゼを看るから、ギルとカノンはお屋敷の警戒をお願いね」
「箱入りのお嬢様に看病ができるのか」
「当然よ。えっと……、リゼが熱を出したら、冷たく濡らした布をおでこに乗せて頭を冷やして……、汗がひどいな優しくぬぐって、喉が渇いたら水を飲ましてあげて……、目を覚ましたときにひとりだと心細いから、ずっと傍にいるのよ」
じゃあそういうことだから……と、言い終わったティエナは颯爽と部屋の中へ消えた。
ひとつひとつ思い出しながら言葉を紡ぐ姿は、まるで自分の経験と照らし合わせているかのようだった。
かつて一国の王太子の婚約者でありながら王城で冷遇されていたティエナが床に伏した際、誰がそうやって彼女の世話をしたのか。ギルバートもカノンも、特に考えを巡らせなくても簡単に答えにたどり着けた。
たとえ裏にどんな意図が隠れていようと、リゼの献身がティエナの心を支え続けていた事実は変えられないのだ。
「姫さまはともかくとして、あなたまでほだされたなんてことになったらさすがに笑えませんよ」
部屋の扉から目を離そうとしないギルバートへと、カノンが厳しい視線をよこす。
「ケルドンテ商会が蛇の毒牙にかかりました。トップがヘル・シュランゲの息がかかった者にすげ替わるのも時間の問題です」
二人きりのとき、カノンはギルバートに敬語で話す。耳打ちでされた報告に、ギルバートはわずかに目を細めた。
大陸東部の地下組織であるヘル・シュランゲは、現在大陸西部へ急激に勢力を伸ばしている。
ヘル・シュランゲが拠点を置くサイディ王国が大陸において影響力を強めているのも理由のひとつだが、何よりの原因は大陸を東西に分断していたテュエッラ川に掛かる橋の長年の修復が終わり、人々の行き来が再開されたからだろう。
ティエナとリゼも大陸の西側へ渡る際にその橋を利用した。
カノンがちらりと扉を見やる。
「彼女にどんな事情があったとしても、あの手の組織は一度関係を持ってしまうと、関わりを断つのは不可に近い。あなたは姫さまに、あなたと同じ轍を踏ませるつもりですか」
苦言にギルバートは反応を返さず、カノンへ目を向けようとすらしない。それはカノンが芝居がかった大げさなため息を吐いても同様だった。
「そんなに彼女が気になるなら、いっそのことトロスラライで囲ってしまってはいかがですか。国内に連れ込んで逃げられないよう繋いでしまえば、地下組織だろうと完全に接触ができなくなりますからね」
投げやりに言い放つもギルバートは上の空だ。こりゃ重症だとカノンはあからさまに肩をすくめる。
「それもありか……」
時間をおいて呟いたギルバートの言葉はばっちりカノンの耳に届いた。
真剣に検討を始めてしまったギルバートに、カノンはますます呆れ果てがくりと肩を落とした。
【続く】