Final_Fiend 2024/05/10 08:38

NTRハーレム番外編 朱雀院紅葉が竿役おじさんのモノになる話

 巨大な門構えの洋風な邸宅の前に、一人の女性が佇んでいる。

 彼女の名は朱雀院紅葉。

 朱雀院四姉妹の長女であり、撫子の姉。

「ここが、片丘剣道場……」

 彼女が来ていたのは、近頃世間を賑わせている新興の剣道場。ごく最近設立されたにも拘らず、複数の番付演武士を抱える疑惑の道場でもある。

 そしてもう一つ、世間に大きなインパクトを残している家でもあった。

 近年導入された一夫多妻制。それに基づいて、大奉演の刀仕権宮司である朱雀院撫子と、番付第二位であった九鬼旭、及び撫子の介添人であった風嶺初乃が、この道場の主である中年の一般男性に嫁いでしまったのだ。

 ただの結婚ではない。朱雀院家は武家の頭領であり、佩刀護身会を束ねる長でもあるのだ。その宗家の娘が、どこの馬の骨とも知れぬ中年男性に嫁いで家を出たとなれば、朱雀院の面子に多大な影響を与えてしまう。朱雀院の家の者は武家の頭領に相応しい振舞いをせねばならないし、その家名に相応しい相手を婿入りさせるのが当然であるのだ。

 その上、佩刀護身会の内部では勢力争いが激しい。朱雀院を蹴落とし、頭領の座を狙わんとする家も多い。よって、他家に付け入る隙を作るという意味でも、撫子の結婚は朱雀院家にとって大きな悩みの種であった。

 本来なら、そんな撫子の手綱を握るはずだったのが初乃だ。でも、彼女もまたこの剣道場に嫁いでしまった。それは朱雀院にとっても、その座を揺るがそうとしていた風嶺にとっても痛手だった。

 佩刀護身会の立場を利用して圧力をかけることも考えられたが、今の撫子は刃道の頂点たる大奉演の番付第一位、刀仕権宮司。彼女こそが世間に向けた大奉演の顔である以上、単なる自由恋愛の延長に過ぎないスキャンダルに罰を与えてその座を剥奪することは出来なかった。

 よって、秘密裏に処理する必要がある。その為、それを実現できる人員が起用されたのだ。

 ……というのは、表向きの理由。紅葉がここまで出張ってきた本当の理由は、もっと簡単だ。

 大事な妹と学友を誑かした悪い男を叩きのめす。ただそれだけ。

 紅葉は肩から提げた霊式機巧刀――通称オリガミの柄を強く握る。そこには強い意志が現れていたのだが。





「失礼します――」

 来賓室のドアを開けた瞬間、異様な匂いが紅葉の嗅覚を刺激した。

 それと同時に、何者かの喘ぎ声が彼女の耳朶を打つ。

「お゛っほ♡ イっぐぅっ♡ ふとっちも、いっしょにっ♡」

 間仕切りの向こうから聞こえてくる声に、紅葉は良く聞き覚えがあった。

「この声、まさか……梨々夢!?」

 紅葉は素早く壁の向こう側へ。そこでは彼女のかつての級友であった十部梨々夢が、肥え太った男に後ろからペニスを突き入れられていた。

 両腕を掴まれ、立ったまま何度も腰を打ち付けられている梨々夢の姿に、さしもの紅葉も一瞬呆気に取られたが、すぐに正気を取り戻す。

 来客を呼んでおきながらセックスとは何事かとか、そもそもなんで梨々夢がここにいるのかとか、そんなことは紅葉の頭からすっ飛んでいた。

「この、梨々夢から――」

 離れろ、と言おうとして気付く。彼女の機先を制するように、旭と撫子がいつの間にか紅葉の両隣にいるのだ。

「ダメですよ紅葉。二人は今、商談の最中なんです」

「もうちょっとだけ待っててね、お姉ちゃん」

 二人とも私服ではあるが、その腰にはオリガミを佩いている。紅葉同様に臨戦態勢という訳だ。

 勿論、許可なくオリガミを起動することは犯罪に当たるため、三人ともここで抜く気はないのだが。

 それでも、いざとなれば――という意思は共有されたようであった。

 そんな三人を余所に、『商談』はいよいよ大詰めを迎えていた。

「ふとっちっ♡ 出してっ♡ あたしのナカにっ、全部っ♡」

「いいぞ、子宮で受け止めろ梨々夢ッ」

 男は梨々夢の尻に腰を打ち付けたまま、ぴたりと動きを止めた。荒い息と共にピクピクと全身を震わせる。

「お゛っ♡ お゛ぉぉぉぉぉぉっ♡ ナカに、熱いのがっ♡ 量やっばぁ♡ マジ惚れるんだけどっ♡」

「おぉぉぉ……孕め、孕んで嫁になれ……じゅるるるるっ」

 梨々夢の背に覆い被さった男は、彼女の耳に舌を這わせ、唇で咥え込んだ。

「あっ♡ 耳、ダメっ♡ なんでっ♡ ふとっちに舐められてるだけで、アソコがキュンキュンしちゃうっ♡」

「嫁に来い……好きだ……愛してるぞ梨々夢……」

「ちょっ、そんなんずるいって♡ ふとっちのイケボで囁かれて、断れるわけないっしょ♡」

 嬉しそうに笑みを浮かべ、頬を染めて身体をくねらせる梨々夢の姿は、まさしく恋する乙女であった。

 やがて射精が終わると、男はペニスを引き抜いていく。

 ずるりと露出したそれを見て、紅葉は目を丸くした。

(何あれ……伊織先生のより、ずっと大きい……♡)

 彼女が知る男の象徴とは何もかもが違う。太さも長さも形状も全てが規格外、あらゆる女を虜にすることが可能とすら思わせる威容。

 愛する者と何度も身体を重ねたことがある紅葉をしてなお、初めて見る代物だった。

「ふあー……めっちゃ気持ち良かったー……♡ てか、ふとっち出し過ぎ♡ 本当に孕んじゃってるかもね♡」

「そうなったら責任取るから、ウチに嫁においでよ」

「おっけー♡ 末永くよろしくね、ふとっち♡」

 身体をよじりながらキスを交わす梨々夢に、それまで控えていた初乃が声をかける。

「それで、例の件ですが……」

「ああ、それも話まとまったよ。LILIMASはこれから片丘剣道場のスポンサーになるから。よろしくね、ういのん」

「……っ! はい、よろしくお願いします!」

「ひとまずは商談成立、ですか」

 旭の視線は冷ややかだ。だがそれは、梨々夢を嫌っての事ではない。

 ただ単に、自分との時間がまた減ることを憂慮しているだけだ。

 一方の撫子は、キラキラと目を輝かせている。

「LILIMASがスポンサーに……ってことは、オリガミとか霊式具装とか、色々デコり放題ってことに?」

「いいよ、欲しいのあったら遠慮なく言ってね」

「やった~!」

 未だに下半身を露出したままそんな話をする異様な光景に、紅葉は軽く眩暈すら覚えていた。

 それでも、浮かんだ疑問を口に出さずにはいられない。

「撫子も、旭も、梨々夢も……本当にどうしちゃったの?」

 何をどうやったら、この三人が贅肉だらけの冴えない中年男と喜んでセックスをし、あまつさえ結婚までするというのか。

「どうと言われましても、わたしは太志さんを愛しているだけの事です」

「そうそう、私と太志さんは真剣なんだよ」

「まあわかるよ、あたしも最初はもみっちと同じ気持ちだったから。でも……これ知ったら、惚れんなって方が無理な話じゃん?」

「それに、伊織さんは紅葉を選びましたから」

「だったらあたしらだって、他の男を選んだっていいじゃんね」

 それでも紅葉は受け入れられない。撫子はともかくとして、少なくとも旭と梨々夢の二人が、下卑た笑みを浮かべる中年太りのエロオヤジを異性として好むとはとても思えなかった。

 だが現実に、彼女たちは一人の中年男に恋をしている。誰があり得ないと断じた所で、実際にそうなっているのだからどうしようもない。

 この異常な状況に飲み込まれる前にと、紅葉はどうにか話の主導権を握ろうとする。

「はぁ……もう分かりました。そろそろ本題に入っていいですか」

「おっと、すまないね。お待たせしてしまった」

 ペニスの汚れを雑に拭き取り、未だ勃起したままのペニスを四苦八苦しながらズボンに収める中年男。当然そんなモノが綺麗にしまえるわけもなく、ズボンには剛直の形がくっきりと浮き出ていた。

 視線をそこから逸らしつつ、紅葉はソファに腰掛け、居住まいを正す。

「初めまして、朱雀院紅葉です」

「こちらこそ、片丘太志です。それで今日はどのようなご用件で?」

「……単刀直入に言います。撫子と別れてください」

「ええっ! やだよ、太志さんと別れるなんてい~や~!」

 撫子が割って入るが、紅葉はそちらに厳しい視線を向ける。

「撫子はちょっと黙ってて。これは私とこの人の話だから」

「私も当事者なんだけど!」

「あー、うん。撫子は静かにしてようか」

「初乃も!? 裏切られた!」

 涙目でしゅんとする撫子を見て、梨々夢は思わず笑みを漏らす。

「もみっちが前に言ってたけど、確かになんかせっちゃんっぽいね、この子」

「ええ。昔を思い出しますね」

「こほん。それで、返答をお聞きしたいのですが」

「ふむ、答えは決まってるけど、理由だけ聞こうか。大方、撫子が名家の生まれだからとか、そんな事だろうけどねぇ」

「ええ、その通りです。分かっているなら話は早いですね」

「うんうん、当然お断りだ」

 来賓室に緊張が走る。和解はない、そう確定したからだ。

「……何故ですか?」

「オジサンも、撫子を愛してるから。それだけだよぉ」

「太志さぁん……」

 みっともないナリをした中年男の愛の言葉に胸をときめかせる撫子。やはり異常な光景だが、もう慣れたとばかりに紅葉は軽く頭を振る。

「どうあっても、こちらの要求に従うつもりはないと。そういう事ですね?」

「もちろん」

「朱雀院が総力を挙げてここを潰しにかかっても?」

「脅しのつもりかな? 受けて立つよぉ」

 挑発的な笑みを浮かべる男。恐れを知らないのか、それとも朱雀院を知らないのか、はたまた両方か。

 机を挟んで睨み合う二人。いずれにせよ、この男は撫子を手放す気はない、ということは紅葉にも伝わったようだった。

「わかりました。ならば、武家の作法で解決しましょう。……片丘太志さん、私はあなたに決闘を申し込みます」

 男の背筋が伸びた。彼の他の妻たちも顔を強張らせる。

「決闘というと、刃道で、だよねぇ?」

「当然です。あなたはここの道場主なのでしょう? ならば、剣で語るのが作法というものです」

 紅葉は当然とばかりに言い放つが、太志は困ったとばかりに頬を掻く。

「いやー、実はね……オジサン、オリガミ使えないんだよぉ」

「……は?」

 途端に呆れ顔になる紅葉。初乃がやれやれと言った顔で補足する。

「実は、太志さんは精神感応値が人並み以下しかなくてですね……刃道は出来ないんですよ」

「えぇー……あれだけ啖呵切っておいて……」

「道場主って事にもなってるけど、お飾りみたいなものでねぇ。実際の運営は初乃に任せっきりなんだよぉ」

「……という訳なので、試合という事なら名代を立てたいのですが」

「…………まあ、別に構いませんけど」

「ありがとうございます。では、こちらからは――」

「はいはーい! 私、私がやります!」

 勢い良く手を上げたのは撫子だ。旭も何か言いたげだが、ぐっとこらえた。

「そうですね、この勝負は負けるわけにはいきませんから。刀仕権宮司である撫子さんが戦うのが良いのでしょうね」

「姉妹対決ってのも面白そーじゃん? あたしも見てみたいなー」

「はい決まりー! 私が相手だよ、紅葉お姉ちゃん!」

「はぁ……そういうことでよろしくお願いします」

「……ごめんね、ウチの妹が……」

「それでそれで、試合はいつ? この後? 今すぐ?」

「気が早いったら。……私は最初からこうなるつもりで来てるから、すぐにでも出来るけど」

「じゃあそうしよう、すぐそうしよう!」

 テンション最高潮の撫子に、紅葉が頭を抱える。慣れっこな初乃は華麗にそれをスルーして、冷静に詳細を詰めていく。

「では、勝者の報酬は?」

「私が勝ったら、撫子と別れてもらう。そちらが勝ったら、私は手を引く。それで――」

「あらあら、随分と不釣り合いな報酬ですね」

 旭がすかさず割って入った。これを待っていた、とばかりの反応だった。

「不釣り合い、とは?」

「分かっていないはずないでしょう? あなたに勝って太志さんが得るのは現状維持。離婚と天秤にかけるには、あまりにも軽いと思いませんか?」

「では何ですか、迷惑料でも付ければ良いとでも?」

 それを聞いて、旭の瞳が妖しく煌めいた。

「ええ、そうですね。迷惑料として、紅葉の身体を太志さんに一日差し出すくらいでないと♡」

 紅葉は露骨に嫌そうな顔をする。こうなる可能性も彼女は考慮に入れてはいたが、それでも不快なものは不快なのだ。

 その様子が心地よいのか、旭は追撃の手を緩めない。

「どうしましたか? あなたが勝てば、太志さんはとても辛い思いをするんですよ。であれば、あなたも同じだけのものを背負わなければ、決闘とは言えないのでは?」

「ぐっ……それはそうかもしれないけど、でもこんな――」

「おや。まさか、怖気づいているのですか? 太志さんに愛されて、心までも虜になってしまうのが」

 最後の煽りが、紅葉を駆り立てた。朱雀院は常勝無敗、戦わずして逃げ出せばそれこそ武家の頭領の名折れだ。

「……わかりました。その条件、飲みましょう」

「分かっていただけて嬉しいですよ、紅葉」

「旭……あなた、性格悪くなったね~」

「うふふ。褒め言葉として受け取っておきます」

 今日何度目か分からない溜息を吐きつつ、紅葉は内心で自身を鼓舞する。

(大丈夫。私の恋人は伊織先生。こんな太ったおじさんなんかに心を奪われたりなんかしない。こんな……アレが物凄く大きくてえげつない形してるだけのおじさんなんかに……♡)

 この時すでに、男のペニスに思考を汚染されていることに、紅葉は気付けなかった。

 そしてそれが、彼女にとって最大の罠となる。

「では、条件はそれで。試合はこの後すぐ。場所はウチの道場で、ということでよろしいでしょうか」

「ええ、構いませんよ。私は負けませんから」

 初乃と紅葉が合意して、一旦この場はお開きとなった。







 準備のために紅葉と撫子が退室したのを見計らって、男は長い息を吐いた。

「緊張したぁ……殺されるかと思ったよぉ」

「お疲れさまでした、太志さん♡」

 真っ先に飛びついたのは旭だった。中年男の冴えない顔をじっと見つめて、うっとりとした吐息を漏らしている。

「あぁ、太志さんの温もり……♡ 落ち着きます……♡」

「さっきのふとっち、マジカッコよかったよ~!♡」

「正直、私も惚れ直したわ♡ 太志さん、たまにセックス以外でも男を見せるから、油断ならないのよね♡」

「ですが、少々妬いてしまいますね。あそこまで言ってもらえる撫子さんが羨ましいです♡」

「ぐふふっ、安心しなさい。旭も、梨々夢も、初乃も……誰と別れろって言われても絶対別れないからねぇ」

 男の言葉に、三人は頬をぽっと染めた。

「はい……♡ わたしも太志さんに一生お供いたしますっ♡」

「あたしも別れる気ないからね、絶対だかんね!♡」

「当然でしょ、私だって人生かけてるんだから♡」

「おお、初乃がいつにも増して可愛いぞぉ」

「~っ、バカなこと言ってないで訓練場行くよっ♡」

 さっさと部屋を出ていく初乃の照れ隠しを、男は気持ちの悪い笑みを浮かべながら眺めていた。











「行くよお姉ちゃん――心義・餓狼疾駆ッ!!」

「くっ……!」

 片丘邸内にある、刃道用の訓練場。決闘の場としては些か風情に欠けるその場所で始まった試合は、蓋を開けてみれば紅葉の防戦一方だった。

 ありとあらゆる手筋を読み、攻撃の手を先んじて封じてしまう戦法を取るはずの紅葉が、逆に攻め立てられ、反撃を封じられている。

 理由は単純だった。

(神眼極手が使えない――っ!)

 対戦相手のあらゆる情報を分析し、取りうる選択肢を可能な限り検討し、詰みに持っていくための最善手をコンマ一秒足らずで導く紅葉の超々高速演算、神眼極手。本来の紅葉であれば、これを用いて撫子を一方的に蹂躙できる……そのはずだった。

 だが、彼女の最大の取り柄である超高精度の先読みが、今は封じられていた。

 誰かの天呪ではない。撫子も旭も梨々夢もそんな天呪特性は持ち合わせていない。

 単に、彼女の自爆だ。

(神眼極手、開始――っ!?)

 諦めずに再度の発動を試みるが、やはり失敗する。

 理由は単純。撫子の背後でチラつく中年デブの顔が、先程目の当たりにしたおぞましい剛直を思い出させてしまうためだ。

 男の顔を見る度、あの巨大なペニスを想起し、まともな思考が出来なくなってしまう。

 バカみたいな理由だが、事実として彼女は追い詰められていた。

 らしくない紅葉の戦いぶりを見て、旭は意味ありげな笑みを浮かべる。

「予想通り、ですね。あれほど逞しい男の象徴を見てしまっては、メスであれば誰もが心を乱されてしまうものです」

「それを狙って、わざわざ梨々夢とのセックスを見せつけるように言ってきたのかい? 中々悪巧みが得意だねぇ、旭は」

「はい。例え紅葉であっても、強いオスの前では一匹のメスに成り下がるしかない……そう信じていました」

 どこか昏い顔をする旭を見て、男は何かを思い出したようだった。

 つい先刻、男の名代に立候補しようとしてやめていたことを。

「……旭も、彼女と戦いたかったんだねぇ」

「はい。紅葉は……いえ。朱雀院は、わたしの超えるべき壁でしたから」

 苦渋の思いだったのだろう。勝率を求めるならば旭より番付が上、つまり旭よりも強い撫子が戦うのが最適だという彼女の言葉に嘘はなかった。

 だがそれは、肝心な時に役に立てなかった、という意味でもある。それが彼女にとっては、悔しくてたまらなかった。

 旭ほどの美女が、だらしなく太り散らかした中年男をそこまで想っている。常人には想像もし難い愛がそこにはあった。

「そっか。じゃあ次またこういう機会があったら、その時は旭にお願いするから。約束だよぉ」

「っ、はい! この命に代えても、太志さんに勝利を捧げますっ」

「死なれちゃ困るなぁ……おお?」

 視線を戦場に戻せば、決着がつくところだった。

「神義・斬霊剣ッ!!」

「……くっ!」

 撫子の斬撃を、紅葉は防ぎ切れなかった。彼女の身体が派手に吹っ飛び、バリアジャケットの耐久を示すVF値がゼロになる。

 勝敗は決した。

「そこまで! この勝負、撫子の勝利っ!」

「やったね! ビシッと大勝利……って、喜びたいんだけど……お姉ちゃん、大丈夫? 今日は全然本調子じゃなかったよね?」

 紅葉がいつもの力を発揮していないことは撫子も気付いていたようだ。その純粋な瞳を見て、紅葉は内心でやや呆れている。

(まあ、撫子はこういう盤外戦術は考えないよね……梨々夢もそう。こんな性格の悪い罠を仕掛けてくるのは――)

 床に座ったまま視線を巡らせると、腹黒そうな笑みを浮かべて歩み寄る旭と目が合った。

「ま、やっぱり旭だよね~」

「いい格好ですよ、紅葉」

「あーあ、流石にあれはずるいって」

「ずるいですか? 試合中に余計な事を考える方が悪いのでは?」

「だって、あんなの見せられたら誰だって思い出すに決まってるじゃない」

「それはあなたが期待しているからですよ。太志さんの逞しいモノを味わってみたい、と」

「はぁ? そんなわけ――」

 ないと言い切れなかったのは、その自覚があるからか。そこで黙ってしまったのが、もう答えだった。

「さて、紅葉には敗者の務めを果たしてもらいましょうか」

「はぁ……はいはい。わかりましたよー」

 渋々と言った様子で、紅葉は太志の方を見る。贅肉を揺らしながらのっしのっしと近付いてくる巨体、その股間には今もなお勃起したままのペニスが仕舞われており、布越しにも圧倒的な存在感を示していた。

(……一応、神眼極手でこの後どうなるか確認しておこうかな)

 紅葉の超人的な先読みは刃道以外にも使える。策略を巡らせるにも危機を回避するにも超高精度の予測ができるのだ。

 その読みで、紅葉は太志と一日過ごした場合の展開を予測するのだが――。

(あ、これダメなやつだ……♡)

 勝てない。絶対に、たった一日でこの見るも醜い中年男を心の底から愛してしまう。

 そんな訳はないとコンマ数秒の間に何度も予測し直すが、結果は同じ。

 どう転んだって、恋人である村垣伊織よりも、この冴えないエロオヤジのことが好きになる。

 それが、彼女の導いた結論だった。

 気付けば、男は紅葉のすぐ目の前に立っている。恋人の「それ」より遥かに大きいペニスが、彼女を求めて不規則に震えている。

(私は、これに抗えない……♡)

 認めてしまえば、後は堕ちるだけだ。逞しいオスの象徴を求めて、紅葉の身体が甘く疼く。

(そんな訳ない、私がこんな人に負けるわけない……っ♡)

「ぐひひ、それじゃお楽しみの時間としゃれ込もうかねぇ。みんなが見てる前では恥ずかしいだろうから……更衣室、行こうか」

「……」

 拒絶の言葉一つ吐くこともままならないまま、紅葉は男に連れられて訓練場を出ていく。

「太志さん! 後でご褒美くださいね!」

「ああ、必ずね。お疲れさま」

 ちゃっかりしている撫子であった。









 更衣室に入るとすぐに、男は窮屈そうにズボンを脱ぎ捨てた。

 そしてそのまま、紅葉の唇を当然のように奪う。

「んぶっ!?♡ ちゅぅぅぅぅっ、ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅ♡ ぷはっ、いきなり何するんですかっ♡」

「何って、キスだよぉ。今日から夫婦じゃないかぁ」

「まだなってませんっ♡」

「まだ、かぁ。これからなるって事だねぇ」

「誰もそんなこと言ってな――はむっ♡ ちゅぅぅぅ♡ ちゅっ、ちゅっ♡」

 恋人のそれと比べるまでもなく強引なキス。だというのに、紅葉の胸はどうしようもなくときめいていた。

 男の舌が彼女の唇を小突く。紅葉はいとも容易くそれを受け入れ、それどころか積極的に舌を絡めていく。

(涎、くさい……♡ でもクセになる……♡ これが、本物のオスの匂いなんだ……♡)

「ちゅるるっ、れるれるれる♡ んむっ、んっ♡ れろれろ、ちゅぅぅぅぅぅぅ♡」

 気を良くした男は、振袖型の霊式具装、その胸元に右手を滑り込ませた。紅葉の控えめな乳房を掌全体で撫で回すと、繋がったままの唇の隙間から甘い声が漏れ出す。

「んうっ♡ ちゅっ、ちゅむっ♡ んんんっ♡」

「ぐふふ、可愛いおっぱいだぁ」

「あんっ♡ 触り方がいやらしいですっ♡」

「その様子だと効果てきめんって感じだねぇ。乳首勃ってきたよぉ」

 男の指が紅葉の乳首をコリコリと摘まむと、鋭い快感に嬌声は大きくなっていく。

「あぁぁぁっ♡ やっ、ああんっ♡ はぁぁっ♡」

「声も可愛いねぇ。つくづくオジサン好みだよぉ」

 その言葉を裏付けるかのように、男の怒張したペニスが紅葉の腹に押し付けられ、その熱を伝えてくる。

(なんでっ♡ なんで小汚いおじさんなんかに求められて、こんなに嬉しくて仕方ないのっ♡)

「やっ、だめっ♡ そこ、感じすぎちゃ――」

「はい、ギュッと」

「んんんうぅぅぅぅぅっ♡」

 二本の指で押し潰すように力強く摘ままれ、紅葉の背中が大きく仰け反った。

「からの、スリスリ……」

「んん……はぁ、はぁ、はぁ……♡ あっ……やっ♡」

「で、カリカリ……」

「あー……あぁぁぁ……あぁぁぁぁぁ……っ♡」

「最後にまたギュッと」

「ひうぅぅぅぅぅぅぅんっ♡」

 大きく身体を震わせる紅葉。神算鬼謀の剣士たる彼女が、冴えない中年男の乳首責めだけで甘く絶頂させられていた。

「おぉ、イったイった。感度抜群だぁ」

「言わなくていいですっ♡」

 自分より遥かに弱いはずの小汚いデブ男にいいようにされ、あまつさえ乳首だけで絶頂させられたという事実が、彼女の興奮を高めていた。

 彼女の秘部は既に濡れそぼって、子種を今か今かと待ち侘びている。

 ブルマのような履物に男は手を差し入れ、その濡れ具合を確認した上で弄ぶ。

 割れ目に指を這わせるだけで、ぬちゃぬちゃといやらしい水音が立っていた。

「あぁっ♡ やっ♡ んぅっ♡ もう、ねちっこいっ♡」

「折角なんだから、隅々まで味わいたいじゃないかぁ」

「だからって……あぁぁっ♡」

 声を遮るように、男の指が陰核を摘まんだ。扱き上げるように弄ってやれば、あっという間に紅葉は腰をくねらせ快楽によがる。

「ひぐぅぅっ♡ あ゛ぁっ♡ また、イっちゃ……っ♡」

「ほほぉ、紅葉ちゃんはクリも敏感、と」

「ちが――あぁぁぁっ♡」

 いくら口で否定しようとも、身体は誤魔化せない。学園最強の座を三年間守り続けた凄腕の剣士が、オリガミを使う事すらできない肥え太った中年男の指二本で遊ばれている。それが揺るぎない事実であった。

「あ、イくっ♡ イっく♡ イくイくっ、イ゛っ……ぐぅぅぅっ♡」

 あっという間に、紅葉は二度目の甘イキに追いやられる。全身が痙攣し息も絶え絶え、男が体を抱き支えねば足腰立たないほどになっていた。

「おっと……もう限界って感じかなぁ」

「誰がっ♡」

「分かってるくせに、強がりさんだねぇ」

 男はそのまま紅葉の履物を脱がせて、更に抱き上げる。駅弁と呼ばれる体位だ。

 彼女の方も、手足を絡ませて身体が落ちないようにホールドしている。

「さて、そろそろオジサンも気持ち良くしてもらおうかな。ココで、ね」

 長い竿で秘裂を擦れば、とめどなく滴る愛液が滑りを良くする。

 言葉よりもずっと雄弁に、彼女の期待を物語っていた。

「あ……やっ、待っ――」

「いただきまー……す!」

「お゛ぉぉぉぉぉっ♡ ほぉぉぉぉ……っ♡」

 ずぷぷぷぷ……とペニスが膣穴を掻き分けていく。恋人のモノしか知らなかった紅葉の秘穴には、それはあまりにも大きすぎた。

 めりめりと、まるで処女を相手にするかの如く、男の肉棒は狭い膣内を押し広げ、己の形を馴染ませていく。

「くぅぅぅ……この感じ、初めてではなさそうだけど……でもキツいなぁ。前の彼氏とはほとんどしてないのかい?」

「前じゃないしっ♡ あ゛っ♡ あなたのが、大きすぎるんですっ♡」

「そっかそっかぁ、すぐにこれじゃなきゃ物足りなくしてあげるからねぇ」

「結構ですぅぅぅぅっ♡ お゛ぉぉぉぉっ♡」

 聞く耳持たぬ男は、ピストンを開始してしまう。カリもエラも張ったペニスが、紅葉の膣穴を隅々まで撫で回し、穿っていく。

「あ゛ぁぁっ♡ はぁぁんっ♡ あっ、あっあっ♡ あぁぁぁ♡」

 浅いところだけをねちっこく引っ掻けば、甘い声で鳴き。

「お゛っ♡ お゛っ♡ お゛ぉぉぉぉぉっ♡ お゛っごぉぉぉぉぉっ♡」

 奥の奥を責めてやれば、獣のように叫び狂い。

 優れた知能と理性とを有した紅葉であっても、メスの喜びを過剰に注がれれば、人の言葉すらも忘れて嬌声を上げるしかなかった。

「ほぉら、奥をコンコン。紅葉ちゃんの赤ちゃん部屋はここかなぁ~?」

「うる、さいっ♡ それ、やめてっ、お゛っほぉぉぉぉぉ♡」

「口答えかい? そんな悪い口はオジサンが塞いであげなきゃねぇ」

「あっ♡ いまそれだめ……むちゅぅぅぅぅ♡」

(あぁぁぁっ♡ 今キスされたら本当にダメっ♡ 全部が幸せでおかしくなるっ♡ 本当にっ、この人の事、好きになるっ♡)

 一突きごとに、真のオスを教え込まれて。その分だけ、過去の体験が全部チャチな遊びにしか思えなくなっていくのを、紅葉は感じていた。

 だがどうしようもない。男に抱え上げられ、秘部をペニスで貫かれ、文句すらもキスで封じられて。

 あらゆる反撃を封じ、一方的に相手を蹂躙する。それは奇しくも紅葉の戦闘スタイルそのものであったが、そうなれば当然、精神的に与える影響も大きい。

 戦闘においては絶望感を与えるそれが、セックスの場合は――、

(勝てないっ♡ この人、強いっ♡ 好きっ♡ 好き好き好きっ♡ この人のメスになりたいっ♡ この人の子供産みたいっ♡ もう伊織先生とかどうでもいいっ♡ 他の男なんてみんなこの人以下っ♡)

 強いオスに支配される喜びで、心が蕩かされる。メスの本能を強○的に刺激され、目の前の男の事が愛おしくてたまらなくなってしまう。

 それを見透かしたかのように、男は腰を止めて焦らすように紅葉の身体を揺する。

「あぁぁ……えっ……?♡ なんで止めるの……?♡」

「もうすぐ出そうなんだよぉ。紅葉ちゃんは彼氏持ちだろう? 申し訳ないからねぇ」

「嘘つきっ♡ 絶対そんなこと思ってない癖にっ♡」

「本当本当。ほら抜くよぉ」

 言葉通り、男はペニスをゆっくりと引き抜いていく。自分から中出しを懇願させるための演技だと分かっていても、膣穴の切なさが紅葉の思考までもぐずぐずに溶かしていく。

 亀頭が、膣口まで戻ってきた。そこでとうとう、彼女の理性がぷつんと切れた。

「……します」

「ん~? 何か言ったかなぁ?」

「お願いしますっ♡ このまま続けてくださいっ♡ あなたの熱い精液、中に出してくださいっ♡」

「いいのかい? 彼氏がいるんだろう?」

「別れますっ♡ あなたの恋人でも何でもなりますからっ♡」

 はっきりと言った。五年以上の月日をかけて育んだ愛を、快楽のために捨て去った。

 朱雀院紅葉という女性が、冴えない中年男のモノへと完全に堕ちた瞬間だった。

「いいよぉ。それじゃあお望み通り……全部ブチまけてやるッ!!」

 一番浅いところから、一息で最奥まで。先程まで男のペニスを拒絶するかのようだった膣穴は、あっという間にこの男のペニス専用に作り変えられていた。

「ほごぉぉぉぉぉっ♡ きたぁぁぁぁぁっ♡ あ゛っ♡ あ゛っ♡ あ゛ぁぁぁぁぁぁっ♡ すごいっ♡ これすごいぃぃぃっ♡」

「上の口がお留守だぞッ」

「ぶちゅぅぅぅぅぅぅぅぅ♡ ちゅるるるるっ♡ れろれろれろれろれろ、ぢゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ♡」

 美貌が歪むのも構わず、男の唇を貪る紅葉。そこには武家の頭領の威厳なんてものはなく、ただひたすらに快楽に溺れる一匹のメスでしかなかった。

「ふんッ、ふんッ! いいぞ、もっとマンコ締めろッ!」

「ひぐぅぅぅっ♡ んんんっ♡ う゛ぅぅぅぅぅぅぅっ♡」

 激しいピストンに晒され、意識が飛びそうになりながらも下腹部に力を籠める紅葉。その甲斐あって、男の反応は良好だ。

「おぉぉぉぉぉ、チンポが千切れそうだッ。いい締め付けだなッ」

「ねぇっ、キスもっ♡ キスもしてっ♡ んむぅぅぅぅぅ♡ しゅき、しゅきっ♡ ぢゅるるるるるっ♡ ぢゅぅぅぅぅぅぅ♡ れるれるれるれろれろれろ♡」

 紅葉の方から積極的に舌を絡め、唾液を飲み下していく。出会ってまだ数時間だというのに、まるで恋人のように情熱的な愛を交わしていた。

 悦んでいるのは彼女だけではない。男もまた、絶頂に向けてペニスをビクビクと震わせている。

「ふぅぅぅぅっ、もう出る、出すぞッ!」

「きてっ、きてぇっ♡ あなたの熱いのっ、私のナカに出してぇっ♡ あ゛っ♡ お゛っ♡ お゛っほ♡ お゛ぉぉぉぉっ♡ イっぐ♡ イぐイぐイぐぅっ♡ お゛っ♡ おごぉっ♡」

「おおおおッ、孕めッ、嫁になれ紅葉ッ!」

「ほお゛ぉぉぉぉぉぉっ♡ んお゛ぉぉぉぉぉぉぉぉっ♡」

 膨らんだ亀頭を最奥に押し付けながら、男は白濁した欲望を膣内に解き放った。それと同時に紅葉も絶頂に至り、男の身体をきつく抱き締めた。

「ぶちゅるるるる♡ むふーっ、むふーっ♡ ぢゅぅぅぅぅぅ、ぢゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……♡」

 男に唇を押し付けられながら、精液の洪水をただ注がれ続ける紅葉。荒い鼻息を鳴らしながら中年男の唾液をせがむ姿は、決して年頃の女がしていいものではなかったが。

 そんな自覚すら持てないほどに、目の前の男がもたらす快楽に紅葉は酔いしれていた。

 その間も、男は膣内でペニスを震わせていた。接合部から漏れ出た精液が、ぼたぼたと音を立てて床へと落ちていく。

 数分かけて射精し終わり、男はペニスを引き抜いた。ずるりと抜け出るその先端から、精液が糸を引いて紅葉の秘裂と結びついている。

「はぁ、はぁ……♡ 量、多すぎでしょ……♡ どこまで強かったら気が済むの……♡ これじゃ撫子とか旭が勝てないのも納得……♡」

 余韻に浸りつつ、理性を取り戻した紅葉。だがそこに、かつての男を捨てたことへの罪悪感や後悔といったものは一切存在していない。

 強いオスのモノになれた歓喜と、そのオスへの強烈極まりない恋慕。目の前の小汚い中年男と生涯を添い遂げるという強い意志が彼女を満たしていた。

「ふぅ……どうかな紅葉ちゃん、オジサンのお嫁さんになる話、受けてくれるかい」

「あれ、本気だったんだ……♡ セックスを盛り上げるための言葉だと思ってた♡」

「遊びで嫁になれなんて言わないよぉ、いつだって本気さ。ウチにおいで」

「ふーん、そうなんだ……♡」

 強く逞しいオスに求められていることに喜びを隠せない紅葉。

 彼女の返答は、当然決まっていた。

「不束者ですが、末永くよろしくお願いします♡ ……ちゅっ♡」

 誓いのキスを一つ。朱雀院四姉妹の長女もまた、肥満体型な冴えない中年男の妻となり、朱雀院を抜けることを選んだのだった。

「それじゃあもっとお互いを知るために……お風呂、行こうか」

「うん♡」

 毛むくじゃらで小汚いデブとの風呂ですら、一瞬の躊躇いもなく嬉々として受け入れる。

 今の彼女はもう朱雀院紅葉ではなく、このエロオヤジの生涯の伴侶、片丘紅葉であった。

 そしてそれを自分から証明するかのように、彼女は一つ提案する。

「そうだ、今日は泊ってくるって連絡しないと。これでも一応、朱雀院家次期当主の『元』候補だから」

「ぐふふ。じゃあ写真付きの方が良いよねぇ」

「うわー……スケベ♡」

 からかいながらも、紅葉は中空のパネルを操作し、虚空へと視線を向けた。

「はい、ちゅー♡」

 男に抱えられたままキスをする写真を何枚も撮ると、ベストショットを選んで送信。

 実家と恋人、その両方へ。恋人宛には、あるメッセージも添えて。

『さようなら、「村垣さん」』

『私はこの人と幸せになります』

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