異種婚姻特異点 第一話 光のコヤンスカヤとゴブリンの場合
ノウム・カルデアに所属する人類最後のマスター、藤丸立香。
数多のサーヴァントと絆を深め、七つの特異点、七つの異聞帯を乗り越え、地球の白紙化という未曽有の脅威に立ち向かう人間。
そんな彼には、誰にも言えない悩みがあった。
「はっ、はっ……」
薄暗い部屋の中空に浮かぶホロディスプレイの前で、彼は下半身を曝け出し、勃起した陰茎を一人で慰めている。
そこに映っているのは、彼が契約した女性サーヴァントたちの姿。
ここまでなら、あり得る話だと言えた。
藤丸立香も年頃の男性である。閉鎖的な環境において、行き場のない性欲を発散する必要もあるだろう。
ただ、彼の契約しているサーヴァントの中には、彼の性欲処理を手伝うに吝かでない者が一定数いるはずで、そういう人物に頼む選択肢もあったはず。
彼がそうしないのは、偏に彼が抱える悩みが原因だ。
「うう……、――が、そんな……」
ブリテン異聞世界で見せられた『失意の庭』。自分がいくらでも替えの利く存在でしかなかったという暗示。今の立場を失えば最後、自分は異常者として生きていくしかないという示唆。
加えて、彼のファースト・サーヴァントであるマシュ・キリエライトによる、ブリテン異聞世界の記録と報告。それによれば、彼女は現地の妖精であるボガードの花嫁として過ごしていたのだという。
それらは何度も夢に出るほどに彼の精神を蝕むと同時に、彼にある暗い性的嗜好を植え付けることとなってしまった。
それが『寝取られ』。
彼は自分のサーヴァントが他の誰かに奪われる想像を繰り返した結果、その想像でしか興奮出来なくなってしまったのだ。
こんなことを、誰かに言えるはずもない。彼の中で悩みは肥大化する一方であり、それは彼の性的嗜好をどんどん歪めていった。マシュと妖精という関係を引き金に、サーヴァントと人外という組み合わせに異様なまでの興奮を得てしまうようになった彼は、行き場のない負の感情に日夜突き動かされ、理性を取り戻しては自己嫌悪に浸る日々を繰り返していた。
そんな最中のことであった。彼の生涯を決定的に歪めてしまう異常事態が起きたのは。
警報の発令を受け、ノウム・カルデアの本拠地であるストーム・ボーダーの司令室に集まった藤丸立香は、その時点で異変に気付いた。
明らかに、人員が少ないのだ。マシュだけでなく、技術顧問のダ・ヴィンチ、頼れる協力者であったシオン・エルトナム・ソカリスまでもが不在。
その場にいるのは男性だけというおかしな事態であった。
シオンやダ・ヴィンチに変わり、キャプテン・ネモが状況を説明する。
その内容はというと。
「サーヴァントの大半が消失、ですか」
「ああ。それも、契約自体が消滅している。……女性のサーヴァントに限って、ね」
「……」
日々想像していた事態が起きたことに、胸を締め付けられるような錯覚に陥る藤丸。
だが事態はそれを許さなかった。ネモの分身であるネモ・プロフェッサーが続けて説明する。
「同時に発生した特異点には、消失したサーヴァントと同じ魔力反応が多数観測されてますー。恐らく、消失したサーヴァントはそこに転移しているものとみて間違いないかとー」
「なら、そこにレイシフトして、もう一度契約すればいいのかな?」
「そうも行かないようですー」
プロフェッサーによれば、その特異点は女性以外の侵入を拒絶するのだという。容姿や服装が女性的なサーヴァント――例えばアストルフォであったり、そもそも性別という概念が存在しないサーヴァントであっても、身体が女性型でなければ侵入は不可能であった。
「つまり、こちらから出来ることはない?」
「このまま観測を続けますが、現状ではそうなるかとー」
「新たな女性サーヴァントを召喚するのはどうなんだ? それならば、突入も可能なのだろう?」
異議を唱えるのは、ノウム・カルデアの所長であるゴルドルフ・ムジーク。彼の立場で言えば、早期の解決を目指すのは当然であるため、この意見が出るのも必然である。
しかし。
「時間がかかるだろうね。なにせ、縁のある女性サーヴァントは例外なく持っていかれてしまったから」
「……という事は、新たに縁を結ばねばならない? 人理が漂白され、今の所ここ以外に特異点が存在していない、この状況で?」
「そういう事になりますねー」
青ざめるゴルドルフを慰めるように、プロフェッサーは補足する。
「現状では人類史への影響はごく軽微ですので。時間的猶予はまだあるかと」
「う、うむ。そうか、ならば良いのだが……いやしかし、そう言って実は人理崩壊寸前だったことが過去にもあったような……」
不安そうな顔を崩さない所長。ネモもどこか苦々しげに方針を告げた。
「だが、嘆いていても現状は変わらない。なら今出来ることをやろう。まずは特異点の観測に専念すると同時に、特異点への侵入手段を模索する。各員は指示があるまで待機……それでいいかな?」
「了解」
それでこの場は解散となった。
トレーニングに向かう気分にもなれず、マイルームへ戻る藤丸。契約したサーヴァントがいなくなった事実に暗澹たる心地の彼であったが。
突如、モニターの一枚がひとりでに映像を再生しだした。
音はなく、ただ文字だけが流れる無機質な映像。そこにはこう書いてあった。
『現在発生している特異点』
『それは、マスターの慰安を最優先目標とした特異点である』
『この特異点には、女性以外の人間・サーヴァントは侵入できない』
『それはマスターも例外ではない』
『しかしながら、この状況下でもマスターの慰安を行うことは出来る』
『そう、』
『寝取られマゾの、センパイの慰安を、ですよ♡』
画面を占領する。BBチャンネルのロゴ。
藤丸はこの時点で、全ての元凶に察しがついてしまった。無音だったモニターからBGMとあざとい声が流れてくる。
『BB、チャンネルー! お元気ですか、センパイ?』
「……また?」
『またとは何ですか、またとは! 可憐で完璧なAIであるわたしが、センパイのためにあれこれ手を尽くしているというのに!』
「どういうこと?」
『先程の説明は覚えてますよね? この特異点で、寝取られマゾのセンパイの欲望を満たしてあげようというのが、わたし「たち」の目的です♡』
「……さっきも思ったけど、どうしてそれを?」
誰にも話していない悩みを、あっさりと知られている。だがBBにとってそんな事は取るに足らないことのようだ。
『センパイを見ているサーヴァントがどれだけいると思ってるんですか? これくらいの事は、女性陣には筒抜けですよ』
「……そうなんだ」
『はい。それも人間相手ではなく、エネミーや動物が相手なんて……BBちゃん、ちょっとドン引きです』
自分の性癖が筒抜けなのが恥ずかしいのか、藤丸は急かすように言葉を紡ぐ。
「それで? オレにどうしろと?」
『おっと、そうでした。センパイには、自分のサーヴァントが寝取られる様が現実になるところを、その目に焼き付けて貰わなくてはいけないんでした!』
「……は?」
『この特異点では、全てのサーヴァントが数多くの異種族の中から番のオスを見つけて交尾します。そして想いを交わし合って結ばれると、契約は上書きされ、そのオスがマスター兼旦那様になるんです♡』
「じゃあ、契約が消失していたのは……」
『はい。全女性サーヴァントが、最愛の旦那様を見つけ、センパイを捨てたという事です♡』
「…………」
それは、彼が普段想像していた光景そのもの。自慰のアテにしていた妄想の具現化。
だが言葉だけで信じられるものではない。彼女もそれを分かっているが故に。
『信じられませんか? 自分の理想を体現した光景があることを。ですが、ここからが本番ですよ?』
意地悪な笑みを浮かべたBBに、藤丸は警戒の色を強めた。
これ以上はいけない。脳内の危険信号が全力で警鐘を鳴らしている。
『センパイにはこれから、かつての契約サーヴァントからビデオレターが届きます。センパイはそれをオカズに、一人でシコシコしてください♡ それがセンパイに送る「慰安」です……あんっ♡』
急に喘ぎ声をあげたBB。その理由は単純明快。
全サーヴァントと言った以上、BBも例外ではないのだ。
『すみません、わたしの夫がそろそろ我慢の限界のようです♡ わたしはこちらのブタさんと夫婦の時間を過ごしますので、それでは♡』
映像が途切れ、画面が暗転する。何を言う暇もなく、通信は途切れた。
後には、藤丸ただ一人が残されて。
カルデアと藤丸立香がこれまで出会ったサーヴァント、解決した特異点や切除した異聞帯の報告……それらを記録するマテリアルには、現在のサーヴァントの契約状況なども記されている。
彼が召喚し、契約した女性サーヴァントは皆、『LINK LOST』と表示されていた。
どれだけ確認しても、どれだけ時間が経とうとも、それは変わらない。
そんな中、ロストしたサーヴァントの内、ある一騎のデータに繋がるアイコンが点滅を始めた。
データナンバーは、314。藤丸は意を決してそのアイコンをタップする。
すると先刻同様、動画が再生された。
『ゲギャギャッ、ギャギャッ――おっと、失礼致しました♡』
「コヤンスカヤ……?」
そこにいたのは、彼もよく知る狐耳の女性。薄桃色の長髪と毛量たっぷりの尻尾が目を惹く美女。サーヴァント・アサシン、光のコヤンスカヤであった。
しかしながらその服装は、彼が良く見ているようで、どこかおかしかった。扇情的な黒のライダースーツに身を包んでいることは変わらないが、普段とは違い乳首までも丸出しにしていて、そのうえ股の部分には何かを迎え入れるかのように大きな穴が空いていて、女陰を晒す。
『ご機嫌よう、「元」マスター♡ 本日は大切なご報告がございます♡』
映っているのは彼女だけではない。暗い洞窟の中に立つ彼女の細い腰にしがみつき、ニタニタと邪悪な笑みを浮かべながら陰茎を彼女の股に擦り付ける、緑色の肌に大量のキスマークを付けた人型の生き物が一匹。一般にゴブリンと呼称される生物だ。
身長はコヤンスカヤの股下にも届かないほど。カルデアの記録にある同種のエネミーと比べても明らかに小さな体躯には、それに似つかわしくない凶悪な形のペニスが付いていた。
しかしながら、武器も持たぬ小型エネミーなど、コヤンスカヤであれば軽く消し飛ばせるはず。にも拘らず、彼女はしがみつくゴブリンを引き離そうとしないばかりか、ふさふさの尻尾をゴブリンの身体に巻き付け、その頭を愛おしげに撫でている。
『グギャギャッ、ギギギャッ!』
『ギャッギャッ、ギャッギャッ……申し訳ありませんが、旦那様がお待ちですので手短に済まさせていただきます♡ 私、タマモヴィッチ・コヤンスカヤは……先日、こちらのゴブリン様と結婚いたしました♡』
「は? 結婚……?」
満面の笑みと共に告げるコヤンスカヤ。
どうしてゴブリンと。そもそもゴブリンと結婚とはどういうことなのか。彼の疑問はあちらには届かない。これは通信ではなく、一方的な録画映像だからだ。
だが衝撃の告白は終わらない。
『同時に、旦那様とは生涯雇用契約を結ばせていただきまして……有り体に言えば、旦那様には私のマスターにもなっていただきました♡』
途端に、ゴブリンの右手の甲が赤く輝いた。そこにはカルデアのものと同じ形状をした令呪が三画、確かにあった。
『ゲギャギャギャッ!』
『あんっ♡ という訳で、今後はカルデアに戻ることはありません。……ですがご安心を。人理の危機には駆け付けますので。――何せこのまま人類が滅んでは、旦那様との末永い夫婦生活が送れませんから♡』
どこまでも幸せそうな顔で語るコヤンスカヤを見て、藤丸はもう取り返しがつかないことを理解してしまった。
『「元」マスターには、私と旦那様の馴れ初めから結婚に至るまでの記録をお送りしますので、どうぞそちらをオカズにするとよろしいかと♡ では、失礼致します♡ ……ゲギャッ、ギギッ、ギャギャッ♡』
訳の分からぬ声の途中で、映像は途切れた。それと同時に、彼の端末にある動画ファイルが送られていた。
震える手で、それを再生する。
ここからは、彼女の視点。
「ふむ、これはこれは……上々の出来ですねぇ」
出来上がった特異点、その光景を眺めながら光のコヤンスカヤは呟く。
異種婚姻特異点。BBとコヤンスカヤ、そしてモルガンの三騎のサーヴァントが主導して作り上げた空間。
ルールも当然彼女たちが設定した。ここでは全ての女性サーヴァントが受肉した上で、番となるオスとマッチングされ、最終的には結ばれることになる。
その相手は肉体の相性で決定され、決して逆らうことは出来ない。番の候補と出会うと身体が勝手に発情し、『それ』が番の相手であることを認識させる。
更に、オスは様々な時代・神話から集められた人外に限定され、人間及びサーヴァントは女性以外侵入不可能――。
徹底的なほどに、人類最後のマスターが持つ性的嗜好に都合よく設定された特異点。そうあるように作られた箱庭。
「マスターの慰安」という目的のために用意されているのだから、こうなるのも必然であった。
藤丸立香は悩みを吐露しないが、その嗜好は知れ渡っている。
故にこそ、こうして力技で彼を満たすしかないという判断の元――無論、各人の思惑はあろうが――この特異点は成立した。
木漏れ日が降り注ぐ森林の中を歩きながら、その出来栄えを確かめるコヤンスカヤ。そんな折、何かが彼女の方へ接近してきた。
「……おやおや」
雑草を掻き分け現れたのは、彼女の背の半分もない小型のゴブリン一匹。突然の遭遇に、ゴブリンは驚いた様子を見せ、それから一目散に逃げだした。
コヤンスカヤからすれば取るに足らない相手だった。ゴブリンの方も一目で力量差を見抜いたのであろう。生き延びたくば逃げるしかないと判断し、即座に踵を返したのだ。
一方のコヤンスカヤは、というと。
「おっと、逃げてしまわれては困ります♡」
圧倒的な敏捷性でたちまちゴブリンに追いつき、その身柄をいとも容易く取り押さえる。うつ伏せで呻くゴブリンを足で転がし、仰向けにさせた。
生物として格が違う以上、出力の差は桁違い。雑魚ゴブリン如きが高位のサーヴァントから逃げおおせられるわけもない。
哀れ、か弱いゴブリンの命はここで終わる――そのはずであった。
だが、そうはならない。何故なら。
「そうですか、そうですか……♡」
コヤンスカヤはゴブリンの顔を自分へと向かせると、その口元に優しくキスをした。
「まさか、いきなり番になるべきオスと出会うことになるとは……少々予想外でした♡」
そう。コヤンスカヤは出会ってしまったのだ。自らの全てを捧げるべき、運命に。
そしてその相手こそが、このひ弱そうな小さいゴブリンであったのだ。
設定されたルールは絶対。この特異点の根幹に関わっているコヤンスカヤであってもそれは例外ではない。
勿論、この特異点に集められたゴブリンはそんな事を知る由もないので、ただただ困惑する。
目の前の強大な存在が攻撃をしてこない理由も、突然顔を触れ合わせた理由も分からないのだ。
「ですがルールはルール。番を見つけた以上は絶対服従です♡ それに……♡」
彼女の視線はゴブリンの股座へ。そこには、小柄な体躯に似つかわしくないほど雄々しくそそり立つペニスがあった。ゴブリン自身の膝まで届きそうなペニスが、生命の危機を感じ取ってこれ以上ないほどに勃起しているのを見て、コヤンスカヤは満足げに笑みを浮かべた。
「まあ、ご立派♡ マスターのモノよりも大きいですし、これなら十分に楽しめそうです♡」
余裕そうな言動とは裏腹に、いそいそとライダースーツを脱いでいくコヤンスカヤ。露わになった肉体は、美醜の感覚に乏しいゴブリンでさえも息を飲むほどに美しかった。
あられもなく曝け出した女陰からは愛液が滴り落ち、真下に屹立する陰茎を濡らしていく。
「ギッ、ギィィッ!」
「ふふ♡ 逃がしませんわ♡」
自分の境遇を思い出したゴブリンは、拘束が緩んだ瞬間に逃げ出そうとした。
だが相手はサーヴァント。それよりも早く、コヤンスカヤに両腕を押さえつけられてしまった。
「そちらがそう来るのでしたら仕方ありません。少々不作法ですが、最初からメインディッシュといきましょう♡」
「ギギギッ! ギィィッ!」
ゴブリンの顔は怯えきっていて、それが彼女の嗜虐心を更に刺激した。
叩きつけるかの如く、コヤンスカヤは腰を下ろし。
剛直が、彼女の最奥まで一息に貫いた。
「お゛ぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?♡ お゛っ♡ お゛ほぉぉっ♡ こっ、これほどとは……っ♡」
彼女の膣穴は、ゴブリンの剛直をきつく締め付けながらも受け入れた。
想定外の相性の良さに、一瞬で息を荒らげるコヤンスカヤ。騎乗位で軽く搾り取るつもりだったはずが、いきなり調子を狂わされていた。
それでも態勢を立て直そうとゆっくり腰を持ち上げ、ペニスを引き抜かせる。しかし、それは悪手であった。
「お゛っ♡ これ、はっ♡ あ゛っ♡ 敏感な、所っ♡ 全部、引っ掻かれてっ゛♡ お゛ぉぉぉっ♡」
相手は特異点が選定した、相性最高の肉棒なのである。そんなものに膣内を存分に掻かれれば、許容量を超える快楽に襲われるのは当然であった。
結果、みっともないガニ股のまま、歯を食いしばって快感に耐えるだけの女狐が完成した。両膝に手を置いて辛うじて上半身を支えている彼女の姿を、いったい誰が目にしたことがあるだろうか。
一方のゴブリンも、未知の快感に身を焼かれ、眼前の存在に対する恐怖すらも忘れて声を上げていた。
相性抜群というのは、何もコヤンスカヤ側に限った話ではない。ゴブリンからしても、彼女の膣は己が肉棒を納める鞘として最適であった。
もっと、もっと知りたい。この快感をもっと味わいたい。そんな原始的な欲求に突き動かされ、ゴブリンは腰を全力で突き上げた。
「お゛ほぉぉぉぉぉぉっ!?♡」
不意打ちを食らったコヤンスカヤの腰が落ちる。ガニ股でいることもままならなくなったのだ。
捕食者と被捕食者の関係が逆転した瞬間だった。
「お゛っ♡ うお゛っ♡ ちょっ、これっ♡ かなり、マズいですっ♡ 腰、止まらなっ♡ い゛ぃぃぃっ♡ はっ、激しすぎますっ♡」
「ギッ、ギッ! ギギャギャッ!」
相手のことなど一切考えない力任せのピストン。だが相性抜群の雌穴は、そんな乱暴な腰遣いでも過剰なほどの快楽を得てしまっていた。
「い゛っ♡ あ゛っ♡ あ゛っ♡ これ、ヤバい、ですわねっ♡ この、私がっ♡ すぐに、イかされっ♡ お゛っ♡ お゛っ♡ お゛ほぉっ♡ お゛ぉぉぉぉっ♡」
番とも交尾とも無縁だったゴブリンにとって初めて味わうメスの身体。それが世界で最も相性のいい蜜壺だったことは、彼にとって最大の幸運だった。
「お゛っ♡ イ゛っぐ♡ イ゛ぐっ♡ イ゛っ、イ゛っ……ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ♡」
コヤンスカヤの全身が震える。尻尾と耳はこれ以上ないほどピンと張り、噴き出した潮がゴブリンの腹をしとどに濡らしていく。まごう事なき絶頂の証左。ただの雑魚ゴブリンが、コヤンスカヤを下したという証拠。
「まさかこの私が、いとも容易くイかされるとぉぉぉぉぉぉっ♡ お゛っ♡ なぜっ♡ まだ、イった、ばかりっ、ですのにっ♡」
彼女の疑問も尤もだが、理由は明快だった。ゴブリンはまだ満足していない。
脳を焼くほどの快楽に溺れながらも、身体の奥底から湧き上がり続ける何かが彼を突き動かしていた。
急に穴が肉棒を締め付けてきたが、そんなことはゴブリンにとってどうでも良かった。
故に彼の腰は止まらない。このまま腰を振り続ければ、下半身からせり上がる苦痛にも似た感覚から解放されるのだという事を、彼は本能で理解した。
「ギィィ、ギィィィ!」
「ほっ、ほひっ♡ こっ、降参ですっ♡ 負けましたっ♡ あ゛っ♡ わた、くし、のっ♡ 負けですからっ♡ も、もう、堪忍っ♡ イ゛っ♡ ピストンつっよ゛っ♡」
豊かな双丘をブルンブルンと揺らし、だらしなく涎を垂らしながらのみっともない敗北宣言。だが、言葉の通じないゴブリンにそれが理解できるはずもない。
むしろ、腰振りは速くなる一方だった。ゴブリンの方も絶頂が近いのだ。竿全体に絡みつく肉襞、亀頭に吸い付く子宮口。膣穴は早くもこの剛直こそが生涯を共にする番であると認め奉仕している。
「お゛っ♡ 中でっ、膨らんでっ♡ まさか、射精する、つもりですかっ♡ そんなこと、されては……っ♡」
然し乍ら、彼女は逃れられない。獣としての本能で身体が強きオスに媚び、奉仕してしまっている。
彼女の意思だけでは、最早それを抑えられない。
「ギィィィィッ! ギャギャッ!」
「うっ゛お゛♡ 奥っ♡ にっ♡ あたっ、てっ♡ あっ、これ本当にダメですっ♡ また、イかされ……お゛っ!? お゛っ、お゛ぉぉぉぉぉぉっ♡」
「ギッ、ギギャッ!?」
瞬く間に登り詰めた快感が、ゴブリンの腰を強○的に打ち止めた。亀頭の先端が子宮口とディープキスした瞬間、膣が再度急激に収縮し、ゼリーのように粘ついた特濃の精液がコヤンスカヤの胎に撃ち放たれた。
「うっ、お゛っ、お゛っ!?♡ ザーメンお゛っっっっも♡ お゛ひぃぃぃぃぃっ♡ 射精なっっが♡ オスとして強すぎますぅっ♡」
「カハッ、ヒッ、ギギィッ……」
息も絶え絶えになりながら精を吐き出すゴブリン。緑の肌に滝のような汗を流しながら、最後の一滴まで子宮に注ぎ続ける。
コヤンスカヤも、全身をブルブルと震わせながら濃厚すぎる精液を受け入れていた。
そのまま、数分が経ち。
「フゥー、フゥー……グギャッ!?」
射精を終えて僅かばかりの知性を取り戻したゴブリンは、そこで気付いてしまった。
眼前の上位存在を相手に、好き勝手に腰を振り続けてしまった。
機嫌を損ねればすぐにでも殺されてしまう。今更そのことを思い出した彼の身体が恐怖に打ち震える。
当然、コヤンスカヤも黙っているはずがなかった。彼女はゴブリンの両手を抑えつけ――、
「グギッ?」
「うふふ♡」
二人の指を絡め、繋いだ。人間の文化においては、恋人繋ぎと呼ばれるやり方で。
「私を本気にさせてしまいましたねぇ……?♡ 身勝手な腰振り、無許可の膣内射精……高くつきますわよ?♡」
頬を朱に染めつつも、妖しく微笑むコヤンスカヤ。ゴブリンにはその意味が分からなかったが。
「この責任は……生涯かけて、取っていただきます♡」
彼女は……光のコヤンスカヤは。
この小さくひ弱なゴブリンに、心惹かれてしまっていた。
日が沈むまで、二人……否、二匹は交わり続け。
夜になればゴブリンの住処たる洞窟へと場所を移し、そこでも交尾を続け。
再び日が昇ったことにすら気付くことなく、二匹は身体で繋がり続けていた。
「スゥ……スゥ……」
「ふふ♡ 随分と心地よさそうですこと♡」
面と向かって抱き合ったまま、ゴブリンは眠っていた。
顔が埋もれるほどに豊満で柔らかな乳房を枕に。
むっちりと肌に張り付く、細く引き締まった極上の女体を敷き布団に。
極上の毛並みとツヤを誇る、モフモフの尻尾を掛け布団にして。
一日以上触れ合い続けて、ゴブリンもこの女狐に敵意がないことを思い知ったのだ。
結果、彼は何の躊躇いも抵抗もなく身を預けるようになっていた。
そんな姿を、コヤンスカヤは愛らしく感じていた。つい先刻までオスらしさをこれでもかと見せつけてきたゴブリンの無防備な姿が、ギャップ萌えという言葉の意味を彼女に身をもって教え込んだ。
「ん……ちゅ♡」
ろくに毛も生えていない緑色の頭に、コヤンスカヤは啄むような優しいキスの雨を降らせる。甘い刺激に目を覚ましたのか、彼の目が少しずつ開き始めた。
「おはようございます♡ 私を肉布団にしての寝心地はいかがでしたか♡」
「ギギッ……グギャッ」
満足そうに呻くゴブリン。その顔はどこか笑っているようにも見えた。
「ええ、そうでしょうとも♡ 私のマスターすら味わったことのない極上の――おっと、そういえば♡」
何かを思い出したかのように、彼女は折り畳まれた一枚の紙を取り出す。
それは、彼女が最も得意とする書類。
びっしりと埋め尽くさんばかりに連ねられた小さな文字列。禁則事項や諸注意などを隅々まで記載したそれは、一種の契約書であった。
しかし、ただの契約書ではない。上方には四角い記名欄が「二箇所」存在し、そのうちの片方は彼女の名前で既に埋まっていた。各種文字列や枠も黒ではなく、彼女の髪と同じ薄桃色で塗られている。
そう、それはまるで――。
「ゴブリン様、こちらに手を♡ それで『契約』は完了です♡」
何を言われているかは分からないが、何を求められているのかはゴブリンにも分かった。導かれるように、緑色の右手の指先が契約書に触れた。
その紙切れが、汎人類史において『セルフ・ギアス・スクロール』と呼ばれた魔術文書を改造したものであるとも知らずに。
忽ち、空白だったもう一つの記名欄に謎の線と記号が書き込まれた。それがゴブリンの個体名なのだ。
同時に彼の右手に、三画の紋章が浮かび上がる。カルデア式の令呪と全く同じ意匠のそれが。
「ふふ♡ これで契約成立です♡」
満面の笑みと共に告げるコヤンスカヤ。
契約書の左側、最上段に書かれていた文字列。その意味は『婚姻届』であったのだ。
また同時に、マスター契約の移行も行われていた。この瞬間、彼女は藤丸立香のサーヴァントではなく、この雑魚ゴブリンのサーヴァントになり、そして妻になったのだ。
彼女が持っていたのは、この特異点に呼ばれた全女性サーヴァントが一枚だけ持たされる特製の婚姻届。番となった夫婦の証明であり、その命が尽きるまで決して伴侶を裏切らないという誓いそのもの。
コヤンスカヤが直々に用意したそれに、彼女自身が縛られることを選んだ。
「サーヴァント・アサシン、タマモヴィッチ・コヤンスカヤ。今この時より、アナタのサーヴァントとしてお仕え致します♡ よろしくお願いしますね、マスター♡」
こうして光のコヤンスカヤは、カルデアのマスターを捨て、小さなゴブリンの番となったのだった。
打算はあった。
寝取られマゾのマスターを少しばかり苛めてやろうとか、彼なら心に傷を負いながらも痛みを性欲に変えるだろうとか、そうして弱った所を庇護しようとか、そういう思いもあった。形はどうであれ、この特異点のはじまりは『マスターのため』であることに変わりはなかった。
そのつもりで、こんなルールを敷いたはずであった。
だが。
契約後、ゴブリンとコヤンスカヤは片時も離れることなく暮らしていた。
彼女が来てからは日々の食糧にも困らなくなったし、森を歩いていても危険はない。ムラムラすれば、いつでもどこでも最高級の女体で受け止めてくれる。たまに殺されるかと思うほど積極的に搾り取られることもあるが、それを含めても彼にとってコヤンスカヤは最高の番であった。いつしか彼はコヤンスカヤの身体にしがみつきながら日々の生活を送るようになり、彼女もそれを受け入れていた。
そんな状態が続いたある日の事。
「……おや?」
暗い洞窟の中で目を覚ましたコヤンスカヤは、そこに己のマスターがいないことに気付いた。
普段、あのゴブリンはどんな時でもコヤンスカヤを離れようとしない。それは眠る時でも同じだった。
その上、彼女は有事に備えていつでもマスターを守れるよう、油断していないつもりでいた。
然し乍ら結果として、彼女のマスターは行方不明となっていた。
予想外の事態に、コヤンスカヤは内心で焦り始める。
その焦り自体が有り得ざるものであることを、彼女は自覚していない。
あのコヤンスカヤがこの程度で心を大きく乱すなど、らしからぬ振る舞いだった。
「!? この足音は、マスター!?」
狐の両耳が、入口の方から近付く足音を捉えた。その歩調、足音は彼女が仕えるマスターのもので相違なかった。
慌てた彼女がそちらに駆け寄れば、泥だらけのゴブリンがふらつきながらも立っていた。
「マスター! いったいどちらへ……いえ、それよりも、そのお姿は……」
軽い触診。どうやら怪我は無いようだ。安堵の息を吐くコヤンスカヤ。
「ご無事で何よりです……もしアナタ様の身に何かあったら、私……はい?」
言葉を遮るように、ゴブリンは何かを差し出した。蔦で編まれた輪に、小動物の頭蓋骨がいくつも並んでいる。
「これは……♡」
この特異点に集められた人外の大半はコヤンスカヤの収集物だ。このゴブリンも例に漏れず、当然生態についても調査済みである。
その調査結果を彼女は思い出す。それによれば、オスのゴブリンは愛するメスに首飾りを贈る風習がある。その首飾りには己の手で狩った動物の骸が結ばれていて、己が強いオスであることをアピールすると共に、家族として己の取り分を分かち合いたいという意思を示すのだという。
つまりこれは、ゴブリンからコヤンスカヤへの求愛行動なのだ。
ただ女体を貪り、妻に狩りを任せるだけの怠けたオスではなく。
コヤンスカヤに相応しい夫であると、彼は精一杯誇示したかったのだ。
「ああ……こんな素敵な……♡」
体面上の夫婦のつもりだった。藤丸立香への当て擦りのつもりでこんな特異点を用意し、こんな下等生物と契約を結んだ、そのつもりだった。
だが、もうそれだけではなかった。日々を共に過ごして、毎日身体を交わらせ、目一杯の愛を受けて。
完全に。言い訳のしようもなく。
コヤンスカヤは、このゴブリンに恋をしていた。
このゴブリンを愛していた。
カルデアも世界もどうでもいい。このゴブリンの妻として共に生涯を送ることが、彼女の生きる理由になった。
「ありがとうございます……♡ 私、タマモヴィッチ・コヤンスカヤは、アナタ様を生涯愛することを誓います♡ 末永く愛してくださいませ、旦那様♡」
こうして彼女は、身も心もゴブリンの妻となった。
「ふん、熱心な事だ」
洞窟の中に突如響き渡る声に、コヤンスカヤは驚きの表情を浮かべた。
ゴブリンの方は強烈な気配に怯え、妻の身体にしがみついている。
「ゲギャギャ――おっと失礼。ご機嫌よう、モルガン様。本日はどのようなご用件で?」
「……よもやそこまでとは。策士策に溺れましたか?」
「はい?」
「忘れているようですね。今日はカルデアのマスターに送るメッセージを記録する日。次は貴方の番という訳です」
「ああ、そういえば……」
「それほどまでに、今の生活が幸せですか」
「ええ、勿論」
一切の淀みなく即答したコヤンスカヤを見て、モルガンは何を思ったのか。
「……ならば良い。そうでなくては、マスターは真に満たされないのだから」
「そうです? でしたら、早いところ録るものを録ってしまいましょう。私、子孫繁栄に余念がありませんので♡」
「……」
不機嫌そうな顔になりつつも、モルガンは映像記録用の霊装を用意する。
一通り喋り終えると、コヤンスカヤはまた夫との睦み合いを再開する。
「邪魔をしたようですね。それでは、私も次のサーヴァントの所へ行きます」
一瞬で姿を消したモルガン。気配が消えたのを確認してから、コヤンスカヤは嘲笑うかの如く邪悪な笑みを浮かべる。
「カルデアのマスター、ですか。全く、ご執心なのはどちらなんでしょうね?」
彼女は見逃さなかった。白磁のようなモルガンの肌のあちこちが、何かに吸い付かれたかのように赤く腫れ上がっていることを。
それがキスマークであることなど、誰でも分かることであった。
「ふふ♡ 『元』マスターは、果たしてどこまで耐えられるのでしょうか……♡」