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2024年 01月の記事 (12)

咲崎弧瑠璃 2024/01/26 17:55

ロリ男子七草先輩の通学

§
 満員電車は海だった。
 人海。それも、自分より遥かに大きく強い人たちの。
 毎日ドアが開くたび、心拍数が有意に跳ね上がる。140㎝台のチビにとっては、小さな女子小学生が一人すし詰めの大人たちの中に紛れるようなもの。
 僕だって、男子高校生だというのに。
 
 でも今日は幸運だった。優しそうな女の人の近くに陣取れたんだから。
 ……女の人、というより、発育のいい女子中学生なのだけれど。

 ふと目が合う。
 吊りスカートにワイシャツ、赤い紐タイ。物静かな優等生といった、眼鏡っ娘。近くの女子校の子だろう。栗色の髪を三つ編みにして、でも顔立ちは華やかだから、野暮ったさはまるでない。高級なモンブランを思わせる雰囲気だった。素朴で、僕みたいな人間が落ち付ける、数少ない人種。
 それが、僕の頭一つ分上から見下ろしてくるのだ。

 お互い、妙に相手を見つめてしまって、目が合うと気まずく会釈する。
 そして、お互いほぼ同じことを思ったはず。
 “その歳で、その体格?“、と。
 まるで大人びたお姉ちゃんと小さな妹。そんな体格差で見下ろされて、見上げさせられて。でも男女も年齢もあべこべだ。

 大人しい眼鏡少女と、気弱な小男。お互い奇縁を感じずにはいられない。でも、いつまでも見つめあってる訳にはいかなかった。
 突然、どっと混み始めたのだ。
 そして、長身女子がつんのめると。
 僕を、その胸で弾き飛ばしてしまった。
「ゎ……!」
 “え?”と思う間もなかった。小さな声と共に視界いっぱいに広がるパツパツおっぱい。それが顔面にどむっとぶつかりたわむのだ。一瞬顔いっぱいに極上の柔らかさが広がった。それが次の瞬間には力強く僕を跳ね飛ばして、無力な小人を押しのける。
 少女は気付かない。いくら長身といったって、彼女自身非力な女子中学生なのは変わらないから、こけないようにするだけで必死だった。僕も半ば逃げるように移動するけど今日の混雑は凶悪。そのまま反対側のドアまで押し流されてしまう。
 閉まるドアが、開いては閉じてを繰り返し、そのたび密度を増す人の束。息詰まるほどにひしめく巨躯の世界で、僕も圧死を覚悟する。

 けれど、なぜか体が押し寄せてこない。
「…………?」
 恐る恐る見上げれば、あの子が腕を突っ張って、なんとか僕に空間を作ってくれていた。度を越したチビ男子高校生を、自分の体で圧死させたくはないみたいだ。その長躯で僕を守るように覆いかぶさり、ギュッと目をつむって耐えてくれている。
 非力な少女がぷるぷる耐えて、でも僕は申し訳なくもその厚意に甘えることしかできない。僕の目から見れば、この子は一般人にとっての200㎝に匹敵する。潰されたら大変なのは間違いない。
 そして生まれた空間の中で。
 僕の鼻に触れるか触れないかのところで、胸元が突き付けられていて。
 電車の揺れで、上下に揺れるのだ。

 どうしたらいいのかわからない。
 でも、目を離すことも出来なかった。
 鼻先に突き付けられた中学生おっぱい。文学少女然としているのに、そのボリュームでワイシャツがキリキリ悲鳴を上げそうなほど。多分Eカップはくだらない。僕の体だとさらに2、3サイズは大きく見えるロリ巨乳。それがブラにも服にも拘束されてなおどっぷりと揺れていた。まだ、14歳くらいなのに。
 パツパツ子供巨乳が鼻先を撫でる。本人の意思と関係なく僕の小ささを煽り立てた。
 おまけに車両が減速すれば、横殴りにぐぐぅっと頬に押し付けられる清楚巨乳。少女は真っ赤になって、だのに僕は逃げることも出来ない。こんな情けないことってない。この子の体温が上昇するのがわかる。体熱が漏れる。肌からふわぁっといい香りが立ち上ってきた。どんなふうに呼吸したらいいんだろう。規格外のおっぱいを突きつけられ、パツパツのパノラマを見せつけられながら否応なく香りを嗅がされて……。でも多分、本人はそこまでは気づいていない。
 少女が、なんとか体の向きを変えようと身をよじる。そうすれば、思いっきり押し付けられ、すりすり頬擦りしてくる横乳。屈辱的で、でもむにぃっとした弾力が柔らかくて、頭がおかしくなりそうだった。年下おっぱいの母性的な重みと、生々しく羞恥を飲み込む少女の気配。それに何度も何度も、頬をヨシヨシされるのだ。
 巨乳ロリにこんなに気を使わせてしまうなんて。配慮してくれた上で、こんなに何もできないなんて。そう思うと、だんだん彼女の体が怖くさえ思えてくる。この大人しい女の子に何かされても、僕は絶対抵抗できない。触れたら痴○、でも目の前にそびえ立ち、腕で檻を作って逃げられない。見上げると、ローアングルは3分の1をおっぱいで埋め尽くされていた。

 ただ、そんな優しさも幼さゆえのことだったのかもしれない。
 そして僕は、成長するための養分だった。

 急停車する。
 電車にみっちり詰まった内容物がみんなよろけて、互いに互いへよりかかった。
 結果、少女もよろけてしまって。
 “ドンッ!“と。思いっきり壁に手をついたのだ。

「ひっ?!」
 とっさに漏れた言葉は本物の恐怖。反射的に小動物に堕とされて、ビクビクと高身長巨乳○女を見上げてしまうのだ。
 そこには、目を丸くして真上から見下ろしてくる女の子がいて。
 驚いたまま、でも、わずかに頬を紅潮させていた。羞恥ではない。高揚している。彼女自身未知の感覚に、少し恍惚とさえしていた。
 目を瞬き、それから細めて。
「…………♡」
 唇を、舌先で潤したのだ。

 嫌な予感がした。
 嫌な嫌な予感がした。

 それは、想像以上に早く的中して。
「…………ごめんなさい」
 本当に小さな一言ののち。
 電柱みたいな太ももが、僕を掬い上げたのだ。

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咲崎弧瑠璃 2024/01/26 17:53

口リ男子七草先輩の受難

§
 ベージュの髪をなびかせて、小柄な人影が帰路を急いでいた。

 華奢な肩、細い指、脚も細く、繊細な髪を肩元に揺らしている。トテトテと足早に、美少女然とした姿は夕焼けをまとってどこか儚い。
 大人しく賢い、長毛の猫を思わせる容貌。あどけなさを残す表情は、年齢不詳な雰囲気を醸し出す。150㎝にも達しない小躯は、触れただけで焼き菓子のように崩れてしまいそうにさえ見えた。

 それに声をかける、不逞の輩が一人。
「あの~、お嬢さん?」
 軽薄な声に呼び止められ、ふわりと振り向く小柄な影。
 大きな目で左右を見渡し、“自分?”という風に自身を指さした。
「そそ。ちょっとお話いいかな」
 長いまつ毛をしばたかせ、藍色の瞳が男を見上げた。大方のところは察したらしい。

 それから、ムッとする。

「僕、男なんですが」
「えっ?!」
 多分、彼の人生で一度もしたことのない顔だったのだと思う。浮薄な顔が間抜けに瞠目し、数人がこちらに振り返った。
「男?! 嘘だよね? あ、男除けの冗談? またまた~、脅かさないでよ~」
 やめてほしい。素っ頓狂な声を出さないでほしい。嘘はついてないし何か抱えてる訳でもない。ジト目で睨むけど、向こうはそれでもなお受け入れられずにいるらしい。

「服見てわかりませんか。男子です。ていうか高校生です」
「その声と見た目で男子高生は……」
「何だったら脱ぎましょうか?」
「い、いや、俺が勘違いされるから……!」
 すごく失礼なことを言われてる気がする。というか実際失礼だ。でも、頭一つ分、下手したら二つ分小さい小動物系少女に男子高生だと言われて、にわかに信じられる人はそういない。正直、慣れっこだった。
 これ以上は時間の無駄。何より、“好事家”というのはどこにでも、何に対してもいる。いきなり呼びかける時点で、自分にとってもこの人は要注意人物だった。

「……じゃあ、急いでるので」
 踵を返すと僕は、足早に去っていった。


 ⁂
 小学生の頃、女の子みたいな男子というのがいたと思う。

 線が細くて髪もサラサラと長い、中性的というには女性的な子。子供らしい顎の細さや目の大きさが祟って、到底男子とは思われない。女子に可愛がられつつ嫉妬され、男子にはぎこちなく扱われる。クラスに1人はいた子供達。
 たいていは、成長と共に骨格が変わる、雰囲気も変わる。何より、本人がなんとかしようとするものだけれど。

 どうにもならなかったのが、僕だった。

 ふと窓に映る自分に、ため息も出るというものだった。
「どうして……」
 いや、どうしてもこうしてもない。背が伸びなかった。以上。おしまい。それだけの話。公称150cmの体に筋肉はつかず線は細いままで、大きさからして男子ではない。顔のパーツがいいというのも考えものだった。髪を切っても、服を変えても、俺呼びしても運動しても男らしい趣味を始めても、どうしても見た目との不調和が目立ってしまう。僕はこの、小柄性の檻から逃げられない。

 そんなメス男子、高校じゃ浮いて当然だ。
 何より小さすぎるし、性別年齢不詳すぎる。高校生に女子小学生が紛れ込んでいるようなものだ。接しようがわからない子が多いみたいで、広く興味は引くけど深くは接しない、クラスの浮石みたいな存在になっていた。僕としても、誰も彼も自分より20㎝は大きい生徒たちはちょっと怖い。……そんなことを言っているから、余計振る舞いがおかしくなっていくわけだけど。

 憩いの場所は、唯一部室だけ。
 人の寄り付かない、静かな物置部屋。それを片付けて根城にした僕は、ようやく魂の平穏を得つつあった。
 ……最初は、他にも部員が使っていたのだけれど。僕と2人きりの時間に耐えられず、1人2人と足が遠のいていった。
 結果僕は、写真部室の小さな主だ。

 と、思っていたのだけれど。

「でさ? 生地ザラザラになっちゃって! レシピ通りに作ったのにだよ?」
 突然の笑い声に肩を振るわせる。少女の、快活な声だった。
「マリナ、それは分離って言うんだよ。卵、常温にした?」
 片やダウナーな少女の声。見れば黒髪の少女が、友人に静かに相槌を打っている。聞いているのかいないのか、眠そうにも見えるが、彼女はいつもこうだ。雪野という名前のごとく、静かに降る雪に似てどこか浮世離れしている。多分、お互い慣れっこなのだろう。事実、明るい茶髪の女子高生は気にも留めない。ただ「分離??」などと首をかしげるだけ。これが星宮さんという人だった。星と言っても、月というよりは太陽だ。
「簡単に作れるっていうから作ったのに。ショート動画なんだからこう、“まとめて焼くだけ!”とかじゃないの?!」
「そのレシピは完全に“まとめて焼くだけ”だよ、マリナ」
 それに星宮さんは、“え~?”と不服そうに体を揺らすだけ。そしてむっちりとした脚を組めば、スカートがめくれ上がってしまう。僕だって男子なんだけど。というか、先輩なんだけど。そんなのお構いなしだった。

 ……彼女たち新入部員が、本当に写真に興味があるかはわからない。そもそも自分も、部室が理由の半分ではある。ちなみに残りの半分は、撮っている間は観察者の側に回れるから。だから、それは全くの不問だった。
 でも、賑やかな中で本を読むには、僕の神経は少し細すぎた。
 
「ユミだって料理で失敗くらいするでしょ?」
「しない。私はマリナみたいに雑じゃないもん」
 星宮さんと雪野さんの緩急ある応酬が、意識を掴んで離さない。なまじ綺麗な声だから、騒音と思うこともできなかった。
 どうしよう。言うのも怖いけど、ここで立ち去ったら感じが悪い。何より、数少ない居場所が奪われてしまう。二人は別に悪いことはしていないし、これは僕の問題で……。
 
 頭がグルグルしてきて、抑えようとすればかえって思考がリフレインしてしまうようだった。とりあえず飲み物でも買ってこよう。というか、どこかに一度逃げなくちゃ。
 そう思って席を立った時。
「わっ?!」
 椅子が思いのほか音を大きく立て、辺りを静まり返らせた。……オーバーサイズの椅子から、半分飛び降りるように降りたせいだ。一斉に二人がこちらを見つめる。ちょっと、血の気が引いた。

 喉から、糸のように言葉が漏れた。

「あ、あの、……少し、静かに……お願いします」
 おずおずと、精一杯の笑みを浮かべて、優しく言う。後輩になんでこんなに気を遣わなきゃいけないんだろう。でも、大人びた女子高生二人組は僕にはちょっと怖かった。
「あ、はーい」
「マリナがわるい。うるさすぎ」
 意外に二人が素直で、ちょっと拍子抜けする。同時に、安堵もした。そうだ、こっちが気にしすぎていただけで、言えばみんなわかってくれるのに。また自分は、勝手に怯えて決めつけて……。

 少し反省しつつあった僕。けれど、二人はなぜかこっちから視線を外さなかった。
 大型犬と猫のような二人が、ジィっとこちらを見つめてくる。ぱっちり大きな目と眠たげな目、それが真正面から、僕を覗き込んでくるのだ。
「あの、な、なに……?」
 思わず後ずさりしそうになったところで、茶髪少女が一言。
「センパイ、ほんと、ちっちゃ……♪」
 クスリと笑ったのだ。
「うん。私たちと目の高さ、変わんないね」
 言われて気付く。座っているのに、二人と大して視線が変わらない。僕にしてみれば当然だけど、二人には新鮮なこと。僕が怖がって、なるべく接近を避けていたからだ。その分、女子高生たちの興味は一層こちらに向いた。
「……ロリ先輩♪」
「こら、マリナ、失礼だよ」
「でもほら、七草先輩の目おっきくて可愛いよ? 髪もサラサラ~♪」
 そう言って、僕の頭を撫でてくる後輩女子。あまりに自然に髪を触ってくるものだから、一瞬何をされているかわからなかった。
「……あ、こ、こら! 撫でない!」
「あ、手もちっちゃ~い♪ 本当にこれで先輩なんですかぁ? ホント、○女みたい♪」
 押し返そうとした手と手を合わせて、大きさ比べさせられる。どの指も一関節分は長い女性の手が、指と指を絡めるように握り込んで来た。
「やめてってばぁ……」
「七草先輩のこと、女子はみんな可愛いって言ってますよ?」
「だからって……」
「あはっ♪ 震えちゃってる♪ ユミも見て? 女の子みたいに泣いちゃいそう♪」
「ゆ、雪野さん……」
 助けを求めるように、黒髪少女に目を向ける。物静かで、落ち着いた雪野さんは頼みの綱だった。
 でも、雪野さんはじーっとこちらを見つめたまま。
 
「ここ……」
「ここ?」
「ここ、座る?」
 ぽんぽんと太ももを叩いて見せる。黒タイツをまとった、僕の胴ほどもありそうなむちむち太もも。座って潰れたそれはぶっとくて、一瞬、僕をドキッとさせた。星宮さんのクスクス笑いが聞こえなかったら、負けていたかもしれない。
「す、座りません!」
「ダメ、座って」
「わっ?!」
 無理やり後ろから抱き締められる。もろに倒れ込めば、後頭部を“むんにぃっ♡”と受け止める大きく柔らかいもの。硬直する。動いたら存在が確定する。だが、動かない訳にもいかなかった。腹筋をプルプルさせながら、必死に起き上がろうとした。
 そんな子供を、ぎゅうぅっと抱き締める黒スト女子。大人の腕力に○女同然の僕が敵うわけがない。豊満なバストに埋もれ、清楚な香りに包まれる。どこもかしこも柔らかくて、温かくて、甘い香りがして……。でも、こんなことで興奮させられたら敗北以外の何物でもない。ほとんどヤケだった。

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咲崎弧瑠璃 2024/01/26 17:47

雨四十日、ノアは傘を後ろ手に

 §
 絹糸に似た雨は曇天に鈍く輝き、やがてその重さも増していった。土砂降りだった。無防備な街に人に仮借なく、いつしか人影も消えていた。
 
 昼なのか夕方なのかも判然としない厚雲の下、二人して走る。鞄を頭の上に掲げるも意味がない。道もけぶるような雨。先行く少女の足取りだけが軽い。
 目の前、ふわりと舞う銀髪。細く長い髪は輝きを残し、雫を漂わす。それもやがて雨を含むと、タイツの太ももを黒く濡らしていった。
 そして、はたと足を止めると。
「先生、こっちです」
 くるりと振り返り、ノアが言った。


 ──私たちが軒先に入った途端、雨脚は一挙に強まった。

「すぐにはやみそうにありませんね」
 ハンカチで軽く髪をぬぐいぬぐい、空を仰ぐノア。空は鉛に似てのっぺりと暗く重い。ノアの白さが眩しいくらいだ。
「タクシーは……、出払ってるみたいだね」
「D.U.といっても広いですから。運転手もたいていは学校の子たちですし」
「ミレニアムの無人タクシーを引っ張ってくるべきだったかな?」
「ふふ♪ 業務委託ならご相談に乗らせていただきますよ?」
 私の横に立ち軽やかに言うも、まだ呼吸は荒いまま。呼吸を抑え、それでも細く鳴る息づかいが生々しい。雨宿りの、どこか隔絶された雰囲気に包まれ少女と二人。雨闇に浮き上がってくる存在感が、私を落ち着かなくさせた。

「先生も、こちらをお使いください」
「……ん? うん。ありがとう」
 ノアがハンカチを差し出す。ラベンダー色の瞳が見上げれば、髪先から雫が落ちた。すっかり濡れている。
「パーカーを置いてきたのは、失敗でしたね」
 私の視線に気づき、羽織っていたジャケットを脱ぐ。ボタンを開き、色合いを重くした袖から腕を抜くと軽く雨を払った。
 私も、何気なくその所作を見やっていて。
 ドキリとしたのは、濡れてシャツが透けていたから。普段ぶかぶかなパーカーとスーツをまとっている分、ずいぶん華奢に見えるシャツ姿。細い肩から背は汗でほんのり汗ばみ、胸元は雨に濡れてぴっとりとブラの黒さを浮き出させている。……ジャケットを丸く膨らませるほどのボリュームが、そのまま浮かび上がれば想像以上の大きさに目を驚かせない訳がない。意識しないでいた生徒の艶やかさに、慌ててかぶりを振る。

「……とりあえず、羽織っておいて」
 打ちつけな申し出に目をパチリとしばたかせ、それからかすかに微笑むノア。白状するようなものだと知りつつ上着を手渡す、教師の態度をどう思ったのか。受け取らず、澄ました顔で自分のジャケットを羽織る。参った。今日はノアが、いつにもまして大人びて見える。
 
「……天気予報だと、元から雨だったみたいだね。夏の豪雨は予測しにくいと思っていたけど」
「うちの技術を使ってますから」
「でも、見なかったんだ」
「ミレニアム生らしくないと思いましたか?」
「……むしろ、逆かな」
 ノアは特に答えるでもなかったが、間違いではなかろう。彼女の端末は、バッグの中にしまったままだ。
 ──奇妙な話だが、正確無比なミレニアムの気象予報を、ミレニアムの生徒はしばしば見ずにおく。より厳密に言えば、見なかったことにする。意外性がないからだ。自己成就する予言のような天気予報は、生徒には少々退屈だった。
 あながち、子供だからという理由だけでもない。研究の多くはその実単調な確認が多く、同時に研究者として予想外の結果を期待している。占星術に興味を持つヒマリは、ある意味ミレニアム生らしいミレニアム生と言えるかもしれない。

 であるからして、多くの生徒は一瞥した予報をノイズとして処理する訳だが。
 ……気付くのが、少々遅かったかもしれない。
「──待って、ノアが天気予報を忘れることなんて……」
 ただ、少女は全てを待ってはくれなかった。

「先生、お部屋はお近くでしたよね?」
 淡々と記録を綴る少女は、私が断れないことを知っていた。

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咲崎弧瑠璃 2024/01/26 17:45

蛍と賊と太もも責めと

 トンズラを決め込もうとしていた時だった。
 すでにブツを引き渡し、無妄の丘から国境を越える、まさにその時のこと。
 やおら、凄まじく可憐な少女に呼び止められた。

「待って!」
 見れば金髪の、どこの国ともつかない服を着た美少女。全体的に白をまとった小娘が、大きな目をこちらに向けている。白百合に似た印象を与える少女は、やっと見つけたと言わんばかりに半ば恨めしげだ。

「なんか用かね」
「話はいいから盗品を出して。もう貴方以外いないの」
「何のことかお話が見えないのがねぇ」
 のらくらとかわしながら逃げる算段を考える。正直こんな娘に呼び止められたところでなんの痛痒もない。時間の無駄だった。
 片や金髪少女は、一歩踏み込んでくる。白のニーハイブーツを履いた、恐ろしく美しい脚、太く長い良い脚だ。肩や胸元を露出した服も何よりその顔も、近くで見れば放っておくには惜しい。値踏みするようにジロジロ見つめ、それを娘は軽蔑する。
「今渡せば無傷で帰してあげる」
「誰かに騙されたないかいお嬢ちゃん。悪いことは言わないからさっさと帰んな」
「貴方も倒されたい?」
「だから……、ん、倒したって……?」
 嫌な予感がした。ヤワな連中を仲間にする俺じゃない。嘘じゃないと言えば大事だった。旅人と呼ばれる冒険者がシマを荒らしているという。誰も歯が立たない、やたら肩書きの多い異郷の人間。まさかこんな小娘が?
 けれど、訝しんでいる暇もない。

 見ればこの娘、問答無用で剣を抜いていたのだ。
 それどころか、振り下ろしてさえいる。
「ぶわっ?!」
「そう。交渉決裂だね」
 切り掛かってから言うことではない。空を切る音も華奢な体格からは想像のつかないほど重々しい。ヤバい奴に目をつけられたかもしれない。
「くっそ!」
 破れかぶれの煙玉だった。どうせ逃げられないなら虚を突く他ない。煙幕に咄嗟に身を庇う。そこへあらんかぎりの力を使って蹴りを入れれば、どうも鍔に直撃したようだった。

 回転し宙を舞う剣。よく見れば実力に不相応なほど貧相な装備だが、ともかく武器を奪えさえすれば問題ない。爆薬をばら撒き、退散しようとした、
 その矢先。

 彼女の姿が消えた。
 というより、いきなり目の前に現れた。

「ひっ?!」
 怪物じみた勢いで間合いを詰めた小娘。眼前に琥珀色の瞳が広がったと思えばふわりと髪が俺の頬を撫でた。慌てて剣を振るうも、すでに娘は飛び上がった後。刃先にトンっと乗るとすぐさま一回転し、武器を回し蹴りで蹴り飛ばしてしまう。

 そして次の瞬間。
 丸腰の俺に、絡みついたのはその美脚だった。
「なっ?!」
 一瞬視界に溢れるくすみひとつない乳白色。それは桁違いに肉感的な逸品だった。むっちり美脚が首に巻き付くと、少女特有の柔らかさに一瞬心が開催を叫ぶ。だが次の瞬間押し寄せたのは、健康的で強靭な締め付け。ふくらはぎもがっちり絡みつけば、俺はスカートの中に横から顔を突っ込むハメになる。
「何を、ぐっ、やめ……ッ!」
 身を振り解こうにも無駄、何より重心が狂って立っていられない。むっちりと極太の太ももに挟まれ包まれ締め上げられ、少女が体を捻れば俺はほとんど蹴り倒されたも同然だった。少女が全体重をかけるに及んでは、もはや立っていることなど不可能。そのまま地面へと、したたかに叩きつけられてしまう。

「ぐああ゛っ?!」
 何が起こったのかわからない。
 ただ、少女にねじ伏せられているという結果だけが残っている。
 しかも、太ももで。

「馬鹿野郎ッ! 放せ、やめ、ぐっ、ああああ゛ッ?!」」
 ねじ伏せてなおギチギチと締め上げる小娘。柔らかくも旅で引き締まった太ももは、もはや凶器とさえ言えた。ぎっちりとした弾力がむちむちの柔らかさをまとって、えも言われぬ極上の質感。それで全力で締め上げられるのだから、万力じみた丸太おみ脚がギッチギチに首に巻き付くのだ。しなやかに締め上げつつむっちりたわむ、マシュマロ柔肉が溢れかえってしかたない。少女のビロードのような滑らかな肌に包まれた、豊穣な肉感と暴力的太ももギロチン。それが、俺の命を刈り取ろうとしている。
「やめっ、殺す気か、あ゛っ、〜〜〜ッ!!」
 なんとか外そうとするも、太すぎて指もかからない。ただ指先が、太ももに沈み込んでは撫でるだけ。こんな状況でなければいつまでも感じていたかった。まさか肌の滑らかさに殺されかけるなんて。太ももに埋まった顔は、鼻さえ塞がれてしまう勢いだ。

 まずい、死ぬ。
 小娘の極太美脚で、首をへし折られる。窒息させられる。
 こんな美しくむちむちの柔肌が、男の命を、俺の人生を挟み潰そうとしているのか。

 だが、旅人に容赦はなく。
「うるさい。ジッとして」
 藻掻く俺を抑え込もうと、上からのしかかるのだ。

 一瞬、ほんの一瞬、太もも○問具が力を緩める。

 だが、次の瞬間降ってきたのはスカートの中身だった。視界一面に広がる、純白の下着。ローアングルからドアップで拝む股間が、“どむ゛ッ♡“と顔面をぶっ潰す。

 顔面騎乗位だった。

「〜〜〜〜ッ!!!」
 当人は太ももで首を締め上げるのに夢中で、股間で窒息させていることに気づかない。左右から包み込むエゲツない太さの肉感と、直接包み込む柔肉が快苦で俺を責め立てた。股間が明らかに苛立っている。金髪美少女の太ももホールドと顔面騎乗位に悦んでいる。盗人の尊厳をかけてもがく俺。そんなの、更なる○問を生むだけなのに。

「落ちて」
 片や金髪娘はたった一言、可憐な声で、それだけ。
 そして、俺を締め殺しにかかるのだ。

 首をへし折らんばかりの力だった。常人とは比べ物にならない脚力で、頭をがっちり抱きしめる。完全に股間と美脚でホールドし、首を締め上げて。なかなか落ちないなというふうに締め具合を変えるものだから、ショーツ越しにお股がふにふに撓んで俺を弄んだ。直接嗅がされる美少女の甘香。蕩けるような肉感と淫猥な感触。
 全方位から押し寄せる、快楽の中で。
 快楽が急上昇し、死と射精の危険が同時に襲ってきた、その瞬間。

「あ」
 旅人のニーハイブーツが、太さに耐え切れずブチっと音を立て。

 盗人の意識もまた、無理やり引きちぎられたのだった。

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咲崎弧瑠璃 2024/01/26 17:42

生塩ノアに握られている

 

§

 軽やかな声に呼びかけられた時、白百合の香りに吹かれた心地がした。高く澄んで、理知的な、奥深い人格。生塩ノアの声だった。

 

「先生、今日のミーティングの件ですが……」

 銀髪の少女が駆け寄れば、はためくパーカーと、タイトにしまったスーツ姿。そしてふとこちらを見上げれば銀髪から覗く目は、淡く澄んだアメジストの色。それがぱっちりこちらを見つめてくるものだから、私は毎度心臓に悪い思いをする。ノアの至近距離での直視は、私の能く耐えるものではない。

 

「……あの、先生、どうかしましたか?」

「……ぁ、いや、なんでもないよ」

 その声に、両目をつむってニッコリ笑う少女。それから再びこちらを見つめると。

 

「……♪」

 目を細め、クスリと笑った。何かを見透かすような視線に、思わずドキリとする。この少女といると、どうも調子が狂う。主導権を握られっぱなしで、どころか手のひらの上で転がされて。その柔らかで優しく、イタズラな手のひらから私は、逃れられずにいる。

 まごまごしている私を、クスクス笑うノア。

 

 けれど私は、その視線に応えるすべも知らず、

「それでは先生、またあとで♪」

 くるりと踵を返すノアに、かける声すら持たなかった。

「あ、あぁ……」

 ふわりと広がる、長い長い銀髪。すらりとした立ち姿は、一人咲く白い百合さえ思わせる。その後ろ姿を目で追いながら。

 私は、安堵ともつかない吐息を漏らした。

 

 

 ⁂

 生塩ノアが謎めいていることに、異存はないだろう。

 

 もちろん私も、仕事柄いろんな生徒を知っている。年齢に見合わないほど老成した子も少なくない。

 

 けれどノアは、とびきりだった。

 

 柔らかな笑みは本物なのに、どこか底知れない。けれど何かを隠しているのでもなく、恐ろしく自然体。何が起こっても動じないのに、純粋に目の前の世界を楽しんでいる様子だ。

 ベールに包まれているようで、曇り一つない目で全てを見通すような少女。

 不思議だ。本当は、上位存在か何かなのではないか。奥行きある捉えどころのなさは、魅力という他ないだろう。

 

 けれど、淡々と記録していくそんな彼女も、退屈だけは苦手だという。変化を記述する、その特性ゆえに無変化は好まない。

 そんな日々の無聊を、ユウカで紛らわせていた彼女。それが、新たな対象を見つけたらしい。

 

 私だった。

 

「ほら先生、手が止まってますよ♪」

 やおら肩元から覗き込み、作業の遅滞を笑う囁き。吐息が耳奥を撫でるような感覚に、思わずヘンな声が出る。おまけに、振り返れば目前に美少女のドアップ。肩に顔を乗せそうな勢いで覗き込むノアに、真正面から見つめられてしまう。

 

 セミナーの執務室、静かな空間にいるのは私と彼女だけ。それがもう鼓動さえ聞こえそうな距離にいるものだから、驚くのは当然だった。

 

「い、いつからそこに?!」

「今です、たった今♪」

 そう言って、ノアが目前の椅子に腰を下ろす。

 

「少し早く来すぎてしまったようですね? 前回少し遅れたのを、ちゃんと覚えていたみたいですね♪」

 少し揶揄うように言いながら、深いアメジスト色の瞳がこちらを覗く。その超然とした包容力に、甘い引力を感じないでもない。

 

 何を馬鹿な。私は先生だろうに。

 そう思い視線を戻すと、そこにはクスリと笑うノア。

 見透かされている。

 

「今日は色々とお教えくださいね? 先生は、大人の方ですもんね……♪」

 私の隣に座り、耳元に囁く白百合の美少女。あの甘い声が耳内をくすぐり、鼓膜を撫でてぽそぽそ囁く。こぼれた柔らかな銀髪が、私の肩を、手を、膝を撫でて、滑らかな感触を残していった。もう少女話の香りは、ふわりとあたりに広がるばかりだ。

 

「まぁ、教えるものがあればね」

「ふふ、先生は本当に面白いですね♪」

 平然を装う私に興が乗ったらしい。クスクス笑いながら、タイツの足先で私の脚を突き始める。女性的なほっそりした輪郭が、服越しに脛を、ふくらはぎを、足の甲をなぞり上げた。

 すっかりわるい揶揄い方を覚えてしまったノア。過激な行為も、不動心の少女にとっては刺激のほうが重要なのだろう、まるで気にしていない様子。魅惑の黒スト美脚を絡め、妖艶な足つきで私を弄ぶ。つつき、なぞり、少しつねったり、甘く内股をさすったり。脚を上げればスカートの隙間から、むっちり肉付きの良い太ももが顔を現す。ぴっちりとした繊維をパツパツに広げる、太くエッチな極上の太もも。タイツ特有のマットな光沢を貼り付けて、椅子にむちむちと圧し広がるのが肉感的でたまらない。今すぐ、その感覚を確かめたいくらいだった。

 

「ふふっ、興奮してるんですか? 先生が生徒にそんなこと、しませんよね♪ ね? “先生“♪」

「ッ……! あまりそういうこと、大人には、しないほうがいいかな……っ」

「ええ、信頼してる先生だからこそ、出来ることです♪」

 悟る。いや、悟っていた。私は、この華奢な少女に抗えない。精神的にも的にも、物理的にも、社会的にも。何かと奔放な私だって、一線を越えることはできない。なにより、よしんば全てをかなぐり捨てたって、私ではノアを押し倒すことすらできないだろう。キヴォトスの少女らと私とでは、力に差がありすぎる。ノアはきっとニコニコしたまま、私の腕を片手で止めてしまえるだろう。かつて戯れに腕相撲した時のように。

 私は、この華奢な少女に、絶対に抗えないのだ。

 

 クスクス笑い、煌めく瞳で、私の全てを記憶する女子高生。

 それから、急に身を引くと、

 

「ほら、ユウカちゃんが来ましたよ♪」

 

 爆発的な勢いで、ドアが開いた。駆け込んでくる黒髪の娘。カチリと時計が頂点を指した。

「す、すみません、待ちましたか?!」

「……ううん、待ってないよ」

「大丈夫、時間ピッタリですよ♪」

 さしずめ、また問題児に時間を食われていたのだろう。息を乱しながら飛び込んできたユウカ。大した打ち合わせでもないのに時間を遵守したのは、気質だろうか、プライドだろうか。

「そんなに気にしなくても大丈夫だよ」

「ありがとうございます。まぁ今日は、忘れてくれない記録魔がいますし……」

 席に座り、はぁ……っと頭を抱えるユウカと、お茶を出すノア。弱々しくカップを受け取る同期に優しく微笑むと、書類を配る。

 

 それから、ストンと腰を下ろした。

 

 いつものユウカの隣ではなく。

 私の、真隣に。

 

「では、始めましょうか♪」

 嫌な予感とともに、ふわりと漂うノアの香り。もう触れそうな距離にその華奢な肩がある。ユウカも何か言いたげな様子だが、それを許さない己との間で葛藤中の様子だ。そして、ノアにふわりと笑いかけられると、

「では、始めましょうか♪」

「え? ええ、そうね」

 もう、何も言えなくなってしまうのだった。頭を切り替え、書類を広げて、

「それでは、オープニングセレモニーについてですが……」

 仕事モードに入るユウカ。平常運転のノアはペースを崩さず、私の隣で頷いている。滑らかに動く時限爆弾の隣にいるようだ。

 

 けれど。

 

 けれどそれからは、存外平穏なもので、

「次はこちらで……」

「先生、こっちの書類も一応チェックを……」

 つつがなく、そう、ひどくつつがなく処理されていく議題。前打ち合わせ程度つもりだったが、困難に見えた問題も、淡々と処理されていく。優秀な二人がいると話が早い。

「案外、早く終わりそうだね」

 さすが冷酷な算術使い、などとユウカをからかう余裕も出てきたところで……。

 

 不意に、視界の外からノアが顔を出した。

「時間もありますし、開幕式のVTRも確認してしまいましょうか♪」

 ズイッと身を乗り出して、私の手にある書類を指し示す少女。恐ろしく長い白銀の髪がこちらに溢れ出る。

 

 それだけじゃない。

「あの、ノア……」

「はい、なんでしょう?」

 至近距離でにっこりほほ笑む美少女。だが、それに答えることはできない。当然だ。言えるはずがない。

 

──手が、股間に当たってる、だなんて。

 

「い、いや、なんでもない……」

 震える声で言葉を飲み込む私。それが、ノアのお気に召したらしい。

 

 そして、いきなり。

 

 ジジジッ、と。

 

 ズボンのチャックを、ズリ下げた。

 

「ッ?!」

 あまりのことに、反射的に立ち上がろうとする私。驚愕する中で、物音にキョトンとするユウカと目が合う。そのイノセントな反応を、とてもじゃないが汚すことはできない。耐えるしかない。というより、耐えることしかできない。

「ユウカちゃん、動画、始まりますよ♪」

 ノアの手前、彼女も仕事をおろそかにはできなかった。画面を見つめ、集中してしまう。もう、私の異変に気づいてくれる者もいない。

 

 そしてノアは、閉じようとする私の脚をこじ開けて。

 お目当てのものを、下着の中から引き出すと、

 

 そのまま、指を絡ませたのだ。

 

「ひぅ……ッ?!」

「ダメですよ〜、静かにしなきゃ……。ユウカちゃん、気づいちゃいます♪」

 その囁きに呼応するように、指先が私のそれをなぞりあげる。美しい指が、必死に自制する男性器をからかい、撫で上げ、そして、ゆっくり、ゆっくりと五指をそれに沿わせると……、

「我慢、しましょうね……♪」

 “ぎゅっ♡“と、それを握ってしまうのだ。

 

「ッ……!!」

 声が出そうになるのを必死にこらえる私。生徒にとんでもないことをされている、それだけで私の対処能力を超えていた。そうする間にも、白魚のように細いノアの指が、私のものに巻きつく、絡みつく。ひんやりと快い体温は静けさをたたえていて、けれど同時に漂ってくるのは少女のからかうような気配。やや冷たい温度が鮮明に指の感触を染みつかせ、ふにっとした柔らかさを感じさせていく。小さな女性の手。柔らかな細指。それに包まれ、握られて、私はもう抗えない。

 

 そして、そのまま“ぎゅ、ぎゅうぅ……っ♡”と握りこまれて。

 

 甘い手コキが、始まったのだった。

 

──すさまじい感触だった。

 動作としては自慰と変わらない行為。それが、他人に触れられている、それだけで性行為に変わってしまう。ノアの意思が私に染み込む、性感帯に囁きかける。優しく優しく、けれど的確に快感を煽り立てる指使い。美少女に触られているという事実が、生々しく脳裏に刻みつけられる。

 おまけに、その甘い手の感触は極上で。小さな手がぴっとり性器に吸い付き絡みつく、その事実だけでどうかなりそうなほどだった。

 “ずにいぃ……ッ♡”と先端へ搾り上げられ、再び練りつけるように根元へ滑らせられる。その軽い一ストロークだけで、ジンジンとした快感が先端に凝結していった。

 

「ダメですよ〜……♡ ダメ、動いちゃ、ダメです……♡」

 あの落ち着いた声が、ウィスパーボイスで私の耳を凌○する。ASMRのような、極上の囁き責め。内耳を舐めくすぐるような吐息と、脳の中から響くようなノアの美声が、あまりに神経を興奮させる。強烈な快楽だった。

 

「ふふ……♪ もうこんなになってしまいましたね♡ ユウカちゃんの目の前なのに、だらしなく感じてしまうんですか? ……あはっ♡ ビクッて感じたの、しっかりわかりましたよ♪」

 手が汚れることも、彼女の不動心を揺るがすものではなかった。指先をカリ裏に滑らせると、ぎっちり握りこみそのまま刺激するノア。その手技は、明らかに私の弱点を探り当てていた。初めは知らないおもちゃを相手に、色々と試していた様子の手つき。それが彼女の持ち前の理解力でもって、加速度的に成長していたのだ。

 

「ここの音楽の入りは、もう少し早い方がよくありませんか?」

 音を隠すためだろうか、VTRの音量を上げるノア。天佑にも思えた。それは、ユウカからの発覚を紙一重で守ってくれるはず。そう思う一方で。

 それは同時に、過激な手コキをも許してしまい。

 

「もう逃げられませんね♡」

 私は、容赦なく股間を攻め立てられるのだ。

「私にそんなところを握られて、どんな感覚ですか? こんなふうにしっかり握られて、私の細い指に巻きつかれて…………、こう♪」

 “じゅぷっ♡ じゅぷじゅぷじゅぷッ♡♡”と激しく私を責め立てる美少女の細指。艶かしく裏筋を撫であげたり、カリカリと鬼頭を撫で回したり、音が漏れそうなほどめちゃくちゃにシゴきまくったりと、その所作は○問レベル。潮吹きでもさせようというかのような執拗さと強烈さは、私の全てを掌握していた。ただただ気持ち良い。そして絶望的なまでに果てしない。今も常に囁きかけるノアの美声が、その快楽を何倍にも増幅させた。

 頬にかかるサラサラとした髪、そこから漂う女の子然とした甘く華やかな香りと、押し付けられた巨乳の弾力。むっちり腕に推し広がり、そのまま“むにぃっ♡“と谷間に挟まれれば、いよいよリビドーは鰻登りだった。女性の指、髪、香りに乳房、その甘美さが、意識してはいけない相手だからこそ背徳的に衝迫する。

 

 もう私は、快感にガタガタと震えるばかりだ。

 

「ちょっ、ちょっと先生、どうしたんですか?!」

「大丈夫ですか? 先生、無理はなさいませんよう」

 気遣うように声をかけるノア。ユウカの視線に私を立たせ、関節手に快感を増幅させるつもりラシア。

 そして、心配して私を覗き込むように顔を近づけると、

 

「今イッたら、私、ユウカちゃんにバラしちゃいますよ……♪」

 

 ぽそぽそと、そう囁きかけたのだ。

 

「……ッ!」

 

「大変ですね先生、ご体調でも悪いんですか?」

 私の驚愕を無視して、気遣わしげに頭を撫でてくれるノア。ヨシヨシと優しいその手つきは、けれど容赦ない手コキとともに私を挟撃する。“ヨシヨシ♡ かわいそうかわいそう♡”という風な甘い手つきと、苛烈な責めの同時攻撃に、頭がバグをきたしそうなくらいだ。

 

 そして、その手を下ろすと……、

 

「えいっ……♡♡」

 そのまま、両手での包み込み手コキを始めてしまうのだ。

 

「ぎっ?! っ、~~~~~!!!!」

 凶悪だった。逃げられないようぎちぎちに片手でペニスを握りしめながら、もう片手で無防備な亀頭にその滑らかな手のひらをこすりつけるのだ。先端を磨くように、円を描いて撫でまわす極上の手のひら。女性の柔らかな手が、ふっくらした起伏や繊細な指紋でその感触を変えていく。まるで○問器。まるで快楽の万華鏡。可憐な少女に、私はなす術がない。ただひたすら、そのエッチな手のひら責めに悶えるだけ。

 

「なるほど。そこが弱点ですね? 覚えました♪」

 無防備に握られて手のひらの中、赤裸々に自分の好きな箇所を伝えてしまう私の男性性。それを、最も有能で最も記録に長けた少女に知られてしまう。すぐさまその学習は手コキにフィードバックされ、快感は指数関数的に高まった。

 

 そして、いよいよ沸騰、という時になると。

 

「だめですよ~? ちゃんと耐えるんです♡ 耐えて~、耐えて~、……ギュっ♪ あはっ、ビクッてしましたね♪」

 パッと手を止め、がっちり握り込み。煮える快楽が少し引くまで待つ。気遣うフリして吐息を吹き込み、耳をはみ、耳の中で囁いて、油断したところを“ぎゅっ♡“と握りしめる。そして、ゆっくり、ねっとり、正確無比な刺激で私を手のひら地獄へと落としていった。

 

 まるで、ノアの小さな手のひらの上で飼われているかのようだった。すべすべの手のひらから湧き立つ、強烈な快感。そこから逃げることも止まることもできず、もみくちゃにされる。ストロークと囁き、甘いからかい。それが、繊細かつ強烈なテクニックで私を握り犯し続けた。

 

 おまけに、カリを締め付けられ。指のリングで、執拗に執拗にイジめられ始めれば。

「ひぅ?! ッ、〜〜〜!!!」

 私は机に突っ伏し、ガタガタと震える他ない。ユウカの立ち上がる音が聞こえる。素っ頓狂な声も響いてきた。けれど、それを上書きするように、ノアは耳の中にエッチな唇で囁きかけ……。

 

「おば〜かさん♡」

 そう言って、更に甘美な窮地へと立たせるのだ。

 

「すみません、ユウカちゃん、ちょっとアレ、取ってきてくれますか?」

「アレって?」

「保健室のキットです」

「わ、わかった!」

 そう言って、小走りに去っていく少女。

 

 そして、パタンとドアが閉まると、

 

「ふふっ♪ では、私たちも……」

 一転、甘い声で少女は言った。

 

「限界、試してみましょうか♡」

 そう囁いた。

 

「わかりますね? 先生なのに、生徒の、女の子の手に、無様に、惨めなものを、吐き出すんです♡ それとも、ユウカちゃんに見られるのがお望みですか? ユウカちゃんが真っ赤になって立ち尽くしてる前で、私にこのまま、搾り取って欲しいですか? ふふ、それもいいですね♡」

 あからさまに狼狽えるのを、見逃す彼女ではなかった。

 一度、目をつむってニッコリ微笑むと、

 

 耳に、直接触れるほどに唇を近づけて、

 

 その、悩ましい吐息で、吹き込むように、

 

──イ・ケ♡

 

 そう、囁いたのだ。

 

「ッ────!!!」

 耳の中を吹き荒れる呼気、脳を直接舐め上げるようなウィスパーボイス。それと同時に最も気持ちいい場所を“ぎゅちッ♡ ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅうぅッ♡“とシゴきあげられるのだから凶悪だった。今まで麻痺していた快感が一斉に鮮明になり、神経の中を暴れ回る。

 

 まるで、ペニスに詰まった栓を、一気に引き抜いたような快楽だった。

 声にならない声を漏らし、突沸する快楽。

 白熱するような絶頂で、ノアの手の気持ちが脳に刻み付けられる。

 

 それでも、ノアは止まらない。

 

 美少女の指先が艶かしく私を包んでシゴきあげ、極上の一撃を何度も何度も加えている。もうイッている。なのにやめてくれない。ニコニコしながらノアは、“まだイケます♪ まだ残ってますよ♪“と言うように追撃をやまないのだ。

 

 そして、○問のように手の中に搾り取られ続け、二度、三度、幾度となく、めちゃくちゃにイカされ続けるのだ。

 指のリングでシゴかれ。

 手のひらで磨くように撫で擦られ。

 イッたばかりの性感帯を、残酷なまでに刺激し続けるノア。耳をイジめるのも忘れない。手の気持ちよさを、何度も何度も私に教え込む。優美な手つきで私を犯し尽くす美少女の手。その中で、もう私は煮えるような快楽の中に閉じ込められていた。

 

 そして、私が気絶するように脱力したところで、

 

「あはっ♡♡」

 

 ノアの美声が、脳と耳をくすぐり○す。

 

「ユウカちゃんには、病気で早退したって伝えておきます♪ ついでに資料もシャーレまで届けてもらいましょう。それでは先生、私は汚れを落としてきますので……♡」

 そう言って、席を立つと。

 

「♪」

 

 銀髪の美少女は、あっけなくも。

 足取り軽く去ってしまったのだった。

 

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